井口健二のOn the Production
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2007年01月31日(水) バベル、蟲師、さくらん、ママの遺したラヴソング、しゃべれども しゃべれども、主人公は僕だった、パフューム

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『バベル』“Babel”
2000年の東京国際映画祭で『アモーレス・ペロス』によりグ
ランプリと監督賞を獲得したアレハンドロ・コンザレス・イ
ニャリトウ監督が、昨年のカンヌ映画祭で監督賞に輝いた最
新作。モロッコ、メキシコ、東京で進む物語が、関わる人々
の心と心の繋がりの喪失と再生を紡ぎ出す。
物語の発端はモロッコの砂漠地帯。ジャッカルを撃つため、
羊飼いの幼い兄弟に渡されたライフルから、1発の銃弾が発
射される。
一方、カリフォルニア州の南部サンディエゴの住宅では、両
親が海外旅行中の幼い兄妹の世話を任された乳母のメキシコ
人女性が、メキシコで行われる息子の結婚式に帰るため、替
りのベビーシッターを探すがなかなか見つからない。
さらに東京では、聾の女子高生が父親と2人で住む高層マン
ションに、刑事が父親と話したいと訪ねてくる。そしてモロ
ッコでは、負傷したアメリカ人女性を乗せた観光バスが砂漠
で立ち往生している。
モロッコでは英語、フランス語とベルベル語、アラビア語、
メキシコでは英語とスペイン語、日本では手話と日本語、題
名の基となった「バベルの塔」さながらにいろいろな言語が
飛び交い、もどかしいコミュニケーションが行われる中で、
心と心の繋がりが喪失し、再生する。
3大陸を縦横無尽に行き来するこの複雑な物語の中で、実は
1本の電話やテレビ画面がその繋がり合いを紐解いて行く。
そしてその全ての繋がりの判る瞬間が、何とも言えない心を
打たれる瞬間に繋がっている。
時間の流れを複雑に入り組ませるのは、最近の映画の流行で
もあるが、それがちゃんと纏まっている作品は多くはない。
ましてや、その一瞬に全ての物語が1本の線に纏まり、そこ
に感動も生じさせるこの作品は、映画の醍醐味を感じさせて
くれるものだ。
すでに報道されているようにこの作品では、日本編の菊地凛
子と、メキシコ編のアドリアナ・バラッザがアカデミー賞の
助演女優賞候補になっている。しかし映画を見ていると、何
故この2人が主演賞候補ではないのかとも、疑問に感じてし
まうところだ。
ただしこの作品では、モロッコ編のブラッド・ピットもゴー
ルデン・グローブでは助演賞候補に挙げられていたもので、
結局、この映画の主役は物語そのものであって、俳優ではな
いという感じもしてくる。
アカデミー賞では、助演女優の他に、作品、監督、脚本、編
集、作曲賞でも候補になっているが、菊地凛子の演技ぶりに
は感動もしたし、受賞も期待したいところだ。

『蟲師』
漆原友紀原作の漫画を基に、『スチーム・ボーイ』などの大
友克洋監督が1991年『ワールド・アパートメント・ホラー』
以来、約15年ぶりに撮った実写作品。昨年のヴェネチア映画
祭でワールドプレミア上映された。
100年ほど昔の話。「蟲」とはその頃はまだ日本中にいた神
秘的な生命体のこと。それは悪霊や精霊とも違うが、時とし
て人間にとり憑き、不可思議な現象を引き起こす。そして、
そんな蟲に憑かれた人を癒すための蟲師と呼ばれる者たちも
活動していた。
主人公のギンコは、自らも蟲を呼び寄せる体質を持つ蟲師。
そのため日本中を旅して、蟲に憑かれた人々を癒してきた。
ところがある日、蟲の記録を書にして巻物に封じる能力を持
つ女性・淡幽の屋敷から急な呼び出しがあり、訪れると、淡
幽が謎の高熱を発し倒れていた。その謎を解くため書庫に入
ったギンコに、巻物に封じられた蟲たちが襲いかかる。
このギンコ役をオダギリ・ジョー、淡幽役を蒼井優が演じる
他、大森南朋、江角マキコ、りりィ、李麗仙らが共演。
物語の展開上、ほとんどのシーンは大自然を背景に描かれる
が、その背景を得るために総走行距離5万キロにおよぶロケ
ハンが行われたということだ。そして最終的に選ばれたロケ
地は、一部は機材をヘリコプターで運搬する程の山奥だった
りもしたようだが、その効果は充分に映画に現れている。
試写会の舞台挨拶で監督は、「探せば意外とあるものです」
と語っていたが、それでもそれを探し出し、そこでロケ撮影
を敢行する熱意は感じ取りたいところだ。
一方、実在しない蟲の映像化はCGIで行われているものだ
が、昆虫的なものから書に変化したものまで、多様な蟲が見
事に描き出されている。特に、オダギリや蒼井の顔面や身体
を這い回る書と化した蟲は、無気味ではあってもグロテスク
ではなく、その辺の表現も見事だった。
因に、オダキリ、江角、大森の配役は、監督や原作者の希望
とされているが、蒼井に関してはオーディションで選ばれた
ものだそうだ。2005年8〜11月の撮影時期から考えると、ま
だブレイク以前のことのようだが、初々しくて、正に最適な
配役を得たと言えそうだ。

『さくらん』
女流写真家の蜷川実花が、安野モモコの原作とタナダユキの
脚本、土屋アンナの主演を得て作り上げた江戸・吉原の遊郭
を舞台にした作品。2月開催のベルリン映画祭で特別招待作
品のオープニングを飾る。
江戸・吉原。華やかな花魁道中の横を、1人の少女が女衒に
連れられ通り抜けて行く。そしてその先の玉菊屋という見世
に預けられた8歳の少女は、「きよ葉」と名付けられて禿と
なり、花魁への道を歩み始める。
吉原と言われると、落語などでもいろいろ聞いてきたから、
それなりの予備知識は持っていたつもりだが、いざ映像で見
せられると、成程こんなだったのかと目を見張る部分も多か
った。
と言っても、ここに登場する吉原は、安野、タナダ、蜷川の
感性で再構築されたもので、実物とは違うのだろうと思いつ
つ、それでもその色彩感覚や造形の素晴らしさには、こんな
吉原があってもいいんじゃないかと思わせてしまう世界だ。
もちろん描かれるのは遊女の世界、きれいごとの話ばかりで
はないし、騙し騙されの男女の物語も展開する。しかし主人
公のきよ葉=後に日暮は、客に「なめんじゃねえよ」と言い
放ち、気に入らない遊女には飛び蹴りを食らわせるという規
格外れの豪快さ。
そんな主人公をど真中に据えて、ちょっと不思議な感覚の青
春映画が展開される。もちろん遊郭という特殊な世界の話で
はあるのだけれど、逆にその特殊さが、不思議だけれど現代
社会には通じてしまいそうな、そんな感覚も覚えた。
そして物語は、落語の「紺屋高尾」や「品川心中」などの遊
郭噺にでも出てきそうな生き生きとした人間模様が描き出さ
れ、その感覚も僕には嬉しいものだった。
出演者は、豪快な花魁を見事に演じた土屋を筆頭に、椎名桔
平、成宮寛貴、木村佳乃、菅野美穂、石橋蓮司、夏木マリ、
市川左團次、安藤政信、永瀬正敏、美波、山本浩司、遠藤憲
一、小泉今日子。
また美術スタッフとして、美術の岩城南海子、衣装スタイリ
ストの伊賀大介、杉山優子、花の東信、グラフィックデザイ
ンのタイクーングラフィックスなど、30歳前後の若い顔ぶれ
が揃っているのも魅力的な作品だった。

『ママの遺したラヴソング』
            “A Love Song for Bobby Long”
スカーレット・ヨハンソンとジョン・トラヴォルタ共演作。
ヨハンソンは一昨年のゴールデングローブ賞で主演女優賞候
補に選ばれた。
ニューオーリンズで1人の女性の葬儀が営まれる。その葬儀
の参集者は少ないが、みな彼女を愛していたようだ。そして
その訃報は数日後に娘のパーシーに伝えられる。遅延は、彼
女のボーイフレンドが伝言を怠ったためで、彼女は直ちに亡
き母の暮らした町へと向かう。
実は、彼女は幼い頃に母親と別れ、祖母に育てられていた。
そんな母子だったが、母親は彼女に住んでいた家を遺してい
た。ところがその家には2人の見知らぬ男たちがおり、彼ら
はその家をパーシーと共に母親から相続したと主張する。
パーシーは、仕方なく彼ら同居することになるが…元は大学
の文学部教授だったボビーと、彼の教え子で作家志望のロー
ソンというその2人は、アル中の上に落ちぶれ切った風情。
こんな3人が反目し合いながらも共同生活を続けて行く。
1968年に映画化もされたカーソン・マッカラーズの『心は孤
独な狩人』が繰り返し登場して、人の孤独についての物語が
描き出される。母親との思い出を持たないパーシーと、家族
に捨てられたボビー。そしてある理由からボビーの許を離れ
られないローソン。
現代人にとって「孤独」というのは大きな関心事かも知れな
い。周囲にどんなに多くの人がいても、心を通わすことが出
来なければ、それはいないも同然だ。そんな心に孤独を抱え
た3人が、その孤独から脱却しようともがき続ける。
1984年生まれのヨハンソンは2000年頃からこの計画に参加、
本作が初監督のシェイニー・ゲイベルと共に4年越しで映画
化に漕ぎ着けたということだ。
従って物語のパーシーは高校を不登校という設定で始まって
いるが、そこから何年か経っているであろうという展開が、
さらに物語を深くしている感じもした。正に撮影当時20歳の
彼女にピッタリの物語という感じのものだ。
一方、トラヴォルタは、初老という設定が滲み出てくるよう
な雰囲気で、これも見事に演じ込まれている。また、劇中で
ギターを弾きながらの歌声などは、“Hairspray”でミュー
ジカルに戻ってくるのが本当に楽しみになってきた。
なお映画は、ジャズ発祥の地ニューオーリンズを舞台にして
いるだけあって、いろいろな種類の音楽に彩られており、そ
れも楽しめる作品となっている。また、ちょっと自虐的に使
われる各種の文学作品の引用も面白かった。

『しゃべれども しゃべれども』
TOKIOの国分太一が、二つ目の落語家に扮する青春ドラ
マ。監督は『学校の怪談』などの平山秀幸。
主人公の今昔亭三つ葉は、古典落語しか演じず普段も和装で
通すという一徹者。しかし、前座から二つ目になって暫くが
経つが真打ちには程遠く、師匠からは未だに自分の落語が物
にできていないと言われ続けている。
そんな三つ葉が、ひょんなことから、大阪から引っ越してき
た小学生と、無愛想が身に付いてしまった若い女性と、喋り
下手の野球解説者に落語を教えることになって…
落語は、昔TBS主催で国立小劇場で開かれていた落語会に
数年通った時期もあって、そこで園生、小さん、先代正蔵、
馬生、志ん朝、円楽、談志、柳朝などが演じた古典の有名な
話はほとんど聞いた記憶がある。
だから、この映画の中で伊東四朗と国分によって演じられる
「火焔太鼓」も、確か何回か聞いているはずで、落語会を聞
きに行かなくなってずいぶんが経つが、演じられる姿を見て
いて懐かしさが込み上げてきた。
もちろんかなりの大ネタとなる噺は、全編が見られるわけで
はないが、そのツボを押さえた編集は見せ場を巧妙に繋いだ
もので、全編を知っている者にはその間の省かれた部分も浮
かんでくるような見事なものだった。なお、伊東と国分は撮
影では全編を通して演じているそうで、DVDの特典映像に
でもなったら嬉しいところだ。
一方、大阪から引っ越してきた小学生を演じる森永悠希は、
桂枝雀の芸を写すという設定で、これが見事に枝雀を再現し
てくれる。ちょっと仰け反り気味の姿勢から、顔を歪めて大
げさに演じる「まんじゅうこわい」は正に生き写しで、ちょ
っと涙も滲んでしまった。これも全編を見てみたい。
落語のことばかり書いてしまったが、物語は、喋ることを仕
事にしていながら、他人に自分の想いを伝えることには無器
用な主人公が、そのもどかしさに怒りながら徐々に成長して
行く姿が描かれる。
そしてその物語は、佃島から浅草上野、神楽坂に池袋、西新
宿と、主に東京の北側で進められ、つまり、歌舞伎町や六本
木、渋谷といった最近の東京を象徴するスポットを排除する
ことによって、本物の東京の良さを再確認させてくれるよう
な作品になっていた。
他の出演者は、女性役で香里奈、解説者役で松重豊、主人公
の祖母役で八千草薫など。
公開は初夏、ほうずき市の頃にもう一度見てみたい作品だ。

『主人公は僕だった』“Stranger Than Fiction”
ハリー・ベリー主演の『チョコレート』や、ジョニー・デッ
プ主演の『ネバーランド』を手掛けてきたマーク・フォース
ター監督が、『プロデューサーズ』での怪演が記憶に新しい
ウィル・フェレルを主演に迎えて発表したちょっとファンタ
スティックな人間ドラマ。
主人公のハロルド・クリックは、国税局の調査官。数字や計
算には強いが、何でも数えてしまう性癖があり、1人暮らし
で同僚の友人はいるが恋人はなし、過去12年間、平日には毎
日を全く同じ行動の繰り返しで生活していた。
ところがある朝、いつもと同じ32本の歯を計76回みがき始め
たとき、彼の頭の中に女性の声が聞こえ始める。その声は、
彼の行動や考えていることをナレーションのように語り続け
る。そしてある切っ掛けから、その声が作家のもので、自分
が執筆中の小説の主人公であることに気が付くが…
一方、同じ町の別の一角では、1人の女流作家が10年ぶりに
執筆中の小説を完成させようとしていた。しかし最後に主人
公を死亡させる方法が決まらず、執筆は行き詰まっていた。
彼女の書く小説では、最後に主人公が死ぬのが決まりだった
のだ。
作家とその作品の登場人物とが交流するという展開は、SF
ファンには平井和正の『超革中』など目新しいものではない
が、この作品では、そこにさらに文学部の教授を配して謎解
きをさせるなど、うまく捻った展開に作り上げている。
脚本のザック・ヘルムは、長編は本作が処女作ということだ
が、この作品でナショナル・ボード・オブ・レビューの脚本
賞にも輝いたものだ。
フェレルの演技は、『エルフ』『奥様は魔女』などでもその
怪演ぶりは見事なものだが、本作ではその怪演を押さえて、
心に染みるような見事な演技を見せてくれる。監督の作品歴
からはそれも当然だが、そこにフェレルを填めてきたところ
も見所と言えそうだ。
共演者は、マギー・ギレンホール、ダスティン・ホフマン、
クィーン・ラティファ。そして作家役にエマ・トムプスン。
ホフマンの怪しげな教授ぶりも見事だが、互いに恋すること
に無器用なフェレルとギレンホールが、恋に落ちる瞬間は、
恋愛ドラマとしても出色のシーンだった。

