2005年09月30日(金) |
イエスタデイ・ワンスモア、ミリオンズ、コープスブライド、ビッグ・スィンドル、旅するジーンズと・・・、ビタースイート、探偵事務所5 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『イエスタデイ、ワンスモア』“龍鳳鬥” 『ベルベット・レイン』に続くアンディ・ラウ主演作品。ま た本作は、相手役のサミー・チェン、監督のジョニー・トー と共に、ゴールデントリオと呼ばれる3人による3部作の最 終編(物語は独立)だそうで、ゴージャスな雰囲気の中で描 かれるちょっと切ないロマンティックサスペンスだ。 主人公は、人も羨む富豪夫妻。しかしある日、夫が一方的に 離婚を宣言し姿をくらましてしまう。実はこの2人、本業は 高級品専門の泥棒というか詐欺師で、それまでは2人の協力 で順調に仕事をしてきたのだったが… そして2年後、元妻は資産家の息子からプロポーズを受けて いたが、その誠意の証として彼の母親が所有する宝飾品のネ ックレスを要求する。ところがそのネックレスが銀行の貸金 庫から取り出されたとき、突然現れた窃盗団がそれを強奪し てしまう。 その様子をビルの上から監視していた元妻は、その手口が元 夫のものであると見抜き、彼の後を追い始める。そして映画 は、この2人の姿を香港各所の高級店や高級車、さらにイタ リアロケまで織り込んで、ゴージャスにそして華麗に描いて 行く。 香港のセレブになった気持ちで、これらの高級店や高級車を 堪能できればそれで良い作品かも知れない。しかし映画を見 ている内に、物語はそこから一歩踏み込んで、本当に人を愛 するということが、一体どのようなことなのかを説いている ことに気づかされる。 原題の意味は、王者同士の頭脳合戦というようなことを表し ているもののようだ。詐欺師元夫婦の虚々実々の頭脳戦。し かしその裏にあるのは、愛する人のために全てを捧げ尽くす 主人公の物語なのだ。 以下にネタばれあります。 詐欺師の物語らしく、真実がどこにあるのかは最後まで判ら ないように作られている。しかしラウのちょっとした仕種な どで、徐々に真実が明かされて行く。それが実に切ない。で も自分がもし同じ立場だったら、多分同じことをしてしまう だろう。そんな共感も持てる作品だった。 『ミリオンズ』“Millions” 『28日後...』などのダニー・ボイル監督の最新作。 イギリスポンドのユーロ転換を目前にしたある年の年末。母 親を病気で亡くし、その上の引っ越しと転校で多少情緒不安 定になっている兄弟の弟の前に、大量のポンド紙幣を詰めた スポーツバッグが空から落ちてくる。 弟はそれを兄に話すが、兄弟はそれを隠して2人のために有 効に使おうと決心する。そして弟は、宗教的な考えに基づい て貧しい人々への施しを始めるが、幼い弟には貧しい人々を 見つけることもなかなかできない。 これに、弟の気持ちに応えるいろいろな聖人や、一風変った 人物たちが登場してさまざまなドラマを作り上げて行く。 先日『チャーリーとチョコレート工場』を見てきた家内が、 「主人公が拾ったお金で最後のチョコレートを買うのが教育 上良くないのではないか」と言い出した。これはダールの原 作も同じで、そのことは家内が原作を読んだときにも言い出 したものだったが… そのことを友人と話し合ったところ、ニューオルリンズでの 略奪横行を見ても感じるが、元々が狩猟民族の西欧人には、 所有者の判らないものは自分のものにしていいという考えが あるのではないか、という結論になった。 本作でも、主人公の弟は宗教的な観点から悪いことだと言い はするが、警察に届けようという話しはほとんど出てこなか った。もっともニューオルリンズでは警察が率先して略奪を しているのだから話にならないが、本作はイギリス映画で多 少は違うのではないかと思えるところだが… しかしそういうところを除けば、本作ではいろいろと悩む弟 が実に愛らしく、一方、その弟を守ろうとする兄の姿も凛々 しくて、なかなか良い感じの兄弟愛の物語と言える作品だ。 因に監督は、「自分の子供たちに堂々と見せられる作品」と 称しているようだ。 前作の『28日後...』からは180度方向転換したような作品だ が、監督の次回作は本格SFになりそうで、それもまた期待 したいものだ。 『コープスブライド』“Corpse Bride” 人形アニメーションの最高作と言われた1993年の『ナイトメ アー・ビフォア・クリスマス』で原案、製作を担当して以来 12年、ティム・バートンが再び挑んだ人形アニメーションの 最新作。今回のバートンは、製作に加えて自ら監督も手掛け ている。 物語の舞台は19世紀のヨーロッパ。とある片田舎の町で裕福 な商人の息子と没落貴族の娘が結婚することになる。それま で面識のなかった新郎新婦だったが、2人は結婚式の前日の リハーサルで初めて顔を合わせて、即座に互いを気に入るこ ととなる。 ところが新郎は、緊張のあまり結婚の誓いの言葉もまともに 述べられない。そして厳格な神父から練習を命じられ、言い つけ通り一人森をさ迷いながら練習していた彼は、誤ってそ の誓いの言葉を、その場に埋められていた死体の花嫁に捧げ てしまう。 しかもこの誤解によって、新郎は生きたまま死者の国に連れ て行かれる。果たして2人はめでたく結婚できるのか、そし て死体の花嫁の運命は… 元はロシアの民話に基づくもののようだが、これがバートン の手に掛かると、死者の国が妙にカラフルで活気があり、そ こに登場するいろいろな死体にも愛嬌がある。いや、もちろ ん死体なのだからグロテスクではあるのだが… 『ナイトメアー…』のハロウィンの国と同様、ちょっと無気 味な異形のキャラクターたちが大活躍を繰り広げる物語だ。 そしてこの新郎新婦の声をジョニー・デップとエミリー・ワ トスン、死体の花嫁の声をヘレナ・ボナム=カーター、さら にクリストファー・リー、アルバート・フィニーらが共演。 なお作品はミュージカル仕立で、ボナム=カーターとフィニ ーは歌も歌っている。 因にデップの録音は、『チャーリーとチョコレート工場』の 撮影と並行して行われたということだが、昼間は子供たちと ちょっと傲慢なウィリー・ウォンカを演じて、それが終ると 夜は臆病な新郎の声に切り替えなければならず、かなり大変 だったようだ。 また、初めての声だけの出演については、先日の『チャーリ ー…』での記者会見の席で、「演技なしで声だけで演じるの は大変だったが、空気の中から演技をつかみ出してくるよう な感じで、貴重な体験だった」と語っていた。 人形アニメーションの製作の大変さはいまさら述べるまでも ないが、1日掛かって1〜2秒分と言われる大変な作業が、 見事に結実した作品と言えそうだ。 ただ、映画の台詞などには、2nd hand shopとか、dead end とかの駄洒落もいろいろ登場して、この辺は字幕もかなり苦 労しているようだったが、できれば原語を聞き取れると、も っと面白く楽しめるように感じられるものだ。 とは言え、ちょっと根暗でカラフルなティム・バートンワー ルド満開のこの作品を、じっくりと楽しんで行っていただき たい。 『ビッグ・スィンドル』(韓国映画) 現代の韓国を舞台に詐欺師たちが繰り広げる犯罪ドラマ。 銀行を舞台にした大掛かりな詐欺事件が発生する。しかしそ の完遂直前に事件は発覚し、追跡を受けた犯人の車の1台は 事故で炎上。奪われた50億ウォンの現金と、キム先生と呼ば れる主犯格の男の行方は判らなくなる。 警察は、事故で死亡した犯人の兄に事情聴取をするが、その 兄は古書店を営みながら作家を続けているという物静かな男 で、事情はほとんど知っていそうにない。 そしてもう一人、警察が注目するのはキム先生の愛人だった が、彼女も何もしゃべることはない。ところがこの女もした たかで、兄に死亡保険金が入ると知るや、その古書店に入り 込み、一緒に暮らし始めてしまう。 一方、警察には逃亡に失敗した犯人の一人が重症で捕えられ ており、その口から徐々に犯行の全貌が明かされて行くが… プロローグのカーチェイスに始まって、そこから時間を遡っ て犯罪の全貌が明らかにされて行く形式の作品。それに並行 して犯罪捜査の様子や取られた大金の行方が織り込まれ、こ れが実に巧妙に描かれていて面白い作品だった。 詐欺師ものと言うのは一般的には人死にや血糊の量が少なく て、それなりに安心して見ていられるものだが、最近はそう も言えなくなってきたようだ。と言っても血みどろべたべた というほどではないが、本作ではプロローグからかなり迫力 の映像が描かれる。 でも本筋は、定番通りの虚々実々の頭脳戦という感じのもの だ。と言っても、実は最初の銀行の事件の手口が僕はよく判 らなかったのだが、まあ取り敢えず50億ウォンが奪われたと いうことで、そこは余り気にしなくても全体の筋には問題な いものだった。 ただし、それ以外の話の筋もだんだん入り組んでくるのは、 詐欺師もののお定まりの展開というところだが、この部分は 実に判りやすく説明されていて、最後はお見事という感じの 納まり方をする。さすがに韓国の各映画賞で脚本賞を総嘗め にした作品というところだ。 『旅するジーンズと16歳の夏』 “The Sisterhood of the Traveling Pants” アン・ブラッシェアーズ原作でNYタイムズのリストに1年 以上載り続けたというベストセラー小説の映画化。 母親たちが同じマタニティスクールに通っていたことから、 生まれたときからずっと一緒に過ごしてきた4人の少女が、 16歳の夏休みを初めてばらばらに過ごすことになる。そこで 4人は、古着屋で見つけた1本の不思議なジーンズを1週間 ずつ廻して旅を楽しむことにする。 4人はそれまでにも、親の離婚や母親の自殺など、いろいろ な辛い思い出を姉妹のように共有して育ってきた。その4人 が、ギリシャやメキシコなどそれぞれの向かった土地でいろ いろな期待に胸を膨らまし、ジーンズにはそれを叶える魔法 の力があると考えていたのだが… 4人の少女の一夏の経験と挫折、それによる成長を見事に描 いた作品。さらにそこには友情という掛け替えのない素晴ら しいものが後ろ楯として控えている。こんな友情を持てるこ との素晴らしさも、この作品は訴えているのだろう。 主演の4人を演じるのは、アンバー・タンブリン、アメリカ ・フェレーラ、ブレイク・ライヴリー、アレクシス・ブレー デル。この内、ブレーデルは『シン・シティ』にも出演して いるが、180度違う役柄で驚かされる。 他には、『トータル・リコール』のレイチェル・ティコティ ン、2003年の『ミッシング』でトミー・リー・ジョーンズ、 ケイト・ブランシェットらと共演したジェナ・ボイドが、そ れぞれ重要な役で出演している。 ワシントンポスト紙の紹介は「大の男が泣かされてしまう」 だったそうだが。確かにこれだけの物語が提示されると、ど こかに自分でも思い当たるものが出てきそうだ。それが出て こない人は、多分本人が鈍感なのだろう。 見ているときに、同じワーナー映画で2003年3月に紹介した 『ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密』を思い出した。ちょ うどあの作品も4人の姉妹のような女性たちの物語だが、多 分この子たちもあんな風になるのだろうなと考えると、ちょ っと微笑ましくもなった。 因に、物語は4つの場所が同時進行で交互に登場するが、世 界中に広がったロケーションをその通りに撮影したはずはな く、それぞれの土地で集中させて行われたものだ。それをこ のように見事に繋いでみせた編集も素晴らしいものだった。 それにしても、ジーンズの最初の旅先であるギリシャのサン トリーニ島の風景がこの上なく美しく、この物語の開幕には 最高のものに感じられた。 『ビタースイート』“濃厚不倫 とられた女” 国映/新東宝製作によるピンク映画が一般上映されることに なり、試写会が催された。なお、一般上映に当って題名が変 更されるということだ。 同様に一般上映されるピンク映画の試写会は何本か見ている が、今まではなんと言うか、ピンクなのか一般なのか中途半 端な作品が多い感じで、正直に言って気に入った作品は少な かった。 しかし今回は、4月に紹介したドキュメンタリーの『ピンク リボン』でも中心的に取り上げられていた女池充監督の作品 で、さすがに今一番人気の高い監督の作品という感じのもの だった。