井口健二のOn the Production
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2009年02月28日(土) シークレット・ディフェンス、顧客、美しい人、私のなかの8ミリ、非女子図鑑、失われた肌、西のエデン、UWビギンズ、虹色の硝子

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シークレット・ディフェンス』“Secret défense”
3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で上映
される作品。
中東方面からのテロ脅威に揺れるヨーロッパを舞台に、人を
人と思わずただの道具として扱う組織の非情さが描かれる。
女は、語学の学業で挫折したところをワイン業者と称する級
友の父親に通訳として雇われる。しかしその父親の本当の職
業は国家の安全を守る諜報組織の幹部で、彼女は諜報部員と
して訓練を受けることになる。
男は、ドラッグの取り引きなどで警察や裏社会からも追われ
ていたところをテロ集団に救出され、国外に連れ出される。
そして砂漠での過酷な訓練を経てテロリストとなって行く。
ところが彼に与えられた任務は…
人を人と思わず、ゲームの駒のように扱うスパイ組織とテロ
組織。組織の目的は対立していても、その実態はあまり変わ
らない。そんな組織に偶然のように取り込まれた若者たちの
物語。しかしそれは本当に偶然だったのだろうか。
これらの組織が嘘で塗り固められたものであることは、昨年
末公開されたハリウッド映画『ワールド・オブ・ライズ』な
どでも描かれていたところだが、本作の作られたフランスで
もその姿はあまり変わらないようだ。
そこでは信ずるべき思想や大義も何もなく、ただゲームのよ
うに作戦が展開されて行く。しかもそれによって組織に取り
込まれた若者たちがまるで捨て駒のように扱われて、まさし
く非情な組織の姿が描かれて行くものだ。
出演は、バルドーの再来と謳われるヴァヒナ・ジョカンテと
『情痴アヴァンチュール』などのニコラ・デュヴォシェル。
さらに『ル・ブレ』などのジェラール・ランバン、『アララ
トの聖母』などのシモン・アブカリアンらが脇を固める。
映画の巻頭では、「悪魔は魂を奪うまで手を放さない」とい
うような言葉が掲げられる。脚本監督のフィリップ・ハイム
は、イスラム学者や元諜報部員らをシナリオの監修に招き、
4年の歳月を掛けてこの物語を作り上げたそうだ。

『顧客』“Cliente”
3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で上映
される作品。
自らの製作出演でテレビの人気ショッピング番組を運営して
いるジュディスとイレーヌ姉妹。共同のアパルトマンで優雅
な独身生活をしている2人だったが、中年というより、もう
少し上の2人の身体はまだまだ男にも敏感だった。
そんな中で、司会者役のジュディスはインターネットのエス
コート・サービスにはまり、打ち合わせの時間の合間を見つ
けては男たちとの出会いを楽しんでいる。そしてそこで、パ
トリックと名告る1人の男性に出会ってしまう。
そのパトリックの優しさに魅かれ、指名を繰り返すようにな
るジュディス。ところが彼の本当の名前はマルコと言い、彼
は最愛の妻のために家族に内緒で身体を売っていたのだ。そ
して彼の仕事が家族にばれ、妻が職場に乗り込んでくる。
男性が主人公でこのような話は、昔から映画にするまでもな
くいろいろあっただろうが、今や女性の主人公でこんな物語
が語られる時代になったようだ。何て書くと、女性差別と叱
られそうだが、今までは女性自身でもなかなかこんな風には
描けなかったのではないのかな。
本作は、イレーヌ役で出演もしているジョジアーヌ・バラス
コの脚本監督によるもので、まさに女性自身がこの物語を描
いているものだ。
主演は、1985年『ゴダールの探偵』や2002年『キャチ・ミー
・イフ・ユー・キャン』にも出演のナタリー・バイ。他に、
2002年『NOVO/ノボ』のエリック・カラヴァカ、2007年
『きつねと私の12か月』のイザベル・カレが共演している。

『美しい人』“La Belle personne”
3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で上映
される作品。
ちょっとミステリアスな雰囲気をもつ女子転校生を巡って、
男子生徒と男性教師が三角関係の恋模様を繰り広げる。
コンセプト的には、『クレーヴの奥方』の現代版ということ
になっているようだが、手紙が問題にされる下り辺りがその
意味を持っているのかな…という程度だ。それより僕には、
中年男が若い女性に惑わされる『アメリカン・ビューティ』
の方が思い浮かんだが、それは僕自身がそちらの年齢の方に
近いせいにも拠るのだろう。
いずれにしても、それなりに古典的な物語が、現代の高校を
舞台に青春群像劇として描かれているもので、その点につい
ては、2006年東京国際映画祭コンペティションで上映された
『2:37』(日本公開題名:明日、君がいない)も思い出
したところだ。
脚本監督は、作家としても知られるクリストフ・オノレ。映
画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」のライター出身の監督の作
風は、新世代のヌーヴェルヴァーグとも言われているようだ
が、それなりに乾いた作風であるようにも見える。
主演は、クエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピ
ット主演の新作“Inglourious Basterds”にも出演している
レア・セイドゥ。他にグレゴワール・ルプランス=ランゲ、
オノレ作品の常連というルイ・ガレル。なお前の2人は今年
度のセザール賞若手俳優賞候補にもなっている。
また1999年版『クレーヴの奥方』でタイトルロールを演じた
キアラ・マストロヤンニのカメオ出演もあったようだ。

『私のなかの8ミリ』
俳優大鶴義丹の監督・脚本によるロードムーヴィ。
大鶴がバイクマニアであることは有名なようだが、本作では
さらにパリ−ダカールラリーに個人参加して2輪部門の完走
を果たしたこともあるという写真家の桐島ローランドを撮影
監督に迎えて、正にバイク好きの映画が展開される。
1人の女性が、恋人に教えられたという道順に沿って東京か
らバイクで日本海を目指し、さらに沿岸の道路を北に向かっ
て疾走する。そこには道連れとなる若い男性や、新婚当時に
バイクでアメリカ横断をしたことがあるという中年夫婦など
いろいろな出会いが描かれる。
またその間には、恋人が撮影したという8ミリフィルムが挿
入され、様々な出会いと共に彼女のいろいろな思いが綴られ
て行く…というお話だが、実はこのお話にはちょっとした仕
掛けがある。
それは、最近の映画ファンならすぐ気づいてしまいそうなも
のではあるが、そのため本作は、ファンタシーとして宣伝さ
れることにもなるようだ。そのために多少は凝った造りをし
ている部分もある。
ただし、映画はそのお話もさることながら、全体的にはバイ
クツーリングの楽しさを描いているようなところもあって、
それがいろいろな出会いであったりと言うところのものだ。
でもまあ上映時間65分だから、それほど深く描かれていると
いうものではないが。
出演は、NHKの番組『探検ロマン世界遺産』などの岡田理
江、同じくNHK大河ドラマ『葵・徳川三代』などの高杉瑞
穂。他に、長谷川初範、星野園美、湯江健幸、赤座美代子ら
が脇を固めている。
因に、本作はHDで撮影されているようだが、標準のHDの
解像度は16ミリフィルム程度のもの。従って8ミリではそれ
より解像度は落ちることになる。本作の挿入されたフィルム
のシーンが実際に8ミリのフィルムで撮影されたかどうかは
不明だが、その雰囲気は出ていた。
なお本作は、事前に第一興商の通信カラオケボックス向けに
ショートムーヴィとして予告編を含む4話が配信されたとの
ことで、映画の形態も様々になってきたようだ。

『非女子図鑑』
非女子とは「“女はこうあるべき!”という枠を飛び出した
女性」のことだそうで、男女同権とは言いながらもまだまだ
性差別の残る世の中で、そんな枠を取っ払って頑張る女性た
ちを主人公にした短編集。
しかもその短編集を、『呪怨』の清水崇、『怪談新耳袋』の
豊島圭介、『魁!クロマティ高校』の山口雄大、『真木栗ノ
穴』の深川栄洋、『着信アリ2』の塚本連平、ゲームソフト
監督の川野浩司、CF監督のオースミユーカという、あまり
女性映画という感じではない顔ぶれが監督しているものだ。
しかし作品は、いずれもテーマ通り見事に枠からはみ出した
女性たちの元気な姿を描いたもので、特に暗いニュースが多
い今の時代には、こんな風に前向きな女性たちの姿は、観て
いて気持ちの良いものばかりだった。
中でも、任侠映画の主演男優オーディションに現れた女優を
片桐はいりが演じる『男の証明』と、仲里依紗が男に振られ
て自殺を思い立った冴えない女性を演じる『死ねない女』は
気に入った作品で、現代が陥っている閉塞感に風穴を開けて
くれるような気もしたものだ。
この他の主演は鳥居みゆき、足立梨花、山崎真実、月船さら
ら、江口のりこ。それぞれ個性的な女優たちが揃っている。
さらに、ミュージシャンのスネオヘアー、アクション俳優の
坂口拓らが共演。
短編集もいろいろ観せて貰っているが、特に近作は、短い中
にも起承転結のある短編としての造りもしっかりとした作品
が多くなっている気がする。以前は著名監督の作品ほど尻切
れトンボだったり無理な作品も多かったが、そういうことは
なくなったようだ。
女性を描く短編集では『女立喰師列伝』が先にあるが、本作
はそれほどの仕掛けを設けることもなくストレートな作品が
揃えられている。それはどちらが面白いというのではなく、
そのどちらもがあっていいという感じのものだ。
こんな感じでこれらのシリーズや、少し前に紹介した「桃ま
つり」のようなシリーズも、これからも続いていって欲しい
と思うものだ。

『失われた肌』“El Pasado”
前回監督作品の『太陽のかけら』を紹介したメキシコ人俳優
ガエル・ガルシア・ベルナルが、1985年『蜘蛛女のキス』で
オスカー監督賞候補にもなったアルゼンチン生まれのブラジ
ル人監督ヘクトール・バベンコと組んだ2007年アルゼンチン
=ブラジル合作映画。
幼馴染みのまま結婚した若い夫婦が12年経って離婚。映画の
中ではその理由は明確にはされないが、次々に別の女とつき
あって行く元夫に対して、元妻は彼のことを忘れることがで
きない。そしてその元妻の引き起こす行動が、元夫の生活を
破壊して行く。
物語は、アラン・パウルスという作家の原作の映画化となっ
ているが、描き方によってはかなりのサスペンススリラーや
ホラーにもなりうる展開のものだ。しかしバベンコ監督が脚
色も手掛けた作品は、登場人物から適切な距離を置いて物語
を冷静に描いている。
特に、主人公の元夫が徐々に打ちのめされて行く展開は、明
らかにホラーそのものであるのだが、それを冷静に撮り切る
監督の力量に驚きすら感じてしまうものだ。これは芸術映画
の極致と言えるものなのだろう。
監督は主人公について語る際に、ドストエフスキーやカミュ
を引き合いに出しているが、確かに『罪と罰』がミステリー
ではないのと同じ位に、この物語はホラーではないものなの
だ。
共演は、アナリア・コウセイロ、モロ・アンギレリ、アナ・
セレンターノ、マルタ・ルボスら、ラテン系の個性的な女優
が揃っている。その配役では、最初にベルナルの主演が決ま
り、その後にベルナルは全ての女優のオーディションに立ち
会って配役に協力したそうだ。
また撮影はアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行われて
いるが、そのヨーロッパ的な町並は、映画に魅力的な雰囲気
を醸し出している。因に監督は、当初は舞台をブラジルにす
るつもりだったが、雰囲気が合わず、原作通りの舞台に戻し
たのだそうだ。
さらに物語は主人公が翻訳者という設定で、映画ではスペイ
ン語を始め、英語フランス語などが入り混じって聞こえるの
も面白かった。この台詞も、監督は当初ポルトガル語に翻訳
したがリズムが合わなかったとか…。同じ南米の両国だが、
文化面はかなりの違いがあるようだ。

