井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2009年09月27日(日) ASSAULT GIRLS、ホワイトアウト、ゼロ年代全景+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ASSAULT GIRLS』
2008年5月に紹介した『スカイ・クロラ』押井守監督による
2001年『アヴァロン』以来となる長編実写作品。『アヴァロ
ン』と同じく仮想現実のゲーム世界を描く。因に本作の舞台
となるゲーム世界はAvalon(f)と名付けられている。
また、本作に先行して押井監督は、2007年10月紹介の『女立
喰師列伝』で「ASSAULT GIRL」、2008年11月紹介の『斬』で
は「ASSAULT GIRL 2」という作品を発表しており、本作はそ
の集大成となるもののようだ。
物語の舞台は荒野を模した仮想空間。その荒野には砂地を潜
行する巨大モンスター=スナクジラがいて、プレイヤーたち
はそのモンスターを倒すことによって現実世界でも通用する
賞金が得られるものだ。
その荒野に4人のプレイヤーが挑んでいた。グレイ、ルシフ
ァ、カーネル、そしてイェーガーと名告る彼らは、それぞれ
が独自の戦法や装備で次々にモンスターを倒していたが、そ
のステージ最大のモンスター“マダラ”を倒すことができな
い。
その“マダラ”を倒せば、プレイヤーは巨額の賞金を手にす
ると同時に、さらなる高みのステージへと進むことができる
のだ。そしてゲーム全体を監視するゲームマスターからは、
彼らにチームを組むことが提案されるが…

このプレイヤーたちを、2007年作の佐伯日菜子、2008年作の
菊池凛子、そして新たに黒木メイサ、さらに押井作品には常
連の藤木義勝が演じ、特に女優3人は体形にピッタリのボデ
ィスーツに身を包み、召還獣や戦闘機、また自らの翼などを
駆って闘いを繰り広げる。
『アヴァロン』の時は現実世界のとの繋がりがいろいろあっ
て、その辺で多少の混乱が見られたが、今回はそのような部
分は一切なし。まあ台詞ではちょっとあったりはするが、ま
ず純粋にゲーム世界での物語が構築されている。
押井監督自身は、最終的には『LOTR』のような壮大な異
世界ファンタシーを撮りたいとのことで、本作はその準備の
一環でもあるようだ。そして本作をクリアできれば、映画製
作も次のステージに進めるというところかも知れない。
描かれているゲーム自体には、今年4月12日付で報告してい
る『ワンダと巨象』に似たような印象も受けたが、計画され
ている同作の映画化が公開されたら、それとの比較もしてみ
たいものだ。

『ホワイトアウト』“Whiteout”
南極点に建つアムンゼン・スコット基地を舞台に、極限状況
の地で起きた殺人事件の顛末を、『アンダーワールド』など
のケイト・ベッキンセール主演で描いた作品。
主人公は米国所管の基地に派遣されている女性保安官(US
マーシャル)。彼女はとあるトラウマからその厳しい任地に
赴いていたが、その任務は泥酔者の処理など平凡でつまらな
いものばかり、しかしその任期も終盤に近づいていた。
そんな現地では暴風の襲来が予報され、帰国の最終便が繰り
上げられることになる。ところがそこに遺体発見の報告が届
き、帰国の準備も片手間に現場に向かった彼女は、それが殺
人事件の被害者であることを確認する。
果たして彼女は事件を解決して帰国便に乗り込むことができ
るのか。さらに事件の報告を受けて基地司令からは基地の全
員に対する退去命令が下され、それは乗り遅れた場合には孤
独な越冬を強いられることを意味していた。
原作はOni Pressという出版社から刊行されたグラフィック
ノヴェルとのことで、お話自体はかなり荒っぽいが、見た目
のハラハラドキドキ感はかなり見事に描かれている作品だ。
特に極限状態の南極の恐ろしさはかなり強烈なものだった。
何しろ手袋を忘れたら手を失い、防寒具なしでは数分で死に
至るという極限状態でのアクションドラマ。しかも撮影は、
さすがに南極点の現地ロケではないものの、カナダのマニト
バ州ギムリという南極と負けず劣らずの極寒の地にセットを
建設して行われている。
共演は、2008年『キャデラック・レコード』のコロンバス・
ショート、2003年『リクルート』のガブリエル・マクト、そ
して1979年『エイリアン』のトム・スケリット。1癖も2癖
もある顔ぶれが賑やかだ。
製作は、『マトリックス』などのジョール・シルヴァ。彼自
身が設立したダーク・キャッスルの作品だが、元々はホラー
専門で設立されたプロダクションは、最近ではいろいろな分
野のアクション映画に守備範囲を広げているようだ。
監督は、そのシルヴァとは2001年『ソードフィッシュ』でも
組んでいるドミニク・セナ。ミュージックヴィデオやコマー
シャルでの評価も高い監督が今回もスタイリッシュなアクシ
ョンを展開している。
物語は、ほとんどの手の内は晒された状態で進むので先を読
む必要もあまり無く、その時々のアクションを重視したもの
になっている。極めて判りやすい作品と言えそうだ。

