2022年12月11日(日) |
少女は卒業しない、有り触れた未来、彼岸のふたり |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『少女は卒業しない』 2012年『桐島、部活やめるってよ』などの朝井リョウ原作の 映画化。この前作の公開年に『何者』という作品で直木賞を 受賞した原作者は青春小説の名手とも呼ばれているそうで、 本作の原作はその年に刊行されたものだ。 実は2012年の映画に関しては試写は観たもののここでの紹介 はしなかった。その理由は多分、年代的に半世紀も離れて、 僕がその時代の高校生を理解できなかったことに起因してい たのだと思う。 その点に関して本作は卒業がテーマであり、理解の点では問 題はなかったかな。そんな中で4つの物語が着かず離れずの 展開で並行して進行し、最後にある事象によって纏まる構成 は、それなりに巧みに感じられるものだった。 とは言うものの、最後を盛り上げるための仕掛けとは言え、 この展開はあり得るのかな。もしこれが現実に行われたら、 あまりに無神経と言わざるを得ない。この無神経さが現代的 と言われればその通りなのかもしれないが。 僕にはその点が許せない気がしたが、実際に昨今のニュース にもこのような無神経さは多々あるような気がして…。こん なことが SNSの暴走などにも繋がっていると思うのは、考え 過ぎなのかな。 そんな訳では僕にはちょっと過激と思う結末の作品だった。 脚本と監督は、2016年の短編作品『カランコエの花』がレイ ンボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のグ ランプリを受賞したという中川駿。本作は監督の初商業映画 作品となる。 出演は、2019年デビューでキネマ旬報ベストテン新人女優賞 など新人賞を総なめにした河合優美。2017年デビューで大河 『晴天を衝け』などの小野莉奈。2020年ソフトバンクCMで しずかちゃん役の小宮山莉渚。「ミスiD2019」グランプリ受 賞の中井友望。 その相手役を2018年『泣き虫しょったんの奇跡』などの窪塚 愛流、2020年3月1日題名紹介『#ハンド全力』などの佐藤 緋美、2022年『仮面ライダーリバイス』などの宇佐卓真、そ れに2019年11月24日題名紹介 『his』などの藤原季節らが務 めている。 公開は2023年2月23日より、東京は新宿シネマカリテ、渋谷 シネクイント他にて全国ロードショウとなる。 いろいろあるけどこれが現代の青春ということなのだろう。
『有り、触れた、未来』 2008年8月紹介『キズモモ』などの山本透監督が、総勢22人 の若手俳優らによるプロデューサーチーム【UNCHAIN10+1】 と共に企画、資金集めから手作りで作り上げた作品で、現代 に生きることをテーマとした群像ドラマ。 1人目の主人公は交通事故でバンド仲間だった交際相手を亡 くした女性。形見分けでギターとパソコンを受け取ったが、 未だに開くこともできずにいる。そんな彼女は新たな恋人と の結婚を進めていたが…。 2人目の主人公は10年前の自然災害で祖父と母親と兄を亡く した女子中学生。その時から腑抜けのようになった父親との 暮らしに耐えられなくなっている。そんな彼女は祖母と親友 の女子と担任教師に支えられてきたが…。 さらに将来に不安を抱えながら「魂の物語」に挑む若い演劇 人たち。そして30歳を過ぎてもプロボクサーの道を諦めきれ ない男性や、娘の結婚式に出ることを目標に末期癌と闘う女 性など、様々な生と向き合う人々が描かれる。 出演は桜庭ななみ、碧山さえ、北村有起哉、手塚理美。他に 鶴丸愛莉、舞木ひと美、高品雄基、松浦慎一郎。さらに麻生 久美子、萩原聖人、原日出子、仙道敦子、杉本哲太らが脇を 固めている。 10年前の自然災害とは東日本大震災のことだが、映画はあえ てそれを前面に出すのではなく、しかし重要なテーマとして 巧みにそこに横たわる問題を描き出して行くものだ。それが 直接の被災者ではない我々の心にも響き渡る。 それは特に手塚理美が演じる祖母の台詞に集約して描かれる が、それだけではないより多くの人々の心を奮い立たせる、 そんなメッセージが込められたものになっている。そしてそ れらが重層して描かれる結末。 ここではバンドの演奏、舞台での演技者たちの台詞回し、そ して和太鼓の響きなどが重なって、その映像効果や音響効果 が正に映画の醍醐味とも言える感動の渦に観客を引き込んで くれる。これぞ映画という感じの感動だった。 なお本作は、齋藤幸男著「生かされて生きる―震災を語り継 ぐ」という書籍を原案としているものだ。また題名はWミー ニングのように取れるが、検索すると「ありふれた」の漢字 表記はこれだそうで、正に「有り、触れた、」物語なのだ。 公開は2023年3月3日から宮城県で先行上映の後、3月10日 より全国ロードショウとなる。 現代に暮らす人の心に響くこの映画を、ぜひ多くの人に観て 貰いたい。
『彼岸のふたり』 大阪府出身で早稲田大学卒。在学中に映画デビューも果たし たという俳優の北口ユースケが、大阪府堺市を舞台に室町時 代に当地に実在した遊女「地獄大夫」をモティーフに描いた 幼児虐待をテーマとした初監督作品。 大阪で幼児虐待と言うと、2019年10月27日付[JAPAN CONTENT SHOWCASE]で紹介『ひとくず』を思い出すが、本作は虐待そ のものではなく、その後のトラウマとも言える母子の関係が 描かれる。 そこでは毒親をようやく逃れて施設で育ち、成人した女性が 再び訪ねてきた母親の毒牙にかかる。それはおそらくこれが 毒親の現実だろうと思わせるものだ。そんな中で事態はどん どんエスカレートして行くが…。 映画では主人公の前に現れるイマジナリーフレンドのような 存在が主人公の心象を代弁し、主人公の葛藤なども判り易く 提示される。まあここまでしなくてもいいかなとは思うが、 この辺は監督の親切心なのだろう。 ただし、映画の結末に関しては賛否の両論が分かれそうだ。 それはそこまでの流れからこれはないととも言える展開で、 これには納得できないという声も多く聞こえてきそうな感じ もしてくる。 上記の親切心のある監督からすれば、もっと明確に結末は描 くべきようにも感じる。でもそれはどう描くべきか、テーマ の深刻さから考えてそれがどのような結末であっても万人の 納得は得られないかもしれない。 そこで明確に描き切らないことで余韻を残す、観客の解釈に 委ねることがベストと監督は判断したのかもしれない。観客 の胸の中にもやもやを残すことが監督の狙いと考えたくなる 作品だった。 出演は、本作の企画制作も行ったOSK出身の桜あかりが主 宰するSAKURA entertainment所属の朝比奈めいりと、2008年 『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』で永田洋子役の並木 愛枝。 他に2009年2月紹介『鴨川ホルモー』などに出演のドヰタイ ジ、関西中心で活動するダンス&ヴォーカルユニットYES!に 所属の寺浦麻貴、子役で2018年11月18日題名紹介『あの日の オルガン』などに出演の徳網ゆうならが脇を固めている。 公開は、大阪ではすでに先行で行われており、東京は2023年 2月4日より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次ロードショウ となる。
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