道院長の書きたい放題

2003年08月22日(金) ■技法と指導法を考える(1)/護身術的見地より

■護身術としての少林寺拳法の特徴は、“相手に接触させない”ことを第一義においている。これは、開祖の実戦体験から来ている。

少林寺拳法の技法体系に大きな影響を与えたのは、開祖が満州の舞台裏で活動されていた最中、腹を刺された格闘体験にあると考える。

カッパ・ブックスで述べられたことに加え、身振り手振りを交えながら話されたこの事件は、開祖の人生によほどの衝撃的な出来事だったのであろう。

■「相手はな、こう迫って来たんだ!」。左手を鎌首のようにユラユラ大きく上げながら、後屈になって(実際はナイフを持った)右手を後方に引き、ジリジリ近寄ってくる中国人ヤクザの真似は本当に不気味であった。

今日のどの格闘技にも見当たらない襲撃スタイルで、場面を再現される度にそう思った。「跳ね腰が得意な奴だった…」殺された友人についても語っておられた。

■先生はこう書いてる。「…もしあのとき、私が柔道だけしか知らず、某のように組みついていたら、私もとうぜん殺されていたであろうと思い、あとになって慄然としたものである。某はその場に倒れたまま、絶命したのである。この事件をきっかけに、私はいっそう拳法の修行に励む心を固めた」。

今回、「書きたい放題」で述べたが、夏の臨海合宿で道院生が溺れかけた。私の真近でである。本当に運良く助かり事なきを得た。しかし私にとって海での初の怖い体験であり、同時に幸運に感謝した。もし死んでいたら…一生トラウマになったであろう。

何度となく読んで来たカッパ・ブックスのこの場面。今の私は、開祖が人智を超えた法縁に導かれたと感じたことが分かる…。

■現在、中野流では“一拳一足の間合い”を、手を開いた状態で取る。これは先生が少林寺拳法に改良を加えたからであり、以前は拳を合わせた距離であった。比較してみれば分かるが、拳ではまだ逆蹴りが届く。開手となって初めて安全な間合いが確保される。

例えば左中段対構えの場合、互いの前手でこの間合いを取ると遠間である。したがって法形演練では、攻者が攻撃の気を入れて間合いを詰め、それに対して守者は防御の気を入れて待ち受けるのである。

■また女性拳士には、「この間合いの通り、危険と思える人や場所には距離を取りなさい。近づかないことが第一の護身です」と教える。

さらに手を掴まれそうになったら、竜王拳相対形では足を千鳥に引きながら手を払う動作が形となっている。さしずめ女性では、「嫌なことは嫌!」と断る勇気に相当するであろう…。

このように護身としての心構えは、まず徹底的に触れさせないことである。

触れるということは、突きや蹴りや凶器が当たるという意味も含んでいるので、初心者には、手を払う際、足捌きの動作が同じになる上受け蹴りを、直ちに剛柔の立場で教えることが出来る…。

(続く)


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あつみ [MAIL]