2009年01月17日(土) |
杉本博司 「歴史の歴史」/「現な像」刊行記念 講演会 |
歴史の歴史」図録/「現な像」刊行記念@青山ウィメンズプラザ
杉本博司を見るまで、続く時間の一瞬を切り取ったものが写真だと思っていた。 しかし、杉本の写真の中には持続する時間があったのだ。 2005年に初めて「杉本博司展」@森美術館 を見て、心から魅了されてしまった。
それから4年。この正月に金沢21世紀美術館で、杉本博司「歴史の歴史」展を見てきた。 私にとって「歴史の歴史」シリーズは初めてなので、その広がりに感嘆。 一応杉本は写真家だが、もはや写真家としてのみ語ることは不可能。
今回の講演会は、この美術展の図録と「現な像」の刊行記念である。 半分以上が金沢の展示のスライドを見ながらの説明である。 つい先日その展覧会を見た者にとっては現場の様子もすぐに思い起こせる。 図録の中の文章とほとんど同じ内容ではあるのだが、本人による解説は極上の体験。 ナマ杉本さんは、驚くほどやさしく控えめ丁寧でスマートな語り口。 世界の杉本!なのに権威的な雰囲気は少しも感じられない。
講演会後、場所を移して隣の青山ブックセンターでサイン会。 金沢で買ってきた図録(2キロ!)を持ち込み、サインしていただく。 あなうれしや。 ついでにあれこれ本も買ってしまって・・青山ブックセンターの品揃えは素晴らしい・・が、帰りは重かった!
2009年01月07日(水) |
サーチャーズ 2.0 |
SEARCHERS 2.0 Their reasons to be on the road; Justice, Gas, and Revenge 監督:アレックス・コックス
かなり面白い現代版マカロニウエスタン。 まず音楽がとても良い。 この映画のテーマソング、「夕陽のガンマン」??? と思って聴いていると、途中からグリーグの「ペールギュント」の“山の魔王の宮殿にて” のメロディと分かる。これはかなりかっこいい! 「ライトスタッフ」のテーマソングが、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とそっくりとか・・・デ・パルマの「スネークアイズ」がボレロと瓜二つとか・・・とは全く違う、エンリオ・モリコーネに敬意をささげたオマージュであることは明白。
考えてみると「ペールギュント」のお話も、音楽は美しいけれどもはちゃめちゃ無茶苦茶なロードムービー(映画じゃないけど)と言えるかもしれない・・・。 この辺からして、かなりいいぞ。
映画は、最初のくすぐりからツボにはまる。オタクおっさんたちの会話が素晴らしい。 そこに良識を持つ娘が入ることにより一層の幅が出て楽しさ倍増。
主人公のおっさんが映画のネタばらしをされそうになって、うなりながら耳をふさいで部屋を飛び出したシーンは、笑いのツボにはまってしまい、しばらく忍び笑いが止まらず涙がでた。
などと面白がっているうちに、はたと、こりゃまたすごい皮肉だと気付く。 おっさん二人が体現するは閉塞したアメリカ。脳内喝采が止まらない。
さすがだわ、アレックス・コックス。 そういえば、アレックス・コックス自身、映画の中でちょい顔見世をしていたような気がしたのは・・気のせいか。
そして、復讐の旅は、たき火やら仲間割れやらを経て、抱腹絶倒・カメラワーク絶好調の荒野のQ&A決闘へ! 決闘の決着は仕込みが大きかったので、ちと拍子ぬけだったものの、映画を貶めるものではなく納得。
2009年01月06日(火) |
チェチェンへ〜アレクサンドラの旅 重信メイトークショー |
チェチェンへ〜アレクサンドラの旅 Alexandra 監督:アレキサンドル・ソクーロフ ガリーナ・ヴィシネフスカヤ
