2013年11月24日(日) |
バイロケーション、祖谷物語−おくのひと−、インシディアス第2章、幕末奇譚SHINSEN5−弐−風雲伊賀越え、魔女っこ姉妹のヨヨとネネ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『バイロケーション』 2010年、第17回日本ホラー小説大賞・長編賞を受賞した法条 遥原作小説の映画化。 一部の人間に分身<バイロケーション>が出現し、その分身 はある時点の人間の記憶や服装、持ち物などもそっくり複製 している。このため使用した紙幣はナンバーも同じで、後か ら使用した人間がニセ札を使ったと疑われる。 そんな状況を背景に、バイロケーションの出現した主人公が その対策を考える組織に勧誘され、そこで様々な状況に遭遇 して行く。そしてその組織では、バイロケーションは本人よ り凶暴で、本人を殺しに来ると教えられるが…。 出演は、2011年3月紹介『大木家のたのしい旅行』などの水 川あさみ、ジャニーズKis-My-Ft2の千賀健永(映画初出演)、 ジャニーズJr.で今年2月紹介『桜、ふたたびの加奈子』な どの高田翔。 他に今年8月紹介『許されざる者』などの滝藤賢一、2010年 『SPACE BATTLESHIP ヤマト』などの浅利陽介、酒井若菜、 豊原功補らが脇を固めている。 脚本と監督は、2006年9月紹介『ハヴァ、ナイスデー』の中 の一篇『夕凪』や2009年5月紹介『呪怨・黒い少女』などの 安里麻里。実力派の女流監督はトリッキーな作品をそつなく こなしている感じだった。 作品を観ていて今年8月に紹介した『アルカナ』との類似点 が気になった。因に『アルカナ』は2000年に発表された漫画 が原作で、2010年の受賞作より10年近く先行しているものだ が、実によく似た題材が描かれたものだ。 それでまあ、ある程度の比較はしてしまうが、映画化は先の 作品がアクションやスプラッターも加味していたのに対し、 本作では人間ドラマが中心に置かれて、それなりに異なる作 品にはなっている。 とは言え、状況を把握している警察の存在など、類似性は否 めないもので、その点は明確にしておきたいものだ。それに 結末自体は異なるが、そこに至る過程などもかなり似通った 展開になっていた。 映画ファンなら両方観てからとやかく議論するのが本来とい う2作品だろう。同様のことは今年6月紹介『アップサイド ダウン/重力の恋人』と8月紹介『サカサマのパテマ』でも 言えたが、こういう作品が1年に2組もあったのも珍しいこ とだ。 公開は1月18日全国一斉ロードショウとなるが、実は本作は 『バイロケーション』表と称されているもので、その後に別 ヴァージョンの『バイロケーション』裏の公開が2月1日に 予定されている。 その裏ヴァージョンの試写の案内はまだ来ていないが、試写 を観られたら、また比較などもしてみたいものだ。
『祖谷物語−おくのひと−』 今年の東京国際映画祭の《アジアの未来部門》でスペシャル ・メンションを贈られた作品。映画祭中はスケジュールが合 わず観られなかったが、改めて試写会で鑑賞した。 物語の舞台は、四国徳島県の祖谷。僕は四国には親戚もいて 以前は何度も行っていたものだが、関東に住む人間だと南国 だと思っているこの地に、こんなにも雪深い秘境があるとは 考えてもいなかった。 そんな雪深い山道から転落した乗用車。その事故から奇跡的 に救出された赤ん坊が物語の主人公となる。その赤ん坊は、 救出した猟師の老人によって育てられ、老人と2人暮らしの 少女は山間の住居から高校に通うまでになっている。 そしてガスも水道もない住居では、桶で川の水を運び、薪を くべた囲炉裏で料理を作るのが彼女の日課のようだ。そんな 家の近所には、都会に行った子供たちを懐かしむように等身 大の人形を作り飾っている老婆も住んでいた。 そんな少女の生活に闖入者が現れる。その男は山を彷徨って いたところを地元の若者に救出されるが、再び山に入って老 人と少女の住む家に辿り着く。そこで一宿一飯の恩を受けた 男は山間での農業を目指そうとするが… その一方で、少女の同級生や村の若者たちは都会への憧れを 口にし、やがて1人ずつ村を離れて行く。そして村には環境 保護グループが反対したトンネルが開通し、そのトンネルを 通って都会の風が流れ込んでくる。 映画は、日本三奇橋の一つとされるかずら橋も劇中に何度か 登場し、神秘的な秘境の生活が描かれる。そしてその自然が 破壊されて行く状況が見事に描写され、特に物語の終盤に入 る直前ではその現実が鮮烈に描き出される。 ところがこの物語は、そこから突然ファンタシーになってし まう。実は映画祭のプログラムブックではSFマークが付け られていた作品で、紹介写真などでは半信半疑だったが、映 画を観てさらに唖然とした。 僕自身SF関係者として、この展開をどう取るべきかは悩む ところだが、監督は鮮烈過ぎる場面がそれだけでは理解され ないと考えたのか、あるいはあまりに哀しい現実がこれでは 遣る瀬無いと思ったのかもしれない。 実はこの作品は35mmフィルムで撮影され、上映もフィルム で行われるとチェンジマークで上映時間が判断できる。その 計算だと、2時間49分の上映時間の内、ファンタシーになる 前までが2時間だったようだ。 つまり最後の49分が付け足しのように感じられるものだが、 これには例えば1924年の『最後の人』にハリウッドの意向で ハッピーエンドが付け足され、その付け足しによってさらに 悲劇性が明確にされた。そんな風にも取れたものだ。 出演は、2010年12月紹介『KG カラテガール』などの武田 梨奈。武田の出演作は紹介作以降も何本か観ているが、空手 をしない彼女を見るのは初めてかもしれない。他に舞踊家の 田中泯、2012年9月紹介『BUNGO「見つめられる淑女たち」 /人妻』などの大西信満。 さらに2011年7月紹介『朱花の月』の監督河瀬直美、2008年 9月紹介『むずかしい恋』やテレビ『あまちゃん』で若き日 の黒川正宗を演じていた森岡龍。また地元の人たちも多数出 演しているようだ。 監督は、東京工芸大学で映画製作を学び、フィルムに拘った 映画作りで本作が2作目の蔦哲一郎。因に監督は、徳島池田 高校野球部を日本一に導いた蔦文也監督の孫だそうだ。 公開は来年2月15日から、東京は新宿K's cinemaにて予定さ れている。
