2006年12月29日(金) |
マリー・アントワネット、Life、ユメ十夜、神童、情痴、オール・ザ・キングスメン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『マリー・アントワネット』“Marie Antoinette” 『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポ ラ監督と、キルスティン・ダンストの主演で、『ベルサイユ のバラ』でお馴染みのフランス王妃を描いた作品。 オーストリア皇女アントワーヌは、フランスとの同盟強化を 狙う母親の意向により14歳でフランス王太子に嫁ぎベルサイ ユ宮へとやって来る。しかしそこに待ち構えていたのは、王 太子妃として万事が衆人監視の許に置かれる境遇。しかも、 15歳の夫は狩りなどの遊びに夢中で、ベッドに入っても身体 に触ろうともしない。 そんなストレスを解消するため、彼女は贅沢三昧の享楽的な 生活を繰り広げて行く。そして先王の崩御で、彼女は国王妃 となるが、その時の年齢18歳、載冠の時に夫の新国王自らが 「私たちは、統治するには若すぎます」と言ったという悲劇 が開幕する。 しかし、彼女はようやく子供にも恵まれ、取り巻きに囲まれ た生活からも脱却することが出来るのだが…そこにフェルゼ ン伯爵が現れる。 有名な「パンがないならお菓子を食べればいい」という台詞 には、「そんなことは、言ってはいない」という本人の発言 が加えられるが、そのお菓子の数々は映画の中に見事に再現 される。その他にも髪型や靴のコレクションなど、かなりの 拘わりで作られた作品だ。 また、2005年に生誕250年を迎えたアントワネットを記念し て、映画の撮影にはベルサイユ宮の略全域に亘って許可が下 り、結婚式の聖堂から、民衆に頭を下げたバルコニーまでの ほとんどのシーンが、実際に行われた場所で撮影されたとい うことだ。 究極のセレブと言われるマリー・アントワネットを現代に甦 らせるという計画だが、実は監督も主演も幼い頃から芸能界 に身を置いてきた経験の持ち主で、アントワネットの境遇に は共感して映画に臨んだというものだそうだ。 従って、主人公の苦しみの描き方などには、かなり現代に通 じるものが感じられるし、確かに、上記の台詞などで誤解さ れている面の多い王妃の姿を見直すには、絶好の映画製作体 制だったと言える。 華やかだけれど儚い、そんな王妃の姿はそれなりに現実的に 描かれていたように感じられた。
『Life』 多分現実を逃避して生きようとしている若者が、同窓会に向 かう1日を描いた作品。そこには過去の柵があり、その前に 立ち寄った場所でも別の柵を持った人物と出会ってしまう。 そしてその人物と一時的に行動を共にすることになるが… 主人公はいろいろな模様のロウソクを自作するキャンドルア ーティスト。地方都市の若い芸術家たちのグループに所属し て日々を暮らしている。身近には中国人の少女や、多少エキ セントリックな芸術家などもいて、それなりに充実した生活 のつもりのようだ。 そんな彼が、東京で開かれる高校の同窓会に出席するため上 京する。実はその前日、彼は知らない女性の声で待ち合わせ の時間を変えてくれという留守番電話を受け取り、少し早め に出発した彼は、その待ち合わせの場所を訪れるが… 現代の若者の生活が、かなり的確に捉えられている作品に見 える。主人公の雰囲気も良いし、特に、そこで起きる事件の 顛末が実に丁寧に描かれていて、それは気持ち良く見ること が出来る作品だった。 それに撮影はディジタルヴィデオで行われているようだが、 解像度は仕方ないとして、色の再現や、水族館などの照明を 使えない撮影場所でもヴィデオ撮影の特性が良く活かされた 作品になっていた。 芸術家たちのグループでの騒動や、中国人少女の存在、駅で の出来事や、難病に苦しむ友人や、不慮の事故、通り魔事件 など、何の脈絡もない出来事をこれだけうまくまとめられる 手腕は相当のもののように感じた。 同じような作品では、数年前に東京国際映画祭で上映された 『きょうの出来事』を思い出したが、何かピンと外れのよう な感じのした商業監督の作品より、本作の方が内容的にもし っかりしているし、纏まりも良いし、何よりずっと瑞々しく て良い感じがしたものだ。 監督・脚本はぴあフィルムフェスティバル・技術賞受賞者の 佐々木紳。 主演は『仮面ライダー555』などの綾野剛で、音楽も担当 している。同じく『555』の泉政行、村上幸平の他、岡本 奈月、今宿麻美、忍成修吾らが共演。
『ユメ十夜』 1906年に夏目漱石が発表した「こんな夢を見た」で始まる10 篇の短編集を、実相寺昭雄、市川崑、清水崇、清水厚、豊島 圭介、松尾スズキ、天野喜孝+河原真明、山下敦弘、西川美 和、山口雄大監督で映画化したオムニバス。 出演は、小泉今日子、うじきつよし、香椎由宇、石原良純、 藤岡弘、緒川たまき、松山ケンイチ、本上まなみ、戸田恵梨 香、石坂浩二。 この原作について、漱石本人が「余は吾文を以て百代の後に 伝えんと欲する野心家なり」と友人に書き送っているそうだ が、それを100年後の今年に映画化したものだ。 僕は原作は読んでいないが、一応原作に則ったお話にはなっ ているのかな? それなりに理路整然としたものもあるが、 かなり支離滅裂なものもあり、それぞれ面白かった。 基本的には、100年前の風景の中で展開するものが多いが、 中には平然と現代を取り入れている監督もいるし、CGI作 品もありで、その辺はまた監督の個性も良く反映されている 感じのものだ。 監督の個性ということでは、監督の名前と作品をランダムに 見せられても、多分その組み合わせは判ってしまうのではな いか、それくらいに各監督の個性が明瞭に発揮されている感 じがした。 個人的な好みでは、ホラー調の第三夜清水崇作品、怪物が登 場する第十夜山口作品辺りは話の纏まりも良いし、映画とし ても面白く感じられた。でも、第六夜の松尾作品のハイテン ションな凄さには、ちょっと唖然とさせられた。 松尾監督の作品は、『恋の門』と、オムニバス『フィーメイ ル』の1篇を見ているが、この映画を根本から破壊しようと するような勢いは、既成の監督にはかなり困難だろう。それ を平然とやってのけるところが松尾監督の凄さだ。 その他の監督も、それぞれの個性が豊かに作品を作り出して いる。実相寺のレトロ調や、市川の侍の描き方も、実にそれ ぞれの個性という感じがした。なお、第一夜の脚本は久世光 彦で、監督共々これが遺作となったものだ。
『神童』 1999年の手塚治虫文化賞及び文化庁メディア芸術祭マンガ部 門優秀賞を受賞した、さそうあきら原作の映画化。 神童と呼ばれる少女ピアニストを主人公に、神童であるが故 に、人々から注目される中で生きることの悩みや苦しさを描 いた作品。 喋るより前に譜面を読みピアノを弾いていたという13歳の少 女と、ピアノが好きというだけで音大ピアノ課を目指してい る19歳の青年との出会い。それは、周囲の期待が重荷になり かけていた少女に、再びピアノを弾くことの楽しさを呼び戻 すが… これに、彼女の父親の死の謎や、彼女自身の病や、巨匠との 出会いなどのエピソードを絡めて物語は進んで行く。 テレビでも音大を舞台にしたマンガ原作のドラマが放送され ていたが、本作の原作はそのクラシック漫画ブームの先駆け となった作品のようだ。その原作が、ブームの中で映画化さ れたものだ。 主演は、『ウォーターズ』の成海璃子と『DEATH NO TE』の松山ケンイチ。 ピアノ演奏がテーマの作品だけに、演奏シーンはふんだんに 登場する。そこで、成海は以前にピアノを習っていたことが あるようだが、松山は2カ月の特訓の成果ということだ。音 楽は、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ショパン、シュ ーベルト、モーツァルトなど8曲が演奏される。 と言っても、実際の演奏は当然吹き替えだが、その吹き替え の担当は、松山は、テレビドラマでも主人公を担当したとい う清塚信也。そして成海は、5歳でウィーンに渡りウィーン 国立音楽大学予備課に入学したという、まさに神童と呼べる 12歳の和久井冬麦が担当している。年齢も近いピアニストに よる吹き替えは、見事に違和感のないものだった。 また、清塚は大学の講師の役で出演している他、ピアニスト の三浦友理枝、指揮者の竹本泰三、オルガニストのモーガン ・フィッシャーら実際の演奏家が出演、演奏も聞かせ、テク ニックも見せてくれる。他には、手塚理美、吉田日出子、柄 本明らが共演。 脚本は、『リンダ、リンダ、リンダ』の向井康介。物語的に は、主人公の病気の状況が、今一つ判り難いなど多少問題を 感じたが、演奏シーンを中心に据えなければならない作品だ し、病気がメインテーマの話でもないから、これはこれでも 仕方ないところだろう。 ただし、これは技術的な問題だが、映画の中の声楽課学生の 歌唱シーンで、歌い出しのリップシンクが取れていないよう な気がした。歌い出しを合せるのが難しいことは判るが、音 に合せて映像をずらせば良いだけの、テクニック的な問題の ようにも思える。ちょっと気になったところだ。
『情痴』“Une Aventure” 短編やドキュメンタリー映画でカンヌやセザール賞を受賞し てきたグザヴィエ・ジャノリ監督が2005年に発表した長編第 2作。夢遊病の女性と、彼女に興味を持った男性の姿を描い たドラマ。 パリのとあるアパルトマンで恋人セシルと同棲生活を始めた ジュリアンは、深夜勤務から帰宅したある日、激しい雨の中 を、アパルトマンの玄関口に裸足でずぶ濡れになって佇む若 い女性の姿を認める。 彼女は、向かいのアパルトマンに住むガブリエルという名の 子持ちの女性だったが、翌日街で買い物中の彼女と目が合っ ても、憶えている様子もない。しかし再び深夜に遭遇したジ ュリアンは、思わず彼女の家まで後を付けてしまう。 そんな深夜の行動は全く憶えていないガブリエルだったが、 やがて2人は昼間に言葉を交わすようになり、ある日ガブリ エルは、ジュリアンをセシル共々自分の部屋に招く。そこに は彼女の恋人のルイも一緒だったが… 映画は、最初のシーンで重大事件の起きたことが示唆され、 そこからはセシルのナレーションによる倒叙形式で話は進ん で行く。その中で、ガブリエルとルイの関係や、どんどん深 みに填って行くジュリアンの行動が明らかにされて行くもの だ。 物語の中でジュリアンは映像を集めたヴィデオテークの技術 者という設定になっており、映画の初めの方では、F・W・ ムルナウの『ノスフェラトゥ』の夢遊病のシーンが挿入され たり、彼が参考として見る夢遊病の記録映像なども紹介され る。 ただし、プレス資料に寄せられていた精神科医の解説による と、描かれている症状は夢遊病よりも、むしろ解離性の人格 障害を示しているのだそうで、監督が意図したかどうかは別 として、その表現としては良く描かれているとのことだ。 実は原題の言葉のイメージと、本作がR−15指定になってい ることなどから、事前には興味本位の作品を予想していたの だが、映画は学術的とまでは言わないもののかなり真剣な物 語で、現代人の抱える不安やストレスを夢遊病に準えて見事 に描き出している。 その点では、現代人なら誰にでも当てはまる物語が描かれて いるものだ。 主演は、『8人の女たち』などのリュディヴィーヌ・サニエ とニコラ・デュヴォシェル。2人は共演後、一緒になったこ とでも話題になった。 また映画の巻頭には、実験映画監督のビル・モリソンによる “DECASIA”という実験映像作品の抜粋も挿入されていて、 これも興味深いものだった。
