2004年01月02日(金)
02 --------------------------------------------------------------------------------
チーとはなにげに高校の同級生だった。
それなのに大学のサークルで再会したとき
「名前が思い出せない」
と、素の顔でいい、
「近所の柴犬に似てるから、ゴンちゃん」
と、名前まで勝手に命名するチー。
密かに昔好きだった子に再会できた僕の喜びを
彼女は知らない。
再会から1年。
つかみどころのない彼女を捕まえるべく、
告白を決意した僕。
たまに二人で遊んでいたけど、
やっぱりちゃんと伝えようと。
久しぶりにいくはずだった遊園地は、
雨天閉館。
しょうがなく、僕の家で雨宿り。
人の家に入るなり、
きたなーいを連呼するチーを黙らせるため、
黙黙と掃除。
結局その日に付き合おうといったんだけれど、
曖昧な彼女の返事。
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海にいけば、
何かが変わるのかもしれないし。
神頼みするような気持ちで。
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ゴトン、ゴトン、と、
心地よいリズムを刻んで走る電車。
僕にぴたっとくっついて座っている
チーの体温。
相乗効果で、ウトウトと、
まぶたが重くなってくる。
「寝たら、ダメ」
チーの声に、はっと目が覚めた、
横をみると、不機嫌そうに口を尖らして
僕を見ている。
「ご、ごめん」
なんで怒っているのかわからないけれど
反射的に謝ってしまう。
やっぱり僕は、彼女に惚れているんだなぁと、
こんな時にしみじみ思う。
「みてみて」
外を指差すチー。
窓から覗きこむように夜の空を見上げると、
丸い月が出ていた。
星はひとつもでていない。
雲と雲が重なり合っている隙間から、黄色く光る月。
ぼんやりとした明かりが、月を囲んでいる。
「やっぱり、月には手は届きそうにないねー・・
ほら、あんなに遠い」
空に目は釘付けのままのチーのコトバに、
同じように見上げたまま、うん、と頷く。
昔は空を見上げる事もなかったけれど、
彼女と一緒にいると、
当たり前のように、コトバのない
生きているモノに目が行くようになった。
コレも惚れている証拠なのだろうか。
電車は人のいない駅にとまり、
誰も乗せずに、また、扉を閉めた。
ゆっくりと動き始める電車。
月は変わらず、雲の間に。
あと2駅で、降りる駅。
海までは、まだまだ遠い。
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