TOM's Diary
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扉をなんとか物置に固定したS氏は家の中に戻った。
物置の修理の途中で空を舞ったS氏は雨合羽を着ていたとは言えさすがにびしょ濡れになっていた。とりあえずお風呂でも浸かって、暖かいお茶でも飲もうとS氏は思い、湯船にお湯をはる間にお茶の準備をした。
ゆっくりと湯船に浸かりながら窓の外を見ているといろんなものが舞っている。 相当な強い風のようだ。なかには先ほどのS氏のようにたくさんの人も空を舞っている。あの人たちは無事に降りられるのだろうか?先ほどのように降り方をみんなに教えた方がよいのではないか? よく見ると舞っている人たちの中に先ほどS氏と一緒に着陸した人も混じっていた。どうやら舞い方のコツを覚えたらしく、舞うのを楽しんでいるようだ。そのうち、その他の人たちを従えて地面に降りていく様子が見て取れた。どうやらS氏の後継者が育っているようだった。S氏は安心して風呂から上がって、リビングでお茶を飲み始めた。
暴風雨がとても激しく、アルミサッシ越しに見える庭はいつもとはまったく違って見えた。それにしても激しい台風だ。植木は先日庭師が台風に備えてワイヤを張ってくれていたおかげで、かろうじて倒れないずにいるが、もう少し風が強くなったらいつ倒れてもおかしくない感じがする。芝は半分水に隠れこのまま池にでもなってしまいそうである。しかし、リビングにいる限り平穏無事である。お気に入りの曲をかけてゆっくりとお茶をすするS氏であった。
S氏はいつのまにか居眠りをしていたようである。 目が覚めると庭が池のようになっていた。 ふと見ると物置の扉が庭を流れていくのが目にとまった。
あんなにしっかり固定したはずだったのに。
S氏は慌てて物置の扉を取りに外に出た。 ただでさえ激しい暴風雨の中、洪水となった庭は歩くのも困難であり、やっとのおもいで扉を取り押さえることができた。しかし、この重たい扉を持って物置に戻るのはとても困難である。
S氏は扉の上に乗ってイカダのように移動できないか試してみた。
扉の上に乗るのはなかなか難しく何回かのチャレンジのあとようやく乗ることができた。しかし、コントロールすることはとても出来そうに無い。S氏は空しく流れに身を任せることしかできなかった。そこにどこからか板キレが流れてきた。必死でそれをすくい上げたS氏は、その板を舵にして向きを変えようとした。なかなかうまく行かず、コツを掴んだときには流れにのって庭から道路に出てかなり流されていた。
しかし、一度コツを掴むとなかなか面白い。サーフィンでもやっているかのような気持ちがした。もっと広いところで遊んでみようとS氏は大通りに向けて舵を切った。
そこには大勢の人たちが戸板にのって漂流していた。 S氏はその中で一人イカダを制御していた。 それを見た周りの人たちは流れている板や、カバンなどを使ってS氏の真似をし始めた。最初はうまく行かなかった人たちもS氏のやり方を見てだんだん上手くなってきた。 いつのまにかS氏を先頭に全員高台へ向けて舵を切り始めた。 ようやく高台にたどり着くと、みんな満足そうな表情で上陸を果たした。どうやらみんなイカダを楽しんでいたようだ。 さて、S氏はどうやって家にもどろうかと思案にくれた。ちょうどそのとき、空からS氏の後継者が降りてきた。
そうか、空を舞って帰ればいいんだ。
S氏はそう思って、戸板を持ち上げて風を戸板に受けた。 S氏はすぅ〜っと空に舞い上がった。 それを見ていたイカダの人たちはS氏にならって空に舞い上がった。そして、S氏の飛び方を見て、空の舞い方を練習してある程度自信をつけると、S氏に手を振るとそれぞれの家に方に向かって帰っていった。 S氏は着陸の方法は教えなくて良かったかなぁと思いながらも家に向かって舵を切ったのだった。
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