特に間違いなくピンク映画という作品なのが良い感 じでもあった。 主人公は結婚を控えた若い女性。その彼女が婚姻届けの用紙 をもらいに行った区役所で、次に来た男が離婚届けをもらう のを見てしまう。その後、以前の同僚の女性と会食した彼女 は、その店のオーナーシェフが次に来た男性であることに気 付く。 一方、オーナーシェフの男には離れて住む妻子がいたが、妻 との関係は冷え切っている。その妻は親友だった男の彼女を 奪ったもので、以来10年近くが経って、今ではその親友は堕 落して酒浸りの生活となっている。そして… ピンク映画の物語をだらだらと書いても仕方がないとは思う が、この複雑な人間関係の物語を、58分の上映時間の中で、 しかも幾度ものベッドシーンを織り込んで描いているのだか ら、この構成力というか、物語をまとめ上げる力は大したも のだと思う。 言い古されたフレーズだが、たかがピンク、されどピンクと 言うところだろう。 因に女池監督は、ピンク映画の監督としては初めて、文化庁 の新進芸術家海外留学制度の芸術家在外研修員として昨年秋 からニューヨークに留学中だそうで、今年10月に予定されて いる帰国後にどのような作品を生み出すか注目されていると いうことだ。 またこの作品は、今年6月に急逝したピンク女優の林由美香 が出演していることでも話題になっている。 『探偵事務所5』 永瀬正敏主演による『濱マイク』シリーズなど、現代劇の探 偵ものを数多く手掛けている林海象監督の集大成とも言える 作品。 舞台は川崎。数字の5をあしらった古風なエンブレムを掲げ る探偵事務所があり、そこには5で始まる3桁の番号で呼ば れる探偵たちが所属している。入り口には517番の女性がい て、その背後には各人の現在の活動状況を示す巨大な掲示板 が設置されている。 物語は2部構成で、第1部は成宮寛貴扮する新人探偵591の 初仕事が描かれる。それは会長の孫と名告る宍戸瞳が依頼し た案件で、彼女のタレント志望の親友の行方を探すというも の。因に会長の500番は宍戸錠その人であり、ナレーション も務めている。 調査を進めるうち、その陰に巨大整形外科クリニックの存在 が現れる。そこは内科医の男が創設したものの事故続きで、 その後アメリカ帰りの女医を看板に据えて繁盛し始めたとい う。しかし、入退院の人数の不一致や犯罪者絡みの問題など 怪しい噂も尽きない。 そして、依頼者の宍戸瞳や先輩探偵たちの支援のもと、調査 は進んで行くが… 第2部は宮迫博之扮する浮気調査専門のベテラン探偵522の 物語。彼は探偵家業は生活のための手段とうそぶくような男 だったが、実は事務所の許可を受けて巨大整形外科クリニッ クの調査も続けていた。 そんな彼には、怪しげな秘密兵器を開発する町工場や、情報 屋兼鍵の専門家や、内偵などの多彩な協力者もいた。そこに 探偵591や宍戸瞳も加わって、遂にクリニックの息の根を止 める作戦が開始されるが… マンガチックというよりは、アニメチックに近い活劇調の探 偵物語。荒唐無稽な部分もいろいろあるけれど、それなりに センスは良いし、特に第2部の人情味ある物語は、さすが大 ベテランの作品という感じだ。 と言っても僕は、林作品は『ZIPANG』と『Cat’s Eye』ぐらいしか見ていないのだが…やたらと凝った設 定の探偵七つ道具や走り回るレトロな国産車などは、なるほ どこれが海象ワールドなのだなと感じさせてくれた。 多彩なゲストや友情出演もあるし、また主要な出演者では、 田中美里が偏執的な女医役を演じているが、どうやら彼女の 作品歴からは、主演作品が1本消されてしまったようだ。 なお、このシリーズでは、『濱マイク』と同時期の2002年に 北村一輝主演の『探偵551』と、2003年にともさかりえ主 演の『黒の女』(探偵661)のいずれも短編2作が製作さ れており、今後もウェブ公開向けに短編の連作が予定されて いるようだ。どうせなら、このままテレビシリーズ化しても 行けるようにも思えたが。
2005年09月29日(木) |
ミート・ザ・ペアレンツ2、欲望、もっこす元気な愛、ダウン・イン・ザ・バレー、ベルベット・レイン、シルバーホーク、デッドライン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ミート・ザ・ペアレンツ2』“Meet the Fockers” ジェイ・ローチ監督、ベン・スティラー、ロバート・デ=ニ ーロの共演で、2000年に大ヒットを記録したコメディ“Meet the Parents”の続編。 前作で、元CIA尋問官で超堅物の彼女の父親を懐柔し、結 婚の許可を取り付けることに成功した主人公だったが、次な る難問は超自然派の自分の両親に堅物親父を引き合わせるこ とだった。 前作の最後で、デ=ニーロ扮する彼女の父親が「自分の子供 にGaylord(主人公の本名)なんて付ける親はどんな奴なん だ」とつぶやくシーンがあり、今回はその名付けの主との対 面の話となったものだ。 出演は、デ=ニーロ、スティラー、ブライス・ダナー、テリ ー・ポロの前作のメムバーに加えて、主人公の両親役にダス ティン・ホフマンと、これが8年ぶりの映画出演となったバ ーブラ・ストレイサンド。 因に監督のローチは、本作のために『銀河ヒッチハイク・ガ イド』を降板したものだが、この顔ぶれを演出できるならそ れも仕方がないというところだろう。特にホフマンとストレ イサンドの名演技ぶりは、デ=ニーロもたじたじという感じ だった。 物語の中で主人公は、両親を弁護士と医者と紹介しているの だが、実は父親は元弁護士だが、主人公が生まれたときに仕 事を辞めて現在は自然農園を営みながらの主夫業に徹し、一 方の母親は、高齢者向けのセックスカウンセリングを本業と しているというもの。 この柔軟な両親と堅物親父とが、どうやって融和して行くか が今回のメインテーマとなるものだ。そしてこれに、いわく ありげな彼の家の元メイドとその一人息子や、堅物親父が厳 格教育中の幼児、それに両家の犬猫までもが加わって、大混 乱が勃発する。 前作では、デ=ニーロとスティラーが、裏を掻いたり掻かれ たりの虚々実々駆け引きが面白かった記憶があるが、本作は もっとストレートに、ちょっとした行き違いが生じさせる普 遍的なコメディという感じのものだ。 その普遍的な分で、アメリカでは‘大’ヒットという感じに はならなかったようだが、お陰で日本人にも判りやすいコメ ディにはなっている。 また、ストレイサンドの役柄の関係で、艶笑コメディと呼び たくなるほどのかなりきわどい台詞や演技も頻出するが、そ れでもアメリカでR−13指定で済んでいるのは、演じている 人たちの人徳の成せる技というところだろうか。 以下、ネタばれがあります。 なお、試写会の後で、デ=ニーロの後半の心変りの説明がい い加減だと怒っている人がいたが、これだけのことで自分を 正せる人物には、僕は男のロマンのようなものを感じて逆に 憧れを持つものだ。でも、それを理解できない人もいること には、気を留める必要がありそうだ。
『欲望』 小池真理子原作の映画化。同じ原作者の映画化は、今年2月 に紹介した短編集『フィーメイル』の一篇を見ているが、長 編映画化は今回が初めてのようだ。 『知的悪女のすすめ』が有名な小池は、確か創作の第1作が ミステリーだった筈で、今回の映画化に対してはその方向の 期待も持って見に行ったのだが、何と言うか男性の僕にはち ょっと判りにくい作品だった。 主人公は妻子ある男性との不倫関係に甘んじている学校図書 館司書の女性。 彼女には学生時代に仲の良かった男女の仲間がいて、その1 人でピアニストを目指していた女性が年の離れた資産家の精 神科医と結婚することになる。そしてその自宅で催されたパ ーティで男性とも再会する。 その男性はピアニストの女性に恋心を持っていたように見え るが、実は交通事故で男性機能が不全となり、その時、見舞 いに来た主人公を襲ったものの何もできなかった思い出があ る。そして3人はその時から疎遠になっていったのだった。 一方、ピアニストの女性も、今は何不自由の無い生活ではあ るものの、老齢の夫は彼女の肉体を求めることはなく、不能 かとも思っているのだが…しかし夫の身の回りの世話をする 住み込みの女性との関係に不信なものも感じている。 これだけの材料が揃えば、いろいろと「火曜サスペンス」ば りのミステリーが想像できるところだが、この映画では、謎 はあってもサスペンスやミステリーには向かわない。あくま でも、主人公の女性の心の襞を描く作品だ。 ところがこの主人公の心の襞が、正直に言って男性の僕には 感情移入を拒否されたような感じで、見ている間は疎外感す ら感じたものだ。実際の女性の観客がどう感じるかは判らな いが、僕が見る限りでは、見事に女性映画と呼ぶ他はないこ とになりそうだ。 原作が発表されたのは1998年ということで、最近問題にされ ている男性の機能不全の問題がほぼ無視されているのが、残 念というか多少疑問にも感じてしまうところだが、それも女 性映画だから…というところだろうか。 なお、ピアニストの夫が求めなかった理由は、最後にそのヒ ントがあるように思えるが、そのヒントの通りなら、それは 哀しいものだった。
『もっこす元気な愛』 脳性マヒのために両腕と言語に障害のある男性と、健常者の 女性との結婚にいたる道を描いたドキュメンタリー作品。 主人公は生後すぐに原因不明の高熱に犯され、両腕と言語に 障害を持ったまま成長した。しかし自立心の強い彼は、学業 を終えると仲間と共に独立の作業所を創設し、もちろん周囲 の人の協力もあるのだろうが、それなりに生活の基盤を築い ている。 そんな彼が健常者の女性と出会い、一緒に暮らすようになる が、ひとり娘の行く末を案じる母親は彼らの結婚には大反対 だ。これに対して彼は、運転免許を取得して自分が独立した 人間であることを証明しようとする。 脳性マヒの人を描いた作品は、一昨年の『ジョゼ』や昨年の 『オアシス』などドラマで描かれたものは見ているが、ドラ マであれば演出によって描けるものがドキュメンタリーでは 逆に制約によって描きづらいことはあると思う。 しかしこの作品は、テーマを最小限に絞ることによって、見 事に現代が抱える問題点を浮き彫りにしてくる。それも、社 会性の強いテーマを一旦個人レベルに落として、そこから主 人公と共に観客も見つめられるようにする、その描き方が実 にうまい。 また、この手のドキュメンタリーではよくあることかも知れ ないが、登場人物たちが普段の生活では実に屈託なく描かれ ている。しかしその陰に潜む彼らの苦しみは計り知れないも のがある訳で、その彼らが感情を露にするシーンの感動はこ の上無いものになる。 健常者である自分には、多分見る目に奢りがあると思う。し かしそんな目を通しても、彼らの気持ちを感じ取れるのは、 この作品の制作者(監督)の丁寧な仕事によるところが大き いのだろう。何にしても感動を共有できることは素晴らしい ことだ。 監督の作品リストから見ると、この作品にはそれほどの製作 時間は掛けられていないように見える。しかしその中で、こ こまで登場人物の中に入り込んで、その主張を映像化してみ せることは並大抵のことではないだろう。それを実現してい ることにも感心した。
