井口健二のOn the Production
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2003年07月16日(水) ノックアラウンド・ガイズ、タイタニックの秘密、アララトの聖母、KEN PARK、閉ざされた森、バリスティック

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ノックアラウンド・ガイズ』“Knockaround Guys”   
『トリプルX』などのヴィン・ディーゼルや、『ミニミニ大
作戦』にも登場し来春公開予定の『スクービー・ドゥー2』
ではメインの敵役を演じているセス・グリーンらが出演し、
さらにデニス・ホッパーやジョン・マルコヴィッチが登場す
るマフィアもののドラマ。               
と言っても、彼らの主演作ではなく、主人公を演じるのはデ
ィーゼルと共に『プライベート・ライアン』に抜擢されたバ
リー・ペッパー。しかし現時点での宣伝は、ディーゼルで行
くのが常道と言うところだろう。            
物語の発端は、10数年前のブルックリン。マフィアのボスの
息子マティーは、とある地下室で拳銃を渡され、父を密告し
た男の処刑を命じられる。しかし彼には引き金を引くことが
できない。                      
10数年が経ち、青年になったマティーは就職活動をしている
が、父親がマフィアのボスと知れると、ことごとく断られて
しまう。自身は堅気の仕事を希望し、刑期を終え出獄した父
親もそれを理解しているが、現実はそう行かない。    
そしてついにマフィアの仕事しかなくなったマティーは、父
の右腕の男の推薦もあって、西海岸の町から50万ドルを運ぶ
仕事を与えられる。しかし彼が送り出した男は仕事をしくじ
り、経由した西部の町で大金の入った鞄を無くしてしまう。
48時間以内に鞄を取り戻さなければ、父親の命も危ない。か
れは2人の仲間と共に、鞄の失われた町に乗り込んで行くの
だが…。そこは、保安官が顔を利かす西部劇さながらの町だ
った。                        
この父親役がホッパー、その右腕役がマルコヴィッチ、鞄を
無くしてしまうのがグリーン、そしてディーゼルの役はとい
うと、ストリートファイトを500回戦ったという、ペッパー
演じるマティーの仲間の一人。ファイトシーンなどそれなり
に見せ場はある。                   
お話は、マフィア事情を背景にした青春ものという感じで、
グリーンの役柄の馬鹿さ加減にはちょっと苛つく部分もある
が、全体的な展開はかなりスマートで面白かった。    
ニューライン製作。所詮B級の作品で、とやかく言うもので
はないし、日本での公開規模もそんな感じなのは好感が持て
る。ディーゼルのファンには見て損はないだろう。    
                           
『タイタニックの秘密』“Ghosts of the Abyss”
以前に2D版を紹介した作品のIMAX−3Dでの試写が行
われた。この作品は、すでに一般公開が始まっているので、
多く書くつもりはないが、一応前回のフォローアップだけし
ておこう。                      
前回の紹介では、HD-24p撮影の画像がIMAXに耐えられる
か否か心配していたが、本作は、海中撮影が主で、元々解像
度はそれほどよろしくない訳で、心配するほどのものではな
かった。と言うか、充分に見られるものだった。     
それから、60分→47分に短縮された部分は、オリジナルで登
場している女性生物学者のシーンと、実は中でロボットカメ
ラの救出の行われたのが01年9月11日だったということで、
その後に一と下りあるのだが、今更という感じの部分だ。 
後者については仕方ないと思うし、前者については、おかげ
で参加メムバーが男だけのようになってしまい、女性から、
「こんな事するのは男だけよ」と言われてしまいそうだが、
そうではないということをここに記録しておきたい。   
なお、キャメロンは、この後で戦艦ビスマルクの海中探査も
行っており、その撮影も同じシステムで行われているはずな
ので、出来たら見てみたいものだ。           
                           
『アララトの聖母』“Ararat”             
アルメニアからの亡命者の子として生まれたアトム・エゴヤ
ン監督が、失われた祖国の歴史を背景に描いた作品。   
アララト山というと旧約聖書のノアの箱船が辿り着いた場所
として記憶されるが、その山麓で1915年トルコ兵による100
万人規模の人民大量虐殺が行われた。その出来事は、当時現
地で医療活動をしていたアメリカ人宣教師の手で記録された
が、現トルコ政府はその事実を否定しているというものだ。
この作品は、その出来事の記録を残すことを第1目的として
作られている。しかしエゴヤンはそれを声高に言い張るよう
なことはしない。その出来事を映画化しようとする監督を登
場させ、さらに虐殺で母親を失った後にアメリカに亡命した
画家の作品をモティーフにして、そこに現代の親と子の関係
を綴り込む。                     
再現部分を劇中劇とすることで、あえて残虐な描写を試みた
面はあるのだろうが、同時に国際的に微妙な問題を緩和する
目的もあったのかも知れない。確かにカンヌでは正式出品に
留まり、アルメニア亡命者の多いカナダのジニー賞を5部門
受賞というのも頷ける。                
他にも、息子の同性愛に悩む父親なども登場させ、物語を複
雑にしながらも、その主となるテーマを外さない描き方は、
本当に見事としか言いようがない。           
それにしても、歴史上の大虐殺事件とそれを否定する現政府
という図式は、どこにでも存在するようだ。真実がどちらに
あるかを知ることは容易ではないが。          
                           
『KEN PARK』“Ken Park”           
1995年に映画『KIDS/キッズ』でセンセーションを巻き
起こした監督ラリー・クラークと脚本家ハーモニー・コリン
が再び手を組んだ新作。今回は共同監督に映画カメラマンの
エド・ラックマンも参加している。           
物語の中心は、4人の少年と1人の少女。いろいろな家庭環
境で暮らす彼らの内、1人の少年は自殺し、1人の少年は同
居していた祖父母を刺殺し、後の2人の少年と少女は乱交に
耽り続ける。                     
前作の『KIDS/キッズ』は見たかどうか記憶にないが、
当時の青少年の実態を描いて世間に衝撃を与えたものだ。今
回の作品も、そのような衝撃を覚悟したのだが、正直に言っ
て、最近の中学生の犯罪を目の当りにしていると、衝撃と言
うほどではない。                   
それより僕は、彼らの親たちの行動の方にやりきれないもの
を感じた。実の息子に暴力を振るうことでしか対応できない
父親や、娘のボーイフレンドとの情事に耽る母親、聖書に頼
ることしか出来ない父親など、ここに描かれた親の姿の方が
衝撃だった。                     
実は、クラークは今年60歳、ラックマン55歳ということで、
脚本のコリンは30歳だが、監督の2人はいずれも登場する親
たちよりも、さらに上の世代と言うことだ。       
