GARTERGUNS’雑記帳

TALK-G【MAILHOME

覇王会計ダークナイト
2003年11月27日(木)

絵を描いて「少しは上手くなったかな」とヘラヘラして、気分転換に他所様のサイトに飾ってある絵を見てその素晴らしさに打ちのめされベコベコに凹む日々、如何お過ごしですか。こんばんは、TALK-Gです。

近頃所用あって帳簿整理をしているのですが。
何故お金絡みの話になると、何処からともなくきな臭い噂や何やが涌いてくるのでしょうか。
面白いのですが、それをそのままネタにする事も出来ないので悩みます。
いえ、その「何でもネタにしよう根性」は帳簿整理には必要ないというのは判っているのですが。

―――――

*漫画版シュガルです*


「ガルデン様―――――」
「何だ、シュテル」
「今年の帳簿の件で御相談したい事が」
「見せてみろ」

シュテルから帳簿を受け取りぱらりと捲るガルデン。
途端、その目がすっと細められる。

「……おい、シュテル」
「は、はい」
「この帳簿をつけたのはお前か」
「こ、このシュテルですが……何か不都合な点でも御座いましたか」
「有るとも、大有りだ」

パシンと指で頁を弾くガルデン。シュテルはその音に自分こそ弾かれた様に震え、直立不動の姿勢をとった。

「何だこの馬鹿正直な帳簿は。正直なのが美徳となるのは英雄譚の中だけであって、こんな状況では害毒にしかならんわ」
「は、はい、申し訳御座いません」
「大体、まともに金を払いすぎだ。これもこれもこれも!
 これは交際費、これは通信代、これは印刷代にこっちは雑費、これも交際費でこっちは交通費、こんなもの全て経費で落とせるであろうが!」

バンバンとデスクを叩くガルデン。その勢いの強さにカップに満たされた珈琲は零れ、シュテルは益々でかい図体を震え上がらせた。

「こんな経営をしていたら、そう遠からん日には我々は破産だ。
 アースティアという世界を滅ぼさんとする我ら一族が、掲げた剣を振り下ろす前に資金難で破滅だなど、戯れ歌にもならんわ!聞いているのかシュテル!!」
「は、はい、聞いております!!」

魔族の階級転移を受け、剣聖剣邪両の世界の技術の粋を集めて生み出された呪われしリュー、この世この次元にふたつと無い永久なる闇の力を誇るダークナイトも、この主人の前では形無しである。

「年端もいかんガキの小遣い帳じゃあるまいし、全く……
 ……しかも邪竜軍から出される諸援助費用の申請も滞っているではないか。
 貰えるものは貰え!出す金は惜しめ!!
 傭兵稼業なんぞに収入を期待するな、有る所から有るだけ取らねば一族の者を飢えさせる事になるであろうが!!貴様の様にミストルーンさえ吸っていれば生きていけるというものではないのだぞ!!」

目にも止まらぬ速さで帳簿にチェックを入れていく主の姿と怒声と迫力に、シュテルは最早言葉も無い。出来る事はと言えば必死で主の言葉を覚え、走る赤鉛筆を目で追う事だけである。

「貰った金は『帳簿上で』使い切るのは常識だな」
「えっ」
「常識だ!!数千年の記憶を刻めるその頭に、重要事項として叩き込んでおけ!!」
「は、はい!!」
「予算消化の為にドゥームや飛空挺を新造するのも良いが、出来れば空領収書を発行して資金をプールしておきたい。それもただ貯めておくだけでは駄目だ。戦争になれば通貨など紙切れや粗悪なメダル同然、そうならぬ内に宝石など、それそのものに価値がある物品に変えておくべきだ。短期間で買い叩き、売り逃げられるなら株や土地に手を出しても良いだろうが、……まあその話は後にしておこう」

瞬く間に真っ赤になった帳簿を卓上に放り、ガルデンは傍に悄然として立つシュテルを見上げた。

「何故私がこうも喧しく金勘定に口を出すか、判るか」
「…………」
「それはな、我々一族には金以外に頼れる後ろ盾が無いからだ。
 邪竜族など当てにならん。奴らは今の今まで我々を飼い殺しにしてきたのだからな。
 国も土地も無い我々が、後ろ盾無しで生きていく為には、何をおいても金が要る。
 武力や策略で国を攻め手に入れるのも良いが、其処は結局我等のものではない。
 第一、そうやって武装蜂起するのにも莫大な金が要る訳であろう」
「…………はい。己が甘う御座いました………」

項垂れるシュテル。普段は部下達から畏怖と敬意の眼差しで見つめられる黒い偉丈夫の、あまりといえばあんまりなしょげっぷりに、主は漸く微かな笑みを浮かべた。

「戦に於いては並ぶ者無しのお前でも、経理ではまだまだ見習い(ノービス)クラスだな。
 まあ、忙しさ故にお前に帳簿付けを任せた私にも責任はある。何せ一族内でこれだけの経理を扱える器量を持つのは、今の所お前かイドロしか無いからな。
 一族の長として正式に名乗りを上げてからは、私やイドロは邪竜軍に目を付けられているし……そうなると、やはりお前が経理としては最適だった訳だ。
 ……まあ、邪竜軍には、経理は一族内の別の者が付けていると報告してあるがな。
 まさかリューが計算機を叩いているとは、奴らでも想像もつくまい」