『ダウン・イン・ザ・バレー』“Down in the Valley” ロサンゼルス郊外のサンフェルナンド・バレーを舞台に、そ の町で父親と共に暮らす姉弟と、そこにふらりと現れた謎の 男との交流を描いたドラマ。 典型的な郊外住宅地、町の中央には12車線のフリーウェイが 通り、人々の生活は中流を絵に書いたようなもの。主人公の 17歳の少女トーブはそんな生活に飽き足らないが、だからと 言って何をする目的もない。 そんな彼女がガソリンスタンドで働くカウボーイスタイルの 男を目に留める。彼をビーチに誘った彼女は、初めて海を見 たと言ってはしゃぐ男に憧れの男性像を感じ、瞬くうちに親 密な関係となる。そして男もそんな彼女の想いに応えようと する。 しかし彼女には、刑務官を務める厳格な父親がいて、彼女が そのような男とつきあうことには大反対だ。これに対して男 は、父親にも誠意を持って接しようとするのだが…いろいろ な行き違いが起こり、大きな事件へと発展して行く。 この謎の男をエドワード・ノートンが演じ、脚本に惚れ込ん で製作も買って出たという彼は、時代に取り残されたように カウボーイとして生きる男性を、見事な手綱捌きや拳銃の早 打ちなど織り込みながら丁寧に描き上げている。 映画の中ではジョン・フォード監督へのオマージュ的なシー ンも見られ、現代の西部劇という意味合いの強い作品に見え る。しかし西部劇が現代に通用し辛くなったのと同様に、こ の映画の主人公のカウボーイも現代からは疎外されている。 ただしそこには、そんなカウボーイにも憧れを持ってくれる 子供たちがいて、そこに活路を見いだしたいのだが、結局は それも現実という壁に阻まれてしまう。 見事に現代の西部劇の立場に準えることのできる作品とも言 えそうだが、実はそれは西部劇(カウボーイ)だけの問題で はなく、現代人の、現代社会のあらゆるところに存在する問 題でもあるようにも感じられる。 確かに12車線のフリーウェイは立派だが、それはただ人や物 資が通り過ぎて行くだけのもので、地元には大した恩恵もも たらしてはいない。多分そんなところからも人々の疎外感は 生まれるのだろう。血の通わない現代文明を見事に描いた作 品とも言えそうだ。
『ベルベット・レイン』“紅湖” 原題は、香港の裏社会を指す言葉だそうだ。その原題の指す 通り、香港の裏社会にうごめく男たちの生き様を、ベテラン のアンディ・ラウ、ジャッキー・チュンと、若手のショーン ・ユー、エディソン・チャンの共演で描いた作品。 香港の裏社会に君臨するラウ扮するホンと、その用心棒のチ ュン扮するレフティ。2人はチンピラ時代から一緒で、以来 レフティはホンに陰のように付き添い、邪魔になる奴らを始 末してきた。そしてそのレフティの耳に、ホンへの刺客が放 たれたとの情報が入る。 一方、ユー扮するイックと、チャン扮するターボは裏社会の 底辺で暮らすチンピラ。一発大きな仕事で名を上げようとす るイックは、ターボの手引きで鉄砲玉を選ぶ抽選で当りを引 き、その副賞の娼婦ヨーヨーと一夜を過ごしながら殺しの秘 策を練る。 そんな時に、ホンの妻に赤ん坊が生まれ、病院を見舞ったレ フティはホンに海外へ身を隠すことを進言する。しかしそれ を聞き入れないホンに代って、レフティは配下の中で怪しい と睨んだ3人のボスの一家皆殺しを命令し、ホンの身の安全 を図ろうとする。 こうして血で血を洗う抗争が勃発するが… チンピラものは基本的に好きではないが、この映画ではさす がに四天王と呼ばれたラウ、チュンと、新四天王と呼ばれる ユー、チャンの演技でぐいぐいと引っ張られて、最後まで見 せられてしまった感じだ。 特にラウは、自ら製作総指揮も手掛ける力の入れようで、こ の映画の完成に大いに貢献している。因にタイトル及びポス ターに書かれた「紅湖」の毛筆の題字や、エンディングの歌 曲の作詞作曲も、ラウが手掛けたものだそうだ。 監督のウォン・ジンホーは、ヴィデオ監督の出身でこれが初 映画作品ということだが、映像的には、ちょっと凝り過ぎと いう感じの部分もないではないが、いろいろなテクニックを 使って面白く見せてくれた。 以下ネタばれがあります。 なお、物語は最後にちょっと仕掛けがあって、途中で何とな く変だなと感じていた部分が最後にどんぴしゃと納まる辺り は、僕には結構好ましい感じがしたものだ。かなりトリッキ ーで、多分先例のある手法だとは思うが、うまく自分のもの にしている感じがした。
『シルバーホーク』“飛鷹” 『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』『グリーン・デステ ィニー』でお馴染みのアジアのアクション女王ミッシェル・ ヨー製作・主演によるアクションアドヴェンチャー作品。 ヨー扮する主人公は、幼少の頃から少林寺に学び抜群の腕を 見せた女性。その腕ゆえに他の仲間からは引き離され、英才 教育を受けてきた。そしてその後は資産家の養女となり、今 ではセレブとして著名であると同時に、銀色のマスクで正体 を隠しシルバーホークと名告って正義のために戦うスーパー ヒロインともなっていた。 しかしそんなシルバーホークは、悪人たちの敵であると同時 に警察にとっても邪魔な存在であり、その彼女を捕えるため にリッチマン刑事が立ち上がる。彼は彼女が少林寺で共に学 んだ幼馴染みだったが… 一方、日本企業から新型の携帯電話が発売され、そのプロモ ーションが始まるが、その陰にその携帯電話の新機能を悪用 して世界支配を企む陰謀が進んでいた。果たしてシルバーホ ークは警察の追求をかわし陰謀を阻止することができるか。 ヨーは先にも書いたようにハリウッドでもアクション女優と して活躍しているが、ジャッキー・チェンなどに比べると、 やはり海外で主演を張れるまでには至っていない。これは多 分、彼女が東洋人でなくても非常に困難な道であると思われ るが、本作はその分を取り戻すかのような見事な女性主演の アクション作品だ。 ヨー主演のアクション作品では、先に『レジェンド−三蔵法 師の秘宝』という作品が公開されているが、本作もそれと同 様、ヨー自身の製作によるもので、勘繰れば多分ハリウッド で稼いだ金で自分好みの作品を作っているというところなの だろう。 しかしいずれの作品も、最近のハリウッド映画では中々見る ことのできなくなった生身中心のアクションであり、このよ うな伝統を守り続けているのも、彼女が使命と感じていると ころかも知れないものだ。 『レジェンド』で描いた伝奇世界に対して今回は近未来もの だが、いろいろ描かれるVFXや仕掛けも程よく決まってい るし、エンターテインメントとしては良くできた作品と言え るものだ。監督のジングル・マもそこそこのベテランで、こ の辺は手慣れている。 なお、日本企業の社長役で岩城滉一が登場。時節柄ちょっと 某首相に似た風貌がいろいろ皮肉に見えたのも面白かった。
『デッドライン』(タイ映画) タイ映画では、先に『風の前奏曲』を紹介したばかりだが、 文芸作品からアクションまでいろいろ公開してもらえるのは 嬉しいところだ。と言うところで本作は、国家的陰謀を背景 にした一大アクション巨編と呼んで良さそうな作品だ。 物語の一方の主人公は、国境地域で麻薬の取り締まりに当っ ていた国軍士官。しかし麻薬組織の本拠を突き止めて攻撃に 出たのも束の間、予想を超える反撃に遭い、本部への支援要 請も無視されたまま部下の多くを失ってしまう。 そして彼が首都バンコクに戻ったとき、彼を待っていたのは 軍司令官からの国家の窮状を救うためと称する秘密任務だっ た。 折しもタイでは、国家経済の破綻を避けるために国際通貨基 金(IMF)からの借款を前倒しで返済する作業が進んでい た。しかし、その政府方針に反対するグループには、暴力に 訴えてでも返済を阻止しようと目論む動きがあった。 そして、物語の他方の主人公は、バンコク警察の敏腕刑事。 彼は敵が繰り出す様々な攻撃をかわしつつ、敵の真の狙いを 探ろうとしていたが… この物語に、プロローグとなる国境ジャングルでの銃撃戦に 始まって、最後はバンコク一の繁華街と言われるバトムワン 交差点を完全封鎖しての大銃撃戦が彩りを添える。 タイ映画では、今までにも尋常でない火薬が使用される作品 を見てきたが、今回の特に最後の銃撃戦のシーンは半端では ない。しかもこの撮影には、14人の一線級の監督と10人のカ メラマン、15台のカメラ、それに6000人のエキストラが動員 されたというものだ。 以下、ネタばれがあります。 とまあ本作は、アクション映画としては見所満載の作品なの だが、実は映画を見終って物語がよく判らなかった。つまり 結末に向かって元国軍士官の主人公の行動の理由が充分に理 解できない。このため、何故最後の銃撃戦が起きてしまうの かが釈然としないのだ。 ここで推察するに、どうやら映画に描かれた作戦はすべて陽 動作戦で、その裏に隠された真の作戦を主人公はぎりぎりで 察知するのだが、その時には警察も信用できない状況にあっ て、主人公はやむなくその作戦を阻止するため無謀な銃撃戦 に打って出る…と言うことのようなのだが、この推論に達す るのに僕は丸2日掛かってしまった。 ただしこれも、こう考えれば辻つまは合うという程度のもの で、これが正しいかどうかは判らない。他に説明がつくかど うかは、見て考えていただきたいというところだ。それにし ても映画の中で、もう少しは説明が欲しかった。 因に、上記のタイ国とIMFの関係は実話で、IMFに関し ては以前にドキュメンタリーの『楽園の真実』の紹介でも言 及したが、かなり片寄ったものであることは事実のようだ。 従って政府が行った前倒し返済は正しい政策だったのだが、 不正の温床とも言われるIMFの関連では、その裏でこの映 画のような事態が起きる可能性はあったとされる。 一見絵空事のような物語だが、実は小国の国家体制の脆弱さ を見事に描いた作品とも言えるものなのだ。このことに関し ては、このような仮定の映画が作られても、タイ政府からは 何のクレームもつかなかったことが、無言の証明になってい るとも言われているそうだ。
2005年09月28日(水) |
Movies−High 6 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、毎年招待を受けているNWC(ニュー※ ※シネマワークショップ)の新作発表会に今年も出席させ※ ※てもらったので、その感想を述べさせていただきます。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今年のMovies−High 6では、特別プログラムと してプロの監督が講師となっている演技クラスの作品も上映 された。 作品は、『青空のゆくえ』を7月に紹介した長澤雅彦監督に よる6本と、古厩智之監督の4本、五十嵐匠監督の2本、富 樫森監督の4本だが、これらの作品はプロの脚本演出による ものであり、また、監督たちはこのような上映を想定してい なかったと思われるので、詳しく紹介することは遠慮する。 しかしそれぞれさすがプロという感じがしたものだ。 特に、長澤監督の6本は、全体を『Doors』というタイ トルで括った連作になっており、それぞれは短編と言うより ショートショートと呼びたくなる長さの作品だが、機知に富 んだもので、このままフィルムで撮り直して一般上映してほ しくなるような作品だった。 他の3人の監督の作品も、それぞれ短編映画としてきっちり と纏まったものだったが、その中で古厩監督の4本は見事な 会話劇で、学んでいるとは言え、まだプロではない出演者た ちにこれだけの演技をさせていることにも感心した。 全体を通して演技の質はかなり高く、一部日本映画の飛んで もない演技を見せられている目には心地よく感じられ、来年 もこの企画は続けてもらいたいと思ったものだ。 と言うことで、以下には今回上映された12人の新人監督の作 品の感想を述べさせていただきます。 『ボクと彼女とりんご』 何となく倦怠期の2人。ちょっとしたことで口喧嘩になった り、会話もちぐはぐになっているが、些細な出来事でその関 係が元に戻って行く。 青春にありがちな風景のスケッチかも知れないが、多分、そ の青春真っ只中にいる監督の感性が、素敵な物語を作り出し ている。実は男性が遭遇した出来事は、そんなに些細なこと ではないのだが、そんなことはどうでも良くなってしまうよ うな最後の会話が、見事に映画を締め括っている。躊躇なく 好きと言える作品だろう。 『ソーダポップホリデー』 大学3年だが、生活実感のまるでない4人の女子学生の夏の 1日。セレブに憧れる4人は、着陸コースの真下の海岸から 手旗でパイロットに電話番号を伝えようとするが… こんな女子学生、本当にいるのかなと思いながらも、まあフ ィクションだからこの程度は許容できるかなと言うところだ ろう。その行為のむなしさに気付く辺りを、もう少し丁寧に 描いてもいいかなとも思える。また、本作はこれだけでも短 編として充分に成立してる作品ではあるが、逆にもっと長い 作品の途中に納めても良いような感じもする。そんな作品も 見てみたいと思った。 『GAME OVER』 青年実業家との結婚を控えた女性が誘拐されるが、誘拐の際 に携帯電話が紛失する。そこで犯人は彼女のうろ覚えの電話 番号に脅迫電話をかけるが… どじな誘拐事件とそれに振り回される人々を描くコメディは 有り勝ちなものと思うが、携帯電話の使い方とのその顛末に は新しいものを感じた。