『オール・ザ・キングスメン』“All the King's Men” 1949年のアカデミー賞で、作品、主演男優、助演女優賞に輝 いたロベルト・ロッセン監督による日本未公開作品のリメイ ク。 1920年代のルイジアナ州で、政治の腐敗を訴えて民間から当 選し、民衆からの絶大な人気を誇ったヒューイ・P・ロング 州知事の実話を基に、3度のピュリッツァー賞に輝く詩人の ロバート・ベン・ウォーレンが1946年に発表した長編小説の 映画化。 主人公のウィリー・スタークは、田舎町の出納係だったが、 学校の校舎建築に係る不正を追求して職を追われる。しかし その校舎が手抜き工事で崩壊し、3人の子供が亡くなったこ とから注目を浴びるようになる。 そんな彼に、州知事選への出馬の働きかけがあり、理想主義 者の彼はそれに応諾するが、実はそれは別の思惑の絡むもの だった。ところがその事実を知った彼は、選挙の作法を無視 した民衆に直接語りかける作戦を展開、地滑り的な勝利を納 めてしまう。 こうして州のトップの座に付いたスタークだったが、議会に も味方のいない彼の政策は、ことごとく議会の反対に遭い、 それでも強権を発動し続ける彼に対して、ついに弾劾の動議 が出されるが… この物語が、彼の側近として行動した1人のジャーナリスト の目を通して語られて行く。 スタークの基本的な政策は、州の経済を支える電力会社と石 油会社の利益を民間に還元させること。実際この2社は、州 を流れる川の水力と、州の地下に埋蔵された資源を元手に稼 いでいるのだから、それは州の財産だと言うのはごく当たり 前の話に聞こえる。 しかしそこには、利権に絡んで腐敗し切った州の役人や政治 家たちが巣くっている。そんな彼らに鉄槌を下し続けるのだ から、こんなに胸の透く話はない。だから、彼のちょっとし た過ちが大きく取り沙汰されてしまうのも成り行きというと ころだ。 だがそれにも敢然と立ち向かって行くのだから、それも胸の 透く話だ。 今回のリメイクの企画は、クリントンの大統領選挙を率いた ことでも知られる政治コンサルタントのジェームズ・カーヴ ィルが長年温めてきた。彼は、「この企画の話をすると、誰 もが『今ほどピッタリな時代はない』と賛同してくれる。で もこの物語はいつの時代にも当てはまるものだ」と、映画製 作の意図を語っている。 確かに、ここに描かれる政治と金の話は、今の日本にも、い やいつの時代の日本の政治にも当てはまるものだ。つまり時 代と国を違えても、所詮は同じ政治の話ということだ。ただ し日本には、この主人公のように胸の透くような行動をする 理想主義者の政治家はいないということだけだろう。 主演は、ショーン・ペンとジュード・ロウ。ブッシュ政権の 批判を続けるペンには、まさに当たり役というところだ。ま たロウも、良い家柄に育ちながら彼の人柄に惚れ込み行動を 共にするジャーナリストを好演している。 他には、ケイト・ウィンスレット、ジェームズ・ガンドルフ ィーニ、マーク・ラファロ、パトリシア・クラークソン、そ してアンソニー・ホプキンス。 また、州知事のボディガード役で、1976年の『がんばれ!ベ アーズ』でテイタム・オニールに対抗する不良少年ケリーを 演じ、続編の2作にも主演したジャッキー・アール・ヘイリ ーが、ハリウッドを離れてから20年以上を経て再登場してい る。 * * 以上で、2006年度分の映画紹介を終わります。実はニュー・ シネマ・ワークショップの皆さんの作品と、東京国際映画祭 の「アジアの風」部門のまとめがまだ出来ていませんが、こ れらもできるできるだけ早く載せるように努力していますの で、今しばらくお待ちください。 ということで、今年の僕のベスト10は以下のようになりまし た。なお、対象は一応2006年中に公開された洋画作品で区切 っております。また、例年通りSFと一般映画とを分けて選 んでいますが、正直に言って、今年はピンと来る作品があま りなくて、選ぶのにかなり苦労しました。
一般映画 1.カジノ・ロワイヤル 2.トンマッコルへようこそ 3.カポーティ 4.ローズ・イン・タイドランド 5.POTCデッド・マンズ・チェスト 6.メルキダス・エストラーダの三度の埋葬 7.ナルニア国物語/ライオンと魔女 8.スーパーマン・リターンズ 9.クラッシュ 10.母たちの村
SF/ファンタシー映画 1.カジノ・ロワイヤル 2.トンマッコルへようこそ 3.ローズ・イン・タイドランド 4.POTCデッド・マンズ・チェスト 5.ナルニア国物語/ライオンと魔女 6.スーパーマン・リターンズ 7.サイレント・ヒル 8.天軍 9.サウンド・オブ・サンダー 10.ジャケット
2006年12月28日(木) |
墨攻、棚の隅、Starfish Hotel、長州ファイブ、パリジュテーム、天国は待ってくれる、蒼き狼 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『墨攻』“墨攻” サイトでは昨年12月1日付の第100回で紹介した日本製漫画 の映画化。 1995年度の第40回小学館漫画賞を受賞した森秀樹の長編漫画 を、香港の映画監督ジェイコブ・チャンの脚色、製作、監督 で映画化した作品。 サイトの紹介でも書いたように、この漫画には、その前に酒 見賢一による中島敦賞受賞の原作小説があるが、1990年代半 ばに漫画が香港などで翻訳出版され、それに目を留めたチャ ン監督が自ら映画化権を獲得して実現したというもので、従 って飽くまでも漫画原作の映画化になるようだ。 時は紀元前3世紀、中国の戦国時代。その時代に「兼愛(自 己の如く他人を愛せ)」と、「非攻」を訴えた墨家。その教 えは思想家の墨子によって始められたものだが、思想だけに 留まらず守りを中心とした兵法も編み出し、その行動は「墨 守」という言葉で現代に伝えられている。 そして本編の物語の舞台は、大国趙と燕の国境にある梁城。 梁王の下、住民約4000人が暮らす小国だが、10万の兵を率い て燕攻撃に向かう趙の将軍・巷淹中が、燕を攻める前に梁城 を落とそうと考えるのは必至だった。 正に多勢に無勢、そこで梁王は墨家に援軍の派遣を求める。 ところが現れたのは、革離と名乗る男一人だけ。しかし男は 「1カ月持ち堪えれば趙の軍勢は燕に向かわざるを得なくな る」と説き、圧倒的な軍勢から城を守るための秘策を編み出 して行く。 そして、実際に幾度もの趙軍の攻撃を退けて行くのだが…。 果たして城は守り切ることができるのか。 この革離を、香港のアンディ・ラウ、巷淹中を韓国のアン・ ソンギ、他に中国のファン・ビンビン、台湾のウー・チーロ ンらが出演、さらに日本からも、撮影監督の阪本善尚、音楽 の川井憲次、照明の大久保武志など、まさに汎東アジア的な 体制で製作されている。 実は、サイトで紹介した後で酒見の原作小説は読んだが、一 応、中国の戦国時代という現実の歴史にある時代背景ではあ るものの、物語の舞台は架空の城、魔法は出てこないが一種 のヒロイックファンタシーの感覚で楽しむことができたもの だった。 それが漫画では、さらに荒唐無稽なキャラクターなども登場 して、相当に奇想天外なファンタシーになっていたようだ。 しかし映画では、その荒唐無稽な部分はかなり削除され、あ る意味でかなり原作の小説に近い形のものになっている。 アクションもかなり現実的で、戦法なども納得できるものに なっていた。まあ、それが原作漫画のファンにどう取られる かは判らないが、原作小説の読者としては充分に満足できた ものだ。それに、映画の後半には酒見の別の小説から採られ たようなエピソードもあり、それも嬉しいものだった。 上映時間は2時間13分だが、その時間を全く飽きさせない見 事な作品になっている。
『棚の隅』 連城三紀彦原作を、大杉漣主演で映画化した作品。 主人公が経営するちょっと寂れかけた商店街のオモチャ屋。 その店にビジネススーツを着込んだ女性客が入ってくる。彼 女は棚のプラモデルの箱を手にし、半額に値引きされている 値札に見入っている。 その女性は、実は主人公の前の妻で、一人息子の母親でもあ る。しかし彼女は、子供がまだ赤ん坊の内に姿を消し、主人 公はその子供の世話のために来てくれた女性と再婚、子供は 実の母親と思って育っている。そんな主人公のもとに現れた 元妻の目的は…? 毎年監督の卵たちの作品を観せてもらっているニュー・シネ マ・ワークショップ(NCW)という映画学校の卒業生が、 商業用の長編を初監督した作品。上映は今年の発表会の一環 として行われたもので、上映後には、監督の門井肇、大杉を 含む出演者も交えたトークショウも開かれた。 そのトークショウによると、撮影は20日足らずで行われたも のだそうだ。上映時間も85分で比較的短い作品ではある。し かし、作品はそつなく丁寧にまとめられていた感じがした。 原作物でもあるし、脚本もしっかりしていた感じで、しかも 大杉クラスの主演がいれば、新人監督には最高のデビュー環 境と言うところだ。 物語的には、実に頭の良い登場人物たちばかりの話で、何事 にも実にスマートに対応してくれる。物語の進行上もほとん どトラブルも発生しない。トークショウでも、淡々とした日 常を切り取ったような作品と称していたが、でも、正直には これがちょっと物足りない。 僕は原作を知らないので、原作もこういう雰囲気なのかも知 れないが、登場人物たちが頭が良過ぎて、その結論に達する 道筋が少し唐突に感じられてしまうのだ。人間ならそこに何 かの葛藤や機微があるはずだが、それが描き切れていない感 じもした。 実際、世間がこんなに物分りの良い人ばかりだったら、争い 事など起こらなくて平和だろうという憧れは持つ。そんな理 想郷を描いた作品とも言えるかも知れない。でも、そこに少 し、隠し味程度でも何かが描かれたら、もっと満足できたか なと思ってしまう。そんなシーンを後10分ほど欲しかったと いうところだ。 とは言え、最近の日本映画はやたらと意味不明の作品が多く て困惑することが多いが、そんな中ではしっかりとした作品 を見せてもらい、その点では満足した。 公開は、2月に名古屋と高知で先行された後、東京は3月か ら下北沢で上映される。
『Starfish Hotel』 ケンブリッジ大学卒業、日本在住のイギリス人で、来日して から長編映画を撮り始めたというジョン・ウィリアムス監督 の第2作。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をモ ティーフに謎めいた世界が展開される。 主人公はあるミステリー作家の本を読み続けている。その作 家の本は毎作ベストセラーになるが、その出だしはいつも同 じで、女性が消えるところから始まるという。そしてその作 家の新作が発売された日、主人公の妻が行方不明となる。 主人公の苗字が有須で、怪しげなウサギのキグルミを着た男 が出没したり、ワンダーランドという名の秘密クラブがあっ たり、そこで穴に落ちたりと、『不思議の国のアリス』はも ろに利用されている感じだ。 ただし、物語の展開で重要なのはそれより、題名と同じ名前 のホテルの方。大正年間に立てられた会津の漆器店を借りて 撮影したというホテルの外観はなかなかのものだった。が、 さて、これが『アリス』とどう関係があったかというと、今 一つピンと来ないのが惜しい感じだ。 物語は、現実と主人公の夢の世界とが入り混じって展開され るもので、それがどこで区切られるかが曖昧にされている。 特に、ホテルの情景が夢か現実かは、物語を最後まで引っ張 って行く要素となる。 東京の町並と、雪に埋もれた東北の風景も、現実と夢の世界 が交錯しているようで、いいアクセントになっていた。さら に、何度か登場するミステリー作家の姿も、夢か現実か曖昧 にされており、その辺の展開は面白く感じられた。 とまあ、雰囲気は実に良く出ている映画なのだが、正直に言 ってしまえば結末がちょっと物足りない。と言うか、単純に は、最後に説明される夢と現実の種明かしが、ちょっと辻褄 を合わせ過ぎているのではないかと思えてしまったものだ。 多分、脚本も書いている監督が真面目で、これくらいの種明 かしをしなければ気が済まなかったのだろうけど、それで全 てが現実に曝け出されてしまうのが、折角そこまでに盛り上 げてきた雰囲気を削いでいるような気がした。 他にも解けていない謎は沢山残されているのだし、やるなら もっと全てを曖昧にしたままでも、ここまで映像的な雰囲気 を盛り上げてくれていれば、観客はそれだけで満足するので はないかとさえ思ったものだ。 この雰囲気はそう簡単に造り出せるものではない。その点で は、監督はもっと自信を持って良い。この雰囲気をまた味わ えるのなら、次も観てみたいと思った。
『長州ファイブ』 江戸末期の1863年。国禁を破ってイギリスに渡った長州藩士 5人。そのメンバーは、後の初代総理大臣・伊藤博文、後の 外務大臣・井上馨、日本鉄道の父・井上勝、工部大学(後の 東大工学部)を設立した山尾庸三、大阪造幣局を整備した遠 藤謹助。 尊皇攘夷の嵐が吹き荒れる中、いち早く海外に目を向け、ロ ンドンにその範を学びに行った5人の行状が描かれる。徳川 幕府が決めた国禁だから、まあ破られても仕方がないが、見 つかれば死罪ということには変わりがない。そんな危険を犯 して彼らは旅立った。 そしてロンドンで彼らが目の当りにしたものは…高く聳える セントポール寺院やイングランド銀行、テムズ川を行き交う 多数の蒸気船、陸には蒸気機関車の走る鉄道。とても日本が 勝てる訳がない。そんな思いを糧に、彼らは近代日本の礎と なるため勉学を始める。 しかし、半年後に馬関戦争が勃発して伊藤と井上馨は帰国。 さらに3年後には病に倒れた遠藤も帰国するが、井上勝と山 尾は5年半に亙って鉄道と造船技術を学びとる。 この山尾を松田龍平が演じて主人公となるが、滞在期間の後 半はグラスゴーに移って造船技術を基礎から学ぶ傍ら、工場 で働く聾唖者の姿から手話も学び、帰国後は、日本最初の聾 唖学校も創設したということだ。 江戸末期の、まだ明治になる前の話。国禁、死罪でなくたっ て、その旅が命がけだったことには変わりがないだろう。そ の勇気にはただ敬服するばかりだ。 とまあ、ここまでは良いのだが、ちょっと首と傾げたくなる のが、VFXのレヴェルのあまりの低さだ。物語は、巻頭で 御殿山のイギリス公使館焼き討ちが描かれるが、これほど酷 い火災のミニチュアワークは、昭和30年代のテレビドラマか と思うほどのものだった。 実はこの作品は、ハイビジョンで製作されているらしいのだ が、それに拘わりすぎてミニチュア撮影に不可欠のハイスピ ード撮影も行っていないようだ。ハイビジョンでもハイスピ ード撮影は可能なはずだが、それが機材費の関係で無理だっ たにしても、ここだけフィルムを使う位の才覚はなかったも のかというところだ。 もちろん、この映画はVFXを見せようという作品ではない が、せっかくの良い題材が、こんなことで足を引っ張られて はもったいないという感じがしたものだ。