『パフューム』“Perfume: The Story of a Murderer”
1985年に出版されたドイツで、15週連続で1位を記録したと
いうベストセラー小説の映画化。
時代は18世紀。類希なる嗅覚を持って生まれた1人の男が、
禁断の香水を作ろうとする。それは女体の発する香りを留め
た物。その香水を作り出すため、男は女体そのものから香料
を取り出す狂気の方法を編み出す。
いやはや何とも恐ろしい物語というか、映像的にはかなり卑
わいな描写もあるし、内容的にも不道徳な物語ではあるが、
もちろん虚構の物語を、ここまで丁寧に克明に描き出される
と、正しく映画を堪能したという気分にさせてくれる。
原作は、ベストセラーになった後、スピルバーグやスコセッ
シがその映画化権を競い合ったそうだが、原作者のパトリッ
ク・ジュースキントは、頑としてそれを受け付けなかったの
だそうだ。
しかし、『薔薇の名前』などのドイツ人プロデューサー=ベ
ルント・アイヒンガーがその獲得に乗り出し、2000年に映画
化権を設定。『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァを
脚本監督に起用して、原作発表から21年を経て映画化が完成
されたものだ。
なお脚色には、アイヒンガーとティクヴァ監督に加えて『薔
薇の名前』を手掛けたアンドリュー・バーキンが参加。2年
間を費やして脚色されたものだ。しかも原作はドイツ語で、
物語の舞台はフランスとイタリアという作品だが、脚本は英
語で執筆されている。
出演は、主人公に今まであまり大きな役はないようだが『レ
イヤー・ケーキ』や、2005年の『ブライアン・ジョーンズ』
ではキース・リチャーズに扮しているという新人のベン・ウ
ィショー。彼に狙われるヒロイン役に、2003年『ピーター・
パン』でウェンディに扮したレイチェル・ハード=ウッド。
また、彼に調香の基礎を教える調香師役にダスティン・ホフ
マン。さらにヒロインの父親役にアラン・リックマンらが共
演している。
この配役は、脚本が英語だからこそ実現したものと考えられ
るが、実はこの作品では、舞台がヨーロッパ大陸であるにも
かかわらず英語の台詞があまり気にならなかった。物語が明
白に虚構であるということもあるのだろうが、名優の演技が
それを超越した部分もあるのかも知れない。自分でもちょっ
と意外に感じたものだ。
なお、クライマックスには750人が一斉に演技をするという
スペクタクルシーンが登場。迫力のシーンが作り上げられて
いる。



2007年01月20日(土) 龍が如く、許されざるもの、ブラッド・ダイヤモンド、ケータイ刑事2、あかね空、今宵フィッツジェラルド劇場で

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『龍が如く〜劇場版』
2005年に発売された同名のPS2用ゲームソフトにインスパ
イアされたアクション映画。
ミレニアムタワーという名の高層ビルがど真中に聳え立つ、
新宿歌舞伎町を思わせる神室町。その不夜城を舞台に、10年
の刑期を終えて出所したヤクザと母親を探す少女。銀行立て
籠り事件に、その銀行から消えたヤクザ資金。謎の韓国人に
コンビニ強盗を続ける若いカップル、ヤクザの抗争、永田町
の黒幕などが絡み合う熱帯夜のワンナイトストーリー。
監督の三池崇史は、ヴァイオレンスアクションからスプラッ
ターホラーまで、娯楽映画なら何でもこなす職人と言って良
いと思うが、何しろ多作。多分脚本があればちゃかちゃかと
撮ってしまうのだろうが、正直に言って当たり外れは大きい
と感じる。
でも、当ったときは本当に凄いものが出てくる訳で、そして
本作は、多分当りの方だ。
脚本は、『交渉人・真下正義』の十川誠志。今回はこの脚本
がしっかり出来ていたこともあるのかもしれないが、かなり
強烈な格闘技アクションから、CGIを使ったヘリコプター
アクションまで、盛り沢山に見事な展開を見せてくれる。
でもまあ、それを的確に映像化するのも監督の腕の見せ所な
訳で、現在の日本の監督でそれが確実に出来るのも、三池監
督が第1人者であることは間違いないところだ。
出演は、北村一輝、岸谷五朗、塩谷瞬、サエコ、夏緒。それ
に加藤晴彦、高岡早紀、哀川翔、コン・ユ。さらに松重豊、
田口トモロウ、遠藤憲一、荒川良々、真木蔵人、塩見三省。
何と言うか、個性派という程でもないけれど、最近見ている
日本映画では変に印象の強いメムバーが揃っているのも面白
かった。
また、歌舞伎町を思わせる繁華街を、金属バットなどを持っ
た強面の男の集団が走り回るシーンには、よく撮らせたとい
う感じもしたし、久し振りのヤクザ映画の雰囲気で、日本映
画の伝統的な一面を見ているような懐かしさも感じられた。
程よく戯画化されたヴァイオレンスも、白けることもなく楽
しめたし、結末も悪い感じはしないものだった。なおチラシ
には、「SEGA発、映像プロジェクト始動」とあったが、
これは今後も続くのだろうか?

『許されざるもの』(韓国映画)
2005年の釜山国際映画祭で、同映画祭の最高賞であるPSB
観客賞を始め、4冠に輝いたとされる韓国映画。26カ月の兵
役義務のある韓国で、古参兵による新兵苛めの果てに起きる
事件を描く。
幸い日本には兵役がない訳だが、古参兵による新兵苛めとい
うのは、昔あった兵隊ものの映画にはよく描かれていたもの
だ。僕は辛うじてそういう映画を見知っている世代だが、兵
役に現実味のない現代の日本映画では、全く廃れてしまった
ジャンルと言える。
一方、韓国では現実にこのようなことは起きている訳だが、
プレス資料に添えられた監督の言葉によると、このような苛
めは体験しても、それを早く忘れてしまおうとするのが風潮
なのだそうだ。つまり、他人に伝えてはいけないタブーとい
うことなのだろう。
それを敢えて映画にし、しかも映画祭で賛辞を持って迎えら
れたというのは、正しくこの映画が真実を描いていると評価
されたからに他ならない。
物語は、大学にいたために比較的年齢が行ってから兵役に就
いた男スンヨンと、彼の幼馴染みの古参兵テジョンとが中心
となる。学歴のあるスンヨンは、当然古参兵に反抗的だが、
それをテジョンが守る構図が出来る。
そしてスンヨンは、自分が古参になったら改革すると言い続
けるのだが。テジョンが除隊し、スンヨンに新兵の部下が出
来たとき…
監督は、自ら執筆した脚本を基に、映画振興委員会からの助
成金と、短編映画を映画祭に出品して得た賞金、さらに自己
資金も調達して、映画学校の4年生の時に卒業製作としてこ
の映画を完成させたというものだ。しかもそれが高く評価さ
れた訳だ。
ただし、映画は、時間の流れを入れ替える最近流行りの手法
で構成されているが、実はこれがあまり成功しているとは思
えなかった。結局この手法では、判った瞬間に観客になるほ
どと思わせるのが醍醐味だが、それほどの鮮烈さが感じられ
なかったものだ。
もっとも、これが新人監督の第1作だと考えると、それは見
事ではあるが…なお監督は、主要な登場人物の一人として出
演もしているもので、その意外な配役にも驚かされた。
それにしても、戦時の極限状態ならまだしも、平時の義務兵
役で幼稚とも言える苛めが、しかも伝統的に行われていると
いうのは、簡単に言ってしまえば軍隊という組織の愚かさを
示している。日本も兵役が復活すれば、すぐにもこうなるだ
ろうという現実だ。

『ブラッド・ダイヤモンド』“Blood Diamond”
『ラスト・サムライ』などのエド・ズウィック監督が、レオ
ナルド・ディカプリオを主演に迎えて、西アフリカの紛争地
帯に於けるダイヤモンドシンジケートの暗躍を描いた作品。
共演は、ジェニファー・コネリーと、『グラディエーター』
のジャイモン・フンスー。
舞台はシエラレオネ。政情不安なこの国では、総選挙を前に
反政府組織が、投票阻止と称して民間人の腕を切り落とすな
ど暴虐を続けている。そしてフンスー扮する黒人一家の父親
ソロモンは、組織の資金源であるダイヤ鉱山に徴用され、そ
こで巨大なピンクダイヤの原石を発見してしまう。
一方、ディカプリオが扮するダニーは旧ローデシア生まれの
白人。幼い頃から兵士として、時には傭兵として過酷な人生
を歩んできたが、現在はダイヤシンジケートの手先として、
武器の供給と引き換えに反政府組織のダイヤを闇で集める仕
事をしていた。
このため、後ろ楯のある彼の行動は、脱出用の小型機を戦地
に呼び寄せるなど、大胆なものだったが…ある日、仮に収監
された牢獄で、ソロモンが発見したという巨大なピンクダイ
ヤの情報を掴む。それは、彼をアフリカの地から脱出させる
鍵となるかも知れなかった。
早速、ソロモンとコンタクトしたダニーは、彼の家族が行方
不明であることを知り、家族の救出を取り引き材料として、
ダイヤの隠し場所に案内するように彼に要求する。
そしてコネリーが扮するのは、アメリカ人の女性ジャーナリ
スト。世界中の紛争地でスクープをものにしてきた彼女が、
今狙っているのは世界中の反政府組織の資金源とされるダイ
ヤモンドシンジケートの悪行を暴くこと。
こうして互いに思惑の絡み合った3人の冒険が始まる。
物語の背景は1990年代後半とされているが、現実には2002年
に国連主導による不正ダイヤ取り引きを規制するキンバリー
プロセスが発効している。しかしこのような不正取引は、今
も続いている言われているもののようだ。
このため本作のアメリカでの公開時には、ダイヤモンドシン
ジケートからの抗議も行われたということで、彼らは自らそ
の実体を曝け出したとも伝えられた。確かにここに描かれて
いるようなことは今も行われていることなのだろう。
とは言え、映画はそれを見事なアクションアドヴェンチャー
に仕立てたもので、フンスーと息子との関係や、ディカプリ
オとコネリーの仄かな恋愛関係など、ドラマティックな展開
が盛り沢山なものだ。特にディカプリオのキャラクター作り
には感心させられた。
そしてシエラレオネの現地やジンバブエ(旧ローデシア)、
南アフリカなどで撮影された映像も見事。今も続いていると
思われるアフリカの現実を知る意味でも素晴らしい作品と言
える。

『ケータイ刑事 The Movie 2』
2002年に宮崎あおいの主演でBS−iにて放送開始。以後、
堀北真希、黒川芽衣、夏帆、小出早織と演じられてきた女子
高生刑事シリーズの映画版。
実は、昨年映画版の第1作が公開され、今回がその第2作。
前作は堀北、黒川、夏帆の出演だったが、今回は夏帆と小出
が主演している。そして相手役には、前作の草刈正雄、山下
真司に代って、今回は国広富之と松崎しげるが登場する。
この相手役のコンビから想像できるように、物語はパロディ
の要素が強いものだ。実は、第1作の時はサイトにアップし
なかったが、前作ではこのパロディがどうにも納得できず、
映画としての評価が出来ないものだった。
しかし今回は、パロディの部分は一応納得できたし、それに
前作ではあまりに子供だましのトリックとその謎解きに辟易
したが、今回は冒険が主体ということでそのようなところも
なく、子供だましは変わりないがそれなりに見ることは出来
たというところだ。
物語は、港区赤坂にある広大な森(?)が舞台。そこに向か
った国広扮する岡野刑事が消息を絶つ。そしてその後を追っ
た小出扮する銭形雷も。そこで、夏帆扮する銭形零と松崎扮
する松山刑事がコンビとなって捜査に向かうが…。
そこは、銭形一族に対抗する石川五衛門の末裔による陰謀が
張り巡らされていた。
正直に言って、松崎が突然懐メロを歌い出すなんていう展開
は、まともな神経では耐えられないものだが、そんなもので
も、主演の女子2人の人気に支えられて成立してしまうのか
な…。そんな映画も点々と見られる最近の日本映画界で、そ
の象徴とも呼べる作品だ。
でもまあ、こちらの癇に障らなければ、取り敢えず理解して
上げたいとは思うところで、その観点ではOKだったという
ことにしておきたい。ただ、もう少し何かの工夫があれば、
もっとキャラクターを活かせたような気もして、もったいな
くも感じたものだが。
なお、警視庁副総監役で宍戸錠が出演していたが、大画面で
は両頬の手術跡がかなり明瞭に見えてしまうもので、痛々し
くてちょっとショックだった。