チェチェンのロシア軍駐屯地にいる孫を訪ねる祖母のお話である。 家族が軍へ面会に訪れるのはロシアではごく普通にあることだそうでかなり驚くが、そのおかげで普通ではありえない女性の、しかも長く生きた人の目線を通した、ロシア軍〜軍隊〜戦争といったものが見えてくる。
映画の中でアレクサンドラは将校である孫の案内で駐屯地内の部下や武器など見て回る。 軍隊の知識ゼロ、しかも遠慮一切なしの言動は新鮮でしみじみ素敵だ。 その中で、戦車の中で銃の扱い方を教わるシーンが印象的に残る。 人殺しの道具である銃のメカニズムを「単純なのね」と言い放つ潔さが奥深くもかっこいいぃ。
その後、アレクサンドラは誰の指図も受けず自分の意思で駐屯地の内や外を歩き回る。 軍隊という命令系統で成立している場で、完全に異質の外部者の存在は、戦争という形態の異常さを浮き立たせているようだ。
ソクーロフは全く無駄なことは語らず、静かなトーンで戦争の本質を描いてるように思える。
アレクサンドラ役はガリーナ・ヴィシネフスカヤ。 80歳は超えているはずだ。 もはやこの世に怖いものなど何もなく、諦観も入り混じった威厳ある姿は本当に美しい。
2007年の「ロストロポーヴィッチ〜人生の祭典」は、同じくソクーロフ監督の撮ったドキュメンタリーだった。 今回アレクサンドラを演じたガリーナ・ヴィシネフスカヤとその夫であるチェリスト(指揮者でもある)ロストロポーヴィッチの人生を追ったフィルムである。 余談になるが、このドキュメンタリー映画を見たその日にロストロポーヴィッチが亡くなったというニュースを聞いた。無人島にCDを3枚持っていくならこれ!というばかばかしくも永遠の問いに一時ロストロポーヴィッチの一枚を必ず入れていた時期がある私。訃報に接し、思いもかけずショックを受けていた自分に驚いた・・・。
えっと・・・何が言いたいかというと、そのドキュメンタリーの中で見せる華々しいパーティでの豪華な姿と、この「チェチェンへ〜」の地味な身なりのアレクサンドラ役の彼女は何も変わっていないことだ。内からにじみ出るものが同じなのだ。「人生の祭典」を撮ったときに、ソクーロフは彼女の主演を決めたというが納得である。
ソクーロフ映画の中で、一番面白かった!と私が思えるのは、ひとえに彼女の魅力のせいといってもいい。
ところで、映画の中でアレクサンドラが呟いていた「ある日本の女性の言葉」とは、ソクーロフの「ドルチェ〜優しく」の島尾ミホさんの言葉のことだろうか。島尾敏男の妻で「死の棘」のモデルであり、しまおまほちゃんの祖母だ。
私が見に行った日は、たまたま、上映後に重信メイさんのトークショーがあった。 ちょっとラッキーな気分になる。 しかし、ユーロスペースの入っているビルの入口あたりで、トークショーのポスターを見たらしく「うそぉーっ!」と叫ぶ年配の婦人あり。連れに「どうしよう、かかわり合いになりたくない!」とまで言っているのも聞こえる。そうなのだ。ある一定の年代以上の人にとって、重信メイの母親である元連合赤軍重信房子はいまだにオソロシイ人物なのだなと思い当たる。しかし、その娘のトークショーを聞くだけで公安にチェックされるとでも思うのだろうか。メイさんはすでに日本国籍も取得しており、レバノンと日本の大学院も出て、きちんと仕事もしている女性だ。知的でしかも美しい。 トークショーは、当然ながらメイさんの故郷レバノン含む中東イスラエルの話が中心となり (ちょうど昨年末からのガザ地区侵攻という状況もあり、いたしかたなし)、映画の舞台となるチェチェン紛争にはあまり触れられず。 実は、結果的に私としては、なんら新鮮味のないトークより、静かなトーンのこの映画の余韻に浸っていたほうがよかったかなと思ってしまった。
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