井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2008年07月20日(日) インビジブル・ターゲット、イエスタデイズ、パンダフルライフ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『インビジブル・ターゲット』“男兒本色”
2005年『香港国際警察/NEW POLICE STORY』を始め、最近の
香港でのジャッキー・チェン映画を数多く手掛けるベニー・
チャン監督が、『香港…』にも出演したニコラス・ツェー、
『インファナル・アフェア』のショーン・ユー、ジャッキー
・チェンの息子ジェイシー・チャンの共演で贈る新ポリス・
ストーリー。
武装強盗団に婚約者を殺された刑事、同じ強盗団に屈辱を受
けた警部補、そして、失踪中の兄がその強盗団の一味と疑わ
れている警官。その3人が出会い、事件の真相を明らかにす
るべく行動を開始するが…
この強盗団というのが、元東南アジアの内乱の戦士たちの残
党という設定で、戦闘能力が高い上に冷血。しかも、爆発物
等の扱いにも精通しているとなっていて、格闘技、銃撃戦、
そして爆発火災までが見事に実行される。
中でも、強盗団のリーダー格を演じる『SPL/狼よ静かに
死ね』などのウー・ジンは、『かちこみ!ドラゴン・タイガ
ー・ゲート』で見事なアクションを見せたツェー、ユーのコ
ンビを相手にして、しかも圧倒して行くのだから、その迫力
は尋常ではないものだ。
上映時間は2時間9分もあるが、その時間をほとんど隙間な
くアクションが連続する構成で、正直に言って見終ると観客
にも疲労感が残るほどの激烈なものになっている。つまりそ
れが望みの観客には、これ以上のプレゼントはないと言う感
じの作品だ。
共演は、アンディ・オン、ロー・ワイコンなど『香港…』の
メムバーに加えて、『ドッグ・バイト・ドッグ』のサム・リ
ー、『風雲/ストーム・ライダー』のアーロン・クォックら
も顔を出している。
なおジェイシー・チャンは、普段は二枚目だが、笑顔や泣き
顔になると父親そっくりになるのがご愛嬌。因に彼の本業は
歌手だそうで、確かにカンフーアクションのシーンはそれほ
どではなかったが、炎の中を転げ回るなどのスタントはちゃ
んとこなしていた。
そしてその分のカンフーアクションは、ツェーとユーが強烈
に演じているものだが、上記のウーとの闘いだけでなく、そ
の他の集団相手のアクションなども、見事な破壊の連続と併
せて、本当に見応えのあるものになっている。
香港アクション映画では、今期最強の1本と言えそうな作品
だ。

『イエスタデイズ』
「このミス」等にも選ばれている本多孝好原作の短編小説の
映画化。
余命を宣告された父親に頼まれて35年前に別れた女性の行方
を探す息子の物語。その手掛かりとして一冊のスケッチブッ
クを渡された息子は、そこに描かれた場所を訪ねてみる。そ
してその場所でスケッチブックを広げると…
そこには、35年前の画家を目指していた父親と、ピアニスト
の夢を膨らませる恋人の世界が広がっていた。そして主人公
はその2人と親交を持ち、2人の生活が取り返しのつかない
変化の淵に追いやられて行くのを見つめて行くことになる。
絵を切っ掛けに主人公がその時代に遡るという物語は多分先
例があると思うが、本作の映画化はその点をうまく表現して
いる。しかも、VFXなどもあまり使用せずにそれをやって
のけようとする演出は、それなりに感心しながら観てしまっ
たものだ。
しかも本作は、実は親殺しのパラドックスになるものであっ
て、SFファンとしては始めからその点ではらはらしてしま
うのだが…。主人公がそれに気付いていないというのも面白
いところで、それがある時点でちゃんと指摘されるという展
開にも感心した。
つまりこの主人公は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
のマーティとは全く逆の立場にいる訳で、これはSFファン
には当然すぎていまさら指摘するまでもないことだが、映画
ではこんな単純なパラドックスでも、解決できていない作品
が多く観られるものだ。
実際、SF畑ではない作家がその点に気付いて原作を書いて
いるかどうかは判らないが、SFファンとして観ているとそ
の辺の処理も実にスマートで、これはやられたとも思ってし
まったところだった。

主演は、塚本高史、國村隼、和田聰宏、原田夏希。他にカン
ニング竹山、蟹江一平、中別府葵が脇を固め。さらに高橋惠
子、風吹ジュンが出演している。
監督は、本作が長編映画デビュー作となる窪田崇。ショート
フィルムやミュージッククリップなどで実績のある人のよう
だが、絵作りも含めて気に入ったものだ。
それから脚本は、2006年に東野圭吾原作の『手紙』、高橋し
ん原作の『最終兵器彼女』などを手掛けている清水友佳子。
前者は自分でも気に入った作品(2006年10月20日紹介)で、
本作でもその本領は発揮されていたようだ。

『パンダフルライフ』
中国・成都大熊猫繁育研究基地と、和歌山県南紀白浜にある
アドベンチャーワールドで飼育されているパンダを記録した
ドキュメンタリー作品。
パンダの母親は通常双子を産んで、その一方だけを育てるの
だそうだ。このため成都の研究基地では、母親に好物の蜂蜜
を皿で与え、その隙に赤ん坊を取り替えて2匹を均等に育て
させる工夫をしているようだ。
これに対して南紀では、自然に双子を育てた母親がいるとい
う。そのやり方は紹介されていないが、そうして育って双子
のパンダが本作の主人公となる。そしてその双子のパンダの
中国への帰国や、兄弟の別れなどが描かれる。
その間には、上記の要領で育てられている中国のパンダの様
子や、4頭が仲良く暮らす「おとぼけカルテット」と称され
る若年パンダの様子なども紹介されて、それぞれ愛らしいパ
ンダの映像が満載という作品になっている。
そしてナレーションは、菅野美穂が女性らしい口調も織り込
みながら、妙に感情を高ぶらせたり、押しつけがましくなる
ようなこともなく、ほのぼのとした映像にマッチした解説を
付けている。
ただ、アニメーションを使って解説される元々は肉食のパン
ダが竹を食べるようになった理由や、白黒の模様の理由につ
いては、こんなことで良いのかなという感じではあったが、
まあ中国側の説明がこんなものなのだろう。
それでも、竹を食べるようになっても消化器官は肉食のまま
なので、20%程度しか栄養にならないなどの説明がちゃんと
あったのは、それなりに学術的な面にも気は使われていたよ
うだ。それも程々に行われていたのは良い感じだった。
上野動物園のパンダがいなくなって、直前には『カンフー・
パンダ』も公開される。そんなタイミングを図ったような作
品だが、決して拙速に作られたものではなく、内容的にもし
っかりしたものになっている。特に幼い子供さんには観ても
らいたい作品だ。
なお、この試写会は新設された新宿ピカデリーで行われたも
のだが、2階に広いロビーを持つ劇場はなかなかの雰囲気だ
った。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二