今日から僕は休みに入りました。
外は雪。こんな日は家にいると、ぐだぐだしてしまうのだ。 思い切って外に出るぞっ。
「く、車だよね。車じゃないと行かないよっ」
わかってますよ。 この雪の中をアナタや下のムスメが歩くとは思ってませんって。
例によって妻が玄関を出たり入ったりするので出発が若干遅れたが、なんとか池袋に到着。 地図と駐車場の実際の位置に納得のいかないものもあったが、とりあえず車をとめる。
ほほー。 これがナンジャタウン。
お化け屋敷をこなして待望の餃子へ。 妻が消えては現れてどんどん目の前に餃子を置いていく。 あっという間にムスメ達が食べていく。
このへんまでは記憶があるのだが、その後ものすごーくうるさい音で我に返ったり、 へんな卵をムスメに持たされてはっとしたり、なんだか記憶がとぎれとぎれなのだ。 まー、ムスメ達が楽しそうだったので何より。 最後にアイスを食べるというムスメ2プラス1。
あんなに餃子食べて、よくそんなものまで食べられますね。 強引に一口食べさせられたせいかちょっともよおしたのでムスメと妻をおいてトイレへ。
トイレは…。 おお、こっちか。よしよし。
つつがなくことをすませて出てみると。
うーん。 僕はいったいどこにいるんでしょうか。 こっちから来たのかな。いや、あっちかな。
ここはもう歩いたなあ…。
あ れ ?
そそそうだ。 携帯があるじゃないか。
トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル、トゥルル…。
出ない。十六回も鳴らしてるのに。 留守電だ。 仕方ないので吹き込む。
えー、ちょっと今どこにいるかわからなくなりましたが、 必ず帰りますのでそこでじっとして待っててくださいね。
こんなもんか。 よし、何としてもたどり着くぞ。
しばらくすると携帯が鳴る。
妻からだ。もしもし? あれ、何も言わないぞ。あ、切れた。 またかかってくるかな。 この間も時間を無駄にせず、歩き続けるぞ。
電話、かかってこないなあ。 こっちからかけたほうがいいかなあ。
ぴぴぴ、と。
かちゃ。 「アンタ、今どこにいんの」 「待てど暮せど来ないじゃないの」 「こんなにせまいとこでいったいどこを歩いてんのよ」 「電話切っちゃうし」
お、怒ってますね。
「とにかく目印をいいなさい」 「今こっちから行くから。アンタ待ってたら日が暮れるっ」
え、えーと。ロールケーキなんとかって…
「なんでそんなとこにいんの。エリアが全然違うじゃないの」 「今行くからっ」 「動くんじゃないわよっ」
迷子の子供あつかい…。返す言葉もございません…。 一生懸命目を凝らして立っていたら、向こうから怒りにまかせて人をかき分けてくる妻が…。 こ、こわい。
「なんで周りの人に聞かないのっ」
い、いやたどり着けるかと…。 まま、いいじゃないですか。会えたんだから。
「これからは、迷ったら動かないでちょうだいねっ」 「いちごが呼び出されたらどうしようって心配してたわよ」 「情けない…」
う。たしかに。
その日は朝から妻がうるさかった。
「今日は忙しいんだよー」 「まず車屋によっておかあさんの分の携帯受け取ってお金はらって届けて〜」 「絵付けの生地を仕入れてから、美容院に行って〜」 「また車屋によって今度は自分の携帯をピックアップさ」
んー。 なんだかなんでそんな無駄の多そうなスケジュールなんでしょうか。 ムリに今日携帯を受け取らなくてもよいのでは。
「えー。だってここまで何日待ったと思ってんの」 「手際が悪いのは車屋だよっ」
まー、そうとも言えなくもないですが、 手に入るからといってムリムリ今日すぐ今!というアナタの姿勢にも問題が。
そして、結局このムリなスケジュールで人に迷惑をかける妻。
まずは、行ってみたら携帯の用意ができていなかったらしい。
「ちゃんとできてるっていうから行ったのにっ」
まー、これはアナタだけの責任ではありませんね。 仕事としてそれはいかがなものか。 結局車屋がお義母さんの家に届けることで決着したらしいが、 実際にはお義父さんが取りに行ったらしい。 そのへんのいきさつはよくわからない。 なにせ、妻の実家の人々は、この妻と血のつながりのある人たちですから。 ミラクルなんですよ。
「そいでさっ」 「私の取りに来てんだけど、データの移すのに半端じゃなく時間がかかってるのよ」
そう聞いたのは、いつもの最寄り駅とは違うほうの駅についた、とメールした直後。
「りんごの迎えに間に合わないから、行ってくれる?」
いやー、ここから歩いて家にもどって迎えに行くんですよ? 間に合わないでしょう。 アナタのほうが近いじゃないですか。 さすがの僕もむっとして答えると、
「あ、そう」 「じゃなんとかするからいい」
と電話は切れた。 しかし、不安だ。なんとかってどうするんだ。
急いで家に帰ると、妻が戻った気配はない。 そのまま自転車で上のムスメを迎えに行く。 暗い道を自転車すっ飛ばして走る。 相変わらずぼーっとしているムスメの姿を確認してほっとしたところに、 ムスメの携帯に妻から着信。
「んー?おとうさん、もう来てるしぃー」 とムスメ。
おかあさん、なんだって?
