Leaflets of the Rikyu Rat
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2005年09月01日(木) |
整理2.大事なのは“きっかけ”を持つことだ。 |
以前書いたものと重複している文章があると思いますが、御了承下さい。
2.六月上旬〜七月中旬
彼(今付き合ってる彼では無い)に会ったのは六月の上旬頃だった。 バイトしていたら、ある日突然(バイトの)先輩からその人を紹介されたのだった。時刻は閉店間際。空も明るくなり始めている頃だ。 「あんた、こういうのタイプなんちゃうん?」と聞かれたので正直に「すごいタイプです」と答えたら、一緒に帰りなさいと店を追い出された。片付けなんかまったくしてなかったのに、私が全部やるからと有難いことを言ってくれた。
それから何度と無く(と言っても結局は二十回程度?)彼と会うことになるのだけれど、その出会った日については時折話題にのぼった。 様々な推測から、このような結論に至った。
まず、先輩はどうやらよくある「一夜限りの」という意味で僕らを追い出したらしいということ。 彼もそのつもりだったということ。 僕はそういうのは苦手で、付き合うならちゃんと付き合いたいと思っていたこと。「その日だけ」が絶対無理だというわけでは無いのだけど、これからのバイト生活との兼ね合いを考えると、お客さんとやる、ということはどうしても自分の性分にあわないのだということ。 それで、その日は結局何もせずに駅まで見送って貰って帰ってしまった。 そしてそれはどうやら先輩にとっても彼にとっても想定外だったらしいということ。(確かにこれは僕がアホだったのかもしれない。) 先輩は彼のことをよく知らず僕に紹介したのだということ。 彼は僕のことがとりたててタイプではなかった(もしそれを知っていたら先輩は僕に紹介しない)けれど、その日だけならいっかという気持ちと、その先輩と僕がバイトに入っている店に気を遣い僕と一緒に帰ったのだということ。
・・・なかなか失礼な奴だ。 ただ、ゲイの世界では「夜遊び」なんてするひとは幾らでもいるのだ。 以前書いたけれど、彼は暇があればハッテン場へと足を運ぶ生活をし、既に数百人とは性交渉を持っている人間だった。 だから、その日だけならいいかという気持ちでセックスするのは、彼にとってはとりたてて大きな問題でも無かったのだと思う。 僕と彼とのそれに関する価値観には大きな相違があったのだろう。けど、それだけだ。
彼は求職中で貯金も無く、親と同居して肩身の狭い思いをしながら、職安を訪れ、また求人誌を読み漁り、バイトを入れては少額の資金を手に飲みに出たりハッテン場へと消える人間だった。 これだけ見ると完全にダメ人間だ。
彼は最初僕と会ったとき、絶対に話が合わない、と感じたらしい。 にも関わらず、三度か四度話しているうちに、僕と話していると安心できるようになり、また彼の話を僕に聞いてほしいと思うようになったということだった。 彼は変な人間が好きらしい。ってことは僕は変な人間なのかよ、と思ったのだけど。 ――まあ、「変」なんて「個性」と置き換えられるかと考えることにした。 とくに彼が興味を持ったのは僕ではなくて(僕じゃないのかよ。)僕の父親についてだった。僕の父親に関してはこちらを読めば大体分かると思うけれど、かなり左がかっている。そんな父親に育てられた僕にも興味を持ったらしい。
大事なのは何か“きっかけ”を持つ、ということなのだと思う。 それが無ければ何も始まらないからだ。 たとえ僕自身に対する興味から始まらなくても、それが周りまわって僕にくればそれでいいのだ。 何も無かったらそれは縁が無かったのだと諦めるしかない。 自分から働きかけるという方法もあるけれど、そう簡単にひとの心を変えることはできないし、 その時僕はそれ程「誰か」を必要としていなかったのだった。
そう、僕は東京で就職する意思を固めていた。 だから、大阪にいるこれからの数年間について、僕はのらりくらりと適当にやっていく積もりにすぎなかった。 振られてからまだ二ヶ月程しか経っていなかったし、遠距離は無理だから、なんてもう一度振られたくもなかった。遠距離での恋愛が大変なのは確かであったし、であったらそういう色恋沙汰は東京に就職してからにして、とりあえず今は資格を取得することに集中すべきだと思っていた。
それ故に、僕と彼との関係は近すぎずも無く遠すぎずも無い不思議なものだった。 傍から見たら付き合っているように見えたと思うし、実際そうだったのかもしれないけれど、僕としては「何か違う」と感じていた。 しかし、それでも別にいいやと思っていた。
彼は本当に変なひとだった。 大阪人の癖に東京かぶれしていて、「マクドなんて言わねーよ、マックだよ」と大阪人が聞いたら激昂しそうなことを僕に言った。 将来なりたいものが分からない、とか言って日々求人誌をめくっていたけれど、 「何か無いの?」と聞いたら「国王として即位するか、宗教の教祖になりたい」と答えた。 「どっちも無理っぽいから、仕方なく求人誌見てるけどね。」と彼は言った。 実際、宗教に関する知識は完全に異常の域に達する程豊富であった。 彼は若い頃、警官になったものの一日で退職届けを出した、という過去も持つ。 携帯のメモリはわずか二件であり、バイト先の店長と母親のみであった。 (しかもその二名は偽名で登録されている。) 主要な知り合いはアドレスを暗記しているといい、 それ以外のひとはメールが来たら「返信」するだけだということだった。 友達はいないと言い、要らないと言った。 付き合っているひとがいて、そのひとが全てを補ってくれればいいのだと言った。 そして、僕はどうもその条件を満たしていないようだった。 けれど風変わりな彼との会話は面白かったし、一緒にいて楽しかったから、よくつるんでいた。
彼は僕にしきりに会いたがり、僕が彼に会いたがらないと不満を述べた。 僕をそれなりに束縛した。 しかし、僕が用事があると言って会えないときには、彼はハッテン場へ消えて行ったりしていた。 僕は、付き合うひとには絶対にハッテン場などには行って欲しく無いと考えるから、 最初は彼にちょこちょこと文句を言ってみたが、改善される様子も無く、まあ別にいいかと思うことにした。 彼にとって僕が全てでは無いということが見て取れたし、上にも述べたように僕も「適当にやっていく」つもりだったからだ。 だから僕は彼に対して「会いたい」と言うことがあまりなかったし、 それに対して彼が不満を述べたら 「じゃあハッテン場とか行かないで、僕だけを相手にしてくれたらね」 と言うのだが、はやりそれは改善されることは無かった。 そうして、同じことが何度も繰り返されていたのだった。
そんな時、彼(Dr.髭熊)とまた飯を食いに行くことになった。 別れてから会うのは三度目だった。
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