『ゼロ年代全景』
今年2009年は、後世ゼロ年代と呼ぶときの最後の年になると
いうことで、そのゼロ年代をいろいろな角度から描いた3本
の中編がまとめて公開される。
「茜さす部屋」
30歳を迎えようとしている女性の物語。同棲している男性は
作家志望のプーで、生活は彼女が派遣の仕事で得ている賃金
に頼っている。そんな女性を取り巻く環境がいろいろと綴ら
れて行く。そして彼女は、子供を授かることで生活が変えら
れると思いつくが…
「FROG」
異常気象で雨が降らなくなってしまった世界。そこには雨乞
いを主張する奇妙な宗教が登場し、人々の生活も狂い始めて
いる。そんな世界が、発表目的の無い写真家や海に塩を撒き
続ける男、その男を支える女性、リサイクル業者の男性など
を通じて描かれて行く。
「ブーケガルニ」
1本のスクープ記事が生み出した出来事、それはそこに関わ
った人々の生活を根底から突き崩し、またその記事を書いた
記者の人生も変えてしまった。それから3年が経ち、主人公
の新米記者はその事実関係を検証しようとするが…
披露試写会でのそれぞれの監督の挨拶によると、それぞれは
独立して製作された作品で、製作時にはゼロ年代を描くとい
う意識はあまり無かったようだ。しかし今回3本を通して観
ると、確かにここにはゼロ年代が描かれている…そんな気に
もなる作品群だった。
ゼロ年代と言われても、僕のような年になると、ただ普通に
過ぎてしまった10年間でしかないが、その時期に多感な時を
過ごした人たちにはそうではないのだろう。そしてこの3本
は、ちょうどその時代に20代前半を過ごした人たちの手で作
られている。
取り上げられている事象は、女性の幸せから社会問題までと
さまざまで、それぞれは時代に関わらないものかも知れない
が、ゼロ年代というフィルターによって何か違うものが観え
てきているような部分もあり、興味深い作品だった。
なお、3本は中編として完成されているが、「茜さす部屋」
はもっとコメディに、「FROG」はもっとアヴァンギャル
ドに、「ブーケガルニ」はもっと個々の人物の心理を掘り下
げれば、それぞれが1本立ての長編作品になるようにも思え
た。
        *         *
 ここのところ紹介する映画が多くて製作ニュースをあまり
書けなかったが、今回は連休も絡んで試写が少なかったので
少しまとめて紹介しておこう。
 まずは続報で、8月9日付でも紹介している“The Green
Hornet”の敵役となるLAマフィアのボスに、“Inglorius
Basterds”でナチ将校を演じてカンヌ映画祭の男優賞を獲得
したオーストリア人俳優クリストフ・ワルツの出演が発表さ
れた。この配役は当初ニコラス・ケイジにもオファーされて
いたものだが、条件面での折り合いが着かなかったようで、
事前にキャンセルが発表されていた。
 従ってワルツはその代役ということになるが、カンヌの受
賞を引っ提げての登板なら誰にも文句は言わせないだろう。
一方、主人公の恋人役を演じるキャメロン・ディアスは契約
されたようで、ミシェル・ゴンドリー監督の許、セス・ロー
ゲン、ジェイ・チョウらと共に新シリーズの開幕を目指す製
作がスタートされそうだ。
 なお、本作の全米での公開日は当初予定された来年夏から
下がって2010年12月10日になったようだが、この同じ日には
ディズニーから1982年作の続編と言われる“Tron Legacy”
の公開も予定されており、週末トップの座を巡る争いは熾烈
になりそうだ。
        *         *
 続いては続編の話題をいくつか。
 まずは、2008年に公開されて全世界で6億ドル越えの興行
を達成したウィル・スミス、シャーリズ・セロン共演のスー
パーヒーロー・コメディ『ハンコック』(Hancock)の続編
が計画されている。
 この情報は、前作を監督したピーター・バーグがトロント
映画祭の席で発言したものだが、それによると、「スミス、
セロン、それにPRマンを演じたジェイスン・ベイツマンの
再共演はある」とのことだ。また脚本は『24』などを手掛け
るアダム・フィエロと、フィエロ製作の人気シリーズ“The
Shield”などのグレン・マザラが執筆中。物語は厳秘とのこ
とだが、どうやらハンコックがスーパーパワーを失っている
状態から始まるようだ。
 ただし現状では脚本は未完成で、このため監督の発言とは
裏腹に主演者たちとの出演契約も結ばれていない。従って、
製作会社のソニー/コロムビアからも公開予定などの情報は
流されていないが、上記の大ヒットなら出演交渉が大変でも
やらざるを得ないというのがハリウッドの観測のようだ。
        *         *
 お次もコロムビアからで、2007年の公開で1億ドル越えの
興行を記録したニコラス・ケイジ主演『ゴーストライダー』
(Ghost Rider)の続編の脚本を、1998年に始まった『ブレ
イド』シリーズなどのデイヴィッド・ゴイヤーに依頼してい
ることが発表された。
 因に、ゴイヤーは前作にも関わっていたが、その肩書きは
製作総指揮で、脚本は監督を務めたマーク・スティーヴン・
ジョンスンが担当していた。その際にゴイヤーが脚本に口を
挟んだか否かは明らかではないが、続編ではそれが正式に依
頼されているものだ。それに前作では、地獄の使者との闘い
など設定を語るのが精一杯で、本来の物語やアクションには
物足りない感じもしたが、ゴイヤーがその辺をどのように修
正してくるかも楽しみだ。
 ただしこの計画は、まだ本当に初期段階で今後の製作スケ
ジュールも全く公表されていない。とは言うものの、実は本
作はマーヴェル・コミックスを原作としているもので、9月
6日付で紹介したディズニーによる同社の買収により、もし
かすると映画化権が回収される恐れもあるとのこと。それを
回避するためには、映画会社側は継続的に続編の計画を打ち
出す必要があるとのことで、今後はマーヴェル案件を抱える
他の各社にもこの動きは波及しそうだとのことだ。
 ディズニー/マーヴェルからも新作は登場するだろうし、
この動きが波及すると、ここ数年はマーヴェルヒーローの活
躍がさらに頻繁になることは間違いない。
 と言うことでそのマーヴェルヒーローの活躍では、2010年
には“Iron Man 2”などが予定されているが、さらに2011年
になると、まず先に報告した“Spider-Man 4”の全米公開が
5月6日に決定したのに続いて“Thor”が6月17日、“The
First Avenger: Captain America”が7月22日の公開とされ
ており、丁度1カ月と1週間おきの連打を浴びせる計画。こ
の他にも『X−メン』のスピンオフなどもあり、正に大攻勢
という感じになりそうだ。
 キャラクターなど権利の王国とも言われるアメリカだが、
1社の権利でこれだけ動くのは、ハリウッドの100年を越え
る歴史の中でも希有なことと言えるだろう。
        *         *
 ところで上記“Iron Man 2”の全米公開は、来年5月7日
に予定されているものだが、同作を手掛けるジョン・ファヴ
ロー監督と主演ロバート・ダウニーJr.が、2007年7月1日
付第135回で報告したドリームワークスとユニヴァーサルに
よるコミックスの映画化“Cowboys and Aliens”にも興味を
示していることが報告された。
 この計画は、今回Varietyの報道によると、大元は1997年
にユニヴァーサルとドリームワークスで立上げられ、その後
2002年の頃にはコロムビアとエスケープアーチスツが映画化
権を獲得、しかし2007年にその権利が失効して、第135回で
報告したように再度ドリームワークスとユニヴァーサルが権
利を掌握していたものだ。ただし当時のドリームワークスは
パラマウントの傘下にあったので、今回の計画でも米国内の
配給権はパラマウントが得ているようだ。
 という計画になるが、今回の製作にはユニヴァーサル傘下
のイマジン・エンターテインメントからブライアン・グレイ
ザーとロン・ハワードが名を連ねており、ドリームワークス
のスティーヴン・スピルバーグと豪華なタッグを組むことに
もなっている。
 その計画にファブロー/ダウニーが参加するものだが、ダ
ウニーには昨年夏に主演の打診があり、その線からファブロ
ーにも話が進められたようだ。ただしファブロー/ダウニー
にはすでに“Iron Man 3”の計画が提示されており、そのス
ケジュール調整が必要になるが、実は“Iron Man 3”もアメ
リカ配給はパラマウントが行っているもので、その辺の調整
は簡単に行えることになりそうだ。
 脚本は、“Star Trek 2”にも起用が決まっているアレッ
クス・カーツマン、ロベルト・オッチ、それに人気シリーズ
“Lost”も手掛けるデイモノ・リンドレフがすでに再稿まで
仕上げており、動き出せば実現は早そうだ。
 因にダウニーJr.には、ワーナーから12月に全米公開され
る“Sherlock Holmes”の続編の計画も早くも報道されてお
り、『アイアンマン』公開時の来日記者会見で「初めて脚光
を浴びた」と嬉しそうに語っていた俳優はますます忙しくな
りそうだ。
       *         *
 さらにシリーズの情報も紹介しておこう。
 その1つ目は、昨年6月1日付第160回で報告したサミッ
ト・エンターテインメントが“Highlander”の権利を獲得し
た件の続報で、その映画化を担当する製作者と監督に、今春
公開された『ワイルド・スピードMAX』を手掛けたニール
・H・モリッツとジャスティン・リンの起用が発表された。
 オリジナルは、1986年にラッセル・マルケイ監督、クリス
トファー・ランバート、ショーン・コネリー共演でスタート
したファンタシー・シリーズで、過去から現在、そして未来
にも続く不死者たちの闘いが描かれていた。そのリメイク権
をサミットが獲得し、すでに脚本を『アイアンマン』のアー
ト・マルカムとマット・ホロウェイが契約したことも発表さ
れていた。
 その計画にさらに製作者と監督が決まったものだが、製作
者のモリッツといえば、『トリプルX』のシリーズを始め、
『スティルス』や『アイ・アム・レジェンド』など、大作の
SFアクションを大量に手掛けている人物でもあり、その参
加は新たなファンタシー・シリーズを展開する上でも重要な
ポイントになりそうだ。なお製作者には、オリジナルを手掛
けたピーター・デイヴィスも名を連ねている。
 製作状況は、現在は脚本の執筆中とのことで、それが完成
したらキャスティングなどの製作がスタートされることにな
るものだ。
        *         *
 シリーズの話題の2つ目は、昨年5月15日付の第159回で
記者会見の報告として紹介したシルヴェスター・スタローン
主演『ランボー』の第5作が本当に動き出した。
 その内容は、第159回の報告で述べた通りの合衆国−メキ
シコ国境における麻薬組織が関与した若い女性の拉致事件を
追うものになるようだが、実はこの作品の報道の中で一部に
かなりファンタスティックな展開もありそうだとの情報が流
されている。
 その情報を流しているのはAin't It Cool Newsというファ
ンタシー系の映画サイトで、それによると第5作でジョン・
ランボーが戦う相手は知能を持った凶悪な獣。今までの敵も
生身の人間という状況とは少し変わったものになるようだ。
そしてその物語の構築用に、スタローンはジェイムズ・バイ
ロン・ハギンズ原作のモンスター小説“Hunter”(邦訳題:
極北のハンター)の権利を獲得したとの情報もあるとしてい
る。
 さらにその題名は“Rambo V: The Savage Hunt”となって
いるもので、先日のトロント映画祭で公表されたポスターで
は、確かにランボーの背後に凶悪そうな獣がいるという図柄
も紹介されていた。この図柄からだと、1987年にアーノルド
・シュワルツェネッガー主演で映画化された『プレデター』
を思い出すという意見もあるようだが、さてどうなるのだろ
うか。
        *         *
 今回の製作ニュースでは、前半でマーヴェルコミックスの
情報をいくつか紹介したが、対抗するDCコミックスにも新
たな動きが出ている。
 元々DCは映画会社のワーナーと兄弟会社の関係にあり、
『バットマン』『スーパーマン』などもワーナーで映画化さ
れてきたが、さらにこの度のマーヴェル/ディズニーの動き
を受けて、ワーナーから『ハリー・ポッター』シリーズなど
を手掛けたダイアン・ネルスンが投入され、映画製作に梃入
れが図られるとのことだ。
 実際、DC/ワーナーでは2008年『ダーク・ナイト』は大
成功を納めたものの、2006年『スーパーマン・リターンズ』
の続編は頓挫しているなど、本来ならマーヴェルに勝るキャ
ラクターの宝庫が充分に活用できていない状況で、その見直
しとさらには新たなキャラクターの発掘も目指してのネルス
ンの投入となったようだ。『ハリー・ポッター』を大成功に
導いた手腕に期待したい。
 と言う状況だが、実はこの動きにはとばっちりを受ける作
品も出てきてしまったもので、今年2月1日付第176回で紹
介した玩具メーカー・マテル社のキャラクターを映画化する
“He-Man: Masters of the Universe”の計画がキャンセル
されてしまった。
 これは、DCの集中しようとする本社の意向にワーナーと
専属契約を結ぶ製作者のジョール・シルヴァが従ったものだ
が、同様のスーパーヒーローの乱立は避けたいという考えな
のだろう。しかし、『カンフー・パンダ』などのジョン・ス
ティーヴンスン監督はそれには縛られないようで、マテル社
と監督は新たな製作会社を求めて、めでたくコロムビアで製
作されることも発表された。また製作プロダクションには、
『サブウェイ123』などを手掛けるエスケープ・アーチス
ツの参加も発表されて、万全の体制が敷けたようだ。
 ディズニーによるマーヴェルの買収は4億ドルと言う巨額
なものだったが、その影響も計り知れなく大きなものになり
そうだ。



