TOM's Diary
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2004年07月23日(金) 火星旅行その3

S氏はモニターの画面を見ながら考えた。

「普通の飛行機の離陸とそれほど変わらないな。」

モニター画面上を滑走路が後方に流れていく。
画面が上を向いたと思った瞬間、下から伝わってくる
振動が消えた。離陸したのだ。

通常の飛行機ならば、ここでエンジンを絞り、
ある程度の高度に達したところで上昇を止めて
水平飛行に移るのだが、宇宙船は違った。

ある程度の高度に達したところでさらにエンジンの
音が大きくなった。もっとも壁が厚いせいかエンジンの
音はほとんど聞こえてこない。ゴーゥと言う音がかすかに
聞こえていただけなのだが、はっきり聞こえるように
変わっただけである。

モニターの画面は離陸直後から下方のカメラに切り替わ
っていたが、あっという間に房総半島を飛び越え、
今は海しか移っていない。
S氏はモニターの横にあるスイッチを押してみた。
すると前方のカメラに切り替わった。
こちらの方が面白い。

空はみるみる濃い青に変わっていく。
宇宙に近づいているのだろう。
気がつくと星が見えていた。
もうすぐ宇宙だ。
無重力になるのはいつだろう?

S氏はさらにモニターのボタンを押した。
どうやらカメラはあちこちに付いているようである。
横や後ろにも切り替わる。
S氏は後方のカメラが気に入った。
もう、日本はかすみに隠れてはっきり見えなかった。

退屈したS氏は手元にあった緊急時のマニュアルに目を通すことにした。
その途端、突然エンジンの音が極端に小さくなった。
モニターを見るといつのまにか地球がまん丸に映っている。
と言う事はもう宇宙に出ているのか?
S氏はカメラを切り替えてみた。
他のカメラはみんな真っ暗で星が綺麗に映っているだけであった。
やはり宇宙に出ているようである。

だが、無重力にはなっていないようだった。
不思議に思ったS氏はカプセル状の座席のふたを開けた。
途端にけたたましい警報音が鳴り響き、先ほどのロボットが
室内に入ってきた。

「危険です、すぐにカプセルを閉めてください!」

慌てたS氏はすぐにカプセルのふたを閉めた。
訳を話そうとロボットの方を見るとすでに部屋の外へ出るところだった。

このまま火星に着くまでこのカプセルから出られないのだろうか?

その途端、モニターにメッセージが表示された。
「当機はお客様の中に危険人物がいると判断したため、
 ただいまより地球に帰還いたします。
 該当のお客様は離陸前より、シミュレータのセキュリティを
 解除し、パイロット用の訓練モードに入り当機の操縦方法を
 確認しようとしたり、必要以上にシミュレータでの訓練を
 繰り返す、操縦席の位置を確認しに来るなどハイジャックを
 企てている可能性が非常に高いと判断しました。
 なお、宇宙遊泳訓練では糞尿を漏らすなど、精神状態もかなり
 不安定な状態と考えられます。
 さらに、ただいま、安全カプセルを抜け出してハイジャックを
 実行しようとした可能性があります。
 従いまして、他の乗客のみなさまの安全を考慮し該当の乗客に
 関してはカプセルにロックをかけた上、部屋のロックも内部から
 開けられないようにしたほか、カプセル内に睡眠ガスを放出
 しました。
 乗客の皆様には大変ご迷惑を・・・・・・」

S氏はここまで読んだところで深い眠りについた。
眠りに入る直前、この宇宙船は常に加速を続けるので、無重力に
なるのは火星と地球の中間で向きを変えるときだけだと書かれて
いたのを思い出した。

宇宙船が地球に戻るために方向転換を始めたため無重力になった、
カプセルの中でS氏は地上では味わえないほど安楽な眠りに
ついたのだった。

              完


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