今日はかねてからの計画を決行するのだ。 ほんとうは夏休みにやるはずだったのだが,体調不良で断念したのだ。
自転車で都心に行く。
「は?」 「行ってもいいけど,自転車は貸さないよ」
はいはい。 いいからアナタは家にこもってやらなきゃいけないことをやってください。 あの自転車以外に都心まで行ける自転車はないじゃないですか。
「じゃあ私の昼ご飯はどうなるのよ」
そんなこたあ知りませんよ。 自己管理ってことで。
妻がうるさいので早々に出かけることにする。 おっと,隣のおば(あ)さんが立ち話だ。 気をつけなければ, 「あら,けちぞうくん,また休んでるの」 などと言われてしまうからな。
とりあえず,新青梅街道を都心に向かって走る。 ああ,気持ちいい。 願わくば,もう少し気温が上がるといいのだが。
ゆっくり走って,新宿まで1時間半,お茶の水に回り込む。 それから池袋に出て,昔勤めていた大塚。 そういえば,何か買ってこいと言われていたな。 妻にチョコレートを買う。 帰りの体力も考えて,帰路につく。 途中練馬でラーメン。
帰宅は2時。
「あら,ずいぶん早かったわね」 「体力の限界?」
何をおっしゃいますか。 子どもが3時前に帰ってくるから,早めに帰ってこいと言ったのはあなたでしょう。
「ま,いいや,ちょっと絵を見てよ」 「行き詰まっちゃってさあ」 「ねね,空間を感じる?」
うう。 えーと。 あ。 わ,わかりません。 なんだかさっぱりわからないのですが。
「きー。役に立たないったら」 「いや,あんたにわからないってことは,案外いい線なのかも…」
なんですか。失礼な。 あ,そうそうお土産がありますけど,コーヒー飲みますか。
「うん。入れてくれるなら」
はいはい。
「ねー,このチョコレート,くだけちってますけど」
だから,自転車だからお菓子はムリだっていったじゃないですか。 文句言わないで食べてくださいよ。
あ,あなた,子どもと一緒に電車男見るんですよね。 じゃあ,またそのころに出かけようかな。 ちょっと乗り足りないんでね。
きらーん。 妻の目が光った気がした。 いや,気のせいではなかった。
おもむろにパソコンを開くと,メモを取り出した妻。
「でかけるんだよね」 「夜はお弁当にしよう。そうしよう」 「メモ,作ったからね」
は?
まあたまにはいいですけどね。 どうせ出かけるんだし。
唐揚げ弁当,ハンバーグ&えびフライ弁当。 それから…。 なんですか,これ。
「あ,お総菜をね,小さいパックに1杯ずつで」
め,めんどくさい…。
しかも,妻が指定した総菜は3種類のうち1種類しかありませんでした。 てきとーに見繕って買って行ったら,お気に召さなかったらしく, ぶーぶー言いかけて,僕の顔見てやめてました。 結局全部食べてました。
後片づけ? もちろん僕ですよ。他にだれがやるんですか。 この家で。
昨日は,子どもが登校する道をゴミを拾って歩き, その後,学校で行われた救命の講座に参加した。 有意義だった。 やはりこういうことはきちんと押さえておかなければならない。
今日は予定のない日曜日。 これはこれですばらしいなあ。
「は?予定がない?」 「今日は誕生日恒例回る寿司に行かないと」
と妻。 あー,そういえば,先週上の娘の誕生日だったな。 ということは100円の…。
「いや,それがさ,りんごに聞いてみたら,まぐろ人のほうがいいって」
は? それは吉祥寺じゃないですか。 アナタ,時間がないんでしょ。 そんなとこに行ってる暇はありません。 今日は恒例100円のところで。 一応上の娘に確認をとると,どちらでもいいと。 そうだろう。 ムスメ達は皿を入れるとぐるぐる回って粗悪なおもちゃが出てくるあそこが大好きなのだ。 またアナタは娘を利用しようとしましたね。
「だってまずいんだもん。仕方ない,じゃあ帰りに西○によって…」
夕飯の材料がないんじゃ仕方ないですね。 アナタが調べもせずに買ったために,サイズがあわなくて, おかしなことになっている蛍光灯のこともありますし。
寿司も滞りなく食べ,若干粗悪なおもちゃの所有権でもめたものの, なんとか無事に西○に到着。 ともすればふらふらとしがちな妻を携帯などでおさえつつ買い物。 途中子どもがおもちゃ売り場でゲームやっていいか聞きにくる。 うるさいので許可。 ふと見れば電器売り場で,スピーカーを抱える妻。
「これ欲しい。でも,在庫がない」
在庫がないもの抱えても仕方がないでしょう。 さ,あるときに買いましょうね(よかった,よかった)。
「えっ。あの人たちにゲーム許可したの」 「長いよ〜。私先に食料品売り場に行ってるから」
はー,そうしてください。 アナタの買い物はさらに長いですから。
しばらく子どもを待ってピックアップして,食料品売り場へ。 いねーじゃねーかよ。 電器売り場から地下の食料品売り場までの間には, 婦人服,無印良品,化粧品などの危険地帯がめじろ押しなのだ。 しかも,1階では北海道物産展なんてのもやってたぞ。
ぷるるる。 もしもしどこにいらっしゃいます?