『パリ、ジュテーム』“Paris Je T'aime” 今年のカンヌ映画祭「ある視点」部門のオープニングを飾っ た作品。全部で20区あるパリの各所を舞台に、元々の計画は 20本の短編を作ろうとしたようだが、完成公開されたのは、 11区、15区を除く18本というものだ。 全区が揃わなかったのはちょっと残念という感じはあるが、 それでも、グリンダ・チャーダからガス・ヴァン・サント、 コーエン兄弟、ウォルター・サレス、イサベル・コイシェ、 諏訪敦彦、アルフォンソ・キュアロン、ヴィンチェンゾ・ナ タリ、ウェス・クレイヴン、トム・ティクヴァと続く顔ぶれ は、正に現代の世界の映画を代表している感じだ。 しかも、それぞれは4分足らずという短編と言うより掌編に 近いものだが、各監督の真髄とも言える作品ばかりで、各監 督のベストとも言える映像が繰り広げられる。 お話は、寸劇のようなものからロマンティックなもの、ミュ ージカル、ホラー調、ファンタシーと千差万別だが、どの1 本をとっても面白い。思わずニヤリとするものや、ほっとす るものなど、さすが名うての監督たちの作品という感じだ。 また、出演者も、マリアンヌ・フェイスフル、ジーナ・ロー ランズ、ベン・ギャザラ、ニック・ノルティといった大ベテ ランから、スティーヴ・ブシェミ、ボブ・ホスキンズ、ウィ レム・デフォー、ルーカス・シーウェル、イライジャ・ウッ ド、さらにカタリーナ・サンディノ・モレナ、ジュリエット ・ビノシェ、リュディヴィーヌ・サニエ、マギー・ギレンホ ール、エミリー・モーティマー、ナタリー・ポートマンと、 正直に言って自分の好きな俳優ばかりが集まっている感じで 嬉しかった。 自分の好みから言うと、ビノシェとデフォーが出演している 諏訪監督の作品と、ノルティ、サニエ共演のキュアロン監督 作品が、特に気に入ったかなという感じだが、多分、趣味や 嗜好の違うどんな映画ファンが来ても、その好みに充分に応 えられる作品が揃っているものだ。 モンマルトル、エッフェル塔からカルチェラタン、ペール・ ラシェーズ墓地まで、パリの名所が登場するが、観光で見る それらの場所とはまたちょっと違った人間味のある世界が展 開される。それも素敵な感じがした。 誰か東京でも、こんな作品を作ってくれないかな。そうした ら、東京への愛着もまた少しは沸いてくるんじゃないかなと も思った。
『天国は待ってくれる』 NHK朝ドラ『ちゅらさん』やヒット作『いま、会いにゆき ます』の岡田惠和脚本による青春映画。 人気脚本家の処女出版小説を自ら脚色しての映画化となって いるが、小説は、ジャニーズV6の井ノ原快彦、岡本綾、元 EXILEの清木場俊介に充て書きで書いたというもので、その 通りの配役で映画化されている。 東京築地市場を舞台に、勉強の出来る男の子と、がき大将、 そしてマドンナ。幼い頃から一緒で、大人になっても決して 離れずこのままで居ようと誓い合った3人組が、適齢期にな って…という物語。 秀才の前で、がき大将がマドンナにプロポーズし、マドンナ は戸惑いながらそれを受け入れる。そして秀才はそれを優し く見守ろうとするのだが、結婚式の当日、がき大将は交通事 故に逢い眠ったままになってしまう。 そして3年、秀才とマドンナは、幼い頃の誓いの通り、目覚 めることのないがき大将の病室を毎日見舞っている。そんな 2人に周囲は一緒になることを勧めるが。 正直に言って、シチュエーションは特別すぎるし、話に社会 性があるものでもなく、まあ僕みたいな捻くれ者が見れば、 毒にも薬にもならない作品というところだ。でもこういう作 品が受けているのだろうし、出演者の顔ぶれを見れば、かな りのヒットは望めそうだ。それはそれで映画界の話題を盛り 上げると言うことでは結構な作品だ。 3人以外の出演者は、石黒賢、戸田恵梨香、蟹江敬三、いし だあゆみ。また、歌手でもある主演の男優2人が、それぞれ 挿入歌と主題歌を作詞、作曲、歌唱している。 なお、3人が幼い頃の将来の夢を語り合うシーンで、1人が 一つの建物を指さしてあそこで働くと言い出す。その建物が 朝日新聞社。そのシーンの時代設定は1991年ということで、 設定上問題はないのだが、新聞社が今のマリオン別館のとこ ろから引っ越したのがつい昨日のように憶えていた自分とし ては、ああそうなのだと思うとちょっとショックだった。 因に、営業中の築地市場と、朝日新聞社々内が映画で現地ロ ケされたのは初めてのことだそうだ。後は、銀座四丁目の鳩 居堂でも現地ロケされているが、この3点が三角形をなすと 言うのがちょっとピンと来なかった。市場が広いから、どこ かを取るとそうなのかも知れないが。
『蒼き狼/地果て海尽きるまで』 森村誠一原作の映画化で、モンゴル建国800年記念と銘打た れた作品。 モンゴル族を中心として、12世紀に史上最大の帝国を作り上 げたテムジンによるモンゴル統一までを描いた物語。モンゴ ル統一によりテムジンはチンギス・ハーンとなる。 モンゴルでオール現地ロケされた作品で、その雄大な風景は それを見るだけでも満足と言える。出演者は、反町隆史、菊 川怜、若村真由美、袴田吉彦、松山ケンイチ、津川雅彦、松 方弘樹。それに韓国の新進女優のAra。 テムジンはモンゴル部族の族長の長男として生まれるが、実 は母親はその少し前に略奪されてきたもので、彼が実の息子 であるかどうかは分からない。しかし族長は、長男として育 て上げて行く。 実際、当時のモンゴルは部族間の抗争が絶えず。略奪婚も当 然だったようだ。ところが、その族長が別の部族に殺され、 部族の連中は、実子かどうか分からないテムジンが族長を継 ぐことを嫌い、彼の家族を残して移動してしまう。 このため残されたテムジンは少人数だけで、略奪や抗争の続 く中を、家族を守って生きて行かなけばならなくなる。とい うことで、彼の心の中には、万人を別け隔てしない考えが目 覚め、その彼の考えに賛同する人々が彼の元に集まってくる ようになる。 これがモンゴル帝国実現の根源だったようだが、実際にモン ゴル帝国では、宗教や各民族の伝統もそれぞれに重んじられ ていたと言うから、この時代に多宗教・多民族の国家が作ら れていたというのは驚くべきことだ。 紀元12世紀のこの時代、ヨーロッパでは第3次第4次の十字 軍遠征が行われてキリスト教とイスラム教の対立が深まって いた訳で、この対立が今も続いていることを考えると、テム ジンの考えの偉大さは、一層強く感じられるところだ。 そんな雄大な物語が、今も残る現地モンゴルの大自然を背景 に描かれる。 とまあ、物語は良いのだが、普段から洋画を見慣れている者 の立場で観ると、日本人以外の人々を描いた作品に日本語の 台詞というのがどうも馴染めない。洋画でも吹き替えはある からそういうものだと割り切れればいいのだが、「父上」と か「御前に」とか言うような大仰な台詞が生で聞こえてくる と、違和感を拭えなかった。 建国800年記念映画ということで、2万7000人のエキストラ が動員され、1億円の経費が掛けられたという即位式のシー ンなどは、現在のモンゴル映画界では実現できなかったもの かも知れないが、出来ることなら全編に亘ってモンゴルの俳 優を使った撮影も平行して行って欲しかったものだ。 以前のハリウッド映画では、英語での撮影に並行して、同じ セット、同じ衣装を使ったスペイン人俳優によるスペイン語 ヴァージョンが作られていたものだが、モンゴル国内向けに それはしなかったのだろうか。あったらそれも見てみたいも のだ。
2006年12月20日(水) |
デジャ・ヴ、エンマ、孔雀、ピンチクリフ・グランプリ、フランシスコの2人の息子、モーツァルトとクジラ、輝く夜明けに向かって |
『デジャ・ヴ』“Deja Vu” 『パイレーツ・オブ・カリビアン』の製作者ジェリー・ブラ ッカイマー、『トップ・ガン』の監督トニー・スコット、そ して主演はアカデミー賞を主演助演で各1回受賞のデンゼル ・ワシントンという最高の布陣で挑むミステリー。 ハリケーン・カテリーナの傷跡からようやく復興が始まった ミシシッピー川下流の大都市ニューオリンズ。そこで、毎年 2月末日に行われる全米最大のカーニバル・マルディグラは 今年も盛大に行われようとしていた。 ところが、そのパレードに向かう乗客を満載したフェリー船 が爆発炎上し、死者500人を超える惨事となる。その捜査に 向かったATFの捜査官ダグ・カーリンは、直ちに爆発物の 証拠を収集し、テロ事件として捜査が開始される。 その捜査の機敏さに目を付けたFBIの特別捜査班が彼に協 力を求める。彼が案内されたのは、「タイム・ウィンドウ」 と呼ばれるモニター装置の前。そこには、7個のスパイ衛星 が感知した情報に基づく地上各地の映像が自在の視点から写 し出されるという。 しかし情報処理に時間が掛かり、見られるのは4日と6時間 前の映像で、しかもリピートはできない。そこで、現場の重 要ポイントをいち早く判断できるカーリンに協力が求められ たのだ。 一方、その前にカーリンは、事件の鍵を握ると思われる若い 女性の遺体を発見しており、直ちに彼は「タイム・ウィンド ウ」でその女性の家を写し出すように指示する。そこには、 4日前の元気な女性の姿が写し出されるが… 脚本は、『POTC』のテリー・ロッシオと新人のビル・マ ーシリィが手掛けているが、実はマーシリィは、脚本家の卵 が集まるウェブのチャットルームでロッシオに見いだされた ということで、以来4年掛けてこの脚本を仕上げている。 デジャ・ヴがパラレルワールドの記憶という説は、ジャック ・フィニーの“Time After Time”などでも採用されている が、本作はそのアイデアを見事に完成させたものだ。実際、 完成までに4年を要したという脚本は、かなり周到に構築さ れている。 しかもその結末には、SFファンとしては思わずやられたと 唸ってしまった。これはある意味、ハリウッド版『イルマー レ』の裏返しなのだが、これこそが正しい結論と言えるもの だ。その上、そこに持って行く演出の上手さが、それを際立 たせている。 前半のフェリーの爆発炎上シーンなどのVFXの見事さや、 「タイム・ウィンドウ」の映像の巧みさが映画を盛り上げて いる。そういった意味で、見所満載の作品と言えるものだ。 ただし、あまりに男っぽい話で、サーヴィスカットのような シーンを除いては、ほとんど色気も何もない。しかも、緻密 に構築された物語は、理科系のSF作家の作品の感じで、そ の点では、一般の映画ファンには多少物足りない面もあるか も知れない。 でも、SFファンとしては、今時こんなSF作品に出会える とは…という感じで、本当に嬉しくなる作品だった。 なお、1回の鑑賞だけでは前半に振られているはずの伏線が チャンとは確認できておらず、そのためもう一度見たいと思 っている。それが確認できたら、再度書くつもりだ。
『エンマ』 書籍取次会社の日本書籍販売(日販)が製作したヴィデオ作 品。 日販製作のヴィデオ作品は、すでに何本か見せてもらってい るが、正直に言って今まではあまり気に入った作品の無いの が現状だった。そんな中で今回の作品は、取り敢えず悪くは ないと感じたものだ。 物語は渋谷の雑踏で始まる。その中に透明な液体と共に落と されたハンカチ。そして主人公の若者は失神し、目覚めると 病院のベッドに寝かされていた。同じ部屋には、老若男女が 全部で6人、皆、直近の記憶を失っている。しかも病室には 鍵が掛けられている。 しかし、監視カメラらしきものがあるものの、医者が出入り している様子はない。そんな状況の中で、刑事を自称する中 年の男が皆を尋問し始める。ところが、突然一人が苦しみだ して死亡。そして徐々に記憶が甦り始めるが… 物語は、9月に紹介した『アンノウン』に似た感じだが、本 作の製作はいつごろのものか。プレス資料にはその辺のイン フォメーションは紹介されていなかったが、時間的にヒント を得たということはなさそうだ。 ただし、『ソウ』以降のソリッドシチュエーションスリラー の流れを汲む作品であることは間違いない。一方、ビニール 袋に入った透明の液体にはオウムのサリンを連想させるとこ ろがあり、その辺の無気味さは当時を知るものにはかなりの インパクトだった。 とは言うものの、物語全体のテーマが今一つ見えてこない。 題名からして、多分エンマ大王による裁きが行われているの だと思われるが、これによって犯罪者に地獄の苦しみが与え られるものでもなく、ただ恐らく後悔の念は生まれるかも知 れないが、それもあまり明確なものではない。 脚本は、『シムソンズ』などを手掛けた大野敏哉、監督は、 『富豪刑事』などの長江俊和ということで、判って作ってい るものだと思いたいところだが、正直に言って、本作の狙い がサスペンスなのか、ホラーなのか明確でない感じだ。 それがサスペンスなら、話はぐちゃぐちゃでも構わないのだ が、ホラーを狙うのなら、もう少し話をはっきりさせた方が 良い。 結局ホラーというのは、物語の中では理路整然としてるから 恐怖を生み出すもので、そこが曖昧だと恐怖感には繋がらな い。何でもありでは、恐さも何もなくなってしまう。その辺 が日本の映画人には理解できていないことが多いようだ。