『西のエデン』“Eden à l'Ouest”
3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で上映
される作品。
1969年『Z』やオスカー監督賞にノミネート、脚色賞受賞の
1982年『ミッシング』などの名匠コスタ=ガヴラス監督によ
る2009年最新作。ギリシャの古典叙事詩『オデュッセイア』
に準えて、ヨーロッパを放浪する若者の姿が描かれる。
主人公は西ヨーロッパへの密入国を試みる多数の人々と共に
貨物船で航行している。ところが遠くに灯の見える場所で警
備隊に発見され、船長は船を捨てて逃走。大多数の密航者も
捕まるが、主人公は辛くも海に逃れ岸に向かって泳ぎ出す。
そして辿り着いたのは…「エデンの園」という名のリゾート
地のプライヴェートビーチ。
そこで主人公は、最初は従業員の制服を盗んで潜入し、本物
の従業員と間違われたりもしながらも何とか切り抜けるが、
玄関口には警察が見張っていて脱出はままならない。しかも
リゾート側も独自に密入国者の捜索を始める。
その内、ハンブルグから来た女性客と親しくなったり、さら
にパリから来たマジシャンの助手に駆り出された主人公は、
マジシャンの言葉を信じ、フランス語を1年間学んできた実
力も携えてパリを目指すことにする。
その道中でのいろいろな人々との出会いや別れを経ながら、
主人公は一路パリを目指して行く。そこでは、いずこも同じ
不況に晒されている下層労働者の現状を背景に置き、それで
も前向きに、そしていろいろな人々の温情にも合いながらの
旅が描かれる。
主演は、2005年ヴェネチア映画祭で受賞した“Texas”とい
う作品に出演のリッカルド・スカルマッチョ。寡黙な役柄だ
が笑顔に好感の持てるイタリアでは人気俳優のようだ。
その他に、ドイツ人女優のジュリアナ・コーラー、フランス
人俳優で『顧客』にも出演のエリック・カラヴァカなど多彩
な顔ぶれが共演している。
コスタ=ガヴラス監督というと社会派のシリアスでハードな
作品が思い浮かぶが、本作はかなりコミカルな描写もあり、
また主人公が遭遇する事態もそれなりに人の善意や温かさに
も溢れていて、心地よく観られる作品だった。1933年生まれ
の監督はまだまだ元気なようだ。

『アンダーワールド/ビギンズ』
          “Underworld: Rise of the Lycans”
2003年、06年にケイト・ベッキンセールの女戦士役で好評を
博した『アンダーワールド』シリーズの最新作。ただし今回
は、これらの物語の起源を語る中世時代の前日譚を描いてい
るものだが、何せ不死者の話なので登場人物の多くは同じ顔
ぶれとなっている。
物語は、ライカン(狼人間)族の始祖となるルシアンが誕生
し、ヴァンパイア族の長老ヴィクターが奴隷としてルシアン
を支配している状況で始まる。しかし、ヴィクターの娘ソー
ニャはルシアンを愛し、それはヴァンパイアの掟を破る行為
となって行く。
そしてルシアンも、奴隷の境遇から反逆を試みて行くことに
なるのだが…
元々3部作構成だったと言われる物語が、これで完結するこ
とになるようだ。シリーズの前日譚というのは、人気のキャ
ラクターが生誕前だったりするといろいろ難しいものだが、
本作ではよく似たプロットを踏みながらも、新たな物語が見
事に展開される。
しかも、舞台が中世ということで、その時代背景に合わせた
武器やアクションなどもよく考えられているもので、さらに
は狼人間族とヴァンパイア族との戦いなども、なかなかの迫
力で描かれていた。
出演は、主人公ソーニャ役に『ナンバー23』などのローナ
・ミトラ。ルシアン役には前2作にも登場し、『フロスト/
ニクソン』のフロスト役も好評のマイクル・シーン。さらに
ビル・ナイ、シリーズの原案者でもあるケヴィン・クレイヴ
ォー、スティーヴン・マッキントッシュらが前作から引き続
き演している。
監督は、前2作と本作でのクリーチャー・デザインも手掛け
るパトリック・タトポロス。元々はイラストレーターでこれ
が初の監督作品だが、勝手知ったる他人の庭という感じで、
物語をそつなくまとめている。
そして前2作の監督を務めたレン・ワイズマンは今回は製作
に下がっているが、彼も許を正せば『スターゲイト』などの
美術部門の担当者だった人で、その点ではお互い理解しやす
かったと言うところかも知れない。
なお、シリーズの第4作が製作されるという噂も本作の製作
前から流れていたものだが、セリーンとマイケルの未来が描
かれるとされるそのニュースの続報はまだのようだ。

『虹色の硝子』
2007年12月に『そして春風にささやいて』を紹介している角
川ルビー文庫刊「タクミくんシリーズ」の映画化第2弾。
映画は前作に続きというか、状況には馴れてきた主人公託生
のその後の生活が描かれる。しかし今回は、同室の義一の不
可解な行動から託生は義一の真意を疑うなど、嫉妬やいろい
ろな感情が描かれていくものだ。
脚本は、前作と同じく『きみにしか聞こえない』などの金杉
弘子、監督は、『イヌゴエ』などの横井健司が新たに担当し
ている。
また、配役も前作から大幅に替って、託生役を『テニスの王
子様』の浜尾京介、義一役を『ウルトラマン・メビウス』の
渡辺大輔が演じる他、滝口幸広、高橋優太、細貝圭、日和佑
貴など。この内、滝口以外は新登場の顔ぶれだ。
物語では、難病が出てきたり他にも重い部分もあるが、全体
的には前作と同様のボーイズラブの世界が展開されている。
その世界が許容できるかどうかが、観客の側にも試されると
ころでもあるものだ。
ただまあ、前作では主人公の成長がいろいろあって、それな
りの青春ドラマという感じも前面にあったが、今回は嫉妬心
などの多少ネチネチとした部分が、普通の観客である僕には
ちょっときつい感じはした。
でも後輩の思いや、特に「虹色の硝子」のシーンにはそれな
りの捻りも感じられたし、さすが金杉脚本だという感じには
なった。
なお、本作も4月25日の一般公開前には舞台挨拶付きの完成
披露試写会がイヴェントとして行われるようで、イケメン目
当ての女性観客がまた集まるのだろう。それもやり方という
作品だ。
それから、前作の紹介では義一(ギイ)を託生(タクミ)の
先輩と書いたが、今回の作品によると同級生だったようで、
僕はその辺の物語をよく理解していなかったようだ。ここで
訂正をしておきたい。



2009年02月22日(日) ミーシャ、新宿インシデント、パニッシャー、レイン・フォール、太陽のかけら、今度の日曜日に、GOEMON

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ミーシャ/ホロコーストと白い狼』
              “Survivre avec les loups”
第2次大戦後半の時期にベルギーからウクライナまでを踏破
したユダヤ人少女の物語。
物語の始まりは1942年、ナチスのユダヤ人狩りが激しさを増
すベルギーの首都ブリュッセルで、8歳のミーシャはユダヤ
人の父親とロシア人の母親と共に隠れ暮らしていた。
やがて父親が入学許可を手に入れ、彼女は学校に通えること
になる。ただし、外出中にある言葉を聞かされたら、何も言
わずにその人について行くこと…それが通学の条件だった。
そして人々がナチスに追い立てられる中、彼女はその言葉を
聞かされる。
連れて行かれたのは郊外のベルギー人の家。そこで彼女はそ
の家の子供として暮らし始める。それは辛く厳しい生活だっ
たが、そこでも彼女は近所の老人やその飼犬と仲良くなるな
どして行く。
そんなある日、両親が東の方に連れていかれたと聞かされた
少女は、老人から貰った小さな玩具のコンパスを頼りに、た
だ東に向かって歩き始める。しかしその先には、狼の棲む原
野や厳しい冬の寒さが待ち構えていた。
原作は、17カ国で翻訳されたベストセラー小説だそうで、特
に実話に基づくとはされていないようだが、大自然を背景に
過酷な時代を果敢に生き抜いた少女の姿が描かれる。
その映画化を製作脚本監督の3役で作り上げたのは、1997年
ソフィー・マルソー主演『女優マルキーズ』などのヴェラ・
ベルモン。ロシア、ポーランドの血を引くユダヤ人であるベ
ルモンが、自身の宿命と感じて描いた作品とのことだ。
因にベルモンは、1981年ジャン=ジャック・アノー監督『人
類創世』なども手掛けた映画製作者でもあるとのことで、絵
作りなどには何となく同じような雰囲気も感じられた。
主演は、本作が映画デビューのマルチド・ゴファール。実年
齢に近い出演と思われるが、我儘一杯の少女が現実に晒され
成長して行く姿が見事に演じられている。
そして彼女に付き添うのが白、黒、赤毛の3頭のオオカミ。
他にも子供のオオカミなど総勢15頭が集められた撮影では、
主演のゴファールを群れのリーダーとして認めるように訓練
されたオオカミたちが、超音波などの策略も使って「演技」
しているそうだ。
なお本作は、以前に紹介した『ベルサイユの子供』などと共
に、3月12日から六本木で開催される2009フランス映画祭で
上映された後、5月に日本公開が予定されている。

『新宿インシデント』“新宿事件”
コメディタッチのアクション映画でお馴染みのジャッキー・
チェンが、不法入国者として登場し、東京新宿の歌舞伎町を
舞台に大暴れする最新作。
巻頭にはユニヴァーサル映画のロゴマークが映出され、普段
の香港映画とは違った雰囲気となる。しかも映画の発端は中
国東北部での残留日本人のエピソード。そして主人公の恋人
が日本人と判明し、日本に帰国してしまうという展開。
正直、いつものジャッキー映画を期待する観客には、最初か
らがつんと喰らわされるような作品だ。
さらに物語では、日本に行った彼女が音信不通になり、心配
した主人公は日本への不法入国を試みることになる。そして
若狭の海岸に漂着した主人公は、一路新宿に住む同郷人たち
の許を目指し、日本の裏社会へと潜り込んで行く。
その裏社会では大陸出身者と台湾出身者が対立し、現状では
日本の組織に取り入っている台湾系が幅を利かせていた。そ
んな中で主人公たち大陸系の人々は、違法就労の3K日雇い
などで暮らしを立てていた。
一方、日本の組織のトップが交替し、そこに中国人ともうま
くやっていこうとする若頭が登場する。その若頭は大陸系の
連中にも目を掛け、やがて主人公との交流も始まる。こうし
て主人公は徐々にその地位を上げて行くことになるが…
この主人公をジャッキー・チェンが演じ、いつものコミカル
さを封じたリアルな闘いが繰り広げられる。しかもそれは、
日本での公開がR−15指定になるほどの過激な演出となって
いるものだ。
監督脚本は、アンディ・ラウ主演の青春映画なども手掛ける
イー・トンシン。共同脚本に『セブンソード』などのチュン
・ティンナムが参加して、日本人としてもかなり緊張する物
語が展開されている。
共演は『香港国際警察』のダニエル・ウー、『風雲ストーム
ライダース』のシュー・ジンレイ、『墨攻』のファン・ビン
ビン。そして日本側から竹中直人、加藤雅也、故峰岸徹らが
登場する。
因にこの作品は、中国本土では公開中止になったそうで、そ
の理由は過激な暴力描写とのことだが、中国人が日本で凶悪
犯罪を起こしているという物語が、北京政府の気に触ったと
いう説もあるようだ。

『パニッシャー:ウォー・ゾーン』
                “Punishaer: War Zone”
1974年にスタートしたマーヴェル・コミックスを原作とする
映画化作品。
同じ原作からは、1989年と2004年にも映画化があるが、今回
は04年作の続編という位置付けのようだ。ただし主演には、
89年作ドルフ・ラングレン、04年作トマス・ジェーンに替っ
て、テレビドラマ“Roma”が評判のレイ・スティーヴンスン
が新登場している。
物語は、日本の『必殺仕事人』と同じく、司直の手の届かな
い巨悪に鉄槌を下す闇の仕置人を主人公としたもので、特に
アメリカでは、司法取り引きによって仲間を売れば死刑囚で
も罰を免れるという現実が背景となっている。
なお本作では、闇の仕置人パニッシャーの出自などは省略さ
れているが、取り敢えず悪党どもをバッタバッタと倒して行
く展開はすぐに理解できるし、その存在が警察にとっては目
の上の瘤にはなるものの、警察側にも理解者が現れることは
容易に理解できるものだ。
そして今回のお話は、ハンサム・ビリーの異名を持つマフィ
アの殺し屋と、その弟でその名もルーニー・ジムを敵役に、
大量殺戮武器の密輸入を企むテロリストや、当然FBIなど
警察関係も絡んでの大アクションが展開される。
さらに今回は、パニッシャー自身にもある出来事から葛藤が
生じており、それもあっての後半は、復讐に燃えるハンサム
・ビリーが町中の悪党どもを結集してパニッシャーに集団戦
を仕掛けるという…まさに戦争の火蓋が切って落とされる展
開になる。
その1対20〜30人の闘いは、元プロのマーシャルアーツ格闘
家で、ハリウッド映画のスタントウーマンとしても活躍して
きた本作の女性監督レクシー・アレクサンダーが見事に映像
化している。さらに、本作の製作はゲイル・アン・ハードが
担当の女性2人が仕掛ける作品だ。
それにしても演じられるアクションは、まさに現実ならこう
なるだろうというリアリティと、さらにオリジナリティに溢
れたもので、従来の格闘技アクションとは一線を画した強烈
なものとなっている。因に本作の公開は、R−15指定とされ
ているものだ。
共演は、ビリー役に『300』のドミニク・ウェスト、ジム
役に『グリーンマイル』のダグ・ハッチンスン、他に『バイ
オハザード』のコリン・サーモン、『ランボー最後の戦場』
のジュリー・ベンツ、『氷の微笑』のウェイン・ナイトらが
出演している。

