せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2001年10月31日(水) 稽古 あれから一年……

 今日の稽古は7人で。
 基礎トレから外郎売りをやって、それから、二人組になってもらって、いろいろと。
 最初に、マッサージをおしゃべりしながら。
 早瀬くん&マミー、ノグ&フッチー、荒くん&細川くんという組み合わせ。
 それから、二人組のまんまで「タクシー」を。
 新人くんたちには初めてのゲーム。
 目を閉じたタクシー役の背中に運転主役は手を当てて、「運転」していく。
 目を閉じてるから、運転手の指示だけが頼り。
 そのまま、当ててたら、直進。右肩を押さえたら右折、左肩なら左折。両肩を一度に押さえたら停止。
 お互いを信頼できるるか?っていうのがポイント。
 早瀬組は、まずまずなかんじ。でも、あちこちにぶつかってたね。
 ノグ組は、フッチーがまだ「信用しきれてない」かんじ。
 荒&細川組は、お互いにおそるおそるなかんじだった。
 続いて、今度は「粘土」。
 立ってる相手を粘土のように形作っていくというエチュード。
 今日は、一度、床に横になって寝てしまったのを、もう一度立ち上がらせるというのをやってみた。
 もちろん、粘土役は自分から動いてはいけない。そして、「いやだ」「痛い」「やめて」とだけ言っていいというルール。
 ノグ組はフッチーが粘土。じゃあ、始めようかと、ノグがフッチーの左手を動かしたら、一緒に右手も動いてた。だから、動いちゃいけないんだって! そのあとは、まあ順調に。
 早瀬組は、早瀬くんが粘土。一度寝てしまったのを立ち上がらせるのは、結構難しい。
 問題は重心をどう動かしていくかなんだよね。いつも、自分で何気なくやってることを、きっちり相手に「やらせる」のはなかなか大変だ。
 その大変さがピークだったのは、フッチー組。粘土は荒くん。
 これはなかなか立ち上がれなかった。
 「痛い」って言葉も何度か発せられて……。最後は、みんなで、ああでもないこうでもないと……。
 ひと休みして、「エレクトラ」。
 「粘土」にたっぷり時間をかけてしまったので、やや大急ぎ。
 覚えてもらった53場を通してやってちょうだいと言う。
 今日の二人組で、どっちがクリュタイムネストラでどっちがエレクトラをやるかを決めてもらって、一度読んでもらってから、発表。
 今日は、細かいことをいろいろ言わずに、「おもしろくやってね」とだけ。
 最初は、ノグ組。ノグがクリュタイムネストラでフッチーがエレクトラ。
 ノグは、この稽古に参加してまだ3回なんだけど、この場面のセリフを頑張って入れてきた。
 かなり曖昧だったんで、結局台本を持ってだったんだけど、よくやったってかんじ。
 ただ、言葉がちゃんと相手にとどいていってない。元もとノグは、セリフを引きながら喋るクセがあるんだけど、台本を持っての芝居だとその傾向が強くなる。
 本を持ちながらでも、相手にちゃんと話しかけていくことはできるわけなんだけど、それはとっても「テクニック」がいることで、それは、ちゃんと芝居ができるってこととはまた別の力だからね。
 だから、今回は、敢えてムリを言って、セリフを覚えてもらったんだ。
 フッチーのエレクトラは、なかなかいいかんじ。むちゃくちゃ緊張してるけど、それがいい方向で相手に向き合う力になってってる。
 ただ、二人とも、一人でやっちゃってることは間違いない。いっぱいいっぱいで、「どうしゃべるか」ってことで精一杯だ。
 どうしゃべろうかなんてことは、相手の言い方によって、全然変わってくるわけだから、そんなことあんまり考えないで、相手のセリフをちゃんと聞いた方がいいはずだ。
 続いて、荒&細川組。荒くんのクリュタイムネストラ、細川くんのエレクトラ。
 荒くんも久し振りの稽古場。台本は持ったまま。
 ただ、ノグよりもちゃんと芝居になってたのは、「どうしゃべるか」ということよりも、相手に向かうこととか、そこにいるってことに集中してたからだと思う。
 細川くんも、やや緊張気味。こんなに通してやるのは、初めてだもんね。
 稽古前にセリフをさらってるときは、ちゃんと出てくるのに、みんなの前で発表になるとつまってしまうのが、ずっと悔しかったみたいだけど、今日はちゃんと出てきてた。
 時間がなくなったので、今日は二組でおしまい。
 帰り道は、また芝居の話をずっとしてる新人くんたち。
 かわいいねえ。
 僕は荒くんと久し振りにおしゃべりだ。
 稽古場の人数が奇数だと、何もできなくて欲求不満!という話を聞いてもらう。
 荒くんとは、12月1日のぷれいす東京主催の「VOICE」というイベントでまた一緒だ。
 去年は二人芝居をやったんだけど、今年はそろって裏方のみ。フライングステージの面々にもまた手伝ってもらうことになりそう。
 去年の今頃、僕は「ゴッホからの最後の手紙」の稽古で札幌に行っていて、帰ってきてから、「VOICE」の二人芝居やら、gaku-GAY-kaiの「贋作・黒蜥蜴」の準備やらをしてた。
 荒くんも劇団に来たばかりで、僕もまだよそゆきなかんじだった。
 あれからもう一年か……と感慨深い。
 そして、もう11月。
 年末の大忙しモードのはじまりだ。


2001年10月27日(土) 風邪っぴき メール復活!

 起きると身体がダルい。ここ何日か喉が痛かったんだけど、ついに風邪っぴきか?ってかんじ。
 だらだら部屋の外に出て、台所に行くと、高市氏が喉にタオルをまいてパソコンに向かっている。
 彼も風邪をひいたらしい。
 一昨日、まみーがダウンして稽古を休んだんだけど、それが伝染ったのかと思ったんだけど、どうやら同じくらいの時期にそれぞれどっかからもらってきてるらしい。
 一息ついて、僕はようやく届いたプロバイダーからの「パスワード」をもとにメールを復活。
 88通!なんて件数のメールを読み通すのに一時間ほどかかってしまう。
 と、高市氏の母上がご来訪。
 高市氏の厄よけのお札を持ってきてくれたそう。
 彼は来年が本厄。
 四人でしばしおしゃべりする。
 こないだウスイさんからいただいたティーポットで初めて紅茶を入れる。
 いつもと同じティーバッグなのに、何だかとってもおいしくてびっくり。
 芝居のこと、母上がやっているダンスのことなどなど、たくさん話す。
 ゆっくり座って、お茶を飲んでおしゃべりというのは、なかなかいいものねと思った。
 さっきまでの喉の痛みとだるさも、どこかに行ってしまったようだ。

