荒ぶる魂

2004年01月13日(火) プロレスラーが格闘技戦をやることについて

2003年12月19日の全女駒沢体育館大会の模様をサムライTVで見た。
カードは全8試合でそのうちの下の5試合が格闘技戦だった。
  1.Strong Woman_1 総合格闘技ルール 5分2ラウンド
   水島なつみ VS HARI<GF2>
  2.Strong Woman_2 総合格闘技ルール 5分2ラウンド
   高橋裕美 VS 亜利弥<フリー>
  3.Strong Woman_3 キックボクシングルール 3分3ラウンド
   藤井巳幸 VS 小山田望<BUNGELING BAY>
  4.Strong Woman_4 総合格闘技ルール 5分3ラウンド
   Hikaru VS 薮下めぐみ<SOD>
  7.Strong Woman_5 総合格闘技ルール 5分3ラウンド
   前川久美子 VS 石原美和子<禅道会>
 
私が気になったのは、7試合目(格闘技戦ではメインの位置)で負けた
前川選手のこと。

試合後のバックステージでのインタビューを受ける顔が意気消沈して
暗かったのだ。敗れた後のリング上では平気そうに見えていたが、
インタビューを受けながら、流すその涙は本気の涙に見えた。。。
語弊のある言い方ではあるが、プロレスで負けて悔しがる顔や泣く顔とは
違っていて、見ていてつらかった。
何だか自分の存在そのものを否定されたような、
げっそりとしたexhaustedな顔だった。

前川選手については「性格が悪い」などの評判を聞くこともあるけれど、
私は好きでも嫌いでもない。中立・・・というよりは、知らない、
関心もない選手と言った方が正確だろう。
それでも、ああいう顔を見ると、
プロレスラーに安易に格闘技をさせたフロントに怒りが湧いてきた。

 どうしてプロレスラーに異種格闘技戦をやらせるの!?
 そんな試合をやらなきゃならない必然性がどこにあるの!?

私はプロレスも総合格闘技もあるいはムエタイとか柔道なども含めて
格闘技が好きだ。
だから、異種格闘技戦があるというなら大喜びで見る。
(だから、SAMURAIでこの番組にチャンネルを合わせたのだ)

だが、「異種格闘技戦」というのは、選手に異種格闘技戦をやりたいと
いう意思があり、それに対応する準備が出来ている場合に限って
成立するものではないか。
上記の5試合のうち、3、4、7試合は、とてもそのようなきちんとした
異種格闘技戦ではないように見えた。

プロレスと格闘技のファイトスタイルや技術が違うのは当然だが、
藤井・HIKARU・前川選手にはその違いを埋められるだけの練習の跡は
全く見られなかった。なすすべもなく敗れたという印象だった。

これは彼女たちを非難して言っているのではない。
彼女たちには、このような試合を拒否する権利も、また受けたとしても
準備をする時間も(更にはコーチも)与えられていなかっただろうことは
容易に推測できるからだ。

ここ数年、格闘技は“ブーム”からスポーツの一ジャンルとして
しっかり定着した。興行的にも経営的にもプロレスより成功を納めている。
だから不況にあえいでいる女子プロレスも格闘技に進出すれば
もう一度客を呼び戻せるかもという安易な考えで
フロントが企画したものだろうと思うのは偏見に過ぎるだろうか?

だが、世の中の流れが格闘技戦だから(もっと独断を込めていえば、
『そっちの方が儲かりそうだから』)と安易に異種格闘技戦を組むことは、
プロレスの価値を貶めてしまうことになるし、
ただでさえ減少傾向のファンを更に減らすことになるのではないか。

プロレスはむろん強さを追求するが、
同時にプロレスならではの難しさと楽しさもある。
それは「相手の技を受け」、「自分も相手も光らせる」ということ。
その上での勝敗だ。だからたとえ負けたとしても、自分も十分やったし、
また相手の良さを十分に引き出すことも出来たという満足感を
持つことができるだろう。
負けたからと言って選手としての価値を否定されることはない。
それがプロレスのスタイル。
彼女たちは自分たちのやっていることに誇りを持っているはずだと思う。

だが、そのようなスタイルでやってきた選手が格闘技ルールで戦って
負けた場合、そこには何も残らない。
ただ「負け」という結果が残るだけ。
その負けは彼女たちが今までやってきたことを否定することにつながるし、
また彼女たちの価値をも否定することになってしまいかねない。

私は格闘技戦も好きだけれど、この大会で見せられたものは
「私の見たいものとは違うよなあ」という感じがした。
プロレスラーが何の準備もせずに「無様に負ける」姿は痛々しいだけ。
観客の立場から見てでさえそうなのだから、
その姿の無残さを誰よりも知っていたのは
闘った本人たちだったのではないだろうか。
だからこそ、あの前川の涙だったのだろうと思う。
 
ぶっちゃけた話、私は遠からず女子プロレスというジャンルは
消滅すると思っているんだけど、
それでも現に女子プロレスラーとしてがんばっている選手たちがいる限りは
応援し続けたいと思っている。
今にも消えてしまいそうな女子プロレスの火を消さずにいたいと思うなら、
全女だけでなく各団体のフロントの皆さん、
プロレスを大事にしてください。
格闘技選手を育てるにも格闘技大会を開催するにも
プロレスとはまた違ったノウハウがあるでしょう。
もし本気で女子格闘技をやりたいのなら、
まずはそのノウハウから取り組んでください。
 
蛇足ながら・・・
(私はプロレスラーが異種格闘技戦をやること自体に反対しているのではない。
その意思も技術もない選手にやらせることに反対しているのである。
例えば、神取さんや堀田・藪下選手などのように一方でプロレスをやり、
一方で格闘技もやりたい、という選手がいるのは多いに喜ばしいと思うし、
応援もしている。
またここに書いたこととは矛盾して見えるかも知れないが、
女子プロレスが消滅した後に来るのは女子格闘技だろうと思っている。)

本当に蛇足だ・・・


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