井口健二のOn the Production
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2012年09月30日(日) パーティは銭湯から…、虚空の鎮魂歌、サイバーゲドン、天のしずく、人生の特等席、最初の人間、ユニバーサル・ソルジャー+World's End

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『パーティは♨銭湯からはじまる』
2011年8月紹介『タナトス』などの徳山秀典主演。今年8月
紹介『FASHION STORY〜Model〜』などの須賀貴匡、昨年12月
紹介『すべての女に嘘がある』などの高野八誠共演による、
SF的な要素もある青春ムーヴィ。
主人公は、その日30歳の誕生日を迎える独身男性。元は人気
ゲームシリーズの第1作を開発した男で、その時は業界の寵
児だったが、後輩の作った第2作の方が売上げも良く、自ら
は限界を感じて業界から足を洗ったようだ。
そしてその日は、彼のための誕生日合コンがセットされてい
たのだが、彼をアピールするはずの作戦は思わぬ失敗に終っ
てしまう。ところが失意で少し気の遠のいた彼が目覚めたの
は、彼の家の家業である銭湯の湯船の中、しかもそこでは、
その日の合コンの作戦が練られていた。
こうして再び合コンに向かった彼は、またまた作戦に失敗す
るが、今回もまた彼は湯船で目を覚ます。そこで自分がタイ
ムループに陥っていることに気付いた主人公は、自分の都合
の良い未来が導けるように行動を開始するが…。

共演は、2010年10月紹介『ライトノベルの楽しい書き方』な
どの佐藤永典、前々回紹介『BUNGO』の一篇に出演の波瑠、
今年6月紹介『闇金ウシジマくん』などの有末麻祐子。他に
宮川一朗太、斉藤洋介らが脇を固めている。
脚本は、今年『あんてるさんの花』という作品も公開されて
いるビーグル大塚。監督はドラマ『戦国BASARA』などの松田
圭太。
同じ時間を繰り返すタイムループものは、最近では昨年8月
紹介の『ミッション:8ミニッツ』などがあるが、ループを
若者の風俗に絡め、さらにそれが多少非常識にエスカレート
するというのは新機軸と言えるかもしれない。その点は評価
もできるところだ。
ただし、そのエスカレートの仕方がかなり唐突で、これでは
ただの思い付きだけのように感じてしまう。本来ならその間
にもう一段階あって、それを加えて1時間40分ぐらいにすれ
ば、より良い作品になったのではないかな。そんなところが
ちょっともったいない感じもする作品だった。
それに時間物と銭湯を絡めるのは、今だと『テルマエ・ロマ
エ』も連想されてしまうところで、その辺も安易に取られて
しまうのではないか。そんな心配もしてしまったものだ。


『虚空の鎮魂歌』“Mains armées”
本作と、9月22日に封切られた『漆黒の闇で、パリに踊れ』
“Une nuit”という作品の2本が、フレンチ・フィルム・ノ
アールの今として連続上映される。2本ともサンプルDVD
で観させてもらったが、ここでは10月13日封切りの本作を中
心に紹介する。
主人公は、フランス警察の本庁管轄で武器密輸の捜査に当っ
ている初老の捜査班長。今日もマルセイユの情報屋を使って
密輸組織を追い詰めるが、その組織がパリ近郊の麻薬組織に
繋がっている事実が浮かび上がってくる。
一方、そのパリ近郊では麻薬捜査班も動いていたが、その捜
査班は鮮やかなチームワークを見せるものの、その実態は捜
査で押収した金や麻薬をチーム内で山分けする悪徳警官の集
団だった。そしてそのチームには女性捜査官もいたが…
この2つの捜査班が互の捜査の過程で激突し、それは思わぬ
結果を生んで行くことになる。

脚本と監督は、リュック・ベッソン監督の長編デビュー作で
ある『最後の戦い』(83)の脚本などを手掛けたピエール・
ジョリヴェ。
出演は、2011年7月紹介『この愛のために撃て』などのロシ
ュディ・ゼム、2011年10月31日付「東京国際映画祭」で紹介
『より良き人生』などのレイラ・ベクティ。それに『アーサ
ーとミニモイ』シリーズではフランス語版の声優を務めてい
たマルク・ラヴォワースらが脇を固めている。
警察内部の正義と悪みたいなものが巧みに描かれ、さらにそ
れに並行したより深い人間ドラマも描かれる。そこに女性の
配し方も巧みで、近年は香港ノアールに押され気味だったフ
レンチ・ノアールもまだまだ健在を主張しているような作品
だ。

なお、すでに公開されている『漆黒の闇で、パリに踊れ』も
ロシュディ・ゼムの主演で、こちらも初老の刑事が主人公。
ただしこの主人公にはいろいろ問題があるらしく、彼が夜間
の歓楽街で行う巡回には、運転手として女性刑事が付けられ
ている。彼女が主人公の見張り役であることは主人公もお見
通しだ。そんな男女の刑事が巡回する1夜のパリで、様々な
人間模様が描かれる。

共演は、2011年9月紹介『風にそよぐ草』などのサラ・フォ
レスティエ、2001年10月紹介『ジェヴォーダンの獣』などの
サミュエル・ル・ビアン。
深夜のパリの風景が観光映画のようにも登場するが、これも
フレンチ・ノアールの真骨頂という感じの作品だ。


『サイバーゲドン』“Cybergeddon”
本作はすでに9月25日からYahoo!限定で世界25ヵ国個以上、
10以上の言語で無料配信されているもので、日本でもGyaO!
を通じて観ることができる。その作品の劇場での試写が24日
に1回だけ行われたもので、公開後ではあるが特殊な作品で
もあり、ここに記録として紹介しておくことにする。
タイトルはCyber+Harmageddonのつもりかな。物語は、サイ
バーテロによる究極の破壊工作を描くものだ。そして主人公
は、FBIのサイバーテロ対策部に勤務する女性エージェン
トのクロエ。彼女は違法スレスレの捜査で大物サイバーテロ
リストの逮捕に成功するが…
その1年後、一見関連のない膨大なサイバー攻撃を調査する
クロエたちの前に衝撃の事実が浮かび上がる。それは攻撃の
プログラムがかつてクロエの開発したものであり、さらにク
ロエの財政状態などが改ざんされ、彼女には攻撃の動機もあ
るとされたのだ。
この事態にFBIは直ちにクロエの拘束に踏み切るが、その
急場を巧みに切り抜けたクロエは、昔のハッカー仲間なども
引き込み、全世界規模のサイバー攻撃に対峙してゆくことに
なる。しかしそこにはFBIの追求も厳しさを増していた。
果たしてクロエは究極の破壊工作を阻止できるか?

主演は、TVドラマ『ルーキーブルー』や『ヒーローズ』で
もレギュラーだったミッシー・ペグレム。共演は2003年8月
紹介『S.W.A.T.』などのオリヴィエ・マルティネス、2008年
5月紹介『スピード・レーサー』などのキック・ガリー、ド
ラマのゲストや短編映画に出ているマニー・モンタナ。
製作総指揮は、ドラマ『CSI:科学捜査班』などを手掛け
るアンソニー・E・ズイカー。なお、本作の制作に当っては
ネットセキュリーのノートンが全面協力しているようだ。
作品は、1話10分の物語が1日3話ずつ3日間の計90分で構
成されているもので、その1話ごとに起承転結するものだか
らこれは目まぐるしい。実は試写は多少睡眠不足の状態で観
たが、その睡魔など吹っ飛ぶ勢いだった。
ただそれは基本がテレビドラマのノリで、じっくりと人間の
ドラマが描けているものではない。例えばクライマックスな
どは、せっかく主人公の行動が生中継されているという設定
なら、世界中が注目して応援しているようなシーンが挿入さ
れれば、それなりの感動もあったと思うものだが。
でもまあそれは無い物ねだりという事だろう。因に、物語は
次回があるように終っていたものだ。


『天のしずく』
料理研究家で作家の辰巳芳子を撮影したドキュメンタリー。
辰巳は「いのちのスープ」と呼ばれるポタージュスープを提
唱し、それは全国の生産者に支えられ、また鎌倉の自宅で開
催される料理教室には数多くの支援者も集まっている。そし
てそのスープは、終末医療の現場などでも関心を呼んでいる
ようだ。
そんな辰巳の姿とその周囲の人々、さらには辰巳の歩んでき
た道程と、現在・未来などが撮されている。しかしそこに撮
されているのは単に辰巳の姿だけでなく、日本の現状や戦争
を含めた日本の昭和の歴史が描き出されているものだ。そこ
には忘れてはならない歴史の悲劇も描かれる。
しかもそれを声高に主張するのではなく、静かに淡々と、辰
巳の心からのメッセージとして伝えている。そんな描き方に
も惹かれる作品だった。そこには現代ドキュメンタリーの常
として3・11も描かれるが、それも映画のメッセージに沿っ
たものになっている。
個人的には、癩病の女性の話にも注目したが、そこではあえ
て辰巳の言葉ではなく、元患者の女性の言葉として語られて
いるのも心に残るものだ。これが一般の観客にどこまで伝わ
るかは判らないが、このような悲劇が行われていた事実は、
間違いなく伝わるものだろう。
辰巳は大正13年生まれだそうで、僕の母親も大正10年の生ま
れだから、僕には自分の母親を見ているような感じもした。
その母はもはや家事も何もしていない生活になっているが、
本作の終盤で辰巳がおせちを作る姿には母の姿がはっきりと
思い出された。
僕の母もおせちの煮しめは一つずつ作って調理法で、大きな
鍋にそれぞれの材料が巧みに味付けされて行く様子は、正に
お袋の姿を思い出させてくれたものだ。そんな文化も徐々に
失われて行く。先日テレビ番組で、産業革命がイギリス料理
を消滅させたという話を聞いたが、日本も同じだ。
スープで始まった物語が煮しめで締めくくられる。そんな描
き方も素晴らしい作品だった。

脚本と監督は河邑厚徳。NHKで数多くの作品を手掛けてき
たドキュメンタリストの映画では初の作品となるようだが、
静かな中にグイグイと観客を引き込んで行く描き方はさすが
のものだ。
また作中の朗読を草笛光子、ナレーションを谷原章介、音楽
を2006年『時をかける少女』などの吉田潔が担当している。

『人生の特等席』“Trouble with the Curve”
『ミリオン・ダラー・ベイビー』など2度のオスカー監督賞
と、作品賞、名誉賞にも輝くクリント・イーストウッドが、
1993年『ザ・シークレット・サービス』以来の主演のみに専
念した作品。監督には、長年の製作パートナーであるロバー
ト・ロレンツが起用され、監督デビューを飾っている。
主人公は、アメリカ・メジャーリーグの老練スカウトマン。
何人もの名選手を見出し、リーグに勇名を馳せた男も、寄る
年波には勝てず、目に障害も発生して選手の動きをしっかり
見ることもままならない。そして球団からは、残り3ヶ月の
契約期間の延長も難しくなっている。
そんな男には一人娘がいたが、幼く母親を亡くした娘は自立
して弁護士となり、その実力は法律事務所の共同経営者の席
も目前だった。しかし最後の関門である案件のプレゼンテー
ションも間近の日、彼女は旧知の球団幹部から父親の様子を
見るように依頼される。
こうして、事務所の仕事を抱えたまま父親がスカウトに来て
いるコロラドマウンテンリーグのスタンドにやってきた彼女
は、過去に横たわる父親との確執に向かい合って行くことに
なる。そこにはかつて父親がスカウトしたものの、球団の酷
使で挫折した元選手のスカウトマンもいて…
視力の減退した主人公が音を聞いただけで球種や打撃の問題
点を言い当てるシーンなどもあって、野球の奥深かさを感じ
させる。それをまたイーストウッドが語るのだから、これは
もう野球そのものより、その世界を堪能できるものだ。その
格好良さは堪らない。
メジャーリーグが背景の作品は、最近では昨年9月紹介『マ
ネーボール』もあるが、球団経営を描いたブラッド・ピット
主演作より本作の方がより人間に近いところを描いているこ
とは確かだろう。それは様々な人間模様を描き出して行く。

共演は今年4月紹介『ザ・マペッツ』などのエイミー・アダ
ムス、2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などの
ジャスティン・ティバーレイク。他にジョン・グッドマン、
マシュー・リラード、ロバート・パトリックらが脇を固めて
いる。
なお本作は、今年10月20日から28日まで六本木で開催される
第25回東京国際映画祭においてクロージングを飾るものだ。