『あかね空』
山本一力原作、直木賞受賞時代小説の映画化。
三軒長屋が並ぶ江戸下町・深川蛤町を舞台に、京都からやっ
てきた豆腐職人の男と、町娘の出会いからを描く人情物語。
男は南禅寺門前で修業を積み、京豆腐の味を江戸にもたらす
が、最初は珍しがられても江戸っ子の食感に合わないなど、
成功や挫折を味あわされる。それでも信念を曲げず、作り続
けた豆腐屋は、やがて大きな店を構えるほどに発展するが…
今度は跡を継ぐべき息子の不始末など家庭内の問題や、同業
者との確執などの世間との問題が襲いかかる。それでも健気
に生きて行く一家の姿が描かれる。
プロローグで永代橋の雑踏が登場する。約260メートルあっ
たと言われる橋の姿は文献や浮世絵などに基づいて再現され
たそうだが、想像以上に堂々としたもので、この映像だけで
これから始まる物語のスケールの大きさを見事に表わしてい
る感じがした。
この橋の風景はCGIで再現されているが、CGIは町並み
俯瞰など随所に登場して物語に彩りを加えて行く。CGIで
古い町並を再現して話題となった作品はすでにあるし、本作
はそれを売り物にしようというものでもないが、こんな風に
CGIが使われると、日本映画も少しずつ進歩していると感
じさせてくれるものだった。
出演は、主人公の夫婦に内野聖陽と中谷美紀。途中に18年の
時間経過を伴う物語は、ほとんど2役に等しいが、さらに内
海には別の役柄も用意されるなど、この2人の俳優には役者
冥利という感じの作品だ。
他には、中村梅雀、勝村政信、泉谷しげる、角替和枝、石橋
蓮司、岩下志麻らが共演。
2003年に監督業から引退を宣言した篠田正浩が企画となって
いるが、実は引退宣言の直後に原作と巡り合ったということ
で、篠田は助監督だった浜本正機と共に共同で脚本を執筆、
浜本に監督を任せている。
因に、原作の物語は、映画の後もまだ続くもののようだが、
試写後の舞台挨拶に登壇した浜本は、「長い原作を映画の長
さにする際、全体を掻い摘んで全部を映画化する方法もあっ
たが、自分は起用ではないので、一部分をきっちり描く方法
を採った」と語っていた。
それは謙虚な言い方だったが、同時に続編を作る可能性も残
した訳で、これはぜひとも成功させて、続編も見てみたいと
感じさせてくれたものだ。

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
             “A Prairie Home Companion”
昨年11月20日に亡くなったロバート・アルトマン監督の遺作
となった作品。
現在もなお日本(米軍放送)を含む全世界で放送されている
原題と同じ名称のラジオ番組を題材に、その番組が終了する
という架空の設定で、その最後の生放送の舞台裏をほぼ実時
間で追ったアンサンブルドラマ。
出演は、実在の番組の司会者で、本作の脚本家でもあるギャ
リソン・キーラーを中心に、実在の歌手の名前で登場して歌
声も披露するメリル・ストリープとリリー・トムリン。スト
リープの娘役で本人が共演を希望したというリンジー・ロー
ハン。
また、オリジナル番組の創作キャラクターから現実の人物と
して登場する探偵役にケヴィン・クライン、中年カウボーイ
のデュオ役でウディ・ハレルソンとジョン・C・ライリー。
さらに、L・Q・ジョーンズ、トミー・リー・ジョーンズ、
ヴァージニア・マドセン、マヤ・ルドルフ、メアリー・ルイ
ーズ・バークら、錚々たるメムバーが登場する。
何しろ、これらの登場人物のパフォーマンスを見ているだけ
でも、時間がどんどん過ぎてしまう。その中には愉快な歌声
や、ある事件が起きて舞台裏が混乱して行く様子や、それで
も番組を続けなければならない使命感などが見事に描き出さ
れる。
それが、ストリープを始めとする登場人物たちの歌で彩られ
ながら進められて行くのだ。特に、後半の番組が混乱し始め
てからのハレルソンとライリーの下ネタオンパレードの掛け
合いなどは、それだけでも見る価値を感じた。
番組の終焉という設定は、監督が死期を覚悟していたように
も取れ(本人は直前まで次作の準備をしていたようだが)、
それはそれで映画ファンとして感じるところもあるが、それ
を明るく華やかに演出してくれたことには嬉しくも感じてし
まうところだ。
アルトマンの作品では、初期の『BIRD★SHT』と『ギ
ャンブラー』が取り分け好きだったが、最近では本作の撮影
にも使われたHDカメラを積極的に使用するなど新しい技術
にも挑戦して、これからもまだまだ映画を引っ張って行って
欲しかった。ご冥福をお祈りしたい。



2007年01月19日(金) キトキト!、モンスターハウス3D、NARA、Saru、ボッスン・ナップ、幸せのちから、クロッシング・ブリッジ、パラダイス・ナウ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『キトキト!』
題名の「キトキト」とは、富山弁で「生きがいい」という意
味だそうだ。
富山県高岡市。日本3大大仏の一つと呼ばれる高岡大仏が見
下ろすこの町で、夫に先立たれた斎藤智子は、女手一つで娘
と息子を育ててきた。そのため彼女は、ヤクルトレディから
タクシー運転手まであらゆる職につき、付いた仇名はスーパ
ー智子ちゃん。
しかし、親の心子知らずで、娘は3年前の高校生の時に家出
・駆け落ちし、息子も高校をドロップアウト→暴走族、そし
て、一と旗揚げに東京へ出て行ってしまう。その息子は、新
宿歌舞伎町でホストの道を歩み始めるが…
ちょうど同じ年頃の娘と息子のいる身としては、いろいろ想
いを巡らしてしまう作品で、その点では納得もできたし、幸
い自分はまだ健在だから一概に比較は出来ないが、こんなこ
ともあるかなあ、という感じの作品だ。
息子がホストになってしまうというのは、意外と言えば意外
な展開だが、これも昨年紹介した『ウォーターズ』などを観
ていれば、最近の若者文化としては半ば定着しているように
も思えるものだし、彼がそれなりに自覚を持っている点には
好感も持てた。
それに、そんな娘や息子の立場を尊重して、それをしっかり
と受けとめようとする母親の姿には…これがかなり過激なと
ころが映画の見所にもなるのだが…結構填って観てしまった
ところもあるものだ。
出演は、ナレーターでもある息子役に、『夜のピクニック』
の石田卓也、娘役に『バックダンサーズ』の平山あや、そし
て母親役を大竹しのぶ。他に、井川比佐志、尾上寛之、伊藤
歩、光石研、鈴木蘭々らが共演している。
実は、物語に登場する一つのエピソードが、我が家でも家内
がしょっちゅう言っていることと同じで、しかもそれが物語
の締めにもなっている。そんなところにも、共感を持ってし
まったかもしれない。僕にとって、新年最初に観る映画には
適当な作品だったようだ。

『モンスターハウス3D』“Monster House”
去年10月に一度紹介しているし、すでに13日から公開も始ま
っているが、公開直前に3D版の試写が行われたので改めて
紹介する。
ドルビー社開発のリアルDシステムによる3D上映は、一昨
年の『チキン・リトル』、昨年の『ナイトメア・ビフォア・
クリスマス』に続いて3本目となるが、ソニー=コロムビア
製作の本作は、初めてディズニー以外の作品となるものだ。
ただし、本作の映像製作と3D化を行ったソニー・イメージ
ワークスは、ワーナー配給でImax3Dによる公開の行われた
『ポーラー・エクスプレス』にも関っており、僕は『ポーラ
ー…』の3D版は見逃してしまったが、その評判は高いもの
だった。
それで本作について言えば、恐らく最初から3D化を考慮し
て映像も計算されていたのだろうが、巻頭の落ち葉の舞う描
写から、後半の暴れ回る木立ちやモンスター化した家まで、
その迫力は満点以上だったと言える。
『ナイトメア…』に関しては、僕はオリジナルを観ていた時
から3Dを認識していた感じがあって、それが3D化されて
もある意味予想通りという感じがしたものだった。しかし本
作の3Dは、2D版とは一味も二味も違う感じがした。
内容については前回紹介したので繰り返さないが、2度目を
観ていると、物語前半での微妙なキャラクターの表現なども
良く判り、それも良い感じがしたものだ。

『NARA:奈良美智との旅の記録』
画家の奈良美智が、昨年故郷の弘前で行った大規模な展覧会
「AtoZ」を開くまでの軌跡を追ったドキュメンタリー。
奈良の絵は以前から知っていたが、実は彼の描く、おかっぱ
頭で三白眼、唇をぎゅっと結んだ女子のキャラクターはちょ
っと陰険そうで、僕は正直に言ってあまり好きなものではな
かった。しかし一般的には、作者自身も驚くほどの評価をこ
の作品で得ている。
画家というのは、作家以上に孤独な芸術家のように思える。
しかも文章ならそこにいろいろな言い訳を添えることが出来
るが、画家は1枚の絵の中で全てを描き尽くさなければなら
ない。その緊張感は、並大抵のものではないだろう。
だから画家は、ほとんどの場合一人で製作を続けてきたはず
だ。そんな画家が、他人とのコラボレーションを模索する。
その発端がどこにあったかは、このドキュメンタリーでは明
らかにはされないが、その結果がどうなったかは、克明に記
録されているものだ。
映画の中では、思いも掛けず売れっ子になってしまった奈良
が、売れる前の孤独な自分を再現したかったという発言が出
てくるが、それは作品に対するイメージであって、今回の展
覧会の目的ではない。
しかしそのイメージである小屋を造るという作業を通じて、
奈良はgrafというクリエイターグループと共同し、その共同
作業の中で彼自身の作品までもが変化して行く。
そしてそれは、奈良自身が「過去には描けなかったものが描
けるようになったし、過去に描けたものが描けなくなった」
とも語っているものだ。このドキュメンタリーは、そんな1
人の画家が劇的に変化する瞬間を捉えた希有な作品にもなっ
ていた。
それにしても、弘前での展覧会は3カ月で8万人を動員し、
昨年10月に閉幕したということだが、このドキュメンタリー
を観ていると、その達成感がひしひしと感じられ、それを観
られなかったことが残念にも感じられた。
今回の93分の作品では、展覧会の様子はごく触りだけの紹介
だったが、600巻撮影されたというオリジナルには当然その
展覧会の制作からの様子も取材されているはず、できたらそ
の記録も、何らかの形でまとめて見せてもらいたいものだ。
なお、映画の中で紹介される奈良の最近の作品には、ちょっ
と好ましい感じも持てた。

『Saru phase three』
2003年に『サル』という作品を発表している葉山陽一郎監督
の新作。
前作は、監督自身がアルバイトでした治験体験に基づくドキ
ュメンタリータッチの作品ということだが僕は観ていない。
監督はその後『死霊波』などの作品を撮っており、今回は、
現実に起きた事件を踏まえてデビュー作のテーマに再挑戦し
たというものだ。
主人公は、アメリカ横断ツーリングを夢見るバイクショップ
の整備士。彼の肺に腺ガンが見つかり、それは初期の小さな
もので手術によって切除されるが、すでにリンパ節に転移が
生じていた。そこで、抗ガン剤による治療が始まるのだが…
治験には、フェーズ1からフェーズ3まであり、フェーズ1
では健康な青年男子に薬剤が投与されて安全性が確認され、
フェーズ2では少数の患者に投与されてその有効性などが検
証され、フェーズ3でより多くの患者に投与されて副作用な
どが調べられるそうだ。
しかし、緊急を要する抗ガン剤の開発では、フェーズ3を飛
ばして直接医療現場で治験を行うことが認められているとい
う。この映画では、そんな抗ガン剤を治験と知らせずに投与
している医療現場の実態が描かれる。
といっても、映画は、エロありグロありの娯楽作品で、監督
の意識がどの辺にあるのかは判らないが、好き者の目で観て
いればそれなりに楽しめる作品にもなっていた。まあ、正直
に言ってこの問題は、いくら問題提起しても壁は分厚いし、
こんな風な作品を継続して作って行く方が、草の根の効果は
あるのではないかとも思えるところだ。
題名は、もちろん動物実験に使われるサルのことで、劇中の
「サルに効いたのに、何故お前に効かないんだ」という台詞
は、ちょっと気に入ってしまった。
出演は、主演に、『ウルトラマンガイア』『仮面ライダー龍
騎』の高野八誠、ヒロイン役はNHK「中国語講座」の清水
ゆみ、さらに『龍騎』に出ていた弓削智久が共演している。
以前に10日間ほど手術入院した経験がある。確か8人部屋だ
ったと思うが、同室には、予後不良で長期化している人や、
手術後数日で再手術、そのまま戻ってこなかった人もいて…
この作品では相当に戯画化されてはいるが、その雰囲気は納
得できる感じだった。

『ボッスン・ナップ』“Boss'n Up”
『スタスキー&ハッチ』のリメイク版などにも出演している
ラッパーのスヌープ・ドッグが、自らの製作総指揮、音楽、
主演で2005年に発表した作品。
当時の彼の最新アルバムから楽曲が収録され、巻頭にはゲフ
ェンレコードのロゴマークも出ていたからプロモーション用
に製作された作品と思われる。因に、アメリカで劇場公開さ
れる作品にはお決まりのMPAAのレーティングはなかった
ようだ。
しかし、映画的にはちゃんとしたドラマも作られているし、
上映時間は90分で劇場公開も可能な作品にも見えるものだ。
と言ってもこの内容では、MPAAのレーティングはかなり
厳しいものになりそうだが。
主人公の職業はPimp。簡単に言ってしまえば売春の元締め。
非合法な職業だし、そんな主人公を描いた映画はあまり誉め
られた内容とも言えない。が、アメリカで黒人低所得者層の
若者が成り上がるには、NBA選手かラッパー、後はドラッ
グ・ディーラーにPimpが一番の近道なのだそうで、その意味
ではアメリカ文化を描いた作品とも言えそうだ。
そして主人公は、スーパーマーケットのレジ係から、Pimpの
元締めに誘われ、その教えに従って成り上がって行く姿が描
かれる。その中では、Pimpのルールや女性の扱い方などの指
南も含まれ、正に文化の伝承といった感じもする作品だ。
もちろん実際には、ギャングやマフィアの後ろ楯があるのだ
ろうが、映画ではその辺は無視され、ひたすら正しいPimpの
あり方のようなものが描かれて行く。一部パロディのような
部分もあって、一瞬そうかなとも思ったが、全体はいたって
真面目なものだ。
まあ、こういうアメリカ文化もあるのだということを知ると
いう意味では、それなりに考えさせられるところはある作品
と言えそうだ。だからといって、何か得るところがあるかと
いわれると、日本の中では答えに窮するところはあるが…。
取り敢えず、スヌープ・ドッグを始めとするこの種の音楽が
好きな人には、2年前の作品ではあるが彼の楽曲は存分に聞
かれるし、その意味での価値は認められるものだ。

