井口健二のOn the Production
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2009年08月30日(日) クリスマス・キャロル/3D特別映像、風が強く吹いている、大菩薩峠、ドゥーニャとデイジー+製作ニュース他

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Disney's クリスマス・キャロル』(3D特別映像)
イギリスの文豪チャールズ・ディケンズにより1843年発表さ
れたクリスマス・ストーリーが3Dで再映画化され、11月に
世界一斉公開されるその映像の一部が特別映像としてお披露
目された。
上映されたのは、撮影風景及びキャスト・スタッフなどへの
インタヴューを編集したものと、正に本編の抜粋と思われる
クリスマスイヴの夜のフレッドのとのやりとりからマーレイ
の登場、そして過去のクリスマスの亡霊によって連れ出され
るまでの映像が紹介された。
ただし、それだけでは日本の観客には解り難いと判断された
のか、映像の前後に男性MCによる物語の紹介と、元日テレ
アナウンサー関谷亜矢子による原作の朗読のパフォーマンス
がコンセプトアートと思われる映像の紹介と共に行われた。
そのコンセプトアートでは背景となるロンドンの風景などが
中心となっていたが、雪の降り積もった街角の絵が多かった
のは本編でもそういうシーンが多いということなのだろう。
そしてその本編の映像では正に雪の舞い散る様子が3Dで見
事に描かれていた。
以前にも書いたと思うが、3D映像では観客に向かって何か
が突き出してくるようなシーンよりも、観客の眼前一杯に何
かが漂っているようなシーンの方が3D感を満喫させてくれ
るように思う。その意味では、この雪の舞い散るシーンには
ベストに近いものがあった。
ただしそれもスクリーンの端が気にならない位置に座るのが
肝心で、因に今回の上映会には、マスコミでは僕が一番に到
着したようだが、そこで渡されたのは、新宿ピカデリー3番
スクリーンのC列12番。前方通路の次のほぼ真中という席は
その条件に叶っていた。
実際にその後から来た人にも席はその近辺から配られたよう
だから、配給会社側もこの席がベストと考えているようだ。
なお、特別映像の最後には上映の案内としてIMAX-3Dの文字
も登場していたが、ちゃんと上下も拡大されているのならそ
れが一番良いのは確かだろう。IMAX-3Dは関東地区では川崎
に開場しているようだが、そこまで観に行く価値はあると思
える。
いずれにしても日本公開は11月14日、その前に本編の試写を
観せてもらえたら、また紹介することにしたい。

『風が強く吹いている』
ここで紹介した作品では、『きみにしか聞こえない』の小出
恵介と、『ちーちゃんは悠久の向こう』の林遣都の共演で、
箱根駅伝を目指す弱小陸上部の活躍を描いた青春ドラマ。直
木賞作家・三浦しをんによる同名の小説からの映画化。
主人公は天才的な長距離ランナー。しかしある事情で親から
の仕送りはあるが、親とは話し合いもできない状態になって
いる。そして弱小陸上部しかない大学に進学し、大学構内で
野宿をしていたところを家賃月3万円・賄い付きのアパート
に誘われる。
ところがそのアパートは、実は大学陸上部の寮で、そこに集
まった10人は先輩に言い包められて駅伝に挑戦することにな
る。とは言うもののその顔ぶれは、司法試験に合格済みの秀
才やマンガオタクなど、到底駅伝など出来そうにないメムバ
ーだったが…
スポーツが主題の作品ではあるがスポ根的なところはあまり
無くて、主人公は天才走者だし、他の連中も別の方向に向い
ていた興味をスポーツに向けさせるだけで走れてしまうとい
った、最近の若者小説に有り勝ちの安易な構成という感じの
作品だ。
でもまあ、スポーツものというのは最後の勝負のシーンで盛
り上がれば良い訳で、その点で言えば、前半の物語がサクサ
ク進むのはそれはそれで良い感じでもあった。それに劇中に
は、マンガオタクが読んでいる雑誌(刮目)やアニメネタの
くすぐりなどが随所にあって、僕は案外填められてしまった
ものだ。
しかも主人公たちが目指すのは箱根駅伝。僕は湘南育ちでは
あるが、正直に言って駅伝は小学校低学年の頃に沿道に応援
に行った記憶がある程度で、以前はあまり興味が無かった。
ところが最近の盛り上がりでついつい見始めてしまって…。
この作品には、そんな自分の興味が重なった部分もあったよ
うだ。
ただし物語はかなり強引で、こんな作品の作家が直木賞かと
も思うが、それも時代の流れなのだろう。結局のところ物語
自体にはあまり見所はなかったが、そのテーマが僕の琴線に
触れてしまったというところだ。
それに、実際には北九州や福岡、大分などで撮影されたとい
うことだが、丁寧に再現されたレースの模様がうまく撮影さ
れていて、実際のレース中に撮影されたシーンと見事に融合
していた。この編集技術は素晴らしい。
実は主演の2人には上記以外の作品(『僕の彼女はサイボー
グ』『ラブファイト』など)の印象で少し軟弱なイメージが
あったが、本作ではそれを払拭。特に、林の走る姿は凛々し
くて良い感じがした。そんな雰囲気に観客が付いてくれれば
良いと思えた。

『大菩薩峠』
1969年に37歳の若さでこの世を去った市川雷蔵。今年はその
没後40年ということで今秋開催される「大雷蔵祭」。そこで
上映される作品の内の1本。
中里介山の原作に基づき市川演じる机竜之助の狂乱ぶりが描
かれる。原作は全41巻にも及ぶ未完の長大小説だが、映画化
では机が主人公となる初期の作品が中心となり、本作以前に
も大河内傳次郎主演によるものや片岡千恵蔵主演(2作品)
などが作られている。
本作は1960年の製作で、脚色は衣笠貞之助、監督は後に市川
と『眠狂四郎』シリーズを生み出す三隅研次。虚無を求める
机の姿が、市川の端正な容貌と鬼々迫る演技によって見事に
描き出された。
共演は、中村玉緒、山本富士子、本郷功次郎。最近のテレビ
出演からは想像も付かない中村の演技と、山本の美しさ、本
郷の若々しさなどが目を牽く。他にも菅原謙二、笠智衆、島
田正吾、根上淳など懐かしい名前が並んでいる。
映画では、甲州大菩薩峠での巡礼老人の惨殺から、新選組に
参加した机と宇津木兵馬との最初の果たし合いまでが描かれ
るが、そこで第1部の完となって物語は続編へと続く。その
続編2作も「大雷蔵祭」では上映されるようだ。
僕が以前に観たことのある『大菩薩峠』はモノクロ・スタン
ダード作品だったから、上記の何れかだったと思われるが、
本作はカラー・ワイド。しかしその巻頭のシーンが全く同じ
に観えたのには驚いた。
遠望の山波からパンダウンすると山道を登ってくる老人の娘
の姿が観える。確かに著名な作品のオープニングでは、そう
た易く変更は出来ないだろうが、それにしてもそっくりなの
には驚かされたものだ。
しかしそこから後は、1対複数の剣戟シーンなどワイド画面
を活かした演出が随所に登場し、流石に後に日本最初の70mm
映画『釈迦』を撮る三隅監督の作品という感じもした。特に
抜き身の日本刀から血が滴るシーンなどは、カラー・ワイド
の画面にピッタリだった。
なお「大雷蔵祭」では、全159作と言われる市川出演作の内
から、100作品が厳選されて連続上映される。

