バスの揺れ方で人生の意味が 判らない金曜日♪ こんばんは、TALK-Gです。 今日は所用あって阪神百貨店に出向いたのですが。 其処の八階で、「全国有名駅弁とうまいもんまつり」なんてステキなフェスティバルが開催されておりまして。 ――――― *大学教授×女子高生で* ヴァニール高校・放課後――――― 「あ、ガルデンからメールだわ」 「何なに?あの年離れた大学教授さんかいな」 「うん。今駅前のH百貨店まで来てるけど、何か買って帰るものは無いかって」 「H百貨店言うたら、いま丁度八階の催し物会場で、『全国の駅弁とうまいもの展』やってる筈やで」 「え、ほんと? じゃあ、それ頼んじゃおうっと。美味しいお弁当! それと何か特産品のお菓子!」 「六花亭のバターサンドなんか人気やで」 「じゃあそれにしよっと」 「なあなあパティ、ついでにわての分もー。お金払うさかいー」 「OK、メールしとくわね」 H百貨店前――――― 「ん、返信が……」 「パティ嬢は何と?」 「『八階の催し物会場で美味しいお弁当と、六花亭のバターサンドっていうお菓子二つをお願いね』……」 「―――――」 「どうした、シュテル」 「……ガルデン様、お言葉ですが、それはお止しになった方が」 「何故だ?たかが弁当と菓子ではないか」 「失礼ですが、ガルデン様はこういった物産展などに出向かれた事は……」 「いや、無いが……」 「では尚更いけません。今すぐパティ嬢にお断りの返信を」 「シュテル、何を言っているのだ?」 「こういった百貨店の物産展は、各地方から様々な品物が集まるとあり、毎回大変な人出となります。 しかも今回は全国から選りすぐられた駅弁特集。あまつさえ弁当だけでなく、各地の特産品も販売…… 凄まじい混雑である事は想像に難くありません。 そんな場所に、ガルデン様をお連れするなど!!」 「しゅ、シュテル、声が大きい」 「は、も、申し訳御座いません」 「……しかし、少々大袈裟ではないか、シュテル。 それに折角パティが楽しみにしているというのに、人込み如きに怯んで手ぶらで帰るというのも業腹だ。 第一私ももうこの年になって、そんな子供の様な心配をされるのも……」 「……このシュテルにとっては、ガルデン様はいつまでも小さいガルデン様のままです……」 「………ん?」 「いえ、何も……。 ……判りました、ガルデン様がそうまで仰るのでしたら。 弁当と六花亭のバターサンド二つ、手に入れて参りましょう。 それまでガルデン様は、何処かでお待ちになっていて下さい。一階に喫茶室がありますので」 「待つ?馬鹿を言うな。 お前が其処まで言う混雑、是非とも見てやりたくなった。 私も行く」 「ガルデン様!」 「…………………」 「………わ、判りました。お供致します……」 八階・催し物会場――――― 「―――――」 「―――――」 「……な、何だこの人出は。これが本当に皆、弁当や特産品目当てで集まっている客なのか?」 「……ええ、先程申し上げた通りです」 「……………」 「ガルデン様、やはり何処かでお待ち頂けませんか。 こういった騒がしい人込みと人いきれ、冬場のフロアの暖房、ガルデン様は大変に苦手とされていた筈です」 「い、いや、行く。一度決めた事を覆せるか」 「ガルデン様……」 「……しかし、何だかブースが沢山有って……何処もかしこも黒山の人だかりと行列で、一体如何すれば良いのか」 「ガルデン様、こちらを」 「……チラシ?この物産展の?」 「はい。其処で配っておりました。 ……ガルデン様、どうしても行くと仰いますか」 「ああ」 「……それでは、ガルデン様はこの13番ブース、あちらに見えている販売所で、六花亭のバターサンドを二つお求め頂けますでしょうか」 「ああ、あそこの……」 「はい。今なら空いております故、比較的待たされる事無く購入出来るかと。 その間にわたしは弁当を購入して参ります。 ガルデン様は、何か弁当への御要望はありますでしょうか」 「いや、私は…… ああ、でも、この地釜炊き釜めしというのは美味そうだな……」 「判りました、こちらですね」 「……シュテル」 「はい」 「今お前がチラシにチェックを入れている赤いペンは、一体何処から出した?」 「シャツの胸ポケットに常に携帯しておりますが」 「……そうか……」 「それではガルデン様、バターサンドを入手されましたら、また此処に戻ってきて下さいませ。如何かくれぐれも、ご無理はなさらぬ様」 「わ、判った」 ―――――30分後 「……『地釜炊き釜めし』に『潮騒の宴デラックス』、『しゃもじ牡蠣飯』、『いかめし』……やや海産系の弁当に偏りすぎたきらいはあるが、まあ妥当な線か……。しかし、ノルディア地方の『かにめし』が、豪雪の為此処まで輸送出来なかったというのは大きな誤算だ……販売者にも、会場側にも、消費者にも、等しく痛手と言える……。 甘味としては『きんつば』と『ずんだ餅』。この二つの素朴ながら柔らかい口当たりは、是非一度研究してみたいと思っていた。『いかしゅうまい』と『ゆず大根』も然り……今ひとつ物足りなくなりがちな駅弁メインの食卓にも、これがあるだけで随分と違う……。 ……しかし、ガルデン様はまだだろうか……あの方は目も舌も肥えていらっしゃるから、ここぞとばかりに特産品をチェックしているのでは…… そう、あれはガルデン様が十歳の頃、ナイルだかリムジンだか言う不貞の輩がガルデン様の御機嫌を取ろうとケーキを持って館を訪れた時……ガルデン様はそのケーキを一口だけ召し上がり、『こんなパサついたスポンジに水っぽいクリーム、ぼけた味の苺を使ったケーキなど、幾ら高級店の看板つきであろうと、侮辱以外の何でもない』と斬って捨てた事があった……あの時の奴らの顔、思い出すと今でも笑いが込み上げてくる。