『レイン・フォール』
元CIAの極東エージェントだったとされる作家のバリー・
アイスラーが2002年に発表した小説の映画化。脚色と監督は
オーストラリア人のマックス・マニックス。製作会社はハリ
ウッドのソニーピクチャーズという作品だが、実は日本資本
で作られており、国籍は日本映画となっている。
日系アメリカ人の暗殺者が東京に現れる。それを追うCIA
の捜査員たち。しかし暗殺者は着実に仕事を為遂げて行く。
しかもその標的は、官吏でありながら汚職で私腹を肥やして
いたような連中。そして3人目の標的が暗殺されるが…
この暗殺者を椎名桔平が演じ、CIAの捜査員のリーダーに
ゲイリー・オールドマンが扮している。さらに物語は、標的
が持っていたはずの1個のメモリースティックを巡っての、
CIAと暗殺者の戦いとなって行く。
こんな物語が東京を舞台に展開される。まあ物語自体が絵空
事だと言われてしまえばそれまでだが、官僚支配の日本の政
治体制などもそれなりに反映されているし、さらにそれを裏
で牛耳ろうとするCIAの動きなども、無いとは言えなさそ
うな展開のものだ。
ただ、物語が絵空事のように観えるのは、写されている東京
の雰囲気にもあるところで、確かに秋葉原から有楽町、臨海
線までの舞台は東京の風景なのだが、そのいずれもが何処か
現実味の乏しいものになっている。
それは多分、舞台が自分の知らない街なら違和感にはならな
いのだろうが、普段暮らしている街では何か不思議な感覚だ
った。そんな違和感がさらに昇華してファンタスティックに
なればまた面白いとも思えるが、本作はそれを追求するよう
な作品ではなかった。
でもまあ、そんな一種異様な雰囲気も味わい方によっては面
白くも感じられるし、日本人ではない監督が撮ることによっ
て生じる新しい感覚とも言える。
共演は、長谷川京子、柄本明、清水美沙。因にピアニスト役
の長谷川は、ジャズピアノを吹き替えなしで演奏しているそ
うだ。
なお、原作は2002年に発表された本作を第1作として、同じ
主人公による作品が2007年まで毎年1冊ずつ計6作発表され
ているようだ。本作の評価が良ければ、映画のシリーズ化も
あるのかな。

『太陽のかけら』“Déficit”
『ブラインドネス』などで国際的に活躍するメキシコ人俳優
ガエル・ガルシア・ベルナルによる初監督作品。
父親が政治家か官僚という感じの若者が、両親の居ぬ間に自
宅の邸宅に仲間を引き入れて乱痴気パーティを繰り広げる。
そこには彼の妹の仲間も集っていて、まさに無軌道な若者の
生態が描かれていく。
また、新参加の女性を見初めた主人公が、後から来る恋人の
到着を遅らせるためにわざと間違った道順を伝えたり、酒や
ドラッグに浸るなど、まさしく刹那的に生きる若者の姿が描
かれている。
その一方で、使用人のインディオに対してはフレンドリーで
あるかのように見せて、実は差別しているなど、屈折した若
者の心理も描かれる。画面外からは打ち上げ花火の音が聞こ
え、町ではお祭りが開かれている日のことのようだ。
最初の内は、唯々若者たちの無軌道ぶりが描かれている。し
かしそこに徐々に現実の厳しさが入り込んでくる。それは人
種差別であったり、社会の経済破綻であったり、まさに今、
世界中が直面している問題も描かれている。
脚本はキッザ・テラサスという人物が書いているが、原案は
ベルナル自身のもののようだ。そのベルナルの視点は、見事
に現在の若者が抱える問題を見詰めたものであり、ちょっと
ファンタスティックでもあるメキシコの風景の中で現実的な
物語を描き切っている。
因に原題は「不足、劣性」といった意味のようで、「危機」
「低下」「不安定」などの単語と共に、ベルナルの育ってき
た環境の中に常にあった言葉だそうだ。それがメキシコ人の
考えるメキシコの現実なのだろうか。
主人公をベルナルが演じている他、親友ディエゴ・ルナの恋
人と言われるカミラ・ソディが妹役で出演。因にルナは本作
のプロデューサーに名を連ねている。その他は、モデルなど
ベルナルの普段の仲間たちのようだ。
なお本作は、2007年カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に
出品されて居合わせた監督たちから絶賛され、2008年の初夏
からのメキシコ公開では5カ月に及ぶロングランを記録した
とのことだ。

『今度の日曜日に』
2007年上期選出の日本映画エンジェル大賞受賞作。日本の大
学で映像を学んでいる韓国からの女子留学生と、その被写体
に選ばれた中年日本人男性を描く日韓交流ドラマ。
主人公は、映像を学ぶため日本に留学した先輩の後を追って
日本にやってきた。しかし、先輩は彼女への連絡もせずに休
学して帰国していた。そのため目的もなく学校に通うことに
なった主人公は、実習課題の「興味の行方」の被写体も決め
られない。
そんなとき彼女は、学校の用務員として働く1人の中年男性
に目を留める。その日本人男性は、用務員だけでなく朝昼晩
といろいろな仕事に就いており、さらに立ったまま寝るとい
う特技ももっているようだ。
こうして被写体を決めた主人公は、その取材の過程で日本人
男性の人生を知って行くことになる…という物語が、長野県
松本市の信州大学キャンパスなどを背景に描かれる。
この被写体となる日本人男性が、ガラス瓶のコレクターとい
う設定で、主人公には最初はゴミにしか見えない様々な形の
ガラス瓶が、徐々に男性の人生を語りだし、そしてドラマを
作り上げて行く。
出演は、日本で歌手デビューした韓国出身のユンナと市川染
五郎。映画初出演のユンナの初々しさと市川の飄々とした佇
まいが物語の雰囲気に填っている。また『殺人の追憶』など
のベテラン韓国女優チョン・ミソン、日本側は竹中直人らが
脇を固めている。
それと物語のキーになるガラス瓶には、5万本のガラス瓶を
並べたボトルシアターを作っているという日本有数のコレク
ター=庄司太一氏の監修で、様々な趣のあるガラス瓶が登場
している。
ガラス瓶に託つけた人生の語り口には上手さを感じるし、そ
れが直接ドラマに結びつく展開も見事なものだ。ただ、映画
の見せ場がそこに集約されすぎて、他にもあるはずの物語が
そこで一気に消されてしまっているような感じもした。
もちろん1点での集中力は大切だが、観客としてはもっと他
にも、それほど大きくなくてもいいから何かの感動があって
欲しいような気もしたものだ。先輩との再会の辺りがあっさ
りしすぎている感じなのかな…

因に、日本映画エンジェル大賞は、この作品が選出された回
をもって終了したようだ。

『GOEMON』
2004年に『CASSHERN』を発表した紀里谷和明監督の
5年ぶりの新作。写真家としても著名な監督が、前作と同様
の映像感性を目一杯に繰り広げた作品。
1582年本能寺の変を契機に豊臣秀吉が天下を取り、戦国時代
が終結した安土桃山の時代を背景に、後に義賊と称えられる
石川五右衛門の活躍を描く。
戦乱の世が終り人々は自由を取り戻したものの、一般民衆の
貧富の差は拡大し、金持ちと役人たちが幅を利かせ始める。
一方、秀吉を頂点とする政権は、大名たちの会議なども行わ
れているが、秀吉は海外派兵も目論んでいるようだ。
そんな時代に五右衛門は、金持ちから財宝を盗み民衆にばら
まく義賊として人気を高めていたが…ある日のこと忍び込ん
だ土蔵で一つの小箱を手にする。そしてその小箱に隠された
秘密は、やがて天下を揺るがして行くことになる。
五右衛門が抜け忍とする説は以前からあるようだが、本作で
はさらに霧隠才蔵や服部半蔵、織田信長、茶々らとの特別な
関係も描き、また猿飛佐助や石田三成、徳川家康、千利休な
ども登場する歴史絵巻が展開される。
そしてその配役を、五右衛門=江口洋介、秀吉=奥田瑛二、
才蔵=大和たかお、茶々=広末涼子、信長=中村橋之助、家
康=伊武雅刀、利休=平幹二朗。その他、ゴリ、要潤、玉山
鉄二、チェ・ホンマン、寺島進、佐藤江梨子、戸田恵梨香、
鶴田真由、りょう、福田麻由子、広田亮平、田辺季正などの
多彩な顔ぶれで描いている。
義賊の五右衛門を描いた映画作品は過去に例が無いとのこと
だが、本作のお話自体は、先に何処かで発表されているかも
知れないと思えるものだ。しかし本作で特筆すべきは、その
お話より衣裳やセットなど美術デザインの奇抜さだろう。
特に衣裳は、使用される素材は当時実在したものに限定する
としながらも、南蛮との交流が進んだ安土桃山の時代背景を
拡大解釈して、かなり異様とも言えるデザインを造り出して
いる。しかもそこに和風のテイストも残しているのは見事な
ものだ。
さらに背景は、異様に天井の高い室内や多層に構築された安
土城など、過去の日本の時代劇からは想像もできない風景が
登場する。そしてそれらをCGIとグリーンバックを駆使し
て映像化しているものだ。
技術的には、『CASSHERN』の時よりカメラを自由に
動かせるようになった…とのことだが、そのCGIの風景の
中で繰り広げられるスピード感に溢れたアクションシーンな
どは、まさしく前作を越えた映像が楽しめる。
前作『CASSHERN』を楽しめた人にはその先の世界を
楽しむことが出来るし、前作を観ていない人も、ここに展開
される新しい映像世界は一見の価値があると言える。特に、
その映像感性が、他では全く観ることの出来ないものである
ことは確かだ。