そしてどちらかと言うと監督たちの世代に近い僕は、何とな
く、2人の監督は子供たちの世代の方に理解があるように感
じ、逆に親たちに「おまえら何をやってるんだ」と言ってい
るような映画に感じた。                
なお、自慰シーンやセックスシーンがかなり生々しくという
か、実演で描かれるが、日本公開ではほとんどが霞みの彼方
になっている。まあこれらのシーンの修整がなかったとして
も、衝撃と言うほどではないと思うが。         
                           
『閉ざされた森』“Basic”               
ジョン・マクティアナンの監督で、ジョン・トラヴォルタと
サミュエル・L・ジャクスンが主演した軍隊ミステリー。と
言っても、軍部の腐敗を暴くような深刻なものではなく、あ
る意味、エンターテインメントに徹した見事な快作だ。  
パナマ駐留のアメリカ軍。その基地のレンジャー部隊が暴風
雨の中の訓練を敢行し、隊員のほとんどが行方不明になる。
そして3人が発見されるが、内1人は重傷を負い、他の1人
は残る1人と銃撃戦の上、救援隊の目前で射殺される。  
しかし、唯1人無事に救出された隊員は、基地の女性取調官
の前に完全黙秘を続け、他の部隊のレンジャー隊員になら話
すとメモを記す。真相を求める基地司令は、元レンジャー隊
員で以前同僚だった麻薬捜査官(汚職で謹慎処分中)に取り
調べを依頼する。                   
そして現れた捜査官は、女性取調官と共に真相の追求に乗り
出すが、救出された隊員と傷の癒えた隊員の証言には、明ら
かな食い違いが現れる。そして捜査の過程で現れる他の関係
者たちも次々に食い違う発言を始める。         
何しろ、最終的な真相に達するまでに話が二転三転、最後は
主人公まで怪しくなってくるのだから、この展開は面白い。
トラヴォルタは、99年の『将軍の娘』でも軍隊内の謎に挑戦
したが、あれほど重くなく、小気味よく決まっている感じが
良かった。                      
一方、マクティアナンは初期の『プレデター』で同じような
ジャングルを描いたが、こちらは初心に返ったと言うところ
だろうか。前作『ローラーボール』では草原を舞台にしてち
ょっとずっこけたが、これで立ち直ることを期待したい。 
なお、プレスに見事なネタばれがあるが、いい加減な紹介者
がしたり顔で解説しないことを望みたいものだ。     
                           
『バリスティック』“Balistic: Ecks vs.Sever”     
アントニオ・バンデラスとルーシー・リューの主演で、タイ
の若手監督カオスが演出したアクション作品。      
物語は、ヨーロッパから帰国したばかりのアメリカ国防情報
局DIAの長官の息子が誘拐されるところから始まる。その
事件に隠されたものを察知したFBIは、元捜査官でその手
の情報に詳しいエクスを現場に呼び戻す。        
エクスは目前で妻を爆殺されたことからFBIを離れたが、
今回の事件には殺されたはずの妻が関わっているという。そ
してFBIは、誘拐犯が元DIAの暗殺専門エージェントの
シーヴァーと割り出すが、その捜査に行く手にはDIAの妨
害が執拗に行われる。                 
実は、ヨーロッパで開発された暗殺用のマイクロマシンを息
子の体内に忍ばせてアメリカに運び込もうとしたDIAの陰
謀があり、息子の救出に見せかけたそのマイクロマシンの奪
還と、事件の隠蔽をDIAは画策していたのだ。     
というのが大体のお話だが、これにバンデラス対リュー、対
レイ・パーク(ダース・モール)の格闘技アクションと、銃
撃戦アクション、さらには盛大な爆破アクションが華を添え
るというものだ。                   
特に爆破アクションは、後半、操車場での車両数十両を吹き
飛ばすシーンが見せ場になるが、次から次へ手を代え品を代
えての爆発の連続で、タイ映画の監督というのはパン兄弟の
場合もそうだが、本当に爆破が好きなようだ。      
なお、格闘技アクションでリューが演じるのは、またもやフ
ィリピンのカリで、これで昨年の『ボーン・アイデンティテ
ィー』から『ハンテッド』と3本目だが、よほど良いインス
トラクターがハリウッドにいるのだろうか。       
因にこの作品は2002年の公開で、『フルスロットル』の前に
なるが、リューのアクションが決まっていた理由がこれで判
ったような気がした。また次回の『キル・ビル』がさらに楽
しみになってきたという感じだ。            
                           
最後に告知を一つ。                  
以前、4月2日に紹介した『クロー・オブ・エイダ』の公開
が8月2日から新宿武蔵野館に決定し、その公開中に映画館
で行われるトークショウの案内が送られてきた。     
開催は8月中の土曜日21時10分からで、テーマと講演者は、
2日「クローン人間の現在と未来」(沼倉英晶・日本ラエリ
アンムーブメント代表)                
9日「女性クリエイターとSF映画」(小谷真理・SF評論
家)                         
16日「エイダ・バイロンと二つの世紀」(山田正紀・作家)
23日「ザ・レジデンツについて語ろう」(湯浅学・音楽評論
家+常盤響・デザイナー)               
ということなので、興味のある方はどうぞ。       



2003年07月15日(火) 第43回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初に記者会見の報告から。             
 『ターミネーター3』の公開に合わせて、主演のアーノル
ド・シュワルツェネッガーとクリスターナ・ローケン、それ
に監督のジョナサン・モストウの来日記者会見で行われた。
その中で、今回の続編の実現に関しては、シュワルツェネッ
ガーから、世界中のファンの後押しが大きな力になったこと
が強調されていた。                  
 そして“T4”については、監督のモストウはやる気満々と
いう感じで、それには今回と同様ファンの後押しが大事にな
ると発言していたのに対し、シュワルツェネッガーが、モス
トウやローケンとは別の作品もやってみたいと強調している
のが印象に残った。                  
 結局のところ、シュワルツェネッガーにはジェームズ・キ
ャメロンへの未練があるが、製作者のマリオ・カサール、ア
ンディ・ヴァイナとモストウは、すでに次に向けて動き出し
ているという印象だった。今回の映画の流れだと、“T4”に
シュワ、ローケンの再登場は不可欠のように思えるが、さて
どうなることだろうか。                
        *         *        
 以下は、いつもの製作情報を紹介しよう。       
 まずは、上にも書いた『ターミネーター』の第3作を完成
させたカサール=ヴァイナのプロダクション・C2から、新
たな3部作の計画が発表されている。          
 この計画は“Evermere”と題されたもので、お話は、17歳
の孤児の少年が、実は現世と交錯する並行世界の王位の継承
者であることが判り、その王位を狙う叔父と戦うために、そ