『最初の人間』“Le premier homme”
1960年に46歳で交通事故により亡くなったノーベル賞文学賞
作家アルベール・カミュの遺作だが、1994年まで発表される
ことのなかった未完の原作の映画化。
舞台は1957年夏のアルジェリア。フランスに渡って成功した
作家が母校の大学での講演のために帰ってくる。しかしフラ
ンスからの独立闘争に揺れる故郷は、彼に対して歓迎だけで
はないようだ。その講演で平和的解決を訴える作家は、聴衆
の激しい非難の嵐を呼んでしまう。
それでも講演のあと街に出た作家は、故郷で1人で暮らす母
親を訪ねたり、危険を冒してイスラム教徒の居住区に向い、
幼馴染からの訴えを聞いたりもするが、そんな行動に合わせ
て作家の幼い頃の記憶が再現されて行く。それは慎ましくも
平和に満ちた時代だった。
そして作家は幼い頃に出兵して亡くなった父親の面影に辿り
着く。
1954年に勃発し、1962年にアルジェリアが独立を勝ち取るま
で続くアルジェリアの闘争に対して、元々がフランスからの
入植者の子孫であるカミュは、当初は映画にも描かれるよう
に、フランス人とイスラム教徒とが平和的に共存する社会を
夢見ていたようだ。
しかし映画の冒頭にも描かれる講演会での出来事で、双方が
強硬な態度を変えないことに失望したカミュは、以降は一切
の発言を拒んでいた。そんなカミュの態度には批判も集まっ
たが、それに対して彼が執筆を開始したのが本作であるとも
伝えられている。
そんなカミュの思いの詰め込まれた本作は、交通事故の現場
で発見されたカバンの中に収められていたが、当時の状況を
鑑みて遺族はその出版を拒否したものだ。その本作の中で、
カミュは信念ともいえる平和共存の社会を願っていたが。
フランスとアルジェリアの関係については、あまり詳しくは
知らなかった。しかし2006年6月にフランスのサッカー選手
アルベール・ジダンのドキュメンタリーを紹介した折に、ア
ルジェリア出身の選手の置かれた境遇を知ったものだ。
それ以前には、ジッロ・ポンテコルヴォ監督の『アルジェの
戦い』を公開当時に観ているが、それは正に独立戦争そのも
のを描いていた。従ってその陰に隠された民衆の、特にフラ
ンス系の人々の思いなどは描かれていなかった。その部分が
本作では描き出されている。

脚本と監督は、1998年『いつか来た道』でヴェネチア金獅子
賞など数々の受賞に輝くジャンニ・アメリオ。イタリア人の
監督だが、1966年『アルジェの戦い』もイタリア人監督によ
るものだったようだ。
主演は2005年12月紹介『美しき運命の傷痕』などのジャック
・ガンブラン。2011年8月紹介『やがて来る者へ』などのマ
ヤ・サンサ、2006年3月紹介『隠された記憶』などのドゥニ
・ポダリデス、それに映画出演は2000年以来というベテラン
女優のカトリーヌ・ソラらが脇を固めている。

『ユニバーサル・ソルジャー殺戮の黙示録』
        “Universal Soldier: Day of Reckoning”
『ハード・ソルジャー炎の奪還』“6 Bullets”
今月紹介『エクスペンダブルズ2』にも出演のジャン=クロ
ード・ヴァン・ダム主演によるアクション作品が2作連続で
公開されることになり、公開は別々だが試写は連続で行われ
た。ここでは纏めて紹介する。
1本目は、言うまでもなく1992年にローランド・エメリッヒ
監督のハリウッド進出第1作として製作された作品からの継
続編。1999年にミック・ロジャース監督による『ザ・リター
ン』が発表され、その後に2010年4月紹介『リジェネレーシ
ョン』が公開されての、本作は第4作となる。
監督は2010年作と同じジョン・ハイアムズで、前作の原題が
試写されたフィルム上では、“A New Beginning”となって
いた事からの予定された続編のようだ。
でその物語は、リュック・デュブローではない新たな男が中
心となるもので、その男の一家が襲われ、妻と幼い娘が目前
で殺される事件が発端となる。そして男は、人相が脳裏に焼
き付いた襲撃犯への復讐を誓うというものだが…。

出演は、『エクスペンダブルズ2』にはヴァン・ダムの配下
役で出ていたスコット・アドキンス。そしてヴァン・ダム、
さらにドルフ・ラングレンも登場する。
ただし本作で、実はユニソルに新たな要素が加わっており、
それはオリジナルのコンセプトからは逸脱したもの。そのた
め試写の間はかなりの違和感があった。しかし落ち着いて考
えると、元々の1992年作にも本作のテーマへの言及はあった
もので、その点では元の思想に法ったものと言えそうだ。
因に今回登場する新たな要素は、1990年代に2作制作された
TVムーヴィの流れを引くようで、パラレルワールドがここ
で合体したことにもなりそうだ。

2本目は、180度方向を変えて正に現代犯罪を扱った作品。
原題の意味は映画の最初に紹介されるが、かなり衝撃的なも
のだ。
物語は、男が誘拐された少年を単独で奪還するシーンから始
まる。それは鮮やかな手口で作戦を成功させるのだが。その
裏ではコラテラル・ダメージとは言い切れない事象が発生し
ていた。このため男はトラウマを負ってしまう。
そして再び誘拐事件が起きた時、男は被害者の両親から協力
を懇願されるが、最初は応じる素振りも見せない。しかし男
が動き出すと、事件は凄まじい展開を見せることになる。
作品はヴァン・ダム主演のアクションドラマだが、背景にあ
るのは若年者の人身売買。その話はアジア映画でも何度も登
場しているが、本作では2009年6月紹介『96時間』にも描
かれたヨーロッパにおける事情が描かれている。
といっても作品はあくまでもアクション映画。『エクスペン
ダブルズ2』とは見違える風貌のヴァン・ダムによる見事な
闘いが描かれるものだ。それと今回の2作品を連続で観てい
ると、両作でそっくりのシーンが登場し、それを全く違う風
貌で、真逆の意味合いで演じているのも面白かった。

共演はTVドラマ“Stargate: Atlantis”のジョー・フラニ
ガンと、同じく“Stargate SG-1”のアナ=ルイーズ・プロ
ウマン。それにヴァン・ダムの息子のクリストファー・ヴァ
ン・ヴァレンバーグが主人公の息子役で出演している。
監督は、2002年“Cube 2”の脚本と、2004年“Cube Zero”
の監督も務めたアーニー・バーバラッシュ。監督は2011年の
自身の前作でもヴァン・ダムと組んでいたようだ。
        *         *
 2004年“Shaun of the Dead”と2008年5月紹介『ホット
・ファズ』のエドガー・ライト監督・脚本、サイモン・ペッ
グ脚本・主演による新作のパロディ・コメディが計画され、
イギリスで撮影が開始されている。
 今回の題名は“The World's End”。因に上記2作と本作
は併せて“cornetto”トリロジーとも称されているもので、
それぞれはジャンル映画に独自の捻りを加えたとのこと。そ
の第1作はゾンビで第2作は警官ものだった訳だが、新作は
それがSFとのことだ。
 内容は20年ぶりの同窓会に集まった男たちが、昔の出来事
に話を咲かせるが、それは彼らを過去に誘い、さらに未来の
人類に関わる事態に繋がって行くというもの。ペッグ脚本の
SFコメディでは2011年10月紹介『宇宙人ポール』もなかな
かの出来だったので、本作の日本公開も期待したいものだ。



2012年09月23日(日) 大恐竜時代、モンスター・ホテル、自縄自縛の私、ファースト・ポジション、アパートメント:143、長良川ド根性、ELEVATOR、4:44

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『大恐竜時代』“점박이:한반도의 공룡3D”
中生代白亜紀に現モンゴルに生息した肉食恐竜タルボサウル
スを主人公とする実写の風景とCGIアニメーションによる
恐竜映画。
母親と3匹の子供からなるタルボサウルス一家の物語。一家
は草食恐竜らが群れを作る草原の片隅に暮らし、子供の内、
年長の2匹は母親と共に狩りもできるが、幼い末弟のパッチ
はまだ餌をもらうだけだ。しかしそんな一家のそばには、い
つも凶暴なテラノサウルスの姿があった。
そしてパッチが初めて狩りに参加した日、一家を付け狙って
いたテラノサウルスが突然襲い掛かり、母親と年長の2匹が
やられてしまう。こうしてパッチだけが草原に残されること
になるが、そこは同じく肉食恐竜のヴェロキラプトルらが跋
扈する過酷な世界だった。
それでも何とか生き延びたパッチはやがて雌のタルボサウル
スと出会い、2匹は新たな家族を作って行く。ところが草原
の周囲の山が噴火を開始。草食恐竜たちは新たな草原を求め
て移動をはじめる。そんな彼らを追ってパッチの一家も移動
を開始するが、そこに再びテラノサウルスが現れた。
モンゴルの恐竜が巣作りをしていた化石は発見されており、
さらにそこに子供の恐竜がいたことから子育てもしていたと
の学説もあるようだ。しかし本作のように大人になるまで面
倒を見ていたかというと、それは多少フィクションの部分も
多いと思われる。
でもまあ、一概にそれは誤りだとも言えないものだし、これ
位はあってもいいかな…とは思わせるお話だ。ただし北アメ
リカに生息したテラノサウルスがアジアのタルボサウルスと
激突するというのは、ちょっと無理があるかなというのは正
直なところだ。
それと、恐竜化石の多くは色を残していないので、現実の肌
の色が如何様であったかも現実には判っていないものだが。
それにしても凶暴で執拗なテラノサウルスが赤というのは…
本作が韓国映画であることを思うと微妙なところだ。勿論、
これもなかったとは言えないものだが。

監督は、2008年にアジア初の恐竜ドキュメンタリーとされる
『朝鮮半島の恐竜』を発表したハン・サンホ。また、本作の
自然史考証には、全南大・韓国恐竜研究センター所長のホ・
ミンという韓国を代表する恐竜博士が当たっているそうだ。

『モンスター・ホテル』“Hotel Transylvania”
アダム・サンドラー製作総指揮によるホラーコメディ・アニ
メーション。
ルーマニアの鬱蒼とした森の中に聳える古城。その周囲には
怪奇な墓場や迷路が巡らされ、誰も案内なしには立ち入るこ
とができない。これこそは100年前に人間の迫害に追われた
ドラキュラ伯爵によって開業され、モンスターたちが人目を
気にせず過ごすことのできるモンスターによるモンスターの
ためのリゾートホテルだった。
そんなホテルでは、年に1度、盛大なパーティが催される。
それは100年前に妻を亡くした伯爵が、以来男手1つで育て
てきた娘メイヴィスの誕生パーティ。しかしその娘も118歳
となり、ホテルの中だけに閉じ込めておくことも難しくなっ
ている。それでも今年は何とか策略で人間の恐ろしさを教え
ることに成功するのだが…。
一方、パーティのためにフランケンシュタイン夫妻やミイラ
男、透明人間に狼男など世界中のモンスターたちが集まって
くる。ところが盛大に始まろうとしたパーティに、何と人間
の若者が紛れ込んでいることが発覚。それは娘の成長に良く
ないばかりでなく、歴史を刻んだモンスター・ホテルの信用
を失墜させるものだった。
まあ出てくるは出てくるは、ユニヴァーサルからハマーまで
世界中のホラー映画の主人公たちが続々と登場。それぞれが
キャラクターに合わせたギャグをかませてくれる。それはマ
ニア受けもあるが、ほとんどは定番のもので、その辺は多分
日本の観客でも笑えるものになっているものだ。
正直に言ってサンドラーのコメディは、アメリカ文化に根差
しているので日本の観客には多少難しい面もあるが、本作に
関しては最近の吸血鬼ブームにも乗っているものだし、多分
今回は大丈夫と思われる。

監督は、2003年‐05年放送の“Star Wars: Clone Wars”を
手掛けたゲンディ・タルコフスキー。脚本は2007年4月紹介
『ボラット』などのピーター・ベイナムと、『サタデー・ナ
イト・ライヴ』のロバート・スミゲルが共同で執筆した。
なお、日本公開は吹替版限定となるもので、その声優は山寺
宏一、川島海荷、藤森慎吾、クリス松村らが担当している。
因にオリジナルは、サンドラーの他に、セレーナ・ゴメス、
アンディ・サンバーグ、さらにスティーヴ・ブシェミらが当
てていたようだ。