 で、稽古。
 今日は、久し振りなめんめんが集まってなかなかにぎやか。
 荒くんにまっすーに水月アキラ、それにのぐとはやせくんとまみー、ふっちーに細川くんに僕、計9名。
 いつもの基礎トレの後、外郎売りをみんなでやって、それから「エレクトラ」。
 今日もクリュタイムネストラのセリフを丁寧に。
 「私だって、自分のしたことや自分自身に満足しているわけではありません。どこかで、いつのことだか、私は進むべき道を見失ってしまった。まあ、お前ときたら、そのひどい姿。汚れきって垢だらけ。ああ、何もかもひどいことになってしまった。私は怒りに身を任せすぎたのかもしれない」というセリフ。
 ちゃんと話しかける(エレクトラにね)ところ、自分の中を見つめるところ、などなど、前半をまずみんなで「ゲームのように」やった後、後半を2人組のチームに分けて「応用問題」。
 10分後に発表してもらう。
 「自分が納得いくように」やってもらったんだけど、まだまだちゃんとできてない。
 「どんな気持ち」でもいいから、その通りをちゃんと表現できることをお願いした。
 まっすーと細川くん、それにのぐの芝居を、細かく見ていく。
 ただ読んでしまえばすぐ終わるセリフだけど、その間にどれだけ心が揺れ動いているのかを考えてもらう。
 セリフを覚えてしゃべるだけではなくて、そのセリフの裏にある「心の動き」をちゃんと追っていきなさいと話す。
 時間がきたので、今日はここまで。
 いつもの遊んでしまえる稽古場とはかなり雰囲気がちがうなと、久し振りな面々のまえで改めて思った。
 僕は、僕の「方法論」をみんなに伝えようとしてる。
 それは、もしかしたら、一人一人が勝手に見つけださなきゃいけないものなのかもしれないんだけど。
 ただ、僕は、何だかわからないでやるよりも、こんなことも考えていい、考えたら、それをこうやればできるんだということの面白さをみんなにわかってほしいと思ってる。
 最後に、これは僕のやり方だから、あなたはあなたのやりかたを見つけなさいと言ってあげるから(って、責任逃れか?)。
 どんなプランでもいいから、それをちゃんと身体で表現できること。
 それができなきゃ何にもならない。
 逆に言えば、何も考えなくてもかまわないから、出来る身体でいてほしいと思う。
 その考える心と体の関係をちゃんと自分でコントロールできることを、僕は今、要求してる。
 そして、それは、僕が自分に求めてることと全く同じだ。
 楽しく遊んでしまえる稽古もありだけど、しばらくはこのちょっとしんどい稽古につきあってほしい。
 そしたら、きっと「芝居」がおもしろくなってくるから。


2001年10月26日(金) はえぎわ「愛撫 涙ながら」「少年たち2」最終話

 ウエストエンドスタジオではえぎわの「愛撫 涙ながら」を見る。
 「オープニング・ナイト」と「贋作・黒蜥蜴」に出てもらった森川くんが出演してる。
 前回公演は、中野でばったりいわいわと会って、森川くんと一緒に行く予定のこの劇団に一緒したんだった。よしおもいたっけね。
 受付前で、いわいわとのぐと会う。よしおとも終演後会う。
 前回の「波打ち際の乳房」を見て思ったのは、今の「アングラ」ってこんななんだなあということ。
 エロだったりグロだったりするんだけど、最後は「リリシズム」にまでもってってしまう。
 僕は、今の若い劇団の「身体」というものが時々わからなくなるんだけど、そのわからなさの理由っていうのは、そこに「身体」がないってことなんだと最近気が付いた。
 この「はえぎわ」の人達は、とっても「身体」というものを「あり」にして芝居をしてる。
 ストーリー的にも「身体」にはこだわってるのがわかる。乳房だったり、肉だったりね。
 そこらへんが、僕には信頼できる気がしている。
 実際、おもしろいし。
 今日の芝居は、前回よりは、スペクタクルじゃなかったけど、なかなかおもしろかった。
 宮崎アニメのいろいろをパロディというか盛り込んで、全部を裏返してみせてる。
 たっぱの高いウエストエンドを上手く使って、いろんな「しかけ」が盛りだくさんだ。
 森川くんは、このパワフルな人達にまじって、一番しっかりした芝居をしてた。
 僕は、ここの「井内ミワク」さんという女優さんが大好きだ。
 前回は、「アロエリーナ」の歌を歌う怪しい女の人だったんだけど、今回は、フライヤーにも書いてある「ギャランドゥの女」。劇中の語り手もやったりしてる。
 体温が低いような高いような、とにかく不思議な芝居をする。
 今日はじめて「はえぎわ」を見たのぐも「あの人いいね。理由はわからないけど」と言ってた。
 来年1月の「絶対王様」の「女海賊悦子」に出演するそうだ。森川くんも一緒に。もちろん郡司くんも。今から楽しみだ。

 帰ってきて、「アリーmyラブ」。MTFの依頼人が会社で健康診断を拒否したら解雇された。それを不当だとする訴えのお話。
 こういうセクシュアルマイノリティの話がこの番組にはたくさん出てくる。第3シリーズでよく出てたマーガレットっていうビアンの評論家(だと思う)の役はなかなかイカしてた。アリーとつき合ってたお兄さんがバイセクシュアルだったって話もあったっけ。
 アメリカではこういう事例(?)がたくさんあるってことなのかな?
 いずれにしろ、この人気番組でこれだけたくさんセクシュアルマイノリティが登場してきて、しかも「笑い話にしない!」っていう「お堅い」話ばかりじゃなくって、「誰でもみんな同じように変な人」なんだっていう向き合い方がとってもすがすがしい。
 セクシュアルマイノリティの描き方よりも、むしろそうじゃない、一般的には「普通な人」の描き方の問題なんだろうねきっと。

 続いて、「少年たち2」第3話。今日が最終回でした。
 やっぱり3回じゃちょっと盛りだくさんの内容だったのかもしれない。
 ちょっとはしょってるかんじはしたけど、今日もなかなか良かったです。
 山崎努の独白はすごかったな。「自分は子育てを失敗した人間だ」って話すくだり。
 このドラマのカメラワークはとっても自然で、しゃべってる人の顔を「もっと見たいな」と思うとちゃんと寄ってってくれる。
 舞台の役者さんたちを使ってるせいもあるんだけどね、それがとっても自然だ。実際に舞台を見てると、自動的に「クローズアップ」しちゃうじゃない? それと同じような寄り方なんだな。
 あと、嬉しかったのは、最後に、ちゃんとみんなにいい「場面」をつくってること。
 ずっと悪役だった加納幸和に「実はいい人」なセリフがあったり、大もめにもめてた若い二人が大団円でまとまったところで、木野花が「でも、やっぱりあの二人の将来は心配なんですよね」なんてつぶやいてみせたり、一番出番が少ない幼稚園の先生役の高泉淳子に最後のセリフをちゃんとあげるとかね。
 脚本は矢島正雄。とっても、おもしろかったし、「いい人なのね!」ってかんじ。
 ふと、今、トレーングでやってる芝居と、このドラマの中での芝居の違いみたいなものを考えた。
 僕らは今、どうしても「しゃべる」ってことをメインにやってるけど、それ以外だって「芝居」なんだもんね。
 何よりも「自分の言葉としてしゃべる」ってことのすごさに圧倒される。
 何だか、そんなことをいっぱい考えさせられたドラマでした。


