井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2006年06月15日(木) 第113回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は久しぶりに記者会見の報告から。
 7月1日に日本公開されるピクサー=ディズニー作品『カ
ーズ』のジャパンプレミアに合せて監督のジョン・ラセター
が来日し、都内で会見が行われた。会見では後半に日本語吹
き替えを担当する声優なども登場して、映像報道はその辺に
集中しそうだが、前半ではラセター監督のキャラクター作り
の秘密のようなものも披露され、興味深いものだった。
 その中で監督は、キャラクター作りには最初にその存在の
目的を考えるとしていた。そこで監督は演壇のコップを手に
取って、「コップの目的は液体を入れること。であるなら水
の満たされたコップは幸せに感じているだろう。しかし水を
飲まれたら、コップは幸せを減じられて、もしかしたら飲ん
だ人に怒りを感じるかも知れない」と発想して行くそうだ。
これを監督は、自分で喋ったときと通訳の時の2回同じ身振
り手振りで説明してくれた。
 アニメーションというのは、一般的にキャラクターが先行
してそこから物語が作られて行くが、今回の監督の発言は、
さらにその前のキャラクターそのものの発想に関するもので
興味深かった。それにしてもこの発想によると、全てが人間
の感情に置き換えられることになるものだが、この辺にラセ
ター監督作品のキャラクターがいつも「人間の置き換えでは
ないのに人間臭く感じられる」理由があるようにも思えた。
それは他社の作品ではあまり感じられないし、ピクサーでも
ラセター作品以外ではちょっと違う感じもする。この辺が彼
の作品の魅力のようにも感じた。
        *         *
 以下は製作ニュース、今回は続報がいろいろ届いている。
 まずは、2005年12月1日付第100回で紹介したジム・キャ
リーとティム・バートンの顔合せで、パラマウントが進めて
いた“Ripley's Believe It or Not”の計画が、1億5000万
ドルに達すると見られる製作費の高騰で頓挫し、替ってバー
トンが以前に計画していたミュージカルの映画化“Sweeney
Todd”が再浮上する可能性が出てきたということだ。
 しかもこの計画は、以前にはジョニー・デップの主演で進
められていたもので、そのデップは12月15日付第101回で紹
介した“Shantaram”の映画化の準備を進めていたものの、
こちらも監督のピーター・ウェアが降板を表明して撮影が先
送りされる可能性が出てきたということだ。そこで、両者の
スケジュールが空く可能性の高い来年前半に撮影できるとい
うことなのだが…。
 因に“Sweeney Todd”は、1979年度のトニー賞で、作品、
主演男・女優、演出、作詞作曲、振り付けを独占したヒット
ミュージカルだが、お話は、世にも恐ろしい床屋と人肉パイ
を売る肉屋の女将が主人公という飛んでもないもの。それを
バートン、デップ、それにヘレナ・ボナム=カーター(?)
の顔ぶれでというのは、かなりの作品になりそうだ。
 そしてこの計画は、以前はワーナーで計画されていたもの
だが、バートンがスケジュールの都合などで降板したことか
ら権利が放棄され、その後をドリームワークスが引き継いで
いた。従ってパラマウントとしては、すでに子会社化してい
るドリームワークス作品が替って製作されるのは好都合とい
うこともある。またドリームワークスでは、権利を獲得した
後はサム・メンデス監督が脚本家のジョン・ローガンと共に
準備を進めていた時期もあったということで、会社的には計
画は進行中ということのようだ。
 ただし“Shantaram”はワーナーで進められている上に、
デップとしては、自身で設立したプロダクションの第1回作
品という位置づけもあり、そう簡単には諦められない。さて
どうなることか。
 なお、その後の情報で、パラマウントとバートン、それに
キャリーは、脚本とVFX予算の見直しを行って計画を立直
し、2007年秋ごろに中国で撮影を行いたいという方向も示し
てきており、その前にバートンが1本監督する余裕はある、
という状況になってきたようだ。
        *         *
 お次は、前回は製作時期を未定として紹介したヴィン・デ
ィーゼルの監督主演による歴史大作“Hannibal”の計画が進
み始めているようだ。
 報告によると、ディーゼルはスペイン、ポルトガル両国の
ある南ヨーロッパのイベリア半島でロケ地のスカウティング
を行っており、また、物語のキーとなる巨象を乗りこなす訓
練も始めているとのことだ。ただし、ディーゼルは何故か象
の乗り方は事前に知っていたそうだ。