2009年02月15日(日) 第177回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回は記者会見の報告から。
 映画の公開時などに行われる記者会見には、お呼びが掛か
れば出来るだけ出席するようにしているが、ここでは少なく
とも自分でした質問に関しては、きちんと報告させてもらう
ことにする。
 因に昨年は、記者会見で多少トラブルに見舞われたりもし
て、今年はちょっと自重気味にスタートしたのだが、質疑応
答の時間になっても質問が出なかったりすると、やはり手を
挙げてしまうことになる。それで今年の最初は、1月20日の
『重力ピエロ』完成披露試写会での質問からになった。
 質問は脚本の相沢友子さんに対して、小説を脚本化するに
当って気を付けたことを訊いてみた。その答えは「本作では
原作の時間軸がかなり入り組んでいたので、一旦、時系列を
戻したシナリオを書いてみた」とのこと、実はこの答えは、
当日配布されたプレス資料にも書かれていたことに後で気が
付いたが、原作のまま単純に脚本化するのではない、特別な
作業の状況が聞けて面白かったものだ。
 次は1月22日の『GOEMON』の完成報告記者会見で、
この映画に秀吉役で出演した奥田瑛二さんに質問をした。実
はこの時点で試写は見せて貰っておらず、作品を観ないでの
質問は難しいのだが、この日は宣伝担当からの依頼もあった
ので質問をした。ただし質問内容は勝手に変更して、監督の
経験もある奥田氏にVFXを多用した映画に出演した感想を
訊いてみた。
 その答えは、「(本作の)監督の紀里谷氏とは以前から仲
が良く、今後、自分もビッグバジェットの作品を作るときが
あったら、今回のグリーンスクリーンを貸してもらいたい」
とのことだった。僕は奥田監督の作品では、第17回東京国際
映画祭のコンペティションにも出品された『るにん』が気に
入っているものだが、あのスケールでグリーンスクリーンを
使った作品はぜひ観てみたいものだ。
 さらに2月3日の『PLASTIC CITY』の記者会見では、ユー
・リクウァイ監督にアマゾンを舞台にしたことについて訊い
てみた。これは、物語の後半がかなりファンタスティックな
ものになることについて、脚本が先で舞台をアマゾンにした
のか、アマゾンを舞台にしたことでこの展開になったのかを
質問したものだ。
 その答えは、「映画の結末には苦慮して、決まらないまま
ブラジルに向かったが、アマゾンを観てあの物語が出来上が
った」とのこと、1月11日付の映画紹介の時にも書いたが、
やはりアマゾンには物語を生み出す特別な力があるようだ。
 因にこの会見は、有楽町にある外国特派員協会の会見場で
行われたものだが、記者席の前に立ったマイクに所に出て行
って質問するという形式で、そのためか質問が映画の内容に
関わらない通り一遍のものばかりだった。そこで最後に、監
督に上記の質問をしたのだが、場内が多少混乱している中、
監督には丁寧に答えてもらえて嬉しかった。
 そして2月5日の『四川のうた』のジャ・ジャンクー監督
記者会見では、俳優が演じているインタヴューが実話に基づ
くのか、それとも完全なフィクションか訊いてみた。
 その答えでは、「ジョアン・チェンが語ったシャオホァの
話と、リュイ・リーピンが語った母親の話は、複数のインタ
ヴューで出た話を総合して作った。特に母親の話は工場の従
業員の多くに語り継がれている話。一方、ジョアン・チェン
には、過去の自分の映像との共演という無理な注文の応じて
貰えて感謝している」とのことだ。またチャオ・タオが語る
若い女性の話は完全にフィクションで、チェン・ジェンビン
の話については言及されなかったが、流れからすると創作の
可能性が高そうだった。
 確かに、多くの人に語り継がれている話を、当事者が居な
いからといって描かないのは歴史を語る上では誤りであろう
し、それを俳優に語らせたからといって間違っているとは思
えない。さらにそこに完全なフィクションを入れることで、
全体のバランスを見事に取っている感じもしたものだ。
 以上で、2月前半までの記者会見を報告させてもらった。
これからも折があれば質問はしたいと思っているので、その
ときはまた報告させてもらうことにする。
        *         *
 ではここからは、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、2004年8月1日付第68回で最初に報告して、07年
11月1日付第146回の頃にも再燃していたDCコミックス原
作による“Green Lantern”について、新たにマーティン・
キャンベル監督を招請していることが発表された。
 キャンベル監督というと、アントニオ・バンデラス主演の
『ゾロ』2部作や、ピアーズ・ブロスナン=新007誕生の
『ゴールデン・アイ』、そして『カジノ・ロワイヤル』での
ボンド復活が決まったときには、そのリスタートの監督にも
起用された人だが、今回も新シリーズのスタートに当っては
ベストの人材と言えそうだ。
 一方、脚本に関しては、第146回の際に報告したグレッグ
・バーランティらによるものが完成されており、差し当たっ
てはそれに沿って進められることになりそうだ。因にバーラ
ンティは、以前の情報では監督に起用されていたものだが、
ワーナー側の要請などで現在は製作を担当することになって
いるようだ。
 なおキャンベル監督の状況は、1985年に製作したBBCの
ミニシリーズを自ら映画化する“Edge of Darkness”という
作品の撮影を終えたところでスケジュールはフリー。また、
DCコミックス原作の映画化では、ジョッシュ・ブローリン
主演、ジミー・ヘイワード監督による“Jonah Hex”が4月
の撮影開始予定になっており、ワーナーの発表では“Green
…”はそれと前後しての公開予定とされている。
 これらを勘案すると、配役などの発表はまだ無いものの、
本作の製作は近々に開始されることになりそうだ。『アイ・
アム・レジェンド』で、主人公が訪れるDVDショップに貼
られていたポスターが、ようやく本物になるのかな。
        *         *
 次も、2000年頃から計画されていた作品で、ジェリー・ブ
ラッカイマー製作“Gemini Man”の監督を、『LAコンフィ
デンシャル』などのカーティス・ハンスン監督と交渉してい
ることが報告された。
 この作品は、後の2005年に“Lost”という作品を発表する
ダーレン・リムケのオリジナル脚本から、一時は『アルマゲ
ドン』などのジョナサン・ヘンスレイが脚本を担当し、トニ
ー・スコット監督やメル・ギブスンの主演など、ブラッカイ
マー製作では『アルマゲドン』に続く大作と宣伝されていた
ものだ。しかし製作の機会に恵まれないまま、2001年には製
作延期が発表されていた。
 その作品に今回は、ハンスン監督との交渉が公表されたも
ので、脚本には、『トロイ』などのデイヴィッド・ベニオフ
の手によるものが提示されているようだ。
 物語は、アメリカ国家安全保障局(NSA)の捜査官が引
退を試みるが不自然な事故で生命が危うくなる。しかもそこ
に、彼自身のクローンと思われる若者の介在が認められる…
というもの。ブラッカイマーの作品では、『アルマゲドン』
というより『デジャヴ』の系統の作品と言えそうで、そこに
ハンスン監督はマッチしそうな感じもするところだ。
 製作時期やキャスティングなどは未発表だが、ハンスン監
督なら主人公の葛藤などにも面白いものが描けるかもしれな
いし、その辺にも興味が湧くものだ。
        *         *
 前回もナチス絡みの“Fatherland”という作品を紹介した
が、今回は月に置かれたナチスの基地からの地球侵略という
SF映画の計画が発表されている。
 英語題名は“Iron Sky”。物語は第2次世界大戦の末期に
ナチスの科学者が反重力装置を開発し、建造された宇宙船に
乗った兵士たちは月の裏側に着陸、そこで強力な艦隊を建造
する。そして2018年、ナチスの宇宙艦隊が地球侵略に向けた
準備を開始する…というものだ。
 日本でも、帝国海軍がどこかに隠れて艦隊を建造している
という話があったような気がするが、月の裏側からの侵略と
いうのは大変なものだ。ただし本作は侵略戦争を描くのでは
なく、侵攻の準備として月の基地から地球の様子を探るため
派遣された女性将校を主人公としたもの。しかもその将校役
には、コメディ映画で人気の女優が起用されているとのこと
で、それなりに捻った作品にはなりそうだ。
 とは言うものの、VFXはかなり使用されるとのことで、
そのための製作費の調達が検討され、その支援に向けてイン
ターネットが活用されたとのこと。そこには200万人以上の
支援者が登録されているそうだ。なお映画の製作は、フィン
ランドの映画会社と、ベルリンに本拠を置く映画会社の共同
で進められている。
 因にフィンランドでは、2006年に『スター・トレック』の
パロディ作品“Star Wreck: In the Pirkinning”がネット
で無料配信されて2カ月間で350万人が鑑賞。これが同国の
映画観客動員数の歴代記録になっているそうだ。今回の作品
は劇場での公開が目指されているようだが、何とか日本でも
観られるようにして欲しいものだ。
        *         *
 昨夏公開の『ダーク・ナイト』が全世界興行で10億ドル突
破を記録したワーナーとクリストファー・ノーラン監督が、
同監督が新たに執筆した脚本について、7桁($)の契約を
発表した。
 この脚本は“Inception”と題されているもので、内容は
精神の構造を題材にした現代が背景のSFアクションとのこ
と。それ以上の具体的な物語は明らかにされていないが、製
作担当のワーナーの幹部からは、「ノーラン監督は、自分の
作る作品ごとに、その関門の高さを上げているようだ」との
発言がされていた。『メメント』や『インソムニア』の監督
が、今度はどんな物語を仕掛けてくるか楽しみだ。
 なお、契約金額については、ワーナーとすれば『ダーク・
ナイト』の続きを確保するためにも、当然の金額と考えられ
ているようだ。そして今回の作品はノーランの次回作として
2010年夏の公開となっており、このペースで進めば2012年に
は「バットマン」の第3作が期待できることになりそうだ。
        *         *
 昨年2月に紹介した『ジェーン・オースティンの読書会』
は、その時にも書いたようにネビュラ賞受賞SF作家の原作
によるものだったが、そこに描かれた世界がよほどSFファ
ンの心をくすぐるのか、今度はオースティン世界にタイム・
トラヴェルするというお話が映画化されることになった。
 題名は“Lost in Austen”。物語は現代のニューヨークで
ボーイフレンドと同棲中のオースティンファンの女性を主人
公にしたもので、その主人公がある日のこと『高慢と偏見』
のエリザベス・べネットと入れ替わって…というもの。元は
ロンドンを舞台にして去年秋に放送されたイギリスのテレビ
ミニシリーズがあり、今回はそのミニシリーズを製作した会
社がそのまま映画版も手掛けるとのことだ。
 そしてその映画版の製作者として、『アメリカン・ビュー
ティ』で1999年のオスカー監督賞を獲得し、『君のためなら
千回でも』などの製作も手掛けたサム・メンデスの参加が発
表されている。また脚本は、テレビシリーズも担当したガイ
・アンドリュースが映画版も手掛けており、アンドリュース
は映画版の製作総指揮も担当するそうだ。
 監督は未定で、配役や製作時期も未発表の計画だが、製作
会社は『…読書会』と同じコロムビアとなっており、完成す
れば続編のような雰囲気での売り込みともなりそうだ。なお
メンデス+コロムビアでは、昨年11月15日付第169回で紹介
したようにグラフィックノヴェル原作の“Preacher”という
計画も進めており、こちらはメンデスの監督になっている。
 それにしてもオースティンとSFは、何故か相性が良いよ
うだ。
        *         *
 続報で、昨年11月15日付の第169回で紹介したMGM製作
で進められているロバート・ラドラム原作の“The Matarese
Circle”の映画化に、デイヴィッド・クローネンバーグ監督
とデンゼル・ワシントン主演に加え、トム・クルーズの共演
が報告された。
 1979年に発表されたオリジナルの物語は、冷戦時代を背景
にアメリカとソ連のスパイが協力せざるを得なくなるという
もの。その原作からの映画化では、『ウォンテッド』などの
マイクル・ブラントとデレク・ハースが現代化した脚色を進
めていたもので、そこにワシントンとクルーズの共演は面白
くなりそうだ。
 因にクルーズは、同じくMGM製作の“Valkyrie”の後に
は、スパイグラス社でシャーリズ・セロン共演による“The
Tourist”という計画はあるようだが、その他に決定してい
る作品はなく、今年中の製作が計画されている本作の映画化
には支障無く参加できそうだ。
        *         *
 一方、ラドラム作品の映画化権を管理しているキャプティ
ヴェイト・エンターテインメント(社名が変わったようだ)
社は、昨年12月1日付第172回で報告したようにユニヴァー
サルと包括的な契約を結んでいるものだが、同社が直接映画
製作に乗り出す第1号作品として“The Parsifal Mosaic”
(邦訳題:狂気のモザイク)という計画が発表された。
 物語は、KGBとの二重スパイだった自分の恋人が暗殺さ
れるのを目撃した合衆国の情報局員が、それを契機に職を辞
するが、後日、暗殺されたはずの恋人の姿を町で目撃する…
というもの。題名通りの複雑なモザイクが描かれそうだ。そ
してこの映画化の計画を、ユニヴァーサルでは最優先で進め
ると発表している。
 因にユニヴァーサルでは、昨年6月15日付第161回で紹介
した“The Sigma Protocol”の映画化も進めているが、この
作品はキャプティヴェイトとは別枠で進められているもの。
この結果、ユニヴァーサルでは、全くの映画オリジナルで準
備中の『ジェイスン・ボーン』シリーズの第4作と併せて、
3本のラドラム関連作品が同時進行中となっている。
 『ボーン』3部作の全世界興行収入合計が10億ドルに到達
しているラドラムの人気は、まだまだ続きそうだ。
        *         *
 またまた玩具の映画化で、ハスボロ社が1970年代から発売
しているマッスル型のキャラクター人形Stretch Armstrong
に基づく物語の計画が、先に同社との包括契約を結んだユニ
ヴァーサルから発表された。
 因に人形は、身長13インチながら腕を掴んで引っ張ると、
最大で4フィートにも伸びるという代物。そして計画では、
2003年にジム・キャリー主演で大ヒットしたVFXコメディ
『ブルース・オールマイティ』のスティーヴ・オーデカーク
が脚本を担当しており、人形の特徴を活かしたコメディでの
映画化になりそうだ。
 なおこのキャラクターに関しては、実は1998年頃にディズ
ニーでも映画化が企画されたことがあって、その時はダニー
・デヴィートとジャッキー・チェンの共演という計画だった
そうだ。つまりその時もコメディでの映画化が計画されてい
たもので、今回ものその線は変わらないものだ。
 因にハスボロ社は、元々今年公開される“Transformers”
と“G.I.Joe”の玩具の発売元でもあるものだが、一昨年の
映画版『トランスフォーマー』の大成功で、新たな可能性に
着目したようだ。そこでユニヴァーサルと包括契約を結んで
の直接進出となったもので、すでにこの契約からは、ボード
ゲームのMonopolyをリドリー・スコット監督で、また同じく
ボードゲームのCandylandを『魔法にかけられて』のケヴィ
ン・リマ監督で映画化する計画も進められている。
 ただし、すでに映画化のされたキャラクターに関しては、
映画会社側に優先権が生じることになっているもので、その
ため“Transformers”の製作はドリームワークスが続けて行
うことになる。しかし同社は先日、パラマウントからディズ
ニーへの移籍を発表したもので、この場合の優先権はどこに
あるのか、その権利主張が縺れると、最悪以後の続編の製作
が不能になってしまう恐れもあるようだ。
        *         *
 1997年『ガタカ』、2002年『シモーヌ』が鮮烈な印象を残
すアンドリュー・ニコル監督が、2005年の『ロード・オブ・
ウォー』以来の監督作品として、近未来SFとされる“The
Cross”の計画を発表し、その映画化にオーランド・ブルー
ム、ヴァンサン・カッセルと『慰めの報酬』オルガ・キュリ
レンコの出演が報告されている。
 物語は、神秘的な境界を描くもので、ブルームが演じるの
は誰も成しえなかったその境界越えを試みる男、カッセルは
それを阻止するために手段を選ばない境界の番人を演じると
のことだ。これだけでは何の話かさっぱり分からないが、全
体のテーマは近未来ものとなっており、それを前記の作品を
手掛けたアンドリュー・ニコルの脚本監督なら、相当のもの
が期待できそうだ。しかも製作費には2400万ドルが計上され
ており、主な撮影は7月にオーストラリアで開始されること
になっている。
 因に、アンドリュー・ニコルは1998年にピーター・ウェア
が監督した『トゥルーマン・ショー』でオスカー脚本賞候補
になっているが、どの作品もかなり特異なシチュエーション
を現実のように描いているもので、その系列の中での今回の
作品は気になるところだ。
        *         *
 最後に短いニュースをまとめて紹介しておこう。
 まずは久々の名前で、ジョン・カーペンター監督が2001年
の『ゴースト・オブ・マーズ』以来の計画を発表している。
題名は“The Ward”。詳しい内容は不明だが、記事によると
ghost storyとのこと。インディーズのEcho Lakeの製作で、
主演には“Pineapple Express”というRレイトのコメディ
が評判になっているアンバー・ハードの起用も発表されてい
る。なお、Echo Lakeは昨年3月に紹介の『アウェイ・フロ
ム・ハー/君を想う』を製作した会社だそうだ。
 昨年9月15日付第167回で紹介したアレン&アルバート・
ヒューズ兄弟監督による“The Book of Eli”の撮影が開始
され、以前に紹介した主演デンゼル・ワシントンに加えて、
ゲイリー・オールドマン、マイクル・ガンボンの共演が発表
されている。最終戦争後の世界を舞台に荒廃した各地を旅す
る主人公を描く作品には、他にもいろいろな登場人物が現れ
そうだ。なおワーナーが配給するこの作品の全米公開日は、
2010年1月15日に決定しているようだ。
 『カジノ・ロワイヤル』『ライラの冒険』のエヴァ・グリ
ーンが、ハンガリー出身ベネデク・フリーガウフ監督による
初の英語作品に出演し、この作品“Womb”の内容が未来物と
紹介されている。具体的な内容は、グリーン扮する未亡人が
夫のクローン再生を試みるというものだそうで、共演にはB
BCの新作“Dr.Who”で主演を勝ち取ったマット・スミスの
起用も発表されている。撮影は今年3月に北海沿岸で開始さ
れる予定とのことだ。
 1月15日付第175回で紹介したMcG監督の“20,000Leagues
Under the Sea: Captain Nemo”の映画化に関連して、前回
“Masters of the Universe”の記事にも登場したジャステ
ィン・マーカスが脚本のリライトを担当すると発表された。
ディズニーの製作で1954年作品のリメイクの面も持つこの作
品は、ネモ船長の人生を語るものにもなるようだが、そこに
『ストリートファイター/ザ・レジェンド・オブ・チュンリ
ー』の脚本家の起用は面白そうだ。期待したい



