GARTERGUNS’雑記帳

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もう直ぐお盆ですね/暴君と呼ばないで
2004年07月26日(月)


幽世(かくりよ)に棲まう魂が、嘗て暮らしていた現世(うつしよ)に還ってくる事が有る。
それも儀式などで強制的に呼び戻されるのでなく、自主的にお里帰りする事が、だ。
……言ってしまえば何のことは無い、お盆だとかハロウィンだとか、そういったイベントに合わせてひょいと愛しい子らや世を見に顔を出すだけの話であるが。

「此処百年のこの国は、文化も宗教も浅く広く交じり合い薄まって、しかしその根本の『タマシイへの漠然とした畏怖の念』は、昔のまま根深く人々の心に残ってある。
 厳粛な宗教国家に比して、イージーでフランク、且つポエティックな神秘思想が息づく、この幽世の者にとっては居心地の良い雰囲気が蔓延しているのだ。
 いや、実に結構、結構」

幾つかのエリアに分かれた幽世の、中でも最も混沌とした、ちょいと一筋縄ではいかぬ変わりモノどもが暮らす領域。
其処を統べる銀髪の君主は、神秘な世界に余りに似合わぬド真っ赤なソファにどんと掛け、畏れ多くも「上」から賜った神託台に行儀悪くも足を投げ出し、大人っぽいと言うには余りにやんちゃ、子供じみたと言うには余りにワルい笑みを浮かべてそう言った。
隣に侍る、ゆるく波打つ黒髪と凛とした目が美しい聖女は、くすりとたおやかに笑ってこう続ける。

「昔からこの国は剣神・六柱神のみならず、八百万の神々が集い群れるというところ。
 他国の宗教観を取り入れ、自らのものにしてしまうのにも、さしたる抵抗は無かったのでしょう」

二人が指差し「この国」と言うは、眼下に広がる大きな湖。
「神々のレンズ」と呼ばれるソレには、今日も現世のあちこちの様子が、ほわんほわんと現れては消えしている。
その中に、件の「この国」の光景が混じっていた。
ミストから電気を取り出す技術の開発と産業革命を経て、ヒトと電化製品と車がごった返す街。
昔ながらの技術と現代の工具を使ってやぐらを組んでいる田舎の広場、水着の姐ちゃんが眩しい海やプール。
それらのどれもに、レンズを通しても伝わる様な熱気が立ち込めていて。

「賑やかな事だ」

君主は目を細め、さっと手を振ってなにがしかの術を用い、レンズ全体で「この国」を映し出した。

「太陽は一年のうち最も大地に近く、その強すぎる光にもこの国のヒトは図太く恵みを見出し、男女の別無くのべつ幕無しに恋よ遊びよと浮かれている。
 この光景を見ているとな、短い生涯に己がゲノムを残さんと、割れんばかりに喧しく鳴くセミ共を思い出してな。至極心が浮き立つのだ。
 それに、光が濃い分闇も濃いしな。盆とやらもある。それにかこつけた祭もあるし、花火も上がる」

そうでなくとも幽世のモノには、先程言った通り過ごし易い国であるのだし。
いまわの際にぱーっと一花咲かせて…咲かせ過ぎて「問題児」と判じられ此処に放り込まれた型破り上等の連中にとっては、ちょいとはじけるひと夏のヴァカンスに最適という訳だ。

「もう既に、『帰省』願いも随分受理しましたね」

言ってみれば「出国手続き」の様なものだが、それを受け付けた際の大変な混雑や騒動を思い出したのか、聖女はくすくすと笑って君主を見た。黙っていると凛として近付き難い雰囲気だが、笑うと中々どうして、ウブな者ならどきりとくるほど可愛らしくあどけない。

「彼ら彼女らの喜びようと言ったら……受入先の現世に住まう者と、それを統べる者は大変でしょうけれど」
「自らの手に負えぬ、と我等を此処に放り込んでおいて、大変も何も無いものだ。
 『生きる』悦びで伸ばした羽に、打たれて失墜せぬ様せいぜい気張っているが良いさ。
 そうでなくとも今の現世には、彼奴等『神々』の権威と後光は通用し辛くなっているのだから」

羽は伸ばせる、彼奴等には吠え面かかせられる、この領域の面倒を見ている私やお前や硝子の目の女神も問題児どもの世話から解放されて、全く夏と言うのはまことに結構なもの、と、ソファの上で猫の様に伸びをして。

「……時に其処の黒い騎士よ、お前は現世には戻らんのか」

ふいと湖の脇に視線と言葉を投げかける。
其処でもう長い間ずっと三角座りをして湖を見ていた黒い機械の巨人は、暫く黙って固まっていたが。

「そうやっていつも鬱々としているお前も、他の者と同じく浮かれて里帰りしてくれれば、私の夏は更に有意義なものとなるのだがな」

ここまで言われて漸く、

「己には帰る場所など在りませぬ」

陰々滅々とした声で返事をした。
はあ、と溜息をつく君主。

「お前、何を拗ねている。
 此方に来た時から鬱陶しい奴だとは思っていたが、よもや夏の眩しさを目の当たりにしてまでそういじけられるとは思わなんだ。さしもの私もうんざりとしてくるわ」
「いじけてなどおりませぬ」
「嘘をつくな。この私にそんな虚言をほざくのは、この領域では貴様ぐらいのものよ。
 ……大体なんだ、日がな一日湖を眺め、望郷の思いなど募らせるなら兎も角うじうじと項垂れおって。私のを見習え、こいつはこの幽世でも実に楽しげに『生』を謳歌しているではないか」