2001年10月25日(木) お知らせ! 稽古 「少年たち2」

 関根のメールが今死んでしまっています。
 設定を変えようとしていたら、全部飛ばしてしまい、パスワード、ID関係がわからなくなってしまいました。接続不能です。
 今週中には復旧すると思うのですが、しばらくの間、関根宛のメールは、劇団のメールアドレス、flyingstage@geocities.co.jp にお願いします。

 稽古場に少し早めに行って、セリフをさらいながら、机と椅子を片づけ、掃除をしてみる。
 本当は毎回やらなきゃいけないんだけど、なかなかできない。
 ほうき(モップみたいなやつ)でほこりを集めながら、掃除機じゃない、こういう掃除のしかたをちゃんとやってたのって、子供の頃だよなと思う。
 学校の掃除当番とかね。
 今の子供は掃除当番ってあるのかな?
 稽古場に最初に来たのはのぐだった。久し振りだ。
 9月10月と続けて2本の芝居に出てたので、稽古場で会うのは3ヶ月ぶりくらいになる。
 この間の「から騒ぎ」の話をいろいろする。
 そのうちに細川くんとふっちーが来たんだけど、僕等があんまり話に夢中になってるので、気を使って外にセリフをさらいに行った。
 ひとしきり話して、ふと気が付いたら、もう7時半を過ぎてた。
 あらら、これだけかい?ってかんじだったんだけど、トレーニングをはじめた。
 ストレッチを2人組でやる。
 僕の相手はのぐ。
 床に座って、足を開いて、背中を押すストレッチなんだけど、のぐは「容赦がない」ので、僕はおでこが床についてしまった。
 のぐもびっくりしてたけど、僕もびっくりした。
 言い訳のように言ったように、僕はカラダは柔らかいんだけど、肉が邪魔してるだけなんだ!
 昔は、床におへそがついたんだけど、やればできるんだってことがわかって、ちょっと得した気分(?)。ももの後ろが「ぼきっ」とか言ってたけどね。
 新人くんたちにおしまいまで覚えてもらった「外郎売り」をみんなでしゃべってみる。
 もう一度、今度はみんなでリレーしながら。
 1回目の途中できっちゃんこと井上くんがやってくる。
 井上くんが何で「きっちゃん」っていうかっていうと、彼が来た最初の稽古のとき「今日の名前」っていうゲームをやってね、それは、その時に決めた名前をみんなで覚えるっていうゲームなんだけど、彼が言ったその日の名前が「吉右衛門」だったから。
 以来、僕は「吉右衛門」とか「きっちゃん」とか読んでる。定着してるみたいで、しめしめ。
 後半は、「エレクトラ」の稽古。
 今日は少ない人数だったので、きっちり細かくいろいろとやってみる。
 クリュタイムネストラのセリフ「私たちがお前の叔父のためにこの館を守っているのは知っているでしょう」というくだりを。
 きっちり語りかけるとか、今自分が語ってる言葉を自分で信じてるのかどうかきいてみたり(その後で、確信犯でそれをやってもらう)、しゃべりながら、カラダを動かしてもらったり、いろいろする。
 最後は、クリュタイメストラの「私だって、自分のしたことや自分自身に満足しているわけではありません。どこかで、いつのことだか、私は進むべき道を見失ってしまった」というくだりを、応用問題として。好きなようにやってもらう。
 それぞれ注文を出し、それに応えてもらう。
 自分でやろうと思ったことがちゃんと出来てるか。
 それがもう一度できるかどうか。
 ただ、覚えただけのセリフがどんどん立ち上がってくるのがおもしろい。
 みんなもおもしろがってくれてるとうれしいな。
 帰りの電車の中で新人三人衆は芝居の話ばかりしている。
 まるで高校の演劇部の部活帰りみたいで、ほほえましい。
 僕は、時々話にまぜてもらうかんじ。

 帰ってきて、昨日の続きのNHKドラマ「少年たち2」の2話目。
 佐藤誓さんやら、浜畑賢吉さんやら、中村育二さんやら、またしても演劇系な人が続々登場。
 花組芝居の人達はそれこそわんさか出てる。
 山崎努がむちゃくちゃな芝居をしている。
 裁判所の所長なんだけど、ほんとにぬけぬけとしたオヤジだ。そこまでやるか?な芝居がちゃんと成り立ってるのがすごい。
 上川隆也は、なんていい目をしてるんだろうね。熱血裁判所調査官という役柄にぴったりだ。
 北村有起哉はすばらしい! 子供を愛しはじめる鳶の父親なんだけど、とにかく光ってる。
 山崎努と上川隆也と木野花と加納幸和が同じ画面で芝居してる。
 なんて豪華なんだろう。
 そしてとってもおもしろい。
 舞台ではなかなかできないことを、テレビはやってしまえるんだね。
 明日も楽しみだ。


2001年10月24日(水) 「MOMA」「傑作劇場」「ブルオイ」

 夕方から上野の森美術館へ「MOMA ニューヨーク近代美術館名作展」を見に行く。
 マチスの「ダンス」やルソーの「夢」、それからピカソの「三人の楽士」などなど、「見たことある!」名画がいっぱい。
 平日だというのに、結構混んでてびっくり。
 点数は少ないんだけど、とっても見応えがあってよかったな。
 ダリの「記憶の固執」っていう絵がすっごい小さいのに愕く。あの「時計がとろけてる絵」なんだけどね。30センチ×20センチくらいしかない。これだけは、ガラスのケースに入って展示してあった。
 マチスの「ダンス」もルソーの「夢」もむちゃくちゃ大きくて、違った意味で愕く。
 これが「実物を見る」ってことなのかもしれない。
 美術の教科書の写真じゃ、みんな同じ大きさだもんね。
 ゴッホとモジリアニが一枚ずつあって、懐かしい友達に会ったようで嬉しかった。