2009年02月14日(土) 鴨川ホルモー、恋極星、チョコラ!、ヤッターマン、ピンクパンサー2、ニセ札

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『鴨川ホルモー』
テレビドラマ化された『鹿男あおによし』の原作者でもある
万城目学によるデビュー作の映画化。歴史の町=京都を舞台
に、陰陽道を背景にした奇想天外な物語が展開される。
主人公の安倍明は二浪して京都大学に合格。しかし入学はし
たものの直ちに五月病で、葵祭りのアルバイトに参加はした
が目標も何もない生活ぶり。ところがその帰り道、京大青竜
会なるサークル活動に誘われる。それはごく普通のサークル
だというのだが…
新入部員は10人。取り敢えず飲み会などごく普通に始まった
サークルは、祇園宵宮の四条烏丸交差点で他校3校との邂逅
があったときから怪しげな雰囲気が漂い出す。
そこに来たのは、北は京都産業大学、南は龍谷大学、西は立
命館大学、そして東が京都大学の面々。彼らは京都の平安を
守るため、1000年の歴史を持つホルモーを行う集団だったの
だ。そんな集団に巻き込まれた主人公の、いろいろ起きる学
生生活が描かれる。‥‥で、ホルモーって何?
物語はごく普通の学園もののように始まる。ここでは三大祭
や保津川下りなどの京の風物詩が次々登場し、1年を通じて
の京都観光のような雰囲気が楽しめる。ところがそこに徐々
に摩訶不思議なものが登場し、映画の後半は大VFX大会と
なってしまうのだ。
しかしその物語の展開は巧みで、この有り得ない話がごく自
然に物語の中心にすり替わって行くのは見事なもの。もちろ
んそこには主人公の恋模様など、主人公を物語の中心から外
さない仕組みも付けられている。

出演は、山田孝之、栗山千明、濱田岳、芦名星、石田卓也、
斉藤祥太・慶太、荒川良々、そして石橋蓮司。さらに、映画
の後半の主役ともいえるVFXのCGIアニメーションは、
『ブレイブストーリー』などのGONZOが担当している。
また、作品に登場する珍妙な踊りの振り付けをパパイヤ鈴木
が担当しており、さらにその珍妙な振り付けを出演者たちが
真面目に演じているのも好感が持てた。この種の作品では、
それを演じる出演者の真面目さがキーになるが、その点でも
満足できる作品だった。
原作は、「本の雑誌」でエンタテインメント第1位に選ばれ
るなど、特に若者の評価が高いようだ。そして映画化では、
恐らくその雰囲気を壊さないように作られているのだろう…
かなり飛んだ作りの作品だが、押さえどころはちゃんと押さ
えている感じがした。
それに、四季に渡る京都の風景が見事に映像に写し取られて
いるのも魅力的だった。

『恋極星』
2005年の別冊フレンドに読切り掲載されたというミツヤオミ
原作のコミックス「君に光を」の映画化。北海道を舞台に、
若くして両親を亡くした女性と、幼馴染みの男性との切ない
ラヴストーリーが展開される。
前に母親を亡くしている少女は、幼い弟と共に父親の解説す
るプラネタリウムで星々の話を聴くのが好きだった。そして
そこには幼馴染みの男の子の姿もあった。しかしその男の子
は両親と共にカナダに引っ越してしまう。必ず迎えに来ると
約束して。
やがて父親も亡くなり、弟は星の話題にしか興味を示さない
問題のある子として施設に預けられる。そして彼女は、町の
小さな建設会社で働きながら彼が迎えに来る日を待ちわびて
いた。それが叶わぬ夢かも知れないと感じながら。
愛した誰もが自分の前から去ってしまう。そんな哀しい思い
を何度もしてきた彼女。ところがしばらく音信不通だった彼
が彼女の前に現れる。そして再び訪れた素晴らしい日々。し
かしそこには、思いも寄らぬ落とし穴が待ち構えていた。

物語的にはちょっと甘いところが多い感じもするが、原作が
少女マンガということでは、これが原作の味なのだろう。多
分観客もこれを了解できる人たちが狙いというものだ。それ
にまあ最近の日本映画の水準では、これでも纏まっている方
のようにも思える。
出演は、『デスノート』で弥海砂役の戸田恵梨香、『猫ラー
メン大将』などの加藤和樹。若い2人が懸命に生きて行こう
とする薄幸のカップルを良い感じで演じていた。他に。若葉
竜也、吹越満、熊谷真実らが共演。
監督はAMIY MORI。本業は世界的に活動している女流写真家
だそうで、美しく撮影された北海道の風景は、それだけでも
心に染みるものがある。因に本作は、脚本家の横田理恵、製
作者の木村元子が全て女性という日本映画では珍しい体制で
製作されている。
なお星がテーマの作品ということで、映画の中では流星雨が
再現され、それは美しかった。しかもその星の流れる方向が
徐々に変化しているのには芸の細かさも感じた。もっとも、
映画の設定時間でこの変化はないはずだが、それは映画的な
創作というところだろう。
それに、その状況に至る部分の説明には、ちょっと感動させ
られるものがあった。それも甘い話ではあるのだが、それが
この物語の良さでもあるものだ。


『チョコラ!』
東アフリカ・ケニア共和国の首都ナイロビから自動車で1時
間ほどのところにある地方都市ティカ。この人口10万の町の
ストリートで暮らす子供たちを追ったドキュメンタリー。
その子供たちは、道端で鉄屑やプラスティックの容器を拾い
集め、それを回収業者に売って得た小銭で生活している。そ
んな子供たちは、スワヒリ語で「拾う」を意味する言葉から
「チョコラ」と呼ばれている。
子供たちには親がいない訳ではなく、ただ親許では暮らせな
いから路上で生活している。それは逆に、孤児ではないから
孤児院に収容することもできず、彼らに教育を与えるための
デイケア施設はあるが、そこに寝泊まりはすることができな
いものだ。
そんな環境の中でも、子供たちは小銭で買ったり漁ってきた
食料を仲間と分け合い、時には歌や踊りにも興じながら逞し
く生きている。特に映画の最後に出てくる子供たちの間に歌
い継がれているという歌は、見事な作品になっていた。
本作はドキュメンタリーであるから、一概にフィクションと
の比較をすることはできないが、『シティ・オブ・ゴッド』
や『スラムドッグ$ミリオネア』に描かれた子供たちとはま
た違う、最低辺に暮らす子供たちの姿が描かれている。
もちろんそこには諸外国からの援助もあって、中では日本人
女性が運営する施設も紹介されているが、それこそ焼け石に
水のような努力を続ける姿には、ただ頭が下がるという以外
の言葉が見つからなかった。
ただし映画全体の流れとして、中で母親を写しているシーン
に相当の時間を費やしているのが、ちょっと奇異にも感じら
れた。結局、彼女の立場を観客に理解させるために必要だっ
たということにはなるのかもしれないが、これは余分に感じ
られた。
その分もっと子供たちの姿を観たかったし、それより現地で
活動する日本人女性の行動なども、もう少し判りやすく描い
て欲しい感じもしたものだ。まあ、いろいろな思惑はあるの
だろうが、観ていてこの点だけが少し気になった。

でもまあ、世界でこういうことが起きているのだと教えて貰
えるのはありがたいことで、この現実をもっと日本人に知っ
て貰いたいものだ。

『ヤッターマン』
1977年1月1日から79年1月24日まで全108話が放送された
タツノコプロ製作によるギャグアニメシリーズの実写版。
僕はこの頃のテレビアニメをほとんど観ていないので、オリ
ジナルとの比較はしずらいが、情報によると毎回がほぼワン
パターンの展開で、そこにいろいろなギャグが挿入されてい
たもののようだ。そのギャグも、いろいろ定番のものが繰り
返し使われていたとある。
僕は本作をその程度の予備知識で観に行ったもので、正直、
ストーリーに乗れなかったらどうしようとの不安もあった。
しかしそれは杞憂でしかなかったようで、ストーリーの展開
やギャグも判りやすいし、映画は何の違和感もなく楽しむこ
とができた。
しかも、アニメのハチャメチャな展開とスケールを、できる
限りそのまま実写で再現しようとした努力は見事なもので、
巻頭の崩壊した「渋山」駅前の景観に始まって、実寸大に再
現された各種の造形など、本当によくやってくれたという感
じがした。
物語は、オリジナルシリーズと同様の4つのドクロストーン
を求めて、ヤッターマンと敵役ドロンボー一味との戦いを巡
るもの。またその1個をすでにドクロベエが持っていること
や、一味が最初に繰り出す巨大メカがダイドコロンなのは、
オリジナルの踏襲のようだ。
さらに物語では、冒険考古学者の海江田博士やその娘などが
登場して、全地球的な所狭しの冒険がVFXやワイアーアク
ションなどを駆使して壮大に展開される。そしてそこに挿入
されるギャグの展開も絶妙なものだった。

出演は、ヤッターマン1号に「嵐」の櫻井翔、同2号に『櫻
の園』の福田沙紀、海江田博士役に阿部サダヲ、娘役に岡本
杏理。一方、ドロンボー一味はドロンジョに深田恭子、ボヤ
ッキーに生瀬勝久、トンズラーにケンドーコバヤシ。さらに
山寺宏一、滝口順平らの声優も登場する。
前にも書いたが、この種の作品では如何に出演者が真面目に
役に取り組むかが大事なものだが、本作では、櫻井も福田も
ポーズをちゃんと決めるし、特に深田、生瀬、ケンドーが、
アニメそのままの踊りやアクションを再現しているのは素晴
らしかった。

脚本は、テレビの『こち亀』などを手掛けてきた十川誠志、
監督は三池崇史。多作の監督には当り外れの振れの大きさを
感じるが、今回は当りのように思う。それに何と言っても、
巨大なセットや造形からCGIまでのVFXが見事に納まっ
た作品だった。
『マッハ Go!Go!Go!』には退いてしまったアニメファンも、
今度は楽しんで貰えるかな?

