2004年04月30日(金) |
ウォルター少年と…、風の痛み、バレエ・カンパニー、ワイルド・レンジ、花咲ける騎士団、シュレック2、セイブ・ザ・W、機関車先生 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ウォルター少年と夏の休日』“Secondhand Lions” ハーレイ・ジョエル・オスメントとマイクル・ケイン、ロバ ート・デュヴォルが共演した不良老年と少年の成長ドラマ。 オスメント扮するウォルター少年は、無責任な母親によって 夏休みの2カ月を2人の大叔父と一緒に過ごすことになる。 大叔父たちは、40年近く行方不明だった後に突然帰ってきた ものだが、なぜか大金を隠しているという噂がある。そして 少年には、その金の隠し場所を探ることも命じられている。 こうして、お互いつき合い方の判らない少年と老人たちは、 ぎくしゃくした生活を始めるのだが…。そんな中、少年は古 い旅行トランクの底に、乾いた砂に埋もれて隠された女性の 写真を発見する。そして老人たちは少しずつ昔話を始める。 それは驚異に満ちた一大冒険物語だった。 老人の思い出話と現実が交錯する展開は、先の『ビッグ・フ ィッシュ』にも通じるところがあるが、『ビッグ…』がファ ンタシーなのに対して、こちらはアドヴェンチャー。特に、 アラブ世界を背景にした外人部隊での活躍というのは、実に 微笑ましい。そしてこの2人の老人を、ひょうひょうとした ケインと、無骨なデュヴォルが見事に演じている。 一方、オスメントは、撮影当時14,5歳のはずだが、今までの 子供っぽさから、少し青年らしさが出てきた感じで、良い味 を出すようになってきた。ただ前半、今までのイメージで幼 さを強調している辺りが、ちょっとやり過ぎにも感じるとこ ろで、この辺りはもう少し年長の感じに演出しても良かった のではないかと思った。 結局物語は、今なお破天荒な生活を続ける不良老人たちと、 少年との交流に移って行くのだが、その中ではオスメントと ケインが、ディヴォルを見守っている雰囲気が実に良く、こ の配役は見事としか言いようがない。そして、結末で見事に カタルシスを感じさせてくれるところも素晴らしかった。 時代のせいか、最近、元気の良い老人の話が多くなってきて いるようにも感じるが、その中で本編は、老人が老人である ことを素直に描いたもので、見る方も素直な気持ちで見るこ とのできる作品のように感じた。 『風の痛み』“Brucio nel vento” ハンガリー出身でスイスに住む亡命作家アゴタ・クリストフ の『昨日』という小説を、イタリアのシルヴィオ・ソルディ ーニ監督が映画化した作品。 東欧の小国からスイスに亡命してきた男性と、異母妹の女性 との関係を描いた物語。この物語の本筋は、屈折した恋愛物 なのだが、その中には、亡命者ゆえの苦しみや彼らの生活の 現実が描かれている。 主人公は、東欧の小国のさらに小さな村で、娼婦の母親によ って父親も知らぬまま成長した。しかしある日、父親が誰で あるかを知り、その父親が教育援助と称して彼を寄宿学校に 入学させようとしたことから、その父親をナイフで刺して逃 亡する。 そしてスイスにやってきた主人公は、小説家になることを夢 見て言葉を覚えつつ、現実には時計工場の労働者として働き ながら10数年が過ぎる。しかし今なお独身の彼は、幼いころ に机を並べた異母妹の面影を追っていた。そしてその異母妹 が思わぬ形で彼の前に現れる。 せりふのほとんどは主人公の母国の言葉で、イタリアでの上 映時にも字幕付きで公開されたということだ。実際、配役に はチェコ出身の俳優が起用されており、イタリア映画なのに 全く違った雰囲気の作品になっている。 僕はイタリア語も、主人公たちの言葉も理解はできないが、 それでもその雰囲気が伝わってくるのは見事だった。 『バレエ・カンパニー』“The Company” 『スクリーム』シリーズ3作に出演のネーヴ・キャンベル、 『スパイダーマン』シリーズ2作に出演のジェームズ・フラ ンコ、それに怪優マルカム・マクダウェルの共演。