辛辣に言う彼の背後には、これまた黒くしかもやたら滅多にトゲトゲとした機械の巨人が恭しく侍り、手にした(ヒトにとっては)大きな扇をゆったりと煽いで、彼へと涼しい風を送っている。
……そんなものが無くとも此処は常に、すまう者それぞれが快いと感じる状態に保たれているのだが、まあ雰囲気というやつなのだろう。トゲトゲの巨人はこの状態に、確かに悦に入り満足しきっている様子だった。
見習えと言われた方はそれをちらりと見、溜息をつかんばかりの白けた声で

「孤独や無力感を忘れたモノは幸せですなあ……」

と呟いた。
ひくり、と頬を引き攣らせた君主が何処からとも無く禍々しい力を放つ魔槍を手に召喚し、それに気付いたトゲトゲが慌てて止めようとしたりしているのを他所に、聖女は笑みをおさめて首を傾げる。

「どうして貴方に『帰る場所』が無いのですか」
「…………」

何処までも深い色の瞳に見つめられ、騎士は再び沈黙し、湖に視線をやった。
映し出されるとりどりの景色。

「この国の何処かに、貴方の大切なひとが今も暮らしているのでしょう?」

騎士の傍に歩み寄った聖女は、そのましろい衣を揺らして水面を指す。
もう聞きたくないとばかりに騎士は顔を背けるが、聖女は構わず言葉を続けた。

「貴方には見えているのでしょう、それが雑踏の中でも夜闇の中でも」
「止めて下さい……」
「たったひとりの、貴方の大切なひとが」
「……止めて下さい!!」

苛立ちと共に爆発的に膨れ上がった「力」を向けられ、しかし聖女は一歩も退かずその目も逸らさず立っている。
……「力」はいつの間にやら聖女の右に立った君主の手に絡め取られ、彼に食われて消えた。

「馬鹿だ、本当に貴様は馬鹿だ。しかもガキだ。どうしようもない」

呆れきって君主は言う。

「『闇黒の君主』と『沈黙の聖女』に刃向かう奴など、聞いた事も見た事も無いわ」

畏れ多いとかそういう理由からではなく、全くもって赤子が大の大人に挑む様なものだからと、この幽世ではまず最初に誰もが思い知る揺るがない理(ことわり)。
……それに真正面から反駁した騎士は、項垂れて拳を握る。

「……そうです、己は馬鹿です、どうしようもない馬鹿です。
 無力で、何も出来なくて……それだからあの方を残してこの幽世に……
 だのに、どうして今更のこのこと顔を出したりなど……」
「要約すると『自分の都合でかなり長い間会っていないから顔をあわせ辛い』という事か。
 判るぞその気持ちは。ランパブやピンサロなぞでも、馴染みであればある程、一ヶ月足が遠のいた程度で行き辛くなるものなあ」
「下品な例えをしないで下さいッッ!!!」

長くなりそうなモノローグ(セピア色の回想シーンつき)をばっさり切り落とした君主に、騎士はブルブル震えながら握り拳を固めていたが。

「……けれど、会いたくない訳ではないのでしょう。
 この湖からいつも心配そうに『あの方』の様子を見ているくらいなのですから」

聖女に言われ、またかくりと項垂れる。

「……あの方は毎日幸福そうに暮らしておられます。
 時折寂しそうな顔もされますが……それでも穏やかに、血と剣戟から離れてゆったりと……
 ……己は所詮、戦以外の役には立たぬモノです。
 今の平和な現世には必要有りませぬ。今の幸せそうなあの方にも……」
「貴様はマイナス何ルクスだ。湿っぽくてカビも生えるわ」

嫌そうに眉を寄せる君主を制し、聖女は騎士に、まるで愛し子のお遊戯を見る母親の如く微笑んだ。

「必要でなければ、会いに行ってはいけないのでしょうか」
「………」
「余り難しく考えず、その『幸せそう』な姿を見に行くだけでも構わないではありませんか。
 急に顔をあわせるのが辛いと言うのでしたら、こうして……」

その細い腕をゆるりと挙げる聖女。瞬間、光で出来た幾つもの魔術文字が、リボンの様に彼女を取り巻く。
現世では既に失われて久しい、力ある記号の意味ある羅列……
光の帯は一旦解けると、彼女が差し伸べた手の先、黒い騎士の巨体をふわりと囲った。

「こ、これは……」
「貴方の魂だけを純粋に取り出す術です。……この幽世において必要上纏っている『物質(マテリアル)の意識』を脱がせる術と言った方が良いかも知れませんね」