『ドゥーニャとデイジー』“Dunya & Desie”
本国オランダでは2002−04年に全19エピソードが放送され、
多数の受賞に輝いたという人気テレビドラマの劇場版。
主人公はアムステルダムに暮らす2人の18歳の少女。その内
の1人ドゥーニャはモロッコからの移住者の子供で、性格は
少しシャイで行動も慎重。一方、もう1人のデイジーは生粋
のオランダ人で、性格は開けっ広げで発展的。そんな性格も
家族環境も異なる2人が大親友となり、それぞれの将来など
に悩みながら成長して行く姿が描かれる。
オリジナルのテレビ版がどんなものだったかは知らないが、
映画版ではモロッコ人の一家が帰国することになり、さらに
ドゥーニャには親が決めた結婚話が持ち上がっている。また
デイジーは思い掛けず妊娠して、その子供を生むかどうかの
悩みが生じる。
そしてデイジーは、同じくシングルマザーだった母親に、自
分を生んで後悔したか訊くのだが…。さらにデイジーには彼
女の幼い頃に家を出た父親がモロッコにいることが判り、彼
女はドゥーニャの家を訪ねて、2人はデイジーの父親を捜す
旅を始める。
この2人の主人公の配役は、テレビシリーズと同じマリアム
・ハッソーニとエヴァ・ヴァンダー・ウェイデーヴェン。因
に2人は共に1985年生まれ。テレビシリーズの頃は、正にそ
の年齢だったし、境遇も物語の通りだったようだ。
従って映画化では多少薹が立っている感じもしないではない
が、それなりに頑張って演じてはいるものだ。多分本国では
懐かしさも手伝っての評判になったことだろう。なお2人は
シリーズ後もそれぞれ主演を張るなど活躍しているようだ。
そして物語は、アムステルダムを振り出しにモロッコのカサ
ブランカやマラケシュ、さらに山岳地帯にまで広がって壮大
なロードムーヴィが描かれる。宗教的な背景など日本人には
判り難い部分もあるが、異国情緒たっぷり風景が物語をリー
ドしてくれる。
オランダからモロッコまで、小遣い銭程度しか持たずに移動
してしまえるなど、島国に住んでいる僕らには感覚的に理解
し辛いところもあるが、異文化の交流などは日本人もこれか
ら理解していかなければならないことだろうし、またメイン
になる若い2人の抱える悩みには、それなりに日本の若者に
共感を呼ぶ部分もありそうだ。
        *         *
 今回の製作ニュースの最初は、上記の映画紹介の関連で、
特別映像を紹介した『Disney's クリスマス・キャロル』の
ロバート・ゼメキス監督から、1968年にビートルズの楽曲提
供と声優、それにエンディングの実写出演でも話題になった
アニメーション作品“Yellow Submarine”を3Dでリメイク
する計画が発表された。
 計画を進めているのはディズニーで、同社とゼメキスは、
お得意のパフォーマンス・キャプチャーを使って3D映画化
を行い、2012年のロンドン・オリンピックに合せた公開を狙
っているとのことだ。この他にも両者は、ブロードウェイで
のミュージカル化やシルク・ド・ソレイユによる舞台化も検
討しているそうだ。
 オリジナルは、ノーマン・マクラーレンらも所属したカナ
ダNFBの出身で、1964年ブレーク・エドワーズ監督の『暗
闇でどっきり』(A Shot in the Dark)のオープニングアニ
メーションも手掛けたとされるジョージ・ダニングの監督作
品。その物語は、サージェントペッパーが作り上げた海底の
パラダイス=ペッパーランドが危機に瀕し、それを救うため
に黄色い潜水艦に乗ったバンドマンたちが活躍するというも
の。そしてそのバンドマンの声優をビートルズが務め、彼ら
の楽曲も演奏されたものだ。
 このオリジナルは1969年に日本でも公開され、同時に出版
されたピクチャーブックも話題となり、黄色い潜水艦のキャ
ラクターはその後も長く親しまれた。
 その作品をパフォーマンス・キャプチャーということは、
かなり実写に近い映像でリメイクすることになると思われる
が、オリジナルのアニメーションの雰囲気をどこまで残すこ
とができるか、ゼメキス監督なら間違いはないと思うが、気
になるところだ。
 因にゼメキスの発言によると、すでにオリジナルで演奏さ
れた16曲のビートルズの楽曲の使用権は契約しているとのこ
とで、その楽曲を残した形でのリメイクになるようだ。
        *         *
 お次は新しい話題で、昨年11月に亡くなったベストセラー
作家マイクル・クライトンの遺作とされる作品の映画化権が
ドリームワークスと契約され、スティーヴン・スピルバーグ
の監督で製作される可能性が高まっている。
 その作品は“Pirate Latitudes”と題されているもので、
1665年のジャマイカ、ポート・ロイヤルを舞台にした題名の
通りの海賊もの。詳しい内容は不明だが、当時の世界で最も
裕福な街と呼ばれた湊町を背景に、各国から散集する多数の
船舶や、その船一杯に積まれた財宝などに彩られたアクショ
ン・アドヴェンチャーが展開されることになりそうだ。
 因に、クライトンは死去の前にこの作品を完成させていた
もので、原稿は完全な形で残されていたものを秘書が発見し
て、その原作は今年11月24日にハーパー・コリンズ社から出
版されることになっている。
 そしてその作品の脚色を担当するのは、スピルバーグ/ク
ライトンの作品では、1993年の『ジュラシック・パーク』と
1997年の『ロスト・ワールド』を手掛けたデイヴィッド・コ
ープ。世界的な大ヒットとなった両作を担当した脚本家が、
題材は違うが再びクライトンの世界に挑戦することになる。
 なお、コープの起用は実績が理由であることは当然だが、
実は『ジュラシック…』ではクライトンが執筆した脚本をコ
ープが完成させたもので、その手腕を買われて『ロスト…』
では最初から脚色を任されていた。従ってクライトン自身が
その力量は認めていたと言えそうだ。またコープは、『宇宙
戦争』『インディ・ジョーンズ』でもスピルバーグ監督作品
を担当しており、エンターテインメント作品ではスピルバー
グが一番信頼している脚本家でもあるようだ。
 スピルバーグの予定では前回紹介したように“Harvey”の
撮影が来年早々に行われる計画だが、本作は順調に行けばそ
の次ぐらいの作品になりそうだ。そして海賊ものと言えば、
ブームの火付け役の“Pirates of the Caribbean”は、前々
回に紹介したようにその第4作の製作が発表されているもの
だが、そのブームの火にさらに油を注ぐような作品を期待し
たいものだ。
        *         *
 前回“Excaliber”リメイクの記事の中で触れたブライア
ン・シンガー監督の“Jack the Giant Killer”は、童話の
大人版ということだったが、さらに同様の作品の登場で、こ
ちらは童話「赤ずきん」を“The Girl With the Red Riding
Hood”という題名で映画化する計画が進められている。
 計画を進めているのは、レオナルド・ディカプリオ主宰の
製作プロダクションのアピアン・ウェイ。発表によるとこの
脚本は、2009年公開の“Orphan”(『エスター』という邦題
で10月日本公開が決定したようだ)が話題になっている脚本
家デイヴィッド・レスリー・ジョンスンが手掛けたもので、
その物語では狼を人狼とし、10代の若者たちの恋の三角関係
を絡めてゴシック風の物語が展開されるとのことだ。
 なお、童話の「赤ずきん」はぺローの童話集やグリム兄弟
の著作にも収載されているものだが、元々の伝承では狼を人
狼としているものも多いのだそうで、その意味では今回の映
画化も間違いではなさそうだ。そして“Orphan”にはかなり
強力なホラーという情報もあり、面白くなりそうだ。
 そしてこの計画に、『トワイライト−初恋−』を手掛けた
キャサリン・ハードウィック監督の参加も発表された。ヴァ
ンパイアからウェアウルフというのは順当な流れかな。さら
に本作では、ディカプリオの出演も噂されているものだが、
一体どんな役柄で登場するのだろうか。
 ただしハードウィック監督は、ソニーで“Maximum Ride”
と“21 Jump Street”、さらにサミットで“If I Stay”、
オーヴァチュアで“Hamlet”などの作品にも関っており、ど
れが先行するかが明確ではないようだ。
        *         *
 製作ニュースもう1つはちょっと気になる情報で、2011年
5月6日全米公開が予定されている“Spider-Man 4”に続く
“5”“6”の脚本に、『ゾディアック』などのジェームズ・
ヴァンダービルトとの契約がコロムビアから発表された。
 普通この種の発表は歓迎されるものだと思うのだが、今回
は少し事情があって、実はヴァンダービルトは“4”の最初
の脚本家でもあったのだ。しかしこの時、新たな3部作を構
築したいとする脚本家の構想に、毎作読み切りで行きたいと
するサム・ライミ監督が難色を示し、3部作に亘る脚本家の
アイデアは殆ど削除して、来年撮影される“4”には、新た
にゲイリー・ロスらによる脚本が作られてしまった。
 という経緯のあるヴァンダービルトとの契約だが、ここに
はシリーズは間を置かずに連続して公開したいというコロム
ビア側の意向もあるようで、その点でのライミ監督との考え
の違いも表面化してきたようだ。
 とりあえず“Spider-Man 4”の製作は、トビー・マクガイ
ア、キルスティン・ダンストの共演、サム・ライミ監督で進
められることは確定のようだが、その後の“5”“6”がどう
なるかは流動的になってきた。しかしその製作が遅れること
はコロムビアの最初の意図からも外れる訳で、今後の動きが
注目されそうだ。
        *         *
 今回は最後に、ちょっと珍しい映像体験の報告をしておき
たい。
 8月上旬に富山まで旅行をしたのだが、その際に北越急行
ほくほく線のゆめぞら号に乗車してきた。この路線は、新潟
県の越後湯沢と直江津の間をおよそ1時間で結んでいるもの
だが、山岳地帯を横断するために全線の約7割がトンネルと
なっている。このため車窓の風景を楽しめない代りに、何と
その一部の列車で、トンネル内走行中、車室の天井に映像が
写し出されるシステムが設けられているのだ。
 その映像は、現在までに「星座編」「花火編」「天空編」
「海中編」「宇宙編」の5種類が用意されていて季節ごとに
替えられるということだが、僕が乗車したときには夏に合わ
せた「花火編」が上映されていた。その内容は、クラシック
の「美しき青きドナウ」から、ジャズ風、邦楽風、ポップス
調、さらには祭囃し風、そして最後は「カルメン」で締め括
られるBGMに合わせ、CGIによる花火の映像が天井一杯
に繰り広げられるもので、中には現実には有り得ないような
花火もあって、かなりの迫力で観られた。
 因に映像は、両サイドの網棚の位置に設けられた7台ずつ
計14台のプロジェクターから投影されているものだが、僕ら
の目から観ればその繋ぎ目の位置は判るものの、各プロジェ
クターからの映像のシンクロが上手くて、上映中はほとんど
気にならなかった。特に「花火編」では終盤で、車両の前後
から2匹のドラゴンが飛び出し、中央でぶつかり合うという
映像が、左右に蛇行する龍がそれぞれのプロジェクターで分
担されているのだが、その繋ぎの上手さと花火特有の煌めく
映像で、見事に胡麻かさせれているものだ。
 個人的には今年春の新作という「宇宙編」を観てみたかっ
たが、季節ごとの上映ではなかなか思うものは観られないよ
うだ。しかしまた機会があったら乗車したいという思いは生
じた。上映のスケジュールなどが公開されるとありがたい。
 なお僕は青春18きっぷを利用しての旅行だったが、この区
間は第3セクターのために別の乗車料金が必要になる。ただ
し路線の両端はJR線内なので、検札もないと通り抜けてし
まう乗客の把握は難しいようだ。そこで僕の考えでは、現行
では形式張っているだけの「精算済証」に替えて、上映作品
の写真でも添えたカードにでもすれば、乗車の記念になりそ
うな感じもした。その費用は安くはないだろうが、作品と共
にスポンサーでも付ければ経費は削減できるだろうし、今後
も作品を増やすのであれば、スポンサーを付けることは営業
的にも面白い感じがするが、いかがなものだろうか。
 とりあえず映像マニアにはお勧めの路線を紹介した。



2009年08月23日(日) PUSH、男と女の不都合な真実、アンを探して、副王家の一族、携帯彼氏、脳内ニューヨーク+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『PUSH−光と闇の能力者』“Push”
2003年4月に紹介した『ギャングスター・ナンバー1』や、
2006年11月紹介の『ラッキーナンバー7』などのポール・マ
クギガン監督が、現代の香港を舞台に超能力者同士の戦いを
描いたアクション作品。
ナチスによる超能力研究が密かにアメリカ政府によって継承
され、超能力を持つ者が拉致されては研究材料として過酷な
実験が繰り返されてきたとする設定で、その研究施設から逃
亡した者たちと、それを追う政府、そして中国人組織が三つ
巴の戦いを繰り広げる。
主人公は、ギャンブルのダイスもまともに操れないほどのし
ょぼい念動力の持ち主。彼は幼い頃に父親と共に拉致されて
いた施設を、父親の犠牲と引き換えに逃亡したが、その際に
父親からは「花を持った少女が現れたら協力するように」と
遺言されていた。
そんな主人公は、政府の追手に所在を把握されることもある
が、能力のしょぼさ故か野放しとなっている。街にはそんな
超能力者も多数隠れ住んでいるようだ。そしてその街=香港
には中国人の超能力者組織も暗躍していた。
そして1人の女性が新たに組織から逃亡する。彼女は施設の
重要な秘密を握っており、彼女に協力すれば施設に拉致され
た人々を救出できるかもしれない。そんな期待を持って主人
公たちは動き出すのだが…
念動力や未来予知、他人に思念を押しつける能力など、さま
ざまな超能力が交錯し、互いに裏を掻きながらの闘争が始ま
る。
そんな物語が、『ファンタスティック・フォー』のクリス・
エヴァンス、『宇宙戦争』のダコタ・ファニング、『紀元前
1万年』のカミーラ・ベル、『ストリートファイター』のミ
ンナ・ウェン、『ブラッド・ダイヤモンド』のジャイモン・
フンスーらによって演じられて行く。
超能力者同士の闘いというと、最近ではVFXのお陰でいろ
いろな超能力の映像表現が可能になったためか、テレビシリ
ーズの『ヒーローズ』や、映画では2008年『ジャンパー』な
ど一種ブームのようにもなっている感じだ。
それで観る方もいろいろな超能力が楽しめる訳だが、そこは
やはり物語にも捻りが無いと面白くない。その点で言うとこ
の作品は、超能力者同士が裏を掻き合うということでは捻り
も見事だし、結末も満足できるものになっていた。
多彩な超能力が発揮されるアクションシーンも見事だし、そ
れに上記の若手中心の出演者たちの演技も楽しめる作品だっ
た。

『男と女の不都合な真実』“The Ugly Truth”
主人公は、硬軟取り混ぜた朝のニュースショーを取り仕切る
女性プロデューサー。しかし彼女自身は仕事に追われて恋も
ままならず、しかも番組は、出演者間の不和などもあって視
聴率も下がり気味で…そんなストレスの塊のような女性の恋
愛事情を描いたコメディ。
そんな彼女が、ある日お見合いデートに失敗しての深夜帰宅
で、1人の男が担当している生放送の恋愛相談番組を観てし
まう。しかも男の言い様に立腹した彼女は、思わず番組に電
話を掛けて男と対決してしまうのだが…
その翌日、企画会議を始めた彼女の前に番組の梃入れと称し
てその男が現れる。そして番組に登場した男は出演者の心理
なども読みまくって番組を席巻し、視聴率も押し上げてしま
う。その上その男は、主人公の恋愛事情にもちょっかいを出
し始め…
この主人公を『ロズウェル』や『幸せになるための27のドレ
ス』などのキャサリン・ハイグルが演じ、彼女の恋にちょっ
かいを出す男に、『300』『P.S.アイラヴユー』などの
ジェラルド・バトラーが扮する。
『P.S.…』ではヒラリー・スワンクの恋を操ったバトラー
が、今度はハイグルの恋を演出する…という感じだが、メデ
ィア業界に生きる女性の恋愛事情ということでは前々回に紹
介した『あなたは私の婿になる』も髣髴とさせる作品だ。
実は、本作の試写を観る直前に『あなたは…』の宣伝担当者
から電話で同作の意見を聞かれたのだが、そこで『あなたは
…』の男性主人公が、元々女性主人公を好きだったという持
論を述べたら、女性の担当者は意外という反応だった。
しかし『あなたは…』の彼は、元々恋愛感情がなければ彼女
に3年も従っている訳はないし、すでに彼には恋心があった
と観るのが男性の心理だろう。その辺の感覚が、多分男性の
脚本家ピーター・チアレッリによって見事に描かれていたも
のだ。
それに対して本作の脚本家はニコール・イーストマンらの女
性陣。実は僕自身、バトラーの演じたキャラクターの心理に
は多少の違和感を覚えるのだが、その辺が女性の眼なのかと
思うと、ちょっとニヤリとするところだ。
つまり本作と『あなたは…』は、良く似たシチュエーション
でありながら真逆の描き方がなされているもので、それぞれ
は男性の心理と女性の心理を見事に描いているようだ。それ
を比較してみるのも面白い。
因に、『あなたは…』の監督は女性で本作の監督は男性とい
うところにも、その特徴が明確に現れたようだ。