しかもロ バート・アルトマン監督で、バレエ界の内幕を描いた作品。 ほとんどジャンル映画というか、僕の興味を引く作品に多く 出演している俳優たちの共演で、それだけでも楽しみだった が、しかもアルトマン監督。それにしても、この顔ぶれでこ の題材というのは、ちょっと意外な感じもするが…。 実はキャンベルは、元々はバレエをやっていたが、その裏側 の確執などに疲れてノイローゼになり、モデルを経て俳優に 転身したのだそうで、そのキャンベルが、バレエへの思いを 込めて、原案から製作も兼ねて作られた作品ということだ。 だから、バレエへの怨みつらみを描いた作品かというと、そ うではなく、「ま、いろいろあるけどがんばりましょう」と いうような映画に仕上がっていた。その辺は、自分の叶わな かった夢への純粋な思いという感じで、気持ち良かった。 撮影は、ジョフリー・バレエ・オブ・シカゴというアメリカ 有数のバレイ団の全面協力で行われており、キャンベル以外 のダンサーは、バレエ団のメムバー達が演じている。このバ レエ団には、過去にシャーリーズ・セロンやパトリック・ス ウェイジらも在籍していたそうだ。 また、その演目の演出シーンには、それぞれの演出家本人も 登場しているそうだ。 アルトマンは、最近の作品では、『ゴスフォード・パーク』 などのアンサンブル作品で観客を集めている。従ってこの作 品にも、そのような期待も持ったが、本作はいたってシンプ ルに、キャンベル演じるブレイク直前という感じの女性の生 き方を描いている。 その辺でアルトマン作品としては、ちょっと物足りない感じ もしないでもないが、元々が他人の企画に乗り込んでの演出 だし、上映時間1時間52分ではこんなものだろう。 それより、上記の演出家本人も映画に登場しているという舞 台面のシーンが、普段バレエを見慣れていない僕には興味を 引かれた。キャンベルのバレエの実力がどれくらいのものか も、僕には判断できないが、いくつか演じられる舞台のシー ンは面白かった。 主演の3人は、キャンベル、フランコは順当だが、この中で は、やはりマクダウェルが一枚上で、彼が演じたちょっと奇 矯なところもあるバレエ団々長の役は、お見事としか言いよ うがない。その痩身の体型といい、この役にはピッタリとい う感じだった。 なお、撮影はHDヴィデオシステムで行われている。 それにしても、この企画にアルトマンが関わった経緯も知り たいところだ。 『ワイルド・レンジ』“Open Range” ケヴィン・コスナー製作・監督・主演による西部劇。西部劇 小説の大家と呼ばれ、本作の製作開始直前の2001年12月に亡 くなった作家ローレン・ペインの原作の映画化。 1882年、南北戦争も終って10年以上が経ち、人々が定住を始 めた時代。広大な西部を行き来しながら放牧された牛を追う Open Rangeは、法律で認められた権利ではあったが、各地に 成立し始めた牧場主たちからは攻撃の的となっていた。 物語の中心は、そのOpen Rangeで生計を得ている4人。一行 は、ベテランのボスの下、長年行動を共にしてきたチャーリ ーと、新人料理人のモーズ、そしてボスが町で拾ったメキシ コ人少年のバトン。 荒野で自由気ままな生活を送る彼らだったが、ある日、人里 のない本物の荒野に入る前に買い出しに行った町で、モーズ が襲われる。そして、何故か留置所に入れられたモーズを受 け出しに行ったボスとチャーリーは、居合わせた牧場主から 怪しい雰囲気を感じ取る。 負傷したモーズを医者の許に置き、酒場を訪れたボスとチャ ーリーは、その町が牧場主によって支配され、その横暴さに 町の人たちも困っていることを知る。しかし、その場は荒野 に戻ったボス達だったが…。 主人公のボスを演じるロバート・デュヴォルが、『ウォルタ ー少年と夏の休日』に続いて、無骨だが人情に厚い西部男を 見事に演じてみせる。チャーリー役がコスナー。それに、僕 としては久しぶりのアネット・ベニングが良い感じの大人の 女性を演じていた。 