『インシディアス第2章』“Insidious: Chapter 2” 2011年6月紹介作品の続編。前作を手掛けたジェームズ・ワ ン監督、リー・ワネル脚本のコンビが、今回も巧みな作品を 作り上げている。 物語には前作の一家が再び登場し、その後も続いていた脅威 との対決が描かれる。その伏線は前作にも巧みに設けられて いたもので、その辺は前作を観ているといちいち納得ができ るようになっている。 でも多分、本作だけでも説明はちゃんとされていたと思うか ら、本作だけ観ても物語の経過などは理解できるのかな? その辺は前作を観ている僕には判断できないが、僕もちゃん とは覚えていない中で、成程と納得できたものだ。 そのお話は、前作では自ら霊の世界に飛び込んで息子を救い 出すヒーローだった父親が、今回は自身が悪霊に取り憑かれ てしまうという展開。それが事件の全容を明らかにする道に も繋がっているものだ。 そしてその全容を、前作にも登場した研究者たちが解明して 行くことになるが…。そこにもいろいろ仕掛けがあって、そ れらも楽しめる作品になっていた。さらにもちろんショック シーンも鮮烈に展開される。 出演は、全て前作の出演者の再登場で、パトリック・ウィル スン、ローズ・バーン、タイ・シンプキンス、アンドリュー ・アスターと、祖母役のバーバラ・ハーシーが悪霊に取り憑 かれた一家を演じる。 また、研究者役のリン・シェイ、リー・ワネル、アンガス・ サムプスンも全て再登場する。その中に今年9月に紹介した ジェームズ・ワン監督の『死霊館』にも出演のスティーヴ・ コールターが新たに加わっている。 製作は『パタノーマル・アクティビティ』も手掛けるジェイ スン・ブラム。さらに撮影のジョン・レオネッティ、編集の カーク・M・モッリ、衣装のクリスティン・M・バーク、音 楽のジョセフ・ビシャラらも前作に引き続いての担当だ。 それにしても痒いところに手が届くような作品で、前作に描 かれたいろいろな謎が実に丁寧に解き明かされる。ファンに はこの上ない贈り物という感じの作品で、これは前作を気に 入った人は絶対に観なければいけないだろう。 そしてもちろん本作はホラーなのだが、物語には時間要素が 加わったり、さらに一部の映像は研究者たちの記録というこ とでPOVになったりと、色々な要素がヴァラエティ豊かに 展開される。 その辺の上手さは、ワン/ワネルのコンビの真骨頂という感 じもする作品だ。そして本作では、前作からの家族の問題が 全て解決されたように見えるが…、というのも上手い作品に 感じられた。 公開は1月10日より、全国一斉のロードショウとなる。
『幕末奇譚SHINSEN5−弐−風雲伊賀越え』 今年1月紹介『幕末奇譚SHINSEN5〜剣豪降臨〜』に続いて 新撰組が陰陽師と戦うという奇想時代劇の続編。 土方歳三、沖田総司、齋藤一、藤堂平助、原田左之助の新撰 組5人には、実は陰陽師・幸徳井道角である局長近藤勇の指 示の許、国家の安寧を妨げる陰陽師・土御門源春の陰謀に立 ち向かう使命があった。 こうして前作で彼らは、源春が幕末に甦らせた柳生十兵衛と 戦ったのだが…。今回の源春が甦らせたのは真田幸村。その 徳川を宿敵と狙う幸村に、時空を超えて徳川家康を襲わせ、 徳川の世を根底から覆そうという陰謀だ。 その陰謀に新撰組の5人も時空を超えて徳川家康の支援に向 かう。折しも家康は本能寺の変の後、服部半蔵と共に密かに 伊賀を越え三河に向おうとしていた。その伊賀の山中で家康 を襲う真田十勇士に新撰組5人が挑む。 出演は前作と同じ、土方役の馬場徹、沖田役の神永佳祐、齋 藤役の馬場良馬、藤堂役の八神蓮、それに本作では原田役が 広瀬佳祐に代って、2009年『侍戦隊シンケンジャー』のシン ケンゴールド・梅盛源太役の相馬圭祐になった。 他に、土御門源春役は前作に続いて佐々木喜英、新登場の真 田幸村役は2011年8月紹介『メサイア』などの井上正大が演 じている。また近藤勇役は、前作に続いて板倉チヒロという 俳優が演じているはずだが、前作と共に本人のプロフィール にも記載がなかったようだ。 脚本は、前作に続いてまつだ壱岱。監督は、金子修介や辻仁 成、秋元康などの作品で助監督を務め、2005年『インディア ン・サマー』という作品で長編監督デビューをした佐藤太。 監督は1968年生まれだそうだ。 前作の時はイヴェント試写を鑑賞して、周囲の有料観客の熱 意みたいなものも感じたが…。今回はマスコミ試写、周囲の 反応はあまり芳しくないものだった。でもこの作品は前作の 試写に集まっていたファンたちに支えられているもの。その 熱意とマスコミ試写との落差は面白くも感じられた。 とは言うものの、お話はもう少し捻ってくれてもいいと思え るし、演出もこれでいいのかと思ってしまうところは多々あ る。その辺は業界に長い監督なら当然判っているはずだが、 敢えてこうしているのは、上記のファン層の所以かな。それ が見所という作品なのだろう。 因に、真田幸村は1615年没というのが定説で、対して本能寺 の変は1582年。本人が生きている世界に甦りを送り込むのは 問題のような気もするところではある。 公開は12月21日から東京は渋谷イメージフォーラムにてレイ トショウ。なお、その前の10月30日にはメイキングを収めた DVDも発売されており、それらを含めて興行が成り立って いる作品のようだ。
『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』 「物語環境開発」所属の漫画家ひらりん原作による『のろい 屋しまい』シリーズからのアニメーション映画化。 主人公のヨヨとネネは魔法が日常使われている世界の住人。 その世界でのろい屋を営む2人の暮らす森に突然変異の大樹 が育ち始め、その幹には2人が今までに見たこともない大き な建物が絡み付いていた。 そこでその建物の調査を始めたヨヨは人影に遭遇、その後を 追ったヨヨは閉じ込められた箱の中で不思議な光を浴びて見 知らぬ異世界に来てしまう。そこは巨大な建物が立ち並び、 魔法など誰も知らない世界だった。 しかもその世界では、魔法としか思えない異常な事態が進行 していた。それは携帯ゲームでレアカードを引き当てた人が 願いを叶えてもらえる代わりに、謎の化物に変身させられて しまっていたのだ。 そこでヨヨは、これは自分の仕事とばかりにその事態の謎を 解き明かそうとするのだが、そこにはその世界と魔法世界の 存亡に関わる重大な秘密が隠されていた。 声優は諸星すみれ、加隈亜衣、沢城みゆき、櫻井孝宏、佐々 木りおらベテランが揃っているようだ。アニメーション製作 は、2007年から公開された『空の境界』シリーズを手掛けた ufotable、その第5章『矛盾螺旋』を担当した平尾孝之が本 作を監督している。 ただしスタッフ欄に脚本家の名前がなく、それが何故なのか は不明。単純には原作の通りの映画化で原作がそのまま脚本 だったとも考えられるが、それにしてはお話はかなり粗い。 例えば後半で猫が突然巨大化して空を飛び、主人公らを助け るという展開はあまりに唐突だ。 これではご都合主義というそしりは免れないだろう。『とな りのトトロ』のネコバスの連想かもしれないが、こうなる前 にそれなりの伏線は描かれているべきだろうと考える。 これが原作には伏線があったのだとしたら、その伏線を削除 した脚本は問題にされるべきものだ。この他にもこの映画化 には何とも唐突な展開が多く、その話の飛び方は原作の読者 ではない者には理解が難しかった。 もっとも本作の基本設定であるらしい、どう見ても幼い方が 姉という不思議な主人公姉妹の関係も映画では全く説明され ていなかったから、これは原作の読者のみを対象とした作品 ということなのだろうか。 その原作は、ウェブの書評などでは「世界観が完璧」などと 評価されているようだが、読者ではない者が映画を観た感想 で言うと、世界観はあまり明確ではなかったように感じられ た。もう少し観客に優しい映画にして欲しかったものだ。 公開は12月28日から、東京は新宿バルト9他、大阪は梅田ブ ルク7他など、全国でロードショウされる。また海外での公 開もアジアを中心に各国で行われるようだ。
2013年11月17日(日) |