観るなら両方観るべし、そして異性と意見を述べ合ってみる
のも面白そうだ。

『アンを探して』
『赤毛のアン』の舞台プリンス・エドワード島を訪れた日本
人の少女と彼女を取り巻く人間模様を描いた作品。
少女は、祖母がインターネットで知り合ったという島在住の
女性を訪ねて1人でやってくる。その女性は日本人の建築家
と結婚してその場所に住んでいるが、その夫はすでに亡く、
女性は亡夫以外の男性を敬遠しているようだ。
そして少女は、島を訪れた目的として50基以上あるという灯
台を順に見に行き始めるが…実は彼女には隠した別の目的も
あった。それは一緒に来るはずだった祖母が心に秘めていた
人生の1頁を捲るものでもあった。
物語の中では、村岡花子訳の『赤毛のアン』の一部が朗読さ
れるなどモンゴメリの作品を意識したものになっているが、
『アン』の現代版は作らないというコンセプトで、第2次大
戦にまで遡るいろいろな出来事が織り込まれる。
そんな物語が、6月に公開された『はりまや橋』などの新人
女優穂のかが演じる主人公を中心に、ロザンナ、吉行和子、
さらにジョン・ウェインとの共演歴もあるというカナダ人俳
優ダニエル・ピロンらの共演で描かれる。
因に、とんねるず石橋貴明の娘で子供の頃はハワイで成長し
たという穂のかは、自身の英語は堪能だそうだが、映画では
たどたどしい英語でシャイな少女を好演していた。
物語の原案と製作は、『KAMATAKI』などクロード・
ガニオン監督のパートナーとして知られるユリ・ヨシムラ・
ガニオン。脚本と監督は、『KAMATAKI』で助監督を
務めた宮平貴子。
僕自身は『赤毛のアン』に思い入れのある人間ではないが、
映画では小説に書かれたアンの言葉が主人公たちを導いて行
く。そんな物語が、現地ロケされたプリンス・エドワード島
の自然の中で丁寧に描かれていた。
また物語の背景には第2次大戦が存在するが、戦争を美化す
ることなく描いていることにも好感が持てた。
なお、劇中でロザンナ扮する未亡人が亡き夫について語るシ
ーンがあり、それはロザンナ本人の思いにも重なって感動的
なシーンになっていた。ずるいと言えばずるい仕掛けかもし
れないが、それも映画というところだろう。

『副王家の一族』“I vicerè”
19世紀後半から20世紀初頭のイタリア、シチリア島を舞台に
した歴史ドラマ。
当時のイタリアはまだ国家統一が成されておらず、その中で
のシチリア島はスペイン・ブルボン家の領地としてスペイン
国王に任命された副王によって統治されていた。
主人公はそんな副王家に長男として生まれる。しかし厳格な
父親のしつけは厳しく、常に拷問まがいの心身の鍛練に明け
暮れていた。そしてそんな主人公は、父親の弟で旅行などに
自由を享受している叔父の暮らし振りに憧れていた。
一方、時代の流れの中でイタリアにも貴族を排除して民主化
を求める民衆の声が高まってくる。ところが父親は、「王の
治世には王の友。貧民の世には貧民の友」と言い放ち、貴族
社会が終焉した中でも巧みに世渡りを続けて行く。
そのやり方は奸計や策謀を弄し、家族や子供をも道具に使う
悪辣なものだった。
そんな父親に反発しながらもその呪縛から逃れられない主人
公。そして国王の名の許に行政から宗教まで支配する父親。
その父親に勘当された主人公は修道院に送られるが…、そこ
に観た修道院は修錬とは名ばかりの淫行に明け暮れていた。
原作は1894年に発表された小説だそうで、実際に当時の状況
を生々しく描いたものなのだろう。そしてこの原作からは、
1963年にルキノ・ヴィスコンティが映画化した『山猫』の原
作者も影響を受けたとされている。
ただし、この映画では1912年第1回イタリア国会開催までが
描かれ、つまりその部分は映画化の際の加筆であるようだ。
しかしその加筆部分に描かれる内容はかなり辛辣で、結局は
何が起きても何も変わらないイタリア政治の悪夢が描かれて
いる感じもした。
それがイタリア人にとっての政治意識なのかも知れないが、
今まさに日本でも政権交代が成されようとしているときに、
この結局は何も変わらないという感覚は皮肉にも取れるとこ
ろだ。
監督は1983年“Copkiller”というSF風作品もあるという
ロベルト・ファエンツア。衣装を『時計仕掛けのオレンジ』
や『バリー・リンドン』などを手掛け、後者でオスカーを受
賞したミレーナ・カノネロが担当している。

『携帯彼氏』
携帯ゲームが引き起こす死の恐怖を描いたホラー作品。
「携帯彼氏」それは女性向けの携帯電話を利用した恋愛ゲー
ム。ゲームのサイトで自分の好みの男性のキャラクターを作
成し、そのキャラクター相手にメールのやりとりをして、そ
の内容に応じてポイントが上下する…もののようだ。
ところが、主人公の友人の1人がゲームに填って家に閉じ籠
もり、挙げ句の果てに自殺するという事態が発生する。しか
も、その携帯電話からキャラクターを転送した人物も死に追
い込まれる。
そしてその2つの死の現場に居合わせることになった主人公
は、警察の事情聴取の際にそのことを訴えるのだが、当然警
察は取り合ってくれない。その上、主人公の親友や主人公自
身の携帯にもそのゲームが侵入して…
2004年に公開された『着信アリ』は、整合性のまるでない物
語のあまりのいい加減さに呆れ果て、虚仮脅かしのショック
シーンの羅列にも辟易して、試写は観たもののサイトでは紹
介しなかった。だからその亜流に観える本作にはあまり期待
もしなかった。
しかも、原作が携帯小説と聞いて一層退いた気分にもなって
いたのだが…。でも本作を観終えた時には、世の中にはこう
いう作品にも真剣に取り組んでくれる人がいることが判って
本当に嬉しくなったものだ。
2004年の作品の時には、主人公を含む不特定多数が襲われる
理由付けなどがまるで無く、それでよくもまあ物語を発表す
るものだとも呆れたものだったが、本作ではその経緯が見事
に物語として成立している。
しかもそこには主人公自身が深く関っているという展開も見
事だし、さらにその現象が起きた仕組みや、その解決方法ま
でもが理路整然と描かれている。勿論それはフィクションの
ものではあるが、それなりの納得のできる展開となっていた
ものだ。
さらにその背景となる話が、それなりに社会性のあるものに
なっているなど、本当に感心する物語が展開されていた。原
作は読んでいないが、携帯小説にもこれだけのものを書ける
作家が出てきたということなのだろう。
さらにそれを真面目に脚色し映画化できる脚本家、監督も育
ってきたということだ。その脚本は、『リアル鬼ごっこ』の
柴田一成、監督は、黒沢清の推薦で抜擢され本作が長編デビ
ュー作という船曳真珠が担当している。特に女性監督の手腕
は今後も期待できそうだ。
出演は、テレビドラマ『ブラディ・マンディ』などの川島海
荷、同『ゴッドハンド輝』の朝倉あき、さらに『ごくせん』
の石黒英雄。その脇を、小木茂光、星野真理、大西結花らが
固めている。
過去の名作から引いてきたようなシーンも随所にあるが、そ
れがちゃんと作品に填っている点も感心した。特に『P.S.
アイラヴユー』の名台詞が見事に再現されているのも嬉しか
った。