2009年09月20日(日) ブラック会社…限界、谷中暮色、海角七号、スペル、バカは2回海を渡る、きみがぼくを見つけた日、倫敦から来た男、戦慄迷宮(追記)+他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ブラック会社に務めているんだが、もう俺は限界かもしれ
ない』
黒井勇人原作のブログ小説の映画化。高校中退で引き籠もり
だった男性が母親の死を切っ掛けにネット生活で得たプログ
ラマの資格(国家試験だそうだ)を手に中小のIT会社に勤
めるが…
舞台挨拶付きの試写会を観に行ったが、会場で配られたブラ
ック会社の査定表を何気なくチェックしていたら、以前に務
めていた職場が、厳しく査定すると黒に近いグレー会社であ
ったことが判明した。
物語の背景となっているIT業界に限らず、会社勤めという
のはある程度の試練を伴うものだし、そんな会社勤めの経験
者としては共感もある反面、甘ったれるなと言いたくなる気
持ちも半分で映画を観ていた。
その映画は、当然のように理不尽な新入社員苛めの描写から
始まるが、ここではリーダー役のお笑い芸人のちょっと上滑
りな演技がいらいら感を一層高める感じがして、それが意図
的かどうかは別として映画の世界には入り易かった。
そして物語には、理不尽なリーダーだけでなく、尊敬すべき
先輩やライヴァルやマドンナもいて…
というお話だが、実は映画の見所はそれだけではなくて、原
作の経緯通り主人公が2チャンに窮状を訴えたことから、そ
の書き込みを表示する画面や用語の解説、さらにはかなりヘ
ヴィーなCGIなども盛り込まれて、正にIT満載の作品に
仕上げられている。
その一方で、『機動戦士ガンダム』や『三国志』などの引用
でオタク気分も満載になっている。因に『ガンダム』の引用
では、星山博之、荒木芳久、それに松崎健一の名前がエンド
クレジットに掲載されていたようだ。
出演は小池徹平、マイコ、品川祐、田辺誠一、田中圭。田中
は『TAJOMARU』と同じような役柄なのも面白い。他に、森本
レオ、北見敏之、朝加真由美らが共演している。
監督は、2006年『シムソンズ』などの佐藤祐市、脚本は、今
春公開された『ROOKIES−卒業−』などのいずみ吉紘。
物語の結末にはカタルシスもあって、特にこの不況下で働く
若いサラリーマンには応援歌にもなりそうな作品に思えた。

『谷中暮色』
幸田露伴の小説『五重塔』の主題にもなっている東京谷中の
感応寺(現天王寺)に建てられていた五重塔を巡る物語。
東京の上野と本郷の間にある谷間を谷中と呼び、そこには霊
園や寺院が数多くあって、昔からの風景が近年まで残されて
いた。主人公は、そんな谷中を記録したホームムーヴィを探
し出しては修復して上映するNPOのメムバーの1人。
そしてそのNPOグループでは、1957年に焼失した谷中五重
塔を写したフィルムを探していたが…
作品は、実際の五重塔を憶えている人たちへのインタヴュー
を集めたドキュメンタリーの要素もあり、その一方で露伴の
小説を映像化した部分や、さらにそこに主人公たちのラヴス
トーリーも語られるという欲張ったものになっている。
ただしその全てが充分に語られているかというとそうでもな
くて、特にラヴストーリーの部分に関しては、挿入されるチ
ンピラ同士の争いのような無くてもいいシーンも含めて、結
末などが意味不明のものになってしまっている。
因に本作は、今年2月のベルリン映画祭に招待されているも
のだが、その時の上映時間は129分、それが今回の試写会で
は107分に再編集されていた。つまり約20分がカットされて
いる訳で、その辺で話が中途半端になっている可能性はあり
そうだ。
とは言え、谷中の五重塔に関してはそれなりにいろいろな角
度から語られたものになっており、特に地元の人たちが語る
五重塔への思いには興味深いものも多く、その点では面白く
観られた作品だった。
そして最後に登場する実写の映像には、かなりの衝撃を受け
た。

監督・脚本・編集は、2005年にオダギリジョー主演の『BIG
RIVER』などを撮っている舩橋淳。撮影は2009年『禅』など
の水口智之。なお撮影にはパナソニックのHDカメラが使用
されているようだ。
その他に、CGIによる五重塔の再現などもあるが、それは
ちょっと趣向が違ったもので、僕としては実景の中に、谷中
の何処からでも観えたという当時の人たちが観ていた塔の景
観なども再現して欲しかった。
谷中五重塔は、僕自身もほとんど知らない東京の原風景。実
際に焼失から50年も経つと憶えている人も少なくなってくる
頃かも知れない。そんな記憶を呼び戻す最後のチャンスとし
ても貴重な作品のように思えた。他にもこんな原風景は日本
中にありそうだ。

『海角七号』“海角七号”
台湾で『タイタニック』に次ぐ史上第2位の興行成績を納め
たという作品。敗戦後の日本人の引き揚げによって引き裂か
れた日台の男女の思いが、現代の台南の海浜を舞台に蘇る。
主人公の1人は、台北でのバンド活動に挫折し故郷の台南の
町に帰ってきた台湾人男性。そしてもう1人は、本来はモデ
ルだが北京語が話せるために通訳兼雑用係のように使われて
しまっている日本人女性。
その女性が、仕事で訪れた現地で、近く開催される音楽祭に
招請された日本人歌手との折衝役として働くよう頼まれると
ころから物語は始まる。しかも彼女は、前座を務める即席の
地元バンドの面倒を見る羽目にも陥る。
一方、男性は郵便配達のアルバイト中、宛先が日本統治時代
の住所で書かれているために、配達不能になっている手紙の
束を見つける。それは、敗戦後に帰国しなければならなかっ
た日本人教師が、教え子の台湾人女性に宛てた切々たるラヴ
レターだった。
そして男性は、地元バンドのリードヴォーカルに引っ張り出
されるのだが、そのバンドは少女から老人まで多様な人々が
寄せ集められたまとまりの無いメムバーで…そんな状況を背
景に、日本人と台湾人の2組の男女の切ない恋が描かれる。
この男性を、実際に一時は挫折を経験したという人気歌手の
笵逸臣、女性を『ピンポン』『頭文字D』などに出演の後、
台湾で中国語を勉強していた田中千絵。そして日本人歌手を
「地球上で一番優しい歌声」と言われる中考介が本人と教師
の2役で演じている。
それにしても、住所や氏名までもが日本風に付け替えられた
日本統治時代。それは台湾人にとって屈辱の時代のようにも
思えるが、その背景でこのような美しい作品が作られる。し
かも、台湾では史上空前の大ヒットになったという。その事
実には日本人として何とも不思議な感覚に捕われる。
因に、台湾の映画事情では国産と外国映画の格差が激しく、
国産映画の興行成績は常に外国映画の2桁下辺りで、従って
台湾映画で第1位と書かれていても、その興行はさほど大き
なものではない…という話を以前に聞いたことがある。
だからこの作品が、『タイタニック』に次ぐ史上第2位の興
行成績を納めたというのは、台湾映画界にとっては正に未曾
有の出来事だったようだ。そんな大ヒットをこの映画は成し
遂げているのだ。しかもこの内容で…
今年4月に紹介したドキュメンタリーの『台湾人生』と併せ
て観ると、日本人として何かを考えなければいけないような
気持ちにもさせられた。

