井口健二のOn the Production
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2024年12月29日(日) ベイビーガール、聖なるイチジクの種

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ベイビーガール』“Babygirl”
2018年10月紹介『ヘレディタリー 継承』から2024年7月紹
介『シビル・ウォーアメリカ最後の日』等々、話題作、問題
作を提供し続けている映画会社A24がオスカー女優ニコール
・キッドマンを迎えて創り出した衝撃の作品。
キッドマンが演じるのは巨大物流会社のCEO。自らその会
社を創業し、叩き上げで今の地位を築き上げた人物だ。その
夫は評価の高い舞台演出家のようだが、円満に見える夫婦関
係には彼女の性癖で少し不満も感じている。
そんな女性の前に就職を希望する大学生のインターンが現れ
る。そして若い男性の姿に少し気を惹かれた女性CEOは、
男性の巧みな誘導で瞬く内に欲望の淵に溺れて行ってしまう
ことになる。その結末は…。

脚本と監督は1975年オランダ生まれで、2000年代にはポール
・ヴァーホーヴェン監督作品への出演やトム・クルーズとの
共演もあるという女優出身のハリナ・ライン。『氷の微笑』
が好きだったという監督の想いが描き出した作品だ。
共演は2024年1月紹介『アイアン・クロー』などのハリス・
ディキンスン。他に2023年11月紹介『TALK TO ME/トーク・
トゥ・ミー』などのソフィー・ワイルド。そしてアントニオ
・バンデラスらが脇を固めている。
女性の監督は男性にも理解できる様に描いたとしているが、
男性の身としてはいろいろ悩むところも多いかな。でもまあ
これが女性の感覚なのだろうということは理解できる。それ
に結末には安心もできたというところだ。
それにしてもオスカー女優がよくぞこの作品にという感じも
するが、女性監督への信頼というかその将来性にも期待を持
っているということなのだろう。キッドマンが本作への出演
の決め手にしたという監督の前作も観たいものだ。
ただ展開としてCEOの部屋に様々な人物が自由に入ってこ
れるのは、大会社のセキュリティーとしてはどうなのかな。
オープンな設計で多くの人の監視下にあるということはある
が、ここは少し違うような感じもした。
なお劇中に「東京の“カワサキ”」という台詞が出てきて、
関東在住者としてはニヤリとしてしまうが、“カワサキ”は
オートバイ会社のことなのかな。それを踏まえた字幕の表記
はよく考えて付けられていたものだ。

公開は2025年3月28日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷
他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『聖なるイチジクの種』“دانه‌ی انجیر معابد”
2017年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で最優秀作品賞を
受賞、2020年ベルリン国際映画祭で金熊賞受賞のイラン人監
督モハマド・ラスロフが制作し、2024年カンヌ国際映画祭で
のプレミア上映では12分間のスタンディングオベーションと
審査員特別賞が贈られた作品。
物語の基になったのは2022年にテヘランの大学で起きた警察
による女子学生謀殺事件。これはヒジャーブの着用強制に反
対する学生運動の弾圧の中で起きた事件で、これによって民
衆運動に火が付いたとも言われているものだ。
そして物語はその事件に巻き込まれた一家を描いて行く。そ
の一家の父親は革命裁判所に調査官として勤務し、将来は判
事への道もあるとされていたのだが…。そんな一家の住居に
娘の友人が警察に撃たれて担ぎ込まれてくる。
この状況で友人の身柄は家族の許に返されるが、程なくして
その友人が警察に連行されたという話が飛び込んでくる。そ
の一方で父親に支給された護身用の拳銃が紛失。その行方を
巡って親子の間にも疑心が生じ始める。

出演は監督の2017年作にも出演していたミシャク・ザラと、
俳優、監督としても活動して学生運動にも明確に支持を表明
していたことから実刑判決も受けているというソヘイラ・ゴ
レスターニ。
なおカンヌ国際映画祭でのプレミア上映には、過去の作品で
の政府批判によってパスポートを取り上げられていた監督は
秘かに自国を脱出して出席したが、俳優の2人は出国を拒否
されて参加は叶わなかったそうだ。
映画にはスマホで撮影されたと思われる弾圧の模様を写した
映像も挿入され、それはかなりの衝撃を受けるものになって
いる。おそらくそれだけでもこの作品は政府の弾圧の対象と
なるものだろう。
そんな衝撃の作品だが、映画はそこに巧みにエンターテイン
メントの要素も持ち込んでいるもので、その辺に監督の非凡
さも感じさせる。特に後半のヒッチコックばりの演出や結末
の意外性には喝采もしてしまう作品。
167分の上映時間に全く長さを感じさせない見事な作品だ。

公開は2025年2月14日より、東京地区はTOHOシネマズシャン
テ他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。
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 今年はこれでおしまいです。みな様良いお年をお迎えくだ
さい。


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井口健二