ソウルガールズ、ビューティフル・クリーチャーズ、地球防衛未亡人、FLU運命の36時間、スノーピアサー+Oscar Animation |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ソウルガールズ』“The Sapphires” ヴェトナム戦争末期に戦地慰問団として活躍したアボリジニ 初の女性ヴォーカルグループ「サファイアズ」の姿を描いた 実話に基づくオーストラリア映画。 1968年、ゲイル、ジュリー、シンシアの3姉妹はカントリー 音楽をこよなく愛し、居留地の住民たちの前で歌っては喝采 を浴びていた。しかしまだ差別が根強い時代ではコンクール に出場してもアボリジニの彼女たちに勝目はなく、罵声を浴 びせられて、賞金はいつも白人のものだった。 そんな彼女たちに転機が訪れる。それは出場したコンクール ではいつも通りだったが、MC兼キーボーディストの男性が 彼女たちへの仕打ちに怒って馘になったのだ。しかもちょう どその時、彼女たちはヴェトナム慰問団のオーディションの 広告に目を留めていた。 こうして彼女たちはその元MCをマネージャーにして慰問団 を目指す。しかし彼は「カントリーはダメ、ソウルで行け」 と注文。そして従姉妹のケイを加えて4人組となった彼女ら は、オーディションに合格してサイゴン、さらに前線へと向 かうが…。そこは戦争真っ只中の危険地帯だった。 物語の全体は、女性たちの歌声に彩られた音楽映画だが、そ の背景はヴェトナム戦争。空には軍用ヘリコプターが舞い、 地上には戦車が往来する。そして野戦病院やコンサートの最 中にも襲ってくる戦闘など、正に戦争映画そのものも展開さ れる作品になっていた。 しかもホーチミン市(旧サイゴン市)などに現地ロケされた シーンでは、空を舞うヘリや地上を走る戦車などは当然実写 ではない筈で、そんなものが見事にVFXで再現される。こ れはVFX映画として観ても相当のレヴェルの作品と言える ものだった。 出演は、2002年10月紹介『裸足の1500マイル』で主人公の少 女を演じたデボラ・メイルマン、2009年にオールトラリアで のアルバム売り上げ第2位を記録したというジェシカ・マー ボイ、さらに舞台出身のミランダ・タプセルとシャリ・セベ ンス。 またマネージャ役には、2012年4月紹介『ブライズメイズ』 などのアイルランド人俳優クリス・オダウドが扮している。 脚本は、母親がサファイアズのメムバーの1人だったという トニー・ブリッグスと、オーストラリアのテレビで活躍する キース・トンプスン。監督は、2005年に発表した短編映画が ベルリン国際映画祭でクリスタルベア賞に輝いたというウエ イン・ブレアの長編デビュー作となっている。 映画の巻頭で白人によるアボリジニ迫害の歴史が簡単に紹介 され、中にはlost generation などという言葉も出てきて、 2011年6月紹介『ワン・ヴォイス』のハワイと同じような事 がここでも行われていたことが理解できる。しかもそのやり 方がかなり特殊なかたちなのにも驚かされた。 しかし物語は、そんな迫害の中から夢と希望を頼りに奇跡の ような成功を勝ち取った女性たちの物語で、その姿は清々し く描かれた。因に彼女らは後にアポロ劇場にも立ち、現在は アボリジニの地位向上の活動に貢献しているそうだ。 公開は1月11日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽 町、ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショウ。数々 のソウルやカントリーの名曲も聞かせてくれる作品だ。
『ビューティフル・クリーチャーズ〜光と闇に選ばれし者』 “Beautiful Creatures” ワシントンDC出身の元教師カミ・ガルシアと、カリフォル ニア出身ゲームクリエーターのマーガレット・ストールの共 著で、2009年に発表されてNYタイムズのベストセラーリス トにも掲載され、世界29ヶ国語に翻訳されているというヤン グアダルト向けファンタシーの映画化。 時代は現代、舞台はアメリカ南部のスターバックスより教会 が目立つような田舎町。そして主人公ははっきり言って冴え ない高校生だが、彼は卒業を控えて町を飛び出し、都会の大 学に進学を夢見ている。 そんな主人公は、夜な夜な美しい女性の出てくる夢に悩まさ れていた。ところがある日、彼のクラスに現れた転校生は、 彼の夜毎の夢に出てくる女性とそっくりだった。しかしその 女性は、異端の教えに染まった家の住人で…。 そして彼女の存在に、まずはスノッブの女生徒たちが口撃を 始めるが、彼女は動じる様子もない。そんな彼女に徐々に惹 かれて行く主人公は、土砂降りの中で立ち往生していた彼女 を家まで送って行ったりして親しくなる。 しかしそれは町の歴史も関わる重大な呪いの始まりだった。 出演は、2009年にフランシス・コッポラ監督の“Tetro”で ヴィンセント・ギャロと共演しているオルデン・エアエンラ イク、今年6月紹介『ジンジャーの朝』などのアリス・イン グラード。 他に、ジェレミー・アイアンズ、ヴィオラ・デイヴィス、エ ミー・ロッサム、トーマス・マン、エマ・トムプスンらが脇 を固めている。脚本と監督は、2008年6月紹介『P.S.アイ ラヴユー』などのリチャード・ラグラヴェネーズ。 転校生だの、異端の教えの家だのと言われると、嫌でも『ト ワイライト・サーガ』を思い出してしまうが。原作本は、ア メリカではその吸血鬼シリーズより人気が高いそうで、映画 化は60億円の製作費を掛けて行われている。 しかし今年1月に行われたアメリカでの興行は今一つだった ようで、そのため日本公開は、本来のアメリカ配給を手掛け たワーナーではなく、日本の会社が行うことになっているも のだ。 そんな作品を観ての感想だが、確かに『トワイライト』など と比べると派手さには欠けるかな。とは言うものの、人間ド ラマなどのお話はそれなりに面白く描かれていたと思う。 しかしそれが最近のアメリカの映画ファンには受け入れられ なかった。実際にそれなりの出来とは言っても、そこからの ブレイクスルーが難しいもの。その方程式はなかなか見つか らないものだ。 公開は11月30日より、東京はシネマート新宿で2週間の限定 上映となる。
