TOM's Diary
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2005年05月23日(月) S氏の移動手段

S氏はバス停でバスが来るのを待っていた。
バス停ではS氏と同じように家路を急ぐサラリーマンに混じって
学生さんも何名かバスを待っていた。

空はすでに薄暗くなっており、バス停では街灯の明かりが
暗さを一層強調しているようだった。
肌に心地よい春の風がバス停を吹き抜ける。

会社帰りはいつもなにかとせわしない気持ちになることが
多いが、今日は春の風がのんびりとした気分にさせる。

このままこの雰囲気を楽しんでいよう。

S氏が読もうと思って取り出した本をバックに戻して、
そう思ったとたんにバスがやってきた。
最近導入されたばかりの電気バスは音も無く静かにバス停の
前に滑り込んできた。
バスは何人かが立っているが、座席も半分くらいあいている。
S氏とおなじバス停から何人かが乗り込んだが、逆に同じ
くらいの人数が降りた。

S氏が空いていた座席に座るとバスはゆっくりと動き出した。

バスは素晴らしくスムースに走っていく。
どんなに狭い路地も素晴らしいテクニックで通り抜け、
どんなに混雑した交差点も速やかにすり抜ける。
S氏はそのテクニックに感動した。

しかし、S氏が運転席を見ると誰も座っておらず、
勝手にハンドルが廻っている。
そのバスは最新鋭の電気バスである。
きっと、コンピュータによる自動運転であろう。
S氏はそのテクノロジーに感動した。

どんなシステムになっているのかとS氏は運転席のそば
へよった。
そこには運転席のシートにすっぽりと隠れてしまうほど
小さな運転手が座っていた。
あまりに小さかったのでS氏の席から見えなかっただけ
のようである。が、S氏はすっかり自動運転だと思って
いただけにとても残念であった。

しかし、S氏は考えた。
バスの自動運転は大変そうだが、ロボットによる運転で
あれば、S氏が以前作ったクモ型ロボットならすぐに
でも出来るはずだ。なにしろクモ型ロボットは自分で
好きなところに行けるくらいだ。糸を使えば空中だって
自由に行き来できる。

S氏は自宅に帰り着くとさっそくクモ型ロボットを
運転席に乗せ、ケーブルで繋いだノートPCを通して
運転の仕方を覚えこませた。
しかし、クモ型ロボットからノートPCへ次のような
メッセージが送り込まれてきたかと思うと、ケーブルを
切離して、クルマの窓から出て行ってしまった。

「言っちゃなんだが、おれはこんなクルマよりはるかに
性能が良いんだぜ。運転なんて簡単だがクルマなんか
使うより自力で移動したほうが全然早ぇよ。どっか
行きたいならおれの背中に乗ればどこへでも連れてって
やるからいつでも言いな」

口は悪いが、ごもっともである。
S氏がクモ型ロボットを作るときにとても高性能に
作ったので、新幹線なみの速さで移動できる。
しかもクモ型ロボットは自分で動けるので操縦の
必要もないし、渋滞も関係ない。
駐車場の心配だっていらない。

わざわざクルマの免許まで取ってクルマを買ったが
そんな必要さえなかったのだ。
S氏はクモ型ロボットに自分が乗れるスペースを作る
ことを思いついたのだった。


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