の世界に呼び戻されるというもの。その並行世界というのが
どのようなものかは不明だが、説明に『ハリー・ポッター』
や『ロード・オブ・ザ・リング』が引き合いに出されている
ところを見ると、そこでは魔法が使えるようで、典型的な異
世界ファンタシーと呼べそうな作品だ。         
 そしてこの作品は、『ブレイド』シリーズのデイヴィッド
・ゴイヤーとDCコミックスのヴェテランライターのジェー
ムズ・ロビンスンがオリジナル脚本を手掛けたもので、3部
作の構成になっているようだ。因に、『ブレイド』は、現在
第3作の計画がゴイヤーの監督で進められているが、これも
当初から3部作の設定だったと言われている。      
 またこの脚本の契約は、実は1998年に数100万ドルの契約
金で結ばれていたと言うことだが、C2としてはその頃から
『ターミネーター3』完成までの道程で、それどころではな
かったということだったようだ。それが晴れて完成し、計画
が進み始めたもので、今回はこの計画に、『2days』の
ジョン・ハーツフェルド監督の契約が発表されている。  
 なお、ハーツフェルド監督の『2days』は、97年の第
10回東京国際映画祭で特別招待上映された際に見ているが、
僕はこの作品に特別ファンタスティックな印象を持った記憶
はない。しかしC2の2人は、彼のヴィジョンに今回の作品
と通じるところを感じたということだ。また、ゴイヤーは、
映画化の製作総指揮を務めることになっている。     
 さらにカサールは、今後の展開として「ヴィデオゲームや
その他のマーチャンダイズへの進展も考えている」とのこと
だが、『ターミネーター』の権利獲得に1000万ドル以上を費
やしたことを考えると、過去のカロルコ→C2の計画の中で
は最も危険度の少ない計画との観測もあるようだ。配給は、
『ターミネーター3』の海外配給も手掛けるソニーが契約、
夏のテントポール作品に仕立てる計画とされている。   
        *         *        
 お次は、久し振りの話題で、ワーナーから“Tarzan”の新
作の計画が発表され、その脚本家に『チャーリーズ・エンジ
ェル/フルスロットル』のジョン・オーガストの契約が公表
された。                       
 『ターザン』は、エドガー・ライス・バローズの創造した
キャラクターに基づくが、バローズは1950年に他界して、そ
の著作権存続期間の死後50年はすでに経過している。しかし
その存続期間の切れる直前の1999年に、バローズの遺族と契
約を交わしたディズニーがアニメーション版の『ターザン』
を発表、これにより映像関係では以後70年の権利が発生した
ことになった。                    
 ところが『ターザン』に関しては、1981年にボー・デレク
主演による『類猿人ターザン』が製作された際の遺族による
差し止め請求に対して当時のMGMが起こした裁判で、1930
年代にMGMがジョニー・ワイズミューラー主演で製作した
作品に対して、別の著作物としての権利が認められており、
当時のMGMの権利を引き継ぐワーナーでは、その権利に基
づく『ターザン』映画の製作が可能とされているものだ。 
 ということで、今回はワーナーから計画が発表されたもの
だが、脚本を担当するオーガストは、「自分は70年代に放送
されたテレビのアニメーションシリーズのファンだった。バ
ローズの『ターザン』とはちょっと違うかも知れないが、永
く語り継がれているヘラクレスやロビン・フッドのような感
じでキャラクターを考えたい」としている。       
 そして具体的には、「『X−メン』に登場するウルヴァリ
ンから爪だけを除いたような感じの、獰猛で野性的なキャラ
クターにする」とのことだ。              
 またジェーンについても、「もっと現代的で教育があり、
他人の助けなど必要としないような自立した女性に描く」と
いうことだ。                     
 製作のスケジュールなどは未定だが、ワーナーとしては、
『スーパーマン』や『バットマン』のような、永続性のある
新しいキャラクターの誕生を期待している。また、今回の計
画には、『BIM』の原作コミックなどで知られるダーク・
ホースエンターテインメントの参加も予定されているという
ことで、多方面からの展開が考えられているようだ。   
 それにしても、ワーナーは、1984年製作のヒュー・ハドス
ン監督による『グレイストーク』ではバローズの原作に最も
忠実なターザンを描いてみせたものだが、それが一転MGM
の継承者になってしまったのも皮肉なことだ。      
 なお、ワーナーでは、すでに98年にキャスパー・ヴァン・
ダイン主演による“Tarzan and the Lost City”という作品
をヴィレッッジ・ロードショウとの共同で製作している他、
“Tarzan and Jane”というテレビシリーズも計画している
ようだ。一方、ディズニーからは、アニメーション版の続編
として“Tarzan and Jane”が、昨年オリジナルヴィデオで
リリースされており、この競作は当分続きそうな気配だ。 
        *         *        
 続いてはコロムビアから、今年3月に出版されてベストセ
ラーを記録したダン・ブラウンの原作による“The Da Vinci
Code”という小説の映画化の計画が発表された。     
 この小説は、ハーヴァード大学で記号学を研究するロバー
ト・ランダンという名前の教授を主人公に、本作ではルーヴ
ル美術館の館長殺人事件を発端にして、レオナルド・ダ=ヴ
ィンチの絵画に隠された2000年に及ぶ謎を解明して行くとい
うもの。かなりパズル性に満ちた面白い作品のようだ。  
 そしてこの作品は、実は同教授を主人公にしたシリーズの
第2作ということで、その第1作の“Angels and Demons”
もペーパーバックのベストセラーリストに登場しており、さ
らに第3作も執筆中だそうだ。そこでコロムビアでは、原作
者とはシリーズでの契約を交わしており、当然映画化もシリ
ーズ化を目指すことにしている。            
 本作は絵画がテーマになっているということで、映画化さ
れればヴィジュアル的にも面白いものになりそうだが、現在
のところ具体的な映画化のスケジュールなどは決まってはい
ない。しかしこの作品と似たテーマの“Daughter of God”
という小説が、2000年にルイス・パルデューという作家によ
って発表されており、今後競作ということにでもなれば、動
きが早まる可能性はありそうだ。            
        *         *        
 前回『くたばれヤンキース!』のリメイク計画を紹介した
ミラマックスから、またまたブロードウェイミュージカルの
映画権を獲得したことが発表された。          
 今回発表されたのは、1972年の初演で、この年のトニー賞
に11部門でノミネートされて5部門で受賞した“Pippin”。
実はこの作品も、『シカゴ』と同じボブ・フォッシーの演出
振り付けによるものだ。                
 お話は、9世紀のローマ帝国を舞台にしたもので、当時の
西ローマ帝国を支配したシャルマーニュ大帝の息子のピピン
が、真実の愛を見つけ出すまでのさまざまな行動が描かれて
いる。そしてこの作品では、フォッシーが演出、振り付けで