『地球防衛未亡人』 2008年6月紹介『ギララの逆襲〜洞爺湖サミット危機一発』 や、2006年7月紹介『日本以外全部沈没』などの河崎実監督 が、今年4月紹介『フィギュアなあなた』などの壇蜜主演で 描いたSFパロディ作品。 主人公は、元は向島芸者だったが結婚間近だった婚約者を怪 獣に殺され、地球防衛軍に入隊したという女性。そして戦闘 機を操縦して高い戦闘能力を示し、今ではエースパイロット として活躍している。 そんな彼女に宇宙からの怪獣の飛来が報告され、それは解析 の結果、彼女の婚約者を殺した奴と同じと判明する。しかし その飛来地は隣国との領有権で揺れる三角諸島。このため出 撃は止められてしまう。 ところがその怪獣は日本本土に向かって移動し、原子力発電 所に居座った怪獣は、あろうことか使用済み核燃料を食べ始 める。この想定外の事態に核廃棄物の処理に困っていた政府 は急遽怪獣の保護に乗り出すが… 一方、怪獣の日本本土への移動に際して出撃した主人公は、 怪獣を攻撃する度にエクスタシーの波に襲われることを認識 する。それは史上最強の変態だった。そして怪獣も変化し、 地球壊滅の危機が迫る。 共演は、森次晃嗣、沖田駿一、堀内正美、きくち英一、古谷 敏という歴代「ウルトラマン」の俳優たち。それに、ノッチ (デンジャラス)、福本ヒデ(ザ・ニュースペーパー)、な べやかん、モト冬樹ら河崎作品の常連が脇を固める。 また、特撮を「戦隊」や「仮面ライダー」シリーズの怪獣研 究所。さらに地球防衛軍のユニフォームデザインを「ドラゴ ンクエスト列伝」などの藤原カムイ、怪獣デザインを「サイ レントメビウス」などの麻宮騎亜が担当している。 作品では、最初の方で森次晃嗣演じる司令官が役名も同じら しい壇蜜に向かって「ダン隊員」と呼びかけるシーンがある など、全編がオマージュというかパロディに溢れている。 そこに三角諸島とか、その他にも微妙な地名や人名が飛び出 して、怪獣ファンならずとも思わず唸ってしまうパロディの 連続となる。しかもそれらが河崎作品特有のゆる〜いタッチ で展開される。 その一方で怪獣との戦闘シーンや、眠った怪獣の移送シーン などは、正しく円谷特撮そのままの映像が再現され、それは 往年の特撮ファンの心も鷲掴みにするものだ。これが王道の パロディと呼びたい作品になっていた。 ただのおふざけをパロディと称しているのとはそこが違う。 河崎監督には心から拍手を贈りたい。 公開は2月8日から、東京は角川シネマ新宿他、全国順次で 行われる。
『FLU運命の36時間』“감기” 最強の致死率に変異した鳥インフルエンザと対決する人々を 描いたパニック作品。 ソウル郊外の街ブンダンに密入国の労働者を運んでいた男が 原因不明のウイルスに感染して死亡する。それから24時間の 内にブンタンの病院では男と同じ症状の患者が急増し、それ は感染速度毎秒3.4人、致死率100%の変異型鳥インフルエン ザと判明するが…。 危険を喚起しようとする医師団に対して優柔不断な政府の対 応は後手に回り、ついに史上初のブンダン地区封鎖の事態に なる。しかもアメリカの医師の指示で設置した隔離キャンプ はさらに罹病者の増加を招く。 そして住民たちの不満が暴動に発展し、封鎖線の強行突破を しようとした時、感染病の世界蔓延を恐れたアメリカ政府代 表は韓国軍の指揮権を剥奪。ブンダン地区の消滅を目論んだ 爆撃命令を発動する。 この流れにブンダン地区の救急隊員の男性と、彼に関わりを 持った女性医師にその1人娘。さらに抗体を持っているらし い密入国者の男性の行方などが絡んで、封鎖地区とその外部 との激しい攻防戦が繰り広げられる。 脚本と監督は2003年9月紹介『MUSA−武士−』、2005年 3月紹介『英語完全征服』などのキム・ソンス。いろいろな 題材に挑んできた監督だが、本作は2003年製作の『英語…』 以来となる10年ぶりの監督復帰作だそうだ。 出演は、今年5月紹介『依頼人』などのチャン・ヒョクと、 2012年3月紹介『ミッドナイトFM』などのスエ。そのスエ とテレビドラマで共演し本作が映画デビューの子役パク・ミ ナ、さらに『MUSA』や2011年2月紹介『生き残るための 3つの取引』などのユ・ヘジンらが脇を固めている。 「ブンダン地区封鎖」のシーンなどはかなり大掛かりな撮影 が敢行されている作品で、そこにアクションやサスペンス、 それに愛する人のために命を賭ける人々の人間ドラマも巧み に織り込まれている。かなり骨太な作品だった。 ただ政治家の動きなどはステレオタイプ気味だが、まあどこ の国でもそれが政治家なのだろうし、日本映画と同じステレ オタイプなのは、他の登場人物を際立たせる方策でもあるの だろう。 それにしても、駐留米軍が韓国軍を掌握してしまう辺りは、 さすがまだ戦時国という印象だが、確か日本の自衛隊も緊急 時には駐留米軍の指揮下に入ることになっているはずで、こ の事態は日本で起きても同じことになりそうだ。 そんなことを考えながら心して観るべき作品だろう。 公開は、東京では12月14日からシネマート新宿、大阪は21日 からシネマート心斎橋、以後全国順次ロードショウとなる。
『スノーピアサー』“설국열차” 2009年8月紹介『母なる証明』や2006年7月紹介『グエムル −漢江の怪物−』などのポン・ジュノ監督の新作で、本ペー ジの製作ニュースで2006年8月1日付の第116回に紹介した フランスのコミックス“Le transperceneige”の映画化。 物語の背景は、地球温暖化の解消策が暴走して極端に寒冷化 した近未来の地球。一方その世界には、地球一周の鉄道網が 敷設され、そこには車内だけで全てが賄える自給自足の特急 列車が運行していた。 こうして生物の死滅した地上を、人類の生き残りを乗せた列 車は爆走していたが…。その車内では乗車した車両の等級に 応じた階級が形成され、後部の車両にはすし詰めの環境に、 食料は原料不明の合成食が配られるだけだった。 そんな後部車両では待遇への不満が鬱積し、すでに反乱も何 度か試みられたようだ。そして後部乗客の子供が前部車両か ら来た兵士に拉致される事件が起き、ついに前部車両に向か う進撃が開始される。 そこには目眩く世界と共に、地の利を有する敵との壮絶な戦 いが待ち構えていた。そして彼らが行き着く先で明らかにさ れる列車の秘密とは…。 出演は、2011年8月紹介『キャプテン・アメリカ』などのク リス・エヴァンス、『グエムル』などのソン・ガンホ。さら に『グエムル』などのコ・ユアン、2012年4月紹介『崖っぷ ちの男』などのジェイミー・ベル。 また、今年3月紹介『ジャックと天空の巨人』などのユエン ・ブレムナー、2012年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストー リー』でオスカー受賞のオクタヴィア・スペンサー。そして エド・ハリス、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントンら が脇を固めている。 全体の設定は、以前に紹介したコミックスと同じようだが、 具体的な物語はポン・ジュノ監督が新たに創造したもので、 監督は、2008年8月紹介『その土曜日、7時58分』などの ケリー・マスタースンと共同で脚本も手掛けている。 その物語は、壮絶なアクションや大自然の驚異などが巧みに ミックスされたもので、壮大なスケールのエンターテインメ ントが、チェコのスタジオに作られた大掛かりなセットと、 VFXを駆使して映像化された。 映画の中では、主人公たちが寿司を食べるシーンの前の養魚 場の場面が「それはないでしょ」と言いたくなるものだった りもするが、その辺はご愛嬌ということで、全体的には現代 社会に対する風刺など色々な要素が描かれる。 それはお話としても面白く作られており、ポン・ジュノ監督 の面目躍如という感じの作品だった。 公開は2月7日から、全国ロードショウされる。 * * 最後に、今年も賞レースの到来で、まずは米アカデミー賞 長編アニメーション部門の第1次候補が発表された。 