GARTERGUNS’雑記帳

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バレンタイン小話その3
2004年02月14日(土)

*HANKY-PANKY設定で*


今年のバレンタインデーは週末に重なっていて、恋を暖めている世のカップルにとっては何とも嬉しい日のめぐり。
大学教授も女子高生も、教える側と教わる側の立場の違いは有るものの、丁度テストやレポート、学会の山を越えてほっと一息つける頃。

「折角だから何処かに出掛けても良いけど、家でゆっくりのんびりするのも良いわよね」

週末のプランを立てるパティに、朝食後のコーヒーと新聞(何種類もとっているものだから読み終えるのに時間が掛かる)を楽しみながら、ガルデンは「そうだな」と同意した。
まるで、浮かれる世間とは無関係という涼しげな顔をしている。
昨日の授業後に教え子達にどっさりチョコを貰って、大変難儀しながら帰宅したのも忘れ果てている様だ。

「今夜は寒くなるかしら?」
「そうだな。昼はかなり温かいが、夜は冷え込む様だ」

パティの呟きに新聞のお天気欄を見たガルデンが応えると、彼女は「そう、良かったわ」とにんまり。
不思議そうなガルデンの視線に気付かない振りをして、パティは続ける。

「今夜のご飯は、あったかくて美味しいものにするわね」
「……何だ、お前が作るのか?」
「そんな心配そうな声出さないでよ。大丈夫、楽しみにしてて」

何故か自信満々に言うパティ。
その姿に余計に不安になりながら、ガルデンは神妙な顔で一つ頷き、また新聞に視線を戻した。



ガルデンが仕事に出かけてしまうと、家にはパティ一人になる。
学校も休みの土曜の昼下がり、普段ならパティもどこかに出かけたり、渋々宿題をしたり、お風呂とお昼寝を楽しんだりするのだが。

「そろそろかしら」

今日はそわそわと時計を見ながら、玄関とキッチンの間を行ったり来たり。その表情も明るく楽しげで、まるでサンタを待つ子供の様。
やがて時計が十二時半の五分前を指した頃、サンタのソリの鈴の音ならぬ大型車の静かなエンジン音が家の前までやってきた。

「!」

ぱっと駆け出すパティ。サンダルを引っ掛け玄関を抜け、駐車場に出てみると、丁度ランドクルーザーが客人用のスペースに停められる所だった。
陽に照る銀のその車、いつ見ても実に頼もしい機能美に溢れている。
そんな車から静かに下りてきたのは、これまた頼もしい……と言うか、一見には頼もしすぎて威圧感の方が勝る様な風貌の黒い男。

「シュテル!」

自分より年齢が一回り、体格に至っては三、四回りでは足りないくらい大きな男に、物怖じもせず駆け寄るパティ。

「良かった、来てくれたのね!」
「お久し振りです、パティ嬢」

屈託無く笑って見上げてくる少女に、シュテルは冬の陽光避けのサングラスを外してから頭を下げた。

「本日は己を呼んで頂き、有難う御座います」
「ううん、あたしこそ、急に呼び出しちゃってごめんね。
 来てくれて嬉しいわ、こんな事シュテルにしか頼めないもん」

照れた様に言うパティのその笑顔に、シュテルは少し眩しそうに赤い目を細めてから、「有難う御座います」ともう一度頭を下げた。

「それじゃあ、早速で悪いんだけど……」
「はい、心得ております」

期待を紫水晶の瞳に溢れさせたパティに、すっと背を伸ばし一つ頷くシュテル。
瀟洒な外見ながら、この男が乗ると戦車か何かの様に思えるランドクルーザーの後部ドアを開くと、シートが取っ払われた広いスペースにどんと積んである様々な包みを取り出し始めた。