『孔雀』“孔雀” 文化大革命後の中国地方都市を舞台にした3人兄弟の物語。 長男と長女と次男の3人兄弟。長男は幼い頃の病で精神傷害 を負っており、両親はその長男に掛かり切りになっている。 そのため長女も次男も両親には不満を持っており、特に長女 には奇矯な行動が目立っている。 そんな長女が、落下傘部隊の降下訓練に遭遇し、1人の兵士 を好きになる。そして彼女は落下傘部隊に志願するのだが… 結局、夢破れた長女はその後もいろいろな男に手しては、失 敗を繰り返して行く。 一方、長男は、頭の弱いことでチンピラたちの餌食にされて いるが、それを意に介することもない。そして街で見かけた 美女に心引かれたりもするのだが…やがて一つの恋に巡り会 うことになる。 そして次男は、真面目に学校に行き成績も優秀だったが、兄 の存在が負担となり、やがて街を出て行くことになる。 12年続いた文革が何の意味も残さず終りを告げ、人民に自由 が戻ってきたとき、人々はその自由の使い方を忘れていた、 という物語が展開するものだ。 物語の背景のことは、日本人である僕には正確には理解でき ないが、ここに描かれているのは、そんな背景を超越した家 族の物語であり、長男の立場は別としても、長女と次男の心 情は、生活習慣の違いや国家体制の違いを越えて理解できる 気がした。 そしてその一家の暮らしぶりが、チャン・イーモウ監督や、 チェン・カイコー監督作品で撮影を担当してきたクー・チャ ンウェイの初監督作品として見事に描き出される。 時代背景は1977年から数年間ということになるが、日本人の 目で見ると昭和30年代のような、そんな懐かしさも感じられ る。もちろん異国の物語ではあるけれど、描かれる人間の心 の物語は、時代を超えて万国共通のものだ。 長女を演じるチャン・チンチューには、ポスト・チャン・ツ ィイーの呼び声もあるようだが、ちょっとはにかんで見せる 仕種などには『初恋の来た道』のツィイーを思い出した。 なお、前半の降下訓練のシーンで、先に降りてきた女性兵士 がツィイーに極めて似ている感じがしたが、カメオの可能性 はあるのだろうか。ウェブのデータベースでは判らなかった が、製作者のドン・ピンは、ツィイー主演の『グリーン・デ ィスティニー』や『ジャスミンの花開く』の製作も手掛けて いるものだ。
『ピンチクリフ・グランプリ』“Flaklypa-Grand Prix” 1975年に製作され、77年のモスクワ映画祭で児童映画部門の グランプリと最優秀アニメーション作品賞を受賞。日本では 78年に一度公開された作品の再公開。 主人公は山の上に店を構える自転車修理屋。助手は楽天家で 行動力のあるカササギと、何事にも慎重なハリネズミ。 ある日、彼らは新聞で以前に主人公の弟子だった男が、最新 の技術を使って自動車レースに勝ち続けていることを知る。 しかしその技術は、実は主人公の許から盗んで行ったものだ ったのだ。そこで主人公は、昔作り掛けたレースカーを完成 させ、盗まれた技術の名誉回復のため、自動車レースに参戦 して元弟子と闘うことを決意するのだが… 人形アニメーションという触れ込みだが、いわゆるコマ取り のシーンもある一方で、ラジコンやワイアーで遠隔操演され たものもあるなど、いろいろな技術が集大成されている。そ の辺は今見ると判りやすいが、30年前によくそこまで思いつ いたと感心するものだ。特にワイアーによる操演技術に関し ては、ノルウェーで特許も取られているようだ。 内容は、前半の牧歌的な展開から、後半は白熱のレースシー ンということで、その構成もよく考えられている。実際、今 見てもそれほど古臭さは感じられなかった。まあ、いい意味 のレトロなムードで充分に楽しめる作品ということだ。 実は、映画を製作したのは元家具職人ということで、その職 人芸というか、ディテールへのこだわりは見ていて楽しくな るものだ。ジオラマ映画とでも呼びたくなる程の見事な風景 も展開する。 またカササギ(実はアヒルとのハーフという設定だそうだ) や、ハリネズミなどの脇役の描き方も丁寧だし、さらに夢を 実現するためのいろいろな画策や、一方、敵による妨害工作 なども破綻なく描かれている。 もちろん児童映画の範疇の作品ではあるが、大人の鑑賞にも 充分に耐えられる。こういう手抜きのない製作態度は、ぜひ 今の人たちにも感じ取ってもらいたいものだ。 なお今回の再公開では、78年当時に制作された日本語吹替え 版もディジタルリマスターで再登場するが、その声優陣は、 八奈見乗児、野沢雅子、滝口順平、富田耕生、大平透、大塚 周夫、中西妙子、原田一夫、富山敬、横沢啓子。声優ファン にはそれも話題になりそうだ。
『フランシスコの2人の息子』“2 Filhos de Francisco” 2005年のブラジル年間ヒットチャートでベスト10に3曲も送 り込んだという兄弟デュオ、ゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアー ノの成功に至るまでの半生を描いた作品。 ゼゼことミロズマルは、ブラジルの農村地帯ゴイアス州で小 作農の長男として生まれる。父親のフランシスコは無類の音 楽好きで、すぐに第2子を産んで兄弟デュオとして売り出す ことを夢見る。しかし子供は次々に産まれ、聖歌隊も出来そ うな7人兄弟となる。 そしてフランシスコは、少し大きくなった長男に、最初はハ ーモニカ、次には無けなしの財産を叩いてアコーディオンを 買い与え、さらに次男にはギターを持たせて、プロの音楽家 を目指すように環境を整える。 ところが、一家は地代を払わなかったために家を追われるこ とになる。そして州都の都会にやって来た一家は、ぼろ屋に 住んで最低限の生活を始めるが、三男がポリオに罹るなども あって、父親が工事現場で働く賃金では食べることもできな くなる。 そこで、長男は次男と共にバスターミナルで歌い金を稼ぐよ うになるが…。そこにちょっと怪しげなプロモーターが現れ たり、悲劇に見舞われたり、録音してもレコードにならなか ったり、自分の曲を他人が歌ってヒットさせたりと、失意の 日々が続いて行く。 と、何だかんだと言っても最終的には人気歌手になるのだか ら、苦労はしただろうけど、結局は自慢話に見えてしまう。 ブラジルでは、『シティ・オブ・ゴッド』を越える大ヒット だそうだが、それも歌手の人気の反映だから、作品の評価と は違うものだ。 でもまあ、音楽映画というのは、その音楽が気に入ればそれ だけでも楽しめてしまうもので、この作品の場合はセルタネ ージョと呼ばれるブラジル版カントリーという感じの音楽だ が、ちょっと哀愁のある曲調は心地よいものだった。 それに、映画の前半で兄弟の役を演じる子役2人が次々に歌 う歌声にも聞き惚れてしまった。また、歌詞が丁寧に字幕に なっているので、その分、主人公たちの心情も判りやすく良 い感じだった。 8月に紹介した『Oiビシクレッタ』でも、一家の次男が歌 って稼ぐシーンがあったが、音楽好きのブラジル人は結構簡 単にお金を払ってくれるようだ。でもプロとしてヒット曲を 出すのは、沢山いるそういった少年たちに中の一握りなのだ ろうし、そんな厳しさも、それなりに描かれていたようだ。 ブラジルの音楽シーンなどまるで知らないから、そういう興 味で見ることは出来ないが、劇中の音楽は心地よく、その意 味では気持ち良く楽しめる作品だった。
『モーツァルトとクジラ』“Mozart & the Whale” アスペルガー症候群と呼ばれる知的障害を伴わない自閉症を 描いた実話に基づく作品。 主人公は、数字を見るといろいろ計算をしなければ気が済ま なくなる性分。その計算は天才的に素早いものだが、周囲か らは疎ましいものと取られ、結局、彼自身が世間との接触を 保てない自閉症となってしまう。 しかし、その点を除けば、彼自身は大学を優秀な成績で卒業 した学歴の持ち主で、そんな彼は、知的障害を持つ人も含め た自閉症の患者を集めたサポートグループを独力で立上げて いる。そしてそのグループに、やはりアスペルガー症候群の 一人の女性が現れたことから、彼の人生に転機が訪れる。 物語は実話に基づいているが、その実在の人物は自分が病気 だとは判らず、ある日、主治医から『レインマン』を見るよ うに言われて、初めて自分の病気を知ったということだ。そ して今回は、その彼の人生を、『レインマン』でオスカーを 受賞した脚本家のロン・バスが物語に仕立てたものだ。 彼自身は頭の中で計算を繰り返しているだけだから、僕らの 素人考えでは世間との折り合いもさほど難しくないように思 える。しかし実際は、世間の無理解が彼の症状を助長し、彼 を世間から締め出してしまっている。 そんな彼と世間との関係が、彼と同じ症状の女性との関係の 中で巧みに描かれて行く。映画は2人の関係を中心に描いて いるが、各局面ではお互いの相手が世間を代表している感じ で、世間の無理解ぶりが見事に描き出されているものだ。 ただし描かれているのは、ちょっと問題のある男女の恋愛物 語という感じで、多少並外れたところはあるが、ほとんどは 普通の人間でも思い当たるようなものばかりだ。従って、映 画自体は何も構えることなく観ることができるものだ。しか し、どうしても構えて観ざるを得ないのが辛いところだ。 主演は、『ラッキーナンバー7』も同時期に公開されるジョ シュ・ハートネットと、『サイレントヒル』などのラダ・ミ ッチェル。監督は、ノルウェー人のピーター・ネスが手掛け ている。
『輝く夜明けに向かって』“Catch a Fire” 1980年代の南アフリカを舞台に、アパルトヘイトに対抗する ANC(アフリカ民族会議)による自由の戦士となったパト リック・チャムーソの実話に基づく物語。 南アフリカ最大の製油所セクンダ。そこで監督の地位にある チャムーソは、2人の娘と美しい妻に囲まれ、少年サッカー チームを指導するなど充実した暮らしを楽しんでいた。 しかしある日、彼は友人の結婚式からの帰途で警察の検問に 遭い、近くの鉄道で起きたANCのテロの犯人と疑われて暴 行を受ける。その場は真犯人が捕えられて開放されるが、こ の時、今までは「ラジオ・フリーダム」を聞くこともなかっ た彼の心に何かが芽生える。 そして、彼の少年サッカーチームが大会で優勝した夜、彼が ある女性の家を訪ねていたときに製油所で爆破テロが発生す る。ところがアリバイを明かせない彼は、テロリストとして 公安部隊の拷問による取り調べを受けることになる。 それでも結局、濡れ衣は晴れるのだが、その間の公安部隊の 悪辣な行為は、彼をANCの自由の戦士へと導いて行く。 物語は、デレク・ルーク扮する黒人の主人公と、ティム・ロ ビンスが演じる白人の公安部隊の大佐を対比して描いて行く が、結局のところは、アパルトヘイトの上に踏ん反り返って いた白人が、自らテロリストを造り出していたという現実が 明白にされているものだ。 つまりこれは、アメリカとイスラエルが、現在アラブ諸国で やっていることと同じようにも見える。 もちろんテロはテロであって、映画の中では人命を傷つけな いようにするなどと言い訳はされるが、許されることではな い。しかしこの映画は、そのことを踏まえた上で、その根源 がどちらにあるかを訴えている。 なお、脚本は映画にも登場するANCの幹部だったジョー・ スロヴォの息子で、『ワールド・アパート』や『コレリ大尉 のマンドリン』などのショーン・スロヴォ。彼の姉のロビン が、アンソニー・ミンゲラら共に製作を担当している。 製作総指揮はシドニー・ポラック、監督は、オーストラリア 人で、『パトリオット・ゲーム』や『裸足の1500マイル』な どのフィリップ・ノイス。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 年内の最終回となる今回は、今度も絢爛豪華となるか…? というこの話題から。 紀元前1世紀のエジプトの女王クレオパトラの生涯を描く 計画が、ソニー傘下のコロムビアから発表されている。この 計画は、ピュリッツァー賞受賞者の伝記作家ステイシー・ス チフが公表した10ページの概要に対して、同社がその権利を 獲得したもので、映画化は製作者のスコット・ルーディンに よって進められる。 クレオパトラの映画化というと、何と言っても1963年製作 のエリザベス・テイラー主演作が、ハリウッド映画史上最も 巨額の製作費の投じられた作品として有名だが、実は原作者 の執筆の意図は、映画によって形成された虚飾と欲望に満ち た女王のイメージを払拭し、真実の女王の姿を描きたいとし ているものだ。 つまり執政者として、また軍事的な戦略家としての女王の 姿が中心に描かれるようだが、その一方で、権力を握るため 2人の兄弟と結婚し、互いに殺し合わせたという非情さや、 ローマからやってきたジュリアス・シーザー、マーク・アン トニーとのロマンスなども描かれるということだ。因に、原 作の出版権はリトルブラウン社が7桁($)の契約金で獲得 しているものだが、その出版は2009年に予定されている。 従って、映画化はそれ以降になるが、その時には、21世紀 のクレオパトラを誰が演じるかも話題になりそうだ。 