井口健二のOn the Production
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2025年03月02日(日) KIDDOキドー、ベテラン 凶悪犯罪捜査班、ガール・ウィズ・ニードル

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『KIDDOキドー』“Kiddo”
1990年アムステルダム生まれの女性監督サラ・ドヴィンガー
による長編デヴュー作。本作は2023年のベルリン国際映画祭
ジェネレーション部門でワールドプレミアされた。
物語の始まりは児童養護施設。そこで暮らす少女に母親が訪
ねてくると連絡が入る。しかし待てど暮らせどその日は現れ
ず。翌日現れたハリウッド女優だと自称する母親は、少女を
オンボロ車に乗せて町に繰り出す。
ところが母親は約束の時間になっても少女を施設に送り返そ
うとせず、ついにはポーランドのおばあちゃんの家に行って
そこに隠したお金を取り返し、2人で暮らそうと言い出す。
そんな破天荒な母親に何となくついて行く少女だったが…。

出演はローザ・ファン・レーウェン(子役)と、同年“Melk”
という作品にも主演しているフリーダ・バーンハード。他に
マクシミリアン・ルドニツキ(子役)、リディア・サドウカ、
アイサ・ウィンターらが脇を固めている。
脚本は監督とネーナ・ファン・ドリルとの共同で、劇中には
ダスティ・スプリングフィールドやペニー・アンド・ザ・ク
ォーターズら1970年代の楽曲も鏤められた作品だ。
題名にはチャールズ・チャップリンの1921年作品『キッド』
を連想した。シチュエーションは違うが児童養護施設が出て
きたり、実の母親が芸能人というのは少しリスペクトもある
のかな。
そんな眼で見ていると章立てされた各章に付けられた副題も
気になって、配給会社の担当者に問い合わせたら
#1 All or Nothing
#2 On the Run
#3 Bonne & Clyde
#4 Crazy
#5 Take the Money and Run
#6 Home Sweet Home
との回答をいただいた。ありがとうございます。
この内#3の『俺たちに明日はない』と#5の『泥棒野郎』
は直に判るが、#4はジョージ・A・ロメロ監督の1973年作
なのかな。他の副題もそれぞれ映画題名は見つかるが慣用句
でもあるし、監督の意図は明らかではないようだ。
ただチャップリンの作品に関しては、男性と女性とではこん
な風に違うのかな。もちろん実の親子とそうでない違いもあ
るが、母親と娘との関係性は自分が父親の目線からは面白く
も感じられた。
それに娘がしっかりしているのも良い感じで面白い作品だ。
特に旅先で出会う男児とのクールな振る舞いも良いし、母親
に対する絆を深めて行く目線も素敵で、各地の青少年映画祭
での受賞も頷ける作品だった。

公開は4月18日より、東京地区は新宿シネマカリテ、ヒュー
マントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、さらに京
都シネマ他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社カルチュアルライフの招待で試
写を観て投稿するものです。

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』“베테랑2”
2015年に日本でも公開されたファン・ジョンミンが熱血刑事
に扮する韓国映画の続編。2022年4月付題名紹介『モガディ
シュ 脱出までの14日間』などのリュ・スンワン監督が9年
ぶりの自作の続編に挑戦した。
描かれる事件は連続殺人。それは卑劣な犯罪を犯したものの
無罪になった元被疑者を標的としたもので、ネット世論では
正義の私刑を遂行する伝説の怪物“ヘチ”と呼んで崇拝する
ものも現れる始末だった。
そんな連続殺人鬼に9年前には財閥系の巨悪に立ち向かった
刑事たちが立ち上がる。そんな中でSNSで集められた民衆
を巻き込む劇場型の殺人劇が繰り広げられるが…。それは次
の犯行に向けた犯人の挑戦状だった。