『スペル』“Drag Me to Hell”
『スパイダーマン』で評価の高いサム・ライミ監督が、彼の
原点であるホラーに回帰したとされる作品。
銀行の融資担当で次期支店次長の席も見えている女性銀行員
が、窓口に来たジプシーらしい老婆の返済期限の延期要請を
自分の出世欲も絡んで断ってしまったことから、その老婆に
恐怖の呪いを掛けられる…
出世欲も絡んでとは書いたけれど、こんな状況は社会生活を
していればいくらでもありそうなもの、そんなことで呪いを
掛けられては給ったものでは無い。でも主人公には呪いが掛
けられ、それによって飛んでもない災厄が次々に襲い掛かっ
てくることになる。
しかもその前には、意外とタフな老婆との闘いもあって、と
にかく彼女には災厄が降りかかり続けることになる。その上
その災厄は、3日目には呪いの本体であるラミヤと呼ばれる
羊の化身が現れて、彼女を地獄に連れて行くというのだ。
という事態に彼女は、霊視者や霊媒などいろいろな専門家を
頼って、何とか災厄から逃れようとするのだが…
この彼女を襲う災厄の数々が、演出自体は正しくホラーで、
決して業とらしく面白おかしくされてはいないのだが、観て
いると思わず噴き出してしまうような見事などたばたで描か
れて行く。さすが元祖ホラーコメディ監督のサム・ライミの
作品だ。
出演は、『マッチスティック・メン』などのアリソン・ロー
マンと、『ギャラクシー・クエスト』などのジャスティン・
ロング。それに、主にテレビで活躍する怪女優のローナ・レ
イヴァー、舞台俳優のディリープ・ラオが共演。
さらに、1992年『ミスター・サタデー・ナイト』でオスカー
候補になった『シティ・スリッカーズ』などのデヴィッド・
ペイマー、2007年『バベル』でオスカー候補になったアドリ
アナ・バラッザらが登場する。
ツボを得たホラー演出もあるが、スプラッターではないので
誰でも安心して観ていられる。そんな万人向けのホラー作品
として見事に仕上がった作品と言えそうだ。

『バカは2回海を渡る』
2002年『仮面ライダー龍騎』で活躍した俳優の弓削智久が脚
本を書き、同じく須賀貴匡との共演でアメリカ西部で撮影さ
れ、今年6月に発表されたショートムーヴィ『FREE』の撮影
時の顛末を描いた作品。ただし題名の意味がプレス資料を観
ても判然としなかった。
ドキュメンタリーという触込みになっているが、『FREE』の
監督は弓削の名義で、本作の監督は渡邊貴文となっている。
この渡邊監督は、昨年12月紹介の『年々歳々』で助監督を務
めたいた人で本作が監督デビュー作だそうだ。
つまり本作の監督はドキュメンタリーの人ではないし、本作
には多分に演出されたように観える部分もある。だから本作
は、実際の『FREE』の撮影時の経験に基づいて再現されたド
ラマのようにも観えるし、それを踏まえれば題名の意味も判
るような気がしてくる。
特に、後半のモニュメントヴァレーのシーンなどには、明ら
かに状況に合わない別撮りの画像が登場しているし、これは
それ(再現ドラマのセミドキュメンタリー)として売った方
が良いのではないかとも思えるのだが…
それにしても、最近の若者というのは甘ったれているなあ…
というのが映画の始まりの印象。それが徐々に逞しくなって
行くのが観えるのは、仮に再現ドラマの部分はあっても、そ
れなりにドキュメンタリーなところも含まれているようだ。
写されている風景は、アメリカ西海岸に興味のある人にはさ
ほど目新しいものはないし、描かれている事象にも括目する
ようなものはない。でも、何となく今の若者の姿が描かれて
いるようではあるし、主演の2人が映画作りに真摯に取り組
んでいることは理解できた。
ただし、途中でアメリカ人の運転手がスピード違反で捕まる
下りなどでは、その後の経緯が多少説明不足に感じる部分も
散見された。それは流れから理解できるものであっても、本
作がドキュメンタリーを標榜する限りは、もう少し丁寧に問
題解決まで示す必要があったのではないか。
それにモニュメントヴァレーはナバホ・インディアンの占有
地区となっていて、特別の許可が無ければ一般の車両は入れ
ないはず、その辺のことももう少し説明してあっても良かっ
たのではないかな…とも感じた。

『きみがぼくを見つけた日』“The Time Traveler's Wife”
2003年に発表されてベストセラーになったオードリー・ニッ
フェガーによるデビュー作の映画化。
遺伝子の異常により自分では意図しないままの時間跳躍に見
舞われることになった主人公の物語。そんな主人公が、ある
日「あなたのことを知っている」と言う女性に出会う。彼女
は幼い頃から、もっと年長の主人公の訪問を受けて来たとい
うのだが…
例によってこの映画もSFで売られることはないようだ。で
も今回はそれでも良いような気がする。僕は原作を読んでは
いないが、映画だけならSF的な要素はかなり希薄に見える
作品だ。
この点に関しては、原作を読んだ人に教えを乞いたいが、映
画では時間跳躍によってSFファンが納得するような何かが
行われるものでもないし、ただ時間を越えた男女の繋がりが
ロマンティックに描かれているだけのものだ。
ただしそこには、SFファンならばこそ楽しめる仕掛けもい
ろいろ施されていて、それこそがSFとして楽しめる作品に
もなっている。でもそれを抜きにしてもこの映画は楽しめる
し、だからこの作品には、敢えてSFと主張する必要性も感
じないものだ。
脚本は、1990年『ゴースト』でオスカー脚本賞を受賞したブ
ルース・ジョエル・ルービン。ファンタスティックなラヴス
トーリーの名手ということになりそうだが、本作では施され
たファンタスティックな仕掛けにもうまさを感じさせた。
出演は、2004年『きみに読む物語』などのレイチェル・マク
アダムスと、2003年『ハルク』や今年公開された『スター・
トレック』などのエリック・バナ。また、彼らの子供時代や
その他の子役として、ブルックリン・ブルー、アレックス・
フェリス、ヘイリーとテイタム・マッキャンが見事な演技を
見せてくれる。
他に、1997年『ロスト・ワールド』のアーリス・ハワード、
2002年『アダプテーション』のロン・リヴィングストン、テ
レビシリーズ『ヒーローズ』のスティーブン・トボロウスキ
ーらが共演している。
SFで売らなくてもいいと書いたが、SFファンには観ても
らいたい作品だ。

『倫敦から来た男』“A londoni férfi”
メグレ警部のシリーズでお馴染みのベルギー生まれの推理作
家ジョルジュ・シムノンが、1934年に発表したメグレ警部の
登場しない作品の映画化。
因にシムノンの原作“L'Homme de Londres”からは、1943年
にフランスのアンリ・ドゥコワン監督による作品と、1947年
にイギリスのランス・コンフォート監督による“Temptation
Harbour”という作品も作られている。
その同じ原作から今回は、2000年『ヴェルクマイスター・ハ
ーモニー』などのハンガリーの鬼才タル・ベーラ監督が脚色
映画化した。
サーカスのピエロで軽業師の男がイギリスで大金を盗み、船
でフランス語圏の湊町にやってくる。そこで先に下船した仲
間の男に金の入った鞄を投げ渡し、その後を追って下船して
くるのだが、仲間の男と争いになって仲間の男と鞄は海中に
落下してしまう。
その一部始終を目撃していたのが、近くの見張台にいた鉄道
の操車係の男。男は軽業師が立ち去ると現場に赴き、見張台
にあった道具で海中から鞄を引き上げ、隠匿してしまう。こ
うして偶然の出来事が男を犯罪に引き込んでしまうのだが…
これに操車係の家族や、イギリスから軽業師を追ってきた刑
事、さらに軽業師の妻などが登場して操車係の男の心理に迫
る物語が展開される。
メグレ警部の登場しない作品についてシムノン自身は、本格
作品という意味で「ハードな小説」と称していたようだ。そ
の「ハードな小説」が本作では、ベーラ監督のことさら重厚
な演出で見事に映像化されている。
特に、冒頭の港に接岸した船を嘗めるように撮っているシー
ンは、恐らく現在の世界の映画界ではベーラ監督以外ではで
きない技と言えそうだ。まあそれができてしまうところが鬼
才と呼ばれる所以でもある訳だが。
出演はほとんどが旧東欧圏の俳優だが、中にオスカー女優の
ティルダ・スウィントンが操車係の妻の役で出演、出番は短
いが強烈な印象を残す演技を見せている。
ただし、本作の撮影はハンガリー語の台詞で行われたようだ
が、試写で上映されたフィルムでは台詞が英語やフランス語
に吹き替えられていた。ところが、これが口元が丸で合って
おらず見苦しい。どうせ字幕なのだし、できれば原語版で上
映して欲しいものだ。

『戦慄迷宮』
本作については前々回にも紹介したが、今回はちょっと違う
条件で改めて鑑賞したのでその報告をしたい。
実は前々回の試写は内覧とのことで、会場は五反田イマジカ
の第2試写室。そこは日本有数の3D試写室と言える場所で
はあるのだが、その日の上映はスクリーンが妙に小さくマス
クされていて、それは窓から覗き込むようで、奥行きを主眼
とする作品のコンセプトには合っているものの、やはり迫力
には掛ける感じがした。
そに対して今回は、完成披露試写ということで、会場は新宿
バルト9の2番スクリーンという比較的大きなスクリーンの
全面に上映されたもの。しかも僕の座席は前から2列目の中
央で、正に視野一杯の3D映像を鑑賞することができた。
その効果は、特に前々回も指摘した螺旋階段のシーンなどで
も奥行きがくっきりと描かれている感じで、その迫力は見事
なものだった。ただし、これは以前『センター・オブ・ジ・
アース』の監督も言っていたことだが、3Dというのは繰り
返されるとその効果が薄れるもので、その影響が今回は肝心
の最後の螺旋階段のシーンに出てしまっている。
つまり、その最後の螺旋階段のシーンでは、早送りにされて
いることもあって3D感が著しく減じられているような気が
する。本来ならここでは、それまでの螺旋階段のシーンより
一層の奥行きが出て欲しかったし、そこで「おお」と言わせ
るような映像があれば、作品の印象も変わってきたと思うの
だが、作品の狙いは判るだけに残念な感じがした。