『脳内ニューヨーク』“Synecdoche, New York”
スパイク・ジョーンズ監督で2003年5月に紹介した『アダプ
テーション』や、ミシェル・ゴンドリー監督で2005年1月紹
介の『エターナル・サンシャイン』などを手掛けた脚本家の
チャーリー・カウフマンが満を持して挑んだ初監督作品。
物語は、仕事には恵まれているが家族関係に問題を抱えるブ
ロードウェイの舞台監督が主人公。彼には家族関係が破綻し
たところに名誉ある賞の受賞が知らされる。そこで主人公は
その賞金を使って巨大な倉庫の中に実物大のニューヨークの
セットを建設し、そこに彼自身のニューヨークを再構築しよ
うとする。
その舞台には彼の構想に賛同する多数の俳優が参集し、そこ
には彼自身の配役もあって、虚実が混交する舞台が作られて
行く。ところが彼の頭の中で膨らむ一方の作品には方向性が
見出せず、リハーサルばかりの状態が17年も続いてしまう。
そして虚実が混ざり合う中で出演者が死ぬ事態も発生し…
それに並行して主人公自身の姿も描かれて行くが、それもま
た壮絶な物語になって行く。
カウフマンの脚本は、先に紹介した作品でも虚実の境が曖昧
というか複雑な構成を採っているが、本作のそれはさらにそ
の世界が拡大している感じのするものだ。そこには前作以上
に多くの人物が関り、より壮大な物語となって行く。
しかし物語の本筋は主人公に関るものであり、その部分では
紛れもない男の人生のドラマが描かれる。その部分の明確さ
で観客は物語について行けるし、物語に違和感も感じさせな
いものになっている。物語の中で主人公は「天才賞」と呼ば
れる賞を受賞するが、正にこの脚本と演出もそれに値する作
品と言えるものだ。
出演は、主人公の舞台監督にフィリップ・セーモア・ホフマ
ン、彼を取り巻く女性たちに『マイノリティ・リポート』の
サマンサ・モートン、『ブローバック・マウンテン』のミシ
ェル・ウィリアムズ、『カポーティ』のキャスリーン・キー
ナー。
さらに『ウォーター・ホース』のエミリー・ワトスン、『パ
ッセンジャーズ』のダイアン・ウィースト、『未来は今』の
ジェニファー・ジェースン・リー、『アトランティスのここ
ろ』のホープ・デイヴィス、『ラスト・アクション・ヒーロ
ー』のトム・ヌーナンらが脇を固めている。
なおこの作品に関しては、今年2月1日付第176回のVES
賞候補の紹介の中でも触れている。残念ながら本作は受賞を
逃したが、再現されたニューヨークの景観などは流石に見応
えがあった。因に、これで同賞の今年の実写映画部門の候補
作品は全て日本公開されたことになるようだ。
        *         *
 製作ニュースは前回に引き続きリメイクの話題を2つ。
 まずは、前回も別の計画を紹介したばかりのブライアン・
シンガー監督で、1981年ジョン・ブアマン監督によるアーサ
ー王物語“Excaliber”をリメイクする計画が発表された。
 オリジナルは、岩に刺さった伝説の剣エクスカリバーを引
き抜いた少年が、やがて円卓の騎士を集めて国を治め、最後
は王の命を救わんとする魔法使いマーリンによる聖杯捜しか
ら死出の旅路に至る、正にアーサー王の生涯を描いた作品だ
った。しかもこの作品には、リーアム・ニースン、パトリッ
ク・スチュアート、ヘレン・ミレンらが出演していたことで
も今更ながら話題になっているようだ。
 そんな作品のリメイクだが、実はこの計画はシンガー監督
がニューラインで“Jack the Giant Killer”の企画を進め
ていたときに挙がってきたものだそうで、その際の共同製作
だったレジェンダリー・ピクチャーズが話をワーナーに持ち
込み、両社が権利の獲得に動いて実現の運びとなったという
ことだ。ブアマン監督の映画化はかなり重厚だった記憶があ
るが、シンガー監督がそれをどのように料理するか、製作開
始までにはまだ少し時間は掛かりそうだが楽しみな作品にな
りそうだ。
 因にシンガーとワーナー+レジェンダリーでは、2006年の
“Superman Returns”の興行成績が少し期待に届かなかった
とされているものだが、今回の計画には当時のワーナーの首
脳だったポリー・コーエンが製作者として名を連ねており、
シンガーへの期待値はまだまだ高いようだ。
 なおシンガー監督の予定では、前回紹介した“Battlestar
Galactica”や“X-Men: First Class”などの計画も発表さ
れているが、実は上記の“Jack the Giant Killer”が次回
作としては最有力とのことで、今年1月15日付第175回では
J・D・カルーソ監督の計画として紹介した童話「ジャック
と豆の木」の大人版と称する作品が次に観られることになり
そうだ。
        *         *
 もう1本は、1981年公開、ピーター・ハイアムズ監督、シ
ョーン・コネリー主演の“Outland”が、2007年“Shoot'Em
Up”などのマイクル・デイヴィス監督でリメイクされること
になった。
 オリジナルは、西部劇の『真昼の決闘』を木星の衛星イオ
を舞台に再話したとされるものだが、荒くれものが集まるチ
タン鉱石の採掘場やそこに併設された酒場、さらにそこには
娼婦がいるなどの描写が、SFファンには多少首を傾げたく
なる作品ではあった。しかし、最後に映る木星には微かに輪
が描かれているなど、最新の科学情報も取り込まれていたも
ので、その製作者の姿勢には納得したものだった。
 その物語がリメイクされるものだが、今回はその脚本を、
昨年12月1日付の第172回で紹介した“The Day Before”の
チャド・セントジョンが担当するとのことで、この脚本家は
以前紹介の時にも一緒に西部劇に企画が挙がっていたから、
SF+西部劇の本作にこれは適任かも知れない。
 そして監督のデイヴィスは、2008年4月に前作『シューテ
ム・アップ』を紹介したときにもほとんど手放しの高評価を
したが、この監督の作品には本当に期待したいものだ。
 なお、オリジナルの公開当時に僕は小松左京監督の『さよ
ならジュピター』に関っていて、最後に木星の輪を観たとき
には「ああ、先を越された」と思ったものだ。そしてその頃
に、製作者のアラン・ラッドJr.が『ジュピター』の脚本を
買いに来たという話を聞いて凄いとも思ったものだが、今に
して思うと、それは“Outland”の製作中だったラッドJr.が
その補強用に脚本を欲しがったということはありそうで、そ
の映画製作の貪欲さも理解したところだ。
 今回のリメイクにもそんな貪欲さを見せてもらいたいもの
だ。



2009年08月16日(日) リミッツ・オブ・コントロール、あいつはカッコよかった、ヤッターマン、ボヴァリー夫人+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『リミッツ・オブ・コントロール』
               “The Limits of Control”
1986年『ダウン・バイ・ロー』などでインディーズ系の映画
ファンには絶大な支持を受けるジム・ジャームッシュ監督に
よる2008年の最新作。前作の2005年“Brokenn Flowers”が
カンヌ国際映画祭で受賞し、乗りに乗っての新作となる。
インディーズ映画というのは、一般に監督が自分の言いたい
ことだけ言ってしまうので、観客には何というか意味不明の
ものが多いが、本作も結局のところは何を描きたいのかはよ
く理解できない。
でもまあ、本作の物語自体はシンプルなのでそれだけ楽しめ
ればいいのかも…ただ本作の物語の裏では巨大な陰謀もあり
そうで、その辺も面白くはあるのだが、それが明確に描き出
されないのは、多分監督にはその方向への興味が余り無いか
らなのだろう。
つまり、その裏にありそうな部分を全部削除してしまう辺り
がジャームッシュの面白さである訳だし、それはそれでファ
ンには支持されるところでもありそうだ。それに、今回は多
彩なゲスト出演者もそれぞれのファンには興味の魅かれるも
のになっている。
物語は、1人の男性がスペインに現れるところから始まる。
男は最終的な仕事は了解しているようだが、そこに至る道筋
がいろいろな人物との小さなマッチ箱に入ったメモによる指
示の受け渡しによって徐々に進められてゆく。
その男性を、ジャームッシュ作品には4作目のイザック・ド
・パンコレが演じ、彼に指示を受け渡す人物として“Broken
Flowers”に出演のティルダ・スウィントン、『ミステリー
・トレイン』の工藤夕貴、『デッドマン』のジョン・ハート
らが登場。さらにガエル・ガルシア・ベルナル、ヒアム・ア
ッバス、ビル・マーレイらが出演している。
一方、物語のキーワードには、ヴァイオリンやギターなどの
楽器が使われたり、美術館に展示されている現代アートや、
フラメンコが登場したりもする。そして舞台はマドリッドか
らアンダルシア地方へと拡がって行く。
まあ、細かいことを言い出したらきりが無くなると思うが、
そんなことは余り考えずに気楽に観れば良い。それだけでも
充分に面白い作品だ。

『あいつはカッコよかった』“그놈은 멋있었다”
韓流ドラマ『秋の童話』などのソン・スンホンが、2004年の
入隊前に出演した最後の作品。本国では同年に公開されてい
るが、当時は日本公開が見送られ、今回はソンの除隊と映画
復帰に合せての公開となるものだ。
主人公は極々平凡な高校生の女子。ある日、自分の通う学校
を中傷するインターネットの書き込みを見つけ、即座にその
反論を書いて送信してしまう。ところが、その最初の書き込
みの主は、問題校の生徒でしかも番長という男子…
そして「打っ殺してやるから校門で待ってろ」という返信に
戦々恐々の彼女だったが、現れたのはイケメンの男子。しか
もひょんなことから2人は交際を始めてしまう。その男子は
喧嘩も滅法強く、彼女にはとことん優しかった。
原作は韓国では1000万クリックを達成したというインターネ
ット小説。因に原作者のクィヨニは、2004年カン・ドヌォン
主演『オオカミの誘惑』の原作者でもあるが、本作はその処
女作とのことだ。
日本でもケータイ小説から映画化が何本か作られているが、
通常の出版では陽の目を観ることはなかったような代物が、
何でも発表できるメディアのお陰で世に出てしまった…。そ
んな作品が目に付くところだ。
本作も御多分に洩れずという感じで、はっきり言って女子の
願望が満載された男性から観れば辟易するような物語が展開
される。
それに、この種の作品が持て囃されるのには、過去の文学作
品にはなかった新鮮なアイデアを評価する向きもあるが、そ
れは新鮮というより単に非常識なだけということもこの作品
を観ていると良く判る。正に常識では有り得ない展開の連続
なのだ。
でもまあ、それが一種のメルヘン/ファンタシーという感じ
で評価されてしまうのは、それも時代の流れということなの
だろうし、特に若い女性がそれが受け入れてしまうなら、そ
れも現実として認識しなければいけないところなのだろう。
共演は、2007年の自殺が社会問題化したチョン・ダヒン。他
に、イ・ギウ、キム・ジヘらが脇を固めている。

『ヤッターマン』
今年2月に実写版を紹介したばかりのタツノコプロ製作によ
る元祖アニメシリーズの劇場版。と言っても、現在アニメシ
リーズの新版が日曜朝に放送中だそうで、本作はその劇場版
ということになるようだ。
内容は、いつものいろいろなギャグが満載のものとなるが、
物語としては1本筋の通ったものがあって、そこには、ガン
ちゃんとお父さんによるヤッターワン誕生の秘話や、究極の
ヤッターメカ=ヤッター・キング出現の理由なども描かれて
いる。
その物語は、ガンちゃんのお父さんが某国からの招待を受け
て「おもちゃランド」の建設に向かうところから始まる。お
陰でガンちゃんとアイちゃんは、夏休みも返上で店番とヤッ
ターメカの修理に忙殺されることになる。
ところが、そんな2人にも「おもちゃランド」完成祝賀会へ
の招待状が届く。そこはブリキン国王に治められた王国で、
高さ1000mの柱の上に立てられた居城を中心に多彩なおもち
ゃの国が形成されていた。
一方、その王国にドクロリングがあるらしいとの指示を受け
たドロンボー一味もその国にやってくるが…その国には別の
陰謀が渦巻いていた。そして巻き起こる地球壊滅危機一髪の
事態に、歴代ヤッターメカ総出動の作戦が展開される。
実は、その陰謀の主が発動する地球壊滅のメカニズムは、そ
んな程度じゃ地球は壊れないよ…という代物なのだが、これ
には映画冒頭で別のエピソードが描かれていて、それからの
類推ではちょっとニヤリとするところもあった。

もちろんそれだって科学的には無理なものだが、アニメ的な
虚構の科学としてはありかな…というくらいには考えられて
いた。そんな訳でこの脚本は案外真面目に物語を作っている
のかなという感じで、ちょっと見直してしまった。
因に脚本を担当した高橋ナツコと渡邊大輔は、『なるほど!
ザ・ワールド』なども手掛けていたベテラン構成作家のよう
で、その辺の見識が役に立っていそうだ。
声優は、テレビアニメのベテランたちが中心だが、劇場版に
有り勝ちなゲスト声優では、お笑いコンビ=オードリーの春
日と若林が、ちょっと捻った役どころにも挑戦している。そ
れからドロンジョ様は当然小原乃梨子だが、その声を聞いて
いると実写版の深田恭子が結構頑張って真似ていたことも判
って面白かった。

