井口健二のOn the Production
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2023年03月12日(日) 妖怪の孫、NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇、ノートルダム炎の大聖堂、aftersun/アフターサン、THE WITCH/魔女-増殖-

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『妖怪の孫』
先週紹介『Village/ヴィレッジ』の河村光庸プロデューサー
が企画し、2021年『パンケーキを毒見する』で現役総理大臣
が題材のドキュメンタリーを発表した内山雄人監督が手掛け
た「昭和の妖怪」の孫を巡るドキュメンタリー。
昭和の妖怪とは元内閣総理大臣岸信介のこと。安倍晋三は岸
の娘婿である安倍晋太郎の息子だが、リベラル派だった晋太
郎は岸の娘婿ではなく、自分は反戦を貫いた戦前の衆議院議
員安倍寛の息子だと主張していたということだ。
そんな安倍寛の孫が、如何にして妖怪の孫となってしまった
のか、本作はそんな政界の闇を描いたドキュメンタリーと言
える。そして本作では、安倍晋三が自民党政権における絶対
権力者となり得たシステムなども解説される。
そこでは統一教会との関係なども語られるが、まずは絶対的
に選挙に強かった安倍晋三の戦略が詳解される。ところが他
の部分では固有名詞も出される中で、大手広告会社という戦
略の心臓部の企業名は伏される。
これは一体どうゆうことなのか。先週の紹介文では硬派のプ
ロデューサーと紹介した河村光庸も、さすがにここだけには
対抗できなかったのか。それとも河村亡き後に腰砕けになっ
てしまったのか。そんなことも考えてしまう作品だった。
まあ自民党政治家の答弁の内容が、某テレビ局職員が言うよ
うに、この大手広告会社の指示に従っていることは明らかに
されていたが。
なお本作の中では、安倍の地元山口県での活動の様子も描か
れるが、その中で汚職談合の象徴とされるごみ焼却場の外観
が、先週紹介の作品に登場するごみ焼却場にそっくりで、し
かも丁寧にリサイクル場も併設されている。
実は先週の作品を観た時には単純な村社会の確執を描いた作
品と思っていたが、その裏にはさらに大きな権力も蠢いてい
たようで、先週の作品に対する認識が一層深まる感じもした
ものだった。
それにしてもこのような政治家が、今でも国家の英雄のよう
に扱われて選挙民の支持も引き継がれている。そんな歪んだ
選挙戦略を打破するためにも、今後は是非とも大手広告会社
との関係も追及した作品を期待したいものだ。

公開は3月17日より、東京は新宿ピカデリー他にて全国ロー
ドショウとなる。
なお本作は、『Village/ヴィレッジ』(4月21日全国公開)と
併せて観ることをお勧めしたい作品だ。

『NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇』
ジャズベーシストの不破大輔を中心に1989年結成され、以後
は離合集散を繰り返しながら2019年に30周年を迎えたビッグ
バンドの歴史を、初期メムバーへのインタヴューや彼らとの
セッション、さらにアーカイヴ映像などを交えて映画化した
ドキュメンタリー。
元々は2019年の30周年記念で京都大学西部講堂にて行われた
ライヴの模様を映画化する計画が進められ、その制作に招か
れた佐藤訪米監督は映画に挿入するドラマ部分の撮影を準備
するも COVIDで敵わず。そこでバンドの初期を知る人たちに
インタヴューを求めたのだそうだ。
そこにバンドの中興期にキーボード・ヴォーカルで参加して
いた佐々木彩子をナヴィゲーターで招き、初期メムバーへの
インタヴューと彼らとのセッションを敢行する。それは先に
セッションの曲を決めてからインタヴューを行ったそうで、
本作を音楽映画にする意図だったと監督は語っている。
そんな形式でバンドの歴史が語られている作品だ。そこには
かなり飛んでもないエピソードも披露される。とは言うもの
の、恐らくバンドのファンには嬉しい作品なのだろうが、部
外者には少しハードルが高いかな。もちろん破天荒なミュー
ジシャンの生き様は垣間見られるが…。
なお当初企画されたライヴの映画も鋭意制作中だそうで、本
作はその姉妹編という位置づけのようだ。従って本作は特典
映像のようなものとも言える訳で、本編が完成したら是非見
せて貰いたいと思っているところだ。
なお出演者には不破、佐々木を始め、日本のジャズ界を彩っ
た錚々たるメムバーが顔を揃えているようだ。