ただし結末は、これではちょっと単 純すぎていただけない。ここからもう一捻りするのがプロと 言えるかどうかの境界線だろう。それと、強迫された男と自 宅との距離関係が判りにくい。これなら、自宅まで走って確 認に行くような描写があっても良いような気もした。 『鳥』 物語は詩集を買わせてもらったので理解したが… ムビハイでは初めてのアニメーション作品。アニメーション を作ることの大変さは充分承知しているが、あえてムビハイ でやるものかどうかには疑問を感じた。アニメーションはプ ロの養成学校も多く、やるならそちらに行くべきだろう。正 直に言って技術的に特に優れているものとも思えなかった。 この詩集を基にするなら、実写でドキュメンタリーのような 作品にするのも手だったような感じもする。この詩の通りの 映像を実写で集めたら、それも素敵な作品になると思うが。 『一銭店屋の帰り道』 駄菓子屋の主人から特別にもらった特大のスーパーボール。 その大事な宝物を秘密基地に隠すことにした主人公は、早朝 家を抜け出して基地に向かう。 子供時代のいろいろな出来事をごった煮にしたような作品。 『スタンド・バイ・ミー』の幼年版というような感じもする が、ちょっと前半が長すぎる感じがした。もっと後半の冒険 に集中して描いたほうが素敵な作品になったと思うし、正直 後半があっけなかった。早朝子供を使っての撮影は大変だと 思うが、昼間を早朝に見せる方法はいろいろある訳で、その 辺も使えばもっと映画らしくなったような気もした。 『放課後とキャンディ』 クラスメイトの男子に密かな恋心を抱く主人公は、目指す相 手が日直の日に放課後まで教室に残って、彼にキャンディを 渡すチャンスを得る。 自分の中学生時代を思い出せば判るような初恋物語。わざと 窓の鍵を開けて、翌日も日直になるように仕向けたり、彼の 悪口をいう女子に思わずむきになったり。一方、もらったキ ャンディを奪われて取り戻すために蛮勇を振るったり…そん な青い思い出が蘇ってくる作品。とは言え、何か物足りなさ も感じてしまう。それは結局、青春という題材自体の中途半 端さ故のものであって、仕方のないのものなのだが。 『透明なシャッター』 主人公はカメラマン志望だったが、父親の病状が思わしくな くなり、夢を諦める決心をする。しかし父親が最後に彼に望 んだことは… 映像を学ぶ人たちだけあって、毎年1本はカメラマンを主人 公にした話があるような気がする。多分、心情とかも一番理 解しやすいのだろう。そして映画の中で作り手側の分身であ る息子は、父親の意見に従うつもりでも、そこに一婁の期待 も持っている。そして父親側の年代である自分(観客)は、 息子をこんな風に理解してやりたいと思っているのだが。作 り手の気持ちが、一番理解できた作品のように思えた。 『Nature Calls Me』 今回上映された中では唯一のSF作品。用を足すときにその 便座ごと大自然の中に瞬間移動する。そんな究極の癒し商品 「極楽便座」を巡って、欲と欲がぶつかりあう物語。 100万円はちょっと高いけれど、あったら欲しいかも知れな い商品。でも、明らかにPL法で取り締まられそうだ。単純 なアイデアストーリーとしては良いと思うし、捻りもいろい ろある。ただし時間の流れが無茶苦茶すぎて、その辺はもう 少し論理的な説明が欲しいところだ。CGIを使った映像は 見事なものだったし、技術的なレベルはOKだが、その分、 結末が物足りなく感じられてしまったのは残念だ。 『痩せる薬』 娘がいじめに合っている家庭。嫌がらせの郵便物も数多く届 き、それを詰めた段ボール箱が部屋中に堆く積まれている。 そして遂に娘は復讐の手を打つが… いじめというのは当事者でないと判らないものだと思うが。 本作ではそれを戯画化して描こうとしている。それ自体はか まわないが、どうせやるなら、もっと徹底的に段ボール箱の 数を増やして、徐々に家庭が浸食されていく様子や、最後に 押しつぶされそうになる姿まで描いたほうが良かったのでは ないかと思った。正直に言って復讐の手口は実際にあったも のだし、それを描くだけでは物足りないと感じるものだ。 『マリアンヌの埋葬』 何となく出会ってつきあった女子高生。つながりはそれで終 りのはずだった。その日、彼女から道端で見つけた猫の死体 の始末をしてくれと頼まれるまでは… 遊びに明け暮れてドライに生きていると思われる女子高生。 しかし優しさも少しは残っていて、道端の猫の死体は放置し ておけない。でも頼める相手は誰もいなくて、結局その日つ きあった男性に電話をしてしまう。僕はこの映画の中に、そ んな現代人の孤独を感じた。そしてそんな女性に、明らかに 下心抜きでつきあってやる、そんな男の優しさにも良いもの を感じた。この線で人間を見詰めていってほしいものだ。こ の作品も躊躇なく好きと言える。 『チェリーハイツ』 アパートの隣の住人が怪しい。ベランダの植物は枯れたし、 電気ガスは止められて変な匂いも漂ってくる。主人公は友人 を誘ってその部屋を調べようとするが… 本当にありそうな物語。異臭がして入ってみると死体を発見 なんてニュースは日常茶飯時だ。そんな事態に遭遇した人物 を、如何にもありそうに描いている。最初はおっかなびっく りでも、だんだん大胆になって行く。しかも入って見た部屋 は異常この上ない様子になっている。そんな捻りも結構楽し めた。主人公が女子というのもありそうで、男だったらまず こんなことはしない。そんな風にも考えた。 『扉よ開け』 オカルトホラー感覚の作品。主人公は愛猫家のごく普通の若 者だが、黒魔術の同好会にも入っている。その会に悪魔と取 り引きしたという謎の男が現れて… 恐怖は映画の原点の一つというのは、この作品の監督も心得 ているようだ。それはその通りだが、安易にアクションやス プラッターに逃げてしまっては、その志もあやふやになる。 本作では、特に主人公も含めて簡単に殺されすぎだ。これは 結末に対する監督の考え方もあると思うが、つまり監督の言 うところのハッピーエンドにしすぎなのだ。この物語は、本 来は悪魔との取り引き者は誰なのかを決めるものであり、そ のためには全員がハッピーになってはおかしい。ハッピーエ ンドは主人公と猫のチンペイだけに絞って、他は全員不幸な エンディングの方が良かったと思うが、どうだろうか。 以上、12作品への感想とします。 なお、SFホラー関係の作品には、自分なりの思い入れがあ りますので、多少厳しいと思いますがごめんなさい。でも、 『扉よ開け』の監督も言っているように、ホラーは映画の原 点の一つでもありますので、できれば毎年挑戦してくれるこ とを期待します。 来年もよろしくお願いします。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 最初は訃報から。 “West Side Story”や“The Sound of Music”の名匠ロ バート・ワイズ監督が亡くなった。前記の2作でのアカデミ ー賞監督賞受賞で知られるワイズ監督だが、SF/ファンタ シー映画ファンには、やはり1951年の“The Day the Earth Stood Still”、1971年の“The Andromeda Strain”、1979 年の“Star Trek−The Motion Picture”で印象深い。因に ワイズ監督は、RKO映画の編集室でオースン・ウェルズ監 督の“Citizen Kane”などの編集を担当した後に、1944年の “The Curse of the Cat People”で前任者が降板したこと から、それを引き継ぐ形で監督業に進出。翌年にはボリス・ カーロフ、ベラ・ルゴシ共演で、ロバート・ルイス・スティ ーヴンスンの短編小説を映画化した“The Body Snatcher” を手掛けるなどホラー畑でスタートした人だった。そしてそ の後も、1963年には99年にヤン・デボン監督がリメイクした “The Haunting”(たたり)や、77年にも“Audrey Rose” を手掛けており、ホラーの道も踏み外さなかった人だ。 晩年は、確か監督協会の会長も務めていたはずだし、功な り名を遂げた感じだろう。91歳の年齢も正に天寿という感じ のするものだ。ご冥福をお祈りしたい。 * * 続いては記者会見の話題で、10月公開の“Stealth”(ス テルス)に関連して主演ジェシカ・ビールと監督ロブ・コー エンの来日記者会見が行われた。僕はこの作品に関しては、 8月14日付の映画紹介にも書いたように扱いに苦慮したもの だが、それは別として会見で述べた監督の映画に対する考え 方には多少興味を引かれたので、ここで紹介しておきたい。 その一つ目は、記者団からの「いつもスピードをテーマに しているようだが何故か」という質問に答えたもので、その 答えは、「中学生の頃にアインシュタインの相対性理論を学 んで、速度が速くなると時間が長くなるという関係に興味を 持った。それは映画に通じるところもあるし、自分にとって スピードは最も重要なものだ」ということだ。ここで相対性 理論が出てくるとは思わなかったが、この他にも本作で自信 のあるシーンとして、CGIのステルス機を実写の航空母艦 に着艦させるシーンを挙げるなど、どちらかというと文科系 より理科系の話題の方が好きな人に見えた。まあそれは、映 画を見ていても感じられるところではあったが。 ちょっとネタバレあります。 しかしその一方で、エンディングロールの後での続編への 繋ぎを思わせるシーンについては、「『精神の不滅』を描き たかったもので、続編を作る考えはまったく無い。過去に自 分の作品の続編にも関わらなかったし、大体続編で優れてい ると言えるのは、“Spider-Man 2”と“Godfather 2”ぐら いなもので、その他にはろくな作品が無い」と言う考えだそ うだ。これも予想された答えではあったが、精神の不滅論の 辺りはちょっと興味を引かれた。これらを踏まえて、次回作 には本格的な未来SFなども期待したいものだ。 ということで、以下は製作ニュースを紹介しよう。 * * まずは、“War of the Worlds”が予想以上の大ヒットと なったパラマウント=ドリームワークスから共同製作でもう 1本、“War of…”のオリジナル版が映画化された1953年の 前々年に同じくジョージ・パルが製作したフィリップ・ワイ リー原作“When the Worlds Collide”(地球最後の日)を リメイクする計画が発表された。 この計画については、4月15日付第85回でも紹介したが、 元々はオリジナルを製作したパラマウントが単独で進めてい たもので、4月の段階ではスティーヴン・ソマーズ製作、脚 本、監督による計画のスタートが報告されていた。しかし、 その後にソマーズ監督が他社作品への参加を決定して降板、 監督不在となってしまった。そこに“War of…”の大ヒット で、同じ流れを汲む体制での計画が検討されることになった もののようだ。 オリジナルの物語は、地球と同じ大きさの遊星が宇宙の彼 方から飛来し、その重力の関係から地球が弾き飛ばされて、 地球軌道には飛来した遊星が留まることが判明する。そこで 人類は宇宙船を製作して遊星への移住を計画するが、その船 に乗れるのは一握りの選ばれた人たちだけだった…というも の。地球を襲う大災厄や大型宇宙船の離陸の大特撮が話題と なった作品だ。因に前回は、1998年に同じくパラマウント= ドリームワークスで共同製作された“Deep Impact”の原作 と紹介したが、今回の報道ではこの作品からのインスパイア だったとされていた。 そこで、このオリジナルと“Deep…”の関係では、例えば オリジナルでニューヨークを襲う津波のシーンは特殊効果の 研究書に連続写真で紹介されるほど話題となったものだが、 このシーンは“Deep…”でも再現されていたものだ。また、 選ばれた人々だけがシェルターに入れるという考え方もオリ ジナルを参考にしたものと考えられる。しかし“Deep…”で は、人類の生き残りが新惑星に移住するという肝心の部分が 削除されたもので、今回がインスパイアではなくリメイクと するのならば、この辺も確実に再現してもらいたいと思うも のだ。特に、大型宇宙船の離陸のシーンが最新のVFXでど のように描かれるかも楽しみになるところだ。 