|
|
■■■
■■
■ 魔女と低空飛行
ここ数週間は、なんだか困った日々だった。
体も元気になって、季節も一年の中で最も美しい春がきてエネルギー全快で進んでいこうという時だったのに、気分がローで途方にくれてしまった。
なんて、もったいない…
と、思いながらも、低空飛行がせめて着地してしまわないようにハラハラしながらバランスを保ち過ごしていた。そして、身の回りにも不思議なことが続いた。
ローテンションのきっかけは、ひと月前の「Hexen Schuss」だったと思う。 「Hexen Schuss」は、ドイツ語で「魔女の一撃」という言葉。突然訪れる腰痛の事で、魔女が人間を懲らしめ脅かそうと思って一撃を飛ばしてきたということらしい。日本語では「ぎっくり腰」。
春の訪れを実感しながら、弾んだ気持ちで大学図書館での研究を再開していたところ、小さなくしゃみを立て続けに2回したらそのまま体が激痛と共に固まってしまった。その後、1週間家で絶対安静を余儀なくされてしまった。
外はお天気だというのに、室内での退屈で非生産的な時間の連続。
すっかり人生のやる気をそがれてしまう出来事だった。 「魔女の一撃」なんて誰が名付けたんだろうかとさんざん不満をいってみてもじっとしていなければならないことに変わりはない。
実際には、冬の間、病気の為に寝たきりで体を動かしていなかったことが原因なんだろうけれど、もし、魔女が驚きの一撃を打ち込んだのだとしたら、あまりにタイミングが悪く、本気で仕返しをしたい気持ちだ。
でも、魔女がどこに住んでいるのかわからない。
やっぱり、森かな?と思って冗談半分にドイツの地図を見てみるけれど、この国は森ばかりなのでどこの森のどの魔女に文句をいったものか検討もつかない。悔しさはつのるばかりだ。
けれど、魔女の攻撃はこれにとどまらなかった。
その後、腰痛が回復してからも、これまでやったことのないような失敗が次々に起きた。
キッチンにたてば、さわった食器がはじから次々に割れ、冷蔵庫を掃除しようとしたら、ヤケになっている気持ちもあったのだけれど、ささいな乱暴な力で冷蔵庫に穴をあけて壊してしまった。
泣きっ面にハチ。
気を取り直そうと、これも何かのチャンスだ!と新しい冷蔵庫を気分よく購入したら、届けに来た人の荒っぽい冷蔵庫の配置の仕方によって、台所から突然火がでて、そのまま私の髪の毛の一部が燃えてしまった。
自分の髪の毛から火が出ている様に腰が抜けるかと思う程だった。
幸いやけどはしなかったし、そんなことでもなければドイツ語で美容院にいってみようと思わなかったのだから結果としては、そうひどい事ではなかったけれど、ヤケになっている気持ちは、やがてどうにでもなってくれというものになった。
やるべき全てのことが遅れている。急がないと…。
そんな、予断の許さない状況に、なんだって魔女は私を選んだのか。
これ以上私を足止めしてどうしようというの?????
気持ちの焦りはやがて、とんでもない気分の落ち込みを運んできた。ともかくその後はヤケっぱちの日々だった。
独りでいるとなんだか危ない。どこからわいてくるのか、世をはかなむような考えが頭をよぎってしまったりする。完全に何かを見失っている。
なるべく友達と過ごすようにしたり、コンサートにでかけてみたり、平常心を取り戻すために気分転換を試みてみる。 う〜ん、う〜んと内側でうなりながら、なんとか日々をやり過ごす。
そうしている内にあることに気がついた。
状況は芳しくないし、気持ちのドンヨリした感じは留まることを知らないけれど、その事態を「大丈夫。やがて過ぎ去るよ、とにかく今はこらえよう。そのうち風向きが変わるから」と考えているもう一人の自分がいる。
これは、新しい出会いだ。
これまでは、なんだかもう何もかもうまくいかないし、気力もないし、ダメダダメダ!!という感情に見舞われると、その思いがどこまでも深まり、抱えきれなくなると、友人や家族に多大な迷惑をかけてきた。果ては、自分自身の肉体までも蝕んでしまうことが多かった。
大切に思ってくれる人々に牙を剥き、自分を信じる心を見捨て、ガルルル〜とうなった。
でも、新しく現れたもう一人の自分は、ニュータイプだった。
「なんか、辛いよねえ…」と心に寄り添い、「まったくねえ…なんだかねえ…春だというのに覇気に欠けてて困っちゃうね…ほんとにねえ…」 と、ただうなづいて、その状況を見守っている。
そういった落ち込みは、避けられずに訪れてしまうものだけれど、やがて過ぎ去るものでもあるという事を知っているようだ。頼もしい。
体と心を流れる「気」が滞ってしまったために失ってしまった時間、チャンス、様々な物。「あ〜あ…」という情けない気持ち。
それでも、明日がきて、明後日がきて、しあさってがきて、そうしてまた元気に満ちあふれた日々もやってくる。3年くらいのトータルで見てみたら、抱いた望み100の内25個くらいは、収穫している。
だから、大丈夫。
手に入れられなかった75個に嘆き悲しむ自分もいるけれど、25個に笑顔で満足する新しい自分もいる。
どこかで手ぐすねを引いている魔女がいたって大丈夫。
上空を高々と飛べないときも、高度を下げ、エネルギーの消耗を限りなくくい止めて、フラついたって飛んでいきます。
でもね、鷲鼻のおばあさん、あんまり意地悪ばかりしないでくださいよ。
青空の夏は、成層圏の上をグングン飛んでいきたいのです…。
*お知らせ* 移動の為、7月末まで「飛行時間」の更新をお休みします。
2004年06月03日(木)
|
|
|