他に『天国の口、終りの楽園』のディエゴ・ルナ、『ER』 のアブラハム・ベンルビ、『ハリー・ポッターとアズカバン の囚人』で新ダンブルドア先生役のマイクル・ガンボンらが 共演。 上映時間2時間20分、適度なユーモアとアクション、さらに 後半には約20分の決闘シーンなどもあり、長さは感じさせな かった。 『花咲ける騎士道』“Fanfan la Tulipe” 1952年に、ジェラール・フィリップ、ジーナ・ロロブリジダ の共演で映画化された作品のリメイク。オリジナルの映画公 開50周年を記念して、ヴァンサン・ペレーズとペネロペ・ク ルスの共演で再製作された。 時代は18世紀。ルイ15世が治めるフランスは、周辺の国々と の間で名声と「余興」のための戦争に明け暮れていた。そん な夢も希望もない世の中で、主人公のファンファンは女性相 手の生活に生き甲斐を見つけていた。 ところがある日、1人の女性の親から無理矢理娘との結婚を させられそうになったファンファンは、居合わせた女占い師 の予言に従い、結婚を逃れるために軍隊に入隊する。実はそ の予言は徴兵のために仕組まれた罠だったのだが…。何故か その予言が当たり始める。 こうして、ルイ15世やポンパドゥール夫人をも巻き込んで、 フランスの命運を賭けたファンファンの大活躍が始まる。 オリジナルは、昔テレビで見たはずだがよく覚えていない。 従って僕には両者を比較することができないのだが、プレス によると、オリジナルは、特に前半ロマンティックコメディ の色彩濃く描かれていたということだ。 これに対して、リメイクではアクション中心の構成になって いるが、この構成が実に巧い。アクションは剣戟中心だが、 巻頭から結末までのべつ幕無しに、しかもシチュエーション を変えながら展開するのは見事だった。 全体はクラシックな雰囲気をよく出している一方で、現代風 の味付けもあり、楽しめる。脚本は今年80歳のジャン・コス モスとリュック・ベッソンの共同ということだが、実際はど うなのだろう。なお、物語の展開も後半で現代風にいじられ ているようだ。 因に、ベッソンは製作も担当しているが、こういう記念映画 を製作するということは、本格的にフランス映画の顔として 認められたということの現れだろうか。なお、本作は昨年の カンヌ映画祭のオープニングを飾っている。 『シュレック2』(特別映像) 前作でアカデミー賞長編アニメーション部門の初代受賞に輝 き、5月開催のカンヌ映画祭でワールドプレミアされるシリ ーズ第2作の特別映像が、来日した監督の解説付きで上映さ れた。 上映されたのは、全体で約30分の動画映像の途中にスライド による解説を挟んだもので、説明によると、物語の前半が紹 介されたということだが、これでもまだ前半?と思うくらい に盛りだくさんの展開だった。 前作は、おとぎ話の世界を根底からひっくり返すような展開 で、いろいろ登場するキャラクターのパロディも面白かった が、今回もその基本姿勢は変わっていないようだ。 特に、新登場の「長靴をはいた猫」はいろいろな働きをする ようだし、今回の上映にはなかったが、ピノキオも活躍する らしい。この他、妖精のゴッドマザーが裏でいろいろ糸を引 いているようだったり…。 上映後の記者会見で、製作者のカツェンバーグが「ディズニ ーがユーモアを理解してくれることを祈っている」と言うく らいの内容になっているようだ。 ストーリーは、本編を見るまで紹介できないが、映像に関し ては、前作以上に緻密に描かれていて、前作から3年間の技 術の進歩を目の当りにした感じだった。特に、今回はフィオ ナ姫の両親を訪ねるという展開で、人間のキャラクターも見 事に描かれていた。 なお記者会見では、『シュレック3』についての発言もあっ たが、それについては、5月1日付の第62回の方で報告する ことにしたい。 『セイブ・ザ・ワールド』“The In-Laws” 1979年にアラン・アーキン、ピーター・フォーク共演で映画 化された『あきれたあきれた大作戦』を、マイクル・ダグラ ス、アルバート・ブルックスの共演でリメイクした作品。 