チェックアウト後,牧場へ。
那須に来たら,この牧場で動物たちに餌をやらないときがすまない人が約2名おりますのでね。 ほんとはすぐに帰りたいんですけどね。 妻が昨日作ったガラス細工がね,今日10時にならないと出来上がらないんですよ。 なんでそんなめんどくさいもんやるかなあ…。
「だいたい旅行に来て」 「最終日にそんなふうに逃げるように帰る人なんていないのよ」 「そんなんじゃ,一泊二日と変わらないじゃん」
そんなことはないですよ。 一泊二日じゃ二日目はほとんど遊べないでしょ。
「あー,そうでしたね」 「一泊二日でも,二日目はなるべく早く帰るんだもんね」
アナタ,そんなこと言いますけどね,春休みだし遅くなれば渋滞にひっかかるんですよ。
ぶうぶううるさい妻をせき立てて家路を急ぐ。
「あっ。またパン屋に寄らなかった。約束したのに」
だってアナタ,どこのパン屋に寄るか事前に決めていないんですから。 寄りたければ計画を立てて…。
「だっておいしそうかどうかは店構えを見ないと判断できないんだよ」 「ここって言っても通り過ぎちゃうし」
もう何回も来てるんですから,目星くらいつけられるでしょ。 だいたいアナタの「ここ」は遅いんですよ。 もっと早めに言ってもらわないと。
「ふん。そんなにまでして早く出てこれだもんね」
うっ。 しかしこれは想定外…。
「ふっ。見事にはまったね」 「もうちょっと遅ければ片付いてたのにね」 「ちょうどパン屋によるくらい?」
いつもならささっと抜けられるここでこんなことになろうとは。
「思いっきりぱっちりなタイミングですこと」
帰りは事故渋滞でした。
昨日は宿に着くなり,やる気満々の下の娘にプールに連れて行かれ, 凍える寸前まで付き合わされた。 ここのプールは温水プールのはずなのに,なぜか寒いのだ。
もうだめだと思った頃に,風呂に入れるために妻が迎えに来てくれた。 上がらないとごねたが, 「じゃあ1人でお風呂に入るんだね」 「それか男湯に行くんだね」 と,妻がすごむと,ようやくあきらめて上がってくれた。
はー。 ムスメでよかった。ほんとによかった。 息子だったら…。息子2人だったら…。 うー,ぶるぶる。
と,いうわけで昨夜は運転とプールの疲れでものすごく早く寝てしまった。 おかげで今日は比較的元気なのだ。
まずは4人そろって陶芸体験へ。 僕はこの手のものは好まないのだが,これはなかなか楽しいぞ。 今度こそ,みんなを黙らせるような作品を…。 野望を胸に秘めて,ことに臨んだ。 出来ですか。 いや,焼き上がるまでわかりませんからね。また後日。
昼を軽く食べて,下のムスメと妻,上のムスメと僕の組み合わせで別行動。 妻組はガラス体験,僕組は3Dホラー館…。 上のムスメがどうしても行くといってきかないのだ,3Dホラー館。 ガラス細工を作れと言われたらそれはそれでいやなのだが, 3Dホラー館…。 行ってみたら,想像通りの場所だった。 ははは。 しかし,ムスメはうはうはだ。 小学生っていったい…。
同じくわけのわからんぴかぴかするものを作ってうはうはな妻組を拾って宿へ。 そしてまたプールへ。
そんな1日。
今日から2泊3日の旅行だ。
春休みですからね。子どもを旅行に連れていくのは当然のことですよ。
「そーそー。春といえば那須。秋といえば那須よね」 「夏は大阪と沖縄よね」 「ここ数年,ずーっとそのローテーションよね」 「あ,ときどきお義母さんの実家絡みで山梨が混ざるのよね」
はいはい。 どうせワンパターンだ,決まり切っているとおっしゃりたいんですよね。 いいじゃないですか。 保養所は安いんだし。 子どもも慣れてるし。 運転も楽だし。
「まー,いいけどさ」 「例のところには寄ってもらえるんでしょうね」
ぎく。 例のところとはあそこですね。 実は僕も用事があるんですよ。 問題はムスメ達ですがね。
「仕方ないわよ。分担よ。私はこっち」
またですか。 また僕が下のムスメですか。
などというやり取りは聞こえないようにやっていたにも関わらず,
「どうせあたちのことが嫌いなんでしょー!!!」と現地で下のムスメが絶叫。
よしなさい,人聞きの悪い。
「あんたがそんなんだから嫌われるんでしょっ。うるさいっ」と妻。
ああ,火に油。大人げないことこの上ない。 まだ目的地についてもいないのに早くも気力と体力を奪われていく…。
「わかったわよ,2人とも私が連れていけばいいんでしょ」 「ええ,ええ。ここは運転のできない私がゆずればいいんですよ」 「ふんっ」
いや,そんなことは誰も言っていないのですが…。 ま,まあそうしていただければ事は丸くおさまる…。
「じゃあ車のキーを貸してよ」