ただし計画の進行状況は、現在はまだ脚本家の選考中とい うことで、またスティーヴン・スピルバーグの監督も未定の ようだ。 ところで、今回のVariety紙などの報道では、オリジナル がルドルフ・マテ監督作品であることは報告されていたが、 パルの製作であることは一言も記載されていなかった。実は “War of…”のリメイクの時も、一応パルの名前は出ている ものの、ほとんどはオースン・ウェルズのラジオドラマの話 題で、出来るだけパルには触れないようにしている雰囲気が あった。確かにパラマウントとパルの関係では、その後にパ ルはMGMに移籍してしまったりもしたものだが、そんなこ とでパルの名前を消そうとしているのか、そんなことを勘繰 りたくもなったところだ。 * * ついでにもう一つ“War of the Worlds”に関連した話題 で、27年前に作曲家のジェフ・ウェインが発表したミュージ カル版の“The War of the Worlds”を、中国で本格的な舞 台演出で公演する計画が発表されている。 この計画は、中国のM−スターという会社が進めているも ので、1800万ドルの製作費を掛けて2007年の中国の旧暦新年 に北京で開幕し、2008年の北京オリンピックの宣伝も兼ねて 世界ツアーを行う予定というものだ。そしてこの舞台には、 高さ30フィートに及ぶ5台のウォーマシンや、テムズ河口で そのウォーマシンに挑んだ蒸気船サンダーチャイルドの雄姿 も再現され、また、オリジナルのプロモーションでリチャー ド・バートンが演じている姿を、ホログラフィック映像で舞 台上に再現する計画もあるということだ。 一方、ウェインのオリジナルアルバムは、今年6月にCD で再販売され、イギリスではアルバムチャートのトップ10に 再登場するなどのヒットを記録、来年6月からはウェイン指 揮によるコンサートツアーも計画されているそうだ。また、 ダーク・ホースコミックスがアルバムのジャケットアートを 元にした期間限定のコミックスの計画を進めており、さらに ウェインが今年10月から製作開始を計画しているCGIによ る全16話のアニメーションシリーズにも、ダーク・ホースコ ミックス側から参画の期待が寄せられているようだ。 因に、ウェインのアルバムは、1970年代半ばにウェインと 彼の父親がウェルズの遺族から、原作小説の再版権と1953年 にパラマウントが契約した映画化権を除く全ての権利を獲得 して実現したもので、19世紀末のヴィクトリア王朝時代のロ ンドンを舞台にし、H・G・ウェルズが描いた世界をそのま ま表現しているものだ。 そして今回の映画化との関係では、昨年パラマウントとウ ェイン側のマネージャーとの間で、権利の相互利用の契約が 結ばれ、その中でパラマウント側は映画に基づくサウンドト ラックCDなどの商品化の権利を獲得したのに対して、ウェ イン側は、ミュージカル版に基づくテレビ及び映画の映像化 権を獲得している。つまりこれによって、ミュージカル版の 映画化も可能になるようだ。またこれに関連して、新たなア ルバムCDを含むボックスセットの発売も計画され、その中 に封入される予定の80ページのブックレットには、オリジナ ルアルバムに触発されて、「ユニークで映像的な映画を作り たい」とする1979年11月23日付のスピルバーグ監督からの手 紙も紹介されているそうだ。 いずれにしても今回のスピルバーグの映画化については、 大ヒットの事実は認めるが、せっかくあそこまでの映像を描 きながら、何故19世紀末のヴィクトリア王朝時代のロンドン を舞台にしなかったのかが残念に思えたもので、それがいつ の日か、ミュージカル版で見られる可能性があることには期 待を持ちたいものだ。 * * お次は、いよいよ10月1日の新会社ワインスタインCo.発 足が目前になってきたワインスタイン兄弟の情報で、エルモ ア・レナード原作の“Killshot”というミステリー小説を、 ダイアン・レイン、トーマス・ジェーン、ミッキー・ローク の共演で映画化する計画が発表されている。 この計画は、元々は“Shakespeare in Love”(恋に落ち たシェイクスピア)のジョン・マッデン監督が今年1月に、 “The Wings of the Dove”(鳩の翼)の脚本家ホッセイン ・アミニ、“The Passion of the Christ”(パッション) の撮影を担当したケイレブ・デシャネルらと共に、当時のミ ラマックスと契約を結んでいたもので、その後のワインスタ イン兄弟の独立で権利が兄弟に移管されていた。そして今回 は、新会社の正式発足に先駆けてその配役が発表され、10月 にトロントで撮影開始と予告されたものだ。 物語は、不動産仲介業者の女性が夫と共に仕掛けた大きな 勝負に失敗し、さらに政府の目撃者保護プログラムの適用を 受ける羽目に陥り、殺し屋たちの標的リストにも載ってしま うというもの。この夫婦をレインとジェーンが演じ、夫婦を 執拗に追う殺し屋の一人をロークが演じるようだ。 なお、映画化の製作は“The Cider House Rules”などの リチャード・グラッドスタイン主宰のプロダクションが担当 しているということで、全体的には文学的な作品になりそう だが、製作総指揮はなぜかクウェンティン・タランティーノ が担当しており、その微妙な影響力が面白くなりそうだ。 因に、ワインスタインCo.の製作リストでは、本作の他に も、続編の“Sin City 2”とホラー映画の“Wolf Creek”、 さらにスティーヴン・フリアーズ監督による“Mrs.Hederson Presents”などがすでに掲載されているということだ。 * * お次は、ドッグ・ショウに出場する愛犬家の実体を描いた 2000年の“Best in Show”(ドッグ・ショウ)や、音楽業界 の裏側を描いた2003年“A Mighty Wind”(みんなのうた) で、mockumentary(フェイクのドキュメンタリー)という新 分野を確立したクリストファー・ゲストとユージン・レヴィ のコンビが、次回作ではいよいよ映画製作を題材にすること が発表された。 この作品の題名は、“For Your Consideration”。これは アカデミー賞やその他の賞レース期間中の映画広告によく使 われるキャッチフレーズで、作品に少しでも注目を集めよう とする決まり文句のようなものだ。そして物語は、小規模な インディーズ作品に出演した3人の俳優が、その演技が賞に 値するとの評価が集まったことから賞レースに名告りを挙げ ることになり、それによって生活が一変してしまうというも の。その様子を皮肉たっぷりに描くものになりそうだ。 脚本はいつもの通りゲストとレヴィの共同で、監督はゲス トが担当。また配役では、キャサリン・オハラ、パーカー・ ポージー、ハリー・シェアラーの彼らの映画の常連3人が3 人の俳優を演じるほか、ボブ・バラバン、ジェニファー・ク ーリッジ、マイクル・マッキーン、フレッド・ウィラードら が共演、さらにゲストが劇中劇のインディーズ映画の監督も 演じ、レヴィはエージェント、リッキー・ガーヴェイズが映 画会社の製作担当重役を演じる。 因に、劇中劇の映画は“Home for Purim”という題名のも ので、1940年代の南部を舞台にした尋常でなく貧相な脚本の メロドラマ。とてもこれが俳優たちの人生を変えるとは思え ない代物だそうだが、当然この脚本もゲストとレヴィの手に なるもので、実はこの脚本を書いているときが2人は一番楽 しめたそうだ。 また彼らの作品は、今まではワーナーブラザース本社が配 給していたものだが、この作品からアメリカ配給はワーナー の子会社でインディーズ寄りの特別な作品を扱うワーナー・ インディペンデンスが担当することになっている。この扱い について、ゲストは今まで本社が配給していた方が変だった もので、この方がしっくり来ると歓迎しているそうだ。 アメリカ公開は2006年秋の予定になっている。 * * 続いては、2007年5月4日の全米封切りが発表されている “Spider-Man 3”で、敵役の配役に噂が広まっている。 このシリーズでは、第1作はウィレム・デフォー扮するグ リーン・ゴブリン、第2作ではアルフレッド・モリーナのド クター・オクトパスと、毎回ちょっと捻った配役が注目を浴 びたものだが、噂によると第3作では、まず第1作から出演 のジェームズ・フランコがいよいよ父親の跡を継いだホッブ ゴブリン(グリーン・ゴブリン2ではないようだ)として登 場、また先に出演が発表されていた“Sideways”のトーマス ・ハイデン・チャーチがサンドマン、さらにヴェノムという 役柄でテレビで人気者のトッファー・グレイスの出演が噂さ れている。 因に、ヴェノムというキャラクターに関しては、以前から ニューラインで使用権が設定されていたものだったが、先に その契約の一部譲渡を受ける交渉が進められていたというこ とで、その交渉がまとまった直後にグレイスへの出演交渉が 行われたものだそうだ。 撮影開始は来年早々からと発表されているが、第2作では トビー・マクガイアが直前の作品で怪我をしたなどの都合で 3月からになったものの、第1作のときは1月8日に撮影開 始されており、そのスケジュールで考えると、現在流れてい る情報が確定となる可能性は高そうだ。 また、シリーズが終了かどうかは微妙になってきているよ うだが、取り敢えずはサム・ライミ監督による3部作の結末 をしっかりと見せてもらいたいものだ。 * * 全身麻痺との闘いの末、昨年秋に亡くなった元スーパーマ ン俳優のクリストファー・リーヴが死の直前まで、自宅から のコンピュータ操作で監督を務めていた長編アニメーション 作品“Yankee Irving”に、多彩な声の出演者が集まってい る。 この作品は、1932年のワールドシリーズに出場するベーブ ・ルースにバットを返すために、全米横断の旅に出た一人の 少年の姿を描いたものということで、この話が実話に基づく ものかどうかは知らないが、何となくほのぼのとした冒険物 語になりそうだ。 そしてこの声の出演者に、『スタンド・バイ・ミー』など の監督でもあるロブ・ライナー、オスカー女優のウーピー・ ゴールドバーグ、『コクーン』などのブライアン・デネー、 『エアフォース・ワン』などのウィリアム・H・メイシー、 『ルル・オン・ザ・ブリッジ』などのマンディ・パティンキ ン、ダナ・リーヴ(未亡人)、『オースティン・パワーズ』 などのロバート・ワグナー、さらにニューヨーク・ヤンキー ス監督のジョー・トーレの参加も発表されている。 製作はインディペンデンスで行われているようだが、ぜひ とも見たい作品で、完成されたらどこかの配給会社がついて くれることを祈りたいものだ。 * * ソニーで進められている007最新作“Casino Royale” の脚本のリライトに“Million Dollar Baby”のポール・ハ ッギスの起用が発表されている。 この新作では、“Goldeneye”を手掛けたマーティン・キ ャムベルの監督はすでに決定されているが、用意されていた ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドの脚本が完成され なかったようで、新たにハッギスの起用で準備を進めること になったものだ。 一方、この映画化に関しては肝心の主演が未定のままで、 取り敢えず前作までのピアーズ・ブロスナンに関しては、本 人が2500万ドルの出演料を要求して製作者側から断られたと いう話もあり、その他候補に挙がっている俳優も一朝一夕に は決まりそうもない。この状態で来年11月の公開ができるも のかどうか、かなり難しくなってきているようだ。 * * もう1本、ソニー=MGMの作品で、14世紀を舞台にした ファンタシー作品“Season of the Witch”の監督に、2001 年の怪作“Swordfish”などのドミニク・セナの起用が発表 された。 この計画は、元々は2003年にMGMが買い付けたブラーギ ・シュットのオリジナル脚本に基づくもので、14世紀のフラ ンスを舞台に、騎士たちの一団が魔法を使ったと告発された 女性を山の修道院に護送する任務を受けたことに始まる。一 方、その修道院の僧たちは、ぺストの原因と考えられている 彼女の力を封じようとしているが…というお話。契約から2 年ほどは動きが無かったが、MGMがソニーに買収されたこ とによって改めて陽の目を見ることになったようだ。 なおソニーでは、テリー・ギリアム監督の“The Brothers Grimm”などを手掛けたモザイクを製作会社に指名して映画 化を進めるということだ。 * * 最後に、ワーナーで長年進められてきたリチャード・マシ スン原作“I Am Legend”の3度目の映画化で、今年の春に キアヌ・リーヴス主演の“Constantine”を手掛けたフラン シス・ローレンス監督の起用が発表された。 この計画については、2002年4月1日付第12回でも紹介し ているが、今までリドリー・スコットとアーノルド・シュワ ルツェネッガー、マイクル・ベイとウィル・スミスなどさま ざまな組み合わせが発表されてきたが、実現しなかったもの だ。そこに今回は、取り敢えず監督の発表となったもので、 因にローレンスはヴィデオ監督の出身、“Constantine”が 初映画作品だったものだが、今回の計画ではバイオ戦争後の ロサンゼルスを舞台にするとなっており、彼の映像感覚がど のように発揮されるかにも興味が集まるところだ。 製作開始予定は、2006年となっている。