奥行きを強調するためには、例えばカメラの間隔(視差)を
大きくするなどの方法がある筈だが、今回はそのような試み
はしなかったのだろうか、前回も書いたように続編があるの
なら、ぜひそのような試みもして欲しいものだ。
        *         *
 最後にニュースを1つ。
 今年も10月17日から25日まで開催される東京国際映画祭の
記者会見が行われ、その概要が発表された。
 それによると、今年のコンペティションには世界81の国と
地域から743本の作品が応募され、その中から選ばれた15本
によってグランプリが競われる。その作品の傾向は、紹介文
によると昨年驚嘆した『超強台風』のような作品はなく、ど
ちらかというと現実に沿った作品が選ばれたようだ。ただし
その中で、スペイン=コロムビア製作の『激情』という作品
には興味を引かれている。
 これに対して特別招待作品では、すでに紹介している『カ
ールじいさんの空飛ぶ家』がクロージングを務める他、『脳
内ニューヨーク』『大洗にも星はふるなり』『風が強く吹い
ている』『スペル』『わたし出すわ』『PUSH』などが上映さ
れる。また、ジェームズ・キャメロン監督の新作“AVATER”
のフッテージ上映もあるようだ。
 さらにアジアの風など他の部門には50本以上の未公開作品
の上映が予定されている。その中では『愛している、成都』
『カンフー・サイボーグ』『青い館』『つむじ風食堂の夜』
『OUR BRIEF ETERNITY』がSF/ファンタシー系の作品のよ
うで、これらを中心に出来るだけ数多く鑑賞して紹介するこ
とにしたい。



2009年09月13日(日) エスター、イートリップ、黄金花、眠狂四郎・勝負、パブリック・エネミーズ+他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『エスター』“Orphan”
今年8月30日付の製作ニュースで“The Girl With the Red
Riding Hood”という作品の計画を紹介している脚本家デイ
ヴィッド・レスリー・ジョンスンによるホラー作品。
物語の中心となるのは、夫婦と子供2人の一家。その妻が3
人目の子供を死産し、その痛手を癒すために夫婦は孤児院か
ら養子を迎えることを決断する。しかし妻にはアルコール依
存症からの脱却中という状況もあり、さらに幼い実の娘は難
聴で手話を使っている。
正直には、こんな状況で敢えて養子を迎えられるのかという
ところもあるが、しっかりしたカウンセラーが付き、その意
見に従ってのことであれば、それも許可されてしまうもので
はあるようだ。
そして夫妻が訪れた孤児院で目にしたのは、他の子供たちと
離れて1人で絵を描いている少女。その絵の才能にも注目し
た夫妻は、躊躇うことなくその少女を養子に迎えることを決
めるのだが…その少女には何処かおかしなところがあった。
この発端だと、まず思い付くのは鳥類のカッコウのように実
子たちを両親から引き離し、自分が中心に居座るという展開
だが、この映画はそんな生易しいものではない。それは家族
の心の隙間を突いて、周到且つ巧妙に一家を締め上げて行く
のだ。
出演は、『縞模様のパジャマの少年』などのヴェラ・ファー
ミガ、『エレジー』のピーター・サースガード、『スター・
トレック』でジェームズ・T・カークの少年時代を演じてい
たジミー・ベネット、さらに実際に聴覚障害者だというアリ
アーナ・エンジニア。
そしてエスター役を見事に演じるのは、7歳から演技をして
いるというイザベル・ファーマン。彼女なしにはこの作品は
成り立たなかっただろう。特に終盤の変貌ぶりは見事だ。他
に『ER』のCCH・パウンダーが共演している。
純粋には犯罪映画のジャンルかも知れないが、演出や物語の
展開は間違いなくホラーのテイストになっている。特に何か
が起きそうでびくびくしながら歩き回るシーンなどには、正
にホラー映画の恐さが見事に描かれていた。
監督は、2005年にパリス・ヒルトンの出演で話題になったリ
メイク作品『蝋人形の館』のハウメ・コジェ=セラ。その作
品からは桁違いに上手くなったことは確かだろう。次回作に
は“Unknown White Male”というリーアム・ニースン主演の
スリラーが計画されている。
それからこれは重大なネタバレになるけれど、この作品を観
ていて、2003年9月に紹介した『マッチスティック・メン』
を思い出した。脚本家はそれにインスパイアされたのかな。
本作はそのホラー版といったところ。つまりこの仕掛けは、
映画では初めてのものではない。(この部分、他言無用)


『イートリップ』
フードディレクターとして活躍する野村友里が、自らの活動
に共鳴する人々を巡って日本の食について描いたドキュメン
タリー。因に題名は英語表記で“eatrip”とされているもの
だが、これは「人生とは食べる旅」を標榜する野村の造語の
ようだ。
食がテーマのドキュメンタリーでは、今年4月に『キング・
コーン』を紹介しているし、それ以前には“Unser taglich
Brot”というドイツ作品も観ているが、日本人の食に対する
感覚は独特のようにも感じていて、その辺が変に出たら辛い
なと思いつつ試写に赴いた。
ところが作品は、確かに日本人特有の見方で作られてはいた
が、食に対する真摯な態度と真剣さで、観ていて居住まいを
正したくなるような、そんな感じにまでなってしまった。
作品は、飼っている鶏を潰して調理するところから始まり、
築地市場の仲買人や削り節の店主などプロの食材供給者の発
言が続く。なおイントロでは、画家と記された人の発言が僕
自身の思い出と同じで、その辺にも共鳴してしまったのかも
知れない。
その一方で、沖縄に居住して自給自足の生活を行っている主
婦や、歌手UAの暮しぶり、さらに初めて茶室に入った俳優
浅野忠信のとまどいや、池上本門寺住職の食に関する含蓄の
ある発言などが綴られて行く。
築地での巨大なマグロを解体して行く様子や、沖縄で野生か
と思うような草を収穫して丁寧に食材にして行く様子など、
知識としては持っていても現実に観るのは珍しいシーンもあ
るし、途中に挿入される調理の様子やアニメーションにも魅
かれるものがあった。
日本の食に関して高邁な意見を述べるのではなく、茶室にお
ける浅野のようなごく初心者の立場に立って食を考える。そ
こには政治や社会といった面倒なものもなくて、ただ純粋に
食だけが追求されている。
上記のドイツ作品の時は、何かが引っ掛かってサイトでは紹
介しなかったのだと思うが、本作に関しては諸手を挙げて推
薦できる。別段難しいことを言っている作品でもないし、そ
れでもハッと気付かされるところも沢山あった。
かと言って、それで自分の意見や思想が変えられるようなも
のでもなく、心安らかに観ていられる。そんな見事な作品だ
った。

『黄金花』
2007年6月に『馬頭琴夜想曲』と、2008年7月に『夢のまに
まに』を紹介している日本映画美術の重鎮、今年91歳になる
木村威夫の原案・脚本・監督による長編第2作。
今回も試写会では木村監督による挨拶があって、それによる
と本当は時代劇を企画していたが実現せず、代りに見つけた
昔のメモから脚本を2週間で書き上げたとのこと。従って本
人は即席で作ったような話をしていたが、なかなかしっかり
した作品になっている。
物語は老人ホームを舞台に、原田芳雄の演じる80歳を迎えた
植物学者が幻の「黄金花」を目にして…というもの。その花
は、遊びも酒も女も、俗世間の全てを顧みずに研究に没頭し
てきた老学者に、封印してきた青春の思い出を蘇らせる。
そして映画は、日本の敗戦直後の時代へと遡り、木村美術特
有の夢とも現実ともつかない世界へと主人公や観客を誘って
行く。
正直に言って、以前に観た木村監督の作品では映像的な部分
が先行して物語が後付のような感じだったが、本作はちゃん
とした物語があって、その部分では理解も容易だし、評価も
し易いものになっている。
その評価としては、まず91歳にしてこの想像力というか、映
像を造り出すエネルギーには感服せざるを得ないだろう。階
段のある試写室まで挨拶に来られたことにも驚いたが、映画
の中でも山野の中での撮影を敢行しており、それをやり遂げ
る活力は凄いものだ。
それに物語的にも、「命短し恋せよ乙女」ではないけれど、
青春を謳歌せよと奨励しているかのような展開で、それも若
者に対するメッセージのように受け取れる。なお本作の製作
には、京都造形芸術大映画科の学生が多数協力しているよう
だ。
共演は、松坂慶子、川津祐介、松原智恵子、三條美紀、野呂
圭介、絵沢萌子。他に能の河村博重、麿赤兒、長門裕之らが
出演している。正にオールドエイジの共演だ。さらに歌手の
あがた森魚、松尾貴史らも顔を出している。
また本作では、京都造形芸術大映画科の学科長を務める林海
象映画監督が協力プロデューサーとして参加、脚本にも協力
している他、同科の講師陣である『西部警察』などの小川真
司が撮影、『グーグーだって猫である』などの浦田和治が録
音を担当している。
つまり京都造形芸術大映画科挙げての映画製作だが、林監督
はこのチームを「北白川派」と称して映像集団として育成す
る構想だそうだ。一方、木村監督は本作の興行を花座と称し
て全国展開する計画とのことだ。