『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』
2008年「女による女のためのR‐18文学大賞」を受賞した
蛭田亜沙子原作小説を、2009年6月紹介『山形スクリーム』
などの竹中直人監督で映画化した作品。
主人公の百合亜は、広告代理店でチームリーダーを任されて
いる女性。しかし部下は全くの新人の男性と中途採用の年上
の女性。さらに我儘な上司や冷淡な常務もいて、新たなコン
ペに参加を決めてからはストレスが溜まる一方だ。
そんな百合亜の密かな楽しみは自縛。学生時代にふと始めた
がある事情から自ら封印していた楽しみが、今はストレス解
消の手立てとなっている。そして同時に始めたブログでは、
同好の中年紳士ともネット上の交流を深めて行く。
そしてその交流の中で、徐々に互いの楽しみをエスカレート
させて行った百合亜は、それによって仕事場でも次々に成果
を挙げて行けるようになるが…。それが飛んでもない事態を
招いてしまう。

主演は、今年6月紹介『るろうに剣心』に出ていた平田薫。
共演は、2011年9月紹介『スマグラー』などの安藤政信、お
笑い芸人ピースの綾部祐二、2011年10月紹介『月光の仮面』
などの津田寛治。他に、山内圭哉、馬渕英俚可、米原幸祐、
銀粉蝶らが脇を固めている。
平田はナチュラルな雰囲気の中にかなり大胆なシーンもあっ
て、まあ元々が自縛癖という大変なテーマではあるが、それ
をある種の共感も持てるように巧みに演じていた。そこには
卑猥さも少なく、清々しさすら感じられたのは女優のキャラ
クターのおかげもありそうだ。
因に竹中監督の言葉によると、平田にはできるだけ喋らない
ように演出したのだそうで、そんな物静かだが大胆な女性の
姿が見事に描かれていた。それに結末にちょっとホッとする
気分になれるのも良い感じの作品だった。
それにしても最近は、7月に紹介した『ナナとカオル』など
SMを描いた作品を時折見掛けるが、そんなブームになって
いるのだろうか。

なお題名には「R-18文学賞 vol.1」とあるが、今年第11回を
迎えた公募文学賞にはすでに21の受賞作があるようだ。その
内、他の受賞作品も映画化する計画なのかな? ただし今回
の映画化は第7回の大賞受賞作だが、その翌年の第8回大賞
作品は窪美澄の「ミクマリ」で、これは今年7月に紹介した
『ふがいない僕は空を見た』の原作本に所載のものだ。

『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』
                  “First Position”
毎年4月にニューヨークで開催されるユース・アメリカ・グ
ランプリ。そこには世界有数のバレエスクールの関係者が集
まり、そこで各校の翌年の奨学生が選ばれる全世界に門戸の
開かれたバレエコンテストだ。そこに参加する若きバレエダ
ンサーたちの姿を描いたドキュメンタリー。
登場するのは、11歳から17歳までの6人の少年少女。因にグ
ランプリの出場資格は9歳から19歳までだ。
1人目は米海軍軍医の父を持つ11歳のアラン。彼はバレエが
好きでたまらないと言い、厳しいストレッチなども全く厭わ
ない。そして2人目は、そのアランの姿に憧れる同い年のガ
ヤ。イスラエル出身の彼女もグランプリを目指す。
3人目はシェラレオネ出身のミケーラ。戦火の中で両親も亡
くした14歳の少女は、黒い肌、筋肉質の体躯というハンデを
跳ね返す。また4人目のジョアンも故郷コロンビアを離れ、
アメリカでバレエを学んでいる。しかし16歳の少年はまだ母
親が恋しい年頃だ。
5人目のレベッカは17歳。金髪に白い肌、青い目の彼女は、
学校では「バービー」と呼ばれるセレブのお嬢様だ。しかし
実生活では何不自由ない彼女が目指すのは、お金では買えな
い栄光だ。
そして6人目の12歳のミコは、カリフォルニアに住む日英の
ハーフ。日本人の母親はステージママで、彼女と10歳の弟を
目的に向って厳しく育ててきたが、無邪気な弟はレッスンに
嫌気がさしている。
こんなそれぞれに違うものを背負った少年少女たちが、世界
各地で開かれる予選を勝ち抜き、本選に向かって行く。それ
は時に厳しく、時に優しく、優美に力強く描かれる。しかも
そこには子供とは思えない、部外者の僕らには超絶とさえ観
えるテクニックが次々に披露されるものだ。
実は6月に『バレエに生きる』“Une vie de ballets”とい
うドキュメンタリーを観て、それは歴史的なバレエの名演を
記録した作品だったが、バレエを普段観ていない僕には何か
違和感があった。
しかし本作は純粋に夢に向かって行く若者たちの姿を追った
もので、さらにそこには世界の現実も垣間見せるなど、見事
な作品。これなら僕にも判り易かったものだ。


『アパートメント:143』“Emergo”
2010年9月紹介『リミット』のロドリゴ・コルテス監督が、
製作と脚本を務めた超常現象ストーリー。
映画はPOV形式で進められ、物語は研究者たちがアパート
の一室に向かい、その部屋の各所に監視カメラを設置すると
ころから始まる。そして作品はそれらの監視カメラの映像で
構成されるものだ。
その部屋には、父親と子供2人が暮らしており、その部屋で
怪しげな物音などの異常現象が起き、その調査に学者と男女
のアシスタントの計3人が訪れている。こうして3日3晩連
続の監視体制が敷かれ、その解析映像などが描かれる。
ただし子供の内で思春期の長女は反抗的で、最初は寝室にカ
メラを置くことも拒否する。ところがカメラを設置し始めて
すぐに異常現象が起き始め、その現象はさらにエスカレート
して行く。
それに対して研究者たちは家族へのインタヴューなども重ね
て、徐々にその家族の置かれた状況などが明らかにされ、異
常現象の原因が追求されて行くが…

出演は、2011年11月紹介『人生はビギナーズ』などのカイ・
レノックス、テレビやインディーズ映画に出演のジーア・マ
ンテーニャ、2009年12月紹介『フローズン・リバー』などの
マイクル・オキーフ。
他に、2002年『バイオハザード』の第1作や2004年3月紹介
『ヴェロニカ・ゲリン』に出演のフィオナ・グラスコット、
2007年11月紹介『パルス』などのリック・ゴンザレス、08年
9月紹介『アラトリステ』に出演のフランセクス・ガリード
らが脇を固めている。
監督は、本作でコルテスに見出されたカルレス・トレンス。
バルセロナの出身でカリフォルニアで映画を学んだ俊英が、
事前に制作した短編映画の評価で大抜擢されている。
話の全体は『パラノーマル・アクティビティ』に極めて近い
が、後半の家族の問題が出てきてからがなかなか巧みに作ら
れていた。特に、研究者たちが事件の真相を炙り出すまでの
駆け引きなどの演出や俳優たちの演技力も、そこそこの顔ぶ
れを集めただけのものはあったようだ。
因にコルテスは、来年公開予定の新作“Red Light”の準備
のために超常現象の調査を行った中で本作のアイデアを得。
同時に脚本を書き上げたものの一緒に映画化するのは好まし
くないと考え、新人監督にチャンスを与えたものだそうだ。
新人監督はその期待によく応えている。


『長良川ド根性』
今年5月に『死刑弁護人』という作品を紹介している東海テ
レビ制作のドキュメンタリー。同制作では2011年5月に『青
空どろぼう』という作品を紹介しているが、本作はそれに繋
がる漁業問題を扱った作品だ。
1995年に運用開始された長良川河口堰の建設に至るまでの経
緯や、その運用開始から16年を経た地元漁師の姿を、主には
三重県桑名市赤須賀にある漁業協同組合の組合長の姿を通し
て描く。
鵜飼で有名な長良川は岐阜県郡上市に源流を発し、揖斐川、
木曽川と共に並流して伊勢湾に注ぐ。その流域は以前は洪水
の常襲地であったが、1970年代に長良川河口域の浚渫が開始
され、それに伴う海水の逆流防止の目的で河口堰の建設が着
工される。
しかしそれは、その河口域で漁獲され、古来からの常套句に
もなっている桑名の蛤を、年間3000tの水揚げからから1t未
満に激減させる。その危険を先から察知していた赤須賀漁協
は河口堰の建設に猛反対していたのだが。
御用学者による公聴会や、最後まで反対した赤須賀漁協には
国賊かのようなバッシングまで行われて、漁協は苦渋の選択
をしなければならなくなる。それでも組合長は人工干潟の建
設や、さらに稚貝の人工孵化の研究も進めていた。
そして運用開始から16年、河口堰を前提とした漁業をどうに
か安定させ、若い漁師も増え始めた赤須賀漁業に新たな問題
が持ち上がる。その対決の場での、映画終盤の組合長の姿は
鮮烈だ。
元々河口堰は愛知県内に建設され、その水は名古屋市近郊に
配給される。それに対して影響を受ける漁民の多くは、三重
県とあとは岐阜県に点在する。そんな背景も愛知県が良いよ
うにことを進め、それを覆す元凶のようにも見える。
しかし問題は、ここ長良川河口堰だけに限らず、日本全国で
同様の環境破壊や反対運動が続いていることにも繋がる。そ
れは国が地方を無視し、さらに一部の献金企業のために国民
の税金ばら撒いて進める事業の全てに共通するものだ。
なお作品では、組合長がここに至った人生や、さらに長良川
の上で川漁を続ける漁師、赤須賀の古老の漁師の姿なども描
いて、映画全体を見応えのあるものに仕上げていた。


『ELEVATOR』“Elevator”
高層ビルのエレベーターに閉じ込められた人々の姿を描いた
ソリッドシチュエーション・スリラー作品。
大都会に建つ投資会社のオーナーの名前を冠した高層ビル。
そこでは何かのパーティがあるらしく人々が集まってくる。
そしてエレベーターにはオーナーとその孫娘や、パーティの
余興に呼ばれた芸人らが乗り合わせていた。
ところがその孫娘が悪戯で緊急停止ボタンをいじった事から
物語が始まる。そこには結婚間近な投資会社の社員とテレビ
の人気キャスターでもあるその婚約者。さらに妊婦や顧客の
老婦人や中東出身者のセキュリティガードなどもいて、多様
なドラマが展開される。
しかもそこに爆弾が仕掛けられたという事態が判明する。

出演は、2008年5月紹介『レッドライン』に出ていたという
クリストファー・バッカス、2008年8月紹介『センター・オ
ブ・ジ・アース』で注目したアイスランド出身のアニタ・ブ
リエム、2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』など
のヘンリー・バートン。
さらに、1990年代の『ホーム・アローン』で主人公の兄を演
じていたラヴィン・ラトレイ、2003年3月紹介『ヤァヤァ・
シスターズの聖なる秘密』などのシャーリー・ナイト、今年
6月紹介『ディクテーター』に出演のジョーイ・ストロニッ
クらが脇を固めている。
監督は、ノルウェー出身で本作が長編2作目のスティグ・ス
ヴェンセン。製作と脚本は、2007年11月紹介『ディセンバー
・ボーイズ』のマーク・ローゼンバーグが手掛けている。
舞台がエレベーターという作品では、2001年公開のジョビジ
ョバ/マギー監督による『ショコキ!』が記憶に残っている
が、このページでも2009年7月に堀部圭亮監督による『悪夢
のエレベーター』などを紹介している。いずれにしても、現
代では比較的思い付きやすい作品というところだろう。
しかし上記の日本映画が共にコメディ仕立てであったのに対
して、本作は多少のコメディ要素はあるものの全体はリアル
で、それなりにサスペンスも描かれた作品になっていた。
ただ、スマートホンで生中継するなどの今風の要素も描かれ
ている反面、それが外部でどういう状況なのかが判らないの
にはもどかしいものもあって、その辺で僕は今ひとつ映画に
乗り切れなかった。
どうせなら舞台の限定という設定に拘らず、もっとオープン
な作品にした方が良かったとも思えたものだ。それではソリ
ッドシチュエーションではなくなってしまうが。


『4:44地球最期の日』“4:44 Last Day on Earth”
地球規模の災害によってその日に人類が絶滅すると判明した
最期の半日間を描いた作品。
主人公は、ニューヨークのアパートに若いアーティストの女
性と暮らす中年男性。女性はアブストラクトな絵画を描き続
け、男性はそれを見たり、2人でセックスにふけったりする
普通の様子だが、実はその翌朝4時44分に地球のオゾン層
が破壊され、人類は即刻絶滅することが判明している。
そんな状況では、人々の中には自殺する者も現れるが、多く
は事態を冷静に受け止め、最後まで平穏な日常を続けようと
しているようだ。そして主人公も、最期の時まで彼女と一緒
に過ごそうと考えているが…。
ケータリングの中国料理を配達に来た東洋人の若者の姿など
が徐々に主人公の心に変化をもたらして行く。そしてそれは
彼女との関係にも影響して行く。果たして彼らは最期の時ま
で一緒に居られるのか?