その1次候補作品は、 “Cloudy with a Chance of Meatballs 2”(くもりときどき ミートボール2フード・アニマル誕生の秘密) “The Croods” “Despicable Me 2”(怪盗グルーのミニオン危機一発) “Epic” “Ernest and Celestine”(アーネストとセレスティーヌ= 2012年6月10日付「フランス映画祭」で紹介) “The Fake”(韓国作品) “Free Birds” “Frozen” “Khumba”(南アフリカ作品) “The Legend of Sarila”(カナダ作品) “A Letter to Momo”(ももへの手紙=2012年2月紹介) “Monsters University”(モンスターズ・ユニバーシティ) “O Apostolo”(スペイン作品) “Planes”(プレーンズ) “Puella Magi Madoka Magica the Movie – Rebellion” (劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語) “Rio: 2096 A Story of Love and Fury”(ブラジル作品) “The Smurfs 2”(スマーフ2・アイドル救出大作戦!) “Turbo” “The Wind Rises”(風立ちぬ) の19本。 今年は第1次候補が16本以上なので、来年1月16日に発表 される最終候補は5作品となる。果たしてこの中からどの5 作品が最終候補に選ばれるか。 授賞式は来年3月2日に予定されている。
2013年11月10日(日) |
グランドピアノ、赤々煉恋、光にふれる、ファルージャ、おじいちゃんの里帰り |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『グランドピアノ』“Grand Piano” イライジャ・ウッドの主演で、コンサートに出演中のピアニ ストを主人公にしたサスペンス・アクション。 主人公は、以前に自分と自分の師匠にしか弾けない難曲の演 奏に失敗し、以来コンサート活動を止めていた世界一速く指 が動かせるというピアニスト。ところがその師匠が死去し、 女優でもある妻の説得で追悼演奏会に出演することになる。 そこには師匠秘蔵のピアノも搬入されていた。 とは言え、当然その難曲の演奏は断ったのだが、手渡された 楽譜には何故かその曲も挟み込まれていた。そして貴賓席か ら妻が見守る前でコンサートはスタートするが、開いた楽譜 には難曲を演奏しないと殺すとの指示が朱書きされ、さらに 鍵盤に狙撃銃の赤いスポットが照射される。 実は日本では来年3月に公開予定の作品で、それをいち早く 内覧試写で観たのだが、内覧試写の場合はプレス資料も僅か で、事前には大体上記の概要程度しか情報もなかった。それ で在り来たりのサスペンスかなと思っていたら、これが何と アクション映画になっている。 それも主人公が、注目を浴びる中でコンサートに出演中のピ アニストというのだから尋常ではない。こんな一見不可能と 思えるシチュエーションが見事に展開される。そこにはいろ いろ仕掛けもあるが、それも常識的(?)に観て納得できる ものになっていた。 しかもタイトルが「ピアニスト」でなく「グランドピアノ」 な訳だが、それもちゃんと意味のあるもので、その周到に練 られた脚本には、全く脱帽という感じの作品だった。 その脚本は、今年のサンダンス映画祭で短編部門の審査員賞 を受賞したダミアン・チャゼレが手掛け、監督は作曲家でも あるスペインのエウへニオ・ミラが担当した。 共演は、昨年9月紹介『アルゴ』に出演のケリー・ビシェ、 今年7月紹介『フローズン・グラウンド』などのジョン・キ ューザック。さらに9月紹介『ロード・オブ・セイラム』な どのディー・ウォーレスらが脇を固めている。 ピアニストを主人公にした作品では、2007年8月紹介『4分 間のピアニスト』など心に残る作品も多いが、本作はその仕 掛けなどからも記憶される作品になりそうだ。 特定の人物しか弾けないピアノ曲がキーになる作品では、昔 のテレビシリーズ『バークにまかせろ』の中にも1作あった ように記憶しているが、本作の脚本家たちはそれを知ってい たのかな? そんな記憶も呼び出される作品だった。 それにしても、最後があそこで終わるのはイライジャの最大 ヒット作を意識したのかな? それと字幕の中で、「新聞王 ケーン」とされているのは、日本の観客には「市民ケーン」 の方が判り易いと思うのだが。
『赤々煉恋』 直木賞作家朱川湊人の原作を、1986年『星空のむこうの国』 や、2010年7月紹介『七瀬ふたたび』などで、日本のファン タシー映画の第一人者とされる小中和哉が監督した作品。 主人公は女子高生姿の少女。家の自室でふて寝している彼女 の勉強机に母親が食事を運んでくる。それは毎日の日課のよ うだ。そして少女は制服姿のまま街を彷徨うが、誰も彼女の 存在に気づくことはない。 そんな彼女を認識しているのは、彼女が虫男と呼ぶ妖怪だけ だ。それでも彼女は誰かと必死にコンタクトしようとし、つ いに自堕落な母親に手を引かれた幼女が、彼女の存在に気づ いてくれるが…。 主演は今年8月紹介『アルカナ』などの土屋太鳳。共演は、 テレビシリーズ『仮面ライダーフォーゼ』の清水富美加と吉 沢亮。さらに自堕落な母親役に『星空のむこうの国』以来の 小中監督との再会になった有森也実。また大杉漣、秋本奈緒 美らが脇を固めている。 厳密な意味でこの作品はファンタシーではない。むしろリア ルと呼べる作品だろう。 実際にクレジットには協力者として教育関係者の名前も登場 し、その人たちのアドヴァイスの許で作品は作られているよ うだ。そして作品の製作には不登校支援センターや社会適応 支援協会などの団体も名を連ねている。 以前から書いているように、僕は自殺をテーマにした作品は 嫌悪している。だからこの作品もそれがテーマと判った瞬間 は身構えてしまった。でもこの作品はそれを虚しいものとし て描き切ったことでは評価しなければならない。 ただその虚しさや空疎感はもっと鋭く描くべきだし、それを ファンタシーに仕立てたことにはやはり納得できない部分は 残った。でもまあこうして啓蒙することも防止に繋がるとし て関係者も協力しているのだろう。 CGIのデザインとモーション監督を『時空要塞マクロス』 などの板野一郎が担当。 また、作品を彩る音楽をロックバンドPay money To my Pain のベーシストT$UYO$HIが担当し、主題歌は昨年アルバム制作 中に急性心不全で急逝したPTPのヴォーカルKが、最後に 録音した「Rain」で歌声を響かせている。 原作者の朱川は、直木賞受賞後にテレビシリーズ『ウルトラ マンメビウス』の脚本を3本書き、その内の2本を小中が監 督。その際に朱川の小説を読んだ監督が本作に興味を持ち映 画化を検討したものだそうだ。 テーマ的には難しい作品だが、こういう作品が公開されるこ とが意味を持つのだろう。その公開は12月21日から、東京は 角川シネマ新宿でロードショウとなる。