『眠狂四郎 勝負』
前々回から紹介している「大雷蔵祭」で上映される内からの
1本。1963年から69年に12作品が製作された人気シリーズの
第2作(1964年製作)。同シリーズでは先に『殺法帖』(田
中徳三監督)があるが、三隅研次監督による本作でその方向
性が定まったとされている。
また、柴田錬三郎原作の映画化は先に鶴田浩二主演のものも
あるようだが、同じ原作から本作では、前々回紹介した『大
菩薩峠』の机龍之介にも通じるニヒルな剣士を、雷蔵=三隅
のコンビが見事に描き出した。
物語は、硬直した江戸幕府の悪政で民衆が苦しめられている
時代。勘定奉行は老中と共に改革を試みているが反対勢力の
抵抗は根強い。そしてその勘定奉行に向けて放たれた刺客を
狂四郎が防いだことから、狂四郎は幕府の権力争いに巻き込
まれて行く。
そこには、久保菜穂子演じる傲慢な将軍の娘や、藤村志保演
じるキリシタンの異人の夫を救おうとする女性、さらに高田
美和演じる狂四郎を慕う町娘などが彩りを添える。また勘定
奉行には加藤嘉が扮している。
円月殺法にストロボ効果が付くのは第4作からだそうで、本
作はまだ刀を回すだけだが、机龍之介とは一味違った人情味
もある狂四郎を雷蔵が楽しげに演じている。また当時25歳の
藤村の美しさや、32歳の久保の妖艶さ、17歳の高田の可憐さ
なども楽しめる。なお当時50歳の加藤はすでに老人の風情だ
った。
因に、藤村と久保は第4作の『女妖剣』と第12作の『悪女狩
り』でも共演。さらに藤村は第8作の『無頼剣』、久保は第
9作の『無頼控』、高田は第10作の『女地獄』にも出演して
いる。正にシリーズの基礎と言える作品だ。
社会情勢などには現代の日本に通じているところもあるが、
これは映画製作当時の状況も反映しているはずのもので、つ
まり政治というものはいつの時代も変わらないということも
考えさせられた。
なお「大雷蔵祭」は、12月12日から東京は角川シネマ新宿で
の開催が決定したようだ。関西は大阪の梅田ガーデンシネマ
で開催される。また、単独俳優による100作品の映画祭は史
上初だろうとのことでギネスに申請もしているそうだ。
作品数だけならクリストファー・リーが映画だけで200本に
近づいていると思うが、87歳で現役(2010年には“Alice in
Wonderland”など3作品が公開予定)のリーに対して、15年
間で159本をやり遂げているという雷蔵の偉大さは別格だろ
う。
でもギネスに載ったら、誰かがリーの200本映画祭を企画す
るかもしれないな。

『パブリック・エネミーズ』“Public Enemies”
『ALI アリ』などのマイクル・マン監督が、ジョニー・デッ
プを主演に迎えて1930年代の伝説の銀行強盗ジョン・デリン
ジャーを描いた実話に基づくドラマ。
大恐慌時代。資金の枯渇に喘ぐ民衆に対して、銀行には汚い
金が溢れていた。そんな銀行を襲って大金を奪って行くジョ
ン・デリンジャー率いる強盗団。そんなデリンジャーがある
日、1人の女性に目を留める。それは激しくも切ない恋の旅
路の始まりだった。
デリンジャーには一部に義賊説もあるとのことで、映画の中
でも、強盗中にカウンターに置かれた個人の現金を見て「盗
るのは銀行の金だけだ」と言うシーンが描かれるなど、さす
がにデップが演じるヒーローという感じになっている。
一方、そのデリンジャーを「公共の敵No.1」と呼んでアンチ
ヒーローに祭り上げ、州境を跨ぐ警察組織FBIの創設に尽
力したエドガー・フーヴァーに対しては、冒頭の公聴会のシ
ーンで議長に「PR上手」と言わせるなど、最終的に組織を
私物化して行くこちらこそアンチヒーローの感じに描いてい
る。
とは言うもののFBIを一方的に悪人にはしたくない配慮な
のか、実際のキャラクターはクリスチャン・ベールが演じる
捜査官パーヴィスを前に立てて、フーヴァーの横暴にもめげ
ずにデリンジャー捜査を続ける、こちらはヒーローに描いて
いる。
そして本作のヒロインは、オスカー女優マリオン・コティア
ールが演じるデリンジャーの愛人ビリー・フレシェット。犯
罪者に一目惚れされたために運命に翻弄される薄幸の女性が
丁寧に描かれている。
なお、フーヴァー役は『あの頃ペニー・レインと』などのビ
リー・クラダップが演じ、他に『ブレイド』などのスティー
ヴン・ドーフ、『トゥームストーン』のスティーヴン・ラン
グらが共演している。
その他にも、ジョヴァンニ・リビシ、リリ・タイラー、リリ
ー・ソビエスキーなど、丁寧に探せば一杯出てくる多彩な顔
ぶれが登場している。
また、試写会の後で『ゴジラ FINAL WARS』で轟天号の艦長
を演じていたドン・フライが出ていたと教えられたが、本業
が格闘家のフライは監督の前作『マイアミ・バイス』にも出
演していたようだ。
上映時間2時間21分の大作だが、観ている間は全く飽きさせ
ることはなかった。
        *         *
 今回は、個人的な都合で時間がなく、製作情報はあまり書
けそうにないが、その代わりに嬉しいニュースを1つ紹介し
ておこう。ハリウッドの映画人にとっては最高の名誉とも言
えるアカデミー賞で、B級映画の雄ロジャー・コーマンが表
彰(名誉賞を授与)されることになった。
 コーマンは1953年から半世紀以上に渡って、低予算の映画
を量産し続けた独立系のプロデューサーであり監督だが、そ
の作品の多くがホラーであったりSFテイストであったりも
することから、特にSF映画ファンの間では人気の高い人物
だ。しかしそれらの作品はハリウッドの大手映画会社からは
相応に扱われることはなく、このためハリウッドでは異端児
のよう観られていた。
 というコーマンの受賞だが、その授賞理由は彼自身の作品
というよりは、彼が長年の映画製作の間に育てたフランシス
・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、ジェーム
ズ・キャメロン、ロン・ハワード、ジョナサン・デミら、挙
げていけば切りがないハリウッドの才能であり、その功績が
今回の受賞に繋がっているようだ。
 SF/ファンタシー系の映画人の名誉賞は、レイ・ハリー
ハウゼンが1992年に科学技術部門の名誉賞であるゴードン・
E・ソウヤー賞を受賞して以来のことになるが、近年のVF
X映画の隆盛がようやく彼らにも日の目を当ててくれること
になったようだ。
 ただし名誉賞の受賞式は、昨年までは本賞の受賞式と一緒
に行われていたものだが、来年からは作品賞候補が10本にな
るなど本賞の受賞セレモニーに時間が掛かることが予想され
ており、このため本賞の受賞式からは切り離されて11月14日
に行われることになっている。ハリーハウゼンの時は昔から
の親友のレイ・ブラッドベリがプレゼンターとして登場し、
ファンを喜ばせてくれたが、今回は誰がプレゼンターになる
のか、それも注目になりそうだ。
 ということで今回はここまで、次回はもう少し書けるよう
に頑張ります。



