2023年01月15日(日) |
郊外の鳥たち、アラビアンナイト 三千年の願い、屋根の上のバイオリン弾き物語、エッフェル塔〜創造者の愛〜 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『郊外の鳥たち』“郊区的鸟/郊區的鳥” 2019年12月8日題名紹介『ロングデイズ・ジャーニーこの夜 の涯てへ』のビー・ガン監督など、中国第8世代と呼ばれる 映画人の中から登場し、2018年ロカルノ国際映画祭で注目を 浴びたというチウ・ション監督の長編デビュー作。 物語の舞台は再開発が進む都市の郊外。そこでは既存の建物 に傾斜が生じたとしてその原因究明のための測量調査が行わ れている。その調査に従事する主人公は、ふと訪れた廃校の 小学校で、教室に残された机の中に自分と同じ名前の記され た教科書を発見する。 一方その教科書の持ち主の少年は、放課後には数人の仲間と 共に雑木林で鳥の巣を落として卵を取ったり、瓦礫の積まれ た工事現場でサヴァイヴァルゲームに興じていた。ところが その仲間の1人が行方不明になり、女子の案内で彼の家に向 かうことにするが…。 そんなもしかしたら時代を隔てた二つの物語が、微妙に交錯 しながら展開されて行く。 出演は2012年12月紹介『ライフ・オブ・パイ』などのアン・ リー監督の実子で、監督の新作でブルース・リーの伝記映画 に主演しているというメイソン・リーと、アジアの映画界で インディーズシーンのカリスマ女優とされるホアン・ルー。 さらに本作で本格的な映画デビューとなったドン・ジン。美 少年として話題のゴン・ズーハンなど、子役の多くは現地で 素人の子供たちが採用されている。 上記の紹介で時代を隔てたと書いたが、恐らくは過去と現在 の主人公がかなり奇妙な状況で交錯する。それは多分SF的 な解釈が求められるものだが、本作はそれをするにもかなり の無理が生じるものだ。とは言うもののそれをするのが僕の 役目とも思える。 そんな訳でいろいろ手掛かりを求めると、まず映画の中では 「9月7日金曜日」というテロップが登場し、それが子供た ちの行動に合わせてカレンダーのように何度か提示される。 そこでその年次を調べると、該当するのは1984、90、2001、 07、12年辺りとなるようだ。 一方、子供の1人がゲームボーイのような携帯ゲームをして いるシーンがあり、それは1990年代と推定される。これに対 して大人の主人公はスマートフォンを使用しており、それは 2010年代ということだろう。これは正しく2008年の夏季北京 オリンピックを挟んだ中国の高度成長期と重なるものだ。 従って本作では、そんな2つの時代を描くことで高度成長期 に失われたものを追い求める物語とも言えそうだが、それを ストレートではなく、かなり歪めて描くところが、今の中国 の姿と言えるのかもしれない。そう言えば2014年4月紹介の 『黒四角』もそんな感覚だったかな。 因に映画の中で建物の傾斜の原因は地下水脈の影響とされる ものだが、1964年の東京オリンピック前後の高度成長期には 東京も地下水のくみ上げによる地盤沈下が問題になっていた もので、その時代を記憶する者としてはこの展開は納得でき るものだった。 ただその原因究明に、例えば子供たちの行動が絡んだりして いたら、物語的にもう少し纏まりの良い展開になっていたよ うな気もする。でも恐らく監督の意図はそこにはなかったの だろう。そんな訳で、判り難いけれど何となく納得のいく作 品ではあった。 公開は3月18日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
