井口健二のOn the Production
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2023年02月26日(日) EOイーオー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『EOイーオー』“IO”
2009年7月紹介『アンナと過ごした4日間』、2011年5月紹
介『エッセンシャル・キリング』などのイエジー・スコリモ
フスキ監督が2015年公開作品以来7年ぶりに発表し、2022年
のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した作品。
登場するのはイーオーと名付けられたロバ。元々はサーカス
で曲芸を披露していたが、動物愛護の法律が施行され、サー
カスでの芸が禁止されてしまう。このため複数頭の馬と一緒
にどこかに連れて行かれようとしたが、偶然そこからの脱出
に成功する。
こうして放浪の旅が始まり、その旅路では様々な人間と遭遇
し、それぞれの人間たちの喜怒哀楽に付き合わされることに
なるが…。サッカーの試合で勝利の女神になったり、祝勝会
が相手チームのフーリガンの襲撃を受けたり、その他のエピ
ソードも人間の都合によるものばかりだ。

主人公のイーオーはタコ、オラ、マリエッタ、エットーレ、
ロッコ、メラという6頭で撮影されたそうだが、他の共演者
にはポーランドで受賞歴のあるサンドラ・ジマルスカ、ロー
マ出身のロレンツォ・ズルゾロ、監督の前作にも出演のマテ
ウシュ・コシチュキェヴィチ、そして2016年10月紹介『母の
残像』などのイザベル・ユペールらが脇を固めている。
以前に紹介した2作も台詞の少ない映画だったが、遂に本作
では物言わぬロバが主人公になってしまった。因に監督は、
ロベール・ブレッソン監督の『バルタザールどこへ行く』に
インスパイアされたと語っているが、体制との軋轢から2度
も国外追放にあった監督自身の境遇も重なるのかな。
それはさておき映画では、ポーランドの様々な風景が背景に
置かれるのも見どころとなるもので、大自然や人工物などが
ロバと共に写っている映像はそれだけでも存分に楽しめるも
のになっていた。そんな母国への尽きせぬ愛情も感じられる
作品だ。
なお原題は、試写会で上映されたヴァージョンでは“EO”と
なっていたが、これはクレジットが英語の国際版のもの。現
地ポーランド語のアルファベットではEはエと発音されてし
まうようで、オリジナル版ではIをイと発音する“IO”が正
式のようだ。

公開は5月5日より、東京は新宿シネマカリテ、ヒューマン
トラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町他に
て全国順次ロードショウとなる。


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井口健二