『ピンクパンサー2』“The Pink Panther 2”
1960年代、70年代にピーター・セラーズの主演、ブレイク・
エドワーズの監督で人気のあったシリーズが、スティーヴ・
マーティンの主演を得て2006年に再開された本作は第2弾。
因に、オリジナルの題名表記は『ピンク・パンサー』で、新
シリーズは「・」が無いのだそうだ。
僕は昔のシリーズの何本かはテレビ放送などで観ているが、
実は新シリーズの第1作は配給会社の関係で観ていなくて、
今回が久しぶりのクルーゾーとの再会となった。
シリーズは基本的に一発ギャグのオンパレードのようなスタ
イルで、中にはどうかと思うものもあるが、全体的には気楽
に笑えるものだし、特に本作では謎解きの推理などにセンス
の良さも感じられた。
しかも、共演者にはジャン・レノ、エミリー・モーティマ、
リリー・トムリン、ジョン・クリースらが顔を揃え、また、
今回は各国代表の捜査官役で、アンディ・ガルシア、アルフ
レッド・モリーナ。さらに、インドからアイシュワリアー・
ラーイ・バッチャン、日本からは『硫黄島からの手紙』など
ハリウッド映画で活躍する松崎悠希が出演している。
ガルシア、モリーナに比べると日本人の配役がちょっと弱い
気がするが、こういう作品に真面目に出てくれないのが日本
人スターというところだ。
物語は、大英図書館のマグナカルタ、トリノの聖骸布、日本
は天叢雲剣が相次いで盗難に遭い、その現場にトルネードの
犯行を示すカードが置かれていたことに始まる。
トルネードとは、10年前まで犯行を重ね、突如姿を消した怪
盗の名前。その活動を再開した怪盗が次に狙うのはフランス
が誇る宝石ピンクパンサー。その前にパリ警察のクルーゾー
が立ちはだかる。
こうして、クルーゾーの頓珍漢な大活躍とそれに振り回され
る上司や各国の捜査官たちの珍騒動が展開される。と言って
も今回は、各国代表の捜査官も相当に曲者で、クルーゾーは
恥さらしから英雄までの見出しを乱高下することになる。
まあお気楽に楽しめれば良い作品だし、昔からのファンとし
ては、ケイトーは居ないが自宅アパルトマンでの空手騒動が
再現されているのも嬉しかった。
脚本はマーティンが執筆。監督は2004年3月に紹介した『エ
ージェント・コーディ』などのハラルド・ズワルト。製作総
指揮を、前作の監督で『ナイト・ミュージアム』なども手掛
けるショーン・レヴィが担当している。

『ニセ札』
構成作家・俳優…の木村祐一による第1回監督作品。1951年
1月に戦後初めて発行された新千円紙幣を巡って、山梨県下
で実際に起きた村ぐるみの紙幣偽造事件。その実話から想を
得て描かれたオリジナルの物語。
実際の事件は「チ−五号」と呼ばれるもので、小学校の元校
長や元陸軍の将校らが犯人として逮捕起訴されたそうだ。そ
の実話から映画では、元陸軍の将校と共に地元小学校の女性
教頭らが関与したものとして再構成されている。
この女性教頭を倍賞美津子が演じていて、教育者がこのよう
な事件にのめり込んで行く過程としての当時の社会に対する
不満や世相が描かれる。これがまた現代に通じるものとなっ
ているのはなかなか良質な脚本と言えるところだ。
共演は段田安則、村上淳、青木崇高、板倉俊之、三浦誠己、
西方凌と、監督の木村祐一。芸達者が揃っている感じだが、
中でも新人の西方と障害者を演じた青木の若い2人がよく頑
張っている感じがした。
その他、宇梶剛士、泉谷しげる、遠藤憲一、中田ボタンらが
出演している。
物語は、偽札作りに至るいろいろな状況が丁寧に描かれてい
て、それは偽札作りそのものよりも、女性教頭を中心とした
止むに止まれず犯罪に走る庶民の足掻きであり、現代人にも
共感を持って捉えられるものだ。
その一方で偽札作りがだんだん楽しくなって行く心境の変化
や、登場人物たちがそれにどんどんのめり込んで行く様子な
どが描かれていて、その辺は犯罪心理の映画としても面白い
ように感じられた。
因に、脚本は『橋のない川』などの製作者山上徹二郎の企画
に基づき、監督と、『リンダ・リンダ・リンダ』などの向井
康介、2006年11月に紹介した瀬々監督版『刺青』などの井土
紀州が共同で執筆している。
初監督の木村の演出は、出演者に恵まれたとも言えるが問題
はなく思えたし、このような感じで撮って貰えるならまた観
てみたい感じもした。ただ、プレス資料によるとSF映画に
は多少偏見があるようで、その辺も含めたちょっとスキのあ
るSF映画も作って貰いたいものだ。
それから、映画に登場する大型の製版カメラは1946年製造の
大日本スクリーン社製で、恐らくは実働する世界唯一と言わ
れるもの。他にも、印刷機など当時の実物が登場して貴重な
動く姿を見せてくれている。
なお試写会の後で、あんないい加減な装置で偽札が作れる訳
が無いと息巻いている人がいたが、本作は偽札作りを指南し
ようというものではないし、映画の中でも真券と比較すれば
一目で偽物と判るような粗雑なものだったことは明らかにさ
れている。
そんなことより本作は、現代にも共通する当時の庶民の苦し
みなどを描いているおり、その点で僕は大いに興味を持って
観ることが出来た。



2009年02月08日(日) 昴、サスペリア・テルザ、グラン・トリノ、カンフーシェフ、刺青奇偶、ストリートファイター/チュンリー、エンプレス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『昴−スバル−』“Dance Subaru”
曽田正人原作によるビッグコミックスピリッツに連載された
同名コミックスの映画化。主演は黒木メイサ。共演は桃井か
おり、平岡祐太、佐野光来、韓国女優のAra。他に前田健、
筧利夫らが脇を固めている。
さらに製作と配給会社はワーナー、製作会社には『レッドク
リフ』を手掛けたエイベックスも名を連ねているが…脚本と
監督は香港出身のリー・チーガイ、製作は『グリーン・デス
ティニー』などのビル・コンによる中国=香港映画。
物語は、ダンサーの天分を持つ女性が、困難を乗り越えて国
際大会に出場するなど、才能を花開かせて行く姿が描かれて
いる。そしてそんな彼女を支えるのが、アメリカからやって
来た天才ダンサーや、場末で劇場を営む元ダンサーの女館主
だったりというものだ。
最近、この種の若き天才芸術家を主人公にした作品をよく観
るような気がするが、撮影技術や編集技術の進歩で、こうい
う作品が作りやすくなっているのかな。とは言えクラシック
バレエはなかなかハードな題材のようにも思えるが、そんな
題材を出演者達はよくこなしているようにも観えた。
因に、桃井かおりと前田健は共に元バレエダンサーである訳
だが、特に桃井はバレエ初体験の黒木に対して、ダンサーら
しく見せる立ち方や手の組み方なども伝授したと、試写と同
じ日に行われた記者会見で発言していた。
なお同じ記者会見では、桃井は以前にバレリーナを目指した
人間として、バレエが題材の映画には出来るだけ近寄らない
ようにしていたのだそうだ。しかし今回は、その事情も知る
ビル・コンが敢えて桃井にオファーをし、桃井も自分がやら
なくてはいけないという決意で撮影に臨んだとのこと。
それで黒木と一緒に2時間に及んだダンスシーンも撮影した
が、完成作品ではそのシーンがほとんどカットされてしまっ
たのだそうで、その点を悔しがっていた。黒木も頑張ったよ
うなので、特典DVDにでも収録されたら観てみたい気もす
るところだ。
主演は日本人だし、主な台詞は全て日本語の作品なのだが、
何となく日本映画とは違う味わいもある。鑑賞中はその辺が
面白くも感じられた。

『サスペリア・テルザ/最後の魔女』“La Terza madre”
「決してひとりでは見ないでください」のキャッチフレーズ
が鮮烈な印象を残す1977年の『サスペリア』を監督したダリ
オ・アルジェントによる2007年の作品。
因に本作は、『サスペリア』、1980年の『インフェルノ』に
続く魔女3部作の最終章と位置付けられており、80年作品に
登場する「3人の母の館」に纏わる完結編となっている。し
かし物語的には互に独立した作品であり、単独で観ても全く
支障はないものだ。
大体、前の作品から30年近くも経っているのだから、あまり
関連性があっても困ってしまうところだが、実は3作の登場
人物の中にサラという共通の名前があって、本作ではそのサ
ラが主人公になったりもしている。
物語は、古い墓地の工事中に区画の外から19世紀の棺が掘り
出され、その副葬品を納めた箱を開けたことから呪いの魔女
が復活してしまうというもの。そして主人公のサラは考古学
の助手で、しかも彼女の母親の因縁から事件に巻き込まれる
ことになる。
魔女の復活によってローマ中に悪が蔓延り出すといった描写
は、どこかで見たような…という思いは抱きつつも、背景に
写るイタリア建築そのものが、そこにオカルトを感じさせる
雰囲気なのはさすがというところだ。
そしてその場所をヒロインが彷徨うシーンなどは、正に『サ
スペリア』を思い出させてくれるものになっていた。しかし
当時描けた過激なショックシーンは、DVDが基準となる今
の時代では規制も厳しくなっているようで、なかなか思い通
りにはできないところもある。そんな中でのアルジェントの
ぎりぎりのホラー演出が見られる作品ともなっている。
サラ役はアーシア・アルジェント。近頃はハリウッドの大作
にも出演する監督の愛娘が、久しぶりに父親の作品に主演し
ている。また77年作に出演したウド・キアの登場や77年作の
脚本に協力しアーシアも誕生させた女優ダリア・ニコロディ
の共演など、それなりの集大成の感はあるようだ。
他にも『黄金の七人』のフィリップ・ルロアなど多彩な顔ぶ
れが登場している。また、映画の中でちょっと怪しい日本語
を喋る若い女性を演じているのは、市川純というイタリア在
住の日本人女優だそうだ。

『グラン・トリノ』“Gran Torino”
クリント・イーストウッドが、2004年『ミリオンダラー・ベ
イビー』以来の監督主演を兼任した作品。異民族の流入が進
む郊外の住宅地を舞台に、そこに住む妻に先立たれた一徹な
老人と、その隣家に引っ越してきた東洋人一家のぎこちない
交流が描かれる。
イーストウッドが演じる主人公は、朝鮮戦争に出征し、戦後
はフォードの組み立て工場で働いていたという男性。その男
性の妻の葬儀の模様から物語はスタートする。
葬儀の後、住宅地の自宅で開かれたパーティには多くの人が
集まってくれたが、主人公は来訪した息子がトヨタに乗って
来たことも気に食わない。そんな主人公の住む家の隣に、東
洋人の一家が引っ越してくる。
その住宅地は治安も悪化し始め、住んでいた白人の多くはす
でに別の場所に転居しているような場所だった。そして引っ
越してきた一家のちょっと内気な息子が、早速トラブルに巻
き込まれる。そのトラブルの原因が、主人公が手入れを怠ら
ない1972年フォード製グラントリノであったことから、主人
公はその一家と話を交わすことになる。
実は、主人公は東洋人に激しい偏見を持っていたが、それは
戦場での体験が影響しているようだ。そして主人公は、東洋
人の一家がアメリカに移住してきた原因が自分たちにあるこ
とも教えられて行く。しかし息子を巡るトラブルは激しさを
増して行き…
朝鮮やヴェトナムなどアメリカが外に向けて行ってきた戦争
が暗い影を落とし、本来ならもっと目を向けられなければな
らないアメリカ国内の状況が描かれる。主人公だけでなく、
アメリカの白人社会全体が疲弊している…そんな様子も伺え
る作品だ。
イーストウッド以外の出演者はほとんどが新人で、特に隣家
の姉弟役には、現地ミネアポリスで行われたオーディション
で選ばれた演技経験もほとんどない2人(アーニー・ハーと
ビー・ヴァン)が扮している。
他には、テレビやインディペンデントの映画に出演している
クリストファー・カーリー。さらにハリウッドでは脇役中心
のブライアン・ハーレイ、『ロッキー・ザ・ファイナル』に
出演のジェラルディン・ヒューズ、『ゾディアック』などの
ジョン・キャロル・リンチらが脇を固めている。
僕は、本作の結末には決して納得しないが、イーストウッド
が全身全霊を掛けて訴えようとしている内容は、真摯に受け
とめなければならないものと感じる。これがアメリカの良心
なのかも知れないと思いつつ。

『カンフーシェフ』“功夫厨神”
巨漢カンフースターのサモ・ハンが主演し、台湾版『花より
男子』のヴァネス・ウー、元モーニング娘。の加護亜依が共
演する中国料理の厨房を舞台にした香港カンフー映画。
香港の老舗中華料理店を巡って、伝説の包丁を継承する料理
人と彼に父の包丁を奪われたと思い込む甥との確執や、老舗
の名を掛けた料理勝負の顛末が、カンフーアクションを織り
込みながら描かれる。
サモ・ハン扮する料理人は、とある村の伝統の料理店で腕を
振るっていたが、謀略に合いその村を追われる。そして香港
に現れた料理人は老舗の料理店を訪れ、一皿の料理を注文す
る。それは四川で究極の料理とされているものだった。
一方、ヴァネス・ウー扮する若者は、料理学校を主席で卒業
したが、料理のテクニックはあるものの、満足のできる仕事
ができたことはない。そして偶然香港の料理店に居合わせた
若者は、そのまま料理人の弟子となってしまう。
その料理店は若い姉妹が店主を務めていたが、シェフの人材
に恵まれず、店の先行きも怪しい状態だった。そこに現れた
料理人は弟子を鍛えながら店を立て直して行くが…シェフの
座を奪われた連中からの反撃も受けることになる。
この店主姉妹の妹を加護が演じ、姉をアンディ・ラウ作品な
どに出演のチェリー・リン。他に『カンフー・ハッスル』の
ラム・ジーチョンやブルース・リャン、さらにサモ・ハンの
長男のティミー・ハン、『少林キョンシー』のルイス・ファ
ンらが脇を固める。
サモ・ハン、ヴァネス・ウー、ルイス・ファンらの激しいカ
ンフーアクションと共に、映画の後半には『料理の鉄人』の
ような料理対決も登場して、中国料理人の華麗な手捌きなど
も披露される。そんな手練の技が存分に堪能できる作品とい
うところだ。
ただお話の方は如何にも取って付けたようで、特に料理シー
ンとカンフーシーンが完全に遊離してしまっているのは残念
なところ。でもまあ、それが香港映画だということでは、今
も昔も変わらないサモ・ハンが観られるところでもある。
なお、加護も頑張っているが役柄は中国人とのことで、音声
は全て中国語に吹き替えられている。口許は日本語を喋って
いるようにも観えたが、できたら彼女の声も聞きたいファン
も多いところだろう。
彼女の声を活かした日本語吹き替え版は出来ないのかな?

