井口健二のOn the Production
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2025年03月16日(日) おばあちゃんと僕の約束、秋が来るとき、ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今、金子差入店

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『おばあちゃんと僕の約束』“หลานม่า(LAHN MAH) ”
2018年6月17日付題名紹介『バッド・ジーニアス 危険な天
才たち』などを手掛けるタイの映画会社GDH559が製作し、昨
年度のタイ興行第2位、インドネシア、マレーシアなどでは
アジア映画の歴代第1位を記録したという作品。
物語の舞台はタイの首都バンコクのタラート・プルー地区。
そこにある鉄道駅近くの商店街に老婦人が経営するお粥の店
があった。そしてその婦人には3人の子供がいたが…。
長男は成功者で裕福な暮らしをしており老いた母親には同居
を勧めるものの、実は親子関係は芳しくない。次男は生活破
綻者で母親のところに来るのは金の無心だけ。
そんな母親の面倒はシングルマザーの長女が見ていたがそれ
も限界が近づいている感じだ。しかも母親に不治の病が見つ
かり、余命が長くないことを知らされる。
そこでその長女の息子が動き出す。実は父方の従姉妹が祖父
の介護をしてその死後に邸宅を相続したことを聞きつけ、そ
んな恩恵に預かろうと祖母の介護に名乗り出たのだ。
つまり打算で祖母の家に一緒に住むことにした孫息子だった
が、お粥の店を手伝おうとする孫息子は早朝から始まる仕込
みに起きられず、祖母の気に入られない。
しかしそんな祖母と孫の絆が少しずつ深まり始める。そして
それは家族を繋ぐ意外な真実を明らかにしていった。

出演は中国系タイ人の俳優・歌手で2024年4月紹介『ふたご
のミーとユー―忘れられない夏―』にエンディングテーマ曲
を提供しているプッティポン・アッサラッタナクンと、主に
CMで活躍し78歳で映画デビューのウサー・セームカム。
他にオキサイド・パン監督作品に主演歴を持つサンヤー・ク
ナーコン、『バッド・ジーニアス』で校長役のサリンラット
・トーマス、2019年7月紹介『ホームステイ ボクと僕の100
日間』などのポンサトーン・ジョンウィラート、タイ版『花
より男子』で主演のトンタワン・タンティウェーチャクンら
が脇を固めている。
脚本は、2016年2月紹介『すれ違いのダイアリーズ』などの
トッサポン・ティップティンナコーンが自身の体験に基づい
て執筆。監督と共同脚本を『バッド・ジーニアス』のテレビ
版を手掛けたというパット・ブーンニティパットが担当して
いる。
本作の英語題名は“How to Make Millions Before Grandma
Dies”というもので、それを知ってさらに以前の作品の印象
からは、若い主人公が資金集めに奮闘するようなもっとポッ
プな作品を想像していた。
ところが実際の作品は、何というかしっとりとした人間ドラ
マで、それは万人に受けるオーソドックスで見事な作品だっ
た。しかもそれを人気の若手俳優に演じさせる、これも見事
な企画と言えるものだ。
その若手俳優の好演もあって、思わず応援したくなるような
作品だった。

公開は6月13日より、東京地区は新宿ピカデリー、シネスイ
ッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国ロード
ショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観
て投稿するものです。

『秋が来るとき』“Quand vient l'automne”
2023年10月紹介『私がやりました』などのフランソワ・オゾ
ン監督による2024年の作品。前作では女性の生き方を描いた
3部作の最終章と称されていたが、本作もある意味女性の生
き方を描いたものだ。
主人公はパリ郊外の田園地帯で暮らす高齢の女性。彼女には
一人娘がいたが、実業家と結婚してパリで暮らす娘とは確執
があるようだ。そんな娘が孫を連れて来てくれた日、彼女は
山で採ったキノコの料理を振舞うが…。
その料理を一人だけ食べた娘が中毒を起こし、病状は軽くて
救急搬送された病院で回復したが、退院した娘は孫を連れて
パリに帰ってしまう。そして悲嘆にくれる彼女は近所に住む
親友に慰められ、そこから彼女の過去が紐解かれる。
実は彼女には拭い去ることのできない暗い過去があり、それ
が彼女と娘との確執を生んでいた。一方、娘にも離婚の危機
が迫っており、そのため娘は母親の財産を求めて帰省もして
いたようだ。そしてパリに戻った娘に事件が起きる。

出演は1943年生まれで主に舞台で活躍しているエレーヌ・ヴ
ァンサン、1950年生まれで女優、脚本家、映画監督でもある
ジョジアーヌ・バラスコ。そして2004年2月紹介『スイミン
グ・プール』以来のオゾン作品出演となったリュディヴィー
ヌ・サニエ。
他に、2022年5月紹介『アプローズ、アプローズ!』などの
ピエール・ロタン。さらにガーラン・エルロス、ソフィー・
ギユマンらが脇を固めている。
実は映画は孫との絡みのシーンが多くて、上記のタイ作品と
2日続けて観ていてその対比も面白かったものだが、上の作
品が人情で見せるのに対して、本作ではオゾン監督らしく見
事な展開を披露してくれたもの。正にドラマだ。
しかもファンタスティックな描写もあって、オゾンファンと
しては堪らない作品になっている。ただリュディヴィーヌ・
サニエがちょっと損な立ち回りなのが残念かな。そこに救い
はちゃんとあるが。
いずれにしても映画を観たという感覚にしてくれる作品だ。
それにしても映画の背景にあるものが重く深い。

