<漫画版で> 戦と野望に明け暮れるガルデン一族内においても、年中行事というのは尊ばれている。 過酷な現状に立ち向かう日々を送る戦士達にとって、貴重なリフレッシュの場となるからである。 そんな年中行事の一つ、バレンタイン。 言わずと知れたラヴとチョコの祭典であるが、この一族の中で行われるそれは、一般的なものとはちょいと違っていた。 普通ならば2月14日に催される所を、2月15日にずらしてあるのだ。 何故か? それはこの日、最もチョコを多く受け取る男の意志によっている。 その男曰く、 「お前達がこの私に、チョコレートだの何だのを送りつけたり渡したりしてくるのは由としよう。 毎年毎年執務室が贈り物で溢れ返ったり、その所為で向こう一週間は仕事が滞ったりするのも仕方の無い事だ、百歩譲って諦めよう。 が、しかし!! そのチョコレートやら贈り物やらを、人間やエルフ共の店の特設コーナーでほいほいと購入してくるのだけは許さん!! あれは彼奴等が菓子屋と組んで仕掛けた、絶にして妙なる商業活動の一環よ!そんな者達の甘言に乗せられ、わざわざ高い限定チョコだのブランド品のプレゼントだのを定価ないしバレンタイン期間中の特別高価格で買うなど言語道断!! 私は奴らを儲けさせる為に、お前達に給料を払っているのではない!! どうしても買いたいと言うのならば、2月15日! バレンタインセールが終わって、売れ残りのものに値引きの赤札が貼り付けられるであろう?それを買い叩いて来い!! 良いか、定価やそれ以上の値段で買ったチョコレート類やプレゼントは、私は決して受け取らん!! 手作りのものに関しても同様だ、原材料・包装・その他合わせた金額が高額になるものは、その場でつき返す!! 肝に銘じておけ!!」 ……こんな理由で、一族のバレンタインデーは2月15日〜となっているのである。 この詔が発されて以来、日が近付くと一族内では「いかに安くしかも見栄え良く贈り物を購入・作成するか」という議論が、休憩時間の話題の大半を占める様になる。 それこそもう老若男女職種問わず、実に熱心且つ楽しげな話し振り。 仕事中も絶えない一種異様な熱気と活気に、視察に来た邪竜軍高官がほうほうの態で退散したというのも有名な話である。 そして当日。 朝から「チョコを最も多く貰う男」の執務室には暖房ではなく冷房が掛けられ、書類や書籍やの類は全て別室に運び出される。 そして昼頃になると徐々にチョコ等の贈り物が運び込まれ始め、夜には種類別に分類されたそれが、どんとおよそ500ズッシリ、ぎっしりみっしり積み上げられる事になる。 その甘い香りが濃厚に漂う中の、赤札眩しいとりどりの贈り物の山は正に圧倒の一言、一見に値する。 「今年もこの日がやってきたか」 運び込まれるチョコの山を見ながら、当の男は肩を竦める。 「皆、日頃の感謝を何とか形にしたいと必死なので御座います」 男の傍に立つ女が、微かに笑んで言葉を返す。 それに男は苦い笑みを浮かべ、 「我らはこの数百年間、巨大な圧力にずっと抗い、そして耐えてきた。 それが少しでも形になるのならば、……目に見えてその効果が確認出来るのならば、こんな代償行為は必要ないのであろうに」 呟き、髪を撫で付けた。 「我が一族には娯楽が不足している。 常に見張られ制約された日常の中で、達成感や開放感を味わえるほんの少しの楽しみさえも欠乏しているのだ。 年端も行かぬ子供に玩具代わりの剣を持たせ、若い女には恋文を書く便箋ではなく魔道書を与え、男共には酒より高カロリーのジュースを勧め、年寄りには昔話に似せた戦史と事実を伝えさせ。 そんな日々がいつまで続くとも知れぬこの状況で、彼らの積もる鬱憤を晴らす機会になれば良いと思い、こんな浮かれた日を制定したが……」 深い溜め息。 