2005年09月14日(水) |
誰がために、風の前奏曲、セブンソード、ある子供、理想の恋人.com、イド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『誰がために』 少年犯罪被害者の遺族の心情を描いたドラマ。黒木和雄監督 作品などで助監督を務める日向寺太郎監督の第1回作品。 従来の少年非行とは全く異なる個人による殺人という形の少 年犯罪。神戸の事件以来顕在化したこの事象は、今も全く収 束せず連綿と続いている。 最近では長崎に事件において、その被害者の遺族が報道人で あったことからその心情も公開されているが、この場合は、 被害者と加害者が友人であったという事実に対し、それを普 遍化しようとする遺族のやり方がそぐわない感じがして、違 和感を感じるものだ。 それに対してこの映画では、全くの通り魔的殺人、しかも被 害者を成人女性として全くの普遍化を行っている。これこそ が自分たちも直面する可能性のある出来事であり、その遺族 の心情に近づけるものと言えそうだ。 主人公は、街で写真館を営む男性。ある日幼なじみだった女 性が連れてきた彼女の学友とつきあい始め、彼女の不幸な生 い立ちなどに触れるうちに結ばれる。そしていわゆる出来ち ゃった結婚となるが、周囲は彼の人柄などもあって歓迎され た結婚となる。 見よう見真似で彼の仕事を手伝いながら、赤ん坊の誕生を待 つ幸せな日々。しかしそれも束の間、買い物帰りに後を付け てきた少年に襲われ、命を絶たれてしまう。その少年はすぐ に逮捕されるが、少年法の壁によって被害者の遺族には審判 の傍聴も許されない。 これに対して主人公は、審判記録を読んだりもするが、彼の 心の中のわだかまりは消えることなく、彼の心の中では事件 は全く解決されぬままに時が過ぎて行くことになる。 そんな主人公に、一人のルポライターが接近し、彼に加害者 の情報を提供し始める。そして加害者が社会復帰して、何事 なかったように暮らしている事実を知らされる。 神戸の加害者の社会復帰は地元を離れてのようだが、社会的 に注目された事件でもない限り、この映画のように何事もな かったかのように元の生活に戻ってしまうケースは、今の日 本ではありうる話だろう。 またそれが離れた場所であったとしても、主人公の行動が制 約されるものでもない。そんな現実に起こりうる物語として 映画の後半は描かれる。 ここで主人公の取るべき行動はどのようなものであるか。主 人公自身は、一時を過ぎれば注目を浴びている訳でもなく、 そうなったときにこの映画に描かれた行動は、確かに自分で も取ってしまうかもしれないように感じられた。 2年ほど前に『息子のまなざし』というベルギー映画を紹介 している。そこでも、加害者と被害者の遺族の関係が描かれ ていたが、ある種の寛容をもってするベルギー作品には、こ こまでしなくてはいけないのか、という反発に似た感情も持 った記憶がある。 それに対してこの作品では、敢えて日本的とも言って良いよ うな主人公の行動がいちいち納得できた感じがした。一方で このようなことを個人でしなくては、自分が納得することも できない、それが日本の現実だということも教えられた感じ もしたものだ。 逆にこの事実を踏まえると、ベルギー作品では、あの様な寛 容の気持ちも持てる何かが社会的に存在するのではないか、 そんなことも考えたが、本作の舞台は東京の下町、その人情 の中でも、主人公の気持ちは変らないというのが現実なのだ ろう。 主人公を演じるのは浅野忠信。鋭い眼光と柔和な笑顔の交錯 が魅力的な俳優だが、実は数日後に『息子のまなざし』の監 督の新作の試写会に訪れていて、周りの人と気さくに話して いる姿に人柄を感じた。そんな普通の人間の姿がこの映画に も感じられたものだ。 『風の前奏曲』(タイ映画) タイの伝統的楽器ラナートの奏者ソーン師の生涯に基づくフ ィクションで描かれた作品。 1881年に生まれたソーンは、幼い頃からラナート演奏に才能 を見せるが、村落間の対抗戦まで行われる現実に嫌気を注す 父親=師匠との確執に悩まされる。しかし、彼の才能は父親 の純粋に音楽に掛ける想いも呼び起こし、音楽の道へと邁進 することになる。 やがて王族の演奏団にも招かれ、幾多の対抗戦を経て頂点に 上り詰めて行く彼だったが、その前に国の軍部が立ちはだか る。その軍部は、国家の近代化を旗印に、ラナート演奏を含 む伝統芸能を規制しようとしていた… ラナートは、船の形の台座に木琴をハンモック状に釣り下げ た楽器で、木琴より大きめのばちでたたいて演奏を行う。そ の演奏はテレビの紀行番組などで紹介を見たことがあるが、 柔らかな音色のいかにも南国を思わせる楽器だ。 しかし、この映画の中で描かれる対抗戦のシーンでは、そん な印象を一変させる激しい曲や、予想を越える見事な演奏テ クニックなども登場して、その演奏風景を見るだけでも充分 に楽しめる作品になっていた。 その一方で、19世紀末から第2次世界大戦にかけての近代化 の波に洗われるタイの国情も描かれ、その内容にも興味を引 かれるものだった。特に伝統芸能を否定して近代化を進める 様子は、映画では軍部の仕業という点を強調してはいるが、 どの国も通って来た道という感じのものだ。 映画はそんな2つの物語を、主人公の青年期と老年期に分け て明確に描き出して行く。しかも、それぞれが分離すること なく巧みに描き切った手腕は見事なものだった。そして、そ の節目節目に挿入されるラナートの演奏が、見事に物語を盛 り上げて行く。 中でも、老年期のソーン師による息子の購入した西洋式のピ アノの演奏に合せた即興での演奏や、現代のラナート奏者の 第一人者といわれるナロンリット・トーサガーが敵役として 登場する対抗戦の格闘技並の迫力の演奏シーンは、本当に素 晴らしいものだった。 なお、映画の中でバンコクに対する空襲が描かれる。この空 襲がどの国の軍隊によるものか字幕では判らなかったが、時 代背景は日本軍の占領前のように見えた。しかしネットで調 べても、日本軍の占領後に米軍がバンコク空襲を行った記録 はすぐに見つかるが、それ以外の記録は不明で、このシーン の真偽も判らなかった。 『セブンソード』“七剣” 武侠小説作家の梁羽生が1970年代に発表した「七劍下天山」 を、すでに『蜀山奇傳/天空の剣』などで武侠映画の実績も あるツイ・ハーク監督が脚色、映画化した作品。 ワーナー配給で、同社では先にチャン・イーモウ監督の武侠 作品『HERO』『LOVERS』を配給しているが、ハー ク曰く「あの2本とアン・リー監督の『グリーン・ディステ ィニー』は例外」だそうで、近年低調という本来の武侠映画 の復権が今回の映画化の目的の一つでもあったようだ。 物語の舞台は15世紀、清王朝初期の時代。明王朝を倒したば かりの新政府は、民衆の蜂起を懸念し、禁武令を発令して民 衆による武道の修錬を禁止する。そしてその禁令の下、武芸 者の摘発が始まり、それはやがて老若男女を問わない殺戮へ と発展する。 そんな中、旧政府で処刑人と呼ばれた男が村の若い男女と共 に、伝説の剣士が集う天山へと救援を求める。そしてその剣 士たちと、救援を求めた3人も含めた7人にそれぞれ剣が託 され、彼らは天山を下りて殺戮を続ける軍団の討伐に向かう ことになるが… たった7人で1000人を越える軍団に立ち向かうのだから、そ こにはいろいろな仕掛けや策略も登場するが、戦いの基本は 生身の人間。これをレオン・ライらのベテランから、若手ま での多彩な顔ぶれが身体を張って演じ切る。 特に、『ブレイド2』のアクション指導なども担当したドニ ー・イェンが、本作で本格的な演技に復帰。また、本作のア クション監督も務める大ベテランのラウ・カーリョンも剣士 たちのリーダー格で出演して、見事なアクションを見せてい る。 一方、物語では、村人の側に内通者がいたり、高麗からの渡 来者で殺戮軍団の奴隷だった女の存在など、さまざまな過去 を背負った登場人物がドラマを作り上げて行く。 上映時間は2時間33分だが、熾烈なアクションと複雑なドラ マで全く飽きさせることがない作品だった。 なお、プレス資料の中でハーク監督は武侠映画は西部劇より SFに似ている語っており、その共通点は「人間の向上心に 対する願望」と説いている。なるほど頷ける意見だが、次は この説に沿ってSF映画にも挑戦してもらいたいと思うのは 僕だけではないだろう。 また、この映画の中では馬との別れのシーンがかなり丁寧に 描かれていたが、実は、僕はピーター・ジャクスンの“Lord of the Rings”の映画化の中で、数少ない不満の一つが、 馬との別れのシーンが削除されたことだった。そのシーンが 違う監督の手でここに再現されたようで、嬉しく感じられも したものだ。 『ある子供』“L'Enfant” 2002年『息子のまなざし』のダルデンヌ兄弟による監督作品 で、今年のカンヌ映画祭では彼ら自身2度目となるパルムド ールを獲得した。 主人公は、20歳を過ぎても定職を持たず、街の悪餓鬼を手下 にしてこそ泥やひったくりで金を手に入れ、何となく日々を 過ごしているような男。その男の同棲相手に子供が出来、そ の認知はするが、父親としての自覚など全く在りはしない。 そんな男が、それでも徐々に成長して行く姿が描かれる。 雨上がりの水溜りにわざと足を踏み入れてみたり、細長い棒 で川面を掻き乱したり、そんな細かい描写がこの男の幼児性 を描き重ねて行く。確かにいい若者がという感じの描写では あるが、同時にそれは今の日本のどこにでも見られる風景で はないか… 確かに、このような幼児性を脱し切れない若者がどこの国に も増えているという現実があるのだろう。だからこそ、少し 前ならただの若者の生態を描いただけの軽薄な内容に見える ようなこの作品が、審査員に理解され大賞に輝いたとも言え る。 ダルデンヌ兄弟の作品は、前作でも鋭く現実を切り取って見 せたものだが、前作では多分社会状況の違いが違和感として 残った部分が、今回はほとんど同じ状況のものとして理解す ることが出来た感じがする。 それだけ日本の状況が監督の描くベルギーの状況と似てきた のかも知れないが、実際にこの主人公と同じ年代の子を持つ 親になってみると、この映画の状況に近い現実は身近に感じ られるものになっているし、そこでもがいている若者の実体 も見えてくる。 確かに若者が幼児性から脱し切れないのは、彼ら自身だけの 問題ではなく、それの直視して受け入れる体制を整えない大 人社会の問題でもあるのだろう。プレス資料にも書かれてい たが、そんな問題提起を突きつけられた気もした。 しかし、本来なら内部処理で片付けなければならないはずの 失政のつけを、民営化と称して国民の我慢に押しつけようと している、そんな自分の国の政府の状況を見ていると、日本 ではこの映画が提起した問題は当分解決されそうもないのが 現実だろう。 その間に日本の社会が、本当に底辺から崩壊してしまわない ことを祈るばかりだ。 『理想の恋人.com』“Must Love Dogs” ダイアン・レイン、ジョン・キューザックの共演で、30代半 ばで結婚に破れ、恋愛に臆病になってしまった男女の巡り合 いを描いたロマンティック・コメディ。 