「野菜売り場にいるよ,ちゃんと」
おお,いたのか。 ってアナタ,カゴがまだ空っぽですよ。 何してたんだよ,今まで。
ふらふらする妻をせき立て, 子どもを誘導しながら買い物をすませ, やっと家にたどりつく。
帰宅するなり,疲れ切ってうたた寝してしまった。
目覚めると妻が,
「スピーカー,買っちゃった〜」
へ。どこで? ゆ,夢でも見たか? あ,寝てたのは僕か。
ダイニングテーブルの上ではパソコンがつけっぱなし。 そうか。その手があったか。
しかも,西○で見てたのの4倍くらいの値段のものらしい…。 ああ,あのとき在庫があれば。
妻がまたてんぱっている。 この人はそれが何であっても締め切り前にはこういう状態になるらしい。 そういえば,結婚してこの方,締め切り前に悠然としているこの人を見たことがない。
今日は上の娘の保護者会だったのだが,それにも行けないというので, 僕が行くことにした。
妻はぱっと笑顔になったが,しかし心配そうに,
「えっ。勇気あるねー。学校の保護者会っておとうさん全然こないよ」
め,めずらしいですね,あなたがそんな心配してくれるなんて。 そ,そんなにすごいのか?
でもまあ何事も経験ですから。 小学生の父として,一度くらい経験するのも悪くないですから。
「ふーん。でも,2〜3回は気を失いそうになるよ。目がうつろになってさ」
まー,そんなことは会社では日常茶飯事ですよ。 常に社会常識では推し量れない人たちを相手にしてるんですから。 大丈夫でしょう。
と,いうわけで,学校に行って参りました。
たしかに気を失いそうになる場面もありましたが, 担任の先生にも会えたし,まー,経験としては悪くなかったってとこですかね。 一生に一度のことですからね。
などと夕食時に話していたところ,なんだか耳障りなきーきー声が。
「おとうさんは,おねえの保護者会に行ったの?」 「なんであたしのには行ってくれないの?」 「おねえばっかり,ばっかり,ばっかり」
あー,うるさい。 でも,たしかに不公平なのはいけないな。 じゃあ,あなたが卒業するまでに一度は行きましょう。
「だっておねえは今日行ったんだから,あたしもすぐに行ってよ」 「ずるい,ずるい,ずるい」
ずるくないでしょ。 おねえは5年生で初めて行ったんだから。 あなたはまだ2年生じゃないですか。
「いつも,なんでも,おねえが先なんだよっ」 「いつも,いつも,いつも…」
はー。 保護者会を買って出たから,妻の機嫌はすこぶるいいのに, 伏兵現る…。
上のムスメがボタン付けを習ってきました。 いやー,長かった…。
これで僕のボタンも安泰です。
妻はまた課題に追われている。 ムスメの夏休みの宿題についてこの人にとやかく言う権利があるのだろうか。
とにかく沖縄から帰ってきてからは,時間がない時間がないとつぶやいている。 その割には,やたら寝ているし,パソコンの前にいる時間も長い。
そうかと思うと夜中になにやらごそごそと作業をしている。
「今度の土曜が直接指導日なんだよね」 「もちろん吉祥寺まで送ってくれるよね」
「あっ。だめだ。この日は送ってくれなくていいや」 「だってアンタが勝手に申し込んだクリーンナップ大作戦の日だもんね」 「エコな(そして暇な)アンタが参加する約束だもんね」
はっ。クリーンナップ大作戦。 これは子供たちといっしょに通学路のごみを拾ったり学校の草むしりをしたりする地区の催し物である。 たしかに,そう言われれば「参加」と書いてムスメにプリントをもたせたような…。
「責任はとってもらうよ」
せ,責任…。 まあ,いたしかたありませんね。 それにそのような催し物には参加するのが筋ですからね。
「仕方ないなあ。迎えだけでいいよ。電話するから」
あのー。通学に使うからと言って鳴り物入りで買ったあの自転車は…。
「だってあれ,アンタが勝手に乗り回してるじゃない」 「そうだ,あれのレンタル代ってことで」
あれは家計費で買ったんじゃなかったかなあ。
「さ,時間もないことだし,沖縄のおみやげはアンタと子どもで実家に届けてね」
えっ。 いや,僕が言っても喜ばれませんから。 アナタが顔を出したほうがいいんじゃありませんか。
「うーん。それも一理あるなあ」 「じゃあ車で行って,子どもは放り込んで,ついでに夕飯の買い物するってことで」
車…。 アナタ,運転できませんよね。 はー,そうですか。
と,いうわけで妻の実家に妻とムスメ達を送り, それから生協と100均が合体したところに行きました。
時間がないというわりには, 100均でふらふらし,買わなくてもよさそうなものを買い, 生協でうろうろしながら食料品を買い込み, あげく,
「パン屋さんで買うものあるから,これね」
と,財布と生協のポイントカードを渡されました。
夕飯は,おかあさんが気を使ってくれて,ムスメ達は妻の実家で食べることになり, 生協で恩着せがましく買ってくれたうなぎは後日ということになって, 僕の苦手なゴーヤチャンプルーがおかずでした。
「あー,大人の味っ。うまーい。」 と,大満足の妻。
もちろん食べ終わったら大雨の中,子どものお迎えに行きました。 時間がないはずの妻は,今も僕の目の前でこの日記を書いています。
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