 その後、上野公園をぶらぶら歩いているうちに、ふと不忍池のほとりの映画館「世界傑作劇場」にたどりつく。
 どうしようかと思ったんだけど、えい!とばかりに入ってしまう。
 ここは言わずと知れた「ゲイ映画ばっかりの映画館」ていうか、ハッテン場です。
 僕も昔は、けっこうお世話になったもんです。
 ほとんど十年ぶりくらいなかんじ。
 ハッテンはメインの目的じゃなくって、最近の「薔薇族映画」が見たかったのでね。
 「2つのゼロ」「のんけ」という二本立て。
 「2つのゼロ」は地方都市の市長さんが、娘の婚約者に「僕はあなたに出会ってしまった」とか言われて「ずるずると」恋に落ち、よせばいいのに、自分の家に婚約者が泊まりに来た日に部屋でエッチをしてしまい、その現場を見た娘はショックで自殺。市長さんも、スキャンダルで失脚するというお話。
 ふーんっていうかんじでしたね。
 「のんけ」は、「俺はホモじゃない」といいながら、ゲイビデオのモデルをやってる主人公(実はゲイ)が、バーで知り合った(ていうか、酔いつぶれてるのを、仕方なくうちにつれてきた)ノンケの学生に惚れてしまうというお話。
 二人は、ノンケ同志っていう前提で仲良くしてるんだけど、ある日、主人公はカミングアウト。
 ノンケの彼は、それを受け容れられなくて、「もう会わない」ってことになる。
 それでもどうしても会いたくて、彼の部屋に行くと、彼は女とセックスの最中。
 「そんなに俺のこと好きなら、今の俺を愛してみろよ」って言う。
 主人公はやるんだな。一生懸命になって。でも、ノンケの彼は、主人公を突き飛ばして、女とのセックスを続ける。
 いたたまれなくなった主人公は、部屋を出ていく。
 その次の場面、ノンケの彼は、女に「金、そこにあるから」って言う。
 お金で雇った女だったんだ。彼女じゃなかったんだね。
 その女が言うんだ「アタシ、よくわかんないけど、そんなに一生懸命になってくれる相手がいるのっていいと思うよ」って。
 ノンケの彼は、二人の行きつけのゲイバーへ駆けつける。思い切り後悔してね。
 そこへ、主人公から電話が。何だか苦しそう。
 大急ぎで、彼の部屋へ。
 すると、彼が血だらけになって倒れてる。
 ペニスをナイフで切ったらしい。
 「死ぬな」って必死にゆさぶると、主人公はこう言うんだ「ペニスの一本や二本で死ねるかよ」って。
 最後は、楽しそうに歩いてる二人のツーショットでおしまい。よかったね、死ななくて!
 って、何だか他愛のない映画みたいだけど、とってもおもしろかった。
 出演者はみんな半分素人さんみたいでとってもはらはらするんだけど、それでもやっぱりお話がちゃんとしてるから、ずっと見てられたんだと思う。
 バーのマスター役で映画監督の大木裕之さんも出てて、なかなかの名演。
 全然、期待してなかったんだけど、これはなかなかおもしろい、いい映画でした。

 その後、不忍池の弁天様にお参りに行って、裏の道をてくてく歩いてるうちに、忍ばず通りに出てしまい、「じゃあ、ちょっと歩いてみるか」と歩き始めた。
 忍ばず通りを根津の駅前で、言問い通りに左折。ずっと歩いて、春日通りまで。
 車では時々通るけど、歩くのは初めての道だ。
 それから、水道橋の駅前まで出て、外堀通りを飯田橋まで。
 大久保通りをずっと歩いて、神楽坂のあたりを。
 ふと思いついて、神楽坂の「五十番」っていう中華やさんで肉まんをゲット。ここも久し振りだ。こんなふうなあてのないぶらぶら歩きでもしてないとなかなかこれないところだから。
 ほかほかの肉まんはとってもおいしかった。
 また大久保通りに戻る。この辺は古い町名がちゃんと残ってる。白銀町、箪笥町、山伏町。
 文京区の本郷あたりはすっかり町名変更されてしまって、「弥生式土器」が発見された弥生町も文京区弥生○丁目になってた。
 大久保通りは、そのまんま大江戸線の通り道になってる。牛込神楽坂、牛込柳町、若松河田。
 歌ちゃんのうちが牛込柳町の駅前なんだよね……なんて考えてたら、歌ちゃんとばったり!
 仕事の帰りなんだって。「どこ行ってたの?」と聞かれて「上野の森美術館」と答えたら、かなり驚かれた。
 「またね」と挨拶して、また歩き始める。
 若松町の交差点から職安通りへ。抜け弁天をお参りして、明治通りへ抜けるはずだったんだけど、ちょっと脇道に入って、新宿文化センターの前を通ることにする(文化センター通り)。
 明治通りへ出る前に左にまがって、八千代信用金庫の角から靖国通り、そして二丁目の仲通りへ。
 ここまで来て、ようやく「帰ってきた」って気がする。
 仲通りをぷらぷら歩いて柳通りの角まで来たら、パチパチことセツオと遭遇!
 ブルーオイスターラウンジにこれから入っていくところだった。
 僕もさすがに一息つきたかったので、一緒することにした。
 上野を歩き出してから約2時間半。十キロくらいは歩いたのかな?
 ブルーオイスターラウンジ(ブルオイ)は、ドリンクチャージだけでドラァグクィーンのショーが見れるとっても手軽なイカした店。
 今日の出演者は「オフィーリア」。ヒトミ、ナオヤ、エスペランザの三人組。
 このショーがとっても面白かった。
 まずは「プチモビクス」から始まって、「伊勢佐木町ブルース」やら、杉本彩の「ゴージャス」やら、選曲が超イカす!! セツオと二人で思い切り楽しんじゃいました。
 新宿駅から「久し振り」に電車に乗って、高円寺まで。帰宅。
 まみーが映画「犬神家の一族」のパンフを古本屋でゲットしてきてた。
 超懐かしい!! お宝だね。
 夜中らから、見逃してたNHKドラマ「少年たち2」の再放送。
 山崎努、上川隆也、木野花、加納幸和、高泉淳子、北村有起哉といった、「演劇系」なキャスティングが楽しみ。


2001年10月22日(月) 昴「嘆きの天使」

 千石にある三百人劇場はほんとひさしぶり。最後に来たのはもう十年くらい前の円の「リア王」だったと思う。
 この舞台は、ディートリッヒ主演の映画「嘆きの天使」を原作であるハインリヒ・マンの小説も元にしながら舞台化してます。
 感想はね、「こんな芝居してても大ジョブなんて、すごいな」ってところかな?
 台本も演出も、とっても中途半端で、何をしようとしてるのか、何を見せようとしてるのかよくわからない。
 わからないってこと以前に、ちゃんと「楽しませて」くれれば、全然OKなんだけど、そんなことを考えさせてしまう「隙」がいっぱいだ。
 高校教師を魅惑して破滅させる、映画ではディートリッヒが演じたローラを演じてる女優さんが、あんまりセクシーでないとか、妖しくないとかいう問題じゃなくって、芝居としてどうなのかしら?と思ってしまったよ。
 こてこてのメロドラマとして作るなら、もっと開き直った方がいいんじゃないかな?
 台本はどう考えてもそういうふうに書かれてるしね。
 でも、演出がきちっと押さえるところを押さえてないと思うんだよね。
 メロドラマってやつのいいところは、とってもわかりやすいってことだ。
 今日の舞台がわかりにくいのは、台本がちゃんと書けてないってこともあるけど、演出が「わからせる努力」「見せる努力」をしてないからだと思う。
 もっとおもしろくなると思うんだよね、きっと。
 教授役の内田稔さんはとってもいい芝居をしてるんだけど、よくわからない。
 やってることがじゃなくって、彼の役が芝居のなかでどういう意味を持ってるかっていうような、演出家じゃなきゃできないことがちゃんとなされてないかんじ。
 三百人劇場という、いい大きさの小屋なのに、こんな大味な演出はとってももったいないと思う。もっとダイナミックにショーアップするか(わかりやすくね)、もしくは緻密に緻密に作り上げるか、どっちかだと思うんだけど。
 冒頭のカフェで出てくるコーヒーは、空のカップなのに、そこに入れる角砂糖はほんもの。
 水が嫌いなの?と思ってたら、その後では、一座の座長が洗面器に入った水でスキンヘッドの頭(or顔)を洗ってた。
 空のカップに角砂糖の入る「カラン」って音が聞こえるのはやっぱりどうかと思う。
 舞台の約束といえばまあそうなんだけど。だって、角砂糖をかじる「ぽりぽり」っていう音も聞こえるんだから。
 文化庁芸術祭参加作品で、文化庁の助成も受けている舞台です。
 「いいな新劇って」って、思いました。ほんと。
 帰ってきたら、NHKでディートリッヒのドキュメンタリーをやってました。
 比べてもしょうがないんだけどね。それにしても、すごい女だったんだね、ディートリッヒって。びっくり。
 僕は、晩年の「ラスト・ジゴロ」のなかで彼女が歌う「ジャスト・ア・ジゴロ」って言う歌が大好きです。