可笑しそうに言う主とは対照的に、シュテルは益々肩を落とした。
これだけ能力を高く評価して頂いているにも関わらず、不甲斐無い己の仕事振りに、膝を着いてしまいそうだった。
打ちのめされているシュテルの様子にガルデンは、苦笑とも何ともつかない表情を浮かべ、再び帳簿を手に取った。

「そうめげるな。判らぬ事はこれから学べば良い。お前は飲み込みが早い、直ぐにでも要領を覚えるだろうさ」

取った帳簿は、再びシュテルに差し出された。
シュテルは顔を上げ、それを手に取ろうとして……躊躇い、主を見つめた。

「こんな不器用な己に、また帳簿を預けて頂けるのですか……」
「お前は私が見込んだ者だ。このガルデンの目を疑うのか」

「いえ」、と激しく首を振り、赤鉛筆を引かれた分重くなった帳簿を、大事そうに受け取るシュテル。
そのシュテルの腕を引いて屈ませ、ガルデンは尖った耳元に囁く。

「良いか、シュテル。これから私はお前にみっちりと金勘定の仕方を教え込む。魔法や剣術ではお前に一日の長があるだろうが、経理では逆だ。大いに学べ」
「……イエス、マスター。何時もの侭に、仰せの通りに」

耳に当たる吐息に緩みそうになる表情を引き締め、深く頷くシュテルに、ガルデンもまた満足そうに頷き、腕を放した。

「さしあたっては、シュテル」
「はい、ガルデン様」

早速講義の開始かと意気込むシュテルにガルデンは一言、

「珈琲を淹れ直してくれ」

主の指差す先にはすっかり冷めた珈琲、深い色のそれはカップから零れソーサーに満ちている。

「金勘定に熱意と執着心は必要だが、焦りは不要。ろくな事にならん。
 まずはお前の目下の特技である茶を汲んで、それが済んだら今チェックした帳簿を見直しておけ。
 私が手ずから教えてやるのはその後だ」
「は、はいっ」

再び直立不動、帳簿を大事に抱え直し、これだけは見事な動きでカップとソーサーを取ると、シュテルは急ぎ執務室を出て行った。
それを見送るガルデンの目には、紛れも無い忍耐と寛容と慈悲が染みた笑いが浮かんでいるのだった。


………そんな事を思い出しながら。
ガルデンはシュテルが持ってきた帳簿に目を通していた。

「問題点などは御座いませんでしょうか」

尋ねるシュテルの声は、昔と変わらずやや緊張している。
経理の主な部分をシュテルに一任してから、もう随分と時間が経っていると言うのに。

あの真っ赤な帳簿を持ち帰らせた後シュテルは、暇を惜しんで主に教えを請うた。
時に戦場で、時に食事の席で、時に寝室で。
最初は小遣い帳より酷い帳簿をつけていたのが嘘の様に、瞬く間にA勘定からC勘定までの三段構えで帳簿を作る方法を理解し、経営と経理の何たるかを会得していったシュテルは、じきにガルデンの部下の中で最も信頼できる「金庫番」となった。
それはガルデンが、邪竜軍の及びもつかない所で手腕を奮い、事業を拡大し、隠す隠さない問わずの財産を莫大な額にまで増やしてきた今となっても、変わりはしなかった。
新しい事は覚え、吸収し、応用してフィードバックする能力に突出したシュテルを選んだガルデンの目に、狂いは無かったのである。

「……如何なさいましたか?」

帳簿に視線を落としたまま小さく笑うガルデンに、シュテルは不安そうな声で尋ねた。
すわ不備でもあったかと色を失う下僕の顔は、次に主が発した言葉で赤く塗り替えられる。

「なに、随分と成長したものだなと思ってな。
 昔の、一も十も判らぬお前の事を思い出していたのだ」

人の悪い主は、猫の様に目を細めて、狼狽える下僕を見やった。

「……が、ガルデン様、如何して貴方様は近頃、そうやって、昔の事ばかり仰られるのですか」

主同様誇り高いシュテルにとって、無力だった頃の事を語られるのは、何よりも耐え難く恥ずかしい事であるらしい。
それが、敬愛する主人の口からであるならば尚更。

「そう言うな。褒めているのだぞ、私は」
「そ、それは身に余る光栄ですが………」

目を通し終えた、何の問題も無い帳簿を机に置き、ガルデンは珈琲を啜った。
これも昔から変わらない、深煎りの濃い苦味が喉を焼く。

「………しかし、まあ、こんな帳簿をつけるのも、今回が最後となるな」

一息の後、何気ない調子で呟かれた言葉に、シュテルの目は刃物の鋭さを取り戻した。
瞬き一つで音声遮断結界を張り、腕を引かれるより先に主人の傍に跪く下僕。
その尖った耳に、ガルデンは昔の様に、昔よりも何処か楽しそうな声音で囁きを落とす。

