2024年12月08日(日) |
室町無頼、映画を愛する君へ、おんどりの鳴く前に、嗤う蟲、愛を耕すひと |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『室町無頼』 2023年直木賞受賞の垣根涼介が2016年に発表した原作から、 2024年2月紹介『あんのこと』や2020年1月紹介『AI崩壊』 などの入江悠脚本/監督で映画化した作品。なお本作に関し ては2024年2月に記者会見の報告もしているが、その作品が 完成したものだ。 物語の背景は室町時代。登場するのは歴史書に1回だけ名前 が出てくるという蓮田兵衛。蓮田の名は寛正三年の徳政一揆 で大将だったというもの。それまでの一揆はただの暴動だっ たが、この時初めて組織戦が行われたという。 その蓮田に対するのは骨皮道賢。こちらは複数の史書に名前 があるようだが、蓮田との交流の記録はない。しかし同時期 に出自が似た境遇となれば、このような物語も生まれたかも しれない。そんな見事なフィクションの世界だ。 そこに天涯孤独の若き剣士や高級遊女などを絡めて、後に戦 国となる時代の幕開けを告げる応仁の乱、その前夜の物語が 展開される。 出演は大泉洋、堤真一、長尾謙杜(なにわ男子)、それに松本 若菜。他に柄本明、北村一輝。さらに般若、武田梨奈、水澤 紳吾、遠藤雄弥、前野朋哉、中村蒼らが脇を固めている。 大泉洋に関しては2015年『駆込み女と駆出し男』の記者会見 での振る舞いで極めて印象が悪いものだが。本作は同作以来 の時代劇かな。でも刀を使った殺陣を演じるのは今回が初め てだったようで、それは良く演じられていた。 その殺陣シーンは東京のアクション監督・川澄朋章と京都の 殺陣師・清家一斗の競作だそうで、大泉、堤を始め長尾の棒 術使いも見応えがあった。特に長尾はかなり長尺のシーンも あってワンカット風のその演出も見事だったものだ。 さらに壮大な爆破シーンには東映京都撮影所の職人芸と、東 映アニメーションによるVFXが加味されたということで、 これも中々の見ものになっている。正に東映時代劇の復活と いう感じもする作品だ。 未曾有の天災に伴う飢饉(物価高)、さらに疫病の蔓延など、 現代に重ねることも容易な物語。その一方で公家たちは民か ら集めた税金で優雅に庭園造り(万博・神宮外苑の再開発)な どを楽しんでいる。それに対して遂に民衆が決起する。 さすが入江悠監督という感じの作品だ。 公開は2025年1月17日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
『映画を愛する君へ』“Spectateurs!” フランスの国立映画学校で学び、1991年のデビュー作『ニ十 歳の死』でジャン・ヴィゴ賞を受賞したアルノー・デプレシ ャン脚本、監督による自伝的要素の強い映画史作品。 主人公は6歳の時に祖母に連れられて初めて映画館に行き、 そこで映画の魅力に憑りつかれる。そして学生時代は映画部 に所属し、卒業後は評論家を足掛かりに映画監督の道へと進 んで行く。 そんな男性の成長が、無声映画から現代までの数多の映画ク リップと共に綴られる。そこには1964年の『ファントマ危機 脱出』から2008年の『フローズン・リバー』まで、僕自身の 映画歴にも重なる作品も多く登場する。 出演は、主人公の各年代を演じるルイス・バーマン、ミロ・ マシャド=グラナー、サム・シェモール、それにサリフ・シ セ。他に過去の作品で監督の分身の役柄を演じたマチュー・ アマルリクが彼自身の役で登場する。 挿入される映画は総数51本。そこには世界最初の映画とされ る1896年のリュミエール兄弟作品『ラ・シオタ駅への列車の 到着』から1927年アベル・ガンスの『ナポレオン』など歴史 的な作品も登場。 その一方で1988年『ダイ・ハード』や1993年『クリフ・ハン ガー』など、普通の映画史では出てこないような作品も散見 される。正に監督自身が愛した映画たちが並べられているよ うだ。 もちろんその中には、2022年4月紹介『映画はアリスから始 まった』のアリス・ギイやアルフレッド・ヒッチコック、イ ングマール・ベルイマンなど歴史を語るに相応しい作品もあ るが、僕には意味不明の作品もあった感じだ。 