2001年10月20日(土) 「テラカラ」へ

 今日の稽古は大人数。
 このところおやすみが続いてた高市さんにまみー。客演の舞台が終わったばかりのよしお。プラス、遊びに来てくれたウスイさんこと青山吉良さん。そして、いつもの面々。っていうのは、僕と早瀬くんと、新人の3人=ふっちーと井上くんと細川くん。
 計9名!!
 いつもの基礎トレの後、新人組の課題「外郎売り」のラストまでを各自発表してもらう。
 このパートのチーフ(?)は早瀬くん。
 みんなよく覚えたね。今日は動きながら、しゃべってみるというおまけの課題つき。
 これからはみんなで一緒にいろんなことをやっていきましょう。
 そのためには覚えてもらわないといけないんで、そのためにややスパルタ気味に課題を出していったわけだからね。
 後半は、「エレクトラ」。この間、出した宿題は、クリュタイムネストラとエレクトラの「後悔」の場面まで。っていうと、よくわからないけど、二人がそれぞれ、「私は進むべき道を見失ってしまった」とか「これは本当のエレクトラじゃない、本当の私はこんな女じゃないわ」って言うところ。
 それまでずっと相手を非難してほとんどののしってた二人がふっと、自分の内側を見てしまうそんな場面。
 まずはセリフの確認。さすがにみんないっぱいいっぱいなかんじ。
 今日は、前回いなかった顔ぶれが半分なので、台本を持ってもいいということでこの場面をやったんだけど、なかなかうまくいかない。
 台本を「読みながら」相手に話しかけるっていうのは、なかなか難しい。それにできたとしても、やっぱりどこか嘘になってしまう。それでも、ウスイさんはきっちりやってくれてたんだけど、他のみんなは、自分だけでやってしまっていて、セリフが全然相手に届いていかない。
 「だから、セリフを覚えてもらったんだよ」と新人くんたちに話す。
 全員がクリュタイムネストラとエレクトラの両方をやったので結構時間がかかる。
 もう一度挑戦してみることができないのが、残念だ。
 人数の少ない稽古場は淋しいけど、実は少ない人数の方がじっくり稽古できるんだなと改めて思う。
 最後に、この場面の最初のコロスのセリフをみんなで分けて、輪になってくり返ししゃべり、その中から、クリュタイムネストラとエレクトラが現れてやりとりを始めるというのを、早瀬くんのクリュタイムネストラ、僕のエレクトラでやってみる。
 場面の初めから途中まで、時間にしては大したことないんだけど、次から次へと気持ちが揺れていく。
 来週の土曜の稽古までにこの場面の終わりまでを覚えてきてねと宿題を出す。
 その後は、チーム分けをして、この場面をそれぞれつくっていってもらうことにしよう。
 帰り道、細川くんから質問される。
 「毎回、違うことをやるのはなんでですか?」って。
 たしかに同じ場面をいろいろなやりかたでやってる。僕が答えたのはこんなこと。
 公演の稽古ではどうしてもこれしかやり方がないっていうような書き方を僕がしてしまうんだけど、その中でもいろいろなやり方があるっていう柔軟性を持って欲しいから、今、そんなやりかたをしているんだよと。
 今やりたいのは「上手に読む」とか「上手にしゃべる」とかじゃなくって、ほんとに相手に届く言葉を発してもらうことだから。
 芝居を始めたばかりのみんなにやってもらいたいのは、「らしくやる」ことじゃなくて、きちんとした思いを相手にぶつけることなんだよと、話した。
 「セリフを覚えるのは何でですか?」という問いには、「これだけ稽古してたら、セリフ覚えたいと思わなきゃウソでしょ?」とややイジワルに答えておく。

 ウスイさんの車に乗せてもらって、池尻の「テラカラ」に行く。
 高市さんとマミーと4人で。
 「テラカラ」はほんと十年からの付き合いになる唐子さんというイカしたお姉さんと寺田さんというお兄さんがやっている、素敵なお店だ。
 ウスイさんはよく行ってるそうなんだけど、僕たちは初めて。
 場所柄、足がないと行きづらくって。
 唐子さんとたくさん昔話をして、フレッシュなスパイスをつかったグリーンカレーをメインにエスニックな料理をおいしくいただく。
 帰りは高円寺まで来るまで送っていただいた。
 車中ではgaku-GAY-kaiの話をいろいろと。
 ウスイさんから、白いティーセットをいただいたんだけど、これがとっても素敵だ。
 金の縁取りがついてるんだけど、落ち着いたいい金色でね。
 中でも、大きなティーポットはすっごくいいかんじ。
 ディズニーの「美女と野獣」のミセス・ポットみたいなかんじ。
 「フタがないんだよね」というシュガーポットはおすすめのとおり花活けにでもしようと思って、今は僕の机の上に置いてあります。
 ありがとうございました。


2001年10月19日(金) 「アリーmyラブ4」「百物語」

 第4シリーズがついに始まった「アリーmyラブ」。僕は、テレビドラマってほとんど見ないんですが、これだけは「録画しても」見てます。
 こないだまで再放送してた第3シリーズでは、アリーもついに恋人ゲット!ってところまでだったんだけど、今日の第1話で、そのブライアンとの付き合いもジ・エンド。
 イカすわ。そうでなくっちゃ。
 ロバート・ダウニー・ジュニアが新登場。
 アリーの同居人、レネのおっぱいはあんなに大きかったっけ?
 今回もまた素敵な音楽がたくさん。
 今日のヒットは、「we are all alone」でした。
 真夜中に、BSで「白石加代子の『百物語』」を見てしまう。
 浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」と筒井康隆の「関節話法」。
 「ぽっぽや」は前にフライングステージの稽古で朗読のテキストとして使ったので、白石さんがどう読むか興味津々。
 やっぱり、語るだけで見せてしまうのはすごい。
 観客にも「見せて」しまうし、舞台上にないものも「見せて」しまう。
 「関節話法」は、たくさんカラダを使っての大熱演。でも、その分、語りが弱くなったかな。もっと読み物としての面白さがあったと思うんだけど。
 うちにはずっと昔にNHKのFMでやったラジオドラマの録音テープがあって、そこでは角野卓造さんがこのお話を朗読してる。
 白石さんもおもしろいんだけど、語りのおもしろさっていうことで言ったら、僕は角野さんの方がおもしろかった。
 また、聞いてみようっと。