ダブル受賞の他、主演男優、装置デザイン、照明デザインの
各部門でトニー賞を受賞している。           
 またこの作品は、後にディズニー製作の『ノートルダムの
鐘』や『ポカホンタス』の音楽を担当したスティーヴン・シ
ュワルツが、作詞作曲を担当(トニー賞候補)しており、今
回は彼との契約も交わされている。『シカゴ』と同様、映画
向けの新しい楽曲の提供もありそうだ。         
 因に、ミラマックスでは、今年の2月には同じくブロード
ウェイミュージカルの“Guys and Dolls”の映画化の計画も
発表しているが、現状では前回紹介した“Damn Yankees”の
計画が先行して進められているようだ。         
        *         *        
 またしてもアジア製ホラー映画のハリウッドリメイクの計
画で、韓国で今年の6月13日に公開されたばかりの“A Tale
of Two Sisters”という作品に、早くもリメイクの契約が
交わされている。                   
 契約したのは、『ザ・リング』を成功させたドリームワー
クスの製作者ウォルター・パークス。4000万ドルの製作費で
1億2900万ドルを稼ぎ出したという和製ホラーのリメイクに
続くヒットを狙っているということだ。         
 オリジナルのお話は、謎の病から回復した2人の少女が、
異様な振舞をする義理の母親の元で、恐ろしい生活を強いら
れるというもの。キム・ジイ・ウーンという監督の作品で、
6月の公開では、『マトリックス/リローデッド』に次ぐ韓
国映画史上2番目の封切り興行を記録したということだ。 
 そしてこの作品のリメイク権については、パラマウント、
ユニヴァーサル、ソニー、MGMとの間で争奪戦が行われ、
結局7桁($)の契約金でドリームワークスが権利を獲得し
たものだ。                      
 なお製作状況は、すでに“After the Sunset”(ピアーズ
・ブロスナン、アイス・キューブ、サルマ・ハエック共演の
犯罪もの、ニューラインで製作中)などの脚本家のクレイグ
・ローゼンバーグがリメイク版の脚色を始めており、監督は
未定だが、かなり早く進むことになりそうだ。因に、ローゼ
ンバーグはドリームワークスの契約以前から計画に参加して
いたということだ。                  
 ということで新企画の登場だが、ドリームワークスでは、
『ザ・リング』の続編の計画も進めており、この計画もパー
クスの製作で進められているものだが、その後どうなってい
るのだろうか。                    
        *         *        
 もう1本アジア製ホラーの話題で、日本でも先に公開され
たダニー&オキサイド・パン兄弟の『EYE』のハリウッド
リメイク計画の詳細が発表されている。         
 この計画では、パラマウント傘下でトム・クルーズが主宰
するクルーズ/ワグナー・プロダクションがリメイク権を獲
得したことで話題になったが、製作にはさらにディメンショ
ン傘下のヴァーティゴ・エンターテインメントが参加すると
いうことだ。そしてこのリメイクの脚色に、98年にブルース
・ウィリスが主演した『マーキュリー・ライジング』などの
ライン・ピアスンの契約が発表されている。       
 なお98年の作品は、少年を描いた見事なスリラーとして評
価が高いが、ピアスン自身は、現在コロムビア傘下のエスケ
ープ・アーチスツに“Knowing”というオリジナル脚本を提
供している他、ジェームズ・キャメロン主宰のライトストー
ムにも“Godspeed”という脚本を提供しているそうだ。  
 また、製作に参加するヴァーティゴは『ザ・リング』の製
作に協力したことでも知られており、ディメンション傘下で
蓄積したホラー映画製作のテクニックが発揮されることにな
るようだ。                      
        *         *        
 『フィツカラルド』などのドイツの映画作家ヴェルナー・
ヘルツォークが、スコットランドのネス湖の謎に挑む“The
Enigma of Loch Ness”というドキュメンタリー作品の撮影
が開始され、同時にヘルツォーグ自身を題材にした“Herzog
in Wonderland”という作品がジョン・ベイリーの監督で制
作されている。                    
 まずヘルツォーグの作品は、脚本家のザック・ペンが資金
調達と製作を担当しているもので、ネス湖の怪獣ネッシーの
謎を追うもの。日本からも都知事になる以前の石原真太郎な
どが挑んだ題材だが、正直に言って現存の可能性はかなり少
ないと思う訳で、まあ今さらネッシーそのものを追い掛ける
とも思えないが、歴史的な背景などが描かれるなら面白くな
りそうだ。                      
 そしてベイリーの作品は、現在はロサンゼルスに住んでい
るヘルツォーグとハリウッドとのつながりを描くものという
ことで、ハリウッドにいながらコマーシャリズムとは無縁の
活動をする監督の姿が描かれるそうだ。それにしても、劇映
画のメイキングのドキュメンタリーは最近いろいろ作られて
いるが、ドキュメンタリーのメイキングというのは、一体ど
ういうことになってしまうのだろうか。         
 もっとも以前からの親友というザック・ペンは、「彼は実
生活でもフィクションとの区別が付かないような人物」と評
しているから、逆に本編がドキュメンタリーなら、これも面
白いかも知れない。                  
 因にヘルツォーグは、90年代以降はドキュメンタリーを中
心に仕事をしているそうだが、劇映画の作品もない訳ではな
く、昨年は“Invincible”という作品がファインラインから
配給されている。また、現在は97年に発表した自身のドキュ
メンタリー作品をドラマ化して、クリスチャン・ベイルが出
演する“Little Dieter Needs to Fly”という計画も進めて
いるということだ。                  
        *         *        
 ちょっと面白い話題で、ゲームメーカーのアクティヴィジ
ョン社がパラマウントを傘下に置くヴァイアコムを訴えると
いう話が伝わってきた。                
 これは、アクティヴィジョン社が98年にヴァイアコムと交
わした“Star Trek”のゲーム化の契約に関係したもので、
同社では、契約期間10年のこの契約の基づいて、すでに5年
間で10タイトルのゲームを、パソコンやプレイステーション
向けに発売しているということだ。           
 ところが、最近の同シリーズの映画及びテレビでの人気の
低下で、すでに本来売れたはずの商品から数100万ドルの損
害を受けており、これは、ヴァイアコムの子会社であるパラ
マウントが充分な努力を払っていないためとするものだ。 
 実際、契約当時の『スター・トレック』は、それまでの4
年間に3作の映画作品を公開し、またテレビでも2つのシリ
ーズが放送されていた。しかしその後に公開された劇場作品
は『ネメシス・STX』だけで、テレビシリーズも『エンタ
ープライズ』のみになってしまった。          
 しかも、今後に劇場映画の計画はなく、テレビも『エンタ
ープライズ』以後のシリーズの計画はないということで、こ