狼狽える騎士に、聖女は何でも無い事の様に言う。

「貴方はこれから正真正銘の『タマシイ』のみの存在になります。
 現世では誰にも貴方の姿は見えません。勿論貴方の大事なひとにも」
「…………」
「何もかもを見通せても絶望的な隔たりが存在するこの湖からだけでなく……
 『あの方』と同じ世界で同じものを見、彼が本当に幸せなのかどうか、感じてきなさい。
 そしてそれが余りに辛いのなら、すぐに戻ってきなさい。
 『シュテル』」

柔らかな声と共に、真名を呼ばれた騎士の体から赤い輝きが染み出してくる。
それは掌に載るほどの光球となり、中空にふわりと浮かんだ。
同時に騎士の体は、輝きと同じ色の目の光と、五体の力を失う。

「お前は闇の他に、無機物や雷と相性が良い」

君主が光球を突付きながら言った。

「今の現世に溢れる電化製品に宿って魔力を吸収するなりすれば、そう魂を磨り減らすことは無いであろう」

ある程度ならば宿ったモノを操る事も出来るし、と続けて彼は、ぴしりと光球を弾く。

「早く行け」

その、ぶっきらぼうな言葉と聖女の穏やかな瞳に後押しされたのか、赤い光球は暫しうろうろと彷徨った挙句、結局現世への道である湖へちょぽんと飛び込んだ。
……融ける様に消えるそれを眺め、

「沈黙の聖女が秘技中の秘技たる解放の言霊を使うか」

君主が肩を竦める。

「随分甘やかすものだ」
「私にとって彼は……彼ら機械の巨人は、全て命を分けあった子供の様なものです。
 ……それに、大事なひとを待つ辛さと待たせる苦しさは、判っているつもりですから」
「ふん、我侭で後ろ向きで手の掛かる子を持つと大変だな」

君主の皮肉にさえ、騎士へのものと変わらぬ眼差しを向ける聖女。
彼女に「貴方こそ何故、他の者に求める様な『出領許可申請』をさせず彼を行かせたのですか」と問われた君主は、

「……奴の主は私にとっても代わりの無い者だ、奴だけがあれを好いている訳ではないと言うに」

それだけ呟き、拗ねた様に唇尖らせ足元の石を蹴って、聖女を「貴方が一番手の掛かる子供ですね」と笑わせた。

―――――

本当は昨日の「お題27・電光掲示板」の前半部分だったのですが、主題以外の部分が長すぎるという事でカット。
別にこうしてUPしてみました。(貧乏性)
ガルデン(漫画)やソフィーは、その生き様や能力が余りに特殊すぎる為、この世での生を終えた後は何か隔離スペースに放りこまれていそうな気が。
で、其処の支配者になるのですきっと。

そしてガルソフィ。(何てカップリングだ)
ガルデン(漫画版)はソフィーとも結構相性がいいのではないかと思うのですが如何か。いや、露出しているメディアが違っている時点で接点ゼロの二人ではありますが。
しかしこう、「全てのリューの上に君臨し、そのエネルギーを束ねる能力を持つ闇の君主」と「リューに生命を与え、また奪う力を持つ沈黙の聖女」という組み合わせは非常に麗しいのではないかと。
これに「リューの声を聞き、力を与える事が出来る救世の女神」(ナビア)が加われば大変な事に。
この三人は自分の血筋や能力の所為で色々と辛い思いや苦労をした面まで一緒なので、案外気が合うのではないかと勝手に思っています。
「ガルデン様!」「ソフィー様!」「ナビア様!」とか呼ぶ連中がもれなく一人ずつついてくる辺りも同じだしね!(イドロ・ミズキ・旅の僧。全員僧侶だ)

―――――

NHKの動物番組を見ていて、「朝子供ラッコが目を覚ますと、いつも傍にいたお母さんの姿がありません」というシーンが。
きゅーきゅー鳴きながら必死でお母さんを探す仔ラッコの姿に、思わず小さい頃のガルデンを見てしまい、不肖TALK-G思わず目頭が熱くなってしまいました。ああ。(すごいバカ)

個人的には、TV版のガルデンのお母さんは凄い強い上に美しく母性愛に溢れた典型的な「グレートマザー」で(それはもう、ガルデンにマザコンの気があっても仕方ないくらい)、漫画版のガルママは自分の息子を恋愛の対称にしてしまう様なひとであったらいいなあと何となく考えています。アグリピーナ的(またの名をTVイドロ的)なひとでも良いですが……!!
TV版は愛情一杯に育てられたからあんなので、漫画版は健全とは言えない家庭環境におかれていたからあんなんなのだとか。
TVのガルデンは、ラジオ版などで補完してみるに結局、自分の血の全てを受け入れた様ですが(「俺は邪竜族とアースティアのハーフだ、その二つの世界を魔族などに奪われたくないだけだ」とかなんとか言っているシーンがあるのです……郷土愛?)、漫画版のガルデンは両親の血(エルフと邪竜族)をも否定しているのがなんとも興味深いです。

とりあえずTVのガルママはホットケーキの匂い、漫画版は香水とアルコールの匂いという事で……

―――――

金曜日の更新、結局出来なくて申し訳ありませんでした。ウウー。



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