『光にふれる』“逆光飛翔” 台湾の盲目のピアニスト黄裕翔(ホアン・ユイシアン)が自 ら主演する自伝的要素も含む青春ドラマ。 主人公は、生まれつき盲目だが両親の愛情いっぱいに育った 青年。幼い頃から音楽の天分を発揮し、各地のコンクールを 総なめにしたきたが、その中で謂れのない反感を買ってるこ とも知っている。 そんな彼が大学の音楽科に進学し、健常者の中で1人暮らし を始めることになる。そして最初は母親が付ききりで世話を するが…。彼と寮で同室となった若者はちょっと変わった奴 で、彼とバンドを組もう言い出す。 そして友と共にメムバーの勧誘を始めた主人公は、彼が理想 とする心が優しくて声のきれいな女性の存在を知る。彼女は アルバイトをしながらダンサーの道を目指していたが、家庭 の事情で挫折し掛かっていた。 共演は、張榕容(サンドリーナ・ピンナ)。他に2010年11月 紹介『モンガに散る』などのプロデューサーとしても知られ るリー・リエ、台北とニューヨークを拠点に世界的に活動す るダンサーのファンイー・シュウらが脇を固めている。 監督は、国立台湾芸術大学大学院で修士号取得のチャン・ロ ンジー。その卒業制作として発表された本作の元となる短編 「ジ・エンド・オブ・ザ・トンネル」が映画祭で最優秀短編 賞受賞など高く評価され、長編監督デビューとなった。 また撮影監督には、ミシェル・ゴンドリー監督と仕事をした こともあるというフランス人のディラン・ドイルが参加。以 前にコマーシャルの仕事を共にしたという監督と息の合った コンビを見せている。 なお本作のプレゼンターには、2008年1月紹介『マイ・ブル ーベリー・ナイツ』などの香港の映画監督ウォン・カーワイ の名前が挙がっている。 先日の東京国際映画祭《ワールド・フォーカス部門》で紹介 した『27℃−世界一のパン』もそうだったが、映画祭で話し た友人の意見では、最近の台湾の青春映画には、悪い子があ まり出てこないのだそうだ。 その友人は、映画の面白さに欠ける印象のようだったが、確 かに何もかもうまくいってしまうのはお話として不自然だ。 でもそういう作品が好まれるのは、変にガチャガチャした映 画ばかりなのよりは、良い感じだ。 因に本作も昨年の東京国際映画祭《アジアの風部門》で上映 されものだが、今度は一般公開が行われることになり、試写 が行われている。こういう作品が日本の観客にもしっかり受 け入れられるようになって欲しいものだ。 公開は来年2月8日より、東京はヒューマントラストシネマ 有楽町、シネマート新宿ほか、全国ロードショウとなる。
『ファルージャ』 2004年、自衛隊イラク派遣の最中に起きた日本人人質事件を 題材にしたドキュメンタリー。 事件は1週間ほどで解決し、3人は無事解放されて帰国を果 たす。しかし日本に帰ってきた3人にはマスコミ主導の激し いバッシングが待ち構えていた。 正直に言って観る前にはかなりの躊躇があった。事件の当時 に自分が何をした訳でもないが、バッシングという言葉には 何もしなかった自分に後ろめたさも感じるし、それを今さら 蒸し返されることに罪悪感もあった。 しかし作品を鑑賞して、そのバッシングを耐え抜いた2人の 方(3人目のフリーカメラマンは今も世界で活動中で取材は 叶わなかったそうだ)の姿には感銘を覚え、自分自身も浄化 されるような清々しさも感じられた。 事件では、発生から3日後には犯人側から「拉致されたのが 人道支援家であることが判明したので開放する」旨の声明が 発せられるが、僕は当時その声明が報道された記憶がない。 実はその声明には日本の政府への痛烈な批判含まれていた。 そのため声明の報道が隠された可能性も感じるが、この報道 がちゃんとなされていれば、その後の事態もかなり違ったも のになっていた可能性は否めない。同様の日本の報道の不透 明さは、今年7月紹介『標的の村』でも感じたばかりだ。 一方で当時の日本国内の窓口だった北海道事務所には、多数 の批判のFAXが届いたと報道され、それがバッシングの引 き金となる。ところが実際は批判500通に対し支持は800通で 支持の方が多かったという証言も登場する。 これを見ると、バッシングが何らかの意志の下で作為的に演 出されたことも伺える。現在国家機密の漏洩に対する罰則の 法律制定が進む中で、こういう国民が知るべきものも隠され てしまうことには暗澹とした気分になった。 そのバッシングの引き金を報道した新聞記者には取材は叶わ なかったようだが、別の当時のニュースキャスターは、自分 で数えたという上記の批判と支持の数を挙げながら、日本の マスコミの政府ベッタリの体制も証言している。 という日本の未来に暗澹とさせられる作品だが、作品では、 人質の今井紀明さんが、バッシングで引き篭りになった自ら の体験を見つめて、定時制高校生に対する中退防止の活動を 進める様子が描かれ、未来に向かう姿も紹介される。 またもう1人の高遠菜穂子さんは今でもヨルダンやイラクで 医療支援活動を続けており、特に現地まで赴いた取材では、 米軍が投下した劣化ウラン弾の影響とみられる先天異常児の 問題など、戦争がまだ終っていな現実が報告される。 この2人の姿には、日本の未来に対する希望も与えて貰える 作品でもあった。 公開は12月7日から、東京は新宿バルト9他にて1週間限定 で行われ、以降は全国の劇場で順次上映される。
『おじいちゃんの里帰り』 “Almanya - Willkommen in Deutschland” 1960年代に始まったトルコからドイツへの出稼ぎ労働者で、 その100万1人目だった男性の物語。 主人公はトルコ東部の村に妻と3人の子供を残してドイツに 出稼ぎに来ていた。やがて家族も呼び寄せ、ドイツで4人目 の子供も授かった彼は、勤勉に働いてそれなりの成功も収め たようだ。 そんな主人公は妻の要望でドイツ国籍も取得するが、本人は あまり乗り気ではない。それでも妻の言うまま国籍は取得す るが…。家族の揃ったそのお祝いの席で彼は突然、「故郷に 家を買ったから、それを見に行こう」と宣言する。 ところが家族の中には不況下で職を失った息子や、大学生な のに妊娠してしまった孫娘。さらに母親がドイツ人で自分の アイデンティティーに迷い始めた幼い孫などもいて、旅行の プランはなかなか纏まらない。 それでも主人公が旅費は負担するとし、何とか一家はトルコ に出発するが、その旅は予想外の展開を迎えることになる。 そのお話に、幼い孫に孫娘が祖父の来歴を語って聞かせる形 式の回想シーンが挿入されて、ドイツとトルコ両国の関係が 明らかにされて行く。 両国の関係を描いた作品では、2008年9月紹介『そして、私 たちは愛に帰る』など、過去にも記憶に残る作品があるが、 一時はネオナチがトルコ人を標的にするなど、険悪な時代も あったと記憶している。 と言っても現実的な関係は、遠く離れた異国の人間にはなか なか理解し難いものだが、本作はそんな両国の複雑な関係も 垣間見せてくれる。 もちろん本作はトルコ系ドイツ人の監督と脚本家の姉妹が、 自らの家族について描いたヒューマンドラマで、複雑な政治 問題などを描くことは目的としていないが、それでも描かれ ることの多くは両国の複雑な関係に基づいている。 しかもそれが皮肉ではなくユーモラスに描かれている。それ は素晴らしい作品だった。これで両国の関係が理解できたな どと思い上がったことは言えないが、その関係への理解が深 まることは間違いないものだ。 特に物語の多くが子供の目を通して描かれるので、その問題 も理解しやすい。中でもイスラム教徒のトルコ人がキリスト 教の国で暮らす難しさは、かなり強烈なユーモアも含めて納 得できるように描かれていた。 脚本と監督は、本作が監督デビューのヤセミン・サムデレリ と、共同脚本は妹のネスリン・サムデレリ。姉妹はトルコ系 移民2世で、彼女らの実体験に基づく脚本は、第61回ドイツ アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞している。 公開は、東京では11月30日よりヒューマントラストシネマ有 楽町にて、名古屋はシネマスコーレで12月14日から、大阪は テアトル梅田で12月21日からとなっている。