 一方、ディーゼルは、俳優監督の先輩メル・ギブスンの例
に倣って本作の台詞を当時の言葉にすることを希望、そのた
め『パッション』の製作にも協力した古代語の研究者を招請
して、台詞をギリシャ語とラテン語、それに古代カルタゴの
言葉ピューニックに翻訳する作業を開始しており、さらに彼
自身もラテン語の学習をしているとのことだ。
 カルタゴの将軍ハンニバルが象に乗ってアルプスを越え、
ローマに攻め入ったという故事については、1960年にイタリ
アでの映画化と、1969年にオリヴァ・リード主演の『脱走山
脈』(Hannibal Brooks)がインスパイアされた作品として
知られているが、ハリウッドでちゃんと映画化された記録は
ないようだ。最近はCGIのおかげで古代世界の再現も結構
手軽になってきているようだし、ここはひとつディーゼルの
思い入れで、本格的な映画化を期待したいものだ。
 ただしこれによって、前回紹介したロマンティック・コメ
ディの方は少し先になってしまいそうだ。
        *         *
 前回、キャラクターの独立シリーズが計画されていること
を紹介したコミックスの映画化“X-Men”について、計画は
4つあることが正式に報告された。
 計画が報告されたのは、まずは前回も紹介したヒュー・ジ
ャックマンが演じるウルヴァリンを主人公にした作品で、こ
の計画ではすでにデイヴィッド・ベニオフの脚本も執筆され
ているものだ。
 続いては、これも前回触れたが、イアン・マッケランが演
じたマグニトーの物語がやはり進んでいたようだ。なお今回
の報告では物語については紹介されていなかったが、以前の
情報によるとマグニトーの若い時の話となっていたはずだ。
 そして3本目は、映画シリーズには登場していないがコミ
ックスでは人気のテレパスで、身体をダイアモンドに変えら
れる能力を持つエマ・フロストを主人公にした作品も計画さ
れている。前回ハリー・ベリーが独立シリーズを断ったこと
を紹介した後でこの情報は、その代わりという感じもしない
でもないが、Webに紹介されているイラストを見ると、かな
りCGI向きという感じのキャラクターで、その映画化にど
んな女優がキャスティングされるかも話題を呼びそうだ。
 さらに4本目として、プロフェッサーXが率いるミュータ
ント・スクールの子供たちの話も作られるということだ。こ
の作品は“Harry Potter”路線という感じで、他の3本より
はちょっとお子様を狙ったものになりそうだが、作るとなる
とパトリック・スチュアートの出演は欠かせない感じで、そ
の辺の調整はちゃんと行われるのだろうか。
 なお、前回も紹介したように、ハリー・ベリーは“X-Men
4”なら出ると発言しているものだが、それにはウルヴァリ
ンの登場は望めない。しかし、折角ベリーほどの女優が出る
と言ってる作品を切るのも忍びないところだ。大人の超能力
者のチームものでは、すでに“Fantastic Four”をスタート
させているフォックスが、これをどう決断するかも注目され
る。
 因に、“Fantastic Four”の続編については、新たにシル
ヴァー・サーファー登場の線で計画が進んでいるようだ。
        *         *
 2003年5月1日付第38回で紹介したニコラス・ケイジ主演
による“Ghost Rider”については、実は昨年夏に撮影が行
われ、当初は今年7月14日の公開を目指して製作が進められ
ていた。ところが昨年12月になって、突如その公開を2007年
2月16日に半年以上延期することが発表され、この延期に関
しては、MGMの買収で作品のだぶつくソニーが公開場所を
失ったのではないか、などの憶測が飛び交っていた。しかし
その真相が製作者でもあるケイジの口から報告された。
 その報告によると、公開の遅れは純粋にVFXの完成度を
高めるためだったということだ。それは映画のクライマック
スで、主人公がヘリコプターと共に闘うシーンということだ
が、すでに会社側のOKは出ていたにも関わらず、脚本・監
督のマーク・スティーヴ・ジョンスンが納得せず、作り直し
が進められた。その結果はケイジの発言によると、「奴らは
本当に凄いよ」ということなのだそうで、ケイジ自身のドリ
ームプロジェクトでもあるこの作品は、かなり満足の行く出
来になっているようだ。
 お話は、以前にも紹介したように、闇の力に魂を売り渡し
たオートバイレーサーの主人公が、彼を愛する女性を守るた
めに闇の力に反抗し、彼らとの闘いを始めるというもの。こ
れに、一時は『ブレイド』などのスティーヴン・ノリントン
監督も関っていたが、最終的には『デアデビル』のジョンス
ン監督が映画化したものだ。
 因に、ヒーローアクションもので2月の公開というと、昨
年の『コンスタンティン』のように、ちょっとダークサイド
を持ったヒーローが活躍する作品が生まれる時期で、今回の