脚本と監督は、2010年1月紹介『バッド・ルーテナント』の
1992年オリジナル版を手掛けたアベル・フェラーラ。
出演は、ウィレム・デフォー、2009年9月紹介『パブリック
・エネミーズ』などに出演し、監督のプライベートのパート
ナーでもあるシャニン・リー。他に2005年2月紹介『ブレイ
ド3』などに出演のナターシャ・リオン、1992年版『バッド
・ルーテナント』に出演のポール・ヒップらが脇を固めてい
る。
最後には多少のVFXもあるが、全体的には派手な映像もな
く、余りにも静かに最後を迎える人類の姿には、本当にこう
だったら良いなという監督の思いもありそうだ。因に映画の
中には、ダライ・ラマの映像なども挿入され、一方、アル・
ゴアの言葉も引用されるなど、それなりの思想的なものも描
かれている作品だ。
ただしそれはあざとい物ではなく、あくまで真摯に地球の現
状を憂いているような感じの作品でもあった。そしてその中
での人間ドラマには、男女の愛や家族愛など、様々な愛が見
事に描かれ、その素晴らしさが感動を呼ぶものにもなってい
た。
監督は1951年生まれ。本作は監督が60歳の時の作品だが、そ
の描き方には、老練さより止むに止まれぬ心情のようなもの
も感じられたものだ。



2012年09月16日(日) バイオハザードV、天心の譜、Tiger & Bunny、ウーマン・イン・B、LIFE OF THE DEAD、388、ワーキング・ホリデー、BUNGO+Godzilla

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『バイオハザードVリトリビューション』
            “Resident Evil: Retribution”
2010年9月に前作を紹介したシリーズの最新作。実は試写会
は少し前に行われたが、記事の掲載は日米同時公開日の9月
14日まで禁止されていた。
開幕は前作から繋がるタンカー上での戦い。その戦いから辛
くも海中に逃れた主人公アリスだったが…。目覚めたアリス
を待っていたのは、郊外の住宅地での平穏な暮らし。しかし
愛娘ベッキーとの再会の場に、突然のアンデッドが侵入して
くる。こうして再び戦場に立ったアリスは…。

出演は、アリス役のミラ・ジョヴォヴィッチ、レイン役のミ
シェル・ロドリゲス、ジル役のシエナ・ギロリー。さらに前
作からウェスカー役のショーン・ロバーツ。また新登場レオ
ン役のヨハン・アーブとエイダ役のリー・ビンビン。そして
第1感染者の役で中島美嘉がゲスト出演している。
製作、脚本、監督はポール・W・S・アンダースンが前作に
引き続き担当。
以前の情報でアンダースンは、自作は常に3部作で構想する
と語っていたが、そのシリーズが5作目を迎えた。しかも、
3部作の構想では完結編の題名としていた“Afterlife”も
すでに前作で使用してしまったシリーズの新作は、正にゲー
ムそのものに回帰した作品だった。
これには色々な思惑もあるのだろうが、実は本作に続いて劇
場公開される日本製アニメーション版の『バイオハザード・
ダムネーション』はさらに徹底したゲームの再現版で、人間
ドラマの風味が強くなったシリーズをゲームに回帰させる意
図は強かったようだ
ただし、本作=実写版第5作の結末は、これは実写版の方向
性を揺るがず示しているもので、これは次回第6作で本格的
なシリーズの結末を迎えるのではないか、そんな予感も充分
に感じさせてくれるものになっていた。

なお、本作に続いて劇場公開される『バイオハザード・ダム
ネーション』は2008年の『バイオハザード・ディジェネレー
ション』に続く作品で、前作と同じく、また今回は実写版に
も初登場したレオン・S・ケネディが主人公となって、実写
版との関連も強いストーリーが展開される。

『天心の譜』
元内閣総理大臣細川護煕の妻で、認定NPO法人スペシャル
オリンピックス日本名誉会長なども務める細川佳代子製作総
指揮による知的障害者と音楽を描いたドキュメンタリー。
知的障害者の人はクラシックコンサートの会場に立ち入るこ
とができないのだそうだ。それは確かに、思わぬところで嬌
声を挙げられたりしたら音楽鑑賞の妨害になることは確かだ
が、しかしそれは明らかな差別と言えるものだ。
それに対し、日フィルやハンガリー国立フィルの常任指揮者
などを歴任する国際的指揮者の小林研一郎は、2005年「コバ
ケンとその仲間たちオーケストラ」を設立。同年開催された
長野スペシャルオリンピックスの会場では、世界中から集ま
った趣旨に賛同する演奏家たちのコンサートが実現する。
そしてさらに小林は、2010年には演奏者の中に31人の障害者
を加え、正に「共生できる社会」を目指した活動が続けられ
ている。
一方、本作監督の小栗謙一は、2001年にスペシャルオリンピ
ックスを目指してアメリカでホームステイする2人の日本人
青年を追ったドキュメンタリー『able/エイブル』を監督。
以来2004年『ホストタウン』、2006年『ビリーブ』、2011年
『幸せの太鼓を響かせて』と、同旨の細川製作による作品を
発表し、本作はその第5作になる。
その中でも『ビリーブ』では、2005年長野大会を記録するた
めに結成された知的障害者たちの撮影クルーの奮闘ぶりを描
き、そのクルーが2006年から「コバケンとその仲間たち」の
リハーサル風景の撮影を許され、その成果として得られたの
が本作とのことだ。実際に本作には彼らの撮影した映像が、
上映作品の半分近くに使用されているそうだ。

という作品だが、以前の作品も一応全国公開はされているも
のの、認知度はスペシャルオリンピックスと同様に高くはな
いとのことで、本作では前作からの間隔も短いことから、製
作形態や配給体制も変えて公開が行われるようだ。試写後に
は、製作者と監督から「よろしくお願いします」という特別
の挨拶もされてしまった。
内容は、当然健常者である我々が考えるべき問題であるし、
これはできるだけ多くに人に見てもらいたい作品だ。なお、
公開は、東京はシネマート新宿、大阪はシネマート心斎橋な
どで10月20日から全国順次ロードショウとなる。
因に本作監督の小栗謙一は、2008年9月紹介『TOKYO JOE』
の監督もしていた。

『Tiger & Bunny: The Beginning』
サンライズ企画・原作・制作によるヒーローアニメーション
・テレビシリーズからの劇場版第1作。
物語の背景は、何時とは知れない近未来のシュテルンビルト
という名の大都市。そこにはNEXTと呼ばれる様々な超能力を
持った男女のグループがいて、彼らは日夜、街の平和を守っ
ていたが…。
そのヒーローたちにはそれぞれスポンサーが付いて、そのコ
スチュームには企業のロゴマークが貼られている。そして彼
らの活動は事件のたびにテレビで独占生中継され、その活躍
ぶりにはポイントが付与されて年間最優秀ヒーローが選ばれ
るのだ。
そんな中で主人公のワイルドタイガーは、少し落ち目のヒー
ロー。しかも彼の所属する会社が買収され、新会社は彼に新
人と組むことを命じる。しかしその新人バーナビーは、優秀
だがかなり思い上がりの嫌味な奴だった。
そして街のシンボルである「スタチュー・オブ・ジャスティ
ス」が奪われ、彼らは超能力を持つ悪のNEXTと戦うことにな
るが、彼らには敵の持つ超能力すら判っていなかった。それ
でも彼らは視聴者のため戦わなくてはならないのだ。
テレビシリーズの制作前には、日経新聞にスポンサー企業の
募集広告が出されたということで、ヒーローたちのコスチュ
ームにはかなりのナショナルスポンサーのロゴが並ぶ。そん
なことでも笑いを誘う中で、友情や信念や、そして少し上り
坂を過ぎた大人には身につまされる物語が展開される。
なお物語は、テレビシリーズの第1話と第2話に基づくもの
で、そこに新たな事件やキャラクターが登場して、今まで語
られていなかった物語が繰り広げられているものだ。これは
テレビシリーズを観ていなかった人にも判り易い作品となっ
ている。

脚本は、テレビシリーズのストーリーディレクターを務めた
西田征史。監督はテレビシリーズの第1話及び第2シーズン
のオープニングを手掛けた米たにヨシモトが担当している。
僕は、日本製のテレビアニメーションはめったに観ない人間
だが、本作はサンライズらしい捻りも効いた作品で、これは
存分に楽しめた。なお来年には新作の劇場版第2作も公開さ
れるようで、その作品も楽しみに待ちたいものだ。

『ウーマン・イン・ブラック亡霊の館』
                “The Woman in Black”
2011年7月紹介『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2』でシ
リーズを完了したダニエル・ラドクリフが、単独で主演した
ゴシック・ホラー作品。
「ハリポタ」以外のラドクリフ主演作品では、2007年11月に
『ディセンバー・ボーイズ』も紹介しているが、本作は人気
シリーズ完結後の新たな出発となるものだ。その作品に俳優
は「ハリポタ」とも似た雰囲気のあるゴシック・ホラーを選
んだ。
物語の背景は、自動車がようやく普及し始めた時代のイギリ
ス。ロンドンで弁護士事務所に勤める主人公は、田舎町で先
日死去した婦人の遺産整理の仕事を命じられる。そのため列
車を乗り継ぎ、田舎町の寂れた駅舎に降り立った来た主人公
だが、地元の人々の応対はひどく険悪だった。
それでも自家用車を乗り回す名士らしい中年紳士の協力で、
婦人の邸宅に辿りついた主人公は、婦人の遺品を整理する中
で、徐々にその田舎町を覆う恐怖の原因に近づいて行くのだ
が…。その田舎町には主人公の1人息子も彼のあとを追って
向かっていた。

共演は、『死の秘宝』や今年2月紹介『裏切りのサーカス』
などのキアラン・ハインズ、2006年4月紹介『ローズ・イン
・タイドランド』などのジャネット・マクティア。
原作は、サマセット・モーム賞受賞作家のスーザン・ヒルが
1983年に発表したベストセラー小説で、すでにテレビ化やラ
ジオドラマ、舞台劇にもなっているという作品。
その原作から、2010年10月紹介『キック★アス』のジェーン
・ゴールドマンが脚色し、監督は、2008年“Eden Lake”と
いう作品でシッチェス=カタロニア国際映画祭で審査員特別
賞など受賞しているジェームズ・ワトキンスが担当した。
そしてこの映画の製作は、2011年5月紹介『モールス』など
のハマーフィルムが担当。イギリスの名門ホラー映画ブラン
ドを引き継いで再生された映画会社が、最初に映画化権を獲
得した作品だったということだ。
なおラドクリフは、以降に“A Young Doctor's Notebook”
というテレビのミニシリーズと“Kill Your Darlings”とい
う作品が撮影完了。さらに“The F Word”という作品が撮影
中で、その後にはアレクサンドル・アジャ監督の“Horns”
というホラー・ファンタシーと、アニメ版“Pinocchio”の
主人公の声優が予定されているようだ。