公開は5月30日日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全
国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ロングライドの招待で試写を観
て投稿するものです。

『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』
         “Bridget Jones: Mad About the Boy”
ヘレン・フィールディングが執筆する新聞連載コラムから、
2001年に第1作が映画化されたシリーズの最新作。第1作で
アカデミー賞🄬 候補になった主演のレネー・ゼルウィガーと
原作者が製作総指揮も務めている作品。
実はシリーズの今までの作品は観ていなくて今回が初鑑賞と
なったものだが、まあ何というかこれが現代に受ける作品な
のだろうなあ、というのが第一の感想だ。特に女性の描き方
には現代女性の共感を呼ぶところも多いのだろう。
そんな作品の物語は、前作でようやく妊娠、結婚に漕ぎ着け
た主人公がシングルマザーになっているところから始まる。
その理由はすぐに明らかにされるが、そこから徐々に話が深
まって行く展開はさすがイギリス映画と言う感じがした。
そして育児もひと段落付きそうになった主人公は、周囲の勧
めもあって若いカリスマナニーを雇って元の職場への復帰を
果たすが、昔通りとは行かない思惑通りではない事態も発生
する。そんな中で新しい恋も芽生えるが…。
この部分で字幕は米語のベビーシッターだが、台詞は英語で
ナニーと呼んでいるのは面白かった。ここもイギリス映画と
言う感じがするもので、原作者が製作総指揮も務めているの
が判る感じだ。
ここから主人公が最高な今を見付けるまでが描かれて行く。

共演はヒュー・グラント、キウェテル・イジョフォー、レオ
・ウッドール、コリン・ファース、エマ・トンプソン、ジェ
マ・ジョーンズ、ジム・ブロードベント。さらに子役のカス
パー・クノプフ、ミラ・ヤンコヴィッチ。
他に同僚役のサリー・フィリップス、シャーリー・ヘンダー
スン、ジェームズ・キャリス、サラ・ソルマーニ、ニール・
ピアソン。またレイラ・ファーザド、ジョゼッテ・シモン、
ニコ・パーカーら新旧のキャラクターが脇を固めている。
主人公がシングルマザーになっている理由が、最近になって
アメリカ=トランプ政権で問題となっている部分だったりし
て、製作者が意図したか否かは判らないが案外そんな社会性
も持っている作品だ。
観ていてその辺も面白く感じられた。こういうところをしっ
かり描いてくるのもイギリス映画かな。

公開は4月11日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。
#ブリジット・ジョーンズの日記 
#サイテー最高な私の今

『金子差入店』
2017年8月20日付題名紹介『泥棒役者』などのSUPER EIGHT
丸山隆平が同作以来8年ぶりの映画主演を果たした作品。本
作は釜山国際映画祭2024に正式出品された。
丸山が演じるのは東京小菅の拘置所の傍で差入店を営む男。
本作での差入とは拘置所などに収監された人に外部から物を
届けること。そこには様々な規制があり、届けられるものの
選別なども仕事になる。その一方で自ら面会に行けない人の
手紙などを代読することもあるようだ。
そして男には妻と小学生の息子がいて、さらに元々その仕事
を営んでいた妻の伯父も同居していた。そんな男の日々の暮
らしが描かれて行く。そこにかなり凄惨な事件が起き、男の
暮らしが揺らぎ始める。
起きる事件は主には二つ。それらの事件には現代社会の闇が
反映されているような部分もあり、目を背けてはいけないよ
うな気持ちにもさせられる。そして男の過去と、現代社会の
歪みを炙り出して行く。

脚本と監督は、フリーの助監督として2008年6月紹介『おく
りびと』など数多くの作品に携わってきた古川豪。ショート
フィルムやCMなどの監督歴はある俊英の長編デビュー作と
なる。
そして共演者には、真木よう子、北村匠海、村川絵梨、甲本
雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰。さらに子役
の三浦綺羅、川口真奈らが脇を固めている。
作品は決して骨太というものではないけれど、問題意識はか
なり高い監督と感じられる。実は今年の初詣で下町の方に行
って車窓から見た小菅の拘置所の偉容に驚かされたが、本作
はそれに負けない作品にはなっている。
ただ劇中で起きる事件がかなり凄惨で、そこには少し驚かさ
れたかな。できたら『おくりびと』のようなユーモアも欲し
かったが、他の最近の助監督作品の影響が強く出てしまった
のかな(?)という感じはした。
ここにもう少しためが出来れば、これは優秀な監督になる。
そんな新たな才能を発見した気分にもなった。それに丸山が
ただのアイドルでないことも証明してくれたものだ。共演者
も素晴らしい。

公開は5月16日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ショウゲートの招待で試写を観
て投稿するものです。


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井口健二