なお製作者のルーディンは、本来はディズニー/ミラマッ クスと優先契約を結んでいるが、この計画は、第116回で紹 介したナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、 エリック・バナの共演で、現在撮影中の“The Other Boleyn Girl”に続いてコロムビアでの製作となっている。 * * ベストセラー作家のジョン・グリシャムが今年10月に発表 したノンフィクション作品“The Innocent Man: Murder and Injustice in a Small Town”の映画化権について、ジョー ジ・クルーニー主宰のスモーク・ハウスとワーナー傘下のイ ンディペンデント・ピクチャーズ(WIP)が交渉を進めて いることが公表された。 この作品は、オクラホマ州で、殺人事件と思い込んだ男の 信憑性に乏しい目撃証言だけで、本人否認のまま11年間も殺 人罪の死刑囚として収監されたロン・ウィリアムスンという 男性の冤罪事件を扱ったもので、グリシャムお得意の法廷劇 が描かれているようだ。 因に、グリシャム作品の映画化では、『ザ・ファーム』の 大ヒットの後に権利料が暴騰し、2003年にゲイリー・フレダ ー監督、ジョン・キューザック主演で映画化された『ニュー オーリンズ・トライアル』では、800万ドルの史上最高額が 記録された。しかしこの頃から、映画各社はあまりに多額と なった権利料を見直し、その後のグリシャム作品で大手映画 会社絡みで実現したのは、2004年のジョー・ロス監督による リヴォルーション作品“Christmas with the Kranks”だけ ということだ。従って、今回のWIPの交渉が成立すると、 それ以来の大手が絡む作品となるものだ。 一方、グリシャム自身も、その頃から権利料の額より映画 製作そのものに関心を持ち始めていたということで、実は、 『ニューオーリンズ…』の製作では、当初に予定されていた ウィル・スミス主演、マイク・ニューウェル監督を変更させ たことで話題にもなっている。また、ヒュー・ウィルスン監 督で映画化された“Mickey”という作品は、グリシャムが製 作費を出資し、大手会社を介さずに公開されたそうだ。 つまり、グリシャムの意向としては、自分の作品を映画化 する製作者とは近しい関係でいたいというのがあるようで、 このため今回の交渉でも、原作者とクルーニーとの話し合い が最初に行われ、クルーニーが『グッドナイト&グッドラッ ク』でアカデミー賞監督賞の候補になったことなどが、原作 者の関心を呼んでいたとされている。ということは、映画化 はクルーニーの出演よりも監督作として進められることにな りそうだ。 なお、クルーニーとWIPでは、これより前にジェームズ ・エルロイ原作の“White Jazz”の映画化の計画を発表して おり、『ナーク』のジョー・カーナハン監督によるこの作品 は、2008年初旬の撮影が計画されている。従って今回の交渉 が成立しても、製作はその後になるようだ。 * * 次もジョー・カーナハン監督の話題で、2003年の第49回で 1度紹介している1965年のオットー・プレミンジャー監督作 品“Bunny Lake Is Missing”(バニーレイクは行方不明) のリメイク計画に、カーナハンの起用が発表された。 この計画については、以前に紹介したようにリーズ・ウィ ザースプーン主宰のタイプAから、彼女の主演作として発表 されているものだが、当時フォックスの社長を辞任したばか りの製作者マーク・ゴードンが、独立後の最初の作品として 進めることも報告されていた。そしてその後は、2000年公開 の『クイルズ』などを手掛けたピュリッツァー賞受賞劇作家 ダグ・ライトが脚色を担当するなどして準備が進められてい たものだ。 物語は、1957年に発表されたイヴリン・パイパーの原作に 基づくもので、若い女性が、娘が行方不明になったと警察に 訴えるが、彼女に娘がいた形跡はなく、やがて彼女の証言も 怪しくなり始めて…というもの。同性愛者の登場人物なども 現れて、当時としては先進的な作品だったとされている。 そして現状は、ライトがカーナハンの意向に沿って自らの 脚本をリライト中とのことで、監督は“White Jazz”の前の 撮影を希望しているようだ。製作は、スパイグラスとコロム ビアの共同で進められている。 なおカーナハンは、トム・クルーズによって『M:I3』 に大抜擢された後に降板するなどで話題になったが、最近で は“Smokin' Ace”という作品の撮影を完了したばかりで、 さらに製作者のゴードンとは、マーク・ボーデン原作のノン フィクション“Killing Pablo”という作品の準備も進めて いるそうだ。 * * 昨年の第96回で紹介したMGMからコロムビアへの移管企 画“21”に、2月撮影開始の予定が発表された。 この作品は、マサチューセッツ工科大の学生がコンピュー タを駆使してラスヴェガスのカジノに挑み、数100万ドルを 荒稼ぎしたという2002年発表のノンフィクション“Bringing Down the House: The Inside Story of Six MIT Students Who Took Vegas for Millions”の映画化で、大本はMGM でブラット・ラトナー監督で進められていたが、監督が繁忙 になったために頓挫、権利がコロムビアに移管された。 その後、ケヴィン・スペイシーが映画化を希望して、彼の 主宰するトリガー・ストリートプロダクションで製作を進め てきたが、さすがのスペイシーも大学生の役とは行かず、そ の配役と監督が検討されていた。そしてその学生役にジム・ スタージェスと、監督にはロバート・ルケティックの起用が 発表されている。 因に、主演に起用されたスタージェスは、以前は“Mouth to Mouth”というインディーズの作品に出演歴があるだけと いうことだが、実は今年になってからジュリー・タイモア監 督の“Across the Universe”という作品にエヴァン・レイ チェル・ウッドの相手役で主演した他、“The Other Boleyn Girl”にも出演しているということで、正にブレイク中の 俳優のようだ。 脚本は、“Be Cool”のピーター・スタインフェルドと、 アラン・ロウブが担当。なおスペイシーは、学生たちを指導 する大学教授の役を演じる。 * * 第122回で紹介した『ヘルレイザー』のリメイク情報に続 いてまたまたホラー作家クライヴ・バーカーの話題で、今度 は19世紀のアメリカを代表する作家エドガー・アラン・ポー を題材にしたオリジナルの若年向けスリラー映画の計画を、 『ナルニア国物語』などのウォルデン・メディアで進めるこ とが発表された。 『モルグ街の殺人』などでアメリカの探偵小説の始祖とも 呼ばれるポーは、その一方で数多くの怪奇小説やいくつかの SF小説も残している。そのポーが亡くなったのは1849年の ことだが、映画の物語は、その最期の2週間に秘められた謎 を調べていた10代の若者のグループが、ポーの取り憑かれた 悪夢を呼び覚ましてしまい、その悪夢から脱出しなければな らなくなるというものだそうだ。 そしてバーカーは、この映画化でストーリーの執筆と製作 も務めることになっているものだが、バーカー自身は、「こ の作品で、ポーという人物を新たな観客たちに向けて甦らせ るチャンスを得た。彼の業績が再評価されることも期待して いる」と抱負を語っている。 なおバーカー作品の映画化では、第89回で紹介した短編集 “Books of Blood”を順次映画化する計画で、その第1作と なる“Midnaight Meat Train”の映画化が、北村龍平監督で 進められることが発表されている。この計画では、当初はク リーチャー・デザイナーのパトリック・タトポウロスの監督 が発表されていたが、彼が降板したためにその後を北村監督 が引き継いでいるものだ。 またこの計画では、ニューヨークの地下鉄網を舞台にした 連続殺人事件を追うカメラマンの主人公に、“The Wedding Crashers”や“Alias”、それにルネー・ゼルウィガー主演 のホラー作品“Case 39”にも出演しているブラッドレイ・ クーパーの出演も発表されている。 製作は、レイクショアとライオンズゲート。因に北村監督 は、記事では‘an Asian horror director’と紹介されてい たようだ。 * * DCコミックスの映画化で、新作“Pan's Labyrinth”の アメリカ公開が12月29日に迫っているギレルモ・デル=トロ の監督による“Deadman”の映画化の計画が、ワーナーから 発表された。 原作は、1967年10月号のStrange Adventures誌に初登場し たダークヒーローということだが、実はこの1967年という年 は、前年にDC社がキニー社の傘下に入り、さらに翌年には キニー社ごとワーナーの傘下となったという激動の時期で、 その渦中で誕生したニュー・ヒーローとなっている。 主人公は、元サーカスのブランコ乗りで、彼はそのサーカ スの20%のオーナーでもあったが、残りの部分のオーナーと の間で確執があり、ある日の演技中に銃弾を浴びて死んでし まう。こうして幽霊となった主人公だが、彼の思いを汲んだ 精霊の力によって現世に甦り、自分を殺した犯人を探し出す ために幾多の敵と闘うというもの。そしてその間に、無垢の 人々を助けるというお話になるものだ。 因に、死者の幽霊が活躍する作品はこれ以前にもいろいろ あるようだが、この作品はそれらの作品の要素を巧みに取り 入れているとも紹介されていた。またこの物語の中で、主人 公は人間以外の固形物に触ることはできないが、人間に触る とその身体に入り込んで行動することができる。しかも、彼 が離れた後の相手は何も記憶していないという能力があるそ うで、その能力を駆使した展開となるようだ。 なお今回の発表では、ゲイリー・ドーベルマンという新人 脚本家がデル=トロと一緒に脚本を執筆することも報告され ていたが、ドーベルマンは先に西部劇にゾンビが登場する脚 本を発表して注目されたそうだ。 ドリームワークスで製作が進んでいる“Transformers”の 映画化なども手掛けているドン・マーフィ主宰のアングリー ・フィルムスが製作を担当する。 * * 『ジョーズ』の流れを汲む久々の人食い鮫映画として話題 になった『オープン・ウォーター』を製作監督したクリス・ ケンティスとローラ・ラウのコンビが、ワーナーで計画され ている“Indianapolis”の映画化に参加することが発表され た。 この作品は、ダグラス・スタントンの“In Harm's Way” という原作に基づくものだが、第2次大戦末期のフィリピン 沖で、広島に投下される原爆を輸送する極秘任務の遂行中、 日本軍の潜水艦に撃沈された戦艦インディアナポリスの乗組 員たちの実話を描いている。彼らは艦が沈没した後の5日間 を鮫の泳ぐ海域で漂流したが、約900人いた乗員の内、生還 したのは317人だけだったということだ。つまり、前作で鮫 に襲われるのは2人だったが、今度はそれが約900人になる ものだ。 そしてこの計画は、すでに5年以上前からワーナーで検討 されていたものだが、その5年前にはバリー・レヴィンスン 監督、メル・ギブスン主演という話もあったとされている。 一方、ケンティスもこの実話については以前から興味を持っ ていたもので、実は『オープン・ウォーター』を製作したの は、“Indianapolis”の映画化への試金石だったとも発言し ているようだ。 こうして希望が叶い計画への参加が発表されたものだが、 物語は海洋でのサヴァイヴァルだけでなく、日本軍の接近を 知らせる警報を無視して惨禍を招いた艦長チャールズ・マク ヴェイへの責任追求(艦長の自殺によって幕を閉じたが、彼 はスケープゴートにされたという説もある)など、当時の米 海軍内の動きも描かれるということで、ケンティス監督の真 価も問われることになりそうだ。 映画化は、ラウと、アキヴァ・ゴールズマン、マーク・ゴ ードンらの製作で進められる。 一方、同じ題材では、ユニヴァーサルがJ・J・エイブラ ムス監督で進めているライヴァル計画もあるということで、 “Star Trek XI”の公開を2008年と発表したエイブラムスは かなり忙しそうだが、動き出すと早そうなエイブラムス相手 では、ケンティスもそれほど悠長には構えていられない状況 のようだ。 因に、製作費12万ドルの『オープン・ウォーター』は、全 世界で5870万ドルの配給収入を稼ぎ出しているそうだ。 * * “Spider-Man 3”で、本シリーズは卒業するはずのサム・ ライミ監督が、次のスーパーヒーローとして“The Shadow” の映画化をコロムビアで進めることが発表された。 このキャラクターの初登場は、1929年ストリート&スミス (S&S)社発行の雑誌に小説として紹介されたもののよう だが、翌1930年にS&S社提供のラジオ番組に登場、さらに 1931年からはS&S社で同名の小説シリーズが発行されて、 これが原典とされる。なお、月2回の雑誌形式で発表された 原作シリーズは1949年の終刊までに325編が出版されたとい うことだが、この内、282編は一人の作家の手で書かれたも のだそうだ。