『LIFE OF THE DEAD』
関西出身、2年前から関東在住という造形作家が、手作りし
たクレイアニメーションをネットで公開し、それが評判にな
りDVD化されるという作品をサンプルで鑑賞した。
内容は、題名から予想される通りのゾンビもので、世界中に
ゾンビが蔓延し、そんな中、たぶん東京下町の安アパートの
2階の部屋で偶然生き延びた引き籠もり外国人男性の行動が
描かれる。
といっても、描かれるのは過去のゾンビ映画とさほど変わら
ず、特に目新しいものではない。それがまあ、クレイアニメ
ーションで多少グロテスクな表現がされてはいるが、それも
特に限界に挑むという感じのものでもない。
ただ、約15分の作品1本に製作期間を1ヶ月以上かけ、手作
りでコツコツと作り続けたのが評価かな。でも造形には指紋
もベタベタ残っていて、テクニックとしてはそれほどレヴェ
ルの高いものとも思えなかった。
それにお話的にも、今回観させて貰った4話まででは、物語
は始まったばかりという感じで、この先がどうなって行くの
か。その辺に期待を持たせるという感じはあるが、でもまだ
海の物とも山の物とも着かないところだ。
因に作品は7話まで完成しているようだが、すでにネットで
の公開は終了しており、これは次のDVDの発売を待たなけ
ればならないようだ。

製作、脚本、監督、造形、声優…そのほか諸々は、音楽を除
いて全て中山裕幸の単独。音楽にも平岡英樹という人と併記
で中山の名前が掲げられている。因に第2話には挿入歌があ
りそれも中山が歌っているようだ。
なお11月28日リリース予定のDVDには、シーズン1として
第4話までの本編映像と、メイキング及び監督インタヴュー
などの特典映像が収録される予定。さらに第5話以降は、来
春シーズン2としてリリース予定となっている。
「キモかわいい」を通り越して「グロかわいい」という作品
のようだが、まだ物語は始まったばかりというもので、ここ
からの展開が作品の真価を問われるところ。是非ともシーズ
ン2も観せて貰ってその評価をしたいものだ。


『388』“388 Arletta Avenue”
1997年『CUBE』などのヴィチェンゾ・ナタリが製作総指揮を
務めたサスペンス作品。
トロント郊外の高級住宅街を舞台に、若い夫婦を突然襲った
恐怖が描かれる。それは、夫が朝出勤のため乗り込んだ車で
セットした覚えのない音楽が鳴り出すことから始まり、それ
が原因で言い争いとなった妻の姿が消える。しかし状況から
単なる家出と判断した警察は取り合ってくれない。
さらに不審な出来事にも警察の動きは遅く、ついには夫のパ
ソコンに不審な画像が送られ始める。そんな事態の中での夫
の行動が、屋内の各所や自家用車の中にも仕掛けられた隠し
カメラの映像で描かれ、やがて夫の精神状態が追いつめられ
て行く。
この種の犯罪を扱った作品では、犯罪者の心理なども気にな
るところだが、本作ではそれは全く明らかにされず、それが
物語の不気味さを増加させる。それは2008年9月に紹介した
ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニー・ゲームUSA』にも
通じる不条理さに満ちたものだ。
そして本作では、それが『パラノーマル・アクティビティ』
などのPOVにも似た隠しカメラの映像で描かれ、ある種の
異様な臨場感も与えられている。

出演は、2003年7月紹介『ターミネーター3』などのニック
・スタール、2006年『ブラック・ダリア』などのミア・カー
シュナー、2000年『ファイナル・デスティネーション』など
のデヴォン・サワ。
他に、2010年9月紹介『アメリア−永遠の翼』などのアーロ
ン・エイブラムス、今年4月紹介『フェイシズ』などに出演
のクリスタ・ブリッジスらが脇を固めている。
正直に言って後味の良いとは言い切れない作品だが、内容的
には、もしかすると現実にも起こり得るかもしれない恐怖が
描かれている。その点では現代への警鐘という点で、観る価
値も生じる作品だ。
ただ、映画の中で夫の設置したカメラの映像が混ざるのは、
作品のコンセプトに合っていないのではないかな。その辺は
ちょっと勇み足のようにも感じられた。些細なことではある
が、決めたことは決まり通りにやって欲しかったものだ。


『ワーキング・ホリデー』
吉本興業企画・製作で、「ひきこもり探偵シリーズ」などの
坂本司原作、文春文庫所載の同名小説からの映画化。
新宿歌舞伎町でホスト稼業の男に許に、突然少年が現れる。
さらに訝しむ男に対して少年は、「僕はあなたの息子です」
と自己紹介する。そしてホストクラブのママや同僚ホストの
協力で、春休み限定の父子の共同生活が始まるが…。

出演はEXILEのAKIRA、2010年2月紹介『誘拐ラプソディー』
などの子役の林遼威。他に今年6月紹介『るろうに剣心』な
どの綾野剛、2月紹介『幸運の壺』などの逢沢りな。さらに
お笑い芸人のほんこん、ゴリ、8月紹介『のぼうの城』など
のちすんらが脇を固めている。
脚本は、2011年『僕たちは世界を変えることができない。』
などの山岡真介。監督は、讀賣テレビのドラマ『奇跡の人』
などの演出や『六千人の命のビザ』などのプロデューサーを
務めた岡本浩一の長編映画監督デビュー作となっている。
いろいろなことがあっても、結局大人に成り切れていない男
と、父親不在の中で逞しく育ってきた少年。どちらかという
と少年の方がよっぽど大人の逆転父子が、共同生活の中でい
ろいろなものを掴んで行く。
言ってみれば吉本新喜劇のような他愛ないストーリーだが、
そこにはそれなりに現代を反映しているような部分もあり、
それらがユーモアやギャグも絡めた展開の中で、気持ちよく
進んで行く作品だ。
ただ、映画のクライマックスとも言えるシーンで、主人公の
運転する宅配便の車のナンバープレートが白なのはちょっと
気になった。その車は、プレートの平仮名が「わ」なのでレ
ンタカーと思われるが、営業用車で白ナンバーはちょっとま
ずいだろう。
エンドロールには、協力として「クロネコヤマト」の名前も
あったように思ったが、そこを何とか利用してもう少し誤魔
化して欲しかった感じもしたものだ。まあ法律上の縛りもい
ろいろあるから、融通の利かない日本の警察相手では難しい
のも理解はするが。
それにしてもこんな親子って、少し前なら考えもしなかった
ところだが、今の世間には案外現実にいるのかな、そんなこ
とも考えさせられる作品だった。それでも物語全体が前向き
なのが、心地よい作品でもあった。


『BUNGO「見つめられる淑女たち」』
『BUNGO「告白する紳士たち」』
宮沢賢治、三浦哲郎、永井荷風、岡本かの子、坂口安吾、林
芙美子。6人の文豪たちの作品を映画化したアンソロジー。
宮沢原作の「注文の多い料理店」は、2010年『時をかける少
女』の菅野友恵脚本、2006年『パビリオン山椒魚』などの冨
長昌敬監督、主演石原さとみ、宮迫博之。原作からはちょっ
と味付けを変えて、不気味さの中にもコミカルな雰囲気の漂
う作品に仕上げられている。

三浦原作の「乳房」は、2006年『マイムマイム』の岨手由貴
子脚本、2007年『きみにしか聞こえない』で助監督を務めた
西海謙一郎監督、主演水崎綾女、影山樹生弥。思春期の少年
と夫を戦争に取られた若い女性の物語。少年の憧憬が、過酷
な背景の中で巧みに描かれる。

永井原作の「人妻」は、2008年『ワイルド・ライフ』の山田
太郎脚本、2010年『海炭市叙景』の熊切和嘉監督、主演谷村
美月、大西信満。町外れの家に間借りした主人公は、その家
の若い夫婦と暮らすことになるが、主人公には若妻の姿が気
になって仕方がない。

岡本原作の「寿司」は、2009年『風が強く吹いている』の大
森寿美男脚本、CM演出家の関根光才監督、主演橋本愛、リ
リー・フランキー。寿司屋の看板娘と常連客で無口な中年紳
士の交流が描かれる。ある日町で紳士を見かけた娘は、ふと
紳士に声を掛けるが…

坂口原作の「握った手」は、2005年『リンダリンダリンダ』
の向井康介脚本、山下敦弘監督、主演山田孝之、成海璃子、
黒木華。映画館で衝動的に隣の女性の手を握った主人公は、
その手を握り返される。こうしてその女性と付き合い始めた
主人公だったが、心には不安が残る。ちょっとファンタステ
ィックな要素もある作品。

林原作の「幸福の彼方」は、1983年『探偵物語』の鎌田敏夫
脚本、2012年『シグナル〜月曜日のルカ』の谷口正晃監督、
主演波瑠、三浦貴大。見合い結婚した2人は幸せな結婚生活
を送っていたが、ある日突然、夫は自分に息子がいることを
告白する。夫婦の情感が見事に描かれる。

それぞれ作品は原作の発表年代を意識した時代背景で、昭和
前半の雰囲気がよく出されていた。そんなムードの中で文豪
たちの名作が解り易く描かれている。脚本家、監督、出演者
も現代日本映画を代表する顔ぶれが集まっており、日本映画
のカタログとも呼べそうな作品だ。
        *         *
 2011年7月17日付などで報告している“Godzilla”の再度
のハリウッドに関して、同作の製作を進めているワーナー及
びレジェンダリー・ピクチャーズから、全米公開日を2014年
5月16日に決定したことが発表された。
 因に監督は2011年6月紹介『モンスターズ』のギャレス・
エドワーズ、脚本はデイヴィッド・キャラハン、デイヴィッ
ド・S・ゴイヤーに加えて、2003年“Swordswallowers and
Thin Men”という作品でニューヨーク国際インディペンデン
ト映画祭のジャンル賞や脚本賞を受賞のマックス・ボレンス
タインが仕上げを担当したようだ。
 監督も脚本家もまだキャリアは浅いが、伝説の怪獣に新た
な血を注ぎ込んでもらいたいものだ。
 なお出演者などは未発表だが、作品は3Dで公開されるこ
とになっている。



2012年09月09日(日) 黄金を抱いて、アルゴ、ロックアウト、駄作の中だけに、ミラクル・ツインズ、エクスペンダブルズ2、ドリームハウス、ニモ3D+Hobbit

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『黄金を抱いて翔べ』
大阪府出身の女流ミステリー作家高村薫が1990年に発表した
デビュー作の映画化。その映画化に、大阪府出身の脚本家・
吉田康弘と奈良県出身の監督・井筒和幸が挑戦した。
主人公はちょっと影のある男。その男が大阪に現れ、以前か
らの知り合いらしい男の斡旋で吹田に居を構えて、運送会社
で働き始める。しかしそれは表向きのことで、彼らには裏で
大きな計画があった。
それは古びた大きな銀行の地下に眠る時価数億円の金の延べ
板。それを強奪しようという計画だ。そして主人公には、仕
事を斡旋した男から爆弾を扱える男の紹介が依頼される。主
人公にはそれに合う男の心当たりがあったが…
その他、銀行内のセキュリティシステムに詳しい男や、銀行
のエレベーターを手掛けた老人などが加わって計画がスター
トする。しかしそこには集まってきた男たちの過去が関って
いた。

出演は、妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、東方神
起のチャンミン、そして西田敏行。他に青木崇高、田口トモ
ロヲ、中村ゆり、鶴見辰吾らが脇を固めている。
爆弾魔の男が川向こうに住んでいたのが故意か偶然かなど、
多少解り難いところはあったが、その監視で実力を測るなど
の展開は納得できた。他にも計画は緻密さと大胆が巧みに織
り合わされて、なかなか見応のある作品になっていた。
ただし物語の展開上仕方ない面はあるが、人が多少安易に死
に過ぎるのと、そこでの人間ドラマが希薄な感じもした。そ
れは原作が作家のデビュー作という点もあるのかもしれない
が、映画としてもう少し肉付けしてもよかったかと思えると
ころだ。
尤もそれもやり過ぎると問題だが…。本作の場合は、今この
状況で犯行を実行しなければならない理由付けも多少不明確
で、ここにもっと切迫した雰囲気も欲しかった。

俳優たちはそれなりに雰囲気を出していて、なかなか良い感
じだった。ただ、西田敏行を3週連続で紹介することになっ
たのは、ちょっと驚きだが。他にこの年代で上手く存在感の
出せる俳優がいないのも事実なのだろう。