そして席を立ってこのシュテルの方に歩いてこられたガルデン様の、その愛らしくも威厳に満ちた眼差しと物腰、立居振舞といったら……フフ、フフフ……」 「…………」 どさっ 「が、ガルデン様?!」 「あ……シュテル……良かった……」 「お顔が真っ青に……!ガルデン様、しっかりして下さい!」 「あ、ああ……お前の背中が見えたから、つい…… 本当に良かった、お前の図体がでかくて……」 「……。 と、とにかく此処を出ましょう。外で冷たい風に当たった方が」 「ああ、そうする……」 エスカレーター前にて――――― 「……シュテル、一人で歩けるから……」 「いいえ、いけません。御無理はなさらぬ様にとあれほど言ったにも拘らずこんな事に……やはり、無理やりにでもお待ち頂くべきでした」 「済まない……あの混雑と熱気と客の狂奔振りを甘く見ていた」 「いえ、わたしこそ…… ……ガルデン様が方向音痴でいらっしゃる事をすっかり失念しておりました……」 「……ぶ、ブースが何処かは判ったのだ。其処でこうして買い物も出来た。が、その……少し他の商品に目移りしている間に、待ち合わせの場所が何処だったか、さっぱり判らなくなって……」 「人込みの中を、彷徨っていらしたのですね……」 「彷徨うと言うより、何だか……立ち止まっていられず、人の波に呑まれて溺れていた感じだが……気が付けば色々と買わされていたし……」 「……当分、夕食の支度に苦労せずに済みそうですね」 「……怒っているのか?」 「いいえ……そんな所まで昔と変わらない貴方様に、少し安堵しておりました」 夕方のガルデン家――――― 「……そ、そんな凄い苦労をして、これだけ沢山の美味しい物を買ってきてくれたのね……」 キッチンのテーブルに並べられた海の幸山の幸、甘味に珍味、色とりどりの食の数々に、パティはやや気圧された様に言った。 それにシュテルは軽く頷く。 まさか此処までして貰えるとは思っても居なかったし、またこれらを得るのがそんなに大変だとも思っていなかったパティは、すっかり恐縮してシュテルに頭を下げた。 「有難う、シュテル。ごめんね、大変だったわよね。 ……あ、そう言えば、ガルデンは……?」 ふと、先程から姿を見せない恋人の事を尋ねると、シュテルは顔を曇らせ、 「ガルデン様は……人酔いで少々御気分が優れないそうで…… 寝室でお休みになっていらっしゃいます」 答えて、気遣わしげに寝室のある方向を見やった。 パティもまたその視線を追い、少し心配そうに眉を寄せる。 「そう……後でちゃんとお礼言わなきゃね。 具合はどうなの?」 「それ程重くはない様で、少し寝たら治る、と仰っておりました。 私に気を使わず先に食べていろ、とも」 彼の言葉にほっとした様子になったパティは、素直に興味を目の前の駅弁の数々に移し、首を傾げた。 「ええと……どのお弁当を食べたら良いの?」 「どれでも、好きなものをどうぞ。 ガルデン様の分は既に除けてありますので」 「そうなの?」 「ええ。……いえ、今の御様子だと、恐らく弁当よりは茶粥の方を好まれるでしょうが……」 「重症ね……」 苦笑するパティ。 散々迷った末に、彼女は四角いパッケージの駅弁を指差した。 「彼の分まで、心して美味しく頂く事にするわ。 これにしようっと」 「『潮騒の宴デラックス』で御座いますね」 蟹や帆立や鮭など、北海の海の幸がたっぷり詰まった、はっきり言って駅弁の域を超えている感のあるゴージャスな弁当である。 シュテルはそれを彼女の前に置き、熱いほうじ茶を彼女の湯飲みに注いだ。 「熱いのでお気を付けて」 「うん、ありがと。 ……わ、すごい!イクラがルビーみたい。美味しそう!」 早速蓋を開けて目を輝かせるパティに、シュテルもその表情を微かに(本当に微かに)緩めた。 「喜んで頂けて光栄です」 「生うにも入ってる!あたし、イクラとかうにとか大好き! ……あれ、シュテルは?食べないの?」 「もう一品」を作ろうとキッチンに向かい掛けたシュテルに、割り箸を割りながらパティが尋ねる。 「己は残ったもので……」 「そんな事言わないで、一緒に食べましょ。いっぱい食べなきゃ。 シュテルも疲れてるんだし…… ……あれ、そう言えばシュテルは、ガルデン程疲れていないのね……?」 ふと気付き、不思議そうに目を瞬かせるパティ。 彼女の視線に、シュテルは何処か歯切れ悪く、 「ええ……」 と頷く。 「どうして?シュテルもあんまり人込みとか好きじゃなさそうなのに」 尚も追求するパティ。 シュテルは最初、何とかお茶を濁そうとしていた様だが、元々が何処か口下手な男である。 やがて観念した様に目を閉じ、 「好きではありませんが、……その…… ……スーパーのタイムサービスなどで慣れております故……」 呟いてシュテルは、居心地悪そうに、己の短い黒髪を撫でた。 ――――― 駅弁のお勧めは釜飯系です。外れがありません。 あと、シュテルがこのシリーズに出てくると必ず食べ物の話になるのを何とかしたいです。 それと……やはりシュテルの一人称は「私」とかの方が良いのでしょうか。
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