「意味は、判るな。シュテル」
「はっ」

この帳簿は、邪竜軍から与えられた予算等を元に作成し、邪竜軍へと提出する物だ。
一族を纏め、邪竜軍と正式な契約―――「光の壁」の向こうから剣聖界へと邪竜族を呼び込む代わりに、資金や設備、技術、情報などの面で協力させる事―――を結んだ時から、一度と欠かさず差し出してきた。
……それを作成する必要が、無くなるという事は。

「……天が裂ける時が、近付いてきているのですね」
「そうだ。私やイドロはそれを、半年ほど先と見ている」

「邪竜族」から道具として使役され、尖兵として軽んじられ、異端者として疎まれる事を運命付けられてきた「ガルデン一族」。
その両者の関係や契約、付随する様々な呪いや謗りが、破棄されるという事。

「何が起き、如何なろうと、何百年にも渡って続いてきた邪竜族共と我ら一族の『密接な関係』は終わる。
 奴らから金を毟り取る事は無くなるし、その使い道についてとやかく言われる事も無くなる」

シュテルはガルデンの目の奥に、熾火の様な光を見た。
古き体系の破壊者は、それまでの「邪竜族との関係」を端的に著した冊子……帳簿を取り、光る目を下僕のそれへと流した。

「これは、歴史だ。
 我々が如何にして邪竜族共に使われたか、という歴史そのものだ。
 今を生きる事に必死な、一族の他の者達には不要なものだが……
 長と、そのリューだけは、忘れてはならない歴史だ」

言葉と共に差し出されたそれを、恭しく、主の手ごと押し戴く様に、下僕は受け取った。

「邪竜族の側に渡すものには、真実などありはしない。
 が、その帳簿は……原本だけは別だ。
 お前は私と共にそれを秘め、刻み込んで、抱いたまま死んでゆけ」
「はい、ガルデン様。仰せの侭に」

シュテルは、……主と、主だけと共有する事が出来る「歴史」の重みに頷き、それから目が眩みそうな程の悦びを覚えた。
形が何であれ、己が信奉するこの男との間に「他者の知る余地の無いもの」を秘められるというのは、酷く嬉しい事だった。
……それが所謂「独占欲」「スノッブ効果」である事に、気付いているのかいないのか。
少なくとも、下僕よりは下僕の事を知り尽くしている主は、空いた手でその黒い頬を撫で、顔を上げる様促した。

「では、シュテル。私の話はこれで終わりだ」
「はい………」

まだ何処か夢を見ている様な赤い目の前で、懐中時計を取り出して見せる。

「丁度休憩時間だ。珈琲をもう一杯、淹れて来てくれ」
「……はい」

主の声と、時を刻む時計の音に引っ張られる様に立ち上がり、シュテルは帳簿を懐に入れて、恭しく礼をした。
空になったカップとソーサーを取って立ち去ろうとするその背に、ガルデンは注文を追加する。

「出来れば砂糖もつけてくれ。匙は要らん」

何処か浮き足立っていた下僕は、微かに肩を震わせた後、「承知致しました」とだけ言って、夢から覚めた様にきびきびと部屋を出て行った。
彼の頭の中で猛然と回り始めたであろう「休憩時間」の長さとその後のスケジュールを思いながら、ガルデンは悪戯っぽく笑う。

「欲の無い奴だ、帳簿なんぞを預けられただけであんなに喜んで」

青みがかった銀髪を弄びながら、シュテルの張った音声遮断結界を、瞬き一つで強化する。

「悪くはないが……この私の隷(しもべ)としては、些か無欲に過ぎる」

髪を梳いていた指で、傍らの端末を操作し、己のスケジュールを書き換える。
今日は特に大した予定も無い。
此処暫く、大好きな血風吹く戦場にも出ず帳簿と首っ引きになっていた下僕に、僅かながらの褒美を与えてやっても良いだろう。
ついでに教えてやろう、欲しいものを手に入れる為の手段と心掛けを。
予算案を通すのには中々役立つ講義だが、もうそんな事をする必要が無くなった現在、得た知識と技術をどう生かすかは、講義を受けた者次第だ。

操作を終え、端末を切ると同時に、下僕が戻ってきた。
馥郁と香る珈琲に目をやりながらガルデンは、綿密な金利計算を語る時と同じ怜悧にして玲瓏たる表情で、次に語る言葉を探しながら、その手を差し伸べた――――



―――――

シュテルが万能執事になるまでの道のり、その2。
以前書いた気がしますが、漫画版ガルデンは金銭感覚が発達していると思います。
で、TV版ガルデンは破綻していると思います。
というか、そうだと良いなあと思います。




BACK   NEXT
目次ページ