れでは契約を交わした際の、作品の人気を保ち続けるという
約束を果たしていないというものだ。確かに、シリーズの人
気を保ち続けるというのは難しいものだが、こういう契約が
背景にあるならば、少なくともシリーズを継続する努力は要
求されるようだ。                   
 ということで、今回の報道に関連しては、劇場版の次回作
の準備は進められているというインサイダー情報もあったよ
うだが、さてどうなることか。ファンとしては、どんな事情
であれ、シリーズの継続は期待したいところだが…。   
        *         *        
 最後に、SF映画の情報で、コロムビアで進められている
“Alien Prison”という作品の脚本を、『フェイス/オフ』
などを手掛けた脚本家チームのマイク・ウェーブとマイクル
・コレアリーが7桁($)に近い契約金で契約したことが発
表された。                      
 この作品は、『エアフォース・ワン』などのアンドリュー
・マーロウのオリジナル脚本に基づいて進められているもの
で、内容は異星の牢獄に捕えられた地球人の集団が、その牢
獄を脱獄し、異星人による地球への全面的な侵略に立ち向か
うというもの。これを大型製作費のテントポール用作品に仕
上げるということだが、製作担当のレッドワゴン社のダグ・
ウィックは、「『戦場にかける橋』や『第十七捕虜収容所』
を目標に、人間の本性をあらわにするような作品にしたい」
と語っており、かなりの作品になりそうだ。        
 因に脚本家の2人は、『フェイス/オフ』のジョン・ウー
監督の新作“Men of Iron”の他、パラマウントで進められ
ているヴィデオゲームの映画化“Tekken”の脚本も手掛けて
いるそうだ。                     



2003年07月02日(水) チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル、ターミネーター3、ハルク

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』     
          “Charlie's Angels/Full Throttle”
前回、特別映像の紹介をしたが、いよいよ本編の試写が行わ
れた。                        
ホームページにアップするときには公開済みなので、いまさ
ら多く書いても仕方がないとは思うが、僕の印象を記録して
おく。その第1印象としては、テレビシリーズのファンの期
待も裏切らない出来ということは言えるだろう。     
前の紹介では、そのテンションが最後まで持つのかと心配し
たものだが、どうして最初から最後まで、ほとんど切れ目な
しのアクションの連続で、お見事という感じだった。   
特別映像で紹介されたモンゴルとモトクロスのシーンは、多
分編集でさらに刈り込まれて、テンポが上がっている感じだ
し、本来ならダレ場になるコメディーリリーフのシーンも、
ちょうど良い息抜きの感じで、その緩急の付け方も上手い。
それに監督のMcGはさすがにミュージックヴィデオの名手
らしく音楽の付け方も抜群。中でもオリジナルのテレビシリ
ーズのテーマが時々聞こえてくるシーンが最高で、特にゲス
トのジャクリン・スミスの登場シーンは、懐かしさで目が潤
んでしまいそうになった。               
物語は、重要犯罪証人保護プログラムの保護対象者リストが
奪われるところから始まる。そのリストは2つの指輪にホロ
グラムで刻印され、2つを重ねてレーザーを照射すると読み
出されるというもの。そして早速、その証人の一人が殺害さ
れ、FBIの指示で、チャーリーが下した命令により、エン
ジェルたちの捜査が始まる。              
エンジェルたちは、殺害現場に残されたワックスから犯人が
サーファーであることを突き止め、ビーチでの捜索が開始さ
れるが、そこに伝説のエンジェル、マディソンが現れる。そ
して過去のエンジェルの出現が呼び水になったように、現在
のエンジェルの過去も炙り出される。          
お話は、書いてみるとちょっと暗めだが、結局のところは、
奪われたリストが犯罪組織に売却されるのを阻止するという
展開で、ど派手なアクションが展開する。それと上にも書い
たコメディリリーフのタイミングの良さで、見ている間は気
にならなかった。                   
前にも紹介したモトクロスのシーンを始めとして、ディジタ
ル・エフェクツの見事さは、1億7000万ドルの製作費が伊達
でないことはよく判るし、おまけに『スパイダーマン』のパ
ロディまで惜しげもなく繰り出す気前の良さ。      
まあ、この辺はどっちもイメージワークスの仕事だから、や
り易かったかも知れないが、それにしてもやれることは全部
やりましたという感じがして、気持ちが良かった。    
                           
『ターミネーター3』                 
        “Terminater 3: Rise of the Machines”
1984年製作の『ターミネーター』、91年製作の『T2』に続
く12年振りのシリーズ第3作の登場。          
『ターミネーター』と言えばシュワルツェネッガーの代名詞
のようになっているが、僕にとっては、前2作の脚本監督を
手掛けたジェームズ・キャメロンのイメージの方が強い。今
回の作品も、権利関係をクリアにして当然彼が手掛けるはず
の作品だった。                    
しかし、某超大作を完成させるために、已むなく結んだ契約
を盾にとった某社の横槍で、今回はそれが叶わなかった。僕
は、いつの日かキャメロンが最終話を作ってくれると信じて
いる。従ってキャメロンの外れた第3作には、懐疑的な気分
が拭えなかった。                   
つまり、最終話をキャメロンが作るものとすれば、彼が外れ
た今回の作品は繋ぎの意味しか持たないものであり、結局の
ところは、派手なアクションだけが取り柄の、只のプログラ
ムピクチャーになってしまうと予想していたのだ。    
しかし予想は見事に覆された。確かに前半は、『T2』も霞
んでしまいそうな、ど派手なアクションが展開されて、その
辺はにやにやしながら見ていられたのだが…。それから後の
展開は、さすがに、シュワルツェネッガーが前言を翻して出
ただけのことはあるという感じだ。           
後は映画を見てもらうことにして、お話は、未来の人類の指
導者ジョン・コナーの抹殺のため、今回は武器内蔵型の究極
のターミネーターT−Xが女性の姿で送り込まれてくる。そ
れを追って、再プログラムされた旧型のT−101も時空を
越えて現れる。                    
一方、コナーは10年前の審判の日を阻止して以来、人生の目
標も定まらぬまま放浪生活を送っている。そしてバイク事故
の手当のため鎮痛剤を入手しようと忍び込んだ獣医院で、10
年前の女友達ケイトと巡り会う。そこに2体のターミネータ
ーが現れる。                     
その場は何とか逃げおおせた2人とT−101だったが、T
−101は10年前に破壊したはずのスカイネットの開発が軍
の中で継続されており、その責任者がケイトの父親であるこ
とを告げる。                     