共演は2018年『王の預言書』などのチョン・ヘイン。2020年
のドラマ『梨泰院クラス』などのアン・ボヒョン。さらにオ
・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、
シン・スンファンらが前作に引き続き登場する。
実は前作も観ているが、当時は鑑賞作品数も多く、また前作
の場合は韓国特有の社会情勢を背景にしたものでちょっと感
覚的に合わない部分があって、作品的には面白かったがここ
での紹介は割愛してしまったものだ。
そんな作品の続編だが、今回は内容的には解り易い連続殺人
もので、さらにSNSでの拡散など我々にも判りやすい展開
が加えられて万人が容易に理解できる作品に仕上げられてい
た。しかもそこに見事なアクションも展開される。
そのアクションはパルクールを取り入れたもので、日本映画
でも2017年10月29日題名紹介『HiGH&LOW』などで扱われては
いるが、本作の場合は人混みの中での活劇が見事に展開され
ていた。そこも見ものと言える。
その一方で殺人場面には2007年10月『SAW』シリーズのよ
うな趣もあり、まあ物語の全体も『SAW』シリーズのバッ
クグラウンドに共通するような要素もあるもので、その辺は
ファンとして面白く観ることができた。
取り敢えずはさらなる第3作、乃至はシリーズ化も期待した
くなるものだ。

公開は4月11日より全国ロードショウとなる。またそれに先
立って4月4日より前作『ベテラン』の再上映も行われる。
なおこの紹介文は、配給会社KADOKAWA Kプラスの招待で試写
を観て投稿するものです。

『ガール・ウィズ・ニードル』“Pigen med nålen”
第1次世界大戦終結前後のデンマークを舞台に、時代に翻弄
される女性の姿を描いた作品。残念ながら受賞は逃したよう
だが、今年のアカデミー賞🄬 国際長編映画部門にノミネート
された。
登場するのは軍需の縫製工場で働く女性。分厚い軍服の生地
相手のミシンはすぐ針が折れてしまう。それでも健気に働く
彼女だったが、戦地に逝ったままの夫は帰らず、家賃の滞納
で住まいを追い出されることになってしまう。
そんな彼女に手を差し伸べたのは夫の行方を探すなどの相談
に乗っていた工場の若い支配人。やがて深い関係になり、夫
の行方も判らない彼女は彼に恋心を打ち明け、結婚の約束を
取り付けるが…。
勇躍彼の邸宅に乗り込んだ彼女は家長の母親の拒絶に遭い、
邸宅を追い出された挙句に職も失ってしまう。しかも妊娠し
ていた彼女は止むなく堕胎を試みるが、そこで菓子屋を営む
という女性に救われ、生まれた子の面倒を約束される。
そんな折に、戦地で深い傷を負いサーカスでフリークスとし
て働いている夫が現れる。そして夫は他人の子でも構わない
というが。そこで彼女の下した決断が、当時のデンマーク社
会を震撼させた大きな闇を掘り起こすことになる。

出演は、2022年にデンマーク、ノルウェー、日本合作『MISS
OSAKA ミス・オオサカ』という作品に主演のヴィクトーリア
・カーメン・ソネと、2013年2月紹介『ロイヤル・アフェア
/愛と欲望の王宮』などのトリーネ・デュアホルム。
他に1990年生まれで舞台やテレビで活躍して受賞歴もあるベ
シーア・セシーリ、1987年生まれで2015年ベルリン国際映画
祭でシューティングスター賞受賞のヨアキム・フェルストル
プらが脇を固めている。
脚本(共同)と監督は2020年『スウェット』という作品がカン
ヌ国際映画祭で公式上映されているマグヌス・フォン・ホー
ン。共同脚本にはリーネ・ランゲベクという人が名を連ねて
いる。
また音楽を、コペンハーゲンのアンダーグラウンドシーンに
てプース・マリーという名義で活動してるフレゼレケ・ホフ
マイアが担当し、不気味で印象的な楽曲が映画の雰囲気を高
めている。
映画は巻頭からかなり不気味な映像で彩られ、尋常でない物
語の展開を想像させるが、二つ以上に意味でそれらが展開さ
れて行く物語とも言える。それはタイトルの意味の二重性と
も合さって物語を見事に集約させているものだ。
何てことを書いても全く意味不明だと思うが、映画は一見単
純そうで、そこにいくつもの意味合いが込められた見事なも
のになっている。正に見て貰わなくては始まらない作品と言
える。そしてその事実が突き付けられる。
映画の最後には実話にインスパイアされたと表示されるが、
基になった事件の意味もいろいろと考えさせられる作品だ。

公開は5月16日より、東京地区は新宿ピカデリー、ヒューマ
ントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト・シネクイント他に
て全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社トランスフォーマーの招待で試
写を観て投稿するものです。


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井口健二