井口健二のOn the Production
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2023年11月05日(日) 映画の朝ごはん

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『映画の朝ごはん』
映画ロケ弁の代名詞ともされるポパイの「おにぎり弁当」を
キーワードに、映画と食の関係を描いたドキュメンタリー。
東京都練馬区環七沿いに厨房を持つ弁当屋ポパイ。そこでは
午前0時頃から準備を始めて、毎日1000個ほどのおにぎりを
製造。それを2個ずつ、タクワンと唐揚げ等のおかずと共に
パックに詰めて「おにぎり弁当」が完成する。
そして完成された「おにぎり弁当」は注文された個数ずつを
箱に入れて、それぞれ指定された場所の指定された時間に配
送される。その配送場所の多くは新宿郵便局前、時間は早朝
5時頃だ。
こうして早朝に出発するロケ隊に帯同する「おにぎり弁当」
は、ロケ弁の定番として映画業界に知らぬ者はいない存在と
なっている。それは東映大泉撮影所に仕出し弁当を届け始め
てから40年という老舗の味だ。
という弁当屋の由来を描く作品だが、そこから物語は発展し
て、その弁当で腹を満たして来た監督やスタッフへのインタ
ヴューによる昭和後期からの映画事情や、現状での制作部と
呼ばれる人たちの奮闘ぶりなどが紹介される。

証言者は大山晃一郎、沖田修一、黒沢清、瀬々敬久、樋口真
嗣、山下敦弘ら監督陣と美術の磯見俊裕、製作の下田淳行、
照明の藤井勇、俳優の内藤剛志。
さらに制作部の守田健二、福田智穂と若いスタッフ。その他
にも様々な部署の人たちが登場してロケ弁への想いを語る。
そしてナレーションは小泉今日子が担当している。
企画・監督・撮影・編集は、2017年1月29日付題名紹介『ま
んが島』で助監督を務めていたという志子田勇。その作品の
ロケ弁がおにぎりだったかどうかは判らないが、その他の現
場にも立ち会った監督の想いも籠った作品のようだ。
実はこの作品のマスコミ試写は行われなくて、オンライン試
写で観たものだが、事前の情報で上映時間が2時間11分と知
って集中が保てるか不安に駆られた。しかし観始めるとあっ
という間の時間経過だった。
というのも、これは全く僕の個人的なことになるが、僕自身
がポパイの近所に住んでいて、平日地元の人に販売されるお
弁当も何度か食していた。しかも配送先の新宿郵便局は、サ
ラリーマン時代の職場の直近だった。
そんな訳で、かなり個人的な興味でも引かれて時間も短く感
じたのかもしれないが、作中では瀬々監督が語るVシネ時代
の思い出など、映画ファンには耳寄りな情報も満載で、それ
らは全ての映画ファンに観て貰いたいものだったのだ。
その他にも映画の制作部の奮闘ぶりなど、普通の映画製作の
ドキュメンタリーでは扱われないような情報もあって、それ
らがロケ弁という食文化の一つを通して語られる。これは全
く稀有な視点のドキュメンタリーだった。

全ての映画ファンへの贈り物となる作品。
公開は11月10日より、東京地区はキネカ大森他にて全国順次
ロードショウとなる。


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井口健二