『アルゴ』“Argo”
2010年11月紹介『ザ・タウン』などのベン・アフレック監督
・主演による最新作。1979年に起きた在テヘランアメリカ大
使館人質事件。その際にカナダ大使公邸に逃げ込んだ6人の
アメリカ人を巡る、俄かには信じられない脱出作戦の全貌を
描いた実話に基づく作品。
事件の発端は、前国王のアメリカ入国に怒ったイランの民衆
が大使館になだれ込み、そこにいた52人を人質にとったとい
うもの。その直接の事件は1年以上を経て解決を見るが、実
は民衆がなだれ込んだ際に6人のアメリカ人が大使館を脱出
し、カナダ大使公邸に匿われていた。
しかしその事実が知れると、カナダ大使館は勿論、アメリカ
大使館に人質になってる人々にも危険が迫る。そこでCIA
は、密かにその6人を脱出させる作戦を立てるが…。
その計画とは、折からのSF映画ブームに目を付け、ハリウ
ッド製SF映画の偽計画を立てて、イランの荒野にロケハン
に訪れたスタッフとして6人を連れ出すというもの。そして
CIAは『猿の惑星』でオスカー受賞のジョン・チェンバー
スらに協力を求め、作戦をスタートする。
映画にはチェンバースは実名で登場し、Daily Variety紙に
載った実際の偽広告なども紹介されている。因にその偽映画
の題名が“Argo”というものだ…と、ここまでが今回の映画
の内容。
実はDaily Variety紙は数年前まで定期購読していて、そん
なことあったかと思い返してみたが、僕が購読をし始めたの
が1981年4月で掲載はそれ以前だった。しかし情報を探って
いくと、偽計画として立てられたのはロジャー・ゼラズニー
原作の“Lord of Light”だったことが判明。
その計画には『X‐メン』などのアーティストのジャック・
キルビーらも関っていて、コロラドにアミューズメントパー
クの計画もあったというもので、その話には何となく聞き覚
えもあった。ただし製作者バリー・アイラ・ゲラーの立てた
その計画が頓挫し、それがこの作戦に採用されたようだ。
他には映画には出てこないが、後には『E.T.』などに関る
メイクアップアティチストのボブ・シーデルらも作戦の主な
協力者だったとのことだ。因にチェンバースは、この作戦以
前からかなり有力なCIAの協力者だったそうだ。
それにしても、これはSF映画ファンにとてはかなり愉快な
話で、SF映画も意外なところで世間のお役に立っていたと
いうこと。まあ作品の中では「バカ映画」と呼ばれ続けてい
るが。

共演は、アラン・アーキン、ブライアン・クランストン、ジ
ョン・グッドマン(チェンバース役)。原作はジョシュア・
ベアマン、脚本はクリス・テリオ、製作にはジョージ・クル
ーニーが名を連ねている。
なお、字幕で『最後の猿の惑星』となっていたものが、エン
ドロールでは“Conquest of the Planet of the Apes”だっ
た。こちらの邦題は『猿の惑星・征服』だったはずで、その
点はちょっと気になった。


『ロックアウト』“Lockout”
リュック・ベッソン製作・脚本、ガイ・ピアース主演による
近未来スペースアクション。
物語の背景は2079年。舞台は宇宙空間に浮かぶとあるステー
ション。そこでは犯罪者たちが冷凍睡眠によってその刑期を
過ごしたいた。そしてその宇宙ステーションを大統領の娘が
訪問する。彼女の目的は、そのステーションを巡るある疑惑
を調査するものだったが…
調査のため冷凍睡眠から覚まされた犯罪者が突然彼女に襲い
掛かり、彼女を拉致した犯罪者は他の500人の冷凍睡眠を解
除、目覚めた犯罪者らによってステーションは制圧されてし
まう。この事態にCIAは、元捜査官の男をステーションに
潜入させる作戦を立てるが…
ピアース扮するこの元捜査官の主人公が濡れ衣を着せられて
いて、その無実の証拠を握る元仲間もステーションに収容さ
れている。そこで主人公は人質の救出と共に、元仲間の奪還
も目指すという展開だ。しかもそこには別のタイムリミット
も迫ってくる。
まあ、受刑者を眠らせてしまって刑期の意味があるのかとい
う疑問も湧くが、犯罪者で刑務所が満員という現状は、こん
な発想も生んでしまうのだろう。その他のタイムリミットの
設定などは、それなりに考えられていたものだ。

共演は、2009年6月紹介『96時間』などのマギー・グレイ
ス。他に、『タイタンの戦い』などのヴィンセント・リーガ
ン、2009年1月紹介『THIS IS ENGLAND』などのジョセフ・
ギリガンらが脇を固めている。
グレイスは、その後は『ナイト&デイ』などにも出演してい
たが、立派に育ったもので、次回作の『96時間』の続編も
楽しみになってくる。
共同脚本と監督はスティーヴン・レジャーとジェイムズ・マ
ザー。映画学校の同級生というコンビ監督で、今までは短編
映画で受賞歴があるようだが、本作はベッソンに見い出され
ての長編デビュー作品だ。
脚本的にはピアースの減らず口など楽しめたが、映像的には
もう少し宇宙空間らしいアクションシーンも欲しかった感じ
もする。でもまあ基本的には上映時間が96分程度の作品で、
その割には宇宙戦のシーンなどもそれなりにあって、これは
これで納得できる作品になっていた。


『駄作の中だけに俺がいる』
現代芸術家の会田誠の制作風景と人物を追ったドキュメンタ
リー。
会田は、1993年「巨大フジ隊員VSキングギドラ」や、1996年
「紐育空爆之図」などの作品で著名になり、近年はアメリカ
・ヨーロッパなどでも個展や作品の展示が行われている。
本作は、そんな会田が日本では実現できない大型作品の制作
のために、北京の住居兼ギャラリーで制作を続ける様子など
に密着し、会田自身の芸術への想いや、家族、仲間との生活
の様子を記録している。
それにしても、会田本人やその夫人らが、かなりサーヴィス
精神旺盛な人たちのようで、作品はほとんど嫌味なども感じ
られないものになっている。その中で、ある意味全精力を賭
けて自分の構想に立ち向かう会田の姿が描かれている。
因に作中で描かれているのは、「灰色の山」と「滝の絵」、
他にも2作ほどが写されているが、それらの絵を見るだけで
も価値が感じられる。しかもそこに会田がその絵に賭ける心
情などがモノローグのように挿入されている。
これは絵画制作のドキュメンタリーとしても堪能できる作品
になっていた。
その会田は、子供の頃はAD/HD(注意欠陥・多動性障害)
だったと自覚しているようだ。そして遺伝性とされるその障
害によって小学生の息子も学校を変らざるを得なかったとさ
れている。しかしその父親は子供の頃から絵画の才能を発揮
し、すでに息子もPC上で見事な3D絵画を制作する。
実は、後日に知的障害者のドキュメンタリーを観て、その障
害者についてもいろいろ考えさせられたが、障害の程度の差
はあるにせよ、その才能の方向によってもこうも違う人生に
なってしまうことにも、問題の難しさを感じさせた。
因に本作の後半に取材されている個展は、東京市ケ谷で開催
されており、実はその当時に前を通りかかって掲げられてい
たバナーに「何じゃコリャ」と思った記憶がある。案外身近
な場所で行われていたことにも驚いた。

なお、会田氏の次の個展は、今年11月17日から来年3月31日
まで六本木の森美術館で開催されるようで、約100点が展示
されるとのこと。東京国際映画祭の会期中でないのは残念だ
が、できたら観に行きたいと思ったものだ。

『ミラクル・ツインズ』“The Power of Two”
嚢胞性線維症(CF)という難病を持つ日系アメリカ人の女
性双生児の姿を追ったドキュメンタリー。
この難病について、日本のインターネットページで調べると
治療法には対処療法しかないように書かれているが、本作の
舞台であるアメリカでは、臓器移植による治療が一般的に行
われているようだ。その中心がスタンフォード大学であるよ
うにも描かれている。
そして登場するのは、アナベル・万里子とイサベル・百合子
という双子の姉妹。2人は名前が表す通り日系人で、母親が
日本人、父親がドイツ人の家庭に生まれるが、本来は日本人
には稀という遺伝性の病を、一卵性双生児であるために一緒
に発症してしまう。
しかし彼女らは、それぞれが1回及び2回の移植手術によっ
て、現在は極めて良好な健康状態を取り戻しているようにも
見える。そんな姉妹は、アメリカで「ミラクル・ツインズ」
と呼ばれているものだ。
そんな姉妹を追ったドキュメンタリーだが、映画を観るまで
は単純に手術を受けるまでの苦難などを描いた難病ものだろ
うと予想していた。ところが実際の作品は、難病の枠を超え
た移植医療の問題を扱っており、さらに移植医療の立ち遅れ
が著しい日本の問題が主に描かれた作品になっていた。
それは姉妹が日系人であったことにも拠りそうだが、そこで
は宗教の問題や、日本における移植医療の歴史的な経緯など
も紹介され、日本の移植医療が極めて特異な道を歩んだこと
も紹介されている。
またその中では、臓器提供者の父親が「アメリカではヒーロ
ーなんだよね」と言いながら、恐らく誹謗中傷の的にされた
のであろう姿や、何より来日の際に「日本人のドナーに会う
ことが楽しみ」と語っていた姉妹が、結局その面会シーンが
映画に登場しない辺に、問題の深さを感じさせたものだ。
その一方で、日本における政治的な動きとしては、自らが父
親への生体肝移植のドナーでもある河野太郎衆議院議員が登
場し、その取り組みも紹介される。その中ではようやく移植
関連法が改正されたことも報告される。因に河野氏は、僕が
応援しているサッカーチームの存続に尽力してくれた人で、
その登場には嬉しくも感じられた。

監督は、2度のオスカーノミネーターでカリフォルニア大学
などでも教鞭を取るマーク・スモロウィッツ。
なお本作の推薦者の中には、俳優ジャック・ブラックの名前
も挙がっていたようだ。

『エクスペンダブルズ2』“The Expendables 2”
2010年公開作品の続編。実は、前作の時は試写を観せて貰え
なくて、今回が初鑑賞となった。といっても物語は本作だけ
で充分に理解できたし、問題なく楽しめたものだ。
そのお話は、自ら消耗品(expendables)と名告る傭兵部隊
を中心に、まずはチベット国境ネパールにある反政府軍基地
からの富豪救出作戦で開幕し、そこで部隊メムバーの紹介も
行われる。そしてニューヨークに戻った彼らに、CIAから
有無を言わさぬ仕事が言い渡される。
それは、僻地に撃墜された輸送機からある品物を回収すると
いう彼らにとっては容易い仕事に見えたが、その作戦に1人
の女性の同行が命じられ、さらにその回収現場には、新たな
強敵が待ち構えていた。そしてその作戦は、世界に脅威を与
えるものになって行く。
というお話はあるが、それはまあ映画の展開の繋ぎのための
ようなもので、本作の見所は何といってもCGIに頼らない
肉体系のアクションと、新旧とさらに東西も取り混ぜたアク
ションスターたちの共演にある。

その出演者は、シルヴェスター・スタローン、アーノルド・
シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス。また、ジェイ
スン・ステイサム、ドルフ・ラングレン、ジェット・リー。
そしてチャック・ノリスにジャン=クロード・ヴァン・ダム
らの錚錚たる顔ぶれが登場する。
さらに今年7月紹介『ハンガー・ゲーム』のリアム・ヘムズ
ワース、2008年1月紹介『トゥヤーの結婚』などのユー・ナ
ン、前作『エクスペンダブルズ』に登場のランディ・クート
ゥア、テリー・クルーズ、2003年8月紹介『ブラックマスク
2』などのスコット・アドキンスらが脇を固めている。
CGIを駆使したVFXアクション全盛の時代に、肉体系の
アクションを注目させようという魂胆はよくわかる作品。そ
れはまあマシンガンなどで銃弾雨霰の中、主人公たちは全く
の無傷で敵だけが一発必中で倒されるなんていうのは、あれ
あれとも思ってしまうが、これがハリウッド映画なのだ。

原案と脚本は、2006年8月紹介『16ブロック』などのリチ
ャード・ウェンク、監督は、2007年4月紹介『ストレンジャ
ー・コール』などのサイモン・ウェスト、製作は、今年5月
紹介『コナン・ザ・バーバリアン』などのアヴィ・ラーナー
が担当している。

