昨夜も帰宅したら切ってない。今日買いに行くのに。 仕方ないんで、ぼくが切りました。
「あれ?やっぱり切るの?」 「手伝う?」
結構です。今さら。
いっしょに買う母の分も切る。 下に持って行ってみせると、 「大きいのでいいって」と言っていた妻の言葉とは違い、僕の提案した大きさになった。 「ふーん」 「昨日はなるべく大きいのって言ってたよ」 「脅したんじゃないの」
違います。実の母を脅してどうします。 ちゃんと現物を持っていかないからわからないんです。
「ふーん」 「さすが血のつながった親子だね」 「血は水よりも濃し、だね」
なんだか使い方が微妙におかしい気もするが。まあ、いい。
さて、本題です。 あなたが買おうとしているのはこの大きさです。 ばさり。
「で、でか」
と、つぶやいたのは、妻でなく電波ちゃん。 おお、味方が。 しかも、どこにも僕の血が流れていなさそうな電波ちゃん。
しかし、僕の血を色濃くひくはずの下の娘は、 「いいねぇ!」とどこかのおやじのような発言。
裏切り者め。
うーむ、二対二かっ。
と、思った瞬間、
紙を持った僕に近づいてきた妻が、手で大きく丸を書く。
「翔さんの顔がこれくらい」
「きゃー、いいねぇ。いい。それで」
くっ。 卑怯な。
「まあまあ、持っててあげるからちょっと食卓の方から見てご覧よ」 「全然大きくないって」
そ、そうなのかな。 たしかに離れるとまた感覚は違うのか? では。
…。 でかい…。 でかすぎる…。 ありえない…。
結局、紙を切ってはみたが、妻を説得することはできなかった。 そして、僕はといえば、予想を超えたあまりのでかさに、今日の買い物がさらに憂鬱になったのだった。
昨日、帰宅しても、相変わらず紙を切っていない妻。
忙しい、というがその割には日に日にテレビに詳しくなっていて、いやな感じに理論武装している。
「液晶テレビの視聴距離から考えて、こたつの位置ですでに50インチ越えなんだよね」 「みんなにちょっと聞いてみたら、46とか47とか小さいみたいなんだよね」
お前、ネットに張り付いて検索してるだろ。 みんなって、知り合いじゃなくて掲示板だろ。
「違うよ、ちゃんと友達に聞いたよ。ちょっとつぶやいて聞いたらみんなが答えてくれたんだよ」
やっぱりネットか。 それで仕事をしてなければ、そのパソコンを取り上げてしまいたいところだ。ちっ。
まあ、でも、広く人々の意見を求めることは大切だ。 50インチじゃ大きすぎるという意見はただの一人もいなかったんですね?
「え、まあ、それは」 「好みとかあるし」 「半々くらいかな?」
半々…。 それでみんなって。 そもそも分母もそんなに大きくないだろう。 ゲームをねだる小学生か、お前は。
「でも、私と似てる人はみんな大きいほうがいいって言ってるもん」
あなたと似た人って、それは…。
「あ、今そういう人はゲーマーじゃないのか、とか」 「ネットばっかりしてる人じゃないのか、とか」 「テレビっ子じゃないのか、とか」 「失礼なことを考えたねっ」
ってそういうことを言うあなたのほうが失礼なのでは。 しかも、失礼というが、今挙げた特徴はすべてあなたにあてはまっている。 自己分析だけはちゃんとできてるみたいですね。 ただ、肝心の反省と改善がないだけで…。
「きいっ。とにかく今日は都心で価格調査をしてくるっ」 「ネットの通販のほうがすごーく安いけど、そういうとこで買うのはいやなんでしょ」 「だから、この足を使ってちゃんと調査してくるからっ」
はあ。なんでそんなに恩着せがましい。 今日、寒いですよ。 紙も切れないくせに、ほんとに外に出るのかねぇ。
とにかく、僕はそんなでかいテレビを買って、テレビに支配されるような生活を送るのはごめんです。この点は譲れませんからね。
そもそもあなた、大きいのが欲しい大きいのが欲しいと言うばかりで、なぜ大きくなければならないのかは、あまり語りませんね。ネットの受け売りばかりで。
はっ。まさかいつもの、相手が誰かもわからないくせに、 「なんだか負けたくない」 ってあれじゃないでしょうね。
「違う」
「今回は相手はわかってる」
「あんたと戦ってる」
「しかも、公開バトルだから負けられない」
こ、公開?
え?違いますよ。 どこやらのなんたらいうグループの、しかも終わってしまった番組じゃありません。
はい? そうですよ。もう昔の僕じゃありません。 娘のせいで、じゃないおかげで、いや、せいで、今人気のあのグループにもずいぶん詳しくなりました。 もちろん、彼らの番組は全部見てますよ。
ごにんぜんいんなまえがいえますから。
ウソジャナイデスヨ。
…。
あれ?なんだか調子がおかしいな。
話を戻そう。
ご存知の通り、妻がばかでかいテレビを買うとごねているのだが、そして確かにおけないことはないのだが、僕はあまりにでかいと、ほかの家具と干渉して死角ができるのでは、と思っている。
なので、妻に宿題を出したのだ。
紙をテレビの大きさに切って、しかる場所に置いてみるようにと。
「はぁ?」 「どこにそんなばかでかい紙があるのさ」 「紙を貼っての間違いですかね。ええ?」
はあ〜。 日記を書かなかった数年の間に、さらに物言いがむかつく仕様になっている…。
はいはい。紙を貼って、でもなんでもいいですから、とにかく原寸大のものをお作り遊ばして、僕を納得させてくださいな。 お願いします。
「えー」 「大丈夫だって」 「見えないとこが出たら移動すればいいじゃん」
だーかーらー、移動する場所なんかないでしょ。 とにかくやってみなさいよ。 でかすぎて嫌になるに決まってるんだから。そして、ぶうぶう言うのはあなたでしょ。
と、いう会話をしたのが昨日の朝。
帰宅してみたら、予想通り宿題はできていなかった。
「風呂掃除したから」
どんだけ広い風呂なんだ…。
最近、我が家のご長寿様、ブラウン管のテレビくんの調子が悪い。 と、言っても寝起きが悪いだけなのだ。 たった30分映像が出ないくらいで、買い替えとはいかがなものか。
「は?」 「たった?」 「たった30分?」 「ええ、ええ、そうでしょうよ」 「私より1時間起きるのが遅いあなたにとっては、たった、よねー」
うっ。
「しかも、映像を出せるのは電波ちゃんだけなんだよっ」 「電波ちゃんが起きてくるまで、私はラジオみたいなテレビと二人っきりでさむーい部屋で弁当を作るんだよっ」
電波ちゃんて…。 そうなのだ、なぜかテレビくんは電波ちゃん、じゃない、上の娘がぽちっとな、としないと映像が出ないのだ。
「か・い・か・え・る」
うう。 いたしかたないのか。
いや、主電源を入れっぱなしにしておけば…。
「ただでさえ、金食い虫のこのテレビに、これ以上電気を食わせる気はございません」
「それに主電源が入っててもだめなんです」
あ、実験済みですか。
と、いうわけでテレビくんは買い替えになりそうなのだった。
「で、大きさは場所が許す限り大きいのを買うからね!50インチ以上!」
なんだと。 そんなばかでかいテレビ、いりませんから。 買い替えの戦いには負けたが、この戦いには負けられん。
と、いうわけで新たな戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
誰ですか。負け戦とか言ってるのは。
というか、何か言ってくれる人がいるのか?ここ誰か見てるのか?
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