twilight shackles
枷夜(かや)



 呼べない。

何も変わらない、朝
電話がいつもの時間に震えて

昨日、遅い時間まで座って待っていたから
起きれないだろうなと思って
電話を、思い切って、かけてみた

1分にも満たないその電話

ただ、自分を待っていた所為で
起きれなかった、遅刻した...
そんな風に言って欲しくは無かったから。
実際、昨日と一昨日は、寝すぎたみたいだから。

まぁ、でも...
起こして欲しくて昨日は待ったのではない。
そう言っているので信じておこうとは思う。

お手伝いのメールに対応して
夕方、一度帰宅して
昨日納得して帰ったんだから...
そう、思っていたのだけど
なんだか、今日も同じ場所に座っているみたいで

 納得するまで待つ、そう言った

そういう問題ではないんですけど...
明日も会社があるんじゃないんですか...

そんな訳で、居ても立っても居られなくて
カバンと紙袋を持って、家を飛び出していた

駅に着いた
昨日座っているといった椅子が
私の思っている場所の椅子なら...
案の定、その場所に座っていた
遠くから見ても判るその姿

 わかりやすすぎ

近づきながら、メールを打った。そして。
「なんで座ってるのよ」
真横に立って、私は言葉を発した
きょとん、とした目で私を見上げる
...私が来ると思っていなかったんだろうな。
それとも、知らないふりをしているだけかな。

「渡したいものが、あったから」
紙袋を渡した。
月曜日に、買い物をしながら見つけたもの。

 秋が好きなあなたに
 秋色のものを贈りたかったけど
 普段は買わない色目のものを贈ると
 疑われてしまうから
 けれど、似合う色を選んだつもりなの

 秋色のものを身につけるようになった
 その時には改めて 贈らせて下さいね

ちょっと簡単にしたけど、こんなメッセージカードを
添えていたのだけど、目の前で読まれると困るな。

「早く帰らないと、怒られてしまうか?」

ちゃんと言って出てきているから問題は無い。
すると歩き出した。
「時間があるのだろう?」
言われた通りについて行くのですが。
で、ビルの最上階にある居酒屋さんに連れて行かれ。
注文をするのだけど私はウーロン茶を頼んで。
それが気に食わなかったらしく、自分の日本酒を
私のウーロン茶の中にすこーし入れたり
あぁ...ウーロンハイもどきじゃないか...もぉ。
(↑ウーロンハイは、焼酎のウーロン割だから。)

ただ、出てくる料理になかなか手を付けられなくて
食べなさい、と言われて、一口ずつだけ食べる
4品来たので、4口だけ食べた。
それ以外はお箸を置いて座ってた。
話を聞いているだけだった。
食べないことに気付いたんだろう
「私一人じゃあ食べきれないから。」
そういわれて、少しずつ口にした。

話は周りの声にかき消されてしまうことが多くて
何度も聞き返してしまった。
聞こうとしていないだけだったのか...
耳がおばあちゃんみたいに遠くなってしまったのか
それは自分ではよくわからないのだけど。

言葉を聞き取るという段階で四苦八苦して
話していることのすべてを聞けてはいなかった
そんな気がする...ごめんなさい。

ただ、待っていた意味はあった
来てくれて、嬉しいよ...その言葉に、
よく判らない感情が胸をぐるぐるしていた

お店を出た
エレベーターが来て、乗って...下に降りる
上がってくる時と同じ距離を置いて立っていたけど
名前を呼ばれて手を差し出され
従うと、私の名前を呼び抱きしめ、頭を撫でた
途中で人が入ってきて、ポンポンと頭を軽く叩いて
私たちはさっきよりは近いけれどまた距離を置いた

エレベーターは止まって、私たちは歩き出した
自動販売機コーナーの前で立ち止まって、
私をそのコーナーに引き込んだ

私の名前を呼んで、力強く抱きしめた
そこにあるのが当り前のような安堵感と
そこに自分がいることの違和感を
同時に感じてしまい、困惑した

手は何処にも居場所が無いまま空気を握り締め
目も何処を向いていいのか判らず宙を見上げていた

 私の名前を呼んで欲しい
 枷夜だけが、知っている、私の名前を

下唇を、噛み締めていた
言葉に出来なかった
命令されても...命令されることが辛くて
その場を何度も何度も逃げ出そうとして
やっと振りほどいて、走って逃げた

走って、走って...

おっきな広場のちょっと入った所の
トイレに駆け込んで、鏡を見た
髪は乱れて、顔は少し赤くなってた
髪と服を整えて、息を落ち着かせて
もう居ないだろう...帰っただろうと
思った頃に外に出て、私も帰る事にした

メールが届いた

 星に願いを。

そう書かれたメールに、空を見上げた。
今日は中秋の名月...
空は満月が煌々と地を照らし、
まぶしすぎて星の光を探し出せないほどだった

 明日も探しつづけるさ...

星探しはご自由に、けれど、私は探さないで

 見付かるまで探しつづける
 本当なら、探す必要さえない...

そして、私は自分からメールを送るのを止めた
最寄駅に着いたのか、電話が鳴って
「何かあったのか?」
そう言ってくるけど、何も無いんだと返した
少し話を続けて、私の答えが悪かったのか
日曜日の話をして勝手に切ってしまった。







今はまだ、呼べないんです。

2003年09月11日(木)
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