TOM's Diary
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S氏はいつものように自転車に乗って会社に向かった。 途中、長い時間待たされる信号がある。ほとんど毎日その信号にかかってしまう。田舎のさして交通量も多くない交差点でこんなに信号を待たされるのは納得のいかないS氏であったが、信号無視してまで横断することは一度もなかった。それは、毎朝その交差点でバイクで通勤している同僚と必ず出会うからであった。
今日も同僚は騒音をまき散らしながらS氏に近づいてきた(S氏には騒音に聞こえるかもしれないけど、私にはとても良いサウンドに聞こえますです。えへ(^^)・・・by同僚)。ヘルメットの奥で目が笑っているのが見える。「気味の悪い目だ」S氏は小声でつぶやく。交差する道のクルマが停止した。S氏は信号を凝視する。同時に斜め後方、停止線のあたりからエンジンをふかす音が響き渡る。
信号が青に変わった。 S氏は静かに、しかし、力強く加速する。 同僚はゆっくりと丁寧にクラッチを繋ぎ、決して慌てるでもなくスタートする。 「ちっ!余裕かましやがって」普段のS氏からは想像できないような言葉を吐く。 同僚はしばらくS氏と併走したが、右手を軽くひねり軽々とS氏の前に出た。 S氏は手を振りながら去っていく同僚の背中を見つめた。 「毎日、毎日、自転車に勝ったくらいで得意気になりやがって」 (S氏が勝負しているつもりだったとは思いもよらなかったです、はい・・・by同僚) S氏は昨夜、このときのために徹夜して作成した秘密兵器をさっそく本番で使用することに決めた。
それは昨日の仕事帰りの出来事だった。 自転車で前を行く少年たちの会話がS氏の耳に届いた。 「もっとスピードでぇへんかなぁ〜」 「背中にジェットを積んだら楽にスピードがだせるぜ!」 「でもジェットの火でお尻が焦げてしまうがな」 「じゃぁ、足をパワーアップしたらええやん」 「えぇ〜、筋トレとかすんの疲れるからいややで」 S氏もできることならハシさえ持つのが嫌なほどぐうたら好きである。 できることなら履くだけでパワーアップするズボンがあったらいいのに。S氏はさっそく設計を始めた。自転車をこぐだけだから簡単だと思ったが、そう簡単にはいかなかった。いや、むしろ想像を絶するほど困難だった。なにしろ同僚にそんなズボンをはいていることがばれたらまずい。小型化することが大事だ。制御はこの際省いた。なにしろ時間がない。スイッチを入れたらとにかくがむしゃらに動けばいい。ようやく完成したのは、空が明るくなってからだった。ルームランナーに自転車を載せての実験では100キロは軽く出そうだった。
S氏は同僚の背中を見ながらスイッチを入れた。 自転車は一気に加速する。 ミラー越しにこちらを見ている同僚は慌てふためいているようだ。 同僚のバイクをあっさり抜き去ったS氏はニヤリとして前を見た。
道がカーブしていることを忘れていたS氏はそのままジャンプして着水し、そのまま川に流されていった。足はいつまでも動き続けていた。S氏の悔し涙を流していたことは川の流れによって誰も気づかなかった。
同僚のコメント おかしとおもったんですよねぇ、だって、背中にバッテリー背負ってるんですよ。 しかもコードが足につながってるしぃ、足だってギブスでもはめてるのかと思いましたよ。
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