また、1960年代から70年代にはアップデートさ れた小説シリーズも出版されている。 さらにコミックス化もされており、1940−49年にS&S社 からコミックスシリーズが出版された他、1964−65年にアー チー・コミックス、また1973−75年にはDCからも出版があ るようだ。1941−42年には新聞の連載漫画にも登場したとの 記録もあった。 一方、CBSラジオで放送された連続ドラマは、当初はい ろいろな探偵が登場するアンソロジー番組の案内役というこ とだったようだが、1935年からはオースン・ウェルズが主人 公を務める本格的なドラマとなり、配役を変えながら1954年 まで約25年間も放送されたものだ。 さらに映像化では、1931−32年にユニヴァーサルでラジオ 番組の形式に則った短編シリーズが製作された他、1937年と 1938年にも映画化の記録があるようだ。そして、1940年にコ ロムビアで15パートの連続活劇が製作されている。この他、 連続活劇では1946年に3作製作され、さらに映画化は1958年 と、1994年にはラッセル・マルケイ監督、アレック・ボール ドウィン主演によるものが製作されている。 今から観ると見事なメディアミックスで活躍してきたキャ ラクターだが、オリジナルの設定は、インドで古代の神秘を 学んだ主人公が、全身の筋肉をコントロールする術や、相手 の心を迷わせる催眠術のような能力を駆使して犯罪者と闘っ て行くというもの。因にS&S社からは、第57回で紹介した “Doc Savage: The Man of Bronze”も出版されており、ど ちらもあまり荒唐無稽ではないが、ちょっとファンタスティ ックという感じが共通する物語のようだ。 という作品にライミが挑戦するものだが、脚色にはシアヴ ァッシュ・ファラハニという脚本家が契約している。一方、 ライミには、ストリート&スミス社の全キャラクターに関す る権利も獲得しているという情報もあり、一体どんな作品に なるか興味津々というところだ。 * * 後は短いニュースをまとめておこう。 まずは“Doc Savage”にも絡んでいたフランク・ダラボン の情報で、スティーヴン・キング原作の“The Mist”の脚色 と監督をディメンションで手掛けることが発表された。原作 は、深い霧に包まれる小さな町を舞台に、その霧の中から現 れる恐怖の怪物との闘いを描いた作品。最近リメイクされた ジョン・カーペンター監督の『ザ・フォッグ』とも比較もさ れるものだが、キングの捻りにダラボンの脚色が加われば、 かなり面白い作品になりそうだ。そしてこの映画化に、キン グ原作の『ドリームキャッチャー』などに出ているトーマス ・ジェーンの主演も発表されている。春に撮影開始の予定。 前回フランク・ミラーの発言を紹介した“Sin City 2”に 関して、アンジェリーナ・ジョリーからも出演に前向きの発 言が報告された。それによると、彼女はロドリゲス、ミラー と話し合いをしたということで、原作のコミックスも読んだ そうだ。そして、「まだ直ぐ映画化が始まる状況には思えな いけど、実現するとなったら真剣に考える。このセクシーで 暴力的で派手なキャラクターは、出産を経験した後に演じる にはちょうど良いと思う」ということだ。結局、映画の実現 はまだ少し先のようだが、出演者も揃えばできるだけ早い製 作を期待したいものだ。 1994年にローランド・エメリッヒ監督、カート・ラッセル 主演で製作されたSF作品“Stargate”(スターゲイト)は、 その作品自体の評価はあまり芳しいものではないが、興行的 にはそこそこの数字を残し、さらにその後のテレビシリーズ 化は傍系シリーズも作られるほどの評判を得たものだ。その テレビシリーズから再び映画版を製作する計画が報告されて いる。これは俳優のボウ・ブリッジスが語ったもので、それ によると、「計画は2本検討されているようだ。自分はまだ 出演契約書にサインはしていないが、2作の脚本は完成され ていた」とのことだ。時空を繋ぐ謎のゲイトを巡って展開す る壮大な物語は、アイデア的には悪いものではなかったし、 映画版の再製作には期待したいところだ。ただし、製作会社 はMGMのはずだが、そちらからの情報はまだないようで、 これも早くグリーンライトを点けてもらいたいものだ。
2006年12月10日(日) |
ルワンダの涙、シルバー假面、妖怪奇談、素敵な夜ボクにください、僕は妹に恋をする、ルナハイツ2、パパにさよならできるまで |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ルワンダの涙』“Shooting Dogs” 1994年4月5日から8日までのルワンダの中心都市キガリの 公立技術学校(ETO)を舞台に、その場所で起きたフツ族 によるツチ族虐殺事件の顛末を描いた作品。 同じルワンダ内戦を描いた作品では、先に『ホテル・ルワン ダ』が公開されているが、結果として多くの救いの手が差し 伸べられた外国資本のホテルと違い、英国人神父の個人によ って運営されていた学校は、最初の内こそ国連軍の警備下に 置かれるが、やがて国連軍が去り、そこに集まっていたツチ 族の人々はなす術もなくフツ族の標的になって行く。 どちらも実話に基づく作品であり、その物語は比べるべきも のではないが、ある意味ハリウッド的にドラマティックに描 かれた『ホテル…』に比べて、本作は余りに悲惨で、これこ そが現実だったのだと思わざるを得ないものだ。 実際、映画には取り憑かれたようにツチ族を惨殺するフツ族 の姿が容赦なく描かれる。そこにはBBCのニュースクルー などもいたのだが、彼らはそれを目の端で見てはいても、そ れ以上には何もすることが出来なかった。それが現実だった のだ。 本作の原作はそのBBCの記者が書いているが、フツ族はや がて外国人にも銃口を向け始め、記者たちも退去を余儀なく される。しかし、それはツチ族を見捨てたことであり、記者 の胸にはその痛みが今も残るという。そんな思いで描かれた 作品ということだ。 監督は『ロブ・ロイ』などのマイクル・ケイトン=ジョーン ズ。 出演は、神父役に『エレファントマン』のジョン・ハートの 他、『キング・アーサー』のヒュー・ダンシー、『スターリ ングラード』のドミニク・ホロウィッツ、『フォー・ウェデ ィング』のニコラ・ウォーカー。そして重要な少女の役を、 『トゥモロー・ワールド』のクレア=ホープ・アシティが演 じている。 なお、撮影はほとんどのシーンがルワンダの現地で行われ、 撮影のスタッフやエキストラには、現地人で虐殺を辛くも免 れた人々が多く起用されている。その人たちのことはエンデ ィングで紹介されるが、親兄弟を虐殺され、まさに九死に一 生という人もいたようだ。 『ホテル・ルワンダ』を見て何かを感じた人は、必ず見なけ ればいけない作品と言える。
『シルバー假面』 1971年に第1話を、佐々木守脚本、実相寺昭雄監督でスター トした特撮テレビシリーズの映画化。と言ってもオリジナル の題名は『仮面』で、それが本作で『假面』なのは、本作の 時代背景が大正となっているためだ。 時は大正9年、シベリア出兵やスペイン風邪、米騒動、相次 ぐ労働争議などで世情騒然とする帝都東京で、奇怪な連続殺 人事件が起こる。それは美女ばかりが血液を抜かれた遺体で 発見されるというもの。エリート軍人の本郷義昭大尉は事件 の調査を命じられるが… これに、探偵作家志望の平井太郎(後の江戸川乱歩)や、森 鴎外とドイツ人女性エリスとの間に生まれらという女性ザビ ーネが加わり、敵には蜘蛛型宇宙人やカリガリ博士、鋼鉄の 女ロボット・マリアなどが登場して、事件は帝都を揺るがす 大事件に発展する。 本作の企画原案は佐々木と実相寺。ところが佐々木氏が今年 2月に急逝したため、その後を2人の若手脚本家が引き継い で、実相寺の監修のもと脚本を執筆。さらに、実相寺と2人 の監督による3部構成で映画化されている。しかも、試写の 当日に実相寺監督の訃報が伝えれるという巡り合わせになっ てしまった。 実相寺監督は『帝都物語』も監督しているが、こんなレトロ な雰囲気が好きだったのかも知れない。浅草の芝居小屋や、 巨大飛行船など、そんな雰囲気が楽しめれば良い、というと ころだろう。 シルバー假面はニーベルンゲンの指輪の化身とされ、さらに ルンペルシティルツヒェンやアドルフ・ヒトラーまで登場す る、まさにごった煮の世界。それが実相寺演出で蘇る。 ただ僕としては、登場するキャラクターが余りに付け焼き刃 な感じで、それぞれの背景が掘り下げられていないのが残念 だったし、国産レヴェルのCGIで表現されるVFXにも、 ミニチュアとは違ったちゃちさが感じられて、なかなか物語 に入れなかった。でもまあ、そんなチープさが、ある意味こ の作品の狙いなのかも知れない。 主演は、ニーナ、渡辺大、水橋研二。他の出演者には、石橋 蓮司(カリガリ博士)や嶋田久作、寺田農、ひし美ゆり子ら の名前が並ぶ。 なお、本作は元々はDVDで販売する企画で進められた作品 だが、その販売に先立って劇場公開が行われるものだ。
『妖怪奇談』 『心中エレジー』『楽園−流されて−』などの亀井亨監督作 品。実は、亀井監督の前2作はホームページでは取り上げな かった。第1作は、『樹の海』を見た直後に同じ自殺がテー マでは余りに出来が違いすぎたし、第2作は、『流されて』 の題名が引っ掛かったものだ。 その監督の第3作となるものだが、今回はろくろっ首、カマ イタチ、のっぺら坊という妖怪を描いて、前2作とはちょっ と毛色の違った作品になっている。その3人は全て現代に生 きる女性で、それぞれが自分の運命に翻弄されるという展開 だが… この3人の物語が、微妙に交錯して行く展開は、それなりに 工夫しているなという感じのものだ。ただ、この3人がそれ ぞれそういう運命に陥る原因というか、切っ掛けが提示され ないから、感情移入というものがほとんど出来ない。 前2作も一様に同じ感覚なのだが、監督は主人公たちを完全 に突き放して描いているようで、それが海外でも評価されて いるようだから、それはそれでも良いのかも知れないが、僕 の感覚ではちょっと引っ掛かってしまうものだ。 実はそれぞれには、父親だけには良い子に見てもらいたいと か、いろいろ世間に受け入れてもらえない事情があって、そ れが怪現象引き起こす切っ掛けにもなっているようだ。その 辺を、もう1、2歩掘り下げると、結構良い作品になるよう な気もするのだが… 出演は、伴杏里、宮光真理子、市川春樹。それぞれは人気も あるようだから、それなりの観客は集めるかも知れないし、 そのファンたちには楽しめる作品にはなっている。また、ろ くろっ首などのCGIには、こういうものがお手軽になった なあという感じだ。 ただし、ヴィデオで撮影された画面の暗いのと色使いの変な のが何とも困り物で、実は前2作もそうなのだが、一般的に ヴィデオはもっと明るく撮れるものだし、色もいくらでも補 正が利くはずだが、それを敢えてしないのが監督の考え方の ようだ。でも、これでは観客の目が疲れるばかりで、それ以 上の効果はあまりないように思えるのだが…
『素敵な夜、ボクにください』 東京国際映画祭のコンペティションに出品されたホン・サン ス監督『浜辺の女』にも主演していたキム・スンウの出演作 で、題名の感じからもてっきり韓国映画かと思っていたら、 吹石一恵主演の日本映画だった。 しかも、青森が舞台のカーリングをテーマにした作品という ことで、トリノオリンピックに出場したチーム青森の活躍を 描いたら、それは『シムソンズ』と同じになるのでは…と心 配したら、そこはチャンと別の物語になっていた。 キム・スンウが演じるのはカーリング韓国代表のスキップ、 4人で闘うチームの中では、本来はまとめ役のはずだが、多 少自己中心的な彼は仲間の意見も聞かずに大勝負に出て失敗 してしまう。そのため、遂に監督からはチームを出て行くよ う言われてしまう。 そんな彼がふらふらやってきたのは日本。実は日本では彼に そっくりな韓流スターが大人気だったのだが、そんなことは 知らず彼は街で駆け出し女優に声を掛け、彼女はスターと思 い込んでベッドを共にしてしまう。 その翌日、彼は早く部屋を出てしまい、そこには彼の忘れ物 の「日本女性を口説く方法」という韓国語の本と、青森行き のJR切符が残されていた。そして彼女は、それが青森の実 家に帰れという啓示とばかり、帰省することにする。 実家に戻った彼女は、スターと寝たことを吹聴するが、その 夜、街でばったり彼とであってしまう。実は彼は友人を訪ね て青森に来ていたのだった。 こうして彼がスターとは別人であることがばれるが、彼がカ ーリングの名選手であることを知った彼女は、彼をコーチに してカーリングチームを結成。オリンピックを目指す女優と して売り出そうと考える。 まあ、かなり無理矢理な話だが、基本的にラヴ・コメディと いうのはこんなものだろう。その中でそれなりに筋が通って いれば良い訳で、その点ではあまり気に掛かるところはなか った。 それに現状ではまだカーリングのルール説明から始めなくて はならないものだが、その点も主人公の女優が全くルールを 知らないというところから始めて、競技の基本動作なども丁 寧に説明され、『シムソンズ』より1段階進んでいる感じで それも良かったところだ。 日韓の交流を描くということではせりふも問題になるが、そ れぞれに通訳の出来る人物を配して、それがまた微妙な通訳 をするのがギャグになっていたりもする。また、言葉の通じ ない2人の会話で、「約束」などの共通の言葉が意味を持つ のも良い感じだった。 出演は、他に占部房子、関めぐみ、枝元萌、飛坂光輝、八戸 亮、木野花。基本的にラヴ・コメディではあるが、それなり に楽しめる作品だった。それから、キム・スンウが若い吹石 相手に良い味を出していた。