2001年10月18日(木) color child「GANBA!」

 お友達の青木さんからいただいたご招待で、うちの近くの明石スタジオへ。
 初めて見る劇団。
 青木さんは何度か出演しているそう。
 今回もほんとは出てるはずだったんだけど、足を怪我してリタイアされたそう。
 お話は、アニメや小説で有名な「ガンバの冒険」です(小説は「冒険者たち」っていったっけ?)。
 僕は昔、劇団四季でやったミュージカルを見てるんですよ。
 どっかのスタジオでオープニング(?)のナンバーを踊ったこともあるはず(♪行こうよ、仲間たち!♪って歌だった)。
 舞台装置は何もなくて、出演者だけで全部の場面を作り出していく。
 わりとずっと音楽が流れてるせいなのか、マイクを通したセリフがやや聞きづらくてね。
 しばらくたってからずいぶん慣れたんだけど。
 海の波も、そこに浮かぶ靴もみんな役者がつくりだす。
 とにかくめまぐるしくって、出演者の運動量ははんぱじゃないかんじ。
 とっても見応えがあった。
 ただ、演技的にはどうなんだろう?
 「ミュージカルの芝居」ってかんじだったな。
 よく言えば、いいテンポで運んでる。悪く言えば、大味なかんじ。始まったら終わっちゃうみたいなね。ミュージカル特有のノリ。
 音がなくなった芝居の場面は、もちろん芝居として成り立たないといけないんだけど、音が流れて踊ってる場面に比べて、ちょっと緊張感が薄らいでたかもしれない。
 ボーボの役をやってた女性が、とってもいい味を出してた。
 後半からラストにかけて、要の役になってくのもよくってね。
 つい、ほろっとしてしまいました。
 ディズニー映画の「ターザン」の音楽(だよね、フィル・コリンズの)に泣かされた部分もかなりあったかも。
 確信犯で使ってる「ガンバの冒険」のジングルが入るのが、ご愛敬なんだけど、そのセンスを成り立たせるには、もう少し全体に「大人の芝居」になってた方がよかったかもしれない。
 パロディとして成り立ってるんじゃなくて、まんまよりかかってるみたいだもんね。
 ともあれ、つらい芝居をたくさん見てきた「明石スタジオ」でようやく、だいじょぶな芝居を見ることができました。よかった。青木さんどうもありがとうでした。


2001年10月17日(水) 稽古日記再開「エレクトラ」

 久し振りの稽古日記です。
 今、フライングステージは公演の稽古じゃない、普段のトレーニングをしています。
 週に2回ね。
 ストレッチ、発声と、その時々に「やってみようか」と思って決めたテキストを元にいろいろとね。
 今は、ギリシャ悲劇の「エレクトラ」をやってます。
 紀元前5世紀頃に書かれたソフォクレス作の。
 tptでデヴィッド・ルヴォー演出のを見たことがあるんだけど、今回は、「グリークス」っていう十本のギリシャ悲劇をまとめて一つの芝居にした中の部分。
 去年、オールスターキャストで蜷川さんがやったよね。
 英訳されたセリフはとってもあっさりまとまっていて、でも、基本的なスジは全く同じだから、稽古には最適。
 これを選んだのは、「対立が厳しい」っていうのをやってみたかったから。
 しかも「命がけ」みたいなね。
 今フライングステージには新人くんが3人いるんだけど、彼らにまず、むちゃくちゃ厳しい対立っていうのをやってみてほしかったから。
 ただ、だらだらしゃべってるのってわりとすぐできるんだけど、そうじゃなくって、ドラマを動かす根本ってやっぱり「対立」でしょ?
 どんなに「なだらかな」台本にだって、見えないところでの「対立」はちゃんとある。
 おもしろい芝居ってそういうもんじゃない?
 でも、それがわかってないorわからないで作られてしまう芝居ってとってもつまらない。
 そうならないように、そんな芝居をしないように、まずはじめに基本の基本を体でわかってほしいなと考えて。
 「エレクトラ」っていうのはこんなお話です。ていうか、背景が複雑なので、大元のお話、「グリークス」だとあと2本の別なお話になるんだけど、そのへんから紹介しましょう。

 トロイアへ連れ去られたヘレネを奪回するためにギリシャ軍はアウリスの港に集結。でも、トロイアへ向かう船団は風が吹かないので、船出ができない。総大将アガメムノンは神の神託に基づいて、自分の娘イピゲネイアを生贄にする。そのために、アガメムノンは「アキレウスと結婚させる」と嘘をついて、妻と娘をアウリスへ呼び寄せる。やってきた、妻クリュタイムネストラは、アキレウスから全てはアガメムノンの計略だと知らされる。何とか、娘の命を救ってくれるよう頼むが、アガメムノンは総大将として生け贄を捧げないわけにはいかない。イピゲネイアは全てを知り、生け贄として死に赴く。彼女の喉を切り裂いたその瞬間、イピゲネイアがいた祭壇には大きな牝鹿が倒れている。神は、イピゲネイアを殺すことを惜しんで遠くへ連れ去ったのだった。だが、クリュタイムネストラはそんな話は自分をだますための嘘だと言って信じない。彼女の夫への憎しみは募っていくのだった。(「アウリスのイピゲネイア」)

 トロイアは破れ、アガメムノンは、戦利品であるトロイアの王女カッサンドラを連れて帰国する。クリュタイムネストラは夫を歓迎するが、カッサンドラを見ると顔色を変える。愛想良くもてなし、館の中へ迎え、浴室へ招き、そして妻は夫を殺す。愛人であるアイギストスと図って。アガメムノンが十年、国を留守にしているうちに、クリュタイムネストラはアイギストスと通じていたのだった。血まみれのアガメムノンの死体。一緒に殺されたカッサンドラも運び出される。怖れおののく民衆の前で、クリュタイムネストラは「私は当然のことをしたまで、娘を殺した男を今度は私が殺してやったのだ」と宣言するのだった。(「アガメムノン」)