邦題の通り、この出会いにはインターネットの出会い系サイ トが利用される。そして原題は、そのサイトの自己紹介に掲 載する「犬好きであること」という相手に対する条件を表す もの。日本のインターネットで出会い系というと、何か淫靡 なものを感じてしまうが、離婚王国アメリカでは、この種の サイトが実用的に使われているようだ。 レイン扮する主人公は、30代半ばで夫から離婚を言い渡され た幼稚園の先生。めげ込んで何もできない彼女に、大家族の 姉妹弟がいろいろな男性を紹介してくれるのだが、なかなか その気になれない。そして遂に姉が身代わりでサイトに登録 してしまう。 一方、キューザックが扮する男性も離婚の痛手から立ち直れ ず、趣味が高じた芸術的な手作りボートの製作に没頭してい る。しかし友人からサイトに載っていた彼女のページを渡さ れ、その気になり始める。 これに、クリストファー・プラマー演じる妻に先立たれた彼 女の父親の行状や、彼女に言い寄る園児の父親、さらに次々 現れるサイトからの応募者などが、いろいろなコメディを展 開して行く。 何10年も映画を見続けていると、若い俳優が成長して行く姿 を見るのも楽しくなってくる。ダイアン・レインもそんな女 優の一人だが、それこそ美少女と呼ばれた時代から考えると 『パーフェクトストーム』の漁師の妻や、『トスカーナの休 日』の主人公など、最近の作品で見る彼女の姿は自然で、実 にうまく成長したものだと思う。 しかも無理をせず、常に身の丈にあった役柄を選んでいる感 じなのも、観客として安心感があるし、当たるかどうかは題 材次第だが、外れはまず無いだろうという感じで、一種のブ ランドのような感じで見ていられるものだ。 それでこの作品も、元々大当たりするような題材ではないと 思うが、しっかりとした作りで充分に楽しめる作品になって いる。脚本、監督は、1989年の“Dad”(晩秋)の評価が高 いゲイリー・デイヴィッド・ゴールドバーグ。 本来はテレビの『ファミリー・タイズ』『スピン・シティ』 などの製作者でもあるゴールドバーグは、監督業は本当に気 に入った作品でしかやらないようだが、その2作目は偶然手 にした原作を映画化したものということだ。 どこにでもいそうな人生の踊り場に留まってしまった男女。 ちょっとした後押しで次の人生に進んで行ける人たちを、そ の一歩を踏み出すまでじっと暖かい目で見つめている、そん な感じの物語。ごくありふれた人々の心の襞を見事に描いた 作品と言えそうだ。 なお、先日の『チャーリーとチョコレート工場』でも旧作の MGM映画へのオマージュみたいなものがいろいろ見られた が、本作ではキューザック扮する男性が旧作MGM映画『ド クトル・ジバゴ』の大ファンということで、その映像が繰り 返し出てくる。最近この種のオマージュ(?)が目立つのは、 やはりソニーのMGMの買収を意識しているのかな。 『イド』 2003年3月に舞台劇『ハムバット〜蝙蝠男の復讐〜』を紹介 した劇団オルガンヴィトーの主催者の不二藁京監督による映 画作品第2作。 不二藁京監督とは、1996年製作の映画『オルガン』の試写で お会いして以来、何か共感できるところがあって第2作を待 ち望んでいたものだ。その第2作が完成し、監督が拠点とす る下高井戸の「青の奇跡」という会場で上映された。 物語は、養豚場に併設された小工場を主な舞台にして、その 工場長と家族、従業員、またそこに転がり込んできた謎の男 や、何者かを追っている刑事などが交錯し、生と死の根源に 至るさまざまなエピソードが描かれる。 最初に阿弥陀仏に関する親鸞の言葉が引用され、その後も繰 り返し唱えられる言葉によって人間の存在の意味が問われ続 ける。しかし映像は、そんな言葉を無視するかのように、業 に引き摺られて行く弱い人間たちの姿を写し出す。 この映画の本当の意味を探るのはかなり難しそうだ。しかし 地下の何かを封じ込めているような巨大な螺子や養豚場やそ の屠殺場のイメージは、観客にいろいろな想像を強いて、不 可思議な魅力を醸し出している。 実は前作『オルガン』では、大量の内臓物がぶち撒かれて、 それだけで観客を選別しそうな感じではあったが、今回も血 液は大量に流されるものの、それが内臓物を想起させること はあまりなく、それなりに観客の枠は拡がっている感じがし た。 見て何を感じるかは観客次第だし、また何も感じなくてもそ れはそれで良い気がする。僕自身で言えば、見終って映画を 見たという満足感は得られたし、それだけでも良いのではな いかという感じでもある。 そんな訳で、上映は12月16日までの毎週木曜日4時からと金 曜日7時から下高井戸駅下車で下高井戸シネマに向かう道沿 いの居酒屋「きくや」の地下「不思議地底窟・青の奇跡」で 行われている。入場料は800円、他に1ドリンクオーダーを お願いしますとのことだ。 送ってもらっている演劇の案内によると、最近は別役実の戯 曲なども演じているようだし、上映前に監督と話していたと きには、韓国映画の『殺人の追憶』に感激したということだ った。そんな中から次の作品の構想も生まれているのかも知 れない。第3作にも期待している。 なお、前作『オルガン』は、夕張ファンタスティック映画祭 に出品された後、ヨーロッパ各地の映画祭に招待され、それ ぞれ好評だったということで、本作もそのような上映機会を 狙っているようだ。ということで、本来の試写作品とはちょ っと違うものだが、ここで紹介させてもらうことにした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回はこの情報から。 昨年公開の“Troy”では神話に描かれた戦争を見事に再現 してみせたワーナーから、今度は史実に基づく古代の戦いを 映画化する計画が発表された。 その戦いとは、紀元前481年から480年に掛けてギリシャの テルモピレーで勃発したスパルタ軍vs.ペルシャ軍の戦争。 この攻防では、スパルタの王レオニダスに率いられた300人 の精鋭戦士たちが、圧倒的な勢力を持つペルシャ軍に挑むが 全滅。しかしこの行為がギリシャの国民にペルシャへの反攻 の気運を呼び起こし、この民衆からの動きが後の民主主義の 種を根付かせた意味も持つとも言われるものだそうだ。 といっても今回の計画は、実は“Sin City”などのフラン ク・ミラーが手掛けた“300”と題されたグラフィック・ノ ヴェルを原作とするもので、その意味ではコミックスの映画 化でもあって、いわゆる歴史ものとはちょっと違った雰囲気 の作品になりそうだ。あのスタイリッシュな画面構成が、古 代の戦いをどのように表現しているかにも興味を引かれる。 そしてこの計画では、2004年のリメイク版“Dawn of the Dead”を手掛けたザック・スナイダーが監督に起用され、前 作にも協力したカート・ジョンスタッドと共に、ミラーの原 作に基づく脚色も行っている。 僕自身は、“Dawm…”のリメイク版に関してはあまり評価 していないものだが、若いファンの間では結構話題になって いたようで、それなりのスタイルやスピード感は評価された ようだ。その評価に見合う作品を期待したい。ただし今回の 計画では、原作者のミラーが製作総指揮に名を連ねているの で、あまり原作から掛け離れたものには出来ないだろう。 撮影は10月17日にモントリオールで開始の予定で、主人公 のレオニダス王役には、“Phantom of the Opera”や“Lara Croft Tomb Raider: Cradle of Life”、それに“Dracula 2000”(ドラキュリア)などのジェラルド・バトラーの出演 が発表されている。 歴史を描いたエピックものと呼ばれるジャンルの映画は、 “Troy”も含めて今一つアメリカ国内で興行成績が上がらな いようだが、海外での興行の伸びは著しいものがあるという ことで、今回の計画もその辺りを踏まえてイギリス出身のバ トラーの起用ということにもなっているようだ。また、今回 の題材となるテルモスピーの戦いは、人類史上の偉大な戦い の一つと言われ、現在のアメリカ軍でも士官学校での戦術研 究の対象になっているということで、その辺りの現代に通じ る部分にも期待が持たれそうだ。 * * お次は、1974年のニクソン政権の崩壊を、その周囲にいた 女性たちの目で捉えたジョン・ジェッターの舞台劇“Dirty Tricks”の映画化が、“Running With Scissors”などのラ イアン・マーフィの製作、脚色、監督により、パラマウント で進められることが発表された。 そしてこの映画化では、主人公となる大統領の取り巻きス タッフのチーフだったジョン・ミッチェルの妻マーサ役を、 メリル・ストリープが演じる他、ホワイトハウス報道官のヘ レン・トーマス役をアネット・ベニング、ミッチェルに対抗 していたジョン・ディーンの妻モウリーン役をグウィネス・ パルトロー、大統領の妻パット・ニクソン役をジル・クレイ バーグが演じることになっている。因に、ストリープを除く 3人は“Running…”でも共演しているものだ。 一方、マーフィは、以前からストリープが主演する映画の 題材を探しており、昨年の秋にジェッターの舞台劇を見て、 自己資金で映画化権を獲得していたというもの。そして映画 化に際しては、女性と政治の問題を前面に出した内容にする ということで、これには原作者も賛成しているそうだ。 物語は、ストリープ演じるマーサが、政権内の実情をいろ いろ喋り過ぎたために政権の崩壊を早めさせたという出来事 に基づいており、彼女を黙らせるために政党関係者が取った 汚い手口が描かれる。そして最後に彼女は子供を連れて夫の 許を離れることを余儀なくされるというものだ。またベニン グ演じるヘレンは、マーサの発言をいちいち否定する役割を 演じることになる。 マーサ自身は、現在でもかなりエキセントリックな人物だ ったと評されているようだが、その真実はどうだったのか、 ストリープは“The Manchurian Candidate”(クライシス・ オブ・アメリカ)でもかなりエキセントリックな政治家の母 親を演じていたが、マーサの真実がストリープの熱演でどの ように描かれるかにも興味を引かれるものだ。 ただし、現在のマーフィは総指揮を務める人気テレビシリ ーズ“Nip/Tuck”の第3シーズンがスタートしたところで、 映画の製作はそれが一段落する来年春になるようだ。 * * 続いては、この夏公開の“Herbie: Fully Loaded”(ハー ビー/機械じかけのキューピッド)が予想通りのヒットとな ったアンジェラ・ロビンスン監督の次回作が、ニューライン で製作されることになった。 この作品は“Genbot”と題されているもので、彼女とアレ ックス・コンドライキーが共同で執筆したオリジナル脚本を 映画化するもの。物語は、一人の若い女性が、政府の秘密計 画によって自分の身体がサイボーグに作り替えられているこ とに気付き…というちょっとSFチックなお話で、ジャンル はアクション・コメディとなっている。 なおこの計画では、ロビンスンは本来はディズニーとの間 で優先契約を結んでいるものだが、本作に関しては、ディズ ニー側が内容的にちょっとダークで自社の基準に合わないと 判断して優先権を放棄したもの。ところがその結果は、各社 の争奪戦となって、ニューラインが7桁($)の契約金で権 利を獲得したということだ。 因にロビンスンは、2004年サンダンス映画祭で話題となっ た長編監督デビュー作の“D.E.B.S.”も、若い女性が主人公 のアクション・アドヴェンチャー・コメディということで、 その路線に沿った新作は各社の注目の的だったようだ。また 本作の製作は、ロビンスンが、“Almost Famous”(あの頃 ペニー・レインと)の製作者のリサ・スチュアートと、“50 First Dates”(50回目のファースト・キス)の製作者の ラリー・ケナーと共に設立したピンク・サンダーというプロ ダクションで行うもので、新会社の第1作となるものだ。 * * 1998年に“American History X”で物議を醸したイギリス 出身のトニー・カイ監督が、“Paranoia”という作品で再び ハリウッドに挑戦することになった。 物語は、広告会社の女性重役が金曜日に職場を離れてから 日曜日までの2日間の記憶を失い、その間に起きた殺人事件 の容疑者にされる。