2009年06月28日(日) |
ドゥームズデイ、ゴー・ファースト、バスティン・ダウン・ザ・ドア、カムイ外伝、96時間 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ドゥームズデイ』“Doomsday” 正体不明の致死性ウィルスの蔓延によりスコットランド全域 が隔離された近未来(?)のイギリスを描いたパニックアク ション。 イングランド−スコットランド間の国境線に壁が設けられ、 海上も封鎖されてスコットランド全体が隔離状態にされる。 そして何年かが経ち、人々の記憶からもスコットランドが消 えようとしたとき、重大な事態が起きてスコットランドに調 査隊を送る必要が生じる。 そこに選ばれたのは、隔離の寸前にスコットランドを辛くも 脱出した女性。当時はまだ幼女だった彼女が成長し、特殊部 隊を率いて現地に乗り込むことになる。ところが辿り着いた 場所は、現代文明が途絶した異様な世界だった。 ということで、すでにいろいろな近未来終末物の映画で描か れて来たようなものも含め、ある種ごった煮状態の不思議な 世界が展開される。そこには少なくとも3本の近未来映画の 影響が観られるようだ。 それにしても、イギリスを舞台にする近未来物というのは何 か不思議なムードが漂う。それは以前にも書いたと思うが、 イギリスSFには終末物の伝統のようなものがあって、その 影響もあるかも知れない。それと、やはりアメリカとは違う 歴史の重みのようなものも感じられるところだ。 因に本作は、アメリカのローグ・ピクチャーズ製作だが、脚 本・監督のニール・マーシャル以下、撮影、美術、編集など の主要スタッフはイギリス人で固められているものだ。 また俳優にも主にイギリス人が起用されて、主演は『アンダ ーワールド:ビギンズ』などのローナ・ミトラ。その脇を、 『ロジャー・ラビット』などのボブ・ホスキンス、『ココ・ シャネル』のマルカム・マクダウェルらが固めている。最近 はハリウッドで活躍する彼らも、元は全員がイギリス映画の 出身者だ。 とは言えこの映画では、突然中世の騎士物語風になったり、 あるいは終末世界物風になったり、目まぐるしく情景も変化 する。それはかなりのサーヴィス精神というか、その様々な 雰囲気の世界を観るだけでも充分に楽しめる作品になってい るものだ。 なお野外シーンの撮影は主に南アフリカで行われているそう だが、荒涼とした雰囲気が結構様になっていた。
『ゴー・ファースト/潜入捜査官』“Go Fast” ヨーロッパにおける麻薬捜査の模様を描いた実話に基づくと されるアクション作品。 主人公はフランス警察の潜入捜査官。宝石強盗団に潜入して 所定の成果を挙げた彼は、次の麻薬捜査では裏方に回らされ る。ところが撤収の際のミスで同僚刑事が殺害され、無理を 承知で逮捕した連中も、証拠不充分で釈放されてしまう。 そんな彼に麻薬組織への潜入捜査のチャンスが訪れる。その チャンスに賭けた主人公は、元々得意だった運転技術に磨き を掛け、さらにその他の特殊な訓練も受けて、前の宝石強盗 事件での逃亡犯という触れ込みで、裏社会へと入って行く。 やがてそんな彼の許へ、スペインからフランスへの麻薬運搬 の仕事が舞い込む。それは、スペインのマラガで大量の麻薬 を積み込んだ車を運転し、斥候と呼ばれる先導車の指示に従 って時速200kmで高速道路を突っ走るというものだった。 そしてスペイン/フランス両警察の監視体制の下、主人公の 運転する車は一路フランスに向け疾走を開始するが…その麻 薬運搬の仕事には、証拠不充分で釈放された刑事殺しの犯人 も関っていた。 『トランスポーター』『TAXi』の両シリーズを展開して いるリュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープ製作の作 品で、本作でも見事なドライヴィング・テクニックのカーア クションが描かれる。 ただし今回は実話に基づいているとのことで、フランス警察 に25年勤務する傍ら作家としても活躍しているジャン=マリ ー・スヴィラが脚本を執筆。さらに、『TAXi』シリーズ の主演サミー・ナセリの実弟で脚本家・俳優としても知られ るビビ・ナセリと、製作者のエマニュエル・プロヴォが共同 脚本家として名を連ねている。 一応実話に則してはいるのだろうが、描かれるカーアクショ ンはかなりのもので、そこには多少の誇張もあるのだろう。 しかもそのカーアクションをCGIなしの、ほとんど実写で 撮影しているのだから、それも強烈な作品だ。カーマニアに はその車の疾走する姿だけでも充分に堪能できそうだ。 主演はセザール賞に3度ノミネートの実績を持つロシュディ ・ゼム。共演には『息子のまなざし』でカンヌ映画祭男優賞 を受賞のオリヴィエ・グルメなど演技派が顔を揃えている。 その人間ドラマも見所と言える。 因に題名は、麻薬の運搬人を指す警察内の隠語だそうだが、 英語の発音では『ゴー・ファスト』ではないかと思えるとこ ろだ。ただし本作はフランス映画なので、英語と同じ発音で はないのかな? それから、女性の登場人物の1人の首筋に「安」という刺青 があり、実は『トランスポーター3』のヒロインの首筋にも 同じ刺青が認められた。別段同じ人物と言うことでもなさそ うだが、何か意味があるのだろうか。
『バスティン・ダウン・ザ・ドア』 “Bustin' Down the Door” 1970年代のハワイ・オアフ島ノースショア。そこに打ち寄せ る巨大な波を背景に、現在では数100億ドル規模とも言われ るサーフィン産業を立上げた6人の男たちがいた。そんな男 たちの姿を追ったドキュメンタリー。 彼らはそれぞれが南アフリカやオーストラリアの出身者であ り、母国のアパルトヘイトによる国際社会からの追放や、家 庭の貧困などの現実を背負って、その海岸に夢を求めて流れ 着いてくる。そこには地元民も恐れる巨大な波が打ち寄せて いた。 そんな波に彼らは果敢に挑戦して行く。それはやがてサーフ ィン写真家たちの注目を集めることになり、サーフィン雑誌 のグラビアや表紙を飾り始める。しかしそこには、地元民と の確執や抗争も避けられなかった。 当時すでにサーフィンのコンテストは開かれていたが、そこ に参加できる外国人の枠が制限されていたり、さらに地元民 が組織したギャングまがいの連中との流血の事態も繰り広げ られる。そんな中で彼らはプロサーファーという新たな地位 を作り上げて行く。 1970年代初頭のノースショアには、ヴェトナム戦争の忌避者 やヒッピーなどがたむろし、酒やドラッグなどが大量に消費 される無法地帯だった。そして6人も最初はそれに溺れて行 くのだが、恐らくは地元民との抗争が彼らを目覚めさせる。 もちろんそこには運も味方してくれただろうが、それより自 然が作り出すノースショアの巨大な波に果敢な挑戦を続け、 その技を磨くことが、彼らを新しい世界の次元へと導いて行 くことになる。 そんな世界を変えた男たちの姿が、彼ら自身は元より当時抗 争を繰り広げた地元の連中などへのインタヴューと、当時に 撮影されたサーフィンの映像と共に綴られて行く。 ビーチ・ボーイズの『サーフィン・USA』が1963年。ジョ ン・ミリウス監督の『ビッグ・ウェンズデー』が1978年。当 時すでにサーフィンは文化ではあったが、まだ産業としては 萌芽であったようだ。 そんな時代に生きた男たちの姿が描かれる。そしてそれはサ ーフィンだけでなく、もっと広く人間の生き様を描いた作品 でもあった。
『カムイ外伝』 白土三平原作による漫画の実写映画化。同原作からはテレビ アニメ化はされたことがあるが、実写による映画化は過去に 幾多の監督が試みたが実現していなかったものだそうだ。そ んな原作の映像化がCGIの採用によって初めて実現した。 物語の舞台は17世紀。忍者の掟を嫌って抜忍となったカムイ は、追手を逃れて孤島の漁村に暮らす漁師一家の許に身を寄 せる。しかしそこでの平穏な暮らしも束の間、一家やカムイ 本人にも追手が迫って来る。そして海を舞台にした壮大な歴 史絵巻が開幕する。 映画化の元とされた物語は、1982年のビッグコミック誌に連 載された「スガルの島」篇と呼ばれるもので、以前の記者会 見での崔洋一監督の発言によると、この物語を選んだのは話 が独立していることと、長大な原作の中で唯一海が舞台だっ たからだそうだ。 昔の怪獣特撮映画では海の描写はタブーに近いものがあった が、CGIのお陰でそれも解消されたようだ。そしてこの映 画には、嵐に翻弄される小船や巨大な渡り衆の船、さらには フカ狩りの様子など海のシーンがふんだんに登場する。 その映像の完成度は、センスの問題として多少気になるとこ ろはあったが、概ねよく作られているように観えた。その他 にも映像では、白土の原作に描かれた様々な忍法が巧みに再 現されており、それも楽しめるものになっている。 それに加えて、主演の松山ケンイチを始めとする俳優たちが 演じるアクションシーンも、撮影はかなりハードなものだっ たようで、ここにもCGIによるサポートはあるものの、し っかりとしたアクションが演じられているものだ。 共演は、カムイが身を寄せる漁師一家の妻スガル役に小雪、 渡り衆のリーダー不動役に伊藤英明。その他、佐藤浩市、小 林薫、大後寿々花、金井勇太、芦名星、土屋アンナ。そして 香港から『風雲−ストームライダーズ』などのイーキン・チ ェンが参加している。 脚本は崔監督と宮藤官九郎。実は宮藤の脚本には、僕の中で は作品によって好き嫌いが激しく分かれるのだが、今回は納 得できるものになっていた。といってもお話は原作通りなの だろうし、アクションは監督の領分だろうから、後は卒なく 纏めたというところか。 白土原作の背景にある差別の問題なども明確に描き込んでい るのは、さすが崔監督という感じのところでもあるし、映像 やアクションなど、映画の全体として僕には納得のできる作 品となっていた。 著名な原作に人気スターの主演、後はそれに相応のヒットを 期待したいもの。そして物語の続きも観たくなった。
『96時間』“Taken” またまたリュック・ベッソン主宰ヨーロッパ・コープ製作の アクション作品。アカデミー賞スター=リーアム・ニースン の主演で、ヨーロッパ旅行中に犯罪組織に拉致された娘の救 出を目指す父親の大活躍が描かれる。 主人公は、仕事への没頭を理由に妻から離婚させられた男。 しかし娘への思慕が断ち切れず、天職だった仕事も辞めて娘 と妻の住む町で暮らしている。そんな男には、元の仕事仲間 が仕切る著名人のボディガードの仕事が斡旋され、そこでは 危機に際して絶大な能力を発揮する。 そんな男の娘が旅行中に拉致される。その犯行は人身売買を 目的とした旧東欧の犯罪組織の仕業と判明し、麻薬漬けにさ れて売春組織に売られるまでのタイムリミットは96時間と判 断される。そして男は現地に向かい、昔の伝を使って犯人を 追いつめる。 実は主人公は元CIAというお話で、その能力や組織を最大 限に活用して一気に犯人たちを攻め立てて行く。元々タイム リミットがある上に、映画の上映時間も93分という作品だか ら、間怠っこしいところは一切なしで、強烈なテンポで話が 進んで行く。 それはさらに凶悪な犯罪者相手の攻防ということで手加減も 一切なし。打ちのめすは打ち殺すは…の連続で、それが一種 爽快という感じにまで昇華しているのは大したものと言える 作品だ。 脚本は、ベッソンと、『レオン』以来のコンビのロバート・ マーク・ケイメンが担当。監督には、2002年『トランスポー ター』などの撮影監督で、2004年『アルティメット』で監督 デビューしたピエール・モレルが起用されている。 共演は、『007ゴールデンアイ』や『X−メン』シリーズ などのフェムケ・ヤンセン、『ジェーン・オースティンの読 書会』に出ていたマギー・グレイス。他に、デビューシング ルが全英ヒットチャート1位に輝いたという歌手のホリー・ ヴァランスらが出演している。 自分も年頃の娘を持つ父親として、娘に一旦何かことが起き たら何でもしたい気持ちはあるが、この主人公のようにはな かなか行くものではない。確かベッソンにも娘がいたと思う が、そんな気持ちで脚本を執筆したのかとも思える。僕には そんな共感も覚える作品だった。
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