そして、悪質なコンピュータウィルスに手を焼いた軍の上層
部が、その対抗策としてAI搭載のスカイネットの接続を命
令し、そのAIの意志によって3時間後に人類世界が破壊さ
れることを…。                    
ターミネーター本人は、前作ほどの人間味はない設定になっ
ている。しかし、車のキーの下りなど、前作からのファンも
楽しめる仕掛けもある。                
また、前半のアクションは、ほとんどCGIに頼らず、また
華麗なワイヤーアクションというものでもなく、唯々体力任
せのフィジカルアクションという感じの大迫力で、久しぶり
にこういうものが見られたという感じがした。      
さらに後半にもメカアクションや、2体のターミネーターの
死闘などのアクションが満載で、それだけでも充分に楽しめ
る作品になっているのは見事だ。            
それに加えてこの展開、ぜひとも早く続きが見たいというと
ころだ。                       
                           
『ハルク』“The Hulk”                
マーヴル・コミックスの『超人ハルク』を、アカデミー賞外
国語映画部門を受賞した『グリーン・デスティニー』のアン
・リー監督が映画化した作品。             
アン・リーには文芸監督の印象を持つ。その監督がたまたま
撮った武侠映画が評判になってしまった。だから彼がコミッ
クスの映画化を手掛けると聞いたときには、違和感を感じた
ものだ。ましてやハルクでは、華麗なワイヤーアクションと
いう訳にも行かない。                 
しかし出来上がった作品は、なるほどアン・リーが手掛けた
だけのことはあるという作品に仕上がっていた。     
物語は、ハルクの誕生を中心に描かれる。そもそもの発端か
ら、実験での事故、父親の登場、そして変身、逃亡、拉致、
再逃亡と展開して行くが、これをニック・ノルティ、ジェニ
ファー・コネリーらがしつこいほどにじっくりと描いてみせ
る。                         
もちろんアクションも見所にはなっている。砂漠地帯を縦横
に走り回っての戦闘ヘリとの戦いや、ゴールデンゲイトブリ
ッジを舞台にしたジェット戦闘機との戦いなどで、スピード
感溢れるシーンが展開する。              
しかしアン・リーが魅せてくれるのは、やはり人間関係を描
いたドラマの部分だ。そこにノルティ、コネリーらの起用の
意味がある。もちろんリーの起用の意味も。これを決めたプ
ロデューサーは、元ジェームズ・キャメロン夫人のゲイル・
アン=ハードだ。                   
ロバート・ワイズが監督した『スター・トレック』映画版の
第1作のように、重厚な第1歩が描かれた。後は、ここから
どのように発展させるのか。すでに第2作の準備はスタート
したようだ。                     
それにしても、サム・エリオットが演じるベティの父親の将
軍が、市街地でも平然とミサイルを発射させてしまうのには
参った。これはやはり、気に入らない娘のボーイフレンドに
対する父親の仕打ちということなのだろうか。      
それから、予告編にも入っていたハルクが元の姿に戻ってベ
ティと抱き合うシーンの台詞は、予告編ではかなり良い字幕
が付いていたように思ったが、本編では差し替えられて、何
か意味不明の字幕になっていた。僕は予告編の方が正解だと
思うのだが…。                    



2003年07月01日(火) 第42回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはこんな話題から。               
 『シカゴ』の大ヒットとオスカー受賞を達成したミラマッ
クスから、更なるミュージカル企画として“Damn Yankees”
のリメイクの計画が発表された。            
 この作品は、1955年にブロードウェイで初演、58年にワー
ナーで最初の映画化が行われたもので、オリジナルの映画化
では、舞台も手掛けたジョージ・アボットと映画ミュージカ
ルの巨匠スタンリー・ドーネンが監督、タブ・ハンター、グ
ウェン・ヴァードン、レイ・ウォルストンらが出演して、日
本では『くたばれヤンキース』の題名で知られている。  
 因に、この原題はアメリカでは常套句になっていて、最近
でも『ヤァヤァシスターズの聖なる秘密』などで使われてい
たが、なかなか正しい日本語訳にはなっていないようだ。 
 そしてこの作品は、オリジナルの振り付けを『シカゴ』と
同じボブ・フォッシーが手掛け(フォッシーは映画化のダン
スシーンに出演もしている)、その94年のブロードウェイ・
リヴァイヴァルを、『シカゴ』でオスカーを受賞したロブ・
マーシャルが演出したということだ。          
 ということで、『シカゴ』の流れを引き継ぐにはベストの
作品と言えそうだが、お話は、メイジャーリーグ・ベースボ
ールをテーマにして、熱狂的なワシントン・セネタース・フ
ァンの男性が、自分の魂を売り渡すのと引き換えに、愛する
チームに最強のバッターを入団させる契約を悪魔と結び、そ
の結果、彼自身が最強のバッターに変身して大活躍をすると
いうもの。題名のヤンキースとは、現在松井が在籍している
ニューヨーク・ヤンキースのことだ。          
 これに、主人公とファンの女性とのラヴ・ストーリーなど
を絡めて、初演でブロードウェイの最高の栄誉のトニー賞を
7部門も受賞した名作ミュージカルとなっている。    
 なお今回の発表は、ミラマックスが、『シカゴ』を製作し
たクレイグ・ゼイダンとニール・メロンのコンビと製作契約
を結んだことが報告されたもので、具体的な映画化のスケジ
ュールなどは明らかにされていない。しかし1、2年の内に
実現すれば、『トゥー・ウィークス・ノーティス』の新庄に
続いて松井の登場もあるかも知れないというところだ。  
 ただし、ゼイダン=メロンのコンビは、同じくブロードウ
ェイミュージカルの“Guys and Dolls”の映画化の製作契約
を先にミラマックスと結んでおり、またワーナーでフランク
・ダラボン監督の“Fahrenheit 451”、さらにパラマウント
でミュージカル作品“Footloose”の再映画化の計画も進め
ているということで、実現には多少時間が掛かりそうだ。 
        *         *        
 もう一つミュージカルの話題で、以前にも紹介したアンド
リュー・ロイド=ウェバー版“The Phantom of the Opera”
の映画化の主なキャスティグが発表されている。     
 まずファントム役は、イギリス出身で『ドラキュリア』の
ドラキュラ役や、日本では秋公開予定の“Lara Croft: Tomb
Raider: Craidle of Life”に主人公の元恋人役で登場する
ジェラルド・バトラー。ファントムが思いを寄せるクリステ
ィーヌ役には、7歳から舞台に立ち16歳にしてメトロポリタ
ン・オペラのヴェテランと呼ばれるエミー・ロサム。彼女の
恋人役に新作“The Alamo” にも出演しているパトリック・
ウィルスン。そして、クリスティーヌに主役の座を奪われる
女優カルロッタ役には、『グッド・ウィル・ハンティング』
などのミニー・ドライヴァの配役が発表された。     