『ドリームハウス』“Dream House”
ダニエル・クレイグ、ナオミ・ワッツ、レオチェル・ワイズ
共演による心理サスペンス。
主人公は、多忙だった編集者の職を辞したばかりの男性。彼
は愛する妻と2人の娘と共に郊外の家に暮らしている。とこ
ろが娘の1人が窓から覗かれていると訴え始める。そこで家
を見回った主人公は、地下室に屯していた悪餓鬼たちから、
その家が一家惨殺事件の現場だったことを教えられる。
そこで事の真相を調べ始める主人公だったが、主人公の問い
掛けに町の人々は一様に口を噤んでしまう。そしてようやく
口を開いてくれたのは、向かいの家に住む女性だったが…。
そこには驚愕の事実が潜んでいた。

脚本は、1989年にクリストファー・ロイド主演で『ドリーム
・チーム』などの作品のあるデヴィッド・ルーカ。監督は、
1989年の『マイ・レフトフット』と1992年の『父の祈りを』
で連続オスカー候補になったジム・シェリダン。脚本はかな
り捻りの効いた見事なものだが、それを監督と上記の3人の
出演者たちが完璧に映像化している。
共演は、今年8月紹介『リンカーン/秘密の書』などのマー
トン・ソーカス、1997年『ガタカ』などのイライアス・コテ
ィーズ、2009年5月紹介『ターミネーター4』などのジェー
ン・アレクザンダー。
さらに主人公の2人の娘役に、2010年7月紹介『インセプシ
ョン』に出演のテイラー・ギアとクレア・アスティン・ギア
の姉妹。そしてもう1人の少し年長の少女役に、『デスパレ
ートな妻たち』にレギュラー出演のレイチェル・G・フォッ
クス。彼女と主人公の交わす台詞は出色のものだ。
この種の心理ドラマは、とかくトリッキーな展開が目を引く
が、本作ではその中に素晴らしい情感が込められている。特
に本来なら掟破りの展開が、ここでは物語に深みを与えてい
る面もあり、それは見事な脚本。オスカー脚本賞にもノミネ
ートされたシェリダン監督が惚れ込んだのも判る作品だ。
なおシーンによって2つの顔を見せる家のプロダクション・
デザインは、1981年『スキャナーズ』などデヴィッド・クロ
ーネンバーグ作品を手掛けるキャロル・スピアが担当。また
衣裳デザインも『スキャナーズ』などのデルフィーヌ・ホワ
イトが手掛けているのも注目だ。


『ファインディング・ニモ3D』
           “Finding Nemo/Partysaurus Rex”
2003年11月紹介のディズニー=ピクサーによるCGIアニメ
ーション作品が3D化され、3D劇場限定で再公開される。
物語については以前の紹介を見て貰いたいが、今回見直して
みると、一部の展開がかなりシビアなことに改めて気付かさ
れた。それはまあ当時も指摘はされていたが、10年前の僕は
まだディズニーのブランドで気にもしていなかった。
しかし今見ると、戦争に絡む表現などにはかなりの厳しさも
感じたものだ。その他にも現実を見詰める視線には、確かに
従来のディズニーとは異なるものが感じられた。でもまあ、
全体はディズニー調の冒険なのだが。
ということで今回は、それがさらに3D化もされているもの
だが、ハリウッドの特に後付けの3Dでは、どうしても奥行
き感が主体で前に飛び出してこないのは、いろいろあって難
しいのが現状のようだ。従って本作でもあまりこれはという
3D感は得られなかった。
これは、2008年4月13日付で報告しているように“Deep Sea
3D”をIMax-3Dで体験している僕としては物足りなくも感じ
てしまうところだ。でもまあその他の海中の景観はそれなり
に3D化されていたから、これは現状では満足しなければな
らないものだろう。

なお公開では、『レックスはお風呂の王様』“Partysaurus
Rex”という短編作品が併映される。こちらは人気の『トイ
・ストーリー』からのスピンオフで、いつもはちょっと間抜
けな感じの恐竜人形のレックスが、入浴用のおもちゃと共に
大活躍するというもの。ちょっとした才能が皆に大きな夢を
もたらすという展開は、社会的な側面を持った作品にも感じ
られた。

        *         *
 8月5日付で3部作になることを報告した“The Hobbit”
の映画化で3作の副題と全米公開日が発表された。
 それによると、まず来年12月13日に全米公開される第2部
の副題は“The Desolation of Smaug”となり、第3部の副
題が“There and Back Again”とされると共に、その全米公
開日は2014年7月18日になるとのことだ。
 またこの3部作では、撮影が通常の倍速の毎秒48齣の方式
で行われており、一部の劇場で方式に対応した上映が行われ
ると、特に3Dでは極めて滑らかな映像が観られる。それが
日本で観られるかどうか判らないけど、ディジタルならその
程度の対応は難しくはないはずで、是非とも日本でも実現し
て欲しいものだ。



2012年09月02日(日) スケッチ・オブ・ミヤーク、推理作家ポー、くろねこルーシー、火祭り、カハーニー、シャドー・チェイサー、みんなで一緒に、菖蒲、大奥2

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『スケッチ・オブ・ミヤーク』
ミュージシャンで、音楽プロデューサーでもある久保田麻琴
の原案・監修・出演により、沖縄県宮古島に伝承される古来
からの歌を記録したドキュメンタリー。
久保田は熊野古道を旅した時に伝承音楽に心を馳せ、同時に
宮古島の音楽について聞いたこともあって島を訪れる。そし
て島に伝承されてきた神を讃える歌に魅せられ、その記録を
始めることになる。
その歌は、以前は特別な神事の中だけで歌い継がれてきた。
そしてそれは、日本の圧政の許で誕生した当時の人々の魂の
叫びの意味も持つ。そんな歌が字幕付きで紹介される。
しかし島では歌を伝承する人も高齢となり、神事も途絶え、
その歌を伝承する機会も失われている。そんな中で、人伝て
に音楽を聞き出し、記録してゆく作業が続けられる。
そんな島と歌の関わりが、記録映像や古老たちの証言、そし
て感動的なコンサートの様子などと共に紹介される。
沖縄の人々と歌の繋がりでは、7月に沖縄本島が舞台の『歌
えマチグヮー』を紹介しているが、沖縄の人は本当に歌が好
きなようだ。
実は、個人的にも以前に勤めていた職場に沖縄出身の女性が
いて、彼女は宴会などで興が乗ると沖縄民謡を歌い踊ってく
れた。それはちょうど本作のクライマックスのような雰囲気
だった。そんなことも思い出させてくれた作品だ。

製作、監督、撮影、録音、編集は、大西功一。1991年と95年
にそれぞれ高田渡が出演する作品を発表しているが、本作は
16年ぶりの長編映画作品のようだ。
なお本作は、昨年のスイス・ロカルノ国際映画祭で「批評家
週間部門」に出品され、批評家週間賞と審査員スペシャルメ
ンションを受賞している。作品は歌と証言を綴っただけのも
のだが、その歌そのものに多大な価値のある作品だ。
作品には多数の宮古の歌手が登場するが、その殆どは80歳、
90歳の高齢で、その歌声が記録されただけでも貴重な作品。
中に1人だけ登場する少年には、しっかり頑張れと声を掛け
たくなる。そんな感じの作品でもあった。


『推理作家ポー最後の5日間』“The Raven”
1849年10月7日に謎の死を遂げた近世アメリカの詩人で作家
のエドガー・アラン・ポー。その謎に包まれた最後の5日間
を描いた作品。
物語の舞台は、アメリカ東海岸の港町ボルティモア。詩人で
作家のポーは、自身の作家としての出発点でもあるその街に
戻ってくる。しかしそこでポーは以前のトラブルを抱えてい
るようだ。そんなボルティモアの街で殺人事件が起きる。
被害者は母娘、現場は扉に内側から鍵が掛けられ、窓は釘で
打ち付けられた密室。その現場を見た刑事フィールズは、直
ちにそれがポーの推理小説「モルグ街の殺人」であることに
気付く、そしてポーが現場に呼ばれるが…。
そのポーは、実はボルティモアには文芸評論の掲載と相愛の
女性エミリーとの結婚の許可を求めてやってきていた。とこ
ろが編集者からは次の推理小説を要望され、婚約者の父親に
は結婚は許可しないと言われてしまう。
そんな時、第2の殺人事件が起き、さらに舞踏会から婚約者
が誘拐される。それらは全てポーの小説を模倣したものだっ
た。こうして「落とし穴と振り子」「仮面舞踏会に死がやっ
てくる」などのシーンが次々に再現される中、ポーの最後の
5日間の謎が解明されてゆく。

出演は、2011年6月紹介『シャンハイ』などのジョン・キュ
ーザック、2011年9月紹介『三銃士』などのルーク・エヴァ
ンス、今年5月紹介『MIB3』などのアリス・イヴ。他に
『POTC』のケヴィン・マクナリー、『デンジャラス・ラ
ン』のブレンダン・グリースンらが脇を固めている。
脚本は、2006年3月紹介『バイバイ、ママ』などのハンナ・
シェイクスピアと、元俳優のベン・リヴィングストン。監督
は2006年2月紹介『Vフォー・ヴェンデッタ』などのジェー
ムズ・マクティーグが担当した。
ポーの死の謎については、すでにいくつもの論考もあるよう
だが、本作の物語はその中でも最も大胆な作品と言えるだろ
う。何しろポーが自らの作品に基づく模倣犯と戦うのだ。そ
してポーの名作の数々がそこで再現されるのも、映画ならで
は醍醐味だ。
ただし、劇中ではポーが詩人らしくセリフで韻を踏んでいる
など洒落たシーンもあるが、それがほとんど字幕に反映され
ていないのは残念だった。他にも台詞には、ニヤリとするも
のが散りばめられていたようだ。


『くろねこルーシー』
昨年5月紹介『犬飼さんちの犬』に続くおっさんとペットの
交流を描いたシリーズの新作。このシリーズは基本的にtvk
などのUHF局ネットで放送されているテレビドラマからの
派生作品となっているが、今回はちょっと捻ってある。
物語の主人公は、子供の頃の教えで黒猫に恐怖心を持つ中年
男性。彼は人生の節目で嫌なことがある前に黒猫と出会って
いた。そんな彼は占い師を生業としていたが、風采の上がら
ない彼の前にはほとんど客も来ない。
そんな彼の家の前で2匹の黒猫が産み落とされる。それは彼
には迷惑至極だが、心優しい彼には見捨ててはおけないもの
だ。そして否応なく2匹と暮らすようになった主人公に転機
が訪れる。
物語の流れはシリーズどの作品もほぼ同じようなものだが、
そこに幼気な仔猫の姿が挿入されることでペット好きには堪
らない作品になっている。
因に以前のプレス資料で、制作者たちは「ペットを可愛く撮
ることはしない」とのコンセプトを掲げていたが、こればか
りはどうしようもない。本作もそんな感じだ。

主演は、2008年8月紹介『ハンサム★スーツ』などの塚地武
雅。意外と単独主演は始めてだそうだ。他に、安めぐみ、大
政絢、濱田マリ、生瀬勝久、佐戸井けん太、住田隆、つみき
みほ、それに山本耕史、京野ことみらが脇を固めている。
それに黒猫は、ジャックと、スモーク&モア、クマ&オハギ
の5匹によって演じられているが、この内のジャックは、大
河ドラマ「平清盛」にも出演のタレント猫だそうだ。

監督は『犬飼さんちの犬』などの亀井亨、企画と脚本も『犬
飼さんちの犬』などの永森裕二が担当している。
黒猫が前を横切ると悪いことが起きる、という迷信に関して
は、僕はテックス・アヴェリーの無茶苦茶なアニメーション
“Bad Luck Blackie”を思い出す世代だが、監督たちはどう
なのだろう。それで、魔女の遣い何ていう説明がつけられて
いるのだろうが、それだと『魔女の宅急便』のキキも思い出
してしまう訳で、なかなか難しいものだ。
でもまあ、そんな昔話もできるのはそれなりに楽しいもの。
今回はテレビシリーズとの関係も少し捻ってあったようで、
こんな感じでこれからも続けていって欲しいシリーズとは言
えそうだ。