ダグラス扮するCIAエージェントが、ブルックス演じる息 子の婚約者の父親を、自分が作戦展開中の国際的な陰謀事件 に巻き込んでしまうというアクションコメディ。 CIAエージェントのスティーヴは、ゼロックスのセールス マンを隠蓑に、世界中を飛び歩き、現在は武器密売に絡む国 際組織の撲滅作戦を展開中。しかし、一人息子の結婚式が迫 り、今まで任務に追われて親らしいことをしてこれなかった スティーヴは、今度こそ親の責任を果たそうとしている。 そんな彼を、FBIは任務とは知らずにマークし、スティー ヴと接触した婚約者一家にも捜査の手が伸びる。しかも行き がかり上、スティーヴは婚約者の父親を、自分の相棒として 組織との交渉の席に連れていかなければならなくなる。それ でもスティーヴは、自分の作戦と息子の結婚式を両立させよ うと、最後まで努力を続けるのだが…。 ダグラスにとっては久しぶりのコメディということだが、映 画の中でダグラスはもっぱらアクションに専念していて、コ メディの方はブルックスにお任せという感じだ。そして、こ のブルックスのコミックぶりが、オーソドックスなハリウッ ドコメディという感じで、最近のどぎつい笑いではなく楽し めた。 それに本作では、音楽も良いギャグになっていて、スティー ヴの作戦実行中は、ポール・マッカートニーの『007/死 ぬのは奴らだ』が流れたり、舞台がフランスに移ると『男と 女』のテーマが流れるといった具合。この音楽が、最後には とんでもない展開の前触れになるのも笑わせてくれた。 なおクロード・ルルーシュが、『男と女』の次に撮った『パ リのめぐりあい』に出演のキャンディス・バーゲンが、本作 ではスティーヴの元妻役で登場。『男と女』が使われている のは、その辺の絡みもあるのかも知れない。その他にも、ス タンダード音楽の名曲がいろいろ楽しめる作品だった。 それにしても、ウェストポーチがあんなに笑いに種にされる ものとは知らなかった。 『機関車先生』 伊集院静の柴田錬三郎賞受賞作の映画化。同じ原作からは、 1997年にアニメーションによる映画化があるが、今回は、坂 口憲二の主演(映画では初だそうだ)、『ヴァイヴレータ』 の廣木隆一監督による実写映画化。 瀬戸内海に浮かぶ小さな島の小学校を舞台に、臨時教員とし てやってきた口の利けない青年教師と、教え子の小学生や漁 民中心の島民たちとの交流を描く。実は、その島は主人公の 母親の故郷であり、そこにはいろいろな確執もある。 そして主人公の口が利けないのは、事故による後天的なもの であり、彼はその小学校を最後に教職を止めようと考えてい た。そんな教師と、子供たちと、島民の成長も描かれる。 物語の舞台というか、ロケ地に使われている本島は香川県丸 亀市にあるが、この丸亀には家内の実家があり、以前は毎年 のように夏休みに帰省し、本島にも何度か海水浴に行ったこ とがある。実際のロケの場所は知らないが、海の風景には懐 かしいものがあった。 設定が昭和30年代ということで、海岸の護岸工事などは違う かなと思うものもあるが、その再現は概ね良くやっている。 僕はその時代背景にもノスタルジーを感じてしまう訳で、映 画全体の雰囲気が、僕には懐かしさでいっぱいという感じの 作品だった。 前作で大人の男女を描いた廣木監督からは、かなり趣の違っ た作品だが、描かれている子供たちの自然体の演技は、学芸 会的な子役の演技の多い日本映画の中では良くできている方 に思えた。 大人の俳優は、堺正章、倍賞美津子、大塚寧々、伊武雅刀な ど、イメージそのままの配役で、演技云々より安心感があっ た。それと、場所を特定しない不思議な方言のせりふも、逆 に違和感がなくて、良い感じだった。 基本的には泣かせる感動作だろうが、敢えてそういう手法を 取っていないのは見ていて気持ちが良かった。上映時間2時 間3分は少し長めだが、緩急のバランスが良いためか、長さ が気になることはなかった。
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