作品もその路線に乗ったものになるようだ。その路線からも
ちょうど良い時期の公開になりそうだ。
 なおケイジは、現在リー・タマホリ監督でフィリップ・K
・ディック原作の“The Golden Man”を映画化する“Next”
を撮影中で、今回の発言はその休憩時間に行われたインタヴ
ューに答えたものということだ。
        *         *
 続報はこのくらいにして、ここからは新しい話題を紹介し
よう。
 ディズニー傘下のミラマックス時代には、『HERO』や
『もののけ姫』のアメリカ公開を手掛けたワインスタイン兄
弟が、新会社でも積極的にアジア作品に関わる姿勢を見せ始
めた。
 その一端としては、すでにタイ映画『トム・ヤム・クン』
のアメリカ配給に続いて、同じくトニー・ジャー主演で今秋
撮影される“Ong-Bak 2”(『マッハ!』の続編)の北米配
給権も獲得しているものだが、今度はチャン・ツィイーとの
3作品の契約が発表され、この契約では製作段階から直接関
わることになるようだ。
 その1本目には、1998年にディズニーが長編アニメ化した
ことでも知られる中国の民話に基づく女性レジスタンス闘士
の物語“Mulan”を、実写で映画化する計画が発表された。
この計画では、『グリーン・ディティニー』などのワン・ホ
エリンが脚本を担当し、製作費2000万ドルを掛けて来年2月
の撮影予定になっている。因にこの物語は、1956年に中国で
実写映画化された記録があるそうで、今回はそのリメイクと
いうことになるようだ。
 そして2本目もリメイク計画で、何と黒澤明監督の1954年
作品『七人の侍』を、ツィイーの主演で映画化すると発表さ
れている。こちらはまだ本当の計画段階のようだが、以前に
は西部劇でもリメイクされたこの物語を、女性を主人公にし
て一体どんなお話になるか楽しみだ。
 さらに3本目の計画については、今後改めて発表されると
いうことだ。
 それにしても、“Mulan”のリメイクとはディズニーへの
対抗意識も感じられるところだが、中国映画界にはそのディ
ズニーも含め各社入り乱れての参入合戦が続いており、その
中で、今回のTWCとツィイーとの契約は、一歩リードの感
じもするところだ。
        *         *
 今年4月に盗聴事件に関連した偽証罪で逮捕されて話題に
なったジョン・マクティアナン監督が、再始動ではFBIと
組むと発表された。と言っても、これはFilm Bridge Intl.
というプロダクションが彼の次回作の資金調達と配給権を契
約したもので、その契約で“Deadly Exchange”という作品
が予定されている。
 この作品の内容は、FBI捜査官に父親を殺されたテロリ
ストが、その捜査官に復讐を企てるというものとなっている
が、その脚本家が『エイリアン』『トータル・リコール』、
それに最近では『エイリアンvsプレデター』などのロナルド
・シュセットということで面白くなりそうだ。なお、脚本は
イアン・ラビンとの共同で執筆されているものだ。
 因に、映画の計画自体は逮捕前からあったもののようで、
本物のFBIの取り調べを受けたマクティアナンの実体験が
生かされるか…?という報道もされていた。
 キャスティング等は未発表だが、撮影は晩夏に開始予定。
カンヌ映画祭でプレセールスが行われて、スペイン、ポルト
ガル、ロシア、ギリシャ、東欧、中東などの配給は決定した
ようだ。
 なお、マクティアナンの監督作品は、2003年のジョン・ト
ラヴォルタ、サミュエル・L・ジャクスン共演による『閉ざ
された森』以来となるものだ。また、今回逮捕の訴因となっ
た盗聴は、2002年に公開された『ローラーボール』リメイク
の製作者チャールス・ローヴェンに対して行われたものだっ
たそうだ。
        *         *
 『イル・マーレ』リメイク版のプロモーションを開始した
キアヌ・リーヴスが、昨年公開された“Constantine”の続
編について語っている。
 彼の発言によると、「多分、(続編製作の)空気はある。
自分もそれは望んでいる。この物語はすごく長いものだし、
自分たちはそれを語り尽くしたいと思っている。後は製作者
(ジョール・シルヴァ)の意志次第だ」とのことだ。
 因にこの発言に対しては、今回の共演者で1994年の『スピ
ード』でも共演したサンドラ・ブロックからは、1997年の続
編に彼が出演しなかったことを鋭く突っ込まれたようだが、
彼自身は昨年のプロモーションの時にも続編の期待を表明し
ていたもので、これはかなり本気のようだ。
 元々がDCコミックス発行のグラフィックノヴェルを原作
とするこの物語は、地獄と天国の究極の闘いを描いており、
昨年の映画化がそのほんの一部でしかないことは見ても判る
感じだった。ただし、その中途半端さが映画の評価にもつな