『僕は妹に恋をする』 通称『僕妹(ボクイモ)』と言うらしい。小学館発行の雑誌 ・少女コミックスの連載で、単行本は600万部売れていると いう青木琴美原作のコミックスの映画化。 主人公は、双子の兄を持つ高校3年の少女。幼い頃から仲良 く育ってきた兄妹だったが、最近、兄は妹を避けるようにな ってきている。そして妹には、兄の同級生の男子が恋心を打 ち明けているが… 実は、自分にも2歳下の妹がいたから、物語の発端の兄の心 情には結構理解できるところがあった。しかし、この兄妹が 高校3年にもなって2段ベッドの上下に寝ているという辺り から、年齢の近い異性の兄弟姉妹を持つ者としては、かなり 落ち着かない感じになってくる。 しかも、その後が危惧した通りの展開になってしまったのに は、ちょっと見ていること自体にもためらいを感じてしまっ たものだ。 物語はこの後、宣伝担当者から「NGです」と言われた四文 字熟語になってしまうものだが、この究極とも言える禁断の 物語が、600万部のヒット作になっているという現実は、ち ゃんと受けとめなければいけないところだろう。 全10巻ということだから、単純計算で60万人の読者がいるは ずだが、その全員がこの状況の意味するところを理解できな いとは思えない。それでも売れているというものなのだ。 もっとも、独りっ子が多いという時代では、単純に自分には いない兄妹への憧れで読まれていることは考えられる。そん な感情がこの作品を支えているのかも知れない。つまり、全 く非現実の物語として読まれているのだろう。 僕としては、そんなことを考えながら見ざるを得なかった作 品だった。しかし、実は先に公開された『地下鉄に乗って』 もそうだし、東京国際映画祭のコンペティション作品でも1 本、このテーマが出てくる作品があった。 つまり僕は、この秋以降に3本もこのテーマを含む作品を見 ていることになる。その3本の中で本作は、もっとも真摯に テーマを追求した作品であることは確かだろう。その点では 評価しなくてはいけないものだ。 映画は時代の要求で作られるから、このテーマが時代の要求 ということなのだろう。その要求というのは、やはり独りっ 子が多いという辺りから来るのだろうか。 主演は、兄妹にジャニーズ事務所の松本潤とモデル出身の榮 倉奈々、他に、平岡祐太、小松彩夏、浅野ゆう子が共演して いる。
『ルナハイツ2』 小学館発行ビックコミックスに連載された星里もちる原作の コミックスの映画化。 結婚を決めて立派な新居まで立てたものの婚約者に逃げられ た男性と、その新居が会社の女子寮として借り上げられたた めに入居してきた3人女性と1家族。そんな男女が一つ屋根 の下に暮らして巻き起こる恋愛騒動を描いたお話。 3人の内の1人と男性が、最初はぎくしゃくした関係から、 遂に恋心の告白まで行くが、そこに婚約者が現れて…と言う のが、実は昨年公開された第1作のお話だったようだ。その 前作を僕は見ていないのだが、プレス資料にはかなり詳細な 粗筋が載っていたものだ。 まあ、続編のプレス資料だから前作の粗筋が載るのは当然だ が、それにしてもこれがかなり詳しい。これはつまり、ある 程度前作のお話を知っていないと本作が理解できない心配が あるからなのだが、実際、本作は前作と併せて1本と言って いいほどのものだ。 大体、上記の前作の物語がそのまま終わりでは、いくらなん でも無責任というもので、プレス資料には、前作のスタッフ キャストが全員再結集などと書いてあったが、その計画が当 初から無かったとはとうてい思えないものだ。 もちろん、前作がそれなりの成績を上げたから実現したので はあるのだろうが…実現しなかったら、前作を見た人にはか なりフラストレーションになりそうだから、まずは良かった というところだ。 実は試写の後で、宣伝の人から「たまにはこんな軽い話も良 いでしょう」と声を掛けられた。全くその通りで、正直に言 って深刻に悩むようなことなどは全く無いお話。それも、作 り手の割り切り方が気持ち良くさえ感じられる、そんな作品 だった。 主演は、安田美沙子と柏原収史。これに元グラビアアイドル やレースクィーン出身という脇役陣だが、それほどひどい演 技という感じではなかった。他に、村野武範、乱一世、飯尾 和樹、『百獣戦隊ガオレンジャー』の金子昇、『牙狼』の小 西大樹らが共演している。 映画史に残るという作品ではないけれど、こういう作品もあ ってこそ映画というものだ。
『パパにさよならできるまで』 “Δύσκολοι αποχαιρετισμοί: Ο μπαμπάς μου” 1969年、アポロ計画の月着陸で世界が沸き返る中で、突然父 親を失った1人の少年の物語。 少年の父親は、自家用車にいろいろな商品を積み込んで売り 歩く行商人。各回の行商の旅は長く、いつも家を空けている 父親に母親と兄は不満が溜まっているが、主人公の少年は、 父親が帰宅した朝のベッドにそっと置かれたチョコレートが 楽しみだ。 そして帰ってきた父親には思い切り甘える少年だったが、そ の父親は、「アポロの着陸の日には必ず帰る」という置き手 紙を残して次の行商の旅に出てしまう。ところが深夜の電話 に兄が出ると、父親が交通事故で死んだという連絡が届く。 しかし、父親の置き手紙を信じる主人公には、その知らせが 信じられない。そして、それを理解させようとする兄や母親 との間に軋轢が生まれて行く。 プレス資料には、父の死が理解できないとあるが、主人公は 決して理解できていない訳ではないだろう。それは彼の行動 のそこそこに現れているものだ。それでも、ある意味、理解 できていないような振りをし続ける、そんなふうにも思える 物語だ。 幼い子供が、環境の変化に対応できずに行動して周囲を振り 回すという作品は、今までにもいろいろとあったが、どうし てのあざとい作品になってしまうものだ。しかしこの作品で は、そんな中でもお涙頂戴に陥ることもなく、子供の心情や 周囲の大人たちの姿を丁寧に捉えている。その点では見てい て清々しく感じられもした。 アポロの月着陸に引っ掛けているせいもあるが、主人公がジ ュール・ヴェルヌの『月世界旅行』の一節を朗読して、父親 の帰還を待ちわびるシーンなどもあり、そんな心情も僕とし てはよく理解できるものだった。因に、エンディングには、 『博士の異常な愛情』にも使われた“We'll Meet Again”が 流れる。 家にテレビが届いて最初に見ているのが、“The Avengers” というのも、面白く感じられた。それから、途中の主人公た ちが墓を詣でるシーンで、ちょっとした仕込があったように 感じたが、その意味するところには興味深いものがある。 なお、月着陸の生中継のシーンは、ちょっと映像の順番が違 うようにも感じたが、それはご愛嬌だろう。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ まずは続報で、前々回第122回で報告した『LOTR』の 前日譚“The Hobbit”の映画化について各社の動きが激しく なってきた。 この映画化については、原作の製作権を持つニューライン と、配給権を持つMGM、それに『LOTR』を製作したピ ーター・ジャクスン監督の一致協力が成功の鍵とされるもの だが、以前に報告したように、監督が『LOTR』の興行収 入の計算を巡ってニューラインとの訴訟を行っており、最近 の監督の報告によると、その裁判が決着するまで動けないと 宣言する一方で、ニューラインからは他の監督で行くという 通告も出されたということだ。 この動きについては、最近の情報では大元の製作権を持つ ソウル・ゼインツとニューラインとの契約が期限付きのもの で、その期限が近づいて訴訟の決着を待てなくなったとする 説もあるようだが、このまま他の監督で製作を進めるのか、 ニューラインが訴訟で折れて裁判を早期に決着させるのか、 状況は微妙になってきている。しかも監督は、上記の報告の 中では“The Hobbit”を裁判の取り引き材料にする考えはな い、としているものだ。 なお前々回には、2本の前日譚と報告したが、これはJR R・トーキンの原作による“The Hobbit”の物語と、その後 から『LOTR』の発端までを描くオリジナルの物語が考え られているということだ。そして訴訟以前には、ジャクスン とニューラインの間でかなり検討も進められていたようだ。 しかもこの繋ぎの物語には2部作も考えられていたそうで、 “The Hobbit”と合せて、また3年連続の3部作という計画 もあったとされている。 ただし、ジャクスンのスケジュールでは、来年には“The Lovely Bones”の撮影を予定していて、MGMとの話し合い では、その撮影に並行して準備を開始する計画だったという 話も伝わっているが…MGMの次の発言も注目される。 因に、MGMの親会社のソニー・ピクチャーズは、マーヴ ル・コミックスと裁判を繰り返しながらも“Spider-Man”の 製作は続けているし、実際、『LOTR』の訴訟でも、問題 なのは『旅の仲間』だけで、その後の2作は問題にされてい ないようだ。クリエーターと配給会社の訴訟は、ヒット作で は良くあることだが、何とか円満に、早期に決着してもらい たいものだが。 とここまで書いたところで、突如ニューラインがサム・ラ イミに監督をオファーしたというネット情報が流れて来た。 ライミ監督は、現在は来年5月公開の“Spider-Man 3”を仕 上げ中のはずだが、確かにしっかりとしたコンセプトでの映 画化を期待できるということでは適任者のように見える。し かし、すでにジャクスンが路線を敷いた上に乗れるものかど うか。ましてや、ビルボ・バギンズ役のイアン・ホルムや、 スメアゴル役のアンディ・サーキス、それにガンダルフ役の イアン・マッケランには再び出演してもらわなければならな い訳で、その辺の調整も大変になる。その状況にライミ監督 が立ち向かうことになるのか…いずれにしても、ここ暫くは 目の放せない状態が続きそうだ。 * * 次も続報で、最初は第45回、その後は第69回と第101回で も紹介した往年の人気テレビシリーズ“Get Smart”(それ 行けスマート)の映画化がついに決定し、来年3月の撮影開 始が発表された。 この作品は、以前にも紹介しているように、『プロデュー サーズ』などの製作監督のメル・ブルックスと、『卒業』な どの脚本家バック・ヘンリーが創造したスパイ・パロディシ リーズで、ドン・アダムス(昨年10月に訃報を紹介した)扮 するずっこけスパイのマックスウェル・スマートと、バーバ ラ・フェルドン扮する沈着冷静な女性スパイ・エージェント 99号のコンビが、数々の失敗を繰り返しながらも敵の謀略を 防いで行くというもの。靴底に納められた無線電話機(ダイ ヤル式)などの隠密兵器も登場する楽しい番組だった。 その劇場版リメイクの計画は、上記のように数年前から進 められていたものだが、最終的に主人公のスマート役には、 『ブルース・オールマイティ』のスティーヴ・カレル、そし て99号役には、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイが 決定し、『50回目のファーストキス』などのピーター・シ ーゲル監督の許、ワーナーとヴィレッジロードショウの共同 製作で実現するものだ。脚本は、昨年報告したトム・アステ ルとマット・エムバーのものが最新版とされている。 因に、カレルは、当初予定されていたウィル・フェレルよ りもオリジナルのアダムスには似ている感じだが、ハサウェ イもフェルドンにちょっと似た雰囲気があって、その辺は良 い感じだ。ただし、年齢差がちょっと大きくなるようで、オ リジナルでは後に夫婦になったもののようだが、その辺はど うなるのだろうか。 なおカレルは、前回も多忙になりそうだと書いたが、『ブ ルース…』の続編で、前作の助演から主演に昇格した“Evan Almighty”の撮影はすでに完了。現在はディズニーで“Dan in Real Life”という主演作品を撮影中で、さらに1月か らは主演している人気テレビシリーズ“The Office”に出演 の後に、本作の撮影に臨むことになっている。 それにしても、ドン・アダムスの生前に実現しなかったこ とは残念だが、せめてバーバラ・フェルドンにはカメオで出 演してもらいたいものだ。 * * 次も続報になるが、ティム・バートン監督、ジョニー・デ ップ主演で、2月に撮影開始されるミュージカル“Sweeney Todd”の映画化に、新作“Borat”が2週連続の全米No.1ヒ ットを記録したばかりのサッシャ・バロン・コーエンの出演 が発表された。 