「勝手をお借り致します」
「勝手?」
「……キッチンを」
「あ、う、うん。要らないものはもう全部片付けてあるから」

その包みの量と大きさに目を丸くしていたパティは、自分一人ではとても持てないような袋包みを指一本で引っ掛け、しかもそんなのを両手一杯に持って何でも無い様な顔をしているシュテルの先に立って、玄関を開けキッチンのドアを開いた。
辿り付いた大きなダイニングキッチンのテーブル上に、シュテルは次々と包みを並べていく。
パティがそれを開けてみると、現れるのは使い込まれた調理器具や香辛料、新鮮ないし熟成した食材の数々。
見慣れたものから知らないものまで、色んな国の文字や絵が色とりどりのラベルに躍っている。

「す、凄いわね。何だか本格的」

思わず感嘆の声を上げるパティ。
それにシュテルは、タイをカッターシャツの胸ポケットに入れた後、ぱりっとした袖を肘まで捲り上げながら「年に一度の事であります故」と答えた。




シュテルの元にパティから電話が入ったのは、丁度一週間前の事。
相談したい事があるというので己で良ければと訊いてみると、

「お菓子系の甘いものがダメな彼にチョコを食べさせるには、どうしたら良い?」

彼というのは言わずと知れたシュテルの主、そしてパティの恋人ガルデンのこと。
もうすぐに迫ったバレンタイン、例年は辛党の彼に合わせて可愛いミニボトルのお酒や香水、仕事にも使える綺麗なペーパーウェイト等を贈っていたけれど。

「一度くらい、やっぱりチョコを食べて貰いたいの」

勿論、恋人にはチョコ以上に甘い彼の事、贈ればきっと食べてはくれるだろうが。

「でも、無理をして食べて貰っても、お互い嬉しくないじゃない」

だから、そんな彼に無理をさせず、チョコを食べて貰いたいのだけど。
それにはどうしたら良いだろうか、と。
シュテルは五秒考え、十秒かつては甘いものが大好きだった主に思いを馳せ、それからもう五秒考えて。

「どうすれば良いか思い浮かばないの。
 何か良い案、ない?
 お願い、助けてシュテル」

主の大事な女性の切ない訴えに、落ち着き払って言い切った。

「御安心下さい、パティ嬢。
 全てこのシュテルにお任せを」




パティは滅多に使わない為真っ白でしみ一つ無いエプロンを着け、頻繁に着けているはずなのにそれらしい汚れが見当たらない黒いエプロン姿のシュテルに、恐る恐る歩み寄った。
家庭科の成績が常に芳しくないパティでは、手伝える事などそうは無いのだが。
やはり彼が何をするのか気になるもので、邪魔にならない様にしながらちょこちょことその手元を覗き込んでみる。

「電話で言ってたけど、煮込み料理を作るのよね?」
「はい」

応える間にもシュテルは、それなりに広いとは言え限られた……しかもその体躯には少々小さなキッチンのスペースで、それでも手際よく何かを洗ったり切ったりとめまぐるしく働いている。

「丁度お館様が、今シーズン最後のジビエを土産に帰国されましたので……それを分けて頂きました」
「ジビエ?」
「"gibier"……野禽獣。野生の鳥獣の事です。
 代表的なものは鶉(ウズラ)や雉(キジ)、真鴨、小鴨、雷鳥…それに野兎や穴兎、鹿や猪でしょうか」

そういった野生動物を狩ったものは、貴重で、また独特の風味がある。
しかも狩猟の解禁時期である冬場にしか味わえない「旬のもの」なのだと。

「パティ嬢は、ジビエには余り慣れては……」
「うん……鴨とか食べる事有るけど、あれは養殖よね?
 本当に野生のは食べた事無いかも……
 あ、でも、前に温泉旅館で食べた鴨鍋は天然だったわ。
 最初はさっぱりしているけれど、煮込んでいる間にどんどんだしが出てくるの。美味しかった」

この年齢で鴨鍋の味が判るというのも珍しいが、やはり其処は彼女の恋人のエスコートとエデュケイションの賜物であろう。
その「恋人」の目と舌の厳しさ・手強さを誰より良く知るシュテルは、内心でそれを楽しみにしている自分に気付いて密かに苦笑した。