『ボヴァリー夫人』“Спаси и сохрани”
2002年11月に紹介した『エルミタージュの幻想』や昨年10月
紹介の『チェチェンへ』などのアレクサンドル・ソクーロフ
監督が1989年に発表し、同年のモントリオール世界映画祭で
受賞を果たした作品。
19世紀フランスの作家グスタフ・フローベールの原作に基づ
き、主人公エマ・ボヴァリーの奔放な生活振りを濃厚なエロ
ティック描写と共に描く。
ただし本作は、原作の全体を映画化したものではなく、その
ためロシア語の原題も原作と異なっているし、一般的な英語
タイトルでは“Save and Protect”となっている場合が多い
ようだ。つまり“Madame Bovary”で検索しても本作は中々
見つからなかった。
その映画は、いきなり主人公が高価なショールや扇を品定め
しているところから始まる。そしてそれらの商品は購入され
るのだが、勧めた商人は値段をはっきりさせず、全部ツケに
して置くと言う。こんな状況が主人公の末路を最初から暗示
しているようだ。
そんな主人公は町医者の妻に納まっている。その夫は訪れた
患者に新しい治療法を試みるなど、それなりの人物ではある
ようなのだが、主人公はそんな夫に飽きたらず、出入りの商
人やその他の若い男性とも情事を重ねている。
そんな主人公の生活振りが、ハエだらけの食卓や窓の外に観
える廃虚のような風景など、ちょっと異様な映像の中で繰り
広げられて行く。そしてそれは冒頭のシーンが暗示していた
ような末路へと向かって行く。
正直なところ映画は、冒頭の唐突なシーンを含めて、ほとん
どのシーンが状況の説明なしに展開される。これは原作を読
んでいないと判り難いかとも思われるが、実際に僕は原作を
読んでいなくても話は判ったのだから、それなりの描き方で
はあったのだろう。
なお、映画祭などで上映されたオリジナル版は165分あった
ようだが、今回の公開では監督自身が再編集した128分のも
のが上映される。そのせいで状況の説明が無くなっている可
能性もあるが、それも監督の意志ということのようだ。
それにしてもこの主人公の姿は、目標を見失って浪費に走る
など…現代の若者にも通じるような感じもして、その点でも
興味深かった。
        *         *
 後は製作ニュースを紹介しよう。
 その最初は、僕にとっては1978年に『スター・ウォーズ』
のブームに乗って放送された往年のテレビシリーズだが、ア
メリカでは2004年に登場した新シリーズが話題になっている
“Battlestar Galactica”に関して、その映画版がユニヴァ
ーサルで計画され、その製作監督に『スーパーマン・リター
ンズ』のブライアン・シンガーの契約が発表された。
 元々シンガー監督はオリジナルシリーズの大ファンで、新
シリーズの立上げにも深く関わっていたそうだが、その頃か
ら映画版の“X-Men”の製作が忙しくなり、最終的にテレビ
シリーズからは手を引いたという経緯もあったようだ。しか
しその当時は同シリーズを‘a sleeping giant’と呼んで、
愛着を隠さなかったとされている。
 そんな作品に再度関わることになったシンガー監督だが、
実は今回の計画では、現テレビシリーズの製作と脚本を手掛
けるロナルド・モーアの去就が不明で、評価の高い現シリー
ズと映画版との関係がどのようになるかも明確ではないよう
だ。ただし、オリジナルを手掛けたグレン・A・ラースンの
参加は発表されている。
 因に、現在のテレビシリーズはオリジナルのリメイクでは
なくリイメージングしたとされているものだが、今回の発表
でユニヴァーサルからは‘a complete reimagination’との
発表もされており、さらに新たな発想での新作が作られるこ
とになるようだ。とは言え、現シリーズでは出演俳優にも人
気が高まっているようで、その辺をどのように調整するかも
気になるところだ。
 ただしシンガー監督には、“X-Men: First Class”という
作品で“X-Men”シリーズに復帰するとの噂もあり、この復
帰作の脚本はテレビシリーズ“The O.C.”などのジョッシュ
・シュワルツが第1稿を書き上げているという情報もある。
従って2作のどちらが先行するかは不明。いずれにしてもシ
ンガー監督の動向には注目しておくことにしよう。
        *         *
 お次は、その“X-Men”シリーズというかファミリーの情
報で、今夏公開の最新作“X-Men Origins: Wolverine”に続
編の計画が発表されている。
 全米では5月3日の公開第1週に8500万ドルの興行収入を
挙げ、その後の13週を経て1億8000万ドルにも近づいている
ヒット作に続編の計画は当然だが、今回の情報ではその脚本
家としてブライアン・シンガー監督作品『ワルキューレ』を
手掛けたクリストファー・マカリーの契約が報告された。因
にマカリーは、2000年のシリーズ第1作でもシンガー監督と
共に脚本に関っていたそうだが、最終的にデイヴィッド・ベ
ニオフの名前になった完成版ではクレジットされなかったと
のことだ。
 というマカリーのこちらもシリーズ復帰となりそうだが、
その物語は、クリス・クレモントとフランク・ミラーによる
日本を舞台にしたシリーズ“The Samurai”を原作とするも
ので、この中ではウルヴァリンが侍になってしまうとのこと
だ。そしてマカリーは、その原作に基づくストーリー概要を
映画会社に提出し、会社側がそれを認めて契約に踏み切った
もののようだ。なお“Wolverine”の第1作はベニオフが脚
本を手掛けたもので、マカリーはその手から脚本を取り戻し
たことにもなりそうだ。
 一方、ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンの再登場は
すでに契約されているとの情報もあり、ヒット作の余韻が冷
めないうちの製作準備は急ピッチで進められそうだ。
 それにしても“X-Men”というのは基本的に第2次大戦後
の話のはずなのだが、そこに侍とは…一体どうなってしまう
のだろう。それからファミリー展開の当初はその発端を描く
“X-Men Origins: Magneto”という計画もあったものだが、
そっちはどうなったのかな。
        *         *
 続いてはリメイクの情報を2本ほど紹介しよう。
 まずは、2003年3月15日付第35回などで紹介したコメディ
ファンタシー“Harvey”のリメイクが、スティーヴン・スピ
ルバーグ監督の次回作として来年早々に製作されることが発
表された。
 今ならイマジナリー・フレンドと呼んでしまいそうな身長
6フィート半のウサギが登場するメアリー・チェイス原作の
戯曲は1945年のピュリッツァ賞を受賞、さらに1950年に原作
者自身の脚色で映画化された作品では、共演のジョセフィン
・ハルにオスカー助演賞受賞と、主演のジミー・スチュアー
トには主演賞のノミネートをもたらしたものだ。
 その作品のリメイクについては、以前に紹介した当時には
MGMが権利を持って進めていたものだが、その権利が昨年
失効して新たにFox 2000が再契約を行い、その権利に基づく
リメイクがフォックスとドリームワークスの共同で行われる
ことになっている。
 そしてその監督に、ドリームワークスの主宰者でもあるス
ピルバーグが名告りを挙げたものだ。なおその切っ掛けは、
実は今回の映画化の脚色を、スピルバーグとは『マイノリテ
ィ・リポート』の製作に協力したというベストセラー作家の
ジョナサン・トロッパーが手掛けており、トロッパーが完成
した脚本をスピルバーグに送付、それを一読したスピルバー
グが直ちに動いたのだそうだ。
 因にスピルバーグの計画では、リーアム・ニースン主演に
よる歴史物の“Lincoln”や、アドヴェンチャシリーズ“The
39 Clues”の映画化なども報告されているものだが、実は、
昨年来のドリームワークスの動きの中で、以前にパラマウン
トとの契約で進んでいた作品は完成後の処遇が不明確になる
恐れがあり、スピルバーグとしては新規の計画を優先したい
気持ちもあるようだ。
 そんな中での今回の発表となったものだが、今回の作品は
フォックスとの共同製作とのことで、配給権はフォックスと
現在ドリームワークスが契約しているディズニーとの間で交
渉されることになる。一般的にこの種の交渉では、アメリカ
国内と海外の配給権を分割することになるものだが、さてど
ちらがどちらを取ることになるのだろうか。
 なお出演者では、オリジナルがオスカー候補になった主役
にはトム・ハンクスやウィル・スミスの名前も挙がっていた
ようだが、この内のハンクスはスケジュールの都合で断念を
表明している。また、以前の報告ではジョン・トラヴォルタ
が契約まで進んでいたものだが、その契約はキャンセルされ
ているものの、本人の気持ちはどうなのかな。その辺も注目
されるところだ。
        *         *
 もう1本は、1982年にドン・ブルース監督でアニメーショ
ン化されたロバート・C・オブライエン原作の“Mrs.Frisby
and the Rats of NIMH”(映画化名:The Secret of NIMH)
をリメイクする計画が発表されている。
 この作品は、郊外の農場に住む未亡人ネズミが、彼女の息
子の病気を診てもらうために、秘密の研究所NIMHから逃亡し
てきたとされる天才ネズミに会いに行くというもの。その間
に彼女が遭遇するいろいろな冒険や、彼女を援助する仲間の
ネズミたちの活躍が描かれて行く。
 その原作から以前の映画化ではブルース監督が独自のスト
ーリーを展開していたもので、実は上記の物語もその映画化
のものだが、今回は新たに原作に沿った脚色がされることに
なるようだ。そしてその脚色及び監督に、2008年3月に紹介
した『幻影師アイゼンハイム』などのニール・バーガーとの
交渉が公表されている。
 因に『幻影師…』では、以前の紹介でも書いたようにバー
ガーが手掛けたその脚色も素晴らしいものだったが、今回の
交渉もそれを期待されてのことだろう。ブルースの冒険一杯
の脚色に対してどのようなストーリーを展開してくるかにも
興味が湧くところだ。
 なお今回の映画化は、アニメーションか実写か、それとも
それらのコンビネーションになるかも明らかにはされていな
いが、製作元のパラマウントは2006年“Charlotte's Web”
の実績もあるところだし、最適の手段を見つけてもらいたい
ものだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、最初もテレビシリーズからの作品
だったが、最後もその関係で、『ハンコック』や『アイアン
マン』などを手掛けたマシュー・グラッツナーというベテラ
ンVFX監督が、1970年代のSFテレビシリーズ“U.F.O.”
の映画化で監督デビューを果たすことになった。
 この作品は、『サンダーバード』などの人形劇で人気を博
していたジェリー・アンダースンが俳優を使って製作した特
撮SFシリーズで、異星人による密かな侵略が始まっている
近未来の地球を舞台に、一般には公表されないままに侵略者
との戦いを繰り広げる秘密組織の活動が描かれている。日本
では1970年−71年に日本テレビ系で『謎の円盤UFO』の邦
題で放送され、今でも評価は高いものだ。
 そして今回の映画化では、グラッツナーが自ら興したプロ
ダクションでオリジナルの権利を保有するITVと交渉し、
その契約に基づいての映画化が行われることになっている。
なおグラッツナーは、「アンダースン氏が作り上げた“U.F.
O.”の物語やキャラクター、状況などは、時を越えて現代に
も通じるものであり、自分はVFXをそのストーリーを語る
道具にして、観客をこの世界に引き摺り込むようにしたい」
と初監督に意欲を燃やしているようだ。
 脚本は、ライアン・ゴーデットとジョセフ・カナレックと
いう2人が執筆していて、グラッツナーのプロダクションで
はその脚本が完成し次第、コンセプトアートやプレヴィジョ
ン化を行い、それを持って資金の調達や配給権の交渉などを
開始したい意向のようだ。まだしばらく時間は掛かりそうだ
が、2004年版“Thunderbirds”のような間違いを犯さずに、
納得のできる作品を期待したいものだ。
        *         *
 ついでにもう1本、ワーナーとレオナルド・ディカプリオ
が1960年代のテレビシリーズ“Twilight Zone”の再映画化
の計画を発表した。
 この作品からは1983年にスピルバーグらの製作による映画
化もあるが、今回は1999年『ノイズ』などのランド・ラヴィ
ックが脚本監督を務めるとのことで、具体的な内容などは不
明だが、これもちょっと期待したいところだ。