まあ、どちらかと言うと、映画ではまだトップクラスとは
呼べない配役が揃えられた感じだが、バトラーとドライヴァ
はロンドン・ウェストエンドでの舞台経験も積んでいるよう
で、実力のある俳優が選ばれているということのようだ。 
 なおヒロインを演じるロサムは、クリント・イーストウッ
ド監督で今年のカンヌ映画祭に出品された“Mystic River”
にも出演しているそうだ。また、ドライヴァの次回作には、
一時クリスティーヌ役が報じられていたアン・ハサウェイの
相手役で出演した“Ella Enchanted”の公開が控えている。
映画化は、ジョエル・シュマッチャーの監督で、9月15日
にロンドンのパインウッドスタジオでの撮影が開始されるこ
とになっている。                   
        *         *        
 お次は待望の情報で、昨年10月1日付のこのページ第24回
でも紹介した“The Hitchhiker's Guide to the Galaxy”の
映画化について、製作側の最終的な布陣が発表された。  
 それによると、一時監督が予定されていたジェイ・ローチ
は製作に専念することになり、監督にはイギリスのコマーシ
ャルやミュージックヴィデオで実績を挙げているハマー&ト
ンというチームが映画デビューを飾ることになっている。 
 なおこのチームは、脚本監督のガース・ジェニングスと製
作のニック・ゴールドスミスの2人が結成しているもので、
その実力はミュージクヴィデオで実証済みということだ。そ
して彼らは、すでに計画に参加しているケアリー・カークパ
トリックと共に、原作者ダグラス・アダムスの遺稿に基づく
脚本を仕上げ、撮影に臨むことになっている。      
 因に、製作を担当するスパイグラス社では、カークパトリ
ックが完成させた脚本を、一旦は『マルコヴィッチの穴』の
スパイク・ジョーンズに預けたものの、最終的にイギリス人
のチームに委ねることにしたということだ。また、彼らも、
幾多のハリウッドからの映画監督への誘いを断わり続けてい
たということで、結局のところはイギリス人の力を結集した
作品が作られることになりそうだ。           
 物語は、宇宙航路建設のため人類もろとも地球が破壊され
た後の世界で、唯一人の生き残りとなった主人公が、変な異
星人やロボットと共に旅を続けるというコミック・ファンタ
シー。原作は、最初はイギリスBBCラジオで放送され、そ
の後、小説化やテレビ化、ヴィデオゲームにもなっている。
        *         *        
 続いては続編の話題で、まずはこのページの第31、32回で
紹介した『オーシャンズ11』の続編“Ocean's Twelve”の映
画化が、来年2月にローマで行われることが発表された。 
 この発表は、主人公のオーシャン役を演じるジョージ・ク
ルーニーがローマを訪れて行ったもので、同時にクルーニー
は、ローマ市の医療機関に対して10台のスクーターを寄付、
心臓病などの患者の元へ医師を迅速に派遣するために活用し
てもらうことにしたということだ。           
 クルーニーは、元々『ER』で人気を得たことから、医療
問題にも関心が高いのかも知れないが、わざわざローマ市を
選んでこういう寄付を行ったことには何か理由があるのだろ
うか。一方、この寄付に対してローマ市からは、市の鍵がク
ルーニーに贈られたということで、これで市内でのロケーシ
ョン撮影も自由に行えるということだろうか。      
 なお、続編には『11』に登場した全員が顔を揃えるという
ことだが、全員との契約はまだ結ばれていないという情報も
あり、特に『11』の後に出演料が高騰したメムバーもいると
いうことで、さてどうなりますか。           
 物語は、第32回で紹介したように、2人の泥棒が1人の女
性に恋をしてしまうというもので、元々はブラッド・ピット
とチョウ・ユン=ファの共演でジョン・ウーが監督する計画
だったもの。しかしウー監督のスケジュールが一杯になり、
ウーの監督が断念され、その計画を衣更えして、スティーヴ
ン・ソダーバーグの監督で実現することになったものだ。 
 2人の泥棒は誰と誰なのか、それに12人目のメムバーは?
いろいろ面白くなりそうだ。              
        *         *        
 次は、前回の記事の続報にもなるが、ブレット・ラトナー
監督の“Rush Hour 3”が正式に動き出し、主演のクリス・
タッカーに8桁($)の出演契約が結ばれている。    
 この計画では、3月に“Superman”から降板したラトナー
がただちに準備を開始していたものだが、一方で、人気者に
なった出演者2人の契約金の高騰が懸念されていた。しかし
前2作の興行収入は、アメリカ国内だけで合計3億6700万ド
ルにも達しており、この金額は懸念を簡単に吹き飛ばしてし
まったようだ。                    
 なお現状では、ジャッキー・チェンに対する出演交渉は行
われていない模様だが、タッカーの金額から考えれば、嫌と
は言えないものになりそうだ。因にチェンは、主演したウォ
ルデン・メディア製作“Around the World in 80 Days”は
すでに撮影を完了してポストプロダクションに入っており、
また“The Medallion”という作品が、コロムビアの配給で
全米公開が決定している。               
 ただし“Rush Hour 3”の制作状況は、まだ脚本の仕上げ
の段階ということで、撮影開始までには少し時間が掛かると
のこと。多分、前回紹介した“Be Cool”が秋から撮影され
て、その後ということになりそうだ。また“Rush Hour 3”
の全米配給はニューラインが行うが、同社では04年あるいは
05年の公開を計画しているようだ。           
        *         *        
 もう一つは、ちょっと残念な情報で、来年5月21日に予定
されていた“Mission: Imposible 3”の公開が大幅に延期さ
れることになるようだ。                
 この計画は、トム・クルーズの製作主演で、『ナーク』の
ジョー・カーナハン監督を大抜擢して進められているものだ
が、ここに来てマイクル・マン監督がドリームワークスで進
めている“Collateral”という作品にクルーズの主演が決定
し、この撮影が今秋行われることから、自動的に“M: I3”
の撮影が遅らされることになったものだ。そして現状では来
年1月の撮影が予定されているが、それでは5月の公開に間
に合わないということだ。               
 このシリーズでは、前2作もかなりタイトなスケジュール
で製作されていたような気がするが、今回はブライアン・デ
=パルマ、ジョン・ウーのようなヴェテラン監督ではないと
いうことで、慎重に進められているのかも知れない。これに
より公開は、早くて来年のクリスマス、若しくは05年の5月
になるということだ。                 
 なお、マン+クルーズの作品は、ロサンゼルスを舞台にし
た1夜の物語で、タクシー運転手がプロの殺し屋を乗せてし
まったことから、市内を巡る殺人の旅に引き摺り込まれると
いうもの。マンにとって、スタイリッシュな犯罪ものは得意
中の得意という感じなので、面白い作品になりそうだ。因に