「……そうです、ジビエは古典的でシンプルな調理法ほどその野趣溢れる持ち味を引き出せるというのが定説です。
 例えばローストや煮込み、パティ嬢の仰る鍋などですが……
 しかし、食べ慣れない方にいきなりジビエのクセの強さを味わえと言うのも酷で乱暴な話。
 それにパティ嬢たってのリクエストも御座いましたので」
「……チョコレートの事?」

煮込み料理にチョコがどう絡んでくるのだろうと疑問に思っていたパティは、恐る恐る尋ねてみた。
すると彼は頷き、

「それらを踏まえて考えた結果、今回は雌のフザンを使ったものにしようと」
「フザンって?」
「雉の事です。淡白ですがコクが有り、上品な味わいの白身肉でありながら野性味も楽しめる風合い……それが様々な料理に合わせ易いので、今回の様な場合には最適かと」

淡々と、しかし丁寧に説明する間もその手は休む事無く、件の雉を食材の中から取り出したり、それを下ごしらえしたり。

「野生の動物を狩ったものって言うから、羽とかがついてるのかと思っていたけど」
「ええ、お館様から頂いた時には毛や内臓も勿論有ったのですが。
 こちらに参上してからでは少々時間と手間が掛かりすぎますので、頂いた時点でそれらの処理は済ませて参りました」



『……内臓や毛を取らず吊るしておいて、フザンダージュ……肉を熟成させるのがジビエの醍醐味であると譲らなかったお前が、何とまあ、狩りたての雉を捌くとは。
 余程お前の主の厨房は狭いと見える』
『……しかしお館様、今回のこれは銃弾が内臓に残っております故、どちらにせよ内臓は使えませぬ。
 それに己のこの図体では、何処の厨房も等しく狭う御座います』
『……言ってくれる。
 判っている、流石に姫君の目の前で血生臭いものを見せるのは何だからな。
 それに熟成させない方が、クセは少ない……』



全くお前は主思いだ、という「お館様」の笑い混じりの揶揄を思い出し、シュテルはまた苦笑する。
それは、他人からすれば見ても判らぬ様な、本当に微細な表情の変化であったけれど。

「どうしたの?」

不思議そうな視線と共に尋ねられて、シュテルは慌てて表情を改め、「いいえ」と首を振った。
本当に、この少女の前では気を抜けない。



細かな処理を済ませた雉は、オレンジ煮に。アムチュールとクローブの香りを効かせて、肉がパサつかぬよう優しく煮込む。
野性味を引き出すに最適という「クラシックでオーソドックスな調理法」からはかなり隔たりがあるが、甘いバレンタインのジビエには、こんな爽やかでフルーティーなものも良いかもしれない。

「……では、仕上げに入りましょう」
「あ、う、うん」

シュテルの手際の良さと、出来上がっていく料理の美味しそうな匂いにうっとりとしていたパティは、言われて我に帰った。
いつの間にかキッチンの外は随分暗くなっている。
もうそろそろ彼が帰ってくる時間だ。

「今夜も冷え込みそうですね」
「煮込み料理がもっと美味しくなるわね」
「……だと、良いのですが。
 パティ嬢、あれは御用意して頂けましたか」
「うん、これね」

パティが取り出したのは、黒に金のシンプルな包装を施されたチョコ。

「ブラックで、カカオ分が高いものって言ってたから」
「ドモーリのGemで御座いますね」
「これで良かった?」
「ええ、勿論」

ブラックの決定版とも言えるカカオ分85%のそれの包装を、シュテルに言われるまま解いていく。

「これをどうするの?」
「一かけらで結構です。
 オレンジ煮の中に、入れて下さい」

いつも通りの平静な顔で、全く何でもない事の様に言うシュテル。
パティは一瞬頭が真っ白になり、……それから「チョコを入れるの?オレンジ煮に?」と問い直した。

「そうです。ほんの一かけら」
「……で、でも、これ、煮物でしょ?」
「煮物に少しチョコレートを入れると、コクが出るのです。
 微かなカカオの風味もまた、程好いアクセントとなります」

カレーや鯖の味噌煮などにも入れる事があります、というシュテルの堂々と落ち着いた説明。思いも寄らぬ「辛党にチョコを食べて貰う方法」に最初は訝しがっていたパティも、その説明で覚悟を決めて。