『幸せのちから』“The Pursuit of Happyness”
ウィル・スミス製作、主演による実話に基づくアメリカンド
リームの物語。因に原題のスペルにはちゃんと意味がある。
主人公は、高校での数学の成績は優秀だったが、家庭の事情
で大学には行けず、そういう黒人青年のその後の生活は社会
の底辺に近いものだ。
そんな彼には妻と一人息子の家族があったが、一攫千金を夢
見て全財産をはたいて手に入れた医療器具の独占販売権は、
性能は素晴らしいがそこまでは要らないという代物。その在
庫も抱えて、家賃も滞納、税金も払えない。そしてついに妻
が家を出て行ってしまう。
しかし彼には、子供の頃に施設に預けられていたという経験
があり、息子だけは絶対に手放さないと心に決めている。こ
うして、幼い息子の手を引きながらの奮闘が始まるが…
もちろん、最終的に成功を納めた人物の物語だが、それが嫌
みに感じられないのは、彼の努力の様子が具体的に描かれて
いるからだろう。そこには彼の天賦の才能も係るし、幸運に
も恵まれるが、でも努力が報われるという基本的な部分が見
事に描かれている。
製作したコロムビア映画には、1979年度のアカデミー賞で作
品、監督、脚色、主演男優、助演女優賞を独占した『クレイ
マー、クレイマー』があるが、前作の背景となる1970年代と
本作の80年代とでは、その困難さが桁違いなっていることも
興味深かった。
そんな中で、主人公は子連れで、野宿やホームレスの施設に
泊まりながら一縷の望みを賭けた目標に向かって努力を続け
て行くのだ。
時代背景的には、多分バブルに向かって行く直前の、彼にと
ってはいい状況だったのかも知れない。だから、彼の成功が
今の時代に当てはまるのかどうかは判らないが、それでも今
の時代にも何か通じるような、そんな希望も抱かせてくれる
作品だった。
なお、監督はイタリア人のガブリエレ・ムッチーノ。2002年
サンダンス映画祭で観客賞を受賞した監督の初アメリカ進出
作品となっている。また、主人公の息子役にはスミスの実の
息子が扮しているが、これは縁故で決まったものではなく、
100人を超すオーディションの結果だそうだ。

『クロッシング・ザ・ブリッジ』“Crossing the Bridge”
アレキサンダー・ハッケというドイツ人の前衛ギタリストを
案内役に、イスタンブールとトルコの音楽シーンを辿るドイ
ツ・トルコ合作のドキュメンタリー作品。なお、製作国はい
ずも英語圏ではないが、原題は上記の英語のものが正式のよ
うだ。
イスタンブールの若者たちによる超早口のラップやブレイク
ダンスに始まり、ジプシーを含む民俗音楽、さらにようやく
演奏が解禁されたクルド系住民の音楽、1930年代、60年代、
70年代にトルコで活躍したポップシンガーの当時の映像から
現在の歌声まで、極めて網羅的に記録されている。
監督は、ハンブルグ生まれで、2005年のカンヌ映画祭審査委
員長も務めたトルコ系のファティ・アキン。彼の前作『愛よ
り強く』で音楽を担当したハッケが、その際に耳にしたイス
タンブールの音楽シーンに感銘を受け、この作品が生まれた
ということのようだ。
それにしても、色とりどりというか、次々に異なる音楽が提
示される。全体的にはアラブ系の音楽とジプシー系の音楽に
基づくようだが、特に哀愁を帯びたジプシー系の曲調には何
となく懐かしさと言うか心地良さも感じられ、気持ち良く音
楽に浸れる感じがした。
ただ、映画は基本的な部分で反社会的な姿勢が感じられ、そ
れが映画製作者の意図によるものかどうかが多少気になると
ころだった。確かにクルド問題なども出てくれば、それは意
図的とも取れるが、トルコの歴史的な背景は、それだけとも
言えないようだ。
でもその一方で、最初の方に出てくるラップをやっている若
者たちまでが、古典的なトルコ音楽を尊重していることや、
そのトルコ音楽が西欧的な音楽とは明らかに異なっているこ
となどが、いろいろなことを考えさせる。
しかしその点に関して、映画の中では何ら回答が与えられて
いないのにも、観ていて混乱を感じてしまった。まあ、作品
の目的は音楽シーンを辿ることで、そこに他の意図はないの
かも知れないが、何か違和感というか落ち着かない気持ちが
残ったことも確かだ。
聞こえてくる音楽の心地良さと、この落ち着かない気分が、
ちょっと不思議な感じを与えられる作品だった。

『パラダイス・ナウ』“Paradise Now”
昨年のアカデミー賞で外国語映画賞部門にノミネートされた
パレスチナ映画。
アメリカ映画アカデミーはパレスチナを国として認めていな
いため、これまで話題となったパレスチナ映画はあっても、
それが候補に選ばれることはなかった。しかし本作は、フラ
ンス・ドイツ・オランダが参加して、ヨーロッパ映画として
製作されたため、ノミネートが実現したということだ。
ところが、本作の内容がテルアビブを標的とした自爆テロを
描いたものであったために、自爆攻撃の犠牲者の遺族たちか
ら抗議の声が挙がり、受賞式の前には本作をノミネートから
外すことを求める署名運動まで行われたということだ。
しかしこの年は、他方でイスラエルによるアラブゲリラへの
復讐作戦を描いたスティーヴン・スピルバーグ監督の『ミュ
ンヘン』も作品賞候補になっており、その意味ではバランス
が取れていたとも言えるところだ。結果は、両者とも受賞は
しなかったが…
ヨルダン川西岸のイスラエル占領地ナブルス。人々は貧困に
苦しみ、時折ロケット砲も打ち込まれる。そんな町で主人公
となる2人の若者は自動車修理工場に勤めていた。しかし仕
事はあまり無く、貧しい家族を助けることもできない。
2人は幼馴染みだが性格は正反対で、一方は比較的穏和で思
慮深いが、他方は直情的で過激な行動に走りがちだ。そんな
彼らの前に1人の女性が現れる。彼女はパレスチナの殉教者
の娘だが、ヨーロッパで教育を受けた彼女はパレスチナに馴
染めないでいる。
そんな彼女と一方の若者は惹かれ合うが、ちょうどその頃、
パレスチナ人組織は自爆テロを計画し、2人はその実行犯に
指名される。そして2人は髭を剃り、髪も短くして、身体に
爆弾を巻き付けるが…
当然のことながら、物語は自爆テロを肯定しているものでは
なく、若者が付き合う女性を中心にその無意味さが主張され
る。さらに、自爆を強制するための爆弾そのものの非人間的
な仕組みなども紹介されているものだ。
しかし、それは映画を見なければ分からないものだし、自爆
テロという言葉だけが独り歩きすれば、それを拒否する署名
運動が起きるのも仕方のないところだろう。映画を見れば、
自爆テロという行為自体の愚かさはよく判るのだが…
それにしても、このような非人間的な行為が今も行われてい
ることには腹立たしい気持ちも湧くものだが、これを映画に
して訴えなければならないパレスチナの人たちの心情にも、
あまりに辛い思いが感じられる作品だった。
なお、撮影は現地ナブルスで敢行されたが、撮影途中で戦火
が激しくなって後半はナザレスに移して行われたようだ。そ
の間、ドイツ人のスタッフが脅しを受けて帰国を余儀なくさ
れるなど困難を極めたと紹介されていた。しかし撮影は、そ
のような状況でも全編を35ミリで行うなど、映画であること
に忠実なものだ。
イスラエル在住パレスチナ人の監督は、討論の切っ掛けとな
る映画を作ろうとしたと言い、映画の製作者の1人はイスラ
エル人だそうだ。
因に、日本版字幕監修を、昨年10月に紹介した『日本心中』
に出演の重信メイが行っている。



