A Thousand Blessings
2004年1月〜最新|ひとつ前に戻る|ひとつ先に進む
真夜中の2時から映画「RAY」(DVD)を鑑賞する。 ファンならよく知っているエピソードを中心にまとめられた作品だが、 レイ・チャールズの音楽的業績の裏で繰り広げられていたすさまじい ドラッグ地獄がこの映画の核心部分となっている。 主役のジェイミー・フォックスは巷で噂になってるとおり、レイそっくりである。 というより、そのものかな。驚いたのは、ピアノを弾く指の動きに 「嘘」が全くなかったこと。誰かの指導を受けて訓練したのか、それとも ジェイミー自身が弾けるのか、、。
アーメッド・アーティガン、ジェリー・ウェクスラー、トム・ダウド、ローウェル・フルソン、 クインシー・ジョーンズ、エセル・ウォーターズといった有名人が そっくりさんで登場する場面は楽しい。 ジェリーやトム、あるいはクインシー・ジョーンズは その後偉大な仕事をしていく訳だが、映画の中ではまだまだ若くて元気だ。 8chのミキサーの登場にレイが狂喜するシーンがあるが、 あの時代にそれがどれほど画期的なことであったかをリアルに伝える 素晴らしいシーンであった。
レイはアトランティック・レコードにしこたま儲けさせたあとに 恩師アーメッドの元を離れ、ある意味軟弱な音楽を作っていたABCレーベルと専属契約をする。 まだ1960年のことなのだ! 1960年の時点でレイはあの恐るべき革新的な作品群を すでに「すべて」カタログに載せていたのだ! 今後50年はそれだけで飯を食っていけるほど内容の濃い作品をだ。 しかしレイはそこに留まらず、反対を押し切ってABCに行き、 全く新しい領域を開拓していったという事実。これほどプログレッシブな音楽家はそうはいないだろう。 僕らが最初に親しんだレイのヒット曲の多くは実はABCレーベルでの ものだ。「我が心のジョージア」「ヒット・ザ・ロード・ジャック」 「アンチェイン・マイ・ハート」「愛さずにはいられない」「ユア・テーチン・ハート」 「バステッド」etc 実は非常に冒険的で、ある意味危険な試みをしていたこの時期の作品が 世界の音楽ファンを最も魅了していたという事実に 大衆音楽の理想的な形を見てしまうのだ。 やがて同じことをビートルズがやってのけることになる。
さて映画を観終えた後、レイのベストアルバムを取り出して 聴いていたのだが、今の僕はやはり50年代のアトランティックでの 作品に強い共感を覚える。 こんなすごい音楽をエルビスもまだ登場しない時代にたった一人で 作りだしたレイの才能の巨大さは、残念ながらまだ日本では多くの大衆に 正当に評価されているとはいえない。
1959年2月の奇跡のセッションで生まれた名曲「ホワッド・アイ・セイ(パート1 &2)」から学ぶものは無限にある。

響 一朗
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