「……本当に、美味しくなる?」
「ええ、貴女様がそう願われるのならば、必ず」
「じゃあ……」

と、ブラックチョコをほんの一かけら。
美味しくならないと承知しないから、なんて脅迫めいた想いを込めて、
くつくつと囁く鍋の中に。






……そんな事など知らぬガルデン、帰宅と同時にパティに連れられ、向かったダイニングキッチンで配膳をしているシュテルに驚いて。

「てっきり伯父貴の元に滞在していると思っていたが……何時こちらに?」
「本日の昼過ぎで御座います。……そんな事より、早速夕食を」
「あ、ああ」

卓に並ぶ夕餉に目をやれば、随分と豪勢で手の込んだ料理の数々。

「中でも今日のメイン料理はトクベツなんだけど、その違いが判るかしら?」

くすくすと笑うパティの表情、やや深めの皿を持って来たシュテルの目。
其処に潜む、悪戯っぽい挑む様な光にガルデンは、

「……良いだろう」

唇の端を少し上げて笑いを返す。
それに応えて出されたのは、鳥のオレンジ煮……いや、これはただの鶏ではない。

「雉か?」

暖かな湯気が既に旨みを含んだ、色も鮮やかな雉のオレンジ煮。

「珍しいものを作るのだな」
「御名答」

呟くガルデンのグラスに、シュテルはコート・ロティー・シャティヨンヌを注いでほんの微かに笑う。
ヴィダル・フルーリー社のこのワインはコクがあって辛口で、特に五、六年寝かせたものの丸い渋みが雉のジビエに良く似合う。
……其処でシュテルは、はっと気付いて主を見た。

「御名答も何も、このワインを出されてはな」

よく冷えたビールの傍に剥いた枝豆を置いて、これは何の豆かと問う様なものだ、と片眉を上げる主。

「……恐れ入りました」
「もう、シュテルってば」

変なところで抜けているシュテルに、パティも思わず吹き出し……それから表情をきりりと改める。

「そう、シュテルがわざわざ持って来てくれたの。
 このシーズン最後の、取って置きの雉をね。
 でも、違いはそれだけじゃないわよ」
「…………」

ガルデンは、キビとドライピーチのスップリなんて小憎いものを添えられたオレンジの皿を見詰め……
これ以上は実際に食べてみなくては、彼女の求める答えは出せまいとナイフとフォークを手に取った。
美味しそうなものを前にして、丁度お腹が悲鳴を上げそうな頃合であったし……。

たっぷり味の染み込んだ、柔らかな肉を一口。
噛み締めると、溢れる旨みとやはり存在感のある野性味、オレンジの爽やかな酸味とスパイスの芳香。
そしてその中に。

「―――――」

一口食べ、暫し考え込み、もう一口、殊更に味わう様に咀嚼して……
それからガルデンは傍らに立つパティを見上げ、

「今日はバレンタインデーだったな。
 ……有難う、パティ」

と目を細めて微笑んだ。
何よりも雄弁な答えに、パティは頬を染めて頷き、思わずガルデンに抱きつく。

「こ、こら、食事中だぞ」

慌てた様な彼の声に笑い、それから密かにシュテルに視線を送り、「ありがと」と唇だけで言うと。
シュテルはそれまでずっと着けていたエプロンを漸く外し、御前に伺候する騎士さながらの静かな一礼を返した。



その後は揃って晩餐を。

「チョコ入れた時はどうなるかと思ってたけど、本当に美味しいわね。
 カカオの香りと苦味がほんの少しだけするの」
「雉の味に良く合っている」
「パティ嬢が選ばれたチョコレートだからこそ、今回の雉と味付けに良く合ったので御座いましょう」

