ウ タ こ と ば

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海にイコウ 04

2004年01月04日(日)

04
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「海は見えないけど、ちゃんと海の気配がする」

駅に降り立った僕たち。

風が遠くから運んでくる潮の匂いを確かに感じとって

チーはうれしそうに僕の言葉に頷いた。


普通ならバスに乗って海まで行く道のりを、

僕らはとりあえず、歩き始める。


空は不思議な色をしていた。

深い深い青の色。

今にも消えそうな電灯に照らされた

僕の影の黒の方が、よっぽど夜の色らしい。


車通りのほとんどない車道の真ん中を、

ふたりで歩く。

僕らはいつのまにか手をつないでいて、

歩く速さをチーに合わせて、

ゆっくりゆっくり進んでいく。


時々どこかで犬の遠吠えがする。


そういえば、僕のあだ名のモデルの犬も

元気に暮らしているのだろうか。


チーになにげにそう聞くと、笑って頷いた。

「あいかわらず、元気だよー。」

いっぺん会ってみたいなぁ。僕にソックリの犬に。と言うと、

チーは笑いながら、今度会わせてあげるよと言った。


「ゴンちゃんはね、お願いだから、僕を信じて。

ってイタイケな目をしてる。だから安心できるのさ」


「それは、犬のこと?僕のこと?」


チーは素知らぬ顔をして、喉が乾いたー。と

愚痴り始める。

僕も丁度なにか飲みたくなっていたので、

キョロキョロ自動販売機を探しながら、

どっちの事だろうなぁ・・と、ちょっとだけ考えて、やめた。


自動販売機はなかなか見つからず、

やっと見つけた頃には、

潮の匂いがだんだんと濃くなってきた。

二人の喉の渇きのピークは、とっくに過ぎてしまっていて、

とりあえず一本だけ、ペットボトルを買う。


「どっちも」


一口飲んだお茶を、僕に渡しながら

チーはぼそっといった。

一瞬、ん?と思って、それがさっきの答えと気づいた時には、

チーはもう先に歩き出していた。


どっちもか。イタイケ・・かぁ。


僕はなんだか照れくさくなって、

同時に喜ぶべき事なのだろうかと、少し悩んだ。

やっぱり男としては、

もっと逞しいところに惹かれて欲しいワケで。


立ち止まったままの僕の手を引きに、

チーが戻ってくる。


「ねえねえ、ゴンちゃん、目を閉じて」


言われるままに、目を閉じる。


その時、かすかに聞こえた。


「ね?」

目を開けると、うれしそうなチーの顔。


うん、と頷いて笑い返す。


僕らは間違えずに、ちゃんと進んできたようだ。

僕の耳の奥で、確かに感じた波の音。



海と夜明けは、もうすぐそこ。

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