 そして7年が過ぎる。母親クリュタイムネストラに冷遇されているエレクトラは、父親の復讐を固く誓っている。彼女の頼みの綱は、異国にいる弟のオレステスである。妹のクリュソテミスは復讐など忘れて静かに暮らすことを勧めるがエレクトラはきかない。クリュタイムネストラも娘をなじる。そこへ、オレステスが流されていたポーキスからの使者が、オレステスは死んだという知らせを持ってくる。喜ぶクリュタイムネストラ。絶望するエレクトラ。そこへクリュソテミスが父の墓にオレステスの髪の毛が供えてあったと知らせる。エレクトラはオレステスは死んだのだからそんなことはないと言い、弟が死んだ今、頼りになるのは妹のクリュソテミスだけだと言うが、クリュソテミスはどうしても応じない。そこへオレステスの灰を持って使者が現れる。嘆き悲しむエレクトラ。だが、その使者こそ、オレステスその人だった。喜ぶエレクトラ。偽りの死の知らせで油断させて、復讐をとげようとするオレステス。彼は館の中へ入って行き母を殺す。息も絶え絶えで現れたクリュタイムネストラは「母親を殺せるのか?」と息子に命乞いをするが、オレステスは息の根を留める。続いて、戻ってきたアイギストスも彼は殺してしまう。悪は糾され、正義が戻ったと喜ぶ民衆たち。だが、オレステスは、そこに「復讐の女神たち」を見てしまう。狂乱するオレステス。エレクトラは「私たちを癒してほしい」とアポロンに祈る。コロスたちは「善と悪とは何? 私にはわからない」と語るのだった。(「エレクトラ」)

 これまでの稽古では、主に妹のクリュソテミスとエレクトラの場面をやってたんだけど、このところは、エレクトラとクリュタイムネストラの母と娘の場面をやってる。
 前回まではクリュタイムネストラの長セリフだったんだけど、今日はエレクトラも登場しての「対話」をやってみる。
 前回出した宿題「セリフを覚えてきて」っていうのが、ちゃんとできてるかどうかを確認して、それから、いろいろやってみた。
 輪になって椅子に腰掛けてね、まず、動いていいエレクトラと動いちゃいけないクリュタイムネストラ。二人以外はコロスとして二人を見てる(セリフはないんだよ)。
 それから、その反対。エレクトラをみんなで押さえつけて、動けない、とらわれの状態にしてみた。ほとんど檻の中に閉じこめられてるみたいなエレクトラが、目の前を歩き回るクリュタイムネストラに「訴える」かんじ。
 ただ座ってやりとりしても、相手に届かないセリフが、体を押さえつけたりすると、その反動として、きっちり前に飛んでいくようになる。
 「押さえつけられて苦しい芝居」をされてしまったらどうしようかと思ったんだけど、みんな「真剣に」押さえつけてなきゃならないくらい、もがき暴れながらのセリフになった。
 あちこちずいぶん痛くなったよね。
 あ、僕も、みんなと全く同じことをやってます。
 ていうか、そのための稽古なので。
 今言えたようなセリフが誰にも押さえられてなくてもできるには、想像力が必要だよと話す。
 エレクトラは、しばりつけられてるわけじゃないけど、気持ちとしてはほんとに囚われの身になってる気分じゃないかな。だとしたら、今みたいな強さでセリフが出てきてもいいわけだよね、と話す。
 続きは、土曜日。
 また、新しい「覚えてきてね」の宿題を出した。
 新人くんたちは、他にも「外郎売り」を覚えるという宿題がある。
 がんばってね。
 「エレクトラ」では、台本を離して初めて感じられる、芝居のおもしろさを味わっていってほしいのでね。
 もちろん、その楽しさは苦労すればするほど、大きかったりするわけだから。

 って、さくさくあっさり書くはずが、こんなにこってりしちゃってごめんなさい。
 これからは、もっと軽くなるハズですので……。


2001年10月16日(火) 今日からスタート!

 さかのぼって書き込んでますけど、実は今日からこの日記はスタートしてます。
 「観劇・感激」日記がなかなか更新できないので、新しくこのスタイルで日記を書いていくことにしました。
 この「エンピツ」というサイトを使うのはますだいっこうちゃんの真似です。
 できるだけ軽いノリでラクに更新できるといいなと思ったんですけど、どうなることやら。
 よかった芝居もそうじゃない芝居(!)も思ったことをどんどん書いていこうと思います。
 以前のようにしっかり感想を書いてしまうことはできないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いしますね。


2001年10月14日(日) 高校演劇&フラジャイル「アナトミア」

 今日は朝から芝居漬け。
 昨日の夜の稽古の後、新宿に出てきて、タックスノットへ。
 その後、ラピスへ移動して、こたくんと二人で新しくオープンした「COCOLO CAFE」へ。
 二丁目のA(エース)の並びのとってもおしゃれなカフェ。
 ていうか、無国籍アジア料理がとってもおいしい。
 朝ご飯を食べて、オーナーの川口昭美さんに挨拶して外へ。
 日曜日の朝7時。明るすぎます。いい天気だし。
 その後、僕は、高校演劇の地区大会を見に、月島の晴海総合高校へ行くんだったんだけど、やや時間が半端なので、ウェンディーズで一緒に時間をつぶしてもらう。
 で、月島。ていうか、地区大会。
 もんじゃで有名な月島ですが、僕は初めてです。
 晴海総合高校は新しくできた高校で、とっても立派。
 会場になってる講堂もちょうどいい大きさでいいかんじ。
 僕の母校の都立小松川高校は2番目なんだけど、もしかして知ってる顔に会えたらうれしい!なんて淡い期待もあったんで、朝いちから来ちゃいました。
 でもね、知ってる人はだーれもいなかった。
 大体、高校演劇の地区大会自体がもう十年ぶりくらい。
 僕は、現役の頃から地区のスタッフみたいなことをやってて、卒業してからもなんだかんだとお手伝いしてた。
 だから、顧問の先生なんかもみんな知ってたし、その界隈の芝居をやってる人なんかとのつながりもあれこれとあった。
 だけど、もう十年も経つと、すっかり様変わりしてしまうのね。当たり前だけど。
 ていうか、同じ舞台を小松川の文化祭に見に行った時、受付にいた現役の子(演劇部)に「何年卒ですか?」と聞かれて、「昭和58年」と答えたら、「わあ、生まれた年!」って言われちゃったんだから。
 前に、こんなふうに地区大会に来たのは、小松川が都大会に出場したとき、演目は別役さんの「赤ずきんちゃんの森のオオカミたちのクリスマス」だった。
 裏の手伝いをちょこちょこしたり、ラストに空から降りてくる星球をつくったり、いろいろ関わらせてもらった。
 当日は、突然、ゴミ袋にいくつもの「枯れ葉」を舞台に敷き詰めたりして、緞帳が上がった瞬間に客席にほんとの「森の匂い」が降りてきたっけ。
 あのときの会場は、練馬の富士見高校。今はつかさんのところで活躍してる西沢周市先生に怒られた。直に枯れ葉を蒔くと土や砂がコンセントに入っちゃうから、地がすりしいてからにしてよって。当たり前のことなんだけどね、気付いてなかった。ほんとにごめんなさいだ。
 今日は、その舞台に出てたOBが来てた。
 芝居をやってたり、やってなかったり。でも、OB会のメーリングリストはとっても活発だ。
 小松川の芝居は、「光射す夢消えぬ間に」っていう創作劇(作・長南陽文)。
 背中に「巨大なほくろ」ができちゃった女の子が、友達に嫌われたくなくて、海に行けなくて、しかたなく、ホクロ研究所に行くんだけど、そこで、悪いやつらにねらわれてっていう、こう書くとほんと荒唐無稽なお話。
 でも、とってもおもしろかったんだ。
 終演後、少ししゃべったんだけど、文化祭の台本を、みんなで直して、三日前に完成したんだって。それってすごすぎ。
 ていうか、そんなふうに芝居を「生きたもの」としてやろうとしてる感覚がとっても素晴らしいと思った。
 納得のいかないものを、きっちり演じるより、少しくらい乱暴でも納得のいくものをやろうっていう心意気がね。
 何より、舞台上でのやりとりが会話としてちゃんと成立してるのがすばらしい。
 誰だかわからないところに話しかけてしまうのではなく、舞台の上で、語ってる相手にちゃんと届いてるセリフの気持ちよさ。
 当たり前のことなんだけど、なかなかできないことだと思う。