「それでも彼らはまず第一に、己の男や女にではなく、長である私にと贈り物やらを持って来る。 これでは、数少ない『非日常』を味わう事も出来まい。 彼らの頭には常に『虐げられた一族の長』があるのだから……」 「……お言葉ですが」 と、女。 「皆は『己の長だから』とこんな贈り物をしているのではありません。 『貴方様だから』、必死に知恵を絞って、しかも子供の様に胸を高鳴らせながら贈り物を作り、持ってくるのです。 お気付きになりませんか?皆のあの楽しそうな顔。 日頃激務に身をやつされている貴方様に、少しでも喜んで頂きたいと考える時の嬉しそうな顔。 他者を喜ばせる事を考える、打算抜きで純粋に、貴方様の事を考える…… それだけで皆は……いえ、我らは、新鮮な解放感と昂揚感を楽しむ事が出来るのです」 「……………」 「これは全て、義理チョコではなく本命チョコ。 勿論これも」 女は袂から、小ぶりの包みを取り出した。 その表面にはしっかりと、値引きの赤札が張ってある。 「誰もが貴方様に、少しでも思いを届けたいと思っています。 感謝や憧れの気持ちを、小さく安い菓子の中に閉じ込めて。 疲れすら見せようとしない貴方様のその御身を、少しでも癒し寛げる事が出来ればと」 「……………」 男は手を伸ばし、女の差し出す包みを取った。 「どうして『長ではない私』に、思いなど掛ける……?」 「それは貴方様が、貰ったチョコは独り執務室に篭って全て平らげ、暫く胃薬を手放さなくなる様な、そんな少々不器用な方だから」 男はばつが悪そうに眉を寄せた。 「何故胃薬の事まで知っている……」 「当たっておりましたか?そうではないかと思っておりました」 「………………」 苦りきった男の表情にくすくす笑う女。 「今年は皆、スウィートよりブラック、大きいものより小さいものを選んでいる様ですので、頑張って下さいませ」 「プレッシャーを掛けるな」 男はもう一度溜め息をつき、それから微笑んだ。 「全く、惚れられる男というのは辛いものだ。 早速、その『思い』とやらをじっくり値踏みさせて貰うとしよう」 「今年も、執務室は閉ざしてしまわれるのですか……?」 「『長では無い私』を、この戦時に見せる訳にはいかんのでな」 それはお前達の想像の中にという事だ、と首を竦める男に、女は微かに目を伏せた。 「……貴方様が『長』であり続けなければならないこの時代が、早く終わると良いですね……」 「…………」 男はそんな女に顔を上げさせ、目の前で女の包みの赤札を引き剥がし、 「終わらせる。終わらせて見せるさ」 口端を上げて不敵に笑うと、搬入の終わった執務室へと独り踏み込み、その扉を閉ざした。 ――――― この日はなるみ忍様と風切嵐様と軽くディープなMSNチャットを……!! バレンタイン萌えシチュ話から、アデュガル話をしていると必ずといって良いほど何かが起きるのを祟り神と化した下僕の所為ではないかと疑ってみたり、其処からもののけ姫の話になったり、最終的にはおぱんつ話になったりと、何かもう大変な時間を過ごさせて頂きました。 個人的にはガーターベルト大賛成(サイト名にも使っているくらいです)、黒のレース仕様(バラ模様)なんて「クイズ100人に聞きました」の観客席ぐらい「あるあるあるある」を連発してしまいます。(>なるみ忍様) とても楽しい時間を有難う御座いましたv あと言おうと思って言い出せなかったのですが、下僕は六尺ふんどしかサポーターか横紐ビキニだと思います。 それと夕方頃夜篠嬢から「下僕本のネタ浮かんだけどイタイ話ばかりになっちゃうよ」と言われました。 下僕×御主人様なリュー本という時点で異端審問会にさっぴかれるのは確実なので最早痛いのきついのは仕方ないと思います。
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