2013年11月03日(日) |
マイヤーリング、ネオ・ウルトラQ、楊家将〜烈士七兄弟の伝説〜、愛しのフリーダ、ブランカニエベス |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『マイヤーリング』“Mayerling” アナトール・リトヴァク監督が、1957年に当時夫婦だったメ ル・ファーラー、オードリー・ヘップバーンを主演に迎え、 1936年の自作『うたかたの戀』をテレビ番組用にリメイクし た作品。 1881年、オーストリア=ハンガリー帝国は皇帝ヨーゼフ1世 の治世の下、世界有数の大国として繁栄を続けていた。その 首都ウィーンの宮廷に暮らす皇太子ルドルフは23歳。進歩的 な母親の影響で自由主義思想を信奉していたが、宿命は逃れ られず、父王が決めた望まぬ結婚を余儀なくされる。 それから7年後、不幸な結婚の憂さを独身時代以上の放蕩で 紛らわせるルドルフの前に1人の女性が現れる。彼女は外交 官を父に持つ17歳のマリー。その清楚な姿と優しい心に魅了 されたルドルフは、初恋のような思いに駆られることになる が…。その恋路は険しく厳しいものだった。 番組は、1954年からアメリカNBCで不定期に放送されてい た“Producers' Showcase”という枠の中で1957年2月4日 に制作されたもので、この製作費には当時のテレビ番組では 破格の50万ドルが掛けられたとのことだ。 しかし当時のテレビ番組は生放送が基準で、本作も俳優が演 じる場面は生放送されている。しかもVTRはまだ実用化の 初期段階で、本作も1回放送されただけのうたかたのような 作品とされていた。 ところが今年、その番組のテレビ画面をフィルムで撮影した キネスコープの存在が判明し、そのフィルムをマスターとし て最新のディジタル技術を駆使し復元した映像が公開される ことになったものだ。 従ってこの作品には、当時26歳の2度と観ることが叶わない はずだったオードリーが登場する。しかも画質は多少の傷は あるものの驚くほど鮮明で、音声も見事に復元されており、 オードリーのファンならずとも必見と言える作品だ。 共演はレイモンド・マッセイ、ローン・グリーン。 またスタッフでは、衣裳を1948年『ジャンヌ・ダルク』など 3度のオスカーに輝くドロシー・ジーキンズ、音楽監督を、 1939年『オズの魔法使い』も手掛けたジョージ・バズマン。 さらにメイクアップにディック・スミスの名前が登場したの は嬉しい驚きだった。 因に本作はカラー放送だったようだが、残念ながらキネスコ はモノクロ。しかしその華麗さは充分に伝わってくる。正に 貴重な作品だ。 今年6月ベルリンでワールドプレミアされた作品で、日本で は来年1月4日から、東京はTOHOシネマズ六本木ヒルズと、 大阪はTOHOシネマズ梅田で特別限定公開となる。
『ネオ・ウルトラQ part.1』 今年1月から3月に有料放送のWOWOWで放送された番組が、 3話ずつと旧作『ウルトラQ』をカラー化した1本をセット にして、11月9日から4ヶ月、毎月9日をQの日として劇場 レイトショウ公開されることになり試写が行われた。作品は いずれもすでに放送されたものだが、劇場では初公開なので 紹介することにする。 そのpart.1は、第8話「思い出は惑星(ほし)を越えて」、 第9話「東京プロトコル」、第7話「鉄の貝」、そして旧作 第1話の「ゴメスを倒せ!」 新作の3本はひとまず置くことにして、カラー化された旧作 は弾丸道路のトンネル工事現場で掘削が空洞に突き当たり、 そこから怪獣が登場するというもの。その前には謎めいた球 体の化石が掘り出されており、その両者が太古からの戦いを 繰り広げる。 内容的には『ゴジラ』や『ラドン』『モスラ』も連想させる ものだが、それを30分の枠の中に実に手際よく纏めており、 円谷プロダクションの第1作として正に「これでしょ!」と いう感じの作品。僕は最初の放送時にも観ているが、再度観 ても納得できるものだった。 また、劇中江戸川由利子役=桜井浩子の若々しいというか、 どちらかというと幼い感じの容姿も嬉しかった。なお今回の カラー化に当っては、桜井さんの記憶や人脈などの協力が大 きかったものだそうだ。 ただしほとんどの場面のカラー化の色彩などは問題なかった が、中で焚き火の炎には多少違和感が有った。これは、実際 にはゆらぎ程度のものにアニメで色を着けたようで、この辺 が着色の限界かなという感じは持たされた。 でもまあ全体的には落ち着いた色使いで、作品の雰囲気を壊 すこともなく、良好なカラー化と言えるものだ。 ということで新作の3本だが、旧作がいたってシンプルな怪 獣ものであるのに対して、今回の3作では政治問題や男女の 恋愛など、いろいろサブストーリーが満載になっている。そ れが旧作のファンには多少面倒くさい感じはしてしまうが、 多分これが最近の観客の好みなのだろう。 また第9話の結末では旧作第4話の「マンモスフラワー」を 思い出させたり、いろいろ仕掛けは施されていたようだ。 公開は、東京はTOHOシネマズ日劇にて毎月9日初日1週間の 限定レイトショウ(初日にはトークショウ有り)。その他の 全国TOHOシネマズ15館では、各月9日のみ1回限定のレイト ショウが行われる。 なお、12月9日からのpart.2では、第10話「ファルマガンと ミチル」、第4話「パンドラの穴」、第6話「もっとも臭い 島」と旧作第20話の「海底原人ラゴン」 1月9日からのpart.3では、第3話「宇宙(そら)から来た ビジネスマン」、第5話「言葉のない街」、第1話「クォ・ ヴァディス」と旧作第19話の「2020年の挑戦」 そして2月9日からのpart.4では、第2話「洗濯の日」、第 11話「アルゴス・デモクラシー」、第12話「ホミニス・ディ グニターティ」と旧作第15話の「カネゴンの繭」が上映され る。