2009年09月06日(日) 白夜、ファイナル・デッドサーキット、カールじいさんの空飛ぶ家、戦慄迷宮、アンヴィル、陸軍中野学校、スワップ・スワップ+他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『白夜』
2005年『バッシング』がカンヌ映画祭のコンペティションに
招待され、2007年『愛の予感』がロカルノ映画祭のグランプ
リを受賞した小林政広監督の新作。
実は後者の作品は試写を観せて貰ったのだが、細かいところ
をよく描いた演出の丁寧さなどは理解するものの、この監督
のちょっと安易に感じる死生感のようなものが何となく肌に
合わなくて作品としての評価は出来なかった。
結局本作にも似たようなところはあって、本作の結末には、
僕自身は受け入れ難いものがある作品だ。でもまあ、そこま
での過程として描いている部分にはそれなりに理解できると
ころもあるし、その評価はしなければいけないのかとも感じ
てこの記事を書いている。
物語の舞台は、フランスはリヨンの川に架かる歩道橋。その
橋に1人の日本人女性が物憂げに佇んでいる。そんな女性に
1人の日本人男性が声を掛ける。しかしちょっと軽薄そうな
その男の態度に、女性はけんもほろろの対応をする。
こんな出会いから始まった男女の半日間の行動が綴られる。
女性はある目的のためにその町に着いたばかり、男性は長く
ヨーロッパを彷徨った挙げ句に明日は帰国の途に着こうとし
ているところ。
僕は長期の海外旅行をした経験はないが、1人旅はしたこと
があるから、人恋しくなった男性の態度は理解できる。それ
に女性の態度もある種のステレオタイプではあるが理解はす
る。だから物語の設定には違和感はなかった。
そして始まる2人の物語、そこでは徐々に変化する2人の心
理が丁寧に、詳細に描かれて行く。ここで描こうとしている
内容は、『愛の予感』にも共通して監督の目指すところでも
あるようだ。
だから物語は理解するが、やはり結末が納得できなかった。
でもこの結末だからこそ評価をする人もいるだろうし、それ
はそれで理解もする。そういう物語。つまりは僕が納得でき
ないだけのものだ。
出演は、パフォーマンスグループEXILEメムバーの眞木大輔
と、Domaniなどのモデル出身で『ブラディ・マンディ』など
に出演の吉瀬美智子。演技の評価が出来るほどのシーンのあ
る作品ではないが、それなりに雰囲気は作っていたようだ。
ただ、リアルな映像ということで作られている作品ではある
が、望遠で撮影されている場面での画面の揺れにはちょっと
正視に耐えないものがあって、いくつかのシーンでは実際に
目を閉じてしまった。
カメラマンはプロの人のようだが、これが演出の意図だとし
たら、ちょっと願い下げにしたくなるものだ。

『ファイナル・デッドサーキット』
               “The Final Destination”
2000年製作の“Final Destination”から数えて4作目の続
編。ただし原題からは今まで付いていた通し番号が外され、
さらに頭に“The”と付けられるなど、心機一転の作品とな
っている。しかも今回は3Dだ。
第1作は、『X−ファイル』などのジェームズ・ウォンの脚
本監督、アリ・ラーター、デヴォン・サワの主演で、大規模
災害から死神の意志に反して生還した人々を襲うさらなる恐
怖を描き、全世界で9000万ドルの興行を記録する大ヒットと
なった。
僕はこの第1作では、特に死神を出し抜くかなり緻密な推理
などが面白くて気に入ったものだ。しかし、2003年と2006年
の続編はいずれも試写は観せて貰ったが、事件の発端や死神
との推理戦などが安易で、僕はあまり気に入らなかった。
その第4弾という作品だが、今回も推理の方はあまり緻密で
はない。ところが今回は、それとは逆のそれぞれの被害者が
死に至る過程に手が込まされていて、風が吹くと桶屋が儲か
る的なカラクリが面白く3D映像化されていた。
つまりこれは、観せることを目的とした3D映画では正しい
方向性だろう。しかもその被害者の死に様が、手を替え品を
替え、さらにCGIも駆使してえげつなくリアルに映像化さ
れているもので、これもまあ正しいことのようには思える。
因に今回の物語は、オートレースサーキットで観客を巻き込
むクラッシュ事故が発端となるもので、この3Dで描き出さ
れた自動車レースのシーンはかなりの迫力があった。これは
正に物がビュンビュン飛んでくる感覚で、思わずのけぞって
しまうほどのもの。その他にも、特にCGIによる3D映像
にはニヤリとするものが多かった。
とは言うものの、3D映像に目新しいものがあるかというと
それほどでもなくて、この辺はまあ、前回の『クリスマス・
キャロル』の紹介で述べたようなものはちょっとやりすぎに
なるだろうが、何か一工夫が欲しかった感じはした。

なお物語では第1作の事件の新聞記事が主人公たちにヒント
をもたらすなど、一応の繋がりは付けられていた。それにち
ょっとした仕掛けが、第1作から見続けているものには特別
のサーヴィスにもなっていた。こういうことをされると嬉し
くなるのがファン心理だ。
監督は“Final Destination 2”(邦題:デッドコースター)
を手掛けたデイヴィッド・エリス。その後に2004年の『セル
ラー』を生み出したスタントマン出身の監督が、見せるアク
ションを、しかも3Dで堪能させてくれた。

『カールじいさんの空飛ぶ家』“Up”
ディズニー/ピクサーの製作で、今年のカンヌ映画祭のオー
プニングを飾ったアニメーションでは初めての作品。
1人暮しの老人が、1軒家の自宅に大量の風船を括り付け、
家ごと冒険の旅に飛び出す。ところがその旅立ちの時に1人
の少年が家に潜り込んでいて…という冒険物語。ここまでの
展開は予告編で判る範囲だが、出来ればそれ以上の情報は持
たないで観てもらいたいものだ。
従って、これ以上の物語の紹介は控えるが、予想していた以
上に壮大な、愛情に満ちた物語が展開されていた。そしてそ
れは、僕らの年代にもなると自分の人生にも照らせる見事な
物語になっていた。
なお本作は、ピクサー初の3D作品となっているものだが、
僕の観た試写会は2Dでの上映だった。しかしおかげ字幕付
きの原語版。そこでは5度のゴールデングローブと多数のエ
ミー賞に輝くエド・アズナーや、クリストファー・プラマー
の声を聞くことが出来た。
さらに少年役には、ジョーダン・ナガイという9歳の男の子
がオーディションで抜擢されているが、映画データベースの
IMDbに掲載された写真を観ると明らかな日系人。彼は声優と
してすでに“Toy Story 3”への起用も発表されているよう
で、ちょっと楽しみだ。
とは言え3Dの評価が出来ないのは残念だが、物語の後半が
大自然の中になる辺りは3D効果も充分に期待できそうだ。
それと本作には、恐らくこちらも3Dの“Partly Cloudy”
(邦題:晴れときどきくもり)という短編が併映されるが、
雲上の世界を描くこの作品は3D効果も大きそうだった。
先に公開されたディズニー3Dアニメーションの『ボルト』
は、1963年の実写作品“The Incredible Journey”(三匹荒
野を行く)をモティーフにしているように思えたが、その伝
で行くと本作は、ディズニーが1952年にアニメーション化し
た“The Little House”(ちいさなおうち)からインスパイ
アされたのかな。ふとそんなことも考えた。
因に本作は、上記のIMDbの閲覧者が投票する10点評価の平均
点で、2000年以降に公開された作品の第5位にランクインし
ているそうだ。このベスト10には、『LOTR』が3本とも
入っているなど多少偏りもありそうだが、本作はそういう連
中にも好まれているということなのかな?

『戦慄迷宮』
富士急ハイランドにあるギネス登録・世界最大のお化け屋敷
「戦慄迷宮」をテーマ/舞台にした日本初の長編3D作品。
この極めてキワモノ的な作品に、『呪怨』などの清水崇監督
が挑戦した。
廃病院を模した巨大なお化け屋敷の中で殺人事件が起きた。
遺体は3つ、そしてそのそばで「中にもう1人いる」と叫ん
でいた青年が容疑者として拘束され、取り調べを受けること
になる。その取調室で青年は10年前に起きた忌まわしい事件
を語り出す。
それは、閉門間際の遊園地で営業を終えたアトラクションに
5人の子供たちが忍び込み、その内の1人が行方不明になっ
た…というもの。しかもその行方不明になった人物が10年後
に突然姿を現し、その姿を追って行く内にその場所に迷い込
んだというのだが…
こうして10年前の行方不明事件と、現在の殺人事件の交錯す
る物語が展開される。この過去と現在の事件が交錯するとい
う構成は、『呪怨』でも使われた清水監督お得意の手法で、
それが今回も楽しめるものだ。
というところで、実は今回の試写会は内覧とのことで、上映
後に歓談の席が設けられて、そこで監督や製作者の話を聞く
ことが出来た。それによると本作のコンセプトは、3Dを奥
行きで見せるということにあったようだ。
これは僕自身も上映中にも感じていたことだが、今回2本目
に紹介している『デッドサーキット』が飛び出しを強調し、
前回紹介した『クリスマス・キャロル』が観客の周囲を取り
囲む雰囲気を描いたのに対して、本作では確かに奥に向かっ
ての立体感が見事だった。
それは例えば富士の樹海で撮影されたシーンであったり、ま
た取調室のシーンでは2人の出演者が向かい合う間の空間が
背景の窓の外まで深く描かれていた。そしてそれは当然、お
化け屋敷の中のシーンも見事に描き出しているものだ。
つまりそれは、上記の2作品とは異なる3D映像へのアプロ
ーチである訳で、そのような新たな試みをしてくれたことに
は満足もした。またそれには、スクリーンの枠が観えていて
も意外と気にならないなどの利点もあったようだ。
ただし、作品としてそれが描き切れたかというと多少不満も
残ったところで、例えば最後の螺旋階段のシーンにはもっと
奥行き感が強調されていて欲しかった。それは例えば一緒に
物がばらばらと落ちて行くとか、敢えて光の筋を走らせると
か…
実は先週別の試写会の前に某氏と雑談をしていて、『2001年
宇宙の旅』では命綱を切られたプール博士が宇宙の奥へ飛ん
で行くシーンが素晴らしいという話になった。そのシーンは
2Dであったにも関わらず宇宙の奈落に落ちて行く感覚が味
わえた。
そんな感覚が、正にこの映画には期待されるように思えた。
製作者からは続編の情報も漏らされたし、その続編には更な
る進化を期待したいものだ。