「お父さんが行くまで、そこにいなさいって」
なんで僕が行くってわかったんだ。 何とかするって言ったのはこういうことなのか。
ふっ。 たかが機種変、されど機種変。 迷惑を被るのはいつも僕。 ま、他人に迷惑をかけるよりはいいですかね…。
ここ何ヶ月か、車屋に携帯のパンフレットをもらい続けていた妻。
「ほんとはさー、年末に出るなんとかかんとかが欲しいんだけどさー」 「やっぱりそれは私には必要ないと思うのねー」 「でも、データ通信が多い人はサクサクいけていいらしいんだよね」 「だけど、本体も利用料も高くなっちゃうからなあ」 「どうしたらいいと思う?」
いや、そもそもほとんど家にいるアナタになぜ携帯が必要なのか。 それに今使っているものに何か不都合があるのか。 そこから議論を始めないと。
「違うって。そんなことは誰も聞いてないんだって」 「ほんとに人の話を聞かないオトコだねえ」
いえ。 違いますよ、人の話を聞いていないのはアナタですよ。 さては、はじめっから聞く気が無いんですね。
「まー、一応相談もしたし、後は私の決断かあ」 「んー、やっぱこれかなっ」 「アンタはいいの?」 「あっ、また変わっちゃったら苦労するもんね」 「まだいいね、いいよね」
そういうと、お義母さんとさっさと連絡をとり、 車屋に連絡をとり…。
以下次号。
今日妻はエステに行っている…。 またかよ。
「でも、今回のはタダだから」 「化粧品のおまけだから」
ほ、ほお。 いくら世間知らずの僕だって、 エステがついてくるほどの化粧品の額がそうお安いものでないことはわかりますよ。 それはタダではなくて、先に払ってるんですよ。
などと言えるはずもなく。 まあ、機嫌よく出かけていったので、よしとするか。
しかし、ことはこれだけではすまない。
「せっかくメイクもしてもらうんだからさあ」 「美しい妻を見たいでしょ」 「ランチにつきあってあげるから」
は? 付き合ってやるのはこっちだろ。
などと言えるはずもなく。
せっかくの休みなのに、電車に乗って行ってきましたよ。
めずらしく待ち合わせより早く店についていた妻。
「ねね、どう?」 「ちょっとけばくない?」
いや、えーと。 げ、元気そうで何より。
「なによ、その感想」 「ま、いっか」
おおー、機嫌がいいじゃないか。 おや?その紙袋は?
「お金がかかっても美しい妻がいいでしょ?」 「またスタンプたまっちゃったー」 「来月も行こうかな」
なんてことだ。 1回でそんなに化粧品を買ったのか。 恐ろしい。
ワインでも飲まないとやってられない。 ごくごく。 ふっ。
で、ランチ後妻は僕の母のネックレスを取りに行くという大義名分をかかげて、 堂々と大学時代の友人の下へ去っていった。
僕は急いでかえって、ムスメ達を新体操につれていった。
帰ってこないんですけど。妻。 なんでネックレス受け取って帰ってくるだけなのに、 僕と3時間以上も時間差があるんだ。
やっと帰ってきたと思ったら、 「ほら。クリスマスプレゼント」 「選ぶのたいへんだろうから、買ってきたあげたよ」 と、耳になにか光るものをぶら下げていた。
いつもその手が通用すると思ったら大間違いですよ。
「いいもーん。じゃあ、家計費さんに買ってもらうもーん」
くぅぅぅ。
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