明治生まれの祖父のものらしい粋な紋付に、手甲・脚半に6文銭、青竹杖の旅装束。ひとまわり小さくなった顔に真っ白な髪を後ろに撫でつけた父は、「もしもし。あんさんはどこのおじいちゃんですか?」と思うほどに私達が知らない上品な優しい死に顔だった。葬儀当日、好きだった日本酒で乾いた唇を湿らせ、身体にも酒を振舞う。若い頃から父とはろくに会話もしなかった兄は、いつのまに用意したのか、当日のGIレース、第26回ジャパンカップ、ディープインパクトの単勝予想馬券をそっと柩に入れた。…ちなみにこの馬券、大本命、ディープインパクトが勝ち、当り馬券となりました。お父ちゃん、喜んだかな。 それとも、そんなもん柩に入れるなと呆れて笑ったか。中央競馬会のオッズカード 父の小物入れから発見 毎年、有馬記念のあとは金杯を楽しみにしていたのになぁ。父のお棺に納めたもの煙草。愛用の煙草ケース。マッチ。紙パックのお酒。好物だった豆菓子。囲碁の本。赤エンピツと競馬の馬券を買う時の用紙。スポーツ新聞。父が「いい顔だ」と珍しく褒めた亡妻の老いた写真は、姉と思案の末、却下。コピーは簡単に作れるが…。私達にとっても大切な母の一枚しかない写真。私達がいつか居なくなるまでこの家に置いてもらうことにした。-------------日曜日の葬儀の後、仕事にすぐに復帰したのだけど…。自分では大丈夫のつもりでもポカばかり。逆にパートナーに迷惑を掛けてしまった。そもそも父が亡くなる前後から、喉にくる風邪、お腹の風邪、家族でスパイラル。ようやく我が家が平穏になったと思ったら、今度は姉夫婦がダウン。みんな疲れていたみたい。ゆっくりしよう。もう父を失う不安はない。しばらくしたら、いつもの阿呆の日記に戻ります。 Sako