クルーズは、殺し屋の役を演じることになっている。   
        *         *        
 またまた実写とCGI合成作品の計画で、『スチュアート
・リトル』を成功させたロブ・ミンコフが、ジェイ・ワード
製作による往年のテレビカートゥーンシリーズ“Mr.Peabody
& Sherman”の映画化を手掛けることが発表された。   
 このシリーズは、2000年にロバート・デ=ニーロ主宰のト
ライベカの製作で映画化された“Adventures of Rocky and
Bullwinkle”などでも知られるテレビ番組“Rocky and His
Friend”の一篇として登場した同名のシリーズを映画化する
もので、お話は、天才犬のピーボディと彼のペットの少年シ
ャーマンが、タイムマシンを駆使していろいろな冒険を繰り
広げるというもの。第1作は1959年に発表されている。  
 そして今回の計画は、ジェイ・ワード・プロダクションが
参加するブルウィンクル・プロダクションというところが、
ミンコフ主宰のスプロケットダインと提携し進めるもので、
配給はスプロケットダインが契約を結んでいるソニー・ピク
チャーズが担当することになっている。         
 なお、具体的な物語や脚本家などは未定ということだが、
関係者の発言を見ると、ミンコフにその期待が寄せられてい
るようだ。そしてそのミンコフは、現在エディ・マーフィの
主演でディズニーが製作する“Haunted Mansion”の映画化
を進めており、それが一段落したらこの作品の準備を始める
ことになりそうだ。                  
        *         *        
 お次は、以前から計画が進められ、一時は競作になる可能
性もあったジャニス・ジョプリンの伝記映画が、ついにパラ
マウントとレイクショアの製作で実現されることになった。
 1970年に27歳で亡くなった歌姫ジャニスの伝記映画に関し
ては、以前は彼女の歌声を管理する版権会社や彼女の姉妹、
伝記作者などが入り乱れて、一時は収拾の付かない状態にな
っていた。しかし7年前からレイクショアが最終的な権利を
掌握し、映画化を目指して準備を進めていたようだ。   
 ところがブリタニー・マーフィやメリッサ・イーサリッジ
に主人公を演じさせる計画は、数多くの脚本が執筆されたも
のの、映画化に踏み切るまでに至らず、結局現在になってし
まったということだ。                 
 その計画が今回進み始めたのは、主演にルネ(レニー)・
ゼルウィガーの参加が決まったことによるもので、彼女が出
演すれば最高の映画が作れると判断されたということ。そし
て現在は、彼女の了解を得られる脚本の執筆と、監督の人選
を進めている状態だそうだ。またこの計画で、ゼルウィガー
は主演の他に製作も担当し、映画は“Piece of My Heart”
の題名で、04年の撮影開始を目指すことになっている。  
 なおゼルウィガーの今後の計画では、ワーキングタイトル
製作で『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編“Bridget
Jones: The Edge of Reason”が、原作者のへレン・フィー
ルディングとアンドリュー・デイヴィスの脚本に基づき、新
たにビーバン・キドロンの監督と、前作に引き続きコリン・
ファース、ヒュー・グラントの共演も決定して、11月からの
撮影が予定されている。従って今回の伝記映画は、この続編
の終了後に製作されることになるようだ。        
        *         *        
 『ハリー・ポッター』の第5巻が出版されたところで、ま
たまたユースファンタシーの映画化の計画を2つ紹介してお
こう。                        
 まずは、“Zoom's Academy for the Super Gifted”とい
う作品の映画化がリヴォルーションで計画されている。  
 この作品は、以前はディズニーやワーナーでアニメーター
をしていたジェイスン・レスコーが、2001年に発表したグラ
フィックノヴェル。ごく普通の女子高生が謎の父親の指示で
スーパーヒーローのための学校に入学し、そこで自分の才能
に目覚めるというもの。何か似過ぎのような気もしないでも
ないが、この作品をスザンヌ&ジェンファー・トッドのチー
ム・トッドの製作で進めることになっている。      
 因に、チーム・トッドは、以前に紹介した“Lionboy”を
ドリームワークスで進めている他、1960年代にディーン・マ
ーティンが主演した往年のスパイシリーズ“Matt Helm”の
リメイクの計画も手掛けているそうだ。         
        *         *        
 もう1作は、“Paper Dragon”という題名の作品で、ルー
ビック・キューブの世界チャンピオンという設定の少年が、
古代アジアのパズルボックスを開いて閉じ込められていた戦
士を蘇らせ、彼と共に冒険を繰り広げるというもの。アンデ
ィ・テオという人の原案から、アメリカの長寿番組“Law &
Order”や『シカゴ・ホープ』にも名を連ねるジョシュア・
スターンが脚本を手掛けている。            
 そしてこの映画化を、リドリー・スコット監督の『テルマ
&ルイーズ』や『白い嵐』などを手掛けたミミ・ポーク・ギ
トリンの製作で進めているものだ。因にギトリンは、この作
品の他に、ウィリアム・タチ原作のコミックス“Shi”の映
画化も進めているそうだ。               
 また脚本家のスターンには、インディ作品の監督の経験も
あるということで、本作の監督も期待されているようだ。 
        *         *        
 最後に久々の情報。                 
 一時はスティーヴン・スピルバーグの監督で、主なキャス
ティングまで発表された日本人女性を主人公にした歴史作品
“Memoirs of a Geisha”の監督に、『シカゴ』でオスカー
を受賞したロブ・マーシャルの名前が挙がっている。   
 この作品は、1997年に発表されたアーサー・ゴールデンの
小説を映画化するもので、この脚色は、ロン・バスやアキヴ
ァ・ゴールズマンらが手掛けたものの、結局スピルバーグの
満足するシナリオは出来上がらなかったということだ。この
ためスピルバーグは降板し、その後はキムバリー・ピアース
やスパイク・ジョーンズが候補に挙がったものの決定には至
らなかった。                     
 その監督にマーシャルの名前が挙がってきたもので、マー
シャルの計画では先にミラマックスで“Guys and Dolls”な
どが進められてはいるものの、本人は次回作にはミュージカ
ル以外のものをという希望があるとも伝えられており、その
希望に沿う作品として“Geisha”が挙がってきたようだ。 
 まあ、こういう希望的観測の情報が実現することはなかな
か難しいものだが、マーシャルの『シカゴ』での女性の描き
方などには注目できるところがある訳で、同じような女性が
主人公のこの作品、配給担当のコロムビア=ソニーにも何と
か頑張ってもらいたいものだ。             


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井口健二