井口健二のOn the Production
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2023年04月09日(日) ソフト/クワイエット、70歳のチア・リーダー、オレンジ・ランプ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ソフト/クワイエット』“Soft & Quiet”
3月19日紹介『ハロウィン THE END』などのブラムハウス・
プロダクションの製作でかなりメッセージ色の強い作品。
主人公は「アーリア人団結をめざす娘たち」というグループ
を主催する白人女性。彼女は幼稚園の教諭だが彼女自身は子
供に恵まれていない。そんな彼女が妊娠検査をしているとこ
ろから物語は始まる。
その結果に落胆する彼女は自ら焼いたパイを持って主催する
会合に向かうが、そのパイにはある仕掛けが施されていた。
そしてそのパイを囲んで女性たちの意見交換が始まる。しか
しそれは会場を貸した教会の神父から苦言を呈される。
そこで彼女らは主人公の家に場所を移して会合を続けようと
するが、その道すがら立ち寄った会員の1人の店で東洋人の
客とトラブルが発生する。そしてその場は収まったものの、
それが思わぬ状況でエスカレートしてしまう。
そんな物語がワンショット風の映像で展開されて行く。

主演はステファニー・エステス。共演にオリヴィア・ルッカ
ルディ、エレノア・ピエンタ、ダナ・ミリキャン、メリッサ
・パウロ、シシー・リリー、ジョン・ビーヴァーズ、ジェイ
デン・リー・ヴィット。
この中でメリッサ・パウロは2013年6月紹介『スター・トレ
ック イントゥ・ダークネス』に出ていたようだが、他は主
にインディーズ作品が主戦場の俳優のようだ。これは多分作
品にリアリティを持たせる方策なのだろう。
脚本と監督は、カリフォルニア大学バークレー校で社会学士
を取った後にAmerican Film Institute で芸術修士を取得し
たというベス・デ・アラウージョ。長編デビュー作の本作で
はRolling Stone 誌のホラー映画Top 10に選ばれている。
映画はアンチテーゼとして描かれたものだが、最近の陰謀論
者ではこれを真に受ける者もいるかもしれない。そこで本作
ではある仕掛けが設けられているが、それが作品を甘くして
しまっていることは否めない。
作品的には、2008年9月にリメイク版を紹介したミヒャエル
・ハネケ監督の『ファニー・ゲーム』を思い出すが、監督は
ハネケほど狂気ではないというか、アートとエンターテイン
メントのせめぎ合いという感じもするところだ。
でも、日本やその他の国で、それぞれの国情に合わせたリメ
イクもしたら面白い。そんなことも考える作品だった。
なお、主人公らが被害者の家に到着した時の台詞が伏線とは
気付かなかったが、缶詰は重くても錘にならないことは明記
しておきたい。

公開は5月19日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷、新宿武蔵野館他にて全国ロードショウとなる。

『70歳のチア・リーダー』“Calendar Girls”
原題からは2003年11月5日付「東京国際映画祭」で紹介した
イギリス映画を思い出したが、本作はスウェーデンの公共テ
レビ局と米国のプロダクションとの共同製作によるフロリダ
州が主な取材地のドキュメンタリー。
取材されているのは2005年設立というチアダンスチーム。設
立の年号からすると、上記の映画も無関係ではないのかな。
ただしこちらはヌードカレンダーではなく、傷痍軍人のため
の盲導犬、介助犬の育成及び認知度向上に向けた資金調達の
ためのカレンダーを制作しているそうだ。
そんなカレンダー・ガールたちの日々の活動は邦題の通りの
チアダンスの公演。チアダンスで地元の各種団体を応援しよ
うというものだ。そのための練習や衣装(髪飾り)づくり、さ
らに応援対象の団体に合わせた演出などが検討される。
という活動だが、そこにはいろいろ確執があったり、特にフ
ロリダ州は有数の共和党の地盤らしく妻の行動を夫が規制す
る男尊女卑の風潮も描かれる。しかもそれが撮影隊のカメラ
の前で堂々と行われるのも凄いものだ。
そんな中でもいつも明るくパフォーマンスを繰り広げる姿が
記録されている。いやはや上で紹介の作品に続けて女性中心
の作品だったが、彼女たちが自分らしく生き抜こうとする姿
には、男性としても感動を覚える作品だった。

監督は映画、テレビの作曲家で、スウェーデンのインディー
ズ音楽シーンのプロデューサー、ミュージシャンの経歴もあ
るというローヴェ・マルティンセンと、アートディレクター
のマリア・ルーフヴード。2人は本作のためにプロダクショ
ンを設立し、共に監督デビューを果たしている。
公開は6月23日より、東京はアップリンク吉祥寺他にて全国
順次ロードショウとなる。

『オレンジ・ランプ』
39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断され、それから
10年後の現在も会社勤務を続けながら、認知症本人のための
相談窓口を運営したり講演活動なども行っているという丹野
智文氏の実話に基づくドラマ作品。
主人公は自動車販売会社で営業成績1位だった男性。ところ
がある日、顧客の名前を思い出せなくなったり、約束を忘れ
るなどの事態が発生する。そこで病院で受診した主人公は、
若年性アルツハイマー型認知症と診断される。
しかしその事実を公表して良いものか? 特にまだ中学生と
小学生の2人の娘には、公表することによる苛めなどのリス
クも心配される。そんな葛藤の中で、妻は認知症に関する知
識を高めようと書籍を読み漁り…。

出演は妻役に2017年8月13日付題名紹介『望郷』などの貫地
谷しほりと、本人役には2019年2月24日付題名紹介『空母い
ぶき』などの和田正人。他に伊嵜充則、山田雅人、赤間麻里
子、赤井英和、中尾ミエらが脇を固めている。
企画・脚本・プロデュースは2020年2月16日付題名紹介『ケ
アニンこころに咲く花』などの山国秀幸。なお脚本に2007年
3月紹介『きみにしか聞こえない』などの金杉弘子も名を連
ねている。
監督は、2005年『村の写真集』にて上海国際映画祭の最優秀
作品賞を受賞の他、『ケアニン』のウェブ版なども手掛ける
三原光尋が担当した。
若年性アルツハイマー型認知症の話は、2005年7月紹介『私
の頭の中の消しゴム』など既に映画でも何本か紹介されてい
るが、今迄の作品の多くはそれによって生じるトラブルを描
くことでドラマが生み出されていた。
それに対して本作では、それを発症した患者が如何に生きて
行くかに焦点が当てられており、それはセンセーショナルで
はないにしても、その病気に対する認識は深く掘り下げられ
るものだ。
以前にも書いたように自分には種類は違うけれど認知症の親
族がいた関係で、このテーマには関心を寄せるところがある
が、本作を観ていて初めて病気の本質が理解できたような感
じもした。

自分もいつこうなるかも判らない状況で、出来るだけ多くの
人に観て貰いたいと思う作品だった。
公開は6月30日より、東京地区は新宿ピカデリー、シネスイ
ッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国ロードショウと
なる。


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井口健二