『楊家将〜烈士七兄弟の伝説〜』“忠烈杨家将” 2012年3月紹介『女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』にも描か れた11世紀の中国・宗時代の実話に基づく物語。 以前の紹介作は、一族の滅亡の危機に楊家の女性たちが立ち 上がるというものだったが、本作はその前のお話。宗の皇帝 に仕える武将一族の楊家では、当主楊業の許、7人の兄弟が 切磋琢磨していた。 その兄弟の中で六男の延昭は郡主の娘と恋仲であったが、そ の娘は宰相潘仁美の息子豹も狙っていた。そこで娘を巡って 腕比べが実施されることになる。しかし潘家との軋轢を心配 する楊業は息子の出場を禁じてしまう。 それでも会場を訪れていた延昭と七男の延嗣は宗家の息子豹 が禁じられた武器を持っていることを目撃、汚い手を使う豹 に怒った延嗣が壇上で豹を組み伏せてしまう。しかも倒れた ときの打ちどころが悪く豹が死亡。 この事態に潘家の楊家に対する恨みは増すが、そんな折に隣 国遼の大軍が侵攻中との報が入る。そして総司令を買って出 た潘仁美は楊業に先鋒を命じる。それは死地に向かうのも同 然の危険な任務だった。 しかも戦闘の最中に潘の率いる本隊は撤退。楊業の部隊だけ が小さな砦に取り残されてしまう。そこで7兄弟が父楊業の 救出に向かうことになるが… 出演は楊業役にベテランのアダム・チェンが扮し、七兄弟に はイーキン・チェン、ユー・ボー、ヴィック・チョウ、リー ・チェン、レイモンド・ラム、ウー・ズン、フー・シンボー という中国の人気者が並ぶ。また彼らを纏める母親役には、 2007年3月紹介『イノセント・ワールド』などのシュイ・フ ァンが扮している。 監督は、ハリウッドで2003年9月紹介『フレディVSジェイ ソン』も手掛けたロニー・ユー、アクション監督は、2005年 12月紹介『PROMISE』などのトン・ワイが担当してい る。 圧倒的な大軍に対して少数精鋭で挑むという戦いの映画で、 前半には油袋と火矢を使った奇襲や、中盤では敵が繰り出す 投石器で岩石が着弾するシーンなど迫力の映像が次々に繰り 出される。それは見ものだった。 しかし映画は後半になると、正に肉弾戦のチャンバラの連続 で、それは俳優が演じているという意味では正しく見せ場の 連続となるものだ。だがそれは前半から中盤に掛けての迫力 あるシーンに比べると多少弱い感じはしたもので、この辺の 構成にはひと工夫欲しい感じはした。 それと最後のシーンには女性たちが並んで欲しかった気もし たが、映画会社が別だとそれは無理だったようだ。 公開は12月14日から東京はシネマート六本木の他、全国順次 で行われる。
『愛しのフリーダ』“Good Ol' Freda” 20世紀最大のアーチストと言えるザ・ビートルズが、1962年 「ラヴ・ミー・ドゥ」で最初のヒットを飛ばす前年の1961年 から、1970年に事実上の解散となった後の1972年まで、彼ら 秘書としてその全てを目撃した女性のドキュメンタリー。 1961年、17歳でタイピストとしてリヴァプールの会社に勤務 していたフリーダ・ケリーは、昼休みに同僚に誘われてキャ ヴァーン・クラブを訪れる。そこでは革ジャン姿の4人組ザ ・ビートルズが演奏していた。 その音楽に感動したフリーダはその後も足繁くクラブに通う ようになり、いつも同じ場所から舞台を見詰める彼女の姿は メムバーにも憶えられて、徐々に彼らと親しくなって行く。 そして友人が始めたファンクラブの運営も任される。 そんなある日、彼女はバンドのマネージャーだったブライア ン・エプスタインから「会社を興すので秘書にならないか」 と声を掛けられる。その誘いに大好きなバンドと共に働ける だけで夢心地のフリーダだったが…。 こうしてザ・ビートルズの秘書となったフリーダは、彼らが 世界一有名なバンドになって行く姿を陰で見続けると共に、 彼らの家族とも親交を深め、その後に起きた数々の出来事の 中を彼らと共に過ごして行くことになる。 そんなフリーダ・ケリーの10年が、彼女自身や周囲の人々の 証言で綴られる。それは正に夢のような時代の再現であり、 輝ける時代の感動が直に体験した人の口から伝えられるもの だ。そしてそれが実に優しい口調で心を込めて語られる。 正直に言って、観終えた時に言葉がなかった。もちろん素晴 らしい作品に感動したものだが、それを言葉で表現する術が 見つからなかった。でも何とも心に響く作品で、これはでき るだけ多くの人に観て貰いたいとも思った。 では何が素晴らしいかというと、それは根底にある優しさと 信頼だろう。実際にフリーダ・ケリーは、この作品の前に何 度も証言を求められたが、今までは頑として取材には応じな かったそうだ。 しかしそんな彼女が初孫の誕生を機に、自らの人生を語り残 そうと考えた。そんな切っ掛けも素敵だが、本作では正に孫 に語るように自らの過ごした素晴らしい日々が美しい思い出 として語られる。そんな優しさが素晴らしい作品だ。 特に新たな事実が明らかにされているものではない。でも当 時を語る日々のエピソードは正に時代そのものであり、それ こそが自分も生きた本物の時代だと、懐かしくも感じられる 作品だった。 公開は、12月7日から東京は角川シネマ有楽町とヒューマン トラストシネマ渋谷にてロードショウされる。
『ブランカニエベス』“Blancanieves” スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で、今年18部門に ノミネートされ、最多の10部門を制覇した話題作。 主人公は天才的な闘牛士を父親に持つ少女。しかしその父は 闘牛場で瀕死の重傷を負い、そのショックで早産した母親は 彼女を残して死去してしまう。さらに全身麻痺となった父親 は看護の女性と再婚するが、それは邪悪な継母だった。 それでも祖母の許で健やかに成長した主人公だったが、やが て祖母の死で父と継母の許に戻される。しかし父親に会うこ とは許されない彼女だったが、偶然が2人を引き合わせる。 そしてそれまでを埋め合わせるような愛情を注がれるが…。 その父を継母が殺害し、その事実を知る主人公は最大の危機 に陥れられる。 題名はスペイン語で「白雪姫」のことだそうで、作品では上 記の後もグリム童話を実に巧みに換骨奪胎した物語が展開さ れて行く。それはかなり細部に亙って再構成されたもので、 その巧みさにも感心した。 作品はモノクロ・サイレントのスタイルで製作されている。 そのスタイルは2012年2月紹介『アーティスト』でも採用さ れていたので目新しくはないが、先の作品がサイレント映画 の時代を描いて言わば必然だったのに対して、本作は敢えて そのスタイルを採用しているものだ。 しかも内容はファンタシーとリアルの狭間を描いたようなも ので、そのさじ加減が映像のスタイルと合わさって絶妙の効 果を上げていた。実際にこの物語をカラーワイドで観ること は、今となっては想像もできない。 出演は、継母役を2002年6月紹介『天国の口、終りの楽園』 や2007年4月紹介『パンズ・ラビリンス』などのマリベル・ ベルドゥ、父親役を2012年8月紹介『キック・オーバー』な どのダニエル・ヒメネス・カチョ、祖母役を2010年9月紹介 『シチリア!シチリア!』などのアンヘラ・モリーナ。 そして主人公はいずれも映画初出演で、5000人のオーディシ ョンで選ばれたソフィア・オリアと、テレビやミュージカル で活躍中のマカレナ・ガルシアが演じている。なおマカレナ には後半に素晴らしいシーンが用意されている。 脚本と監督は、スペイン出身だがケンブリッジやソルボンヌ の映画学科で教鞭を取っているというパブロ・ベルヘル。長 編作品は2作目ということだが、正に理性で考え出された作 品のようだ。因に監督は日本人の妻を持ち、日本のロックバ ンドSOPHIAのPVを撮ったこともあるそうだ。 2012年6月には『スノーホワイト』と『白雪姫と鏡の女王』 を相次いで紹介したが、それから1年半、最後にもう1本、 素晴らしい作品が登場した。 公開は12月7日から、東京は新宿武蔵野館他でロードショウ される。
|