結局の話、これらの作品は監督自身の映画体験を綴っている もので、それに共感できれば評価も容易いが、映画の楽しみ 方は各自異なるもので、僕個人的には何か押し付けられてい るような感じも持ってしまった。 ただ映画体験の浅い人にはこれも映画の見方を知る上で価値 があるかな。そんな一つの見方を教えてくれる作品にはなっ ているのだろう。とは言うものの最後に『SHOAH ショア』の 話が延々と出てくるのにはまいったが。 公開は2025年1月31日より、東京地区は新宿シネマカリテ、 ヒューマントラストシネマ渋谷、UPLINK吉祥寺他にて全国順 次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観 て投稿するものです。
『おんどりの鳴く前に』“Oameni de treabă” ルーマニア・モルドヴァ地方の寒村を舞台にしたブラック・ コメディ。ルーマニアとブルガリアの合作で、ルーマニアの アカデミー賞では6冠に輝いたという作品。 主人公は都会の勤務も経験した警官。その主人公が出身地の 村で果樹園の経営を夢見、街に所有していたアパートを引き 払ってその資金に充てることを考える。そんな主人公には村 での勤務で、若い見習い警官の部下もいたが…。 その村は人格者の村長の許で過疎化の進む地方の中でも人口 が減らないとされており、地方社会の模範ともされていた。 ところがそんな村で事件が起きる。その捜査を見習い警官が 進めようとするが、主人公はそれを諫め続ける。 その裏には村の歴史に基づく因習があったが、さらにそこに は主人公も知らない村の秘密があった。 出演はルーマニア・アカデミー賞で主演男優賞受賞のユリア ン・ポステルニク、同助演男優賞受賞のヴァシレ・ムラル。 他にアンゲル・ダミアン、ダニエル・ブスイオク、クリナ・ セムチウク、ヴィエタリエ・ビキルらが脇を固めている。 監督は同監督賞受賞のパウル・ネゴエスク。1984年生まれの 監督は2016年には自身の長編第2作で同年のルーマニア興行 記録第1位にも輝いているそうだ。なお本作は他に脚本賞、 編集賞、作品賞にも輝いている 映画の宣伝チラシにはタランティーノの名前が挙がっている が、僕は1996年『ファーゴ』のコーエン兄弟の思い出してい たかな。1996年の作品も警官が主人公で、田舎が舞台だし、 雰囲気も似ている感じがした。 コーエン兄弟では弟イーサンの『ドライブアウェイ・ドール ズ』を2024年3月に紹介しているが、どの作品も社会の規範 をちょっと外れてしまった人たちの姿を温かい目で見ながら 描いている。本作にもそんな目線が感じられた。 いろいろな社会の柵に巻き付かれながら、それでも懸命に生 きている。そんな姿が愚かしくも優しく描かれた作品だ。そ して結末は、これはかなりぶっ飛んだ感じの展開だが、これ はこれで納得のできる巧みな作品でもあった。 公開は2025年1月24日より、東京地区は新宿シネマカリテ、 ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK吉祥寺、さらに京 都シネマ他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社カルチュアルライフの招待で試 写を観て投稿するものです。
『嗤う蟲』 2012年3月紹介『先生を流産させる会』や2024年3月紹介 『毒娘』など内藤瑛亮の脚本を、2022年5月紹介『ビリー バーズ』や2022年11月紹介『恋のいばら』などの城定秀夫 監督で映画化した作品。 舞台は日本のどこかの田舎。麻宮村というその田舎にスロー ライフに憧れた若い夫婦が引っ越してくる。妻はイラストレ ーターでリモートワークが可能。夫は脱サラで無農薬農業を 目指しているようだ。 そんな夫婦はインスタグラムで「#田舎移住」をアピールす るなど、田舎暮らしを満喫していたが…。そんな夫婦に村の 顔役の自治会長や近所の住民がちょっかいを出し始める。特 に隣家の夫婦にはちょっと問題があった。 それでも健気に田舎暮らしを始めた夫婦の前に、厳しい村の 「掟」が立ちはだかる。それは悲惨だった村の歴史にも根付 いたものだった。