『刺青奇偶』
シネマ歌舞伎の第10作。ここで紹介するのは昨年8月に1作
と12月に紹介したのが2作分で4作目となるが、落語2作と
舞踊の後は、長谷川伸原作の世話物となった。
物語は、遠くに江戸の空を臨む下総行徳。そこの船着き場で
若い女が身を投げる。それを救ったのが博徒の男。男は江戸
を追われてこの地に流れてきたものだが、同じような境遇の
女の身の上に心を乱され、女に財布を渡して勇気づけようと
する。
しかし女は、今までの人生で体目当ての男としか出会ったこ
とがなく、金だけ置いて行こうとする男の心情が判らない。
そんな男の後を女は追い掛けて行くが…
やがて夫婦となった2人だったが、男は生来の博徒で、金は
賭博に注ぎ込むために日々の生活もままならない。それでも
男に寄り添う女だったが、ついに苦労が祟って医者も見放す
病となってしまう。
そして、死期を悟った女は男の二の腕に賽子の刺青を彫り、
男に博打から足を洗うよう説得するのだが…。そんな切ない
男女の仲が、中村勘三郎と坂東玉三郎の共演で繰り広げられ
る。
賭博を止められない男など自業自得だし、それと一緒に暮ら
す女も五十歩百歩だが、そこに至る経緯などが絶妙に語られ
て、心に染みる男女の物語が描かれる。今さら聞いたような
話と思いつつも、心を打たれてしまうところだ。
特に玉三郎が演じる女は、美しさ妖麗さが持て囃されるもの
とは違って、しっかりと足を地に付けたリアルさで演じられ
ており、その儚い美しさには、成程これが歌舞伎の女形だと
思わされもした。
他に、片岡亀蔵、市川高麗蔵、片岡仁左衛門らが共演。特に
仁左衛門の親分振りが少ない出番で光っていた。いつもなが
ら、こういう芝居がシネマとなって、地方でも手軽に観られ
るようになるのは良いことだ。
因に、題名は「いれずみちょうはん」と読ませるが、本来は
ちょう(丁)が偶数ではん(半)は奇数。しかし文字の座り
や一般的な呼びやすさなどから、原作者の希望で敢えて誤読
となっているそうだ。

『ストリートファイター/レジェンド・オブ・チュンリー』
       “Street Fighter: The Legend of Chun-Li”
1987年に第1作が発表され、以来15種が発表されたシリーズ
の累計で2500万本以上を販売、対戦型格闘ゲームの元祖とも
呼ばれるヴィデオゲームを映画化した作品。
同ゲームからは、1994年にスティーヴン・E・デスーザ脚本
監督、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演による映画化が
すでにあるが、今回はゲームと言うより、その登場キャラク
ターの1人に焦点を当てた物語が展開される。
その物語の主人公は春麗(チュンリー)。前作ではマカオ出
身のミナ・ウェンが演じた役柄を、今回は“Smallville”で
ケントの初恋の相手ラナ・ラング役を務めるクリスティン・
クルックが演じている。因に彼女は、母方に中国系の血が交
じっているそうだ。
そして今回の映画では、春麗の幼い時から父親の失踪事件、
またカンフーの師匠ゲンとの出会いやインターポール捜査官
との協力、さらに宿敵シャドルーとの戦いなどが、格闘技や
ワイアーも駆使したアクションシーンと共に描かれる。
なお物語では、ゲンの許に辿り着くまでの様子や、インター
ポールからの捜査官の動きなどもそれなりに描かれていて、
前回の映画化でのアクションに取って付けたような物語の展
開とは一線を画している。
その脚本を手掛けたのは、ワーナーが準備中の“Masters of
the Universe”も担当しているジャスティン・マーカス。原
作ゲームの大ファンと自称する脚本家はなかなか良い仕事を
しているものだ。
監督は、2000年にジェット・リー主演『ロミオ・マスト・ダ
イ』などを手掛けたアンジェイ・バートコウィアク。アクシ
ョン監督には『スパイダーマン2』などのディオン・ラムが
参加している。
共演は、ゲン役に香港出身で『バイオハザード』のアクショ
ン指導なども担当し、リメイク版『デス・レース』に出演の
ロビン・ショウ。ナッシュ役にはリメイク版『ローラーボー
ル』に出演のクリス・クライン。
さらに、ヴェガ役に『マイノリティ・リポート』のニール・
マクドノー。そしてバイソン役に、1999年『グリーン・マイ
ル』でオスカー候補になったマイケル・クラーク・ダンカン
などが登場している。
なお、本作はゲーム会社のカプコンが直接ハリウッド映画の
製作に乗り出した第1作となる作品。同社では以前にもアニ
メーション映画などは手掛けているが、本格的な実写映画は
初めてのようだ。
同業のコナミは『サイレント・ヒル』を成功させており、日
本のゲーム会社の動きもこれから注目されそうだ。

『エンプレス−運命の戦い−』“江山美人”
『花の生涯〜梅蘭芳〜』などのレオン・ライ、『アンナ・マ
ンデリーナ』などのケリー・チャン、『ブレイド2』などの
ドニー・イェンの共演により、中国の民間伝承の一つ「江山
美人」に基づいて描かれた武侠映画。
ただし伝承は、若くして帝位についた明の聖徳帝と、身分の
違う酒屋の娘との悲恋物語とのことで、本作とはかなり趣の
違うもののようだが、わざわざ題名を引いているということ
は、それなりの基になるものもあったのだろう。
という本作の物語は、中国古代の燕国が舞台。その国は隣国
の趙国と長く戦いを続けてきたが、最早その戦いの意味さえ
も判らなくなり始めている。そんなときに燕国の国王が討た
れ、王は死ぬ間際に全権を将軍の雪虎に委ねると告げる。
ところが家臣たちは血縁の繋がらない将軍が継ぐことには反
対し、王の甥が継承者として名告りを挙げる。それに対して
雪虎は、幼馴染みでもある王女の飛児を継承者に推し、自ら
が彼女を相応しい人物にすると宣言する。
こうして雪虎による王女の訓練が始まり、王女は軍師として
の実力を高めて行く。ところが彼女が初めての勝利を納めた
戦場からの帰路、王位を狙う甥の放った暗殺集団が襲い掛か
り、王女は行方不明になってしまう。
そのため国は混乱し、その混乱に乗じて甥が王位を奪う事態
に発展するが…。その頃、王女は暗殺者の毒吹き矢によって
倒れたところを隠遁生活をしている男に救助され、その男に
よっていろいろな世界に目を向けるようになっていた。
この隠者の男をレオン・ライ、王女をケリー・チャン、将軍
をドニー・イェンが演じて、古代中国の戦いや隠者の男のか
なりファンタスティックな生活振りなどが描かれる。特に森
に隠された男の住いは樹上高くに作られ、水車など各種のメ
カまで装備された見事なものだ。
そんな、ちょっと摩訶不思議な雰囲気まで備えた物語が展開
され、その中にはあっと驚く発明品まで登場する。
その一方で戦場のシーンでは、すでに数々描かれた中国古代
の戦闘の中でも、さらに進化した戦法が繰り出され、まさか
本当にあったとは思えないものの、ひょっとしてあっても可
笑しくないような、見事なアクションシーンが次々展開され
ていた。
中国武侠映画もいろいろ公開されて、そろそろ種も尽きる頃
かなとも思っていたが、中国4千年の歴史には、まだまだ描
かれていない物語が沢山あるようだ。



