TOM's Diary
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S氏は台風に備えていた。 天気予報で台風の進路を見ていたら、間違いなくS氏の家を直撃しそうだった。 もっともすることはほとんどない。 庭のテーブルセットなど風で飛びそうなものを片付けたり、裏庭の物干し台から物干し竿を下ろしたり、立て付けの悪い物置の扉が風で開かないようにしたり、最後に雨戸を閉めて終わりである。
すでに降り始めていた雨の中、雨合羽を着たS氏はふだん庭でお茶をするときのために置いてあるテーブルのセットを物置に運んだ。立て付けの悪い物置の扉を開けようとするとまったく開かない。 この扉は、今まで開くことは比較的簡単だったが、一度開くと今度は閉じるのに苦労していたため、いつか修理しなければと思っていたのだが、ついに開くことすら出来なくなってしまった。S氏は風が強くなってきた中、とにかく応急処置をしようと考えた。
S氏の考えで、蝶番を外して扉自体を外してしまい、中にしまうものを入れた後、こんどは扉を釘で固定してしまう。そして台風が過ぎ去った後改めて修理をすると言う、S氏にしては珍しく普通のプランだった。
S氏はさっそく工具を持ってきて蝶番のネジを外そうとした。 しかし、よく見ると蝶番のネジは扉が閉まった状態では外れないように出来ていた。当たり前である。外せるくらいだったら泥棒にだって外せてしまうことになる。もっとも、物置には盗まれて困るものなど置いていなかったので鍵さえかけていなかったのだが・・・。 そこで、S氏は蝶番のピンを抜こうと考えたが、これも錆び付いていてとても外せそうになかった。
風雨はどんどん激しくなる。 焦ったS氏はグラインダーで蝶番を切ってしまうことにした。 蝶番を切ると扉は簡単に外れた。激しくなってきた暴風雨で扉があおられ扱いに苦労したが、なんとか無事に扉を地面に置いた。 荷物を中に入れて、扉を持ち上げようとすると、鍵がかかっていたことに気がついた。
なんと言うことだ。そう言えば、前回物置を開けた時、なんとか閉めてもすぐに開いてしまうようになっていたので、鍵をかけることにしたのだった。
そのときだった。 S氏が支えていた扉が風にあおられ空中高く舞い上がった。 S氏はしっかりと扉を掴み、扉が飛ばされないようにしっかりふんばったのだが、扉と一緒に舞い上がってしまった。S氏はなんとかバランスを取りながらグライダーのように着地しようと思ったのだが、吹き上げる風に、どんどん上昇していった。周りを見ると多くの人たちが、傘やカバンにぶら下がるようにして空を舞っていた。実に不思議な光景であった。 S氏はなんどかタコで空を飛んだことがあったので、比較的安定して空を飛べたが、周りの人たちはなれないらしく今にも落ちるのではないかと思われるほど危なっかしい飛び方をしていた。
S氏は近くにいる人の側に移動して、コツを教えて廻った。 そのうちS氏をお手本にしようと、S氏の後ろに多くの人が集まってきた。S氏はお手本になるように気をつけながら、風が収まるのを待って、地面に着陸した。それを見た人たちはS氏のやったとおりに次々に着陸していった。幸いほとんどの人たちが怪我をすることなく着陸したが、数人が着陸した際にひざを着いたりしてかすり傷を負った。S氏は責任を感じて、たまたまポッケに入れていたバンソウコウを配って歩いた。
「まったく、間違って扉を壊してしまうし、バンソウコウは減ってしまうし、ひどい一日だ。」と思うS氏であった。
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