なんですって。まさか車に子どもを閉じこめる気じゃないでしょうね。
「そんなことするわけないでしょ」 「とにかくとっととよこしてよ,とってくるもんがあるんだから」
と,まあこんなやり取りの末,僕は解放された。 ここはアウトレットモール。 4月に予定している自転車の購入に向けてサングラスを仕入れなければならないのだ。
下調べはしておいたが,さらに念入りに店を回り,候補をいくつかピックアップ。 おお,そうだこのあたりもチェックしておかねば…。
ふと気づくと,モール内に設置されたあちこちの椅子に, たくさんのの子どもたちが座っている。 携帯式のゲーム機を持っている子どもも多い。 この青空の下,そんなもので時間をつぶすとは嘆かわしいことだ。
ん? おや? あれはうちのムスメ達ではないか。 1人はゲーム機,1人は携帯電話を手にしている。
こらこら。 おかあさんはどこに行ったんですか。
「うるさいなー。おとーさんのせいで失敗したじゃないの。きー」
なな,なんという口の聞きよう。 上のムスメはゲーム機を持つと人が変わるのだ。
「おとうさん,あっちいって!!」
下のムスメはいつも通り生意気…。
まったく,自分が引き受けるようなことを言っておいて, ゲームをさせておく気だったとは…。 取りに行くって言うのはゲーム機のことだったんだな。 いったい妻はどこへ行ったのだ。
ゲーム機が1つしかないので,妻はもう1人にゲームをさせるために, 自分の携帯をムスメに残して行ってしまったのだ。 つまり,呼び出す手だてはないのだ。 いわば糸の切れた凧…。おそろしい。 このままでは何時間帰ってこないかわかったものではない。
おとーさんはそのへんを見てくるからね。ここを動くんじゃないぞ。
「…」
ちくしょー,返事もしやしねー。 一応頭をこくこくしているから,わかってはいるんだろう。
しかし,どこを探せばよいのだ…。 しばらくうろうろした末に途方にくれていると,ふいに肩をたたかれた。
振り返ればそこにでかい袋を持った妻。
「アンタ,何うろちょろしてるのよ」 「探したじゃないの。子どもに聞いても帰ってきてどっか行っちゃったって言うし」
むむむ。 アナタを探していたんですよ。 まあ,ここで会ったのはちょうどいい。 このサングラスなんですけどね。
「いいんじゃない。いいと思う」
おお,そうですか。
「うん。顔がきつそうじゃない」
そうですか。サングラスかけるとちょっと強面になっちゃいますもんね。
「違うよ,そうじゃなくて,顔がおっきくて,いっつも窮屈そうだから」
む…。 いちいち人の神経を逆なでする人ですね。 まあ,いいや。快適にかけられるというのも大切なことですからね。
会計をすませて振り返ると,あっ,またいなくなっている。
それからいろいろあってアウトレットモールを出られたのはさらに1時間近く後でした。
こんなに書いてもまだ那須につきません…。
あー,長かった。 日記が更新されない間,僕がどれだけの辛酸を舐めてきたことか。 しかし,そのようなつらい日々も,もう終わりなのだ。
妻は卒業したのだから。
もうあのばかでかい絵を運ぶために,車のシートを組み替えることも, スクーリングだと言われては送迎に借り出されることもなく, 貴重な休みをうるさい小猿達にすべて食いつぶされることもないのだ。
玄関を入る都度目に入ってきた, 仕事部屋という名の恐ろしげな空間もいつの間にか片づき, 廊下にまであふれてきていた得体のしれない物体も撤去された。
時間がないからとほったらかしにされた部屋の掃除。 いつの間にか僕の分担になっていた風呂掃除。 唯一やっていた食事作りさえ放棄され,コンビニやマクドナルドに走った日々。
何よりの苦痛は,
「ねね,この絵どう?」 「空間が表現できてる?」 「色彩はどう?どうよ」
と,わけのわからない絵の前でいろいろ質問されることだった。
しかし,そんなことももうなくなるのだ。
なんという解放感。 ゆったりとそれにひたっていると,いきなり妻が。
「あっ。私まだあんたから卒業祝いもらってないんだけど?」
…。
は?
なんですって?
「まさかこの間くれたチョコレートが」
「卒業祝いと誕生日を兼ねてるとか」
「そんなばかなことはないよね?」
…。
ばか…。
ばかだと?
ばかはどっちだ。このバカモノ。
こっちが何かもらってもバチはあたらないくらいだぞ。
はぁ。
卒業したからって大人になるわけじゃないんですね…。 そりゃそうですよね。 すでにいい歳なんだから。
ふっ。
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