なお本作の3D撮影には、実在のお化け屋敷の中での撮影が
要求されたために、手持ちの出来る超小型の3Dカメラが新
開発(手作り)されたようだ。その辺の情報は詳細には説明
されなかったが、いろいろアイデアも詰め込まれたようで、
こちらの開発にも期待したい。

『アンヴィル!』“Anvil! The Story of Anvil”
2008年1月のサンダンス映画祭で絶賛され、その後の各地の
映画祭で数々の受賞にも輝いているカナダの売れないヘヴィ
メタ・バンドを写したドキュメンタリー。
そのバンドは全く売れなかった訳ではなくて、80年代にはボ
ン・ジョヴィのツアーに参加したり、日本で開催されたロッ
ク・フェスティバルにも招待されている。そして、いくつも
の人気ヘヴィメタ・バンドから自分たちのルーツだと言われ
たりもしている。
しかし現在の彼らの生活は、給食センターでの配送係として
生活費を稼ぎながら、それでも何時かはまた脚光を浴びたい
と夢見てバンド活動を続けている。そんな彼らのメムバーの
1人が50歳の誕生日を迎える辺りから作品はスタートする。
このドキュメンタリーを監督したのは、2004年スピルバーグ
監督『ターミナル』の脚本を手掛けたサーシャ・ガヴァシ。
実は、彼は20年以上も前の10代半ばの頃に彼らの演奏に心酔
し、ツアーの裏方も務めたという経歴があったのだ。
そんな脚本家が、ハリウッドでの実績も積んだときにふと彼
らのことを思い出し、彼らに連絡を取って撮影を開始する。
それはちょうど彼らにヨーロッパツアーの話が届いていたと
きだった。ところが…
そのコンサートツアーには、そこにレコード会社のスカウト
が来ないかという期待も孕むが、結果はギャラも満足に貰え
ない有り様。さらには大枚をはたいてニューアルバムの製作
にも踏み切るが、それも大手レコード会社からは拒絶されて
しまう。
ヘヴィメタだからハチャメチャな人生を送っているかと思え
ば、そんなことはなくて、実生活はむしろ実直なものだ。し
かしいつまでもバンドを捨てない彼らには、家族や親族にも
反対の声があったり、それでも理解者もいたり…そしてそこ
には微かな光明も観えてくるのだが…。

作品を観た直後のダスティン・ホフマンが、目に涙を浮かべ
ながら監督に絶賛の声を掛けたそうだが、実際、僕も作品の
クライマックスには涙が流れるのを止められなかった。
ドキュメンタリー監督の問題児マイクル・モーアも脱帽した
というこの作品には、50歳になっても夢を捨てない彼らの人
生やそれを支える友情や愛情が見事に描かれている。そして
そんな彼らの真実の姿が、信頼する監督の手で見事に写し出
されている。

『陸軍中野学校』
前回紹介した「大雷蔵祭」で上映される内の1本。1966年か
ら68年に5作品が製作された人気シリーズの第1作。
第2次大戦前夜、支那事変が勃発した頃の物語。主人公は早
くに父親を亡くし、母親の女手一つで育てられた青年。そし
て東京帝大を卒業した今、彼には婚約者もいて、召集された
2年間の軍務が終了すれば、晴れて結婚して幸せな家庭を築
くはずだった。
ところが軍務に着くやいなや、彼には極秘任務として他17名
の陸軍少尉らと共に九段の靖国神社に集合することが命じら
れる。そして家族には行先不明の出張と言い置いて集合した
彼らには、家族や名前や将来の希望も捨ててスパイになるこ
とが要請される。
一方、残された婚約者は突然所在の判らなくなった主人公の
姿を探し求める。そして何処に問い合わせても埒が開かない
と気づくや、津田塾を出てタイピストの技能も持つ彼女は参
謀本部に職を求め、そこで軍事機密にも近づく機会を持ち始
める。

この主人公を市川雷蔵が演じ、婚約者には小川真由美が扮し
ている。他に加東大介、待田京介、E・H・エリックらが共
演。脚本は、後に第102回の直木賞を受賞する星川清司、監
督は『兵隊やくざ』などの増村保造が手掛けている。
製作された1966年は、1962年にスタートした007シリーズ
の亜流作品も全盛期の頃と思われるが、本作はそれとは少し
目先を変え、実在した日本陸軍のスパイ養成機関を題材に、
その第一期生の姿を史実に沿って描いている。
因に映画の中では、スパイ活動の先達として対露政治謀略工
作で日露戦争を勝利に導いたとされる明石元二郎陸軍大佐が
挙げられ、軍部による開戦気運が高まる中でスパイ活動が戦
争の抑止のために機能すると講義がされているが、これも事
実に沿ったもののようだ。
そして映画は、第一期生がさまざまな苦難の末に卒業試験と
される任務を全うし、世界の各地に旅立って行くまでを描く
が、特に主人公のそれはもちろんこの部分はフィクションで
あっても、なかなか興味深い展開になっていた。
2年で5作品も作られたプログラムピクチャーではあるし、
上映時間96分ではそれほどのコクのある作品ではないが、最
近の日本映画が失った何かがここにはあるような、そんな感
じのする作品でもあった。

『スワップ・スワップ』“American Swing”
1970年代後半のニューヨークで物議を醸した夫婦交換クラブ
Plato's Retreatの興亡を描いたドキュメンタリー。
1968年にニューヨーク郊外Woodstockで開催されたロック・
フェスティヴァルは、アメリカにドラッグとフリーセックス
時代の到来を告げ、ニューヨークではそんな時代に呼応する
伝説的なクラブが注目を浴び始める。
その中でも異彩を放ったのが、1977年9月に開店したその名
も「プラトンの隠れ家」と名付けられたクラブだった。そこ
には入場料35$を支払った既婚や未婚のカップルが集まり、
互いにパートナーを交換して自由なセックスを楽しんでいた
のだ。
そのクラブを創設したのはラリー・レヴィンスン。食品店の
息子だったその男は自らの発想でその店を開き、やがて一般
人からセレブまでもが同じレヴェルで集まる話題のクラブへ
と発展させて行く。そしてマスコミにも取り上げられ、全米
各地へチェーン店も展開させて行くが…
そんな時代の寵児だった男の実像が、当時の従業員や常連客
だった人々の証言によって描き出される。そこには『ゲット
・スマート』の脚本家として知られるバック・ヘンリーや、
俳優で映画作家のメルヴィン・ヴァン・ピーブルスなども登
場するものだ。
また、レヴィンスン自身が当時放送されたトーク番組に出演
して丁々発止のやりとりを繰り広げる姿や当時のニューズフ
ィルム、さらにはクラブの中で撮影された写真、フィルムな
ども織り込まれる。
監督は、いずれも本作が処女作のジョン・ハートとマシュー
・カウフマン。ただしこの種の作品では編集の力がものを言
うものだが、その編集には、1996年のドキュメンタリータッ
チの劇映画『I SHOT ANDY WARHOL』なども手掛けたキース・
リーマーが当っている。
なお、映画の中でクラブの反響を示す映像として日本語で書
かれた雑誌が登場している。そこで今回はDVDでの鑑賞だ
ったので、その部分を巻き戻してみたのだが、雑誌の誌名は
多分Swingerだと思うが確認は出来なかった。
しかし、一部が写された記事を読むと現地での取材はしてい
るようで、出来たらその記事を書いた記者の話なども聞きた
くなったところだ。
結局、フリーセックスの時代はエイズの到来によって終焉し
てしまうものだが、そんな歴史の徒花のような時代を見事に
写し出した作品と言えそうだ。それにしても1977年と言えば
『SW』の公開の年、本作が描いているのはそんな時代の物
語だったようだ。
        *         *
 最後にニュースを1つだけ。
 ディズニーがマーヴェルを総額40億ドルで買収することが
発表されている。これによりディズニーは、『スパイダーマ
ン』や『アイアンマン』『X−メン』など5000体以上とも言
われるキャラクターを獲得することになるものだが、すでに
シリーズ映画化されている作品の配給権は動かないとは思う
ものの、これによる映画界への影響には計り知れないものが
ありそうだ。
 因にディズニーでは、以前から女の子向けのブランドとし
ては強力なものの、男の子向けの商品ではかなり苦戦が強い
られていたとのことで、このため先にドリームワークスとの
提携にも踏み切っていたが、今回の買収でさらにそのブラン
ドを強力にできるとのことだ。
 それにしても、映画の配給契約だけでなく一気に本社の買
収とは…。この動静は少し慎重に観て行くことにしたい。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二