オレンジ煮は勿論の事、冬の野菜のソテーやじゃがいものガレット、ワインにデザートも美味しく頂いて。
強い風吹く外の寒さも、この温かな食事の引き立て役。

「こんな日はホテルでディナーよりも、シュテルのご飯の方が良いわ」
「同感だ」
「……恐縮です」

後片付けまで楽しくなる様な時間はあっという間に過ぎ、バレンタインの夜は更けて。

「シュテル、今夜は泊まっていけ」
「そうよ、久し振りに来てくれたんだし、ゆっくり休んでいって」

と二人が言うのに、シュテルは「有り難いお申し出ですが」とシュテルは首を振った。

「お館様の所に、未だ用事を残してありますので」
「急ぐのか?」
「……まあ、その……
 ……馬に蹴られて死にたくなければ、早々に戻ってくるのが良かろう、と言い含められまして……」
「……伯父貴……」
「本当に帰っちゃうの?」
「ええ。……また何かありましたら、お言いつけ下さい」
「ん……本当に有難う、シュテル」

名残惜しそうにしながら何度も感謝の言葉を贈ってくれたパティに、軽く頭を下げて。
それでは失礼致します、と来た時より幾分かさの減った荷物を持って、玄関を出ようとしたところで。

「駐車場まで送ろう」

畏れ多い主の言葉と、いつの間にかコートを着て立っているその姿に、シュテルは緩み掛けた緊張の糸を再びぴんと張り直した。



冷えは夜と共に深まり、風が二人のコートの裾をはためかす。

「お手数お掛けしてしまい、申し訳御座いません……」

すっかり恐縮するシュテルに、「日頃世話になっているのはこちらであるのに、この程度の事気にするな」と、荷物の半分を持ったガルデンが答える。
それきり会話は無く、駐車場に着いてからも、二人は黙々と車にそれらを詰め込んでいたが。

「……シュテル」

積み終えて後部座席のドアを閉めてから、ガルデンはシュテルに向き直り、薄い唇を微笑ませた。

「その……パティと一緒に美味いものを振舞ってくれて、感謝している」
「……勿体無いお言葉です」
「それで……だな。お前にも何か礼をしたいのだが……」

少し照れ臭そうな彼に、シュテルは赤い目を細め。

「わたしには……こうして言葉を掛けて頂き、そして雑事なり何なりと任せて頂ける事が、何よりの褒美で御座います」

本当に、少しだけ……それこそオレンジ煮の中のカカオの風味くらいに密やかに、笑みを滲ませた声で言った。

「……シュテル」
「それでは、お風邪など引かれませぬ様に」
「ああ……」
「失礼致します」

さっと一礼、車に乗り込んだシュテルは、エンジンを掛け……いつもの様にカーナビもラジオもステレオも、ヒーターすら入れぬまま、車を発進……
……出来れば良かったのだが、車はランクル、此処はそれほどスペースが無い住宅地の駐車場、更に隣にはガルデンの車が入っていて。

「……誘導しようか」

こんこんと窓をノックして笑う主に、シュテルは消え入りそうな声で「お願いします」と呟いた。




「……言葉と用事が褒美だとは、本当に、無欲な奴だ」

走り去る車を見送った後、ガルデンは一人ごちた。

「あたしは中々贅沢なひとだと思うけど?」

何時の間にやら隣にやってきたパティが、くすくす笑いながら恋人の独り言に応える。

「贅沢?何故だ?」
「何故かしらね?」

答えをはぐらかし、考えてみたら?と首を傾げて見せるパティ。
その、上着も無しの肩をそっと抱き寄せ、温かな家に戻りながら、ガルデンは黙考し……

「……判らん」
「……本当に鈍感なんだから」

呟くのに、パティは呆れた様に目を瞬いて、開かれたドアを潜りながら済まして言った。

「これじゃあシュテルも苦労する筈よね」
「どういう意味だ?」
「教えてあげなーい。
 折角のバレンタインだもの、こういう事についてゆっくり考えてみるのも良いんじゃない?」

難しい所はキス一回と引き換えにヒントを出してあげるわ、と囁くパティの悪戯っぽい笑顔に、今度はガルデンが目を瞬き、それから肩を竦めて苦笑する。
今年のバレンタインの夜は、長いものになりそうである。


―――――

女子高生×大学教授シリーズ内の、シュテルが登場する小話は、これから「シュテルにおまかせ!」シリーズとでも銘打とうかと(何たる愚挙か)



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