 で、午後3時開演のフラジャイル「アナトミア」。中野ポケット。
 オール明けでかなり「へろへろ」だったんで、壁際の「邪魔にならない」ところに座ったんだけど、もう完全にやられてしまった。もちろんいい意味でね。
 これはほんとに久し振りに「わあ、こういう芝居やりたい!」って思える舞台だった。

 大学の医学部、解剖学実験室の春から夏の初めまでの物語。
 解剖の実習に使われる死体(ライヘ)が運び込まれて、そして、骨になって運び出されるまでのお話。
 死体の一つがなくなる……、彼女はどこに行ったのか? というお話かと思うとそうじゃなくて、死体を巡る医学生と担当教官とインターンたちの人間模様って言ったらいいのかな。
 まずはじめにこの解剖学実験室は、その「臭い」のため周囲から煙たがらされてるってことがあって、その外界とのひりひりした感じがある緊張感を生んでる。
 教官の一人、梶の姉は、脳死状態でいるんだけど、今、妊娠中でその胎児は今も生きている。
 医学生の一人、神谷は同級生の成瀬との間に出来た赤ん坊を堕胎している。
 死体がなくなったことをマスコミにかぎつけられてしまったので、急遽、梶の姉の話を美談として売ることが決定する。
 実験室の入口のドアには、段ボール箱に入った防臭剤が山のようにつまれる。いやがらせだ。
 そして、梶の姉の赤ん坊は生まれる。
 全ての実習が終わり、ライヘは骨になり、骨壺に収まっている。
 最後の場面は慰霊祭。みんな喪服を着ている。
 一緒に姉の葬儀もしようという梶。
 骨壺を抱えた一人一人が退場していって、幕。

 僕はあらすじを書くのが苦手なんだけど、こんなにあらすじを書いても伝わらないと思った芝居もないです。
 何がよかったんだろう。
 もう、好きなんだよね、としか言えないくらい、好きな芝居です。
 でも、わからないことはいっぱいある。
 死体はどうなったのかとかね。
 でも、どうでもいいような気がする。
 だって、すっごいおもしろかったんだから。
 終演後、台本を買ってきて、読み返したんだけど、やっぱりわからなさは残ってる。
 でも、満足なんだよね。
 「死」っていうものを、こんなに見てしまう芝居って初めてだったからかな。
 「死」があって「生」があって、「性」もあるっていうのが、「はい、並べてみました」っていうかんじじゃなくって、きっちり描かれてたからかな。
 好きな場面はいっぱいある。
 この芝居の中では何度も地震が起こるんだけど(その度に天井から吊られてる電球が実にいい揺れ方をする)、一番大きな揺れの時、その場にいる全員が死体にとりつくんだよね。
 台から落ちないようにっていうのはわかるんだけど、それがどこか、死体にすがってるみたいに見えてね。僕の席からは、明樹由佳さんの後ろ姿が見えたんだけど、必死にとりついてるその姿を見てたら、どうにも泣けてきてしまってね、困った。
 梶が、脳死状態だった姉の死を語る場面もよかったな。
 それまでの芝居とはちょっと温度が違う、ややエキセントリックな語りなんだけど、人工呼吸装置のスイッチを自分で切って、姉の手を握ると、体温が一度ずつ下がっていく。その「一度下がった」っていうセリフのくり返しが、もうたまらなかった。「クーラーを止めてくれ」っていうセリフもね。
 つまり僕はかなり入り込んで見ちゃってたんだよね。   
 たとえば、劇中で雨が降るんだけど、その雨が僕には、ほんとの雨だって思えた。
 舞台に降る嘘の雨なんだってこと、ちゃんとわかってるはずなのに、外からやってきた人達がそこに降ってる雨に濡れてるんだってことが、なぜだか信じられて。
 変な言い方だよね。
 それが芝居の嘘だから、そのつもりでいつもは見てるはずなんだよね。舞台の上に降る雨っていうのは。
 信じさせようと思って、そういうふうな芝居をつくるんだけど、どこかで「芝居だから」って醒めてる。割り切ってる。
 そんなことわかってる僕なのに、でも、この舞台に、正確には舞台の外に降ってる雨は、楽屋で一生懸命、髪の毛を濡らした水じゃなくって、ほんとの雨なんだって思えてしまったんだよね。夏の初めの午後に降り出した。
 ていねいに説明されてるとは思えないそっけないセリフもずっと見てると実に用意周到に世界を組み立ててるってことがわかる。
 さもないセリフをとってもていねいにやりとりしているかんじがとってもいいんだな。
 役者さんたちは、明樹さん以外、全然知らない人達ばかりなんだけど、その明樹さんだって、いつの間にか、知らない人になっちゃってて、それもまた、芝居の中に入りこんでしまった理由かもしれない。入り込んでっていうのは正確じゃないな、きっちりと傍観してしまったっていうかね。
 きっと好き嫌いの別れる芝居だと思うんだけど、僕は好きだなあ。
 何より、ていねいにていねいに作られてるのがとっても気持ちいい。
 ブルーライトの中、スローモーションで転換される場面も、下手したら嫌味以外の何ものでもないのに、きっちりとうまくいってる。
 カーテンコールなしの舞台は、いつも「何で?」って気にさせられるもんだけど、今回だけは全然OKだった。
 僕は完全にノックアウトされた舞台です。
 今度はいつだか、わかってないんですけど、是非また行こうと思ってます。
 役者さんたちの名前は一人も覚えてませんし、覚えようともことさらには思ってないんですが、信じられる人たちばかりでした。
 って、ほめてばっかりですけども、ほんとに良かったんだよね。僕には、とっても。
 おすすめの集団をまた一つ見つけました。


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