『アラビアンナイト 三千年の願い』 “Three Thousand Years of Longing” 『マッドマックス』4部作などのジョージ・ミラー監督が、 2015年6月紹介『マッドマックス怒りのデス・ロード』から 8年ぶりの監督を務めた作品。 物語のテーマは魔法のランプ。そこから登場する魔神(ジン) が約束する「三つの願い」に何を願うかは、この手の物語で は究極の命題と言えるものだ。そんな究極の物語は1994年に 発表されたイギリスの作家A・S・バイアットの短編小説を 原作としている。 と言っても原作は短編ということだから、映画のストーリー の大半はオリジナルで創作されたものだろう。そこで登場す るのはナラトロジー(物語論)の専門家の女性。その考え方は 「神話は科学に取って代わられ、神々や魔物はメタファーと 化す」というものだ。 ところがそんな女性がトルコのイスタンブールで開かれた学 会での講演中に意識を失ってしまう。それは彼女の想像力が 強すぎる結果とされるが…。学会の閉幕後に気分直しでバザ ールに立ち寄った彼女は、土産物屋で古びたガラスの小瓶を 手に入れる。 そしてホテルの洗面台で小瓶にこびりついた泥を洗い落とす と蓋が外れて白煙と共に魔神(ジン)が現れ、そのジンは彼女 に「三つの願いを叶える」と告げる。しかしナラトロジスト の彼女は、「三つの願い」の結末が常に失敗に終わることを 知っていた。 そこで彼女は願いを告げることを延期しながら、ジンの今ま での来歴を聞き始めるが…。それは三千年に及ぶジンの生涯 にとっては悲恋の繰り返しとも言えるものだった。そんな中 から、果たしてナラトロジストは究極の命題の答えを見つけ 出すことができるのか? 出演は、2012年7月紹介『プロメテウス』などのイドリス・ エルバと、2018年12月紹介『サスペリア』などのティルダ・ スウィントン。 なおジョージ・ミラー監督は製作と脚本も手掛けているが、 脚本には監督の娘のオーガスタ・ゴアも参加している。その ゴアは初脚本だが、元々は監督が1992年『ロレンツォのオイ ル』で組んだニック・エンライトに打診したところ脚本家が 病に倒れてしまい、その脚本家の推薦で娘との共作が決まっ たそうだ。 そして父子はエンドロールに流れる楽曲の作詞も共同で手掛 けている。 正直に言って2022年8月26日に一般公開された米国ではあま り高い評価にはならなかったようだ。それはまあ監督の名前 で『マッドマックス』を期待した観客には肩透かし感は生じ るかもしれない。しかし監督の作品には『ベイブ』や『ハッ ピー・フィート』などもあるのだから…。 とは言うもののもう少し外連は欲しかったかな。特にアラビ アンナイトの再現では、あそこまで豪華なセットを作るなら そこに何か大仕掛けがあってもいいような感じはした。それ にラヴストーリーをもっと明確にして欲しかったかな。その 辺が少し物足りなく感じるところではあった。 公開は2月23日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国 ロードショウとなる。
『屋根の上のバイオリン弾き物語』 “Fiddler's Journey to the Big Screen” 2017年3月紹介『ハロルドとリリアン』を手掛けたダニエル ・レイム監督が、同作にも登場したミュージカル映画ついて 描いた映画愛に溢れるドキュメンタリー。 1964年にニューヨークで初演されたミュージカルは1972年ま でロングランを続け、日本でも1967年から86年まで上演され るなど世界中で大ヒットを記録した。そんな作品が1971年に 映画化される。しかし舞台はヒットしてもユダヤ人の物語に 他の民族の観客が来る訳はないと危惧の声は高かった。 そんな作品を手掛けたのはカナダ出身でテレビ界でキャリア を積んできた監督ノーマン・ジュイソン。1967年『夜の大捜 査線』で評価の高まった監督は、「冒険だったから」という 理由でこの難関に挑んで行く。そしてそれは周到な準備の許 で開花して行くことになる。 本作ではその舞台裏を、ジュイソン本人は基より、映画版の 音楽を担当したジョン・ウィリアムス、美術担当のロバート ・F・ボイル、舞台版の作詞家のシェルドン・ハーニック。 さらにロンドンの舞台から主演に抜擢されたトポル。3人の 娘を演じたロザリンド・ハリス、ミッシェル・マーシュ、ニ ーヴァ・スモール。また映画評論家のケネス・トゥランまで 多岐に渉るインタヴューで描き尽くしている。 