『火祭り』“چهارشنبه ‌سوری”
9月14日〜23日に福岡で開催される「アジアフォーカス・福
岡国際映画祭」で上映される作品の1本。
今年6月紹介『これは映画ではない』でも描かれていたイス
ラム暦の大晦日(西暦では3月20日前後のようだ)に行われ
るイランの火祭りを背景にした物語。
主人公は結婚を控えた若い女性。彼女は結婚資金を得るため
に日雇いのハウスキーパーに応募し、とあるアパートにやっ
てくる。ところが行くべき部屋のインターホンが故障で、や
むなくお隣から電話を入れてもらう。
そして訪問したのは部屋の片付けが全く出来ていない夫妻の
部屋。その部屋で仕事を続けて行く内、彼女は徐々に夫婦の
問題に関って行くことになる。それは主人の浮気に原因があ
るようだった。
その日は大晦日、町では火祭の爆竹が鳴り響き、道路には焚
き火がそこかしこに燃え盛っている。そして人々は明日から
の正月休暇の旅行に思いを馳せているが…。主人公だけが知
る秘密が、彼女を思い悩ませる。
イスラム原理主義が幅を利かせ、主人公もチャドルをしなけ
れば街を歩けない。そんな風土の中で男尊女卑や女性の地位
向上など、いろいろな側面がシリアスやユーモアを巧みに織
り交ぜて描かれている。

今年2月紹介しアカデミー賞外国語映画賞に輝いた『別離』
のアスガー・ファルハディ監督による2006年作品。受賞作と
同様のイスラム国家の今が描かれている。しかも本作では、
物語の展開を1日に限定しているところも面白かった。


『カハーニー/物語』“कहानी”
9月14日〜23日に福岡で開催される「アジアフォーカス・福
岡国際映画祭」で上映される作品の1本。
プロローグはコルカタの地下鉄で起きた無差別テロ。そして
2年後。そのコルカタの空港に臨月を思わせるお腹を抱えた
女性が降り立つところから物語は開幕する。彼女は1ヶ月前
に現地に赴任し、音信の途絶えた夫を捜しに来ていた。
ところが夫が勤務していたはずの会社には在籍の痕跡すらな
く。警察に行っても全く手がかりは得られない。そこで彼女
は、夫が宿泊していたはずの下町のホテルに居を構え、彼女
に親切にしてくれる警官と共に捜査を開始する。
彼女の持つ唯一の手段は、夫と彼女を写した1枚のスナップ
写真。その写真からは夫がある事件の容疑者に似ていること
が判明する。しかしそこには巨大な陰謀が隠されていた。そ
して彼女の接触した人物が次々に殺され始める。
インド映画ではあるけれど歌も踊りもない作品。しかし2時
間3分の上映時間では、たっぷりとしたミステリーとサスペ
ンスが描かれる。しかも構成が緻密で、最後に全ての謎がぴ
たりと収まるのには、久々に醍醐味も感じられた。
因に原題はヒンディ語で「物語」そのものだそうで、正しく
そう言う感じの「お話」が展開されるものだ。

脚本と監督はスジョイ・ゴーシュ。2009年の“Aladin”とい
う作品ではインドのアカデミー賞で3賞を受賞したようで、
今年公開の本作でも受賞が期待できそうだ。
        *         *
 なお「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」では、この他
にアジア作品17本と、ファルハディ監督作品は全作5本、さ
らにその他の作品が上映される。中には『時空の扉』という
中国製のタイムトラヴェル物もあるようで、これらの作品が
東京でも一般に見られることを期待したい。

『シャドー・チェイサー』“The Cold Light of Day”
ブルース・ウィリス、シガニー・ウィーヴァーの共演による
アクション・ミステリー。
主人公はアメリカ人の青年。彼は自ら経営する会社から休暇
を取り、大使館勤務の父親の関係でスペインで暮らす両親の
許を訪れる。そこには弟とその恋人も来ていた。そんな主人
公と父親の間には確執もあるようだ。
それでも5人揃って父の操縦するヨットで沖に出ていた時、
主人公のミスで弟の恋人が負傷してしまう。そこで主人公は
単身で薬を買いに海岸に泳ぎ渡るのだが、彼が海岸に戻った
とき、沖に停泊していたはずのヨットが消えていた。
そして、現れた父親は主人公に緊急事態を告げ、彼に協力を
求めるが…。それは彼を、国際テロ集団も絡む陰謀に巻き込
んで行くことになる。

主演は、2011年11月紹介『インモータルズ』などのヘンリー
・カヴィル。他に、スペイン・マドリード生まれで、2009年
ヨーロッパ映画でシューティング・スターの1人に選ばれた
ヴェロニカ・エチェギ。彼女は初の英語作品となる。そして
2011年7月紹介『この愛のために撃て』などのロシュディ・
ゼムらが脇を固めている。
監督は、2008年11月紹介『その男ヴァン・ダム』などのマブ
ル・エル・メクリ。脚本は、2009年11月紹介『監獄島』では
監督、脚本も務めていたスコット・ワイパーと、テレビシリ
ーズを数多く手掛けるジョン・ペトロ。製作は今年8月紹介
『デンジャラス・ラン』などのトレヴァー・メイシーとマー
ク・D・エヴァンスが担当している。
物語は、かなり荒唐無稽ではあるのだけれど、結構細かいと
ころにまで気が使われていて、それは丁寧に作られた作品だ
った。また結末は今のアメリカ映画にしては大胆で、どちら
かというとヨーロッパ映画の雰囲気になっている。
因に映画の国籍は、データベースではアメリカ=スペインの
合作となっているが、公開はヨーロッパが先行で、アメリカ
では9月7日から限定公開と告知されている。そうした方が
良いかなと思わせる面もある作品だ。
そして映画は、マドリードの太陽の門やラス・ベンタス闘牛
場、マイヨール広場、さらにバレンシア州の海岸や港町など
美しいスペインの風景も楽しめる作品にもなっている。


『みんなで一緒に暮らしたら』
“Et si on vivait tous ensemble?”
ジェーン・フォンダ、ジェラルディン・チャップリンの共演
で、老境を迎えた男女の姿を描いた作品。
登場するのはアルベールとジャンヌ、ジャンとアニーの2組
の夫婦と1人者のクロード。5人は40年来の友人同士で、そ
んな彼らがアニー夫妻の家に、クロードの75歳の誕生祝いに
集まっている。
そして彼らはワインなどで乾杯するのだが、一抹の不安は最
近クロードが心臓発作で倒れたことだ。そのクロードは無類
の女好きで、そんな行動を心配する息子は父親を老人ホーム
に入れることを画策している。
一方、ジャンヌは病院での検査結果から自分の余命が短いこ
とを知るが、最近痴呆気味の夫アルベールには、検査結果は
問題なかったと答えてしまう。またジャンは、長年続けてき
たNPOの活動を高齢を理由に断られたと憤っていた。
そしてクロードが若い女性とのデート中に倒れ、息子に老人
ホームに入れられてしまう。それを見舞った友人たちは、彼
を脱走させ、アニー夫妻の家で共同生活を始めることにする
が…。そこには思い掛け無い落とし穴も待っていた。

1972年『コールガール』と1978年『帰郷』で2度のオスカー
主演女優賞に輝くフォンダは、1972年『万事快調』以来のフ
ランス映画出演だそうだが、その前には当時夫だったロジェ
・ヴァディム監督の1968年作品『バーバレラ』にも主演して
いたものだ。
またチャップリンは、最近では2006年2月紹介『ブラッドレ
イン』や2010年2月紹介『ウルフマン』などにも出演してい
たが、2008年9月紹介『永遠の子供たち』ではスペイン俳優
組合賞を受賞したそうだ。
他には、2009年7月紹介『幸せはシャンソニア劇場から』な
どのピエール・リシャール、2003年10月紹介『ミッション・
クレオパトラ』などのクロード・リッシュ、2009年2月紹介
『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』などのギイ・ドブス、
それに今年7月紹介『セブン・デイズ・イン・ハバナ』など
のダニエル・ブリュールらが共演している。
自分もそういう年代に差し掛かってきて、老いを迎えること
の難しさはだんだん身近にも迫ってきている。恐らく映画に
も、これからこういう作品は増えてくるのだろうが、映画で
それを学ばせて貰えるのも有難いことだ。


『菖蒲』“Tatarak”
ポーランドの名匠アンジェイ・ワイダ監督による2009年の作
品。「尼僧ヨアンナ」の原作者ヤロスワフ・イヴァシュキェ
ヴィッチの短編に基づく本作は、2011年ベルリン国際映画祭
での受賞も果たしている。
映画は3重の構造を持っている。その1つ目はプロローグに
もなっている女優クリスティナ・ヤングのモノローグ。2つ
目は短編小説「菖蒲」を映画化したドラマの部分。3つ目は
そのドラマの撮影風景。そして映画では、表裏となる人の生
と死を見つめた物語が描き尽くされる。
原作に基づくドラマは、ポーランドの小さな町での物語。主
人公はその町で開業する医師の妻。最近妻の体調が優れない
ことを心配した医師は自ら妻を診察し、その余命が短いこと
を知る。しかし医師はそのことを妻に告げられない。
そんな彼女は船着場のカフェで1人の青年に目を惹かれる。
その青年には恋人がいたが、次の日、主人公は青年に声を掛
け、恋人に対する彼の不満などを聞いてしまう。こうして青
年と付き合い始めた主人公は、彼の中に自分の失った生命の
輝きを見い出すが…
ドラマのクライマックスの撮影の時、女優はそのシーンに自
らの体験を重ね合わせて動揺し、現場を逃げ出してしまう。
ドラマにも主演したクリスティナ・ヤングは、夫でワイダの
長年の撮影監督でもあったエドヴァルト・クウォシンスキを
病で亡くしたばかりで、映画はそんな女優の心情も反映した
作品になっている。
そしてドラマには、原作には描かれていないワイダには永遠
のテーマである別の死の物語なども織り込んで、死とそこに
残されたものの姿を描き切っている。

主演のヤングは、ワイダ監督の『大理石の男』『鉄の男』な
どにも出演。青年役のパヴェウ・シャイダはニューヨークの
舞台にも立つポーランド系アメリカ人。主人公の夫役のヤン
・エングレルトは、ワイダ監督の『地下水道』や『カティン
の森』などにも出演している。
また本作の撮影監督は、今年1月紹介『おとなのけんか』や
2011年7月紹介『ゴーストライター』などロマン・ポランス
キ監督作品も手掛けるパヴェウ・エデルマンが担当した。
かなり凝った構成の作品だが、映画を観ているときは解り易
く。さすが名匠の作品という感じだった。


『大奥〜永遠〜』
2010年9月紹介『大奥』でスタートしたよしながふみ原作・
シリーズの第2作。前作は八代将軍吉宗の時代を描いたが、
今回は五代将軍綱吉の時代。ただし本作の公開前にテレビで
三代将軍家光の時代を描いた作品も放送されるようだ。
そして本作の物語は、男女逆転=女将軍に仕える大奥3000人
の男たちが織り成す。そこに今回登場するのは、京都の公家
出身の右衛門佐。彼は御台所・信平の指金で大奥に来るのだ
が、その時の大奥は綱吉の父である桂昌院と御台所の対立に
揺れていた。
というのも、綱吉と正室である御台所の間には子がなく、桂
昌院の側近の伝兵衛が世継ぎとなる松姫を設けていた。そこ
で右衛門佐には新たな世継ぎの必要も説かれていたが…。や
がて松姫が病死し、綱吉の乱心のによる悪政が開始される。
そしてその陰で、右衛門佐は虎視眈々と自らの地位を向上さ
せる機会を狙っていた。
綱吉は犬公方とも呼ばれる「生類憐みの令」などの悪政で有
名だが、その原因や本人の心情などが描かれる。それは勿論
男女逆転の設定なので史実とは異なったものになるが、本作
ではそこに見事なフィクションが展開されるものだ。
いやあ、それにしても男女逆転という発想だけでここまで物
語がドラマティックになるとは、このアイデアにますます脱
帽したくなる作品だった。

出演は、菅野美穂、堺雅人。他に尾野真千子、西田敏行、要
潤、宮藤官九郎、柄本佑らが脇を固めている。
監督は前作『大奥』も手掛けた金子文紀。監督はテレビ版の
『大奥〜誕生〜』も担当している。そして脚本は、昨年12月
紹介『ウタヒメ』などの神山由美子が担当。神山もテレビ版
を担当している。
なおテレビ版の出演は多部未華子。そして相手役には堺雅人
が続けて出演する。因に堺の役柄は原作にも瓜二つと書かれ
ているそうで、性格的には正反対とされる2役を堺は演じて
いるようだ。


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井口健二