せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2001年10月17日(水) 稽古日記再開「エレクトラ」

 久し振りの稽古日記です。
 今、フライングステージは公演の稽古じゃない、普段のトレーニングをしています。
 週に2回ね。
 ストレッチ、発声と、その時々に「やってみようか」と思って決めたテキストを元にいろいろとね。
 今は、ギリシャ悲劇の「エレクトラ」をやってます。
 紀元前5世紀頃に書かれたソフォクレス作の。
 tptでデヴィッド・ルヴォー演出のを見たことがあるんだけど、今回は、「グリークス」っていう十本のギリシャ悲劇をまとめて一つの芝居にした中の部分。
 去年、オールスターキャストで蜷川さんがやったよね。
 英訳されたセリフはとってもあっさりまとまっていて、でも、基本的なスジは全く同じだから、稽古には最適。
 これを選んだのは、「対立が厳しい」っていうのをやってみたかったから。
 しかも「命がけ」みたいなね。
 今フライングステージには新人くんが3人いるんだけど、彼らにまず、むちゃくちゃ厳しい対立っていうのをやってみてほしかったから。
 ただ、だらだらしゃべってるのってわりとすぐできるんだけど、そうじゃなくって、ドラマを動かす根本ってやっぱり「対立」でしょ?
 どんなに「なだらかな」台本にだって、見えないところでの「対立」はちゃんとある。
 おもしろい芝居ってそういうもんじゃない?
 でも、それがわかってないorわからないで作られてしまう芝居ってとってもつまらない。
 そうならないように、そんな芝居をしないように、まずはじめに基本の基本を体でわかってほしいなと考えて。
 「エレクトラ」っていうのはこんなお話です。ていうか、背景が複雑なので、大元のお話、「グリークス」だとあと2本の別なお話になるんだけど、そのへんから紹介しましょう。

 トロイアへ連れ去られたヘレネを奪回するためにギリシャ軍はアウリスの港に集結。でも、トロイアへ向かう船団は風が吹かないので、船出ができない。総大将アガメムノンは神の神託に基づいて、自分の娘イピゲネイアを生贄にする。そのために、アガメムノンは「アキレウスと結婚させる」と嘘をついて、妻と娘をアウリスへ呼び寄せる。やってきた、妻クリュタイムネストラは、アキレウスから全てはアガメムノンの計略だと知らされる。何とか、娘の命を救ってくれるよう頼むが、アガメムノンは総大将として生け贄を捧げないわけにはいかない。イピゲネイアは全てを知り、生け贄として死に赴く。彼女の喉を切り裂いたその瞬間、イピゲネイアがいた祭壇には大きな牝鹿が倒れている。神は、イピゲネイアを殺すことを惜しんで遠くへ連れ去ったのだった。だが、クリュタイムネストラはそんな話は自分をだますための嘘だと言って信じない。彼女の夫への憎しみは募っていくのだった。(「アウリスのイピゲネイア」)

 トロイアは破れ、アガメムノンは、戦利品であるトロイアの王女カッサンドラを連れて帰国する。クリュタイムネストラは夫を歓迎するが、カッサンドラを見ると顔色を変える。愛想良くもてなし、館の中へ迎え、浴室へ招き、そして妻は夫を殺す。愛人であるアイギストスと図って。アガメムノンが十年、国を留守にしているうちに、クリュタイムネストラはアイギストスと通じていたのだった。血まみれのアガメムノンの死体。一緒に殺されたカッサンドラも運び出される。怖れおののく民衆の前で、クリュタイムネストラは「私は当然のことをしたまで、娘を殺した男を今度は私が殺してやったのだ」と宣言するのだった。(「アガメムノン」)

 そして7年が過ぎる。母親クリュタイムネストラに冷遇されているエレクトラは、父親の復讐を固く誓っている。彼女の頼みの綱は、異国にいる弟のオレステスである。妹のクリュソテミスは復讐など忘れて静かに暮らすことを勧めるがエレクトラはきかない。クリュタイムネストラも娘をなじる。そこへ、オレステスが流されていたポーキスからの使者が、オレステスは死んだという知らせを持ってくる。喜ぶクリュタイムネストラ。絶望するエレクトラ。そこへクリュソテミスが父の墓にオレステスの髪の毛が供えてあったと知らせる。エレクトラはオレステスは死んだのだからそんなことはないと言い、弟が死んだ今、頼りになるのは妹のクリュソテミスだけだと言うが、クリュソテミスはどうしても応じない。そこへオレステスの灰を持って使者が現れる。嘆き悲しむエレクトラ。だが、その使者こそ、オレステスその人だった。喜ぶエレクトラ。偽りの死の知らせで油断させて、復讐をとげようとするオレステス。彼は館の中へ入って行き母を殺す。息も絶え絶えで現れたクリュタイムネストラは「母親を殺せるのか?」と息子に命乞いをするが、オレステスは息の根を留める。続いて、戻ってきたアイギストスも彼は殺してしまう。悪は糾され、正義が戻ったと喜ぶ民衆たち。だが、オレステスは、そこに「復讐の女神たち」を見てしまう。狂乱するオレステス。エレクトラは「私たちを癒してほしい」とアポロンに祈る。コロスたちは「善と悪とは何? 私にはわからない」と語るのだった。(「エレクトラ」)

 これまでの稽古では、主に妹のクリュソテミスとエレクトラの場面をやってたんだけど、このところは、エレクトラとクリュタイムネストラの母と娘の場面をやってる。
 前回まではクリュタイムネストラの長セリフだったんだけど、今日はエレクトラも登場しての「対話」をやってみる。
 前回出した宿題「セリフを覚えてきて」っていうのが、ちゃんとできてるかどうかを確認して、それから、いろいろやってみた。
 輪になって椅子に腰掛けてね、まず、動いていいエレクトラと動いちゃいけないクリュタイムネストラ。二人以外はコロスとして二人を見てる(セリフはないんだよ)。
 それから、その反対。エレクトラをみんなで押さえつけて、動けない、とらわれの状態にしてみた。ほとんど檻の中に閉じこめられてるみたいなエレクトラが、目の前を歩き回るクリュタイムネストラに「訴える」かんじ。
 ただ座ってやりとりしても、相手に届かないセリフが、体を押さえつけたりすると、その反動として、きっちり前に飛んでいくようになる。
 「押さえつけられて苦しい芝居」をされてしまったらどうしようかと思ったんだけど、みんな「真剣に」押さえつけてなきゃならないくらい、もがき暴れながらのセリフになった。
 あちこちずいぶん痛くなったよね。
 あ、僕も、みんなと全く同じことをやってます。
 ていうか、そのための稽古なので。
 今言えたようなセリフが誰にも押さえられてなくてもできるには、想像力が必要だよと話す。
 エレクトラは、しばりつけられてるわけじゃないけど、気持ちとしてはほんとに囚われの身になってる気分じゃないかな。だとしたら、今みたいな強さでセリフが出てきてもいいわけだよね、と話す。
 続きは、土曜日。
 また、新しい「覚えてきてね」の宿題を出した。
 新人くんたちは、他にも「外郎売り」を覚えるという宿題がある。
 がんばってね。
 「エレクトラ」では、台本を離して初めて感じられる、芝居のおもしろさを味わっていってほしいのでね。
 もちろん、その楽しさは苦労すればするほど、大きかったりするわけだから。

 って、さくさくあっさり書くはずが、こんなにこってりしちゃってごめんなさい。
 これからは、もっと軽くなるハズですので……。


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