2009年08月09日(日) 母なる証明、ピリペンコさんの手づくり潜水艦、僕らのワンダフルデイズ、無防備、犬と猫と人間と、動くな死ね甦れ!+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『母なる証明』“마더”
2003年『殺人の追憶』などのポン・ジュノ監督の最新作。ワ
ールドプレミアの行われたカンヌ映画祭では、ある視点部門
の上映にも関わらずレッドカーペットをもって迎えられたと
のことだ。
ポン監督の作品では、前作『グエムル−漢江の怪物−』も紹
介しているが、正直にはあまり感心しなかったハリウッド的
大作の次には、見事に『殺人の追憶』を髣髴とさせる人間ド
ラマが描き出された。
物語は、郊外には広大なゴルフ場を持つ寒村が舞台。そんな
貧富の差が明確に現れる場所で事件は起こる。それは女子高
校生の惨殺事件。しかも遺体は建物の屋上にこれ見よがしに
放置されるという猟奇ぶり。
そしてその事件の犯人として少年のような純粋な心を持った
若者トジュンが逮捕される。しかしその容疑の裏付けは、ト
ジュンが被害者の後を付けていたという目撃証言と、現場に
残されたトジュンのいたずら書きの記されたゴルフボールの
み。
こんな状況証拠のみの逮捕に、トジュンの無実を信じる母親
が行動を開始する。それは誰も信じることのできない孤独な
闘いだった。
この母親役に、韓国芸能界では「韓国の母親」と称されるキ
ム・ヘジャが数年ぶりの映画主演で挑戦し、トジュンには、
「韓流四天王」の1人と呼ばれたウォンビンが兵役後の5年
振りの復帰作として扮している。
共演は、『甘い人生』などに出演のチン・グ、『グエムル』
などのユン・ジェムン、そして『殺人の追憶』などのチョン
・ミソン。新進気鋭からベテランまで監督が思うままの配役
が揃えられたようだ。
なお、物語の舞台には見事な寒村が描かれるが、実はこれは
1ヶ所で撮影されたものではなく、韓国各地の驚くほど多く
のロケ場所を組み合わせて造り出されたとのこと。それぞれ
のポイントごとに全く違う場所で撮影されていたとは…その
巧みさにも舌を巻いた。
ポン監督の描き出す世界は常にただものではない。そこには
人間の根底に潜む醜さや、隠し切れない実像が炙り出される
ものだ。しかし本作の主人公は純真無垢な若者と、息子の無
実を信じて疑わない母親。その純粋な2人を主人公に、それ
は正に究極の母の愛を描く作品になっていた。

『ピリペンコさんの手づくり潜水艦』
          “Herr Pilipenko und sein U-Boot”
ヨーロッパの穀倉地帯とも呼ばれるウクライナの大草原で、
1人で潜水艦を作り上げた男性を写したドキュメンタリー。
年齢は62歳、すでに年金生活で言ってみれば暇を持て余す身
分。それにしても、草原地帯で潜水艦とはずいぶん場違いな
感じだが、元々ウクライナには「草原の潜水艦」という慣用
句があるそうで、本来は「思い掛けないこと」と言うような
意味のようだが、それを実践してしまったと言うものだ。
とは言うものの、その潜水艦はスクラップを寄せ集めたよう
な代物ではあるけれど、水深50mくらいはちゃんと潜れると
いうもので、それを完成した主人公は、今度はその潜水艦を
400km離れた黒海まで運んで潜水してみようと思い立つ。
映画の途中には年金の支払いを受けるシーンがあってそこで
金額も提示されるが、それが日本円でどのくらいの金額かは
判らない。まあ元は軍人でもあったようだからそれなりの金
額ではあるのだろうが、その年金も注ぎ込んでの潜水艦づく
りだ。
その他にも池で魚を育ててそれを捕獲したり、菜園で作った
野菜を売ったりもして、そのお金も潜水艦に注ぎ込んでしま
う。それには奥さんもあきれ顔で、時には怒って涙を流した
りもするが、概ね潜水艦の製作は黙認のようだ。
一方、潜水艦の運搬には友人の運転手とコルホーズの穀物運
搬用トラックの貸し出しを頼みに行くが、これも最初はひま
わりの収穫期で断られたりもする。でも結局は借りることが
できて、ウィンチで潜水艦を荷台に引き上げたりの作業の末
に出発する。
このドキュメンタリーがどのような経緯で撮影されたのかよ
く判らないが、製作会社はドイツのようで、すでに話は雑誌
などに紹介されていたようだ。従って撮影の時点が何時なの
かも不明で、つまり全体は再現フィルムなのかも知れない。
それにしても大らかな話で、途中紹介される写真では継ぎ接
ぎだらけの潜水艦が、見事にライトグリーンに塗装されて黒
海へと向かって行く。そして潜水、さらに調子に乗っている
結末も楽しいものだった。
それに、ピリペンコさんが朗々と歌う姿も心地よく印象に残
った。

『僕らのワンダフルデイズ』
癌で余命幾許もないと知った男が、人生の最後を高校時代の
仲間とバンドを再結成して、バンドコンテストに挑もうとす
る音楽コメディ。
主人公は胆石の摘出手術を受け、術後の回復促進のため病院
内を歩行中に医者の話を立ち聞きしてしまう。そこでは53歳
で胆石と称して手術を受けた男性に癌の転移が見つかり、処
置不能と判断したというのだが…
しかも配偶者が患者への告知を拒否し、人生の最後を心置き
なく過ごさせたいと願っている…という話も聞いてしまう。
この展開は、典型的な「ああ勘違い」という奴で、この他に
も勘違いの経緯が配偶者の態度などでいろいろと提示されて
行く。そして主人公がどんどん落ち込んで行くことになる。
正直に言ってこの辺りでは、何を今さらの展開にいい加減辟
易して観ていた感じがする。僕自身10数年前に胆石の手術を
受けたことがあり、術後の歩行シーンなどにはニヤリとして
いたのだが、病気の勘違いものというのは、現実の患者への
配慮などでは不愉快に感じてしまうところもあるものだ。
しかしこの作品ではそこからの展開というか捻りが実に上手
かった。確かに同病の患者への配慮という点では、全治した
自分としては判断が充分に付かない部分もあるが、それでも
全体としては楽しめるし、納得もできる話になっていると思
えた。
そして、いろいろな現代を反映した紆余曲折の末に、最後は
バンドコンテストへと雪崩れ込んで行く。出演は、バンド仲
間役で竹中直人(v)、宅麻伸(g)、斉藤暁(k)、稲垣潤一(d)、
段田安則(b)。他に、浅田美代子、紺野美沙子、貫地谷しほ
りらが共演している。
音楽をテーマにした作品は、その音楽の出来で作品の評価も
左右されるが、本作では奥田民生が音楽のアドヴァイザーに
なって主題歌や挿入歌の作詞作曲も手掛けており、その辺は
しっかりしている。
それに出演者が実際に演奏をしているのも良い感じだった。
ファンには稲垣のドラムもしっかりと観ることができる。な
お稲垣の演技は観るとドキドキだが、時々放つ至言にはなか
なかの含蓄があった。

『無防備』
ある出来事の結果、周囲に対して無関心になってしまった女
性の再生を描く物語。
主人公はプラスチック成型の町工場で働いている30代前半く
らいの女性だが、新人の研修を任されるほどのベテランのよ
うだ。しかしいつも徒歩通勤で、マイカー通勤の同僚たちと
も余り話すこともなく、少し浮いた感じになっている。
そんな主人公の職場に1人の妊婦が新人として入ってくる。
実は2人はその前に出会っており、主人公はそんな新人の研
修を任されることになるのだが、いつも一所懸命な割りには
抜けたところのある新人の態度に主人公は戸惑いを覚える。
そしてその新人は、先輩である主人公に取り入ろうといろい
ろなことをしてしまい、それが主人公の神経を逆なでする。
でもそんな中にも一所懸命な新人の姿に、主人公は徐々に心
を開くのだが…
人は、自分では良かれと思ったことでも相手を傷つけてしま
うことがある。それはちょっとした言動であったり、悪戯で
あったりもするのだが、それが心に傷を負った人には大きな
痛手となる。そんな生活の機微のようなものが見事に描かれ
た作品だった。
自分自身がリストラなどの社会経験を経て、また自分の娘が
福祉関係に勤務していたりすると、いろいろな社会の理不尽
さを家族で話し合うこともある。そんな中で気付かされるの
は、いろいろな意味での社会弱者となっている人の心理が、
普通に生活している者からは全く想像も付かないものだとい
うことだ。
そんな社会弱者に対する思いやりが一杯に詰まった作品とも
言えそうだ。
脚本と監督は市井昌秀。元々は芸人を目指して劇団東京乾電
池の研究生になったりもしたが果たせず、心機一転映画監督
を目指しての3作目だが、第2作がPFFの準グランプリを
獲得し、本作ではグランプリ、さらに釜山国際映画祭のグラ
ンプリも受賞している。
主演は、市井監督の全作に主演している森谷文子。共演の妊
婦の新人役は監督夫人でもある今野早苗。因に本作は夫人の
妊娠が判ってから企画製作されたものだそうで、劇中の出産
シーンは実際のものが撮影されている。
なお映画では、勤務先での様子に並行して主人公の家庭での
夫との生活も描かれるが、そこでの夫の態度は、男性である
僕が観てかなり憤りを感じるものだった。でもそれが映画の
中の夫には理解できないのだろう。そんなことも上手く描か
れた作品だった。

『犬と猫と人間と』
ペットブームの中での犬猫と人間の関係を描いたドキュメン
タリー。
普段は路上生活者などの姿を追っているというドキュメンタ
リー作家の飯田基晴監督が、野良犬や野良猫、そしてその末
路を追った作品。
映画製作の切っ掛けは、下高井戸シネマで行われたドキュメ
ンタリー映画祭に監督の作品が上映され、その鑑賞に来てい
た女性から声を掛けられたのだという。その女性は猫が好き
だが自分に余剰のお金があるからそれを使って映画を作って
欲しいと依頼されたのだそうだ。
その依頼に、動物には興味の無かった監督は最初は躊躇する
のだが、女性の熱意に押された形で取材を開始する。そして
それは、監督が涙を拭いながら取材を続けるほどの事態に遭
遇することになって行く。
野良犬や野良猫の存在する理由やその末路に付いてここに描
かれる内容は、それらに関心のある者にとっては先刻承知し
ているものがほとんどだ。しかし、元々興味が無かったこと
が幸いしたのか、ここではそれらが実に丁寧に判りやすく纏
められていた。
しかもその視点が、基本的に社会弱者に向けられるのと同じ
目線で描かれていることが、これらの動物たちを人間と平等
に描くことにも繋がり、この作品を上から目線でない優れた
作品に完成させているようにも思えた。
それにしても、自分が犬を飼っている身としては、ここに写
されるいくつかのシーンは胸が締め付けられるというか、本
当に正視するのが厳しい作品だった。それも躊躇無く写し出
している点も、この監督の選択に間違いが無かったというこ
となのだろう。
そして凶暴になってしまった犬の訓練の難しさなども丁寧に
描かれ、さらには他の自作の上映で招かれたイギリスでこの
作品のための取材が行われるなどの下りには、ある種の作品
の運命みたいなものも感じられた。
それにしても、映画の中で明日の処分を待つ犬の切ない鳴き
声には、自分の愛犬も年齢を経ていろいろ喋り出すのを聴い
ている身には、本当に何を訴えたいのだろうかと、心の底か
ら悲しみが湧き上がってくる感じがしたものだ。

