女房様とお呼びっ!
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体を起こして時計を見ると、5時に少し前だった。 一通りの仕事を終え、床を外れて畳の上にてろりと座るイリコを見遣る。 いつもなら何事もなくこのまんま、茶でも啜りながら帰り支度をするだけだ。
「あすこは何のために空けてあるのかね?」
半間の押入れをぶった切っては高床にして、にじり口程度の間を設えてある。
「うぅーん、ただの意匠でしょうけど、風情がありますね」
安普請のラブホの和室に風情なぞあるものか(笑 あすこに人を追いやって、なぶって遊ぶためにあるんだよ。 それが証拠に、明りとりに見せかけて二方をはめ殺したチンケな格子戸。
「ためしにキミ、入ってごらんよ」
ためすまでもなく、易々納まるのは承知の上だ。 あまつさえ丸めた背の上、まだ20センチほどの余裕さえある。 もっとも、頭は壁に、尻は格子に阻まれて、進退はままならない。 思いがけず囚われて、奴は静かに息を殺す。
◇
かごめかごめの籠の鳥。 童子のようにしゃがみこみ、肉をつつき回すと悶えて妙な声をあげ、 羽もないのにバタバタ騒ぐ、どう足掻いても逃げらんないよ。
ぬるい遊びに飽いて立ち上がり、横合いから鞭を入れていく。 半身しか見えない体を狙い済まして打ち据えるのは、いっそう無残で面白い。 ホントは竹の笞でもあれば、なおよかったのだけど(笑
やがて引き摺り出された囚われ人は、残る半身も染め上げられて弱り果て、、 蹲ったまま波打つ横腹をちょいと蹴ると、あっさり仰向けに転がってしまった。 あらわになった薄い胸板をからかうように、あばらに添って更に打つ。
軽く爆ぜる鞭音に一拍遅れて小さな呻き声、加速する単調なリズム。 規則的な繰り返しが頭の芯をぼぅとさせて、私もいささか酔ってきたようだ。 奴もまた酩酊したか、胸元を紅に染めて、されるがままに伸びている。 どれ、そろそろ介錯してやるか(笑
みぞおちに近く腰をおろすと、既に浅い息がさらに細くなって喉笛が鳴る。 傷跡を探して這い回る手は、快感よりもなお苦痛を恵んで、奴を追い込んでいく。 最期の力を振り絞るように細い脚をばたつかせ、空を掻く痩せた腕が痛々しい。
往生際にふさわしく、その脚を揃えてやり、両手を胸の上に組んでやる。 次第に仰け反る薄い頤(おとがい)を掌で捕らえ、じわじわと力を込めるうち、 わずかに開いた瞼の中で白目を剥きざま、ようやくにしてこときれた。
◇
死体を見下ろしながら、ペットボトルのお茶を飲む。 ふたたび時計に目をやると、時刻は5時を15分まわったところ。 あまりの呆気なさに苦笑しながら、その実、愉快でたまらない。
「よう、火をくれないか?」
悠々と死んだままの奴に声をかけると、慌てて起き上がろうとするのだが、 未だ目の焦点はあわず、弛緩しきった手足は言うことをきかずで難儀している。 もんどりうっては床を這い、やっとのことでライターを手に戻ってきた。
「簡単だよなあ(笑」
笑われて恥じ入ったか、あるいは先の余韻を残してか、その顔は、 中年男のくせにほんのりと上気して、まるで風呂上りのようだった。
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