その嫌疑を晴らすため彼女は、その間の 記憶と失ったハンドバッグを求めて、行動の再構築を始める というもの。この内容に、さらに“Sixth Sence”的な捻り があるということだ。 “Catch Me If You Can”や“I,Robot”などの製作総指揮 を担当したマイクル・シェインのアイデアから、これから公 開される“Dirty Deeds”などのティーン・コメディを手掛 けているジョン・ランドが脚本を書き、シェインとパートナ ーのアンソニー・ロマノが製作も務める。インディーズでの 製作だが、すでに資金の調達は出来ているということだ。 ところで、エドワード・ノートンとエドワード・ファーロ ングの共演で映画化された“American…”は、南カリフォル ニアの小都市を舞台に、路上に集う若者たちの過激な生態を スタイリッシュに描き切ったもので、その映像の見事さと共 に、そこに描かれた強烈な内容は見るものを震撼とさせたも のだ。そしてこの作品では、過激な内容だけでなく、カイ監 督と製作会社のニューラインとの間で最終編集権を巡っての トラブルも発生し、一時は監督が自分の名前をクレジットか ら外すことを要求したり、新聞に意見広告を出したり、さら には宗教家をともなって本社に抗議行動を起こすなど、監督 の取った態度も問題にされた。 しかしカイ監督は、その後に「あの頃の自分は、感情の面 でまともではなかった」と反省の弁を述べたということで、 過激な映画の内容が監督の心境にもかなりの影響を与えてい たということのようだ。その点で言えば、今回の作品は内容 的にもそれほど影響が出るようなものでもなさそうで、取り 敢えずは順調に進みそうな感じのものだ。製作時期や、出演 者などの情報もまだ出てきてはいないが、前作の強烈な印象 を覚えているものとしては、今回の作品にも期待を持ってし まうところだ。 なおカイ監督は、先にカナダのメディア8・エンターテイ ンメント社との間で“Reaper”という作品の契約も結んでい るようだ。 * * 1999年の東京国際映画祭・コンペティション部門に出品さ れた“Twin Falls Idaho”のマーク&マイクル・ポーリッシ ュ兄弟の新作に、ビリー・ボブ・ソーントンの主演が発表さ れ、ワーナーの子会社のワーナー・インディペンデンス(W I)で製作されることになった。 この作品は“Astronaut Farmer”と題されたもので、家庭 の事情でNASAを退職して農家を継いだ主人公が、宇宙へ の夢を捨て切れず、ついに自前のロケットを組み立てるが… 政府がこれを止めに掛かるというもの。さらにこれにご近所 さんやメディアなども絡むというもので、ソーントンらしい 反骨精神に満ちた作品になりそうだ。 日本でも先に、吉本の芸人の出演で個人で宇宙ロケットを 打ち上げる作品が作られているが、他にもグアム島を舞台に した同様の“Guam Gose to the Moon”という作品も以前か ら計画されているなど、NASAのスペースシャトルがトラ ブル続きの中で、この種の作品がちょっと注目を集めている ようだ。なお、新作は“Twin…”と同様、兄弟で書き上げた 脚本からマイクルが監督。撮影は9月初旬にニューメキシコ で開始の予定だが、今回報告の時点では主演女優を選考中と なっていた。 また、今回の計画では、先にソーントンに脚本が提示され て、彼の出演が決まった段階でそれをセットにしてWIへの 売り込みが行われたようだ。つまりこの作品は、ソーントン の信用で実現した企画ということになる。因にポーリッシュ 兄弟の作品では、2001年に“Jackpot”という作品が、ダリ ル・ハナの出演で製作されているが、日本では未公開に終っ ているものだ。 一方、ソーントンの次回作では、ジョン・キューザックの 共演、ハロルド・ライミス監督による“Ice Harvest”とい う作品が年末に全米公開が予定されている。この作品はスコ ット・フィリップスの同名の小説をリチャード・ロッソが脚 色したもので、クリスマスイヴの日に、ソーントン扮するス トリップクラブのオーナーと、キューザック扮する無能な弁 護士が犯罪組織から1200万ドル横領を企むという犯罪もの。 ソーントンは今年もクリスマスの犯罪を企むようだ。 その他、ソーントンの計画では、ウェインスタインCo.傘 下のディメンションが進めている1960年製作のイギリス映画 “School for Scoundrels”のリメイク計画にも主演が発表 されている。 * * 1992年にディズニーから発表された長編アニメーションの “Aladdin”は、ロビン・ウィリアムスによる声のパフォー マンスなどの人気で、アメリカ国内だけで2億1700万ドル、 全世界では5億400万ドルの興行収入と、テレビシリーズ化 やダイレクトヴィデオなどで大成功を納めているが、そのデ ィズニーから新たに現代版の実写映画の計画が発表された。 この計画は、1999年にブレンダン・フレーザー主演で映画 化された“Blast from the Past”(タイムトレベラー)な どの脚本家ビル・ケリーのアイデアに基づくものということ だが、物語の内容は、上記の「アラディンと魔法のランプ」 の現代版という以外の情報は一切公表されていない。ただし 製作は、“The Pacifier”(キャプテン・ウルフ)などのア ダム・シャンクマンのプロダクションが担当し、現状ではシ ャンクマンの監督予定として、ケリーによる脚本の完成が待 たれているということだ。 因にケリーは、実写とアニメーションの合成による妖精物 語の現代版として、今年6月15日付の第89回などで紹介して いる“Enchanted”の脚本も担当しているということで、こ の手の内容では信用があるようだ。 なお上記のように、この作品ではシャンクマンの監督予定 となっているものだが、2003年11月1日付の第50回などでも 書いているようにシャンクマンの監督予定は常にスケジュー ルが一杯で、上記の“Enchanted”でも当初はシャンクマン の監督が予定されていたが、第89回で紹介したようにケヴィ ン・リマに変更されている。従って今回の作品もその手順を 踏む可能性は高そうだ。 * * ソニー・ピクチャーズから、“Black Hawk Down”などの 脚本家ケン・ノーランが提出した75ページのscript-mentに 対して、300万ドルという同社最高額の契約が結ばれたこと が発表された。因に、script-mentというのは、script(台 本)と呼ぶには短いし、treatment(概要)では長すぎると いうことで、新たに作られた言葉のようだ。 そして今回の作品は、ワイトリー・ストリーバーという作 家による来年8月刊行予定の小説“The Grays”を脚色した もので、その内容は、秘密裏に地球を訪れていた異星人と地 球人との関係を描いたものと言われている。また詳細な内容 は明らかにされていないが、中心となる主人公は女性だとい う情報もあるようだ。 因に原作者のストリーバーは、1981年にアルバート・フィ ニーが主演した現代が舞台の狼男ものの“Wolfen”や、83年 にトニー・スコット監督がデビュー作として映画化した吸血 鬼ものの“The Hunger”のようなモダンホラー作品で知られ るが、その一方で、アート・ベルという作家と共作した終末 ものの“The Coming Global Super Storm”は、ローランド ・エメリッヒ監督の“The Day After Tomorrow”の元になっ た作品として公認され、彼自身が映画のノヴェライゼーショ ンも手掛けているというものだ。 従ってこれだけの実績と、それにノーランの脚色という条 件が加われば、上記の契約金も納得できるというもので、こ の金額についてとやかく言っている報道も見掛けたが、まあ あまり邪推はしたくないという感じのものだ。 監督や製作時期などは未定だが、状況から考えるとかなり 大規模な作品になりそうで期待して待ちたいところだ。 * * 後半は続報を2つ紹介しておこう。 まずは、ウォシャウスキー兄弟の脚本、製作、ナタリー・ ポートマン主演による“V for Vendetta”の公開について、 当初予定されていた11月4日の全米公開を来年3月17日に延 期することが配給元のワーナーから発表された。 この延期の理由は、表向きはVFXなどのポストプロダク ションが遅れているためとされているものだが、実はこの作 品の内容が、去年12月1日付の第76回でも紹介しているよう に、1950年代のナチスドイツが勝利した平行世界のロンドン を舞台に、全体主義に支配された人々を解放するためのテロ 活動を描いているというもので、先日来のロンドンでのテロ 攻撃の印象の強いうちは、公開を待った方が良いという判断 が働いたものと考えられているようだ。 ということで公開延期が決定された訳だが、この3月17日 には、元々ワーナー製作でドリュー・バリモア、エリック・ バナ共演の“Lucky You”という作品が予定されていたもの で、公開はこの作品との入れ替えということになるようだ。 ただし、これによって押し出される“Lucky You”の公開日 は未定となっている。 一方、この3月17日には、他にソニーからロビン・ウィリ アムス主演の大型コメディ作品の“R.V.”と、フォックスか らリンジー・ローハン主演のロマンティックコメディ“Just My Luck”が予定されているものだが、これにアクションも のの“V for…”が加わると、ちょうど良いバランスになり そうな感じだ。 公開日の仕切り直しというのは、宣伝キャンペーンの組直 しなどの手続きも大変なもののようだが、今回ばかりは事情 が事情だけに仕方がないもので、その点の関係者には頑張っ てもらいたいものだ。また、実際にポストプロダクションに は時間の余裕が生まれる訳で、その分の仕上げも充分に行っ てもらいたいものだ。 * * もう1本は、昨年6月1日付の第64回で紹介した“Bruce Almighty”の続編が“Evan Almighty”の題名で製作される ことになり、前作でジム・キャリー扮するブルースにコケに され続けたスティーヴ・カレル扮するニュースキャスター= エヴァン・バクスターが主人公に昇格することになった。 この作品では、以前にも紹介したように“The Passion of the Ark”という別の脚本を続編として改作することになっ ていたものだが、当時の状況ではキャリーの出演が叶うか否 か不明で、改作はキャリーの出演の有無の両面で行うとされ ていた。しかし結局はキャリーの出演はなかったということ で、替ってエヴァンが続編の主人公となったようだ。 物語は、オリジナルの題名からも判るように、主人公は神 様の命令で箱船を作らされることになるもので、旧約聖書の ノアも周りからは相当に馬鹿にされたものだが、これが現代 だと本当に飛んでもないことになりそうだ。そしてこの命令 をする悪戯好きの神様役には、前作同様モーガン・フリーマ ンへの出演交渉が行われているということだ。また監督は、 前作と同様トム・シャディアックが担当している。 なお、製作会社のユニヴァーサルでは、フリーマンの神様 役が再現されて、さらに興行成績がそこそこの数字になった 場合には、シリーズ化も考えたいとしており、その時の題名 は“…Almighty”という形式にするそうだ。つまりフリーマ ンの神様に振り回される主人公は、毎回交代するということ になるようだが、さてその場合の第3作のテーマは…。聖書 からなら、十戒かバベルの塔、それともソノムとゴモラ辺り も面白いと思うのだが、どうなるのだろうか。 * * 最後に、前回の記事で極めて不注意なミスをしてしまいま した。余りに恥ずかしいミスなので内容は書きませんが、ミ ス自体は1週間半ほど前に修正してあります。そこでもし、 それ以前に別の媒体などに記事をコピーされている方がいら っしゃいましたら、コピーのし直しをお願いします。 なお、記事の内容自体を修正することは滅多にありません が、表現等は多少修正していることがありますので、記事を 流用される場合には、出来るだけ最新のものを使用されるよ うにお願いします。以上、ご迷惑をおかけします。
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