『動くな、死ね、甦れ!』
     “Замри, умри, воскресни!”
1990年カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞した旧ソ連
ヴィターリー・カネフスキー監督の作品。第2次世界大戦の
終戦直後のソ連極東に位置する炭坑町を舞台に、厳しい環境
の中に生きる子供たちの姿を描く。
その町は半ば収容所と化しており、町には日本語の歌を歌う
日本人捕虜らも屯している。そんな町で主人公は母子家庭で
生活し、母親には愛人がいるのか若しくは娼婦なのか、家に
はそんな男も出入りしている。
そして主人公は悪戯ざかりでいろいろなことをやってのける
が、時としてそれが重大な局面を迎えてしまったりもする。
ただし本人にとってそれは他愛ない遊びだったはずのもの。
さらにそこには、守護天使のような少女の存在もあった。
終戦直後の殺伐とした環境の中で、それでもがんばって生き
ていこうとする子供たち。しかしその環境は、子供たちの純
粋な夢も奪っていこうとする。正直に言って、それはどんな
夢だったのだろうかとも思ってしまう環境だが…
戦時中、若しくは終戦直後の混乱期を生き抜く子供たちの姿
を描いた映画は、過去にもいろいろな名作が存在すると思う
が、モノクロームの映像で写し出される本作は、そんな過去
の名作もオーヴァラップさせて感動を甦らせる。
苦しい時代に健気に生きる子供たちの姿は、どんな作品でも
感動を呼ぶことが必至だが、そんな中でもこの作品には、時
代に抗し切れない理不尽さ、悲しさも見事に表現されている
ように思えた。
なお、本作は1995年にも日本公開をされたようだが、今回は
カネフスキー監督が同じ少年少女俳優を主演に迎えた1992年
『ひとりで生きる』、1994年『ぼくら、20世紀の子供たち』
と共に3部作を揃えての再公開が行われる。
それにしても、作品の中で突然「よさこい節」や「炭坑節」
「五木の子守歌」などが聞こえてくると、日本人の観客とし
ては不思議な感覚となる。それぞれの歌が流行歌として定着
したのは第2次大戦後以降と思われるが、映画で流れるのは
元歌ということかな。
        *         *
 今回の製作ニュースはシリーズものの情報から。
 まずはジェリー・ブラッカイマー製作、ジョニー・デップ
主演のディズニー映画“Pirates of the Caribbean”につい
て、その第4作の監督に『シカゴ』でオスカー候補になった
ロブ・マーシャルの起用が発表された。
 この人気シリーズでは、前3作の監督はゴア・ヴァビンス
キーが務めたものだが、前監督には“BioShock”と題された
ヴィデオゲームからの映画化の計画が進められており、第4
作からの降板が発表されていた。と言うより、ハリウッドで
は、シリーズものは3作以上同じ監督が続けるとマンネリに
なるという考えが強いようで、これは当然のことと受け取ら
れている。その辺は同じ監督・主演で何10本も製作してマン
ネリを極める国とは根本的に考え方が異なるようだ。
 撮影は、来年早々に開始の計画となっているもので、これ
には同じブラッカイマー製作、デップ出演で計画されている
西部劇“The Lone Ranger”の前に本作を撮影したいという
製作者側の意向もあるようだ。このため監督の選考も緊急で
行われたものだが、数週間に亘って数多くの監督と面談をし
た結果マーシャル監督の起用が決定された。
 とは言え、アクションアドヴェンチャーにミュージカルが
本職の監督はかなり大胆な感じもするが、元々この作品では
基になったアトラクションでも音楽の要素は強く、映画化の
第1作でも「海賊の歌」が上手くフィーチャーされていた。
仕切り直しとなる本作がミュージカルではなくとも、その感
覚を活かしてもらいたいところだ。
 なお、デップの今後の予定では、凶悪なシカゴギャングに
扮した“Public Enemies”は7月から各国での公開が始まっ
ており(日本公開は12月)、ヒース・レジャーの急死を受け
て急遽出演した“The Imaginarium of Doctor Parnassus”
は10月以降各国で順次公開が予定されている。
 この他に“The Rum Diary”と“Alice in Wonderland”は
すでに撮影完了して来年公開の予定。また主人公の声優を務
める“Rango”が2011年公開予定。さらに出演が噂されてい
る2011年公開予定の“The Man WhoKilled Don Quixote”と
2012年公開予定の“Sin City 3”が準備中となっているが、
これに今回の計画が加わって、スケジュールはどのように調
整されるのだろうか。
        *         *
 次も第4作で“Mission: Impossible IV”の製作が、第3
作を手掛けたJ・J・エイブラムス監督とトム・クルーズの
主演で発表された。
 因にこのシリーズでは、前作公開時のプロモーションで、
当時新婚のクルーズがはしゃぎ過ぎ、当時クルーズが本拠を
置いていたパラマウントから断絶が申し渡されていたものだ
が…結局、大ヒットシリーズの威力は、企業の理念も変えて
しまうようだ。
 そして今回の計画では、クルーズとエイブラムスが製作を
行い、脚本はエイブラムスのアイデアから、彼の人気テレビ
シリーズ“Alias”に参加していたジョッシュ・アップルバ
ームとアンドレ・ネメックが執筆することになっている。こ
れも映画では全く無名の脚本家の起用ということで、ハリウ
ッドでは意外性をもって報じられているようだ。もっとも、
“M: I 3”の時も同様で、その後その時の脚本家のアレック
ス・カーツマンとロベルト・オーチが『スター・トレック』
を手掛けた訳だから、今回も次の“Star Trek”に繋いで欲
しいものだ。
 なおこの計画に関しては、春に日本のテレビ番組に出演し
たクルーズが「撮影中」と発言したと伝えられたが、当時は
その芽もなかった。でもまあ水面下では動いていたのだろう
が、何の彼の言っても大ヒットの前には平伏すのがハリウッ
ドということだ。
        *         *
 もう1本、今年10月に第6作が公開される“Saw”シリー
ズで第7作の計画が発表された。
 こちらは年1作のペースなので動きは早いが、すでに脚本
は、第4作から担当している『フィースト』のパトリック・
メルトンとマーカス・ダンスタン、監督には第5作以降を手
掛けるデイヴィッド・ハッケルが再度起用されて来年1月か
らの撮影開始となっている。
 実は第3作の公開時に来日した監督のダレン・リン・ボウ
スマンが、「後はフランチャイズとして他の人に任せたい」
と発言していて、ボウスマンは第4作の監督も務めたが、そ
の後は彼の希望通りになっているようだ。問題は、これで3
作目となる監督だが、こちらは大いなるマンネリに向けて突
き進むのかな?
        *         *
 最後は、新たなシリーズになるか“The Green Hornet”の
情報で、チャウ・シンチーの降板で心配された相棒カトー役
に『頭文字D』などのジェイ・チョウの出演が発表された。
 セス・ローゲン脚本主演で進められているこの作品では、
当初は監督共演が予定されたシンチーの完全降板を受けて、
監督には先にミシェル・ゴンドリーが発表されていたもの。
これで作品の骨格は決まったようだ。なお製作のコロムビア
からは、敵役にニコラス・ケイジと、主人公の恋人役にキャ
メロン・ディアスと交渉中という報告も挙がっており、来年
夏の公開に向けて相当規模の作品が期待できそうだ。



2009年08月02日(日) あなたは私の婿になる、引き出しの中のラブレター、大洗にも星はふるなり、へんりっく、パイレーツロック、ちゃんと伝える、行旅死亡人

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『あなたは私の婿になる』“The Proposal”
敏腕だが部下や同僚にも厳しいカナダ人の女性編集者が、勤
務先のアメリカからフランクフルトのブックフェアに無断で
渡航し、移民法違反として国外退去、1年間の再入国禁止の
処分を受けそうになる。それを逃れる術は、アメリカ人との
結婚しかない。
そこで彼女が考えたのは、彼女に秘書として3年間仕えて来
た部下の男性。その男性に昇進を餌のパワーハラスメントで
結婚を承諾させるが、偽装結婚が発覚すると彼女の国外追放
はもとより、男性にも最大禁錮5年の刑が待っている。
そんな条件の許、2人は結婚に真実味を持たせようと、男性
の祖母の誕生パーティが行われる彼の実家(アラスカ)を訪
れることになるが…というロマンティックコメディ。
偽装結婚は、日本ではおおっぴらに認められている節も在る
が、移民の国アメリカではさすがに厳しく、ばれると厳罰が
待っているようだ。そんな日本とは異なる事情を背景にした
物語だが、それはまあ観ていれば自ずと解るように描かれて
いる。
それに物語はそこが主眼ではない訳で、それは何かというと
…そんな人間模様を巧みに描いた作品だ。しかも舞台はアラ
スカ。昨年6月に紹介した『P.S.アイ・ラヴ・ユー』のア
イルランドも良かったが、本作でも大自然が見事な背景とし
て活かされている。
主演は、製作総指揮も兼ねるサンドラ・ブロックと、『ブレ
イド3』などのライアン・レイノルズ。他に、『レイク・プ
ラシッド』のベティ・ホワイト、『タイム・アフター・タイ
ム』のメアリー・スティーンバージェンらが共演。
監督は、『幸せになるための27のドレス』などのアン・フレ
ッチャー。脚本は、脚本家としては初作品だが『イーグル・
アイ』などの製作も担当しているピーター・チアレッリ。映
画の前半では社内LANを使った部下同士のやりとりなどに
良い感覚を見せていた。
僕は立場上、編集者の知り合いもいるし、そんなところでは
物語の設定には親しみ易さが在った。従って普通の人よりは
話に入り易かったところは在るかも知れない。でも映画の全
体では家族との絆や、実家を離れて都会で1人暮らすことの
問題などが盛り込まれ、それは都会に暮らす人には共通に判
ってもらえる話の様に感じられた。
それに、何とも言えない男女の機微が、実に丁寧且つ細やか
に描かれた作品だった。

『引き出しの中のラブレター』
他人への思いは言葉にしなければ伝わらない。でも、胸の中
にしまったまま相手に伝えなかった思い。そんな思いを「引
き出しの中のラブレター」と称して、それらを巡るアンサン
ブルドラマが展開される。
主人公は、FM局で人気投稿番組を担当する女性ナビゲータ
ー。全国にネットされているらしいその番組に北海道の高校
生から1通の投書が届く。そこには「笑顔を見せない祖父を
笑わせるにはどうしたらいいか」と書かれていた。
その質問に一瞬答えに窮した主人公は、「笑わせる方法を大
募集」と喋って聴取者にその答えを委ねてしまうのだが、そ
れが思いも掛けない結果を生んでしまう。
一方、彼女自身も父親との確執からその四十九日の法要にも
出席できないでいたものだが、その遺品の中に、宛名まで書
きながら投函されなかった彼女宛の手紙が在ったことを教え
られる。しかし彼女はその開封をためらい、そのまま引き出
しに仕舞い込んでしまう。
そして北海道の高校生の許へ詫に向かった主人公は、高校生
の祖父と父親との間に、話し合えば判るはずなのに話し合え
ない確執の在ることを聴かされる。
そんな出来事の重なりから彼女は、胸の中にしまったままの
思いを相手に伝えようと呼び掛ける特別番組を企画するのだ
が…その中心となるべきは、高校生の祖父から家族に宛てた
手紙だった。
こんな物語を中心軸に据えて、九州から出稼ぎに来ているタ
クシー運転手や、シングルマザーを決意している妊産婦、親
の経営する医院に勤務し将来の院長の椅子も用意されて親離
れできない青年医師などの物語が交錯して行く。
出演は常盤貴子、林遣都、中島知子、岩尾望、竹財輝之助、
本上まなみ。他に水沢奈子、萩原聖人、吹越満、六平直政、
西郷輝彦、豊原功補、八千草薫、仲代達矢、伊東四朗、片岡
鶴太郎らが脇を固めている。
アンサンブル劇の面白さは、画面の端と端でそれぞれの登場
人物がすれ違うなどの仕掛けと、最後にそれらが意外な繋が
りを見せて行く過程が醍醐味となるが、本作の繋がりには、
ちょっとニヤリとしたところも在ったかな…。それほどの意
外性はなかったけれど、何となくほっとする優しさが心地よ
くも感じられた。
脚本の藤井清美、鈴木友海と、監督の三城真一は共にテレビ
から来た人のようだが、物語にはラジオという媒体の特性が
上手く活かされていた。そして映画としても面白く描けてい
た。