因にジュイソンは、Jew-i-son という名前ではあるが両親は カトリックなのだそうで、それでも名前の由来で幼い頃から ユダヤ人に興味を持ち、ユダヤ人になりたいとも思っていた とのこと。そんな想いがこの映画化に結実されたようだ。そ んな話を掴みに本作は描かれる。 その他にも、タイトルの由来でもあるマルク・シャガールの 絵画 Green Violinistに絡めてジョン・ウィリアムスが映画 版の音楽に込めた思いなども巧みに紹介されており、どのイ ンタヴューも映画の成立までの過程やそこに込められた想い が如実に伝わってくるものになっている。 もちろん作中にはユダヤ人迫害の歴史も語られるが、そこも 感情的ではなく、映画製作の過程に併せて巧みに描き込まれ ているのも上手さと言える。因にレイム監督自身はユダヤ系 だそうだ。 なお本作では、先の『ハロルドとリリアン』で語られた話は 出てこない。しかし作中に正に該当するシーンが登場するの は、監督の前作への想いも伝わってくるところだ。そんな全 てが映画愛で綴られた作品になっている。 公開は3月31日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽 町&アップリンク吉祥寺にてロードショウとなる。
『エッフェル塔〜創造者の愛〜』“Eiffel” 1889年のパリ万国博覧会を記念して建造され、現代ではパリ の象徴とも称されるエッフェル塔。その建築の秘話を2005年 7月紹介『真夜中のピアニスト』などのロマン・デュリスと フランス生まれイギリス育ちの期待の新星エマ・マッキーの 共演で描いた歴史ロマン作品。 ニューヨーク港に建てられた自由の女神の骨組みの設計建築 などで注目された技師ギュスターヴ・エッフェルは、パリで は持て囃される存在だったが、当初は塔の建設に乗り気では なかった。ところが突然その建設に熱意を示しだし、最後は 資金の枯渇に私財を投入して完成させたという。 何が技師の心に火を点けたのか? それは未だに解明されて いない謎なのだそうだ。そこに目を付けたのは小説家でエッ セイストでもあるカトリーヌ・ボングラン。短編映画の脚本 を手掛けたこともある女流作家は、20年以上も前に本作の原 案とオリジナル脚本を執筆している。 そして本作では、2017年に企画が立ち上げられ、ボングラン の原案を基に歴史的事実を踏まえてこれしかないと思われる 仮説を打ち立てたものだ。因に映画に描かれたボルドーでの 2人の出会いと別れの顛末は、全く史実に基づくものという ことだ。 その一方で本作には、セーヌ河畔の軟弱な土地に高さ300mも の塔を建てるエッフェル技師考案の建築技術なども克明に再 現されている。それはある意味、サイエンス・フィクション とも言える作品に仕上げられていた。 脚本と監督は、短編映画の出身で2015年に監督したコメディ 映画が大ヒットしてその続編も手掛けたというマルタン・ブ ルブロン。監督は本作の後に2023年に本国で公開予定のアレ クサンドル・デュマ原作『三銃士』を2部作で映画化する超 大作にも大抜擢されている。 エッフェル塔の造形は日本の東京タワーと比較されることも 多いが、東京タワーの場合はその基部に建物が存在し、そこ から延びるエレベーターを含む心柱によって全体が支えられ ている。それに対してエッフェル塔は、基部は空間で心柱は 存在しない。 その構造の違いは建築の難易に影響し、特にエッフェル塔で 基部から第1展望台までの設計や建設の難易度は計り知れな いものだ。しかしエッフェル技師はそれを達成した。しかも それには深い意味が込められていた。そんなことも虚実は判 らないが、巧みに語られた作品だ。 公開は3月3日より、東京は新宿武蔵野館、シネスイッチ銀 座、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて、全国順次ロード ショウとなる。
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