2009年02月01日(日) 第176回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回も賞レースの情報から。
 まずは1月22日に発表されたアカデミー賞の最終候補で、
VFX部門には、
“The Crious Case of Benjamin Button”
“The Dark Knight”
“Iron Man”
が選出された。これはまあ前回も書いたように予想通りのも
のだろう。これに対して、メイクアップ部門には、
“The Crious Case of Benjamin Button”
“The Dark Knight”
“Hellboy II: The Golden Army”
が選出された。幸い選ばれたのは観ている作品ばかりになっ
たが、この内“Hellboy II”が選ばれたのは、前作からそれ
ほど進化したと認められたのだろうか。僕としては“Tropic
Thunder”の方が、ロバート・ダウニーJr.が助演賞候補にも
選ばれているし、トム・クルーズの怪演もあって、いけたの
ではないかと思っていたのだが…
 この他のSF/ファンタシー関連の作品では、上記に加え
て“Benjamin Button”が、作品、主演男優(ブラッド・ピ
ット)、助演女優(タラジ・P・ヘンスン)、監督、脚色、
撮影、編集、美術、衣装デザイン、作曲、音響にも選ばれ、
今回では最多の13部門の候補になっている。
 また“Dark Knight”は、ヒース・レジャーの助演男優、
撮影、編集、美術、音響、音響編集を加えて8部門。さらに
“WALL-E”が長編アニメーション作品、脚本、作曲、歌曲、
音響、音響編集の6部門。“Iron Man”は、音響編集を加え
て2部門。“Wanted”が音響、音響編集の2部門の候補にな
った。
 なお長編アニメーション作品には、他に“Bolt”と“Kung
Fu Panda”が選ばれた。また外国語映画には『おくりびと』
が候補になっているが、さらに短編アニメーション作品に、
ピクサー製作“WALL-E”併映の“Presto”と並んで、加藤久
仁生監督『つみきのいえ』(La Maison en Petits Cubes)
が選ばれており、こちらも期待したいところだ。
 “Benjamin Button”が雪崩をうってタイ記録達成となる
かどうか、受賞者の発表と受賞式は2月22日に行われる。
        *         *
 さらに1月18日には、こちらも恒例となった第7回VES
賞の候補作も発表された。こちらはテレビやコマーシャル部
門もあるが、ここでは映画の各部門の候補を紹介しておく。
 まず、VFX主導映画のVFX賞候補は、
“The Chronicles of Narnia-Prince Caspian”
“The Crious Case of Benjamin Button”
“Hellboy II: The Golden Army”
“Cloverfield”
“Iron Man”
オスカーでは初期候補にもならなかった作品がこちらには登
場しているが、これが専門家の目ということなのだろうか。
 VFX主導でない一般映画の助演VFX賞候補は、
“Changeling”
“Eagle Eye”
“Valkyrie”
“Nim's Island”
“Synecdoche, New York”
因に、最後の作品はチャーリー・カウフマン監督の新作で、
フィリップ・セイモア・ホフマン扮するブロードウェイの舞
台監督が、セットと称して実物大のニューヨークの街角を作
り、そこに俳優たちを暮らさせるというお話のようだ。
 年間単独VFX賞候補は、
“Cloverfield”の自由の女神の破壊及びウールワースタワ
ーの崩壊
“The Crious Case of Benjamin Button”の主人公の生涯
“The Day the Earth Stood Still”のクラトウの再生
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
の峡谷の破壊
“Iron Man”(シーンの指定なし)
となっている。
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候補は、
“The Crious Case of Benjamin Button”の主人公
“Hellboy II: The Golden Army”の各シーン
“Iron Man”自身
“The Spiderwick Chronicles”のHogsqueal
 マットペインティング賞候補は、
“Changeling”
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
“Synecdoche, New York”
“Speed Racer”
 ミニチュア賞候補は、
“The Dark Kinght”の塵芥回収車の破壊
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
(シーンの指定なし)
“Iron Man”のスーツ装着装置
『山のあなた−徳市の恋』の温泉
なお日本映画は、“My Darling of the Mountains”の英名
で公開されたようだ。
 背景賞候補は、
“Cloverfield”のブルックリン橋
“The Dark Kinght”Imax版のゴッサムシティ
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
の寺院の中心
“The Mummy: Tomb of the Dragon Emperor”の雪崩シーン
“Synecdoche, New York”の環境創造
 合成賞候補は、
“The Chronicles of Narnia-Prince Caspian”
“The Crious Case of Benjamin Button”
“Iron Man”
“Quantum of Solace”
 特殊効果賞候補は、
“The Dark Kinght”の全体
“The Dark Kinght”の塵芥回収車の破壊
“Defiance”の特殊効果
などとなっている。
 また、アニメーション映画における特筆アニメーション賞
候補は、
“Bolt”
“Kung Fu Panda”
“Waltz with Bashir”
“Roadside Romeo”
“WALL-E”
“Waltz…”はイスラエルの作品で、アカデミー賞外国語映
画部門の候補にもなっているものだ。
 アニメーション映画のアニメーションキャラクター賞候補
は、
“Bolt”のBolt
“Bolt”のRhino
“Kung Fu Panda”のPo
“WALL-E”のWALL-EとEveが一緒のシーン
なお“WALL-E”では音響技術者のベン・バートが受賞候補者
になっている。
 アニメーション映画における特殊効果アニメーション賞候
補は、
“Bolt”の各シーン
“Kung Fu Panda”の秘密の起源のシーン
“Madagascar Escape 2 Africa”のアフリカのシーン
“WALL-E”のWALL-E自身の効果
と発表された。
 アカデミー賞では2次候補にまで残った“Australia”と
“Journy to the Center of the Earth”が完全無視という
のも面白いところだが、結局“10,000BC”はどちらからも無
視されてしまったようで、僕としては残念な気がした。
 こちらの受賞者の発表及び受賞式は2月21日に行われる。
なおアメリカでは、今年から録画でのテレビ中継も実施され
ることになったそうだ。それだけVFXに対する注目度も上
がっているのだろう。
        *         *
 ではここからは、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは待望の情報で、アイザック・アジモフの原作による
大河未来小説“The Foundation Trilogy”に関する映画化権
のオークションが行われ、コロムビアがその権利を獲得して
ローランド・エメリッヒ主宰のセントロポリスと共に映画化
に乗り出すことが発表された。
 この計画に関しては、昨年8月1日付第164回でも紹介し
たが、その時に報告されたユニーク・フューチャーズの計画
は契約に至っていなかったようで、改めてそのオークション
が行われたものだ。
 そしてその争奪戦は、2003年11月1日付第50回で紹介した
当時の主体で、昨年11月15日付第171回で紹介した“End of
Eternity”の計画も進めているフォックス+ニュー・リジェ
ンシーと、当然ユニーク+ワーナーも参加して行われたもの
だが、その中からコロムビア+セントロポリスが6桁の中盤
から7桁($)の契約金額で獲得したものだ。因にコロムビ
アの参加は、前記2社には想定外だったようだが、実はセン
トロポリスを共同経営するマイクル・ウイマーという製作者
が以前からこの権利を狙っていたのだそうだ。
 物語は、人類が大宇宙に進出し繁栄した遠未来を背景に、
その人類文化の衰退を予見した科学者が、人類文化を保存し
衰退期間を短縮するための手段としての組織を作るというも
の。その組織自体の盛衰や人類の未来が壮大なスケールで描
かれる。それをエメリッヒの監督で映画化することになる訳
だが、『スターゲート』から『GODZILLA』『紀元前1万年』
もこなすSF大好きの監督が、果たしてどのような未来図を
描き出してくれるか、楽しみなことだ。
        *         *
 次も長年の計画で、2007年6月1日付第136回などで紹介
してきた“Masters of the Universe”の映画化が、ジョー
ル・シルヴァの製作と、『カンフー・パンダ』の共同監督を
務めたジョン・スティーヴンスンの実写監督初挑戦で進めら
れることになった。
 計画はマテル社が発売する男の子向けのキャラクター人形
に基づくもので、その設定は、地球の中世にも似た魔法世界
エターニアを舞台に、超能力を持ったHe-Manと呼ばれるヒー
ローと、スケルターと名告るアンチヒーロー率いる悪の軍団
との戦いを描くというもの。同じ設定からは、1987年にドル
フ・ラングレンのHe-Man役、今年のオスカーに『フロスト/
ニクソン』でノミネートされているフランク・ランジェラの
スケルター役での映画化も行われている。
 その再映画化を、過去にはジム・ヘンスンと『ダーク・ク
リスタル』『ラビリンス』や、ディズニーで『ジャイアント
・ピーチ』などにも参加していたスティーヴンスン監督の手
で進めることになったもので、かなりファンタスティックな
作品が期待できそうだ。因に脚本は、今月公開の『ストリー
トファイター/ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』を手掛
けたジャスティン・マークスによる第1稿がすでに完成され
ているようだ。
 ただしスティーヴンスン監督は、この計画に最初はあまり
乗り気ではなかったそうだ。それが心変わりしたのは、監督
自身がマテル社に招かれて、開発中のデザインやコンセプト
アートを見学してのことで、「そこは、エスコート無しでは
入れない場所なのだが、そこには特別な衣裳や神秘的な生物
や建物などのデザインがぐるりと置かれていて、正に我々が
作るべき世界が提示されていた。それを見た途端、『これは
やれるぞ』と思った」とのことだ。
 一方、この計画にはマテル社側から製作総指揮の担当者が
派遣されるなど、玩具会社もかなり気合いを入れた映画化に
なりそうだ。その担当者のバリー・ウォルドは、「スティー
ヴンスンのヴィジョンは、マテル社が希望するメイジャー・
スタジオでのHe-Manの活躍を確実なものにしてくれた」とし
て、監督の考えを尊重する意向を表明している。
 なお玩具のコンセプトを映画化するこの計画は、今年6月
26日全米公開の“Transformers: Revenge of the Fallen”
や、8月7日公開予定“G.I.Joe: The Rise of Cobra”の流
れを汲むものだが、さらにマテル社とワーナー=ジョール・
シルヴァでは、2004年7月15日付第67回での紹介当時はコロ
ムビアの計画としていた“Hot Wheels”の映画化も進めてい
るそうだ。
        *         *
 お次はちょっとやばそうな計画で、ドイツのUFAシネマ
から“Fatherland”という計画が発表されている。
 この作品、イギリスの作家ロバート・ハリスが1992年に出
版した同名のデビュー作を映画化するもので、その内容は、
第2次世界大戦でナチスドイツが勝利して、イギリスがベル
リンの支配下となっている世界を舞台にしたもの。物語は、
その設定下での政治ミステリーが描かれるとのことで、同じ
原作からは1994年にアメリカでルトガー・ハウアー主演によ
るテレビ映画もあるが、戦前のナチスの宣伝映画を作り続け
たUFAの名前の付いた会社での映画化というのは、かなり
刺激的なものだ。
 なお、ヨーロッパ最大のメディアとされるRTLグループ
の傘下で昨年設立されたUFAシネマでは、総数で80の製作
計画が進行中とのことで、今回の作品もその1本でしかない
ものだが、日本でも昨年末に、第2次世界大戦がなく旧帝国
体制が継続した歴史を背景にした作品があったようで、この
手の話は特に政権が右傾化しやすい経済不況下では受けると
いうことなのかな。
 因にハリスの原作では、2007年11月15日付第147回で紹介
したロマン・ポランスキー監督作品“The Ghost”の撮影も
ドイツ国内で開始されたところで、ちょっとブームのような
感じにもなっている。
 どんな映画になるのか、どちらも楽しみだ。
        *         *
 続いて原作もので、アメリカのSF作家ダン・シモンズが
執筆した“Hyperion”4部作の映画化計画がワーナーで進め
られ、その監督に、昨年フォックスで“The Day the Earth
Stood Still”のリメイクを発表したスコット・デリクスン
の起用が報告されている。
 物語は、人類が地球を脱出し、大宇宙の星々をテラフォー
ミングしつつその版図を広げた28世紀の未来を背景にしたも
の。数世紀の未来予測も可能なA.I.群と、そこに不確定要素
として影響する辺境の星ハイペリオンに置かれた時間を超越
する存在「時間の墓標」を巡っての人類の存亡を賭けた冒険
が展開される。
 原作は、1989年に発表された“Hyperion”に続けて、90年
の“The Fall of Hyperion”、さらに96年の“Endymion”、
97年の“The Rise of Endymion”で完結し、それぞれの作品
はアメリカのSF賞のヒューゴー賞やローカス賞、翻訳本は
日本のSF大会で授与される星雲賞なども受賞している。少
なくともSFファンには人気の高い作品と言えそうだ。なお
今回の報道では、全体を“Hyperion Cantos”と呼んでいた
ようだ。
 そして今回の計画では、短編映画作家のトレヴァー・サン
ズが“Hyperion”と“The Fall of Hyperion”の2作に基づ
く脚本を執筆したもので、今回の結果によって後続の2作の
映画化も実現することになりそうだ。なおサンズは、2002年
に“Inside”と題された短編を発表している他、ディメンシ
ョンの製作でマーティン・ケイディン原作の“Six Million
Dollar Man”のリメイクや、デイヴィッド・ブリンのSF小
説“Startide Rising”の脚色なども担当している。
 それからデリクスンの監督では、昨年12月15日付第173回
でジョン・ミルトン原作“Paradise Lost”の映画化計画も
紹介しているが、同作も今回と同じワーナーで進められてい
るもので、どちらが先になるかは明らかにされていない。ま
たデリクスンは、2005年の『エミリー・ローズ』で共同脚本
を手掛けたポール・ボールドマンと共に、“Devil's Knot”
という作品の脚本も手掛けているとのことだ。
 デリクスンは、他人の脚本を監督だけした前作では、かな
りの総スカンを食っているようだが、元々ファンタシー系が
好きな監督のようでもあるし、壮大なスケールとなりそうな
今回の計画で、失地回復となって貰いたいものだ。
        *         *
 もう1本原作もので、ダニエル・トラッゾーニという女流
作家の新作小説“Angelology”の映画化権が、7桁($)で
ソニー・ピクチャーズと契約され、ウィル・スミス主宰のオ
ーヴァブルックの製作で映画化が進められることになった。
 物語は、23歳の修道女の主人公が、ヴァーラインと名告る
angelogist(天使学者?)と共に、宗教的な謎に挑むという
もので、『ダ・ヴィンチ・コード』と『ナショナル・トレジ
ャー』を一緒にしたような作品と紹介されていた。因に原作
の出版権は、6桁($)の契約金でヴァイキング社と契約さ
れたとのことだ。
 SPEでは、5月に公開される『ダ・ヴィンチ・コード』
の続編“Angels & Demons”の前宣伝の意味も込められてい
るのかも知れないが、出版権の金額も高いほうのものだし、
これで映画化がウィル・スミスの出演となれば、それもまた
ヒットの期待も高まるところだ。
        *         *
 後はリメイク(?)の話題をまとめて紹介しておこう。
 まずはワーナーから“Samson”という計画が発表されてい
る。この作品は、1949年にも映画化された旧約聖書に基づく
『サムソンとデリラ』の物語を、未来を舞台に再話しようと
いうもので、実は『8マイル』を手掛けたスコット・シルヴ
ァの脚本と『アイ・アム・レジェンド』のフランシス・ロー
レンス監督のセットで立てられた企画がオークションに掛け
られ、争奪戦の末に7桁($)の金額で契約されたものだ。
ローレンスはワーナーで“I Am Legend”の前日譚の計画も
進めているようだが、どちらも楽しみだ。
 次もワーナーで、2001年と03年に公開されたゲームの映画
化“Lara Croft: Tomb Raider”シリーズを再開する計画が
発表された。このシリーズの前2作はパラマウントが製作し
たものだが、実は、昨年末にタイム=ワーナー社がゲームの
権利を保有するEidosという会社の大株主となり、このため
パラマウントが権利を返却、新たにワーナーでの再開が検討
されているものだ。そして製作者には『ディパーテッド』や
“Terminator Salvation”も手掛けるダン・リンが発表され
ており、まだ初期の段階ではあるがやる気は充分のようだ。
それでアンジェリーナ・ジョリーの主演はあるのかな?
 ユニヴァーサルからは1982年ジョン・カーペンター監督の
“The Thing”のリメイク計画が発表されている。この作品
は、元々はジョン・W・キャンベルJr.の原作小説を1951年
にハワード・ホークスの製作で映画化したもので、カーペン
ター版はすでにそのリメイクだった。それを今回は、テレビ
新版の“Battlestar Galactica”を手掛けるロン・モーアの
脚本とCF出身のマチス・ヴァン・ハイニンゲン監督により
リメイクするもので、準備はかなり進んでいるようだ。なお
ヴァン・ハイニンゲン監督は、トヨタやペプシ、ハイネケン
などのCFを手掛けている他、ザック・スナイダーの製作で
ワーナーが進めている“Army of the Dead”の監督にも起用
が発表されている。


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井口健二