しかもそれが若い夫婦を巻き込む事件に繋 がって行く。 出演は、元乃木坂46メムバーで2020年2月紹介『水曜日が 消えた』などの深川麻衣と、2023年8月紹介『市子』などの 若葉竜也。それに2009年4月紹介『色即ぜねれいしょん』な どの田口トモロヲ。 他に松浦祐也、片岡礼子、杉田かおる、中山功太らが脇を固 めている。また音楽を『恋のいばら』などのゲイリー芦屋が 担当している。 実は物語の背景にある「村の歴史」というのが水害で、その 復興のために仕方なかったという状況説明がある。それが何 と直前に書いた『おんどりの鳴く前に』にもあって、しかも その後の展開もかなり似通った設定だった。 勿論それは偶然なのだけれど、こんな設定が作られる社会的 な背景はあるのだろう。それは多分政治不信ということでも 括れると思うが、そんな状況に日本もルーマニアも置かれて いるということかもしれない。 ただし完成された映画は全く違ったもので、上のルーマニア 作品がある種重厚なつくりであるのに対して、本作は田口ト モロヲの怪演が光る作品。その辺の作り方の違いにも面白さ が感じられた。どちらも快作だ。 公開は2025年1月24日より、東京地区は新宿バルト9他にて 全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ショウゲートの招待で試写を観 て投稿するものです。
『愛を耕すひと」“Bastarden” 2013年2月紹介『ロイヤル・アフェア/愛と欲望の王宮』の 主演マッツ・ミケルセンと、脚本・監督ニコライ・アーセル が再び手を組み、デンマークの作家 Ida Jessen が2020年に 発表した小説“Kaptajnen og Ann Barbara”を映画化した、 実話に基づくとされる作品。 時代背景は1775年。王族の血を引くが緋嫡子の主人公はそれ まで多くの人々が挑戦しては敗れた北部ヒース地帯の開墾を 申し出る。それは国王に敬意を表し、開墾に成功したら貴族 の称号を得るという目標のためだった。 そんな彼がやってきたのは正に不毛の地。しかし彼には軍役 の中で得たある秘策もあった。ところが開墾を始めた彼の前 に地元の領主と名乗る男が立ちはだかる。その土地は元より 国王のものであったのだが…。 そこに不吉とされる黒い肌のタタール人の少女や、悪辣な領 主の許を逃げ出して来た若い男女、さらには森に暮らす不法 集団なども加わって、不毛のヒース地帯の開墾を巡る闘いが 繰り広げられる。 共演は、デンマーク出身で2020年〜22年にはリドリー・スコ ット製作総指揮のSFシリーズに主演したというアマンダ・ コリン。本作で助演男優賞受賞のシモン・ベンネビヤーク。 2014年生まれで本作に大抜擢のメリナ・ハグバーグ。 さらにデンマーク王立美術院卒でプロダクションデザイナー としても活動するクリスティン・クタトゥ・ソープ。2022年 『ライダーズ・オブ・ジャスティス』という作品でもミケル センと共演しているグルタフ・リンらが脇を固めている。 また音楽を2013年2月紹介『ハッシュパピー』などのダン・ ローマーが担当している。 文明国とされる北欧デンマークにもこんな時代があったのだ と思わせる作品。つまりは日本映画の時代劇みたいなものだ が、異文化に接するという思いがしっかり無いと多少は面食 らうかもしれない作品だ。 しかもテーマが荒野の開墾だから、これはお気楽なアクショ ン時代劇を期待した人にははぐらかされる感じもしたかもし れない。実際に一緒に試写を観た人の中にもそんなことを言 っている声も聞こえてきた。 でもこれがその国の人にとっては英雄なのだし、その辺はし っかりと心して観るべき作品だろう。そういった意味で新た な知見の得られる作品だった。その意味では間違いなく面白 いし、知識が豊かになる作品だ。 公開は2025年2月14日より、東京地区は新宿ピカデリー他に て全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社スターキャット、ハピネットフ ァントム・スタジオの招待で試写を観て投稿するものです。
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