『大洗にも星はふるなり』
「江の島」といっても、茨城県大洗の海岸に建てられた夏限
定の海の家。そこで夏期のアルバイトをした仲間たち。本来
なら8月31日で閉鎖・撤去されたはずのその海の家に、クリ
スマス・イヴのその晩、彼らは戻ってきた。
集まったのは、4人の若者と中年のマスター。彼らは、それ
ぞれがバイト仲間のマドンナだった女性からの手紙で呼び出
されたのだ。しかし彼らを呼び出した彼女の目的は…?その
推理を巡って、若者たちの妄想が暴走し始める。
さらにそこに、違法に残されている海の家の撤去を求める弁
護士もやって来て、騒ぎに巻き込まれた弁護士は彼らの発言
を冷静に検証し始める。そして、若者に特有の勝手な思い込
みと現実とのギャップが次々に明らかにされて行く。
映画は、一部には海岸のシーンと、また回想シーンでの各地
のロケーションも登場はするが、ほとんどは海の家の中での
芝居が1幕物の舞台劇のように展開される。
脚本と監督は福田雄一。放送作家として数々の番組を手掛け
ているそうだが、その一方で劇団の座長も務めているとのこ
とで、なるほどこの構成も理解できるところだ。
とは言え、過去に放送作家と呼ばれる連中の映画作品では何
度も痛い目に遭っているところだが、福田監督は、脚本家と
して2006年『逆境ナイン』と2008年『ぼくたちと駐在さんの
700日戦争』も手掛けているとのことで、映画の作り方も
よく判っていたようだ。
出演は、山田孝之、山本裕典、ムロツヨシ、小柳友、白石隼
也。マスター役に佐藤二朗、弁護士役に安田顕。それぞれ個
性豊かな連中が集まっている。そしてマドンナ役は…8月の
公式発表まで秘密だそうだ。
まあ、若者の戯言のドラマと言ってしまえばそれまでだが、
弁護士が真実を暴いて行く過程はそれなりに納得できるもの
になっている。それに、多少大袈裟な演技は舞台劇の雰囲気
と思えば了解もできて、観ている間はさほどの違和感もなか
った。
僕自身が生まれも育ちも湘南の人間としては、茨城県大洗と
いう土地柄はあまり良く判らないが、笑いの根底にある劣等
感のようなものは土地柄に関係なく理解できるもので、全体
的には面白く観られた作品だった。

『へんりっく』
1983年に亡くなった寺山修司の許で俳優や舞台の裏方として
寺山の表現活動を支えてきた森崎偏陸という男性に焦点を当
てたドキュメンタリー。
1949年兵庫県淡路島生まれ。高校生の時に家出をして上京、
寺山主宰の天井桟敷に参加、あるときは実験映画の出演者、
またあるときは演出助手や舞台監督として活動。そして寺山
の死後は母堂に請われて養子となり、戸籍上は寺山修司の弟
となっている。
1974年製作の実験映画『ローラ』では、スクリーン上の女性
が観客席の男性を挑発し、憤然とした男性客がスクリーンに
飛び込むものの、女性たちに全裸にされてスクリーンから追
い出される。この作品で偏陸はスクリーン上の男性を演じて
いる。
このため偏陸は、現在では本の装丁や演劇ポスターのデザイ
ナーとして活動する傍ら、今でも『ローラ』の上映が決まる
とスリットスクリーンの製作から出演までを手掛け、その上
映は遠くパリまでも出向いて行われている。
そんな偏陸の姿を、彼の日常や寺山所縁の人々の証言などと
共に描いて行く作品となっている。そこには『ローラ』の上
演風景がほぼ全編に亘って収録されるなど、観る機会の少な
いこの作品を擬似的に体験できるようにもなっている。
ただしこの作品で、偏陸自身が描き切れているかというと、
そこは疑問に感じざるを得ない。これは、偏陸自身があまり
己を出したがらない性格ということもあり、本作だけでは彼
の寺山に対する思いや、彼自身の感じていることや考えなど
が観えてこないのだ。
本作の中で偏陸は、寺山修司の衣鉢を継ぐかのように『ロー
ラ』や、その他の寺山作品の修復、再上演などに奔走してい
る。偏陸にそこまでさせる理由を聞きたかった。もちろん彼
が戸籍上の弟であることは大きいのだろうが、それを受け入
れた覚悟なども知りたかったものだ。
僕自身は、寺山修司という人物に対しては何の思い入れもな
いが、本作の中でその活動が垣間見られるのは良いことであ
ろう。しかしそれも本作では中途半端に終わってしまう。た
だし本作の性格上ではそれも仕方がない。
結局、本作ではそのどちらも中途半端なのが残念と言える。
偏陸という人物には確かに興味を魅かれる。もっと偏陸の内
面まで踏み込んだ作品が観てみたい、そんな気持ちが残る感
じがした。

『パイレーツ・ロック』“The Boat That Rocked”
1960年代半ばの北海。そのイギリス領海外に浮かぶ船舶から
24時間ポピュラー音楽を流し続ける海賊放送局を舞台にした
青春ドラマ。
この海賊放送は、当時イギリスのラジオ放送を独占していた
国営局BBCが、ポピュラー音楽の放送を1日45分に制限し
たことを契機として生まれたもので、若者目当てのスポンサ
ーも殺到して隆盛を極めた。そしてイギリス政府は、その撲
滅に策を弄し始める。
本作は、そんな時代を背景に、海賊放送を行っている船舶に
乗り組むことになった若者の姿が描かれる。そこにはイギリ
ス人やアメリカからやってきた名うてのDJたちがいて、伝
統やモラルも破壊する生活が繰り広げられていた。
主人公は母子家庭に育った高校生。喫煙が故で退学処分を受
け、自分の名付け親が船長を務めるその船に母親の命令で乗
船してきた。それにしても退学処分の後がモラルの無い海賊
放送局とは豪気な母親だが、こうして乗船した船での常識外
れの生活が始まる。
一方、海賊放送の垂れ流すインモラルな放送に手を焼くイギ
リス政府は、スポンサーの規制などいろいろな手段で締め付
けを行っているがなかなか成果を挙げられない。しかし、つ
いに領海外の船舶も規制できる方策を見つけ出す。
こうして、政府が新たに造り出した法律の前には海賊放送の
存在も風前の灯火となってしまうが、それでも彼らは最後の
最後まで抵抗を続ける。そしてイギリス国民もまた彼らの動
静を見守っていた。
民放が普通にあった日本やアメリカの人間には判り難いが、
放送事業が国家に独占されていたイギリスでは、いろいろな
名目で若者文化が抑圧された。そんな時代の言わば反体制と
しての海賊放送には、当時日本でラジオ文化に浸っていた僕
らも憧れを持ったものだ。
実際、日本の民放だって、放送内容にはいろいろな形での規
制があるものだし、そんな中での海賊放送は正に若者文化の
象徴のようにも観えた。そして、そんな時代の物語を敢えて
今の時代に問うことの意味が、この作品にはあるように思え
る。
脚本と監督は2003年『ラブ・アクチュアリー』などのリチャ
ード・カーティス。出演は、フィリップ・セーモア・ホフマ
ン、ビル・ナイ、リス・エヴァンス、ニック・フロスト。他
にケネス・ブラナー、エマ・トムプスンらが共演している。
1960年代のポップスもたっぷりと聞くことができて、当時の
知る者には本当に楽しめる。そして今の人たちにも当時の若
者のエネルギーを感じてもらいたい作品だ。

『ちゃんと伝える』
2002年2月に紹介した『自殺サークル』などの園子温監督の
新作。
園監督の作品では、前作『愛のむきだし』がベルリン国際映
画祭で受賞するなど話題となっているものだが、僕はその作
品は観ていない。従って、僕の中の園監督は依然として『自
殺サークル』や2006年11月紹介の『エクステ』のままという
ことになる。
とは言っても、監督が作品のスタイルを変えるのはよくある
ことだし、それが成功するか否かは、それもまた興味のある
ところのものだ。作品のコンセプトなどを事前に知っていた
僕としては、そんな興味も持って試写を観に行った。
物語の主人公は、園監督の出身地でもある愛知県豊川市でタ
ウン雑誌の編集部に勤める若者。その父親は地元高校の体育
の教師でサッカー部の監督。そして息子のいた学年では、大
会での優勝を飾ったこともあるという名将のようだ。
しかし息子にとって教師であり監督の父親は、自宅でも学校
でも厳しい存在であり、なかなか打ち解けて話したこともな
かったような印象で描かれている。そんな父親が病に倒れて
からが物語の始まりとなる。
その父親は病床でも気丈に振舞ってはいるが、病状は思わし
くないようだ。そして主人公は雑誌の取材の合間には病院を
見舞うようになり、そこで父親の思い掛けない面を見いだし
たりもし始める。
園監督は昨年1月に自身の父親を亡くしたとのことで、本作
はその影響下で生まれた作品と思われる。しかし、僕自身も
今年2月に父親を癌で亡くした者としては何となく全体に違
和感が否めない作品だった。
それは葬儀の次第などいろいろだが、特には主人公の置かれ
た立場が無用に作り話めいていたことにもある。確かにこの
ような状況も現実に有り得ることではあろうが、本作の目的
が父親と息子の絆を描くことであるときに、これが必要であ
ったか否か?
結局この状況を入れたことで、本来描こうとした父親と息子
の関係とは違う方向に目が向けられることになり、それが作
品全体の方向を見失わせているようにも感じられた。物語は
シンプルに描くのが一番とも言えそうだ。

主演は、パフォーマンス集団EXILEメムバーのAKIRA。
共演は奥田瑛二、高橋恵子、伊藤歩。他に、吹越満、でんで
んらが出演している。
物語として悪い作品とは思わないが、僕自身にとっては違和
感が拭い切れなかった。なおサッカー競技でのメガネの使用
は、ルール上では問題はないが、主催団体によっては禁止し
ている大会もあるようだ。

『行旅死亡人』
前々回に紹介した『白日夢』などの脚本家井土紀州による監
督作品。東京高田馬場にある日本ジャーナリスト専門学校が
初の長編映画作品として企画製作し、同校で講師を勤める井
土監督が脚本と監督を担当した。
「熊公、お前が向こうで死んでるよ」というのは落語「粗忽
長屋」の名場面の一つだが、本作の主人公の女性は正にその
事態に見舞われる。それは彼女の名前を騙った女性が急病で
倒れ、親戚として彼女に電話が掛かってきたものだったが、
なぜその女性は彼女の名を騙らなければならなかったのか。
その謎を巡って物語は展開される。
題名は、旅行中に死亡した人、つまり行き倒れを指す言葉の
ようだが、本作は行き倒れを描いているものではない。しか
し、様々な理由で自分が自分として生きられなくなった人。
そんな人生を旅人として生きなければならなかった人の物語
が描かれる。
主人公はジャーナリストの卵、何時かは人々が注目するドキ
ュメントを書きたいと思っているが、まだその題材に行き当
たっていない。そんな彼女に電話が掛かってくる。そして訪
ねた病室のベッドに横たわっていたのは、以前の職場で親切
にして貰った先輩だった。
ところが、以前の職場に残されていた先輩の履歴書の住所を
訪ねると、そこにいたのも名前を騙られた女性。そしてそこ
ではさらに別の名前が明らかにされる。しかも彼女が点々と
名前を変えていった理由も朧げに見えてくる。
一方、病床の先輩が奇跡的に意識を取り戻し、その際に主人
公は先輩からある住所を告げられる。そしてその住所に向か
った主人公は…
物語の結末は、ミステリーに慣れた人ならかなり早い時期に
読めてくるだろう。つまり、ミステリーとしてはさほど目新
しいものが描かれている訳ではない。ただまあ、映画の雰囲
気やその他の部分で何かが生まれそうな、そんな気分にさせ
てくれる作品ではあった。
出演は藤堂海、阿久沢麗加、本村聡、小田敦、たなかがん、
長宗我部陽子。『呪怨パンデミック』などに出演の長宗我部
以外はメインストリームの俳優ではない人たちで、一部には
棒読みの台詞も聞かれたが、まあ今回は許容しておこう。
ただし、観客としてこの作品を観たときに、僕には物語の結
末が登場人物に余りに酷なように感じられた。実際この物語
は、その人物がこれをしなくても、他のちょっとした状況を
用意すればいくらでも成立するものだし、敢えてこの展開を
選択することが必要か否か。
確かに映画のインパクトを考えたときに、採られた展開は今
の観客事情には合っているのかも知れない。しかし、僕自身
がこの登場人物の生き様に共感を覚えたところでのこの展開
は、観客にも余りに酷なように思えたものだ。


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井口健二