公開は4月1日より、東京は新宿K's cinema他にて全国順次
ロードショウとなる。

『ノートルダム炎の大聖堂』“Notre-Dame brûle”
2019年4月15日、パリのシテ島に建つ聖堂を襲った災害を、
1981年『人類創生』などのジャン=ジャック・アノー監督が
綿密な調査に基づき、IMAX、Dolby Atmos の大迫力で再現し
た実録ドラマ。
災害自体は全世界で報じられたものだが、その現場ではどの
ような事態が起きていたのか。それらが巨大なセットで在り
し日の姿を再生した内部の様子や、CGIも駆使した見事な
映像で再現される。
さらに撮影では現地の周辺でのロケーション撮影は基より、
一部のシーンは現在も修復作業が進む現場での撮影も特別許
可で実施されたそうだ。そんな正しく渾身と言える映像が展
開される。
出火の原因は現在も特定はされていないようだが。本作では
漏電や作業現場での火の粉、さらにタバコの火の不始末や小
動物の介在まで、想定される状況が矢継ぎ早に提示されて、
観客の想像力とサスペンスを盛り上げる。
そして初動の遅れやシテ島での消火栓の不足など現実的な災
害発生の問題点も指摘される。実際に外部からの通報で消防
が動き始める状況や交通渋滞の様子など、災害の拡大の原因
も数多く指摘される。
このように映画では未来に向かっての警鐘なども描かれるも
のだが、映画が本当に描くのはその後にくる人間たちに活躍
の物語だ。そこには敢えて無名とされる消防士たちの身を挺
した活動が描かれる。
実はこの火災では、消防士など人的被害が殆んどなかったこ
とが事実として知られているものだが。にも拘らず聖遺物の
「いばらの冠」を始め膨大な数の歴史品の救出や鐘楼を守り
抜く様子には、正にサスペンスを追体験する感覚で見入って
しまった。
そしてその活動を見守る人々の様子では、SNSで募集され
たスマホなどで撮影された映像も実に巧みな手法で画面に挿
入される。特に群衆が讃美歌を合唱する姿には感動が極致に
高まる感覚も覚えたものだ。
その一方で、アーカイブ映像で描かれるマクロン大統領登場
のシーンでは、この人は本当に国民の信頼を得ていないのだ
なあという感覚も見事に描かれていたものだ。これも実話な
のだろうが。

公開は4月7日より、IMAXシアターの他にも全国の劇場にて
ロードショウされる。

『aftersun/アフターサン』“Aftersun”
1987年スコットランド生まれのシャーロット・ウェルズ監督
が、1990年代のトルコのリゾート地を背景に少女の成長を描
いた作品。
登場するのは11歳の少女と31歳の父親。普段は別々に暮らし
ているらしい2人は、娘の最後の夏休みを2人だけで過ごす
ためにその地にやってくる。ところがツインで予約したはず
のホテルの部屋がダブルベッドで用意されていたり…。
それでも父親が補助ベッドで寝るなど、何とかリゾート気分
には浸り始める。そして父親は持ってきたヴィデオカメラで
2人の旅を記録し始める。そんな父親を少し疎ましく感じな
がらもリゾート地を満喫する娘だったが。

出演は本作でオスカー・ノミニーとなったポール・メスカル
と、本作が映画デビュー作のフランキー・コリオ。他に振付
師で映像作家でもあるセリア・ロールソン・ホールらが脇を
固めている。
物語は、本作が長編デビュー作という女性監督の自伝的要素
もあるようだが、自分が娘を持つ父親としては物語の構成自
体に違和感を持ってしまう。おそらく自分ではこのように娘
を連れだすことはしないだろう。
そんなこともあって何となく乗れない作品だったが、特には
父親の状況が全く不明なのも気になったところで。それは娘
の目線で語られる物語だから仕方ないところではあるが、常
にもやもやした感じで観てしまったものだ。
増してやそれを20年後の娘の眼で検証するという設定も、映
画の中では明確に意味があったようにも思えず。大体そんな
ムードで描かれていることが評価の対象であったとしたら、
ちょっと映画に対する感覚が違うようにも感じた。
それは多分僕自身の方に問題があるのだろうが。僕にとって
は理解しがたい作品だったと言える。ただヴィデオカメラの
扱いや、とどめのファンタレモンの登場にはやられたという
感じはしたが。

公開は5月26日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町、新宿ピカデリー他にて全国ロードショウとなる。

『THE WITCH/魔女-増殖-』“마녀 Part2. The Other One”
2018年5月紹介『V.I.P.修羅の獣たち』などのパク・フンジ
ョン監督が2018年に発表した『THE WITCH/魔女』の続編。
因に監督は〈魔女ユニヴァース〉を構築する意向だそうだ。
映画の開幕はとある秘密研究所で起きる大殺戮戦。その闘い
で生き残った1人の少女が雪の中を彷徨い歩いて行く。その
後を追う2つの組織。その追跡者はそれぞれそれなりの超能
力を持つメムバーだったが…。
生き残った少女はやがて1軒の農場に辿り着き、そこに暮ら
す姉弟によってつかの間の安息が与えられる。しかしその姉
弟は父親が遺した農場の土地を巡って地元の権力者との抗争
を抱えていた。
ところがその権力者が派遣した暴力集団を少女はあっという
間に殲滅してしまう。こうして暴力集団vs姉弟と少女。さら
に少女を追跡してきた2つの組織との4つ巴の戦いが勃発す
る。それは済州島の花火大会の日だった。

出演は1408人のオーディションで選ばれたというシン・シア
と、映画出演は2013年以来というパク・ウンビン。それにパ
ク監督とは2度目のコラボレーションというソン・ユビン。
他に2022年『キングメーカー大統領を作った男』などのソ・
ウンス、『V.I.P.』にも出演のイ・ジョンソク。また2009年
8月紹介『母なる証明』などのチン・グ。さらに前作にも登
場のチョ・ミンス、キム・ダミらが脇を固めている。
前作を知らずに見ていると、少女を追いかける2つの組織の
違いが良く判らなくて、互いに対抗しているようだが、その
一方は韓国語、他方は中国語を話しているのはそういう設定
のものなのかな。
超能力者の集団同士の戦いということでは X-Menなども思い
浮かぶが、様々な超能力が混淆するアメコミに比べると、あ
る種の肉弾戦に終始する本作は力は入ってしまうかな。ただ
見た目は繰り返しばかりになってしまうが。
まあいずれにしてもアメコミとは違ったユニヴァースが構築
されることは期待したいものだ。

公開は5月26日より、全国ロードショウとなる。


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井口健二