元々“Da Ali G Show”等の、かなりエキセントリックな キャラクター作りで知られるコーエンだが、今回のミュージ カル映画へのオファーは、彼が“Talladega Nights”という 新作で、ジャン・ジラードという名前のいかれたレースドラ イヴァーを演じているときに届いたということだ。 スティーヴン・ソンドハイム作曲のヒットミュージカルを 映画化するこの計画では、すでにヘレナ・ボナム=カーター がトッドの殺人に協力する肉屋の女主人を演じることが発表 されているが、コーエンが演じるのは、トッドに敵対する床 屋シグノア・アドルフォ・ピレリという役。ただし撮影に参 加するのは2週間だけということで、バートンの演出の許、 デップ、ボナム=カーター相手にどのような演技を見せてく れるか楽しみだ。といっても、結局彼も挽肉にされてしまう のかな? なおこの作品では、他にもポップシンガーのシンディ・ロ ーパーがオーディションに呼ばれたことを、自身のブログに 書き込んでいるということで、その出演が実現したら、映画 全体がかなりエキセントリックな作品になりそうだ。 製作はワーナーとドリームワークスの共同で、製作者には ウォルター・パークス、リチャード・D・ザナック、ジョン ・ローガンらの名前が並ぶ。『グラディエーター』『ラスト ・サムライ』等のローガンの脚本を映画化するものだ。 * * 第113回で紹介した“Ghost Rider”がいよいよ2月17日に 全米公開されるニコラス・ケイジが、またもやコミックスの キャラクターに挑戦する計画が発表された。 今回の計画は、ジャッキー・チェン主演の『80デイズ』に も出演した冒険家で、ヴァージングループ会長のリチャード ・ブランソンと、精霊作家(?)ディーパック・チョプラが 共同で設立したヴァージン・コミックスから発行される原作 に基づくもので、コミックスの題名は“The Sadhu”。 原作は、チョプラの息子で、ヴァージン・コミックス主任 クリエーターのゴッサムが創造執筆しているもので、植民地 時代のインドを旅する軍人ジェームズ・ジェンスンが、神秘 の世界に触れて精霊の戦士になって行くという、神秘とアク ションの融合体のような物語だそうだ。 そして映画化は、父親のディーパックが脚本を執筆し、ケ イジ主宰のサターン・ピクチャーズとヴァージン・コミック スの共同製作で行われる。監督など、他のスタッフキャスト は未発表だが、ケイジの主演は決まっているものだ。なお、 ヴァージングループには映画会社もあったはずだが、今回は コミックスが直接製作することになっている。 因に、ヴァージン・コミックスは、今年の始めにブランソ ンとチョプラ、それに映画監督のシャカール・カプールが協 力して設立したもので、インドのバンガロアというところに 100人の画家と作家のスタッフを集めて、主にアジアの神秘 とアクションを融合したアドヴェンチャーコミックスとグラ フィックノヴェルを出版。年内に8作を発表する計画と言わ れている。 一方、熱烈なコミックスファンとしても知られるケイジだ が、そのヴァージン・コミックスからは、彼の15歳の息子ウ ェストンの原案に基づくコミックスの出版も計画している。 その作品は、題名が“Enigma”というもので、物語は、アメ リカのニューオルリンズを舞台に、南部連合時代の農園で起 きた殺人事件の捜査を描いているが、そこにはヴードゥーの 背景があるということだ。コミックスは3月から月刊の6巻 シリーズで出版される。 ケイジはこの作品については、「息子はいつもいろいろな インスピレーションを僕に与えてくれる。彼の創造力は新鮮 で独創的だが、同時に現代も見据えたものだ。現代はもっと 精神的なものを求めている時代だから、その精神の力を持っ たスーパーヒーローも必要だ」と作品の意味を語っており、 この作品も自演での映画化を目指しているようだ。 神秘主義というのは、多少危険な側面も持つものだが、取 り敢えずは、2作ともちょっと毛色の変ったヒーローキャラ クターになりそうで、注目して見ていきたい。 * * 2005年にロベルト・ロドリゲスとフランク・ミラーの共同 監督問題などで物議を醸した『シン・シティ』の続編“Sin City 2”について、ミラーが語っている。 それによると、撮影における技術的な面で、彼らが望んで いたことは全てクリアされたということだ。そして現在は、 “A Dame to Kill”と題されたエピソードに沿って脚色を進 めているものだが、原作にはない新しい悪女やその他のキャ ラクターの新登場があるとしている。 また、脚本は沢山の短編の集合体のようになっており、そ の中には多くの新規な物語も入ってくるということだ。さら にミラー自身は、前作でジェシカ・アルヴァが演じたナンシ ー・カラハンに絡む、ジョン・ハーティガン亡き後の物語を 進めているということだが、ハーティガンを演じたブルース ・ウィリスの再登場はないようだ。 一方、クライヴ・オーウェンが演じたドワイトに絡んで、 元恋人アヴァの役でアンジェリーナ・ジョリーの新参加など も噂されているが、脚本の完成はまだ少し先になりそうだ。 なお、ミラーは第2作も共同監督でやるとしている。 この共同監督の問題に関しては、第61回などで紹介してい るが、これによってロドリゲスがパラマウントで進めていた “A Princess of Mars”の計画が頓挫するなど、影響は大き かったものだ。一方、先日の東京国際映画祭で特別招待上映 された『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』の記者会見でも、 共同監督したキース・フルトンとルイス・ぺぺが、アメリカ 監督協会(DGA)と揉めていることを匂わせており、いろ いろ多方面で問題になってきているようだ。 そう言えば、映画祭で監督賞を受賞した『リトル・ミス・ サンシャイン』も共同監督作品だが、元々DGA脱退組のジ ョージ・ルーカスが監督できるフォックスは、DGAとは一 線を画しているということなのかな? * * これも続報になるが、前回報告したトム・クルーズ/ポー ラ・ワグナーがユナイテッド・アーチスツ(UA)を仕切る ことになった件に関連して、早速動きが明らかになった。 というのは、第122回で紹介したクルーズの計画3本の内 で、1本だけ製作会社の付いていなかったロバート・レッド フォード監督主演の“Lions for Lambs”に関して、UAが 資金を拠出して製作が進められることになったものだ。 この作品については、前回はアフガニスタン戦争絡みの政 治劇とだけ紹介したが、今回はもう少し詳しい内容が紹介さ れていた。それによると、作品はマシュー・カーナハンとい う脚本家が執筆したもので、映画では、互いに関連する3つ の物語が平行して進むということだ。 その1つは、クルーズ扮する政府関係者と、彼を取材する メリル・ストリープが演じるジャーナリストの物語。2つ目 は、レッドフォードが演じる理想主義者の大学教授と、彼の クラスにいる特別扱いの生徒の物語。そして3つ目は、敵陣 で負傷し孤立した2人のアメリカ兵の物語で、この内の1人 は教授の元教え子ということになるようだ。 これだけだと、クルーズ/ストリープと、レッドフォード の関係が見当たらないが、感じとしては政府に何かの不正が ありそうで、その辺りから両者の関連が出てくるのかも知れ ない。ただし、紹介では3つの物語は平行して進むとなって いるもので、つまり直接的な関わりはないようだが、一体ど んな物語になるのだろうか。 この種の作品では、今年の始めに公開された『シリアナ』 が、やはり複数の物語を平行して進めるスタイルを取ってい たが、複雑な政治劇というのは観客にも緊張感があって、見 応えを感じるものだ。監督としてのレッドフォードの手腕に 期待したい。 なお、撮影は来年早々に開始の予定で、このまま行けば、 クルーズ/ワグナーとUAとの提携第1作として、2007年秋 にもMGMの配給で公開されることになりそうだ。 * * これも第122回で紹介した“Fraggle Rock”に関連して、 映画版のストーリーの執筆を契約したアーメット・ザッパの 原作で、第98回でも紹介した“The Monstrous Memoirs of a Mighty McFearless”を映画化する計画に、脚本家の名前が 発表されている。 物語は、喧嘩ばかりしている若い兄妹が、ある日、自分た ちの家族が代々モンスターと闘ってきた家系であることを知 り、やがて史上最悪のモンスターとの闘いに2人で挑んで行 くことになるというもの。そしてこの原作の映画化権には、 『パイレーツ・オブ・カリビアン』などを手掛けるジェリー ・ブラッカイマーが新人作家には破格の150万ドルを支払っ たというものだ。 ここで、普通これだけの金額を支払う場合は、脚色も原作 者が手掛ける契約のことが多いものだが、今回の映画化では それはしないようで、代って脚色をティム・ファースという 脚本家が契約したことが発表されている。 因にファースは、今年ブエナ・ヴィスタが配給したイギリ ス映画の『キンキー・ブーツ』や、同じく2003年製作の『カ レンダー・ガール』の脚本を手掛けているが、この2作はど ちらもファンタシーではない。しかし、ヒットメーカーのブ ラッカイマーが選んだからには、それだけの何かを持ってい るということなのだろうが、これはかなり興味を引かれると ころだ。 と言ってもこの2作は、いずれもファンタシーとは言えな いものの、どちらもSF/ファンタシー映画ファンを自認す る僕が満足しているのだから、何かそれなりのものを持って いるということかもしれない。映画化の実現が楽しみだ。 * * 続いてはリメイクの情報で、ジョン・カーペンターが1982 年に映画化した“The Thing”(遊星からの物体X)の再映 画化が計画されている。 この作品は、元々はSF雑誌の編集者としても知られる作 家ジョン・W・キャンベルJr.が1938年に発表した短編小説 “Who Goes There?”(邦訳題・影が行く)を映画化したも ので、すでに1951年に『赤い河』などのハワード・ホークス の製作(実は監督もしたと言われる)により、“The Thing from Another World”(遊星よりの物体X)の題名で映画化 されたことがあるものだ。 従って、カーペンターの映画化がすでにリメイクだったも のだが、実はカーペンターは、当時の最先端VFX技術を駆 使して、エイリアンが次々に変身をして行く姿を描くなど、 ホークス版とは全く違う作品を造り出していたもので、今回 はそのカーペンター版の世界を、さらに最新のVFX技術で 再構築しようとする計画のようだ。 そしてその脚本には、新版の“Battlestar Galactica”が 高い評価を得ているロナルド・D・モーアの担当が発表され ている。因にモーアは、フォックスで“I, Robot”の続編の 脚本も契約しているそうだ。 製作は、ユニヴァーサルとストライク・エンターテインメ ントというプロダクションで、ストライクは“Dawn of the Dead”のリメイクを行った他、両社は日本先行公開となった アルフォンソ・キュアロン監督の“Children of Men”の製 作も行っている。 * * 最後は短いニュースをまとめておこう。 まずは、第119回でも紹介したマイクル・スコット原作の ファンタシー・シリーズ“The Immortal Nicholas Flamel” の映画化に関して、ニューラインが製作を担当することが発 表された。この映画化権は、“Survivor”などTV番組製作 者のマーク・バーネットが権利を獲得して話題になっていた ものだが、これで映画化実現の目途が付くことになる。なお 原作の第1巻“The Alchemyst”は来年5月にアメリカ・ラ ンダムハウス社から出版予定になっており、全体は6巻のシ リーズが計画されているようだ。 続いては、『ピンクパンサー』のリメイクを監督したショ ウン・レヴィの次回作の計画で、アレックス・ウィリアムス 原作による“The Talent Thief”という計画がユニヴァーサ ルで進められている。内容は、奇っ怪な怪物を操って人々の 特殊な能力を盗む悪漢と対決する少年の物語ということで、 『イーオン・フラックス』を手掛けたフィル・ヘイとマット ・マンフレディが脚色を担当している。なお、レヴィ監督で は、“Night at the Museum”が12月20日に全米公開の他、 “The Pink Panther”の続編の計画もあるようだ。 最後の最後は、ジェームズ・キャメロン監督の情報で、監 督の発言によると、“Battle Angel Alita”の製作は、アー ノルド・シュワルツェネッガーの出演待ちの状態ということ だ。予定されているのはイドという役柄のようだが、州知事 再選を果たして、憲法改正が必要な大統領は無理としても、 次は上院議員を目指す政治家に出演の機会があるものかどう か。因に、“King Conan”はすでに代役の検討が進められ、 “Terminator 4”は彼抜きで計画が進められているが、実は “Battle Angel”には、シュワルツェネッガー本人が出演を 希望しているという情報もあるそうだが…
|