2007年01月15日(月) 第127回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、キネ旬の連載が決算号でお休みなので、製作ニュ
ースは後回しにして、最初に昨年も紹介した前年度のアメリ
カ興行成績の結果から。
 まず、2006年度のベスト10は、
1.Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest
                  (4億2332万ドル)
2.Cars(2億4408万ドル)
3.X-Men: The Last Stand(2億3436万ドル)
4.The Da Vinci Code(2億1754万ドル)
5.Superman Returns(2億0001万ドル)
6.Ice Age: the Meltdown(1億9533万ドル)
7.Happy Feet(1億8141万ドル)
8.Casino Royale(1億5684万ドル)
9.Over the Hedge(1億5502万ドル)
10.Talladega Nights(1億4821万ドル)
となった。
 1位の4億ドル突破は2004年の“Shrek 2”(4億3672万
ドル)以来のこと。また、ディズニー作品による1−2フィ
ニッシュは2003年以来となるが、そのときは1位“Finding
Nemo”で、2位が“Pirates of the Caribeann: The Curse
of the Black Pear”だったから、正に“Pirates…”の躍進
ぶりが目立つというところだ。この勢いを駆って、今年5月
の“Spider-Man 3”“Shrek 3”との第3作対決がますます
面白くなってきた。
 因に、2004年度の第2位は3億7338万ドルの“Spider-Man
2”、また2002年公開の“Spider-Man”は4億ドル突破の年
間1位、一方2001年公開の“Shrek”は“Harry Potter”の
後塵を拝する2位だったもので、いずれも連続1位だったわ
けではない。その中で2度目の1位を獲得するのはどの作品
か。これは本当に3者とも負けられない1戦という感じだ。
 この他に、ベスト10で目立つことと言えば、2、6、7、
9位とアニメージョンが4作も占めたことだろう。前回も紹
介したように昨年度のアメリカでのアニメーション公開本数
は全16本で、その1/4が上位に食い込んだものだ。以下に
は“Open Season”(22位)、“Monster House”(29位)、
“Flushed Away”(44位)などが続く。
 一方、SF/ファンタシー系の作品も1、3、5位に食い
込んでいる他、11位“Night at the Museum”(1億4001万
ドル)、12位“Click”(1億3736万ドル)と続く。この内
“Night…”は昨年末の公開で、興行はまだ継続中。10位を
逆転するのは時間の問題だ。
 さらに、SF/ファンタシー系の作品では、“The Santa
Clause 3”(23位)“Saw 3”(26位)“V For Vendetta”
(33位)“Underworld: Evolution”(41位)“Eragon”
(42位)“Deja Vu”(43位)“The Shaggy Dog”(45位)
“Poseidon”(46位)“Charlotte's Web”(47位)などが
ベスト50位までに名を連ねた。
 また、48位には“The Chronicles of Narnia”が5978万ド
ルで入っているが、これは前年度分が除かれているためで、
トータルでは2億9171万ドルとなっている。同様のケースで
は、“Harry Potter and the Goblet of Fire”(2億9001
万ドル)、“King Kong”(2億1814万ドル)になっている
ものだ。
 なお上記の他、“Mission: Impossible 3”“The Pursuit
of Happyness”などを含めて、2006年単年度での1億ドル
突破は18本。これは本数としては前年と同じだが、3億ドル
台の作品が無いことや、それ以前が毎年20本を越えていたこ
とを考えると、全体的には多少低調に感じられるところだ。
 今年は、どうなることか。
        *         *
 お次も、昨年も紹介したVESAwardsのノミネーションの
報告で、まずVFX主導の映画におけるVFX賞の候補は、
“Charlotte's Web”、“Pirates of the Caribbean: Dead
Man's Chest”、“The Fountain”の3本。またVFX主導
でない映画におけるVFX賞の候補は、“Blood Diamond”
“Children of Men”“Flags of Our Fathers”“The Da
Vinci Code”の4本と発表されている。
 単独のVFX賞候補には、“Children of Men”の赤ちゃ
ん誕生のシーンと、後は対象の特定なしで、“Pirates…”
“Poseidon”“X-Men: The Last Stand”が選ばれた。
 さらに実写映画におけるアニメーションキャラクター賞の
候補は、“Charlotte's Web”のテンプルトン、同じくのウ
イルバー、それに“Pirates…”のデイヴィ・ジョーンズ。
これに対してアニメーション映画におけるキャラクター賞の
候補は、“Cars”のメーター、“Monster House”の家と、
“Happy Feet”のマンブル。
 背景賞候補は、“Mission: Impossible 3”“Pirates…”
“Poseidon”。ミニチュア賞候補は、“Pirates…”“The
Good Shepherd”“V For Vendetta”。合成賞候補には、
“Pirates…”“Poseidon”“The Da Vinci Code”。特殊効
果賞候補には、“Casino Royale”“Superman Returns”と
いうものだ。
 全体的には“Pirates…”と“Poseidon”の候補が目立つ
感じだが、前回紹介したアカデミー賞の予備候補との比較で
は、話題にした“Charlotte”と“Flags”がいずれも本賞と
もいえるVFX賞の候補になっているもので、これには何と
なくアカデミーに対する対抗意識も感じられるところだ。
 なお、受賞者の発表と受賞式は2月11日に行われる。
        *         *
 続いてアカデミー賞関係の情報で、前回16本が対象になっ
たと報告した長編アニメーション賞部門で、エントリーされ
た具体的な作品名のリストを紹介しておこう。
 その16本は、アメリカ題名のアルファベット順で、“The
Ant Bully”“Arthur and the Invisibles”“Barnyard”
“Cars”“Curious George”“Everyone's Hero”“Flushed
Away”“Happy Feet”“Ice Age: The Meltdown”“Monster
House”“Open Season”“Over the Hedge”“Paprika”
“Renaissance”“A Scanner Darkly”“The Wild”という
ことだ。
 この内、2本目の“Arthur…”は第106回で“Arthur and
the Minimoys”として紹介したリュック・ベッソン原作監督
による作品。また、13本目に『パプリカ』が入っているが、
この作品は字幕版のみということで、最終候補入りはかなり
難しそうだ。一方、日本では話題になった『ゲド戦記』は、
実はアメリカでの映像化が別にあり、その権利が切れるまで
はアメリカでの公開はできないのだそうだ。従って上映不能
の作品は対象から外されると報告されていた。
 ということで、上記の16本の中から最終候補の5本が選ば
れることになる。
 一方、メイクアップ賞部門には7本の予備候補が発表され
ている。
 選ばれたのは、こちらもアメリカ題名のアルファベット順
に、“Apocalypto”“Click”“Pan's Labyrinth”“Pirates
of the Caribbean: Dead Man's Chest”“The Prestige”
“The Santa Clause 3”“X-Men: The Last Stand”で、こ
の中から恐らく3本が最終候補となるはずだ。
 それにしても、“Pirates…”“X-Men…”のメイクアップ
は、多分にVFXも関わっているものだが、その辺の判断は
どのようになっているのだろうか。
 アカデミー賞のノミネーションは1月23日に発表、受賞者
の発表と受賞式は2月25日に行われる。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、新年早々のビッグニュースで、ついに“Indiana
Jones 4”の製作が公式に報告された。報告によると、本作
の製作に関わるジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピル
バーグ、ハリスン・フォードのトリオは、1月1日、パラマ
ウントがデイヴィッド・コープの脚本に基づく撮影を6月に
開始するとした計画を承認したということだ。そして公開は
2008年5月を目指すとしている。
 因に、2008年5月というのは、前作“The Last Crusade”
が公開されてから19年目ということだが、ここで当然心配さ
れるのは64歳になったフォードのアクションということにな
る。しかしフォード自身は、「古い友人たちと一緒に仕事が
出来るのは素晴らしいことだ。昔のパンツが合うかどうかは
判らないが、帽子は合うと思うよ」とのことだ。
 一方スピルバーグは、「(コープの)脚本は、我々が待っ
た甲斐のあるものだった。これで、我々がインディアナ・ジ
ョーンズと共に作ってきた歴史の中から、ファンが期待する
全てのもの見せることが出来る。ジョージも、ハリスンも僕
も、皆興奮した」と、脚本への賛辞を贈っている。
 なおコープは、スピルバーグとは“Jurassic Park”“War
of the Worlds”に続くコラボレーションということになる
が、スピルバーグの娯楽映画の側面を支えると共に、最近で
は“Spider-Man”のメガヒットも生み出すなど、実力的には
申し分ない。とは言うものの、その脚本の内容については、
題名も含めて一切秘密とされているものだ。
 ただし、この発表とは別に行われたルーカスの発言では、
「アクションというよりも人間ドラマが中心になる。しかし
非常にファンタスティックな内容を中心としたものだ」とい
うことで、連続活劇を再現したとも言われた第1作の頃とは
多少趣は変わるかも知れないが、ミステリアスファンタシー
の王道を行く作品は期待できそうだ。
 先に、ナタリー・ポートマンがインディの娘役をオファー
されたという情報もあったりしたが、6月の撮影開始に向け
て、しばらくは注意して見て行くことにしよう。
        *         *
 昨年アメリカのベストセラーリストを賑わせたオードリー
・ニフェネガー原作“The Time Traveler's Wife”の映画化
について、権利を保有するニューラインから、その脚本のリ
ライトを、1990年の“Ghost”でオスカーを受賞したブルー
ス・ジョエル・ルービンと契約したことが発表された。
 題名の通り、時間旅行の能力を持った男性と、彼が恋した
女性との関係を描いた原作は、2003年に未出版の状態で映画
化権がニューラインと契約され、その時から当時はニューラ
インの親会社のワーナーが本拠だったブラッド・ピット主宰
のプランBで計画が進められていた。そして出版された原作
がベストセラーになったことを機に、映画化の動きが本格化
してきたものだ。
 なお、監督にはロバート・シュウェンクが予定され、すで
にジェレミー・レヴィンによる脚本も執筆されていたが、計
画はその状態で頓挫していたもので、今回はルービンの参加
によって状況の打開が目指される。なお以前の計画では、ヒ
ロイン役には2004年の“The Notebook”(君に読む物語)に
主演したレイチェル・マクアダムスが予定されていたようだ
が、現在も契約が生きているかは不明。
 因に、ルービンは“Stuart Little 2”や“Deep Impact”
も手掛けており、ファンタスティックな内容には定評がある
ところだ。素晴らしい脚色を期待したい。また、ピットは現
在も製作者に名を連ねているものだ。
        *         *
 お次は、ちょっと話がややこしくなりそうな情報で、まず
はジェームズ・キャメロンが、懸案だった製作費2億ドルの
SF大作“Avatar”の製作を、2009年夏の公開を目指して開
始することを発表した。
 キャメロンのドラマ作品としては、1997年の“Titanic”
以来12年ぶりとなるこの計画は、遠く離れた星で繰り広げら
れる人類と、その星の住民との闘いを描くもの。物語の主人
公は、元海兵隊員だが、植民を進める人類のやり方に疑問を
持ち、最後は原住民を率いて人類に反旗を翻す、ということ
になる。そしてこの主人公役には、オーストラリア出身のサ
ム・ウォージントンという新人の起用が発表されている。
 また、主人公が恋する原住民の女性役には、“Pirates of
the Caribbean: The Curse of the Black Pearl”に出てい
たゾーイ・サルダナの出演も契約されており、実写の撮影は
4月にロサンゼルスで開始される。
 なお、キャメロンは11年前からこの物語を構想していたと
いうことだ。しかしその映像を実現する技術が当時はなく、
技術の進歩が待たれていた。そして、3Dドキュメンタリー
の“Ghost of the Abyss”や“Aliens of the Deep”の製作
を通じて、実写とCGIとを切れ目なく合成する技術に目途
を付け、ついに製作準備に着手、最近の1年半程はこの計画
が常に念頭にあったということだ。従って、一時は日本のマ
ンガを映画化する“Battle Angel”の計画も発表されたが、
2005年以降は“Avatar”に掛かり切りだったとしている。
 そしてその計画に、キャメロンが最優先契約を結んでいる
フォックスからようやくゴーサインが出たものだ。
 一方、キャメロンはこの計画のVFXの製作をピーター・
ジャクスンが主宰するニュージーランドのウェタ・ディジタ
ルで行うことも発表した。これには、ジャクスンや彼のパー
トナーのフラン・ウォルシュとの出会いもあったようで、そ
の出会いでキャメロンは、「多くのアイデアを彼らから注入
された。それは25年前にILMで感じたことを思い出させて
くれた」と、ウェタへの乗り換えの理由を語っていた。
 実写の撮影は3Dで行われ、それにウェタ製作のCGIが
合成される。従って公開も3D館に限定されるが、2009年の
公開時には、全米で1000〜2000の映画館がそれに対応してい
るだろうと予想を掲げているものだ。
        *         *
 上記がキャメロンの計画だが、これがややこしくなりそう
なのは、実はこの計画が発表された同じ日に、M・ナイト・
シャマランとパラマウントからも、“Avatar”という題名の
計画が発表されてしまったのだ。
 こちらの計画は、パラマウント傘下のニケロディオンが製
作しているTVアニメ番組“Avatar: The Last Airbender”
の実写劇場版を、シャマランの脚本、監督、製作で進めると
いうもの。オリジナルの物語は、4大要素のWater、Earth、
Fire、Airを司る4つの国のバランスで成立している世界を
舞台に、さらにそれらを統合するAvatarという存在が行方不
明になったことから生じる混乱を描いたものだそうだ。
 オリジナルのTV番組は、2005年2月にスタートしたとい
うことだが、対象年齢6〜11歳の子供の間では常にアニメ番
組のトップ10に入るという人気とされている。そしてパラマ
ウントからは、この題名がMPAAに登録済であることも報
告されたものだ。
 これに対してフォックスからは、「我々は“Avatar”の題
名を保持している。他社が同じ題名を名告ることは有り得な
い」との見解が発表されたが、パラマウントのMPAA登録
が事実とすれば、フォックスにはこれに対抗する術はないは
ずで、キャメロンの計画は題名で出鼻を挫かれることにもな
りそうだ。
 因にシャマランは、2004年の“The Village”の製作で、
当初は“The Woods”の題名を発表したものの、すでに題名
の登録があったために断念したことがあり、今度は反対の立
場に立つことになる。昨年の“Lady in the Water”では多
少不本意な結果(71位)に終ってしまったシャマランだが、
これで意気が挙がってくれれば、それも嬉しいことだ。なお
劇場版の映画化には、シリーズ化も期待されているようだ。
        *         *
 次もシリーズ化の話題で、長編アニメーション賞のところ
で紹介したリュック・ベッソン原作監督による“Arthur and
the Invisibles”に関して、その続編の計画が発表されて
いる。
 この作品に関しては、本国のフランスではすでに500万人
の観客動員を記録。ベッソン作品では、『グランブルー』の
1000万人、『フィフス・エレメント』の800万人に次ぐ成績
となっている。そこで続編となったものだが、元々ベッソン
の原作は4部作で、その内の最初の2巻が今回映画化の原作
となっているそうだ。そこで残る第3巻と第4巻については
それぞれ映画化して、3部作とすることが発表された。
 そして発表によると、2009年に第3巻の“Arthur and the
Vengeance of Malthazar”、10年に第4巻の“Arthur and
the War of Two Worlds”を公開するということだが、実は
この発表は、ベッソン自身がフランスの雑誌で4ページの広
告にして行ったということだ。
 なおベッソンは、一時“Arthur and the Invisibles”を
最後の監督作品にするという発言もしていたようだが、今回
の動きでその発言は撤回されたと見る向きが多いようだ。
        *         *
 最後に、昨年末に日本のマスコミでも報道されて話題を呼
んだ元KGBエージェントの毒殺事件について、NYタイム
ズのロンドン支局長が執筆した“Sasha's Story: The Life
and Death of a Russian Spy”という本の映画化権を、ワー
ナーとジョニー・デップ、それに製作者のグラハム・キング
が獲得し、デップの主演作として進めることが報道された。
 ところがその翌日、今度はコロムビアとマイクル・マン監
督が、こちらは元エージェントの未亡人も執筆者に加わって
いるという“Death of a Dissident”なる本の映画化権を獲
得、マン監督作品として進めることが発表されて、競作とな
る可能性が出てきている。
 実は、後者の本に関しては、コロムビアだけでなく、ユニ
ヴァーサル、パラマウント、それにワーナーも加わって争奪
戦になっていたようだが、コロムビアが手付け金50万ドル、
最終的には150万ドルという契約金額を提示。恐らく合体し
て映画化を考えていたワーナーの思惑を挫たということだ。
しかも、ワーナーが獲得した本の出版予定は今年の後半とな
っているのに対して、コロムビアが獲得した本は5月の出版
予定ということで、このままでは、ワーナーが遅れを取るの
は必至というものだ。
 また、マン監督は以前、最終的にはマーティン・スコセッ
シが監督した“The Aviator”の計画を進めていた際には、
クリス・ノーラン監督、ジム・キャリー主演で予定されてい
た競合作を中止に追い込んだ経験があるということだが、実
はその時は、製作者のキングが協力者だったというもので、
今回はお互いになかなか手強い相手となりそうだ。
 ただし、内容的にワーナーが獲得した本のコンセプトは、
イギリスの対テロ機関が捜査を主導した冷戦後に起きた最も
ミステリアスで複雑な事件とされており、事件そのものが中
心になるようだ。一方、コロムビアが獲得した作品は、未亡
人が参加していることから、元エージェントの生涯が描かれ
ているようで、多少違いはあることになる。事件の実録もの
は、映画化が早いに越したことはないが、この状況ではワー
ナーは多少じっくり構えた方が良いようにも思える。
 なお、そろそろ“Sweeney Todd”の撮影が始まるデップの
スケジュールでは、10月から懸案の“The Shantaram”が撮
影開始との情報もあり、できることならKGB事件はマン監
督に任せて、デップにはこちらの計画に専念してもらいたい
と思うところだが…。実は“The Shantaram”も、降板した
ピーター・ウェア監督の後任がまだ決まっていないようで、
物事はなかなかすんなりとは運ばないものだ。



2007年01月10日(水) Movies−High 7

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、毎年招待を受けているNWC(ニュー※
※シネマワークショップ)の新作発表会に今回も出席させ※
※てもらったので、その感想を述べさせていただきます。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
今回のMovies−High 7では、12月29日に紹介し
た『棚の隅』が特別プログラムとして完成披露上映された。
また、発表会では前回から始まったアクタークラスの作品も
3作品が上映されたが、今回は時間の関係で、クリエイター
のAプログラムと、アクター富樫クラスの作品、それにクリ
エイターBプログラムの3番組を見させてもらった。
以下、見させてもらった順番に感想を述べさせていただきま
す。

<クリエイターAプログラム>
『ドラッグストアへようこそ』
ドラッグストアでアルバイトを始めた主人公。そこには万引
きを捕まえることに執念を燃やす先輩がいて…
モニタを見ていた先輩が、怪しい動きを見つけると出動して
行く。そのパターンの繰り返しだが、そこには一定の様式が
ある。しかもその行動様式や、万引きの手口も徐々にエスカ
レートして行く。そして最後は室内劇から突然に野外に展開
するなど、その構成も良くできていた。面白いし、短編映画
としても、纏まりのある作品に感じられた。

『でーと』
ある女性がデートに出かけるまでを描いた作品。
最初の暗転から始まり、そこから洗面や化粧など女性の外出
までの行動が描かれるが、何か全体に普通ではない雰囲気が
ある。それは、本当に微妙なもので、その理由が判った瞬間
に、何とも言えない感覚に襲われた。どういう状況でこの作
品を作るに至ったのかは判らないが、作り手の強い意志が感
じられる作品だった。決して興味本位で扱ってはいけない内
容だが、この作品にはそこへの理解も感じられた。特に、真
相が判る瞬間が、ある種の感動に繋がっていたのは見事と言
える。

『LOST』
バーチャル・リアリティを応用した老人の終末介護を描いた
近未来SFストーリー。
主人公の母親は死期が迫っている。主人公と母親にはいろい
ろ確執があったようだが、その最後の時を迎えて、主人公は
母親の知覚しているバーチャル世界にアクセスする。という
物語のようだが、15分の上映時間でそれを全部説明するのは
かなり無理があったようだ。映像も凝っていて感覚で見せよ
うという意欲は判るが、やはり物語を語り切れていない感じ
がした。このテーマを核にして、もっと大きな作品を構築し
てもらいたいとも思った。
なお、前の作品が暗転で終わり、この作品が暗転から始まっ
た。NCWの名前が出て切れ目は判るものだが、プログラム
の構成上、この繋ぎはちょっと不適切のように感じられた。

『蹉跌』
小さなカウンターバーを舞台に、劇団を辞めた役者と、その
劇団のリーダーとが対峙する。その双方の言い分が激突する
会話劇。
お互いに理想論をぶつけあったり、現実論をぶつけたり、23
分の比較的長めの作品にはそれなりの迫力も感じられた。監
督には実体験としてこれに似たことがあったのかも知れない
し、あるいはこれに似たことを見聞きした経験があるのかも
しれない。そんな現実的な物語を、わざと演劇調にしている
面白さも感じられた。出来たら一度生の舞台にして、そこで
脚本を練り上げると、さらに上の作品になって行く、そんな
ことも考えた。これだけで長編が描き切れたら見事だろう。

『風船天国』
何事にも奥手というか、優柔不断な主人公が、駄菓子屋の娘
に恋をして、一念発起の行動に出る。
全体的にそつなくまとめらている感じで、それはそれで良い
のだが、何となく印象に残るものがなかった感じだ。実際、
鑑賞から1カ月ほど経ってこの記事を書いているが、最後の
風船を飛ばすシーン以外に、あまり思い出せるものがない。
それも、普通に膨らした風船は飛ばないはず、と思った記憶
がある程度だ。何か、一つ思い切りの良いパンチが欲しい感
じがした。多分それは、主人公がゴム風船を買ってしまう辺
りで、何か事件が一つ欲しかったという感じがした。

『すきやき』
帰省した娘をすき焼きで歓待する一家だが、何か心に行き違
いがあるようだ。
監督は帰省というものに、何か特別な思いがあるのかな? 
僕は現在東京に住んでいるが、両親も湘南に住んでいてあま
り離れてはいない。家内の実家はそれなりに離れているが、
その帰省に同行してもこの作品に出てくるような親子の関係
を感じた記憶はない。従って、見ていてあまり実感は湧かな
かったのだが、作品は最後のシーンでちょっとした親子の情
愛を感じられて心地よかった。最近の親子の関係は、こんな
ものなのかなあという感じもした。

<アクター富樫クラス>
『サヨナラのうら』
元泥棒だった男が、最後の仕事を引き受けさせられる。それ
は、あるスタジオに忍び込んで1枚のCDを盗み出すという
簡単なものだった…
前回のアクタークラスの作品もさすがプロの監督という感じ
の面白いものばかりだったが、今回は62分の上映時間を得て
さらに完成された作品を見せてもらえた。物語は、何と言う
かよく作られそうな発端から始まるが、そこからの展開がい
ろいろ面白く、特に結末の付け方は嬉しくなるものだった。
脚本は、出演者に当て書きで書かれたのだろうが、主演の男
優のキャラクターは充分に活かされていたし、その他の俳優
のキャラクターもそれぞれ良い感じのものだった。また、キ
ーとなる音楽も良い出来だったと思う。
ただ、脚本は、いろいろな事象を展開して最後に成程と思わ
せる形式のものだが、それが判って即座にすべてが明確に思
えるほどには、物語が整理されて描かれていなかったように
感じた。
作り手は、結末まで了解しているからこれでも良かったのか
も知れないが、予備知識のない観客としては、どこか辻褄が
合っていないような、何か釈然としないものが残る感じだっ
た。見ている間は満足しているのだが…

<クリエイターBプログラム>
『はんだ』
作り損いの、手作り?パンダ人形。しかもパンダの丸が取れ
て「はんだ」になってしまっている。その丸を探す物語。
人形劇というほどでもないし、子供の手遊びを撮影したよう
な感じの作品。でも、テーマと言うか、何かそんなものに纏
まりが感じられて、それなりに見ていられる作品になってい
た。プロの作品とは言えないかも知れないが、NHKの「み
んなの歌」になら出てきそうな、それくらいのレベルには達
していると思う。悪い作品でもないし、敢えて批判をする感
じでもない。これはこれで良として認めるものだ。

『退部届』
バスケットボールを題材に、長年部活を続けて行き詰まって
いる男子と、最近部活を始めたばかりで楽しくてしょうがな
い男子。そんな2人があることを賭けて勝負を始めるが…
判るようで判らない作品だった。結局青春の一場面というこ
となのだろうが、ただそれを見せられても、そこから何か生
まれてくるものでもない。これでは、本当にただ勝負を描い
ているだけで、ああそうですかで終ってしまう。結末の付け
方には作者の感性が関わるから他人は何も言えないが、僕は
敢えて逆の方が何かが伝わったような気がした。

『孤独の人』
死期を迎えた老人の横たわる病室。そこに20年前にその男に
棄てられた妻子がやってる。しかしそこには、介護を続ける
愛人がいて…
最近、日本の家族関係も欧米並に複雑になってきたとも言わ
れるが、こんな風景も、それなりにありそうな感じもすると
ころだ。その意味では着眼点は良い線を突いている。ただ、
交わされる会話があまりに普通でドラマティックでない。も
ちろん観客も他人事として見てしまう物語だが、出来たら現
実味を無視してでも、もっと観客の胸を抉るような発言が欲
しかったところだ。何か観客を驚かすような発言が一つ二つ
あると、作品がもっと締まったのではないかと思えた。

『恋慕』
3月3日に雛人形の前で自殺することを決めた女性の物語。
テーマ自体が誉められたものではなく、多少構えて見てしま
ったが、雛段の緋毛氈とその前にいる豪華な和装の女性とい
うヴィジュアルは強烈な作品だった。ただ、その映像の強烈
さの中で、ドラマがそれに対抗し切れていない感じがした。
その自殺志願者を説得する会話劇が進むものだが、劇として
はもっと強烈なものが必要だったのではないか。特に豪華な
その衣装を乱れさすような修羅場がもっと強烈にあったら、
それなりの評価が出来たと思う。映像の強烈さが見事なだけ
に、劇がおとなしく感じられてしまった気がする。逆に、こ
のヴィジュアルを除いて、ドラマだけで見てみたかった感じ
もした。

『愛してブラディマリー』
人を愛すると、その相手の身体に裂傷が生じるという女性を
主人公にしたスプラッター・コメディ。
今回ホラー系の作品はこれ1本のようだが、かまいたちテー
マはそれほど珍しい物ではないし、それを乗り越えて愛し合
うということでも、それだけでは新奇な感じはしなかった。
ただ、これをSMにしてしまうと見るに耐えなくなってしま
う訳で、それをその手前で留めているのは常識の持ち主と感
じる。でも、アマチュアの内なら。もう一歩踏み越えてしま
うのも可能性として認められるのではないかという感じだ。
今、僕が日本のジャンル映画の監督で一番認めているのは、
園子温と松尾スズキなのだが、この2人の強烈さを継げる作
家の誕生が見てみたいものだ。

『ゴーゴー☆TOILET』
その小学校の男子学童の間にはトイレで大便をしてはいけな
いというルールがある。しかし、平然と大便をする同級生が
現れて…
最近何かと話題のいじめの問題を見事に描いた作品という感
じがした。しかもそれが極めて前向きに描かれているところ
に好感が持てる作品だった。撮影は、すでに廃校になってい
た学校を借りて、それを再生して行ったということだが、そ
の美術的なセンスも見事だった。すでにコンテストなどで、
優秀賞やグランプリも受賞している作品のようだが、全く異
論をはさむ余地がないものだ。子役たちの演技も自然で良か
ったし、言うことなしの作品だろう。

『黄昏モメント』
恋人からプロポーズされた女性。しかし彼女には母親との関
係にトラウマがあり…。そんな彼女の前にママと呼ぶ少女が
現れる。
母親との確執を描き、女性の成長を促すファンタシーという
感じの作品だが、全体的に印象が弱い。多分物語も整理され
ていなくて、監督の思いばかりが先走っているのだろうが、
途中の主人公の妊娠などの問題も明確に語られていないし、
見ていて混乱ばかりしてしまった。資料を見ると脚本が表記
されていないようで、そういう作品は他にも何本かあるが、
結局どの作品も纏まりのなさを感じたものだ。最近、プロで
もそういう造り方をして持て囃されている監督がいることは
確かだが、それを編集だけでまとめるのは至難の技。やはり
映画は、脚本をしっかり作ってから製作してもらいたいもの
だ。

以上、13+1作品への感想とします。
なお、今回、クリエイターコースのプログラムは、Aが男性
監督とBが女性監督に分けられていたようだが、そうする意
味があったのかどうか疑問に感じた。
また、この記事を書きながら一昨年の9月29日付で掲載した
前回の記事を読み返してしまったが、前回に比べて、今回は
全体的に監督のやりたいことが伝わってこなかった感じがし
た。もちろん制約はいろいろあるだろうが、やはりやりたい
ことの目標点はしっかりと持っていないと、ただ作るだけで
は思いが観客に届かない。というか、その届けたい思いが正
確に感じ取れない、良く言って未完成な、宙ぶらりんの作品
が多かった気がしたものだ。
その中では、すでに賞を取っている評価の後追いになるが、
『ゴーゴー☆TOILET』『ドラッグストアへようこそ』
『蹉跌』の3本は、一頭地を抜けていると感じられた。他の
作品では、一番短い『でーと』と『はんだ』の2本が、何か
心に残るものが感じられて良かった。その他の作品もそれぞ
れの感性は伝わってくるもので、それをさらに伸ばして完成
させることを望みたい。
Movie-Highも、何回か見させてもらって、最初の頃は本当に
アマチュアという感じの作品が多かったが、最近は作品とし
ての纏まりは感じられる。ただそれが小さく纏まり過ぎてい
る感じも否めない。もっとプロには出来ない半分アマチュア
の破天荒さや、過激さみたいなものもちょっと見たいと思い
始めた。
次回はさらなる作品を期待します。



2007年01月09日(火) 東京国際映画祭2006「アジア風」+「ニッポン・シネマ・クラシック」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、東京国際映画祭で上映された「アジア※
※風」および「ニッポン・シネマ・クラシック」の作品か※
※ら紹介します。                  ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<アジアの風>
『私たちがまた恋に落ちる前に』(マレーシア)
突然妻に家出された男の前に、その妻の愛人だったと自称す
る男が現れる。そして2人は女性の過去を調べ始めるが…
監督のジェームズ・リーは、一昨年に『美しい洗濯機』とい
う作品を紹介しているが、どうもボクには感覚が掴めない。
今回も、結末で男女3人の後ろ姿は出てくるが、その意味も
はっきりしないし、そこに至る展開が唐突すぎて釈然としな
い。まあ、そこまでの展開を楽しめば良いというつもりの作
品かも知れないが、貞淑と思われた妻が不倫していたなどと
いう展開は、最近の映画では驚きもしないし…。映画の後半
で、主人公が突然日本人に間違われるシーン(しかも2人は
日本語が判るらしい?)には多少面食らったが、それも他の
話との関係はほとんど無く、一体何が言いたいのか?結局よ
く判らない作品だった。

『愛は一切に勝つ』(マレーシア)
主人公は地方出身者の女性。夜の街で出会った男が優しく彼
女に近付いてくるが、実は男には別の目的があった。
日本に置き換えてもありそうな話で、それなりに世情を描い
た作品とも言えそうだ。しかし、日本人の感覚だといまさら
と言うか、ずいぶん昔にこんな話の映画は見たような気がす
るものだ。そんな話を、現代を背景に再話する価値があるの
かと言うことになるが、もしかするとあるのかも知れないと
いう感じは持った。脚本監督編集のタン・チュイムイは女性
だから、若い女性たちに警鐘を鳴らす目的の作品と言えるの
かも知れない。ただし、それにしても本作は演出などがかな
り古典的な感じで、どうもその辺でいまさら感が出てきてし
まうような感じもするものだ。それにこの内容でこの題名は
違うように感じるが…

『鳥屋』(マレーシア)
マラッカ海峡沿岸の湊町で、古い歴史の感じさせる家屋。そ
の家の利用法を巡って兄弟が対立する。兄はそこでアンティ
ークショップを開こうとし、弟は屋根裏に燕を呼び入れて、
中国向けの燕の巣を作らせる「鳥屋」を考えている。
この鳥屋という発想は面白かったが、アンティークショップ
にしても、一攫千金を夢見ているような節があり、どちらも
詐欺商法に騙されているようなところもあって、お手軽に生
きようとする現代の若者の風俗を描いている感じもした。そ
の意味ではなかなか面白かったのだが、映画の終わりの方に
なって、突然、錫鉱山が閉鎖になったという話や、父と弟は
中国に帰ったとか、家が廃虚になっている風景が出てきて、
頭が混乱してしまった。この結末は本当に謎としか言いよう
が無く、それで結局、何が言いたいのか訳が判らなかった。

『セランピ』(インドネシア)
2004年の大津波で大きな被害を受けたアチェの街を中心に、
偶然に難を逃れた大学生、孤児の少女、人力車のドライバー
らの2年間を追ったドキュメンタリー。
大津波に襲われたときの記録映像に始まり、その後の様子が
描かれるが、いつまでたっても復興の兆しさえ見えないとい
う状況は信じられないほどだ。実際、現地に大企業がある訳
でもなく、市民だけとなると、援助の手もほとんど届かず、
これが現実ということだろう。そこに、孤児たちにイスラム
原理主義を教え込もうとする学校が描かれたりすると、かな
り危険な感じにも受け取れるが、元々がイスラム教国だから
それも仕方がない。一方で革命を望む大学生なども登場する
が、一番の市民である人力車ドライバーは、民俗舞踊に興じ
ながら自宅の再建を目指している。それが現実なのだ。

『Love Story』(シンガポール)
小説家が描く物語と、現実の世界が交錯する。作家は現実を
ヒントに小説を書くが、現実の世界もそれに微妙にシンクロ
して行く。
小説家の書いた3つの物語。それらはそれぞれタイトルも付
されてオムニバスのように提示されるが、実はそれぞれ作家
の体験に基づくもので、実体験では連携しているものだ。そ
こにベッドの下に死体があったり、いろいろの出来事が起こ
り始める。その現実と虚構が映画の中でも入り混じり始め…
確かに面白い発想だが、映画としては整理されていなくて、
物語以上に混乱しているように感じられた。禁書を暗記して
いるために人との会話を失った女性の話など、それなりに面
白い話もあるし、もっと虚構と現実にメリハリつけて描いて
くれれば、それなりの作品にもなったのだろうが…

『サイゴン・ラブ・ストーリー』(ヴェトナム)
1988年のサイゴンを舞台に、歌手を目指す女性と、家具工場
で働く若者の交流を描いた作品。若者は工場の経営者の娘と
結婚することになるが…
ヴェトナム初の民間資本によって製作された映画ということ
だ。その物語は、ドイモイの始まった頃を背景にしている。
経済が自由化されて人々にも自由が訪れたとき、町には物資
も溢れているが、貧富の差も大きくなり始めている。そんな
中で歌手を夢見る少女は、一歩一歩階段を昇って行く。主演
の少女役はヴェトナムで現役の人気アイドルだそうで、クラ
ブで歌うシーンなどは良い雰囲気だった。演出は古典的で、
昭和30年代の日本映画を思わせる作品だが、物語の内容も何
となく日本の戦後と呼ばれた時代とも重なる感じで、好き嫌
いはありそうだが、僕は悪い感じではなかった。

『バイ・オブ・ラブ』(タイ)
バンコクの街角に棄てられた犬と、その町の親戚に預けられ
た少女の交流を描く。しかし、飼うことを禁じられた犬はど
こかに連れて行かれ、少女もその後を追って家を出て行くこ
とになる。
動物と子供を使った映画はずるいとしか言いようがないが、
まさにそんな感じの作品だ。でも、物語も後半は意外な展開
となって、かなり楽しめる作品だった。少女役の子役も達者
な演技だし、彼女につきあう年長の少年がまた良い感じだっ
た。監督は、2005年の映画祭で上映された『ミッドナイト・
マイ・ラブ』のプロデューサーということで、その作品も気
に入っていた僕としては嬉しい作品だ。物語は全く違うが、
弱者に優しい、そんな感じが共通している。でも、2年前の
作品はハッピーエンドだったが…ちょっとショックだった。

『エクソダス/魔法の王国』(フィリピン)
フィリピンでは、クリスマス前後は外国映画が上映禁止だそ
うで、その期間向けに作られたVFXファンタシー作品。
大昔に封じられた悪霊が復活し、それを倒すために四代元素
の精霊を探したり、古文書を解読したり、これに主人公の妻
の献身があったりと、いたって有り勝ちなファンタシー・ア
ドヴェンチャーが繰り広げられる。いろいろとVFXも登場
するが、レベルはかなり低く、良く言って日曜朝の戦隊シリ
ーズ程度という感じのもの。それを割り切って観るのも多少
努力が要る感じだった。物語も、かなり行き当たりばったり
で、これはと言うような展開も観られない。でもまあ、香港
のファンタシー映画も、カンフーを抜くと以前はこんなもん
だったし、ここから1歩が踏み出されることを期待したい。
撮影はCineAltaで行われ、最後にロゴが表示されていた。

『多細胞少女』(韓国)
『情事 an affair』や『スキャンダル』のイ・ジェヨン監督
によるファンタスティック・コメディ・ミュージカル。
風紀の乱れ切った高校を舞台に、貧乏神を背負った少女や、
一つ目、それにスイスからの帰国学生などが繰り広げるどた
ばたコメディ。巻頭から、仏経、キリスト教、ヒンズー、イ
スラム、儒教など役立たずと歌い上げるシーンから始まり、
HIVが出たというと、生徒のほぼ全員と教師までもが検査
に走るという、とんでもない学園生活が描かれる。これに切
ない恋物語などが織り込まれるのだが…裏では風紀を正そう
とする校長の怪しい動きや、最後にはご丁寧に巨大怪物まで
登場するという代物。
原作はインターネット上に公開された漫画シリーズなのだそ
うで、その過激ぶりは相当のものらしいが、映画化も負けず
劣らずの作品だ。韓国では8月に公開され、『グエムル』の
陰で惨敗したそうだが、監督自身上映後のQ&Aでは、「韓
国の映画ファンには早すぎたようだ」と自嘲気味に語ってい
た。しかしこの後、3月開催のベルリン映画祭への正式招待
が決まったもので、そこでの評価が楽しみなところだ。
実はこの作品、上映スケジュールにはタイトルのみの掲載さ
れていて、公式プログラムにも解説などは一切載せられてい
ない。一種のサプライズ上映として登場したものだが、本国
では公開済の作品に対して、この扱いは解せないところだ。
お陰で上映会場も観客はまばらという状況だったが、監督の
過去のタイトルから見れば、それもおかしな話だった。
僕はタイトルだけに魅かれて見に行ったが、見落とさなくて
本当に良かったと思っている。今回の映画祭は、この作品を
見られただけでも価値があったと言える作品で、ぜひとも日
本での公開を期待したい。

『ヌーヒン』(タイ)
タイで人気のコミックスの映画化。
飛行機と都会に憧れていた田舎の少女が、バンコクのお屋敷
にメイドとして勤めることになるが…ちび丸子も顔負けの傍
若無人で、田舎を出て行くときには村人全員がほっとした顔
をするほどの主人公。その子が、大都会でスーパーモデル・
コンテストに絡む誘拐事件や、強制的に働かされている工場
の少女たちを救出するなど大活躍を繰り広げる。
巻頭には、タイ映画では初めてというアニメーションと実写
の合成でどたばたアクションが描かれたり、かなり力の入っ
た作品で、物語の展開も卒なく楽しめる作品だった。特に、
1000人の応募者から選ばれたという主人公ヌーヒンを演じる
子役の演技が見事だったし、主人公の名前を連呼する主題歌
も軽快で良い感じだった。

『八月的故事』(香港)
九月からの大学予科への進学を控えた少女が、学費を得るた
め叔父の経営するクリーニング屋に住み込みを始める。そこ
には地方出身者の若者がいて…また、その店に仕事を頼みに
来たお金持ちの少女も出入りするようになる。
何となくどこにでもありそうな物語だが、お粥を食べたり麻
雀をしたりという、如何にも中華系の風物の中で綴られると
それなりの趣になる。取り立てて何か見えてくるというよう
な作品ではないが、映画に漂う雰囲気が何となく心を引かれ
るところだった。女性の監督は、2004年の作品が東京国際映
画祭に出品されているそうだが、かなり際どい作品だったら
しい前作の解説に比べると、本作は落ち着いた青春の一面が
描かれている。なお、撮影はヴィデオで行われていて、元々
はテレビ用だったものを長編化した作品のようだ。

『My Mother Is a Belly Dancer』(香港)
若さや美貌、情熱も失って、緊張感のない生活を送っている
主婦を「See-Lai」と呼ぶのだそうだ。この映画の主婦たち
がそこまで落ち込んでいたとは思えないが、そんな主婦たち
が、べリー・ダンスに目覚めたことから始まる騒動を描いた
作品。と言っても、ユーモラスなシーンはあってもコメディ
ではなく、かなりシリアスな物語が展開する。
とある団地の一角。そこの集会所で開かれていたダンス教室
が閉鎖の危機を迎える。それは生徒が集まらなかったせいだ
が、それを聞いた主人公たちは誘い合って教室に参加する。
それはやがて大人気となるが…おへそを出して踊るべリーダ
ンスには、周囲の抵抗も大きかった。かなりシビアな現実も
描かれている作品で、そんな抵抗にもめげずダンスを続ける
女性たちの力強さを感じる作品だった。

<ニッポン・シネマ・クラシック>
『座頭市物語』
1962年製作。この後11年続く人気シリーズの第1作。勝新太
郎の当たり役となる座頭市と、天知茂扮する平手造酒の交流
と対決が描かれる。ユーモアも交えた展開と、壮絶な死闘。
トリックも使った居合抜きのシーンなど、娯楽作品として今
観ても大満足が得られる作品だった。江戸を離れた地方を舞
台に、対立する2つの組にそれぞれ雇われた用心棒。2人は
互いの存在を認めあい、闘うことを避けようとするが、柵は
2人を対決の場へと引き摺り出す。いろいろな伏線もしっか
りと敷かれているし、物語の展開が素晴らしい。そして主演
2人の演技も、まさに入魂と言う感じだった。また、脇役の
俳優たちも今は懐かしい人たちばかりで、自分がぎりぎりこ
の世代にいることも嬉しく感じられた。

『鴛鴦歌合戦』
1939年製作。片岡千恵蔵、ディック・ミネ共演の侍ミュージ
カル。浪人ものと町娘の恋物語に、その町娘を見初めた大名
が絡むお話。レコード会社のテイチクの協賛作品で、ミネの
他にも女性歌手が出演していた。元々は『東海道中膝栗毛』
が企画されたが、片岡の体調不良で急遽作られた作品だそう
だ。その割りにはしっかりした作品で、当時の映画づくりの
実力が感じられた。もちろんお話自体は軽いものだが、大き
なセットや、歌や踊りも、現代映画と比べてはいけないが、
それぞれ楽しめる作品だった。なお、共演に志村喬がいて、
コミカルな歌を聞かせてくれる。前説でMCの人が「志村さ
んが歌うんですよ。あの『七人の侍』や『生きる』の…」と
言ったところで、場内の観客の半数が「あっ」と言ったよう
だ。仕込にしても良い反応だった。



2007年01月01日(月) 第126回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い
します。と言うところで、新年最初はこの話題から。
 今年5月に第3弾の“The Pirates of the Caribbean: At
Worlds End”の公開を控えるジョニー・デップ主宰の製作
プロダクション=インフィニタム・ニヒルが、ワーナー傘下
の製作者グラハム・キングが主宰するイニシャル・エンター
テインメントと共同で、新たに3作品の映画化権を獲得した
ことを発表した。
 その1本目は、ジョゼフ・ガンジェミという作家の原作で
“Inamorata”。1920年代のハーヴァード大学を舞台に、心
霊現象を起こすとされる女性と、その現象に疑いを持ちなが
らも、その美しさに魅かれて行く研究者を主人公にした物語
ということだ。なおこの計画に関しては、すでに、1994年に
映画化された“Romeo Is Bleeding”(蜘蛛女=ゲイリー・
オールドマン、レナ・オリン共演)などを手掛けたピーター
・メダックに監督が要請されているということで、監督の作
品から考えると、かなり強烈な物語が展開されそうだ。
 2本目は、“Affected Provincial's Companion”と題さ
れているもので、ブロウラヴ・スウェルズ・ウィムズィ卿と
いう人が、不透明な現代における紳士の価値について、エッ
セイや詩や図表を交えて表わした論文とのこと。この原作本
がどのような意図のものかは不明だが、アメリカ人は結構こ
の手のものをパロディで描くことが多いから、楽しい作品に
なることを期待したい。
 そして3本目は、ジェームズ・ミークの原作による“The
People's Act of Love”で、これについては昨年第103回で
一度紹介しているが、ロシア革命後の1919年を背景に、シベ
リア流刑地を脱出したキリスト教神父と現地の人々との関係
を描いた物語というもの。因にこの作品については、以前の
紹介では映画化権を交渉中とのことだったが、その交渉が成
立したようだ。
 なお、これらの3作品は、全部がデップの主演作とされて
いるものではないが、いずれも彼の主演が期待されていると
いうことだ。つまり、デップのスケジュール次第ということ
なのだろう。
 一方、第103回でタイトルだけ紹介しているニック・ホー
ンビー原作の“A Long Way Down”については、同じくホー
ンビーの原作で、2000年公開の『ハイ・フィディリティ』を
担当したD・V・デヴィンセンティスが脚色を契約したこと
も発表されている。
 この作品は、大晦日の夜、それぞれが絶望の淵に追い込ま
れていた4人の男女が巡り合い、紛い物ではあるものの家族
という形態を作り上げて行くまでを描くという内容で、デヴ
ィンセンティスは、「ニックの作品を脚色するのは、彼が描
いたいろいろなものを克明に感じられるので、いつも楽しい
ものだ」と抱負を語っている。
 因に、インフィニタムとイニシャルは、映画製作に関して
3年間の契約を結んでいるものだが、すでにフセイン政権下
のイラクから2003年に脱出した原爆科学者マハディ・オベイ
ディ博士の自伝に基づく“Bomb in My Garden”と、第113回
などで紹介した“Shantaram”の計画も進めており、全部が
実現するのには、かなりの時間が掛かりそうだ。
        *         *
 次もワーナーの話題で、同社と製作者のジェリー・ウェイ
ントローブが、“Tarzan”の新たな映画化を計画し、その監
督として、“Pan's Labyrinth”が12月29日に全米公開され
たばかりのギレルモ・デル=トロの起用が発表された。
 エドガー・ライス・バローズが1912年に第1巻を発表した
原作小説は、1918年にエルモ・リンカーン主演による映画化
(無声)が行われて以来、実写映画だけでなく、長編アニメ
ーションやラジオ、テレビなどでも数多くの作品が生み出さ
れてきた。しかしその多くは、1930年代にMGMが製作した
映画化のイメージに囚われており、原作からは多少ずれたも
のになっていた。
 一方、1950年に死去した原作者の著作権はすでに消滅して
いるものだが、今回は、敢えてその原作に戻った映画化を目
指すとしている。と言ってもワーナーでは、1984年に『炎の
ランナー』のヒュー・ハドスン監督、クリストファー・ラン
バート主演による同旨の映画化“Greystoke: The Legend of
Tarzan”(グレイストーク)を行っており、今回はそれに
再度挑戦することになるものだ。
 なお、デル=トロは子供の頃にスペイン語版の原作小説を
愛読していたということで、そのイメージに従った映画化を
目指すとしている。ただし、今回の映画化の脚色には、すで
に『マスター・アンド・コマンダー』や『ハッピー・フィー
ト』のジョン・コリーが起用されている。これについてデル
=トロは、「コリーは大自然を背景にした冒険を描かせたら
最高の脚本家だ」として、脚本家とのコラボレーションを待
望しているとのことだ。
 従って、今回の脚本はコリーが単独で執筆し、デル=トロ
は脚色には参加しないことになるが、その間にデル=トロ自
身は、“Hellboy 2”の準備と、自分のオリジナルの企画の
執筆を進めるとも発言していた。
 原作の発表からは、もうすぐ100年になるものだが、実は
『グレイストーク』の映画化では、元は1875年生まれの原作
者の生誕100年を目指して計画されたものの、完成まで10年
近く掛かってしまったという経緯もあり、今回の企画がそれ
ほど遅れないことを期待したい。また、原作発表100年とい
うことでは、同年に発表された“A Princess of Mars”の映
画化を期待したいものだが…その後のパラマウントの動きは
ないようだ。
        *         *
 『チキン・リトル』と『ナイトメア・ビフォア・クリスマ
ス』のディズニー2作品に続いて、ソニー作品の『モンスタ
ー・ハウス』も上映されるドルビー社の3D上映システム=
リアルDに、記録ドキュメンタリー映画の老舗ナショナル・
ジオグラフィックの参加が発表された。
 ナショナル・ジオグラフィックの3D作品は、撮影段階か
ら一貫して70ミリフィルムを2駒ずつ使用するImaxシステム
で行われ、従来は科学博物館や美術館などに設置されたImax
劇場での上映が行われて来た。しかし、記録映像に大型スク
リーンの解像度は重要とするものの、上映場所が限定される
大型スクリーンでは観客動員が限られていた。
 そこで今後は、Imaxシステムで撮影された一部の作品につ
いて、通常フィルムに変換した上で全米数100館に展開する
リアルDでの上映も並行して行われることになったものだ。
これにより、近隣の学校からのグループ鑑賞などの動員が図
られるとされている。
 なお、発表されたプログラムは、2007年春に“Lions 3D:
Roar of the Kalahari”と、続いて10月に“Sea Monsters:
A Prehistoric Adventure”という2作品のリアルDでの上
映が予定されている。ナショナル・ジオグラフィックの3D
作品では、過去にもいろいろ話題作があったはずだが、今回
一部と断わり書きがある理由も判らないところで、できれば
順次それらの作品もリアルDでの公開を望みたいものだ。
 また、3D推進派のジェームズ・キャメロン監督も、以前
はImaxで作品を発表していたものだが、今回のナショナル・
ジオグラフィックの動きを見れば、リアルDへの乗り換えに
も支障はなくなりそうだ。他にも、ディズニーの“Meet the
Robinsons”や、パラマウント製作の“Beowulf”など、リ
アルD採用の新作も続々予定されており、基本的には、通常
映画の上映にも支障のないとされるこのシステムは、今後ま
すますの発展が期待できそうだ。
        *         *
 “Sin City 2”の情報は2回連続で紹介してきたが、今回
は同作の製作元でもあるディメンション・フィルムスから、
同じくロベルト・ロドリゲス製作による新たなコミックスの
映画化の計画が発表されている。
 映画化が計画されているのは、マイクル・オーレッド原作
の“Madman”という作品で、内容は、『フランケンシュタイ
ン』の現代版とも言えるもの。交通事故で死亡した男性が、
エキセントリックな医者の手で甦り、フランク・アインシュ
タインと名付けられたスーパーヒーローとして活躍するとい
う物語だそうだ。
 しかし主人公の顔には、その医者にも消せない傷跡が残っ
ているという設定で、その傷跡を隠すためにコスチュームが
着用される。さらに主人公には、再生手術の際にいろいろな
知覚能力や運動能力も強化されているというお話のようだ。
因にこの原作は、現在は“Madman Atomimic Comics”という
シリーズ名でイメージコミックスというところから発表され
ている。
 そして計画は、この原作をロドリゲスの盟友ジョージ・ホ
アンの監督で実写映画化するというもので、脚本はオーレッ
ドとホアンが共同で執筆し、撮影はテキサスのトラブルメー
カースタジオで、『シン・シティ』と同じシステムを使って
行われるということだ。
 なお、1994年に“Swimming With Sharks”(ザ・プロデュ
ーサー)という作品を手掛けているホアン監督は、『エル・
マリアッチ』の当時からのロドリゲスの友人ということで、
『スパイキッズ3D』ではクリエイティヴ・コンサルタント
でクレジットされている。また原作者のオーレッドは、4月
6日の全米公開予定で製作中のロドリゲス+クェンティン・
タランティーノ監督による2本立て映画“Grindhouse”で、
ロドリゲス監督パートの“Planet Terror”に小道具のクリ
エーターとして参加しているそうだ。
 因に“Grindhouse”は、ロドリゲス監督のパートは撮影完
了で、現在はタランティーノ監督パートの“Death Proof”
が1月中の完了を目指して撮影中とされていた。
        *         *
 注目されている割りに、ブラジル以外は情報の少ない南米
からの話題で、アルゼンチン初のスーパーヒーロー映画と紹
介されている“Zenitram, un argentino que vuela”(英語
訳は、Zenitram, an Argentine Who Fliesとなるようだ)と
いう作品が、ルイス・バローネ監督により製作費460万ドル
で実現されることになった。
 この作品は、近未来の崩壊しかけた首都ブエノスアイレス
を舞台に、貧しい男が、新たなスーパーパワーを身に付ける
ため奮闘するというもので、ブラックコメディとも紹介され
ていた。原作は、元プロサッカー選手から作家に転身したと
いうジョアン・サスチュリアンの短編小説で、原作者自らが
監督と共に脚色している。
 出演は、主人公のZenitramをジョアン・ミヌジンが演じる
他、『アラモ』や『バッド・ボーイズ2』に出演のジョーデ
ィ・モラ、『トラフィック』に出演のスティーヴン・バウア
らが共演。製作にはスペインやブラジルの会社が参画し、上
記の製作費は、通常の同国の映画の3倍だそうだ。
 なお、ヨーロッパの配給権は、ディズニー関連のブエナ・
ヴィスタ・インターナショナルが契約していて、2008年の公
開が予定されている。日本も配給して欲しいものだ。
        *         *
 お次はフランスの話題で、同国で一昨年に35万部を売り切
ったとされるベストセラーで、英語題名を“Possibility of
an Island”という小説が、原作者のミシェル・ウーレベー
クの監督デビュー作として、4月撮影開始で映画化されるこ
とになった。
 この作品は、未来もので、男と彼のクローン巡るお話とし
か紹介記事にはなかったが、これだけの情報では、題名のよ
く似た一昨年夏の作品を思い出してしまうところだ。ただし
原作は文学賞も受賞しているということで、内容的には違っ
ているものなのだろう。
 製作は、フランス、ベルギー、スペイン、ドイツの共同で
行われ、製作費は600万ユーロ(800万ドル)。撮影は、ベル
ギーとスペインのヴァレンシア、それにカナリア諸島などで
8週間に渡って行われる。主演にはベノイト・マジメルの起
用が発表されている。
 なお、本作の中心製作会社となっているフランスのマンダ
リンでは、この他にジュリエット・ビノシェ主演のコメディ
で“Jet Set”、同じくビノシェ主演のスリラーで“Another
Kind of Silence”や、エリック・ベスナルドの脚本による
“The New Protocol”“Babylon AD”などの作品も手掛けて
おり、マシュー・カソヴィッツ監督による“Babylon AD”は
製作中とのことだ。
        *         *
 もう一つフランスからの情報で、クリストフ・ガンズ監督
が『サイレント・ヒル』の続編に意欲を見せている。
 これは監督自身が雑誌のインタヴューで述べたもので、そ
れによると監督は、「2006年度ホラー映画の興行でトップラ
ンクの1本となったことに幸せを感じている」とのことだ。
そして彼自身は、「もし続編を任せてもらえたら、第1作で
してしまったいくつかのミスを修正したい」としている。し
かし、「製作者たちは、第1作のヴィジュアルイメージを踏
襲したものにしたがっている」そうで、彼が考える「町の景
観から変えたい」という主張が入れられないのだそうだ。
 監督は、ハリウッド映画よりヨーロッパ的な作品を目指し
たい意向のようで、そのためには次に予定されている『鬼武
者』の映画化から変えていきたい気持ちのようだが、なかな
か製作者との折り合いが着かないようだ。ただし彼自身は、
“Silent Hill 2”に関しては離れるつもりはないとのこと
で、製作者に近い位置に留まったまま、いろいろな方向性を
探っていくことになるようだ。
 これだけの意欲を見せる監督の気持ちを、何とか叶えて欲
しいものだが…
        *         *
 続いては韓国(日本?)の話題で、『猟奇的な彼女』など
のクァク・ジェヨン監督が、日本のソフト配給会社アミュー
ズの資本で、日本の漫画を原作とする“Cyborg Girl”とい
う作品を日本語で撮ることが発表された。
 ところが、この原作についてはネット検索しても全く調べ
がつかなかったもので、生憎く年末の休みに入ってしまって
アミューズにも問い合わせができない状況だが、年明けには
多分ニュースも流れ始めると思われるので、最初の情報だけ
紹介しておくものだ。
 撮影は2カ月以内に開始されて、2007年後半の公開予定と
されている。
 韓国では、昨年にはポン・ジュノ監督の『グエムル』や、
東京国際映画祭で上映されたイ・ジェヨン監督の『多細胞少
女』など、実績のある監督によるSF/ファンタシー系の作
品が相次いで登場したが、今度もそういう流れでは嬉しいと
ころだ。
 因に、ジェヨン監督の新作で、シン・ミナ主演の『武林女
子大生』(My Mighty Princess)は、今回の情報では撮影完
了してポストプロダクションに入っているようだ。
        *         *
 製作ニュースはひとまず置いて、次はアカデミー賞関係の
話題で、1月23日のノミネーション発表に向けて、まずはV
FX部門の予備候補が報告された。
 それによると、候補の資格を得たのは、MGMの“Casino
Royale”、フォックスからは“Eragon”“A Night at the
Museum”“X-Mem The Last Stand”、それにディズニーから
“Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest”と、ワー
ナーの“Poseidon”“Superman Returns”ということだ。
 VFXの製作会社別では、ILMが単独で“Pirates”と
共同で“Poseidon”“Eragon”の3本を担当。ムーヴィング
・ピクチャー・カンパニーも共同で“X-Mem”“Poseidon”
と協力で“Casino”の3本。フレイムストアーCFCも共同
で“Museum”“Superman”“X-Mem”。さらにリズム&ヒュ
ーズが共同で“Museum”と協力で“Superman”、ウェタが共
同で“Eragon”“X-Mem”、またソニーイメージワークスが
“Superman”の中心会社となっている。
 老舗あり新興ありの会社別だが、実はこの予備候補の中に
“Charlotte's Web”と“Flags of Our Fathers”が入って
いないことが話題になっている。
 この2本はどちらもアメリカはパラマウントの配給だが、
“Charlotte”はティペットスタジオと、“Flags”はディジ
タル・ドメイン がVFXを担当したもので、特に“Flags”
の全てCGIによる米軍上陸のシーンは見事なものだった。
予備候補に入らなかった理由はよく判らないが、今回の発表
の中ではサプライズとされていたものだ。
 それから長編アニメーション部門では、今回も予備候補は
出ていないが、今年度は16本のエントリーがあったというこ
とで、最終候補は5本になるようだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 ロブ・ゾンビ監督で進められている“Halloween”のリメ
イクで、オリジナルではドナルド・プレザンスが演じていた
ドクター・ルーミス役を、マルコム・マクダウェルが演じる
ことが発表された。『if...もしも』や『時計じかけのオレ
ンジ』の怪演で知られるマクダウェルは、ゾンビ監督の最も
好きな俳優ということで、「彼のおかげでこの作品は新たな
古典となる」と期待を語っている。アメリカ公開はディメン
ションの配給で、8月31日に予定されている。
 ティム・バートン監督、ジム・キャリー主演で、製作費の
高騰のため頓挫していた“Ripley's Believe It or Not!”
について、新たに脚本家のスティーヴ・オーディカークが、
製作費圧縮のリライトを行うため契約したと、パラマウント
から発表された。オーディカークは、キャリー主演の『エー
ス・ベンチュラ』の続編で脚本・監督を手掛けた他、最近の
『ブルース・オールマイティ』とその続編の脚本も手掛ける
など、キャリーの長年の盟友として知られる人物だが、最高
1億5000万ドルにまで膨れ上がった製作費をどこまで削減で
きるか、手腕が注目されるところだ。撮影は2008年の冬期に
中国で開始し、2009年の公開が期待されている。
 最後に、長年の懸案となっていた“Indiana Jones 4”に
ついて、ジョージ・ルーカスが「2007年中の撮影と、2008年
の公開を目指す」と語ったことがAP通信で伝えられたよう
だ。そのインタヴューでは、すでに脚本は完成して、スティ
ーヴン・スピルバーグとハリスン・フォードもOKしたとい
うこと。内容的には「アクション主体の映画ではなく、もっ
と人物を描くものになっている」ということだが、「非常に
ファンタスティックなテーマの物語だ」とのことだ。元々こ
の計画では、スピルバーグとフォードは了承しても、ルーカ
スがなかなかOKしなかったもので、今回のルーカスの発言
は、本気で進めることになったものと期待できる。ようやく
インディ最後の冒険が見られることになりそうだ。
 では、今年もよろしくお願いします。なお1月10日の映画
紹介は、試写がまだ始まらないため掲載できません。他に何
か載せられると良いと思っていますが。


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井口健二