がってしまった感じもするもので、ここはちゃんと続編を製
作して、物語を完結させてもらいたいものだ。
 なおリーヴスの主演作では、今回のリメイク作の後には、
フィリップ・K・ディックの原作を映画化した“A Scanner
Darkly”も連続公開されることになっており、これからも発
言の機会は多くありそうだ。
        *         *
 1978年にジョン・カーペンター監督の手で第1作が公開さ
れた“Halloween”シリーズの新作が計画され、その脚本・
監督を、2003年に“House of 1000 Corpses”(マーダー・
ライド・ショー)を手掛けたロブ・ゾンビが担当することが
発表された。
 オリジナルは、1974年に公開された“The Texas Chainsaw
Massacre”と共にスプラッター(スラッシャー)ムーヴィ
の先駆けとなった作品だが、その後のシリーズ化では2002年
に最新作の“Halloween: Resurrection”が発表されている
ものの、作品的には1998年にスティーヴ・マイナー監督が担
当した“Halloween H20: 20 Years Later”がオリジナルと
並ぶ評価を得ているようだ。
 その新作が計画されているものだが、今回の計画は単にシ
リーズの本数を増やすものではなく、オリジナルのコアな部
分に立ち返って、ゾンビ監督の発言によると、「前日譚とリ
メイクを併せたようなもの」になるとのことだ。さらに「物
語はシリアスで、恐怖感をあおる作品にしたい」とも語って
いる。
 またゾンビ監督は、監督就任に当ってカーペンターとも会
見を持ったということで、「オリジナルの“Halloween”は
僕の拠所となっているものだ。そのことを彼に話すと、彼は
今回の計画を支援すると言ってくれた」とのことだ。
 因に、ロブ・ゾンビは元々がロック・ミュージシャンで、
自作の映画音楽も担当しているが、一方、カーペンターも、
自作の映画音楽を手掛けている。その音楽については、今回
のゾンビはスーパーヴァイザーという立場を取るということ
で、オリジナルを活かしたものになりそうだ。
 また、今回の計画は、過去の経緯からディズニー傘下のミ
ラマックスとTWC傘下のディメンションの共同製作となる
ものだが、実権はディメンション側が握るようだ。そこで、
実質的な製作統括となるTWCのボブ・ワインスタインは、
「ゾンビは天賦のミュージシャンであり、パフォーマーで、
さらに才能ある映画作家だ。今回の“Halloween”に対する
彼のヴィジョンは途轍もなく素晴らしいもので、このコラボ
レーションには大いに期待している」と発言している。公開
は、オリジナルから29年目の2007年10月に予定されている。
        *         *
 最後は短いニュースをまとめて紹介しておこう。
 『アイ,ロボット』を製作したアントニー・ロマノとマイ
クル・シェーンが、イギリスで製作されるインディーズ作品
“The Other Side”の製作を手掛けることになった。この作
品は、理系の学生の主人公が、夏休みを離島で過ごすことに
なるが、そこは現実世界からちょっとずれたところに位置す
る場所で、そこで主人公はいろいろ不思議な体験をするとい
うもの。デイヴィッド・マイクルズとフィル・リーヴスの脚
本からマイクルズが監督するものだ。そしてこの作品には、
ブリタニー・マーフィ、ライアン・ゴスリング、ティム・ロ
ス、ジョヴァンニ・リビシ、ジェイスン・リー、アンジェリ
カ・ヒューストンの出演が発表されており、これだけの顔ぶ
れを引きつけた作品の魅力も気になるところだ。
 もう1本。昨年12月15日付第101回で紹介したエド・プレ
スマン製作“The Mutant Chronicles”の映画化に、デヴォ
ン・アオキの出演が発表された。23世紀を舞台に、地下世界
から現れたミュータント部隊との闘いを描くこの作品には、
すでに主人公を演じるトーマス・ジェーンの他、ジョン・マ
ルコヴィッチ、スティーヴン・レエ、ロン・パールマン、ベ
ンノ・ファーマンらの出演は発表されているが、今回発表さ
れたアオキが演じるのは、母親の跡を継いで戦士となったデ
ュヴァルという、キャスティングリストも2番目の副主人公
ということだ。『シン・シティ』でもかなり頑張っていたア
オキの活躍を期待したいところだ。
        *         *
 最後にぎりぎりで、『コナン』のリメイクの計画が正式に
ワーナーから発表されたことと、スティーヴン・スピルバー
グ監督が、ついに『2001年宇宙の旅』の後を追うことを
目